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第三章 二人の聖女編
3-6.ラエルロット、実地試験を受ける
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3ー6.ラエルロット、実地試験を受ける
「冒険者・第八級ライセンス取得の志願者ども、横に一列に整列しろ!」
その厳しそうな荒々しい男の声で、その場にいた七人の男女が皆一斉に整列する。
緊張しながら並ぶ少年少女の中には十六歳から十八歳のまだ若い十代の若者達がいたが、どういう経緯かは知らないが中には最少年齢の十三歳の少女も混じっていた。
そんな緊張と不安とで皆が表情を固める中、初々しさ溢れる少年少女の中に嫌な緊張と不安とで内心気が気ではないラエルロットがいた。
毎年行われている第八級冒険者試験の応募者はざっと五千人くらいとの事だが、今回ラエルロットが受けた追加の第八級冒険者試験はいつもの試験とは少し違う。
なにが違うのかと言うとその試験の難易度が若干……いいや、かなり高いのだ。つまりレベルがかなり高く設定されていて、実地試験に出て来る課題もそれなりに厳しいとの噂だ。
少し頑張れば子供や老人でも簡単に受かるとされる年に一回行われている第八級冒険者試験とは違い、この追加の第八級冒険者試験はなにか別の目的で設けられた特別な試験のようだ。
だがそんな不定期で行われている追加の試験は冒険者を目指そうとする初心者にはなぜかかなり人気がある。なぜならこの追加で行われている第八級冒険者試験に合格すると、その将来性や才能が認められて有名なギルドにスカウトされたり、場合によっては第七級冒険者に飛び級できる権利が与えられるのだ。そんな理由もあり早々と更に上の資格が取りたい野心家や自信家はこの追加の試験に敢えて挑むのだが、その受験者の数もまた多い。
追加の第八級冒険者の志願者の数は通常の二倍であり、ざっと一万人は集まるからだ。だが試験を受ける前になぜか皆が謎のふるいに掛けられ、その数を一気に百人に減らし、その百人を更に各班に切り分けられてこの小規模な数に決まったようだ。
そんな周囲を見渡しながらラエルロットは謎の緊張で足下がふらつきながらも心の中でほくそ笑む。
(やった、やったぞ。どういう訳かは知らないが、一万人の志願者の中からどうにか選ばれたぞ。でも知らなかった。まさかこの追加の第八級冒険者試験って一万人の志願者の中から百人しか選ばれない枠をまずは奪い取らなくてはならないくらいに狭き門だったのか。でもそんな宝くじに当たるくらいに難しい試験の通過をよく果たせた物だな。筆記試験は確かに合格ラインは越えてはいたが、だからと言って他の残りの一万九千九百人全てが筆記試験で俺に劣っていたとはどうしても思えないんだが。それとも別の決め手となる要因でもあったのかな。まさか面接での印象がよかったとか……先日あった大神官のエマニュエさんがもしかして口利きをしてくれたとか……いいやそれは流石にないか。とにかく通過ができてラッキーだったぜ)
今回、実地試験の為に即席で組まされたパーティーは二十歳のラエルロット以外はみんな十代の年下である。そんな年齢差もあり若干、いいやかなり浮いているラエルロットは気を取り直し周りの人達を一人一人確認する。
勝ち気さ溢れる熱血風の悪ガキタイプの少年に。
気難しいながらも冷静沈着で真面目なインテリタイプの少年。
穏やかで何事にも動じない笑顔が眩しい爽やかな少年に。
弱々しい仕草がどこか印象的で、それでも頑張ろうと奮闘するおとなしそうな少女。
そしてどこかの身分の高そうなご令嬢タイプで気品とおしとやかさを兼ね備えた麗しき少女に。
面倒見もよく姉御肌で、体を動かすことが大好きそうな天真爛漫系の少女。
そこに最年長のラエルロットを入れた七人がこの即席でできたパーティーの仲間達だ。
そして最後に目の前でガミガミと荒い声でダンジョン内での注意事項やルールや今回の目的を口説く説明するうるさそうな男の顔をとくと見る。
今回ラエルロット達を監視し審査する試験官はダグラスという六十代くらいの見るからに怖そうなおじさんだ。
元ノシロノ王国の聖騎士団だか~聖戦士団だかの隊長を務めていたほどの人物らしいが、今は引退してより良い人材を獲得する為に第八級冒険者志願者の試験官を務めているとの事だ。その鬼のような形相をした渋い顔のおじさんが今回担当する七人の勇気ある志願者達に向けて名前を名乗り、一人づつ男女の志願者達にも自己紹介をさせたが、極度の緊張しまくりのラエルロットは目の前にいるダグラスという試験官の名前と顔しか頭に入っては来ず、他の若き試験者六人の顔も名前も頭には入っては来ない。なので当然名前は誰一人として分からないままだ。
仮に今日名前を覚えたとしても今日一日だけの付き合いなので覚えても意味が無いというのがラエルロットの理屈だが本当の深層心理は違う。
ラエルロットはフタッツイの町にある冒険者になる為の学び舎で年下の生徒達に散々馬鹿にされた経歴がある。そのトラウマもあり警戒し、距離を取り、年甲斐もなく人見知りの行動をする。
因みに余談だがラエルロットが学んでいた学び舎は塾のようなところなので会費さえ払っていればいつでも学べるし、逆を言えばいつやめても特に問題は無い所なのだ。
普通の人は第八級冒険者の資格を取得した時点で新人冒険者となり学び舎を辞めて卒業していく物だが、ラエルロットのように三年にも渡り居残るのもまれである。なぜなら女子供でも簡単に受かるとされる第八級冒険者試験に二回も落ちたら流石に恥ずかしくて学び舎には二度と来なくなるからだ。 そんな学び舎の中で人に笑われ後ろ指をさされながらも冒険者になる事を目指したラエルロットは、もしかしたら自分よりも遙かに優秀かも知れない年下の生徒達に恐怖し苦手意識を持つのは仕方のない事である。
そんな背徳感漂うラエルロットの極めて後ろ向きな虚栄心などは知るよしもない試験官のダグラスは、荒々しく声を上げると目の前にいるラエルロットに向けて大きな声で叫ぶ。
「こら、話を聞いているのか、ラエルロット。試験官である俺の命令は絶対だ。洞窟内に入ったら特に口出しはしないが、生命の危機を感じたり不足な事態に陥ったら絶対に俺の命令には従ってもらうからな。いいな、わかったな!」
「は、はい。わかりました。ダグラス試験官!」
「今回の試験の任務はこの洞窟内の奥にある女神の像を持ち帰ってくることだ。それができて初めて第八級冒険者の資格のライセンスが貰える。そう認識して頑張るように」
「女神の石像を持ってくればいいのか。よし、任せろ!」
「ふん、威勢だけはいいな。お前がこのメンバーでは一番の年上だから力む気持ちも分からなくはないがな。だがここにいるお前よりも年下の少年少女達は皆あの一万人の志願者の中から選りすぐりで選ばれた優秀な神童達だ。だからみんな一筋縄では行かない一癖も二癖もある十代の未来あるエリートの冒険者候補達なのだよ。たまたま運良く選ばれたお前とは最初から一段も二段も格が違うのだ。人としての格がな!」
「なら俺はなぜその百人に選ばれたんですか?」
「たまたまだよ、たまたま。本当に抽選でたまたま運良く当たったんだよ。まあ今回でその自信が打ち砕かれてもう二度と冒険者を受ける気が二度と起きなくなるかも知れないがな」
「それはどういうことですか……」
「いいや、こっちの話だ。とにかくだ、それだけこの追加で行われている第八級冒険者試験は厳しいと言うことだ。だが上手くこの試験に合格すれば有名なギルドからのスカウトとあわよくばそのまま飛び級で第七級冒険者のライセンスも獲得できるチャンスが与えられるとのことだ。だがそれはごく一部の選ばれた人にだけ与えられた特権であり、ラエルロット、そこにお前は当然入ってはいないと言うことだ。そんな訳でまあせいぜい、年下の優秀なエリート達と一緒に行動をして自分の矮小さと無力さを知り、その自信を失わなけねばいいがな!」
「自信を失うですか……でも人は人だし俺は俺です。俺はただ自分にできる範囲で一生懸命に頑張るだけです」
「頑張るだけか。ただ頑張るだけで通じればいいがな。冒険には仲間の命がかかっているんだ、それ故に力の無い者には強者達は皆その背中は預けられないだろうぜ。まあせいぜい年下の足を引っ張らない程度に頑張るんだな」
「はい、みんなについて行けるように頑張ります!」
洞窟の入り口を前に覚悟を決めたのかラエルロットは左手の拳をきつく握り締めると真剣な目で暗闇が広がる洞窟内を見る。そんなラエルロットの決意に目を細めた試験官のダグラスは今度は他の六人に視線を向ける。
「他のみんなもだ。今ラエルロットをダシにお前らをわざと褒めたがあまりつけあがるなよ。世間が認めた優秀な神童だかエリートだかは知らないがまだ何の経験も実績もないお前らが楽にやれるほど甘っちょろい業界じゃねえぞ。そんな中途半端な力を持つ者はこの業界では真っ先に死ぬことを覚えておけ。お前らの力なんかはプロの冒険者になったら皆普通なんだよ。おまえらよりも優秀で強い奴らなんかはこの世にごまんといる事を忘れるなよ。つまりは自分の実力を客観的に見て常に精進をし、決してうぬぼれるなと言うことだ。その事をよ~く覚えてをくように。後は各々で協力するなり話し合いをするなりして自由にしろ。洞窟内ではそんなお前らの行動力や危機管理能力や通常時の対処の仕方を見て審査をするから、そのつもりでいるように!」
「「はい、了解しました。ダグラス試験官!」」
因みに残りの九十人の通過志願者達は別の試験官と共に別の場所で実地試験中だ。だからお前らも気を抜かずにしっかりと挑むように!」
「「わかりました。ダグラス試験官!」」
「じゃ俺は、お前たちとはある程度距離を取ってから後ろをついて行くから、気にせずみんなで協力して任務達成を目指してくれ。では出発しろ!」
そのダグラスの掛け声と共にラエルロットを入れた七人が皆一斉に洞窟内へと入り、その勇気ある若者達の姿を上空から見下ろしていた空を舞うカラクス鳥がまるで彼らの挑戦を応援するかのように不気味にけたたましく鳴く。
*
洞窟内はとても暗く、六人がそれぞれに持つ自前の光を放つ魔法石だけが周りの岩肌を明るく照らす。だがラエルロットだけはその光を放つ魔法石を買うお金がなかったので手に持つのは当然レトロな松明とランプだけだ。
光を放つ魔法石はいきなりの戦闘においては体のどこかに下げていたら両腕が使えるという長所がある必要なアイテムの一つだ。そんな便利なアイテムを普通に持つ他の六人を内心かなり羨ましいと思っているラエルロットは左手に持つ松明を前へと掲げる。
中を進むに連れ分かってきた事だが、洞窟内はとても広く大自然が作り出す大規模な岩肌だらけの空間がまだ見ぬ出会いと冒険心をくすぐりながらも遙か先へと続いていく。
その空間を慎重に進む七人の若者達は時には道に迷い、時には小さな洞窟内を流れる小川で小休憩を取り、時には洞窟内に育つ珍しい野草に目を奪われながらもどうにか前へと進む。
そうして周りに注意を払いながらも歩くこと約一時間、特に魔物や危険生物といった類いの物には何一つとして出くわさなかったラエルロットをはじめとした七人だったが、まるでフロアのような開けた空間に出た七人は皆が目の前に見えるある物に警戒し、静かにその歩みを止める。
この洞窟内に入って以来の初めて動くなにかだ。
その動く何かにラエルロットはその正体に目を細め、同じくその光景を見た六人の男女それぞれに緊張が走る。
薄暗いフロア内を飛び交う無数の光虫の光によって照らし出されたのは、このフロア内でゆっくりと無機質に動き回る全部で十体ほどの(木製の魔道人形こと)ウットゴーレムである。
ウットゴーレムの大きさは百七十センチくらいの大人ほどの大きさで細身で動きも単調でかなり遅く感じられたが、その棍棒のような木製の両腕から繰り出される打撃は特に注意をしなくてはならない。
(ここを通らなくては先にはいけないか。仕方が無いな、ここは俺が先陣を切って壁役になるか。勇者田中や黒神子ヨーミコワと戦うよりは遙かに楽だろうから恐らくは大丈夫なはずだ)
まるで精密機械のようにゆったりとフロア内を歩く十体のウットゴーレムに対しラエルロットは年長者の意地と威厳を見せようと先にでようとするが、ラエルロットよりも早く出たのは革製の赤い鎧を身に着けた熱血漢溢れる少年と黄色い鎧を身に着けた恰幅のいい力のありそうな笑顔が似合う少年の二人だった。
「ボヤボヤしてんなよ。そんな訳で兄ちゃん、先に行かせてもらうぜ!」
「お、お前ら、ちょっとまてよ!」
「赤いの……いや、マーズとか言ったか、俺も援護するよ!」
「ならついて来い、ダン、先制攻撃だ!」
腰に下げてある鋼の剣を豪快に抜き放った熱血漢溢れる赤い鎧を身につけたマーズと呼ばれるその少年は目の前に迫るウットゴーレムに素早く斬りかかり、片手斧を背中から取り出したその恰幅のいい体型をした黄色い鎧を身に着けたダンと言う少年は援護とばかりに赤い鎧の少年の背中を守りながらその背後へとつく。
「あの馬鹿ども、早まった行動をしやがって。作戦って物を少しは考えてから行動に移れよな。仕方が無い俺達も行くぞ!」
ボヤキながらも飛び出したのはまん丸眼鏡を掛けたインテリ風の青い革製の鎧を着たブルースという少年である。
ブルースは両手に持つロングスピアの槍を構えるとウットゴーレムの行動の輪を乱しにかかり、その後に続くかのように透かさず姉御肌の勝ち気そうな少女、エアルが紫の厚手の衣服に身を固めながら腰に下げてある細身の真剣でできた鋭いレイピアを素早く抜き放つ。
「私も前に出るわ。だから三人は私達が打ち損じた他のウットゴーレム達をどうにかして倒して頂戴。そして私達の後ろはお願いね!」
緊張しながらも早口でそう言い放つとまるで猫のような素早い動きでマーズ・ブルース・ダン・の三人の少年達の援護へと向かう。
カキーーン! ゴカアーーン! ガッシャアーーン! ガッコオオオォォーーン!
「でやぁぁーーっ、くたばれ、ウットゴーレム!」
「おいマーズ、あまり前へでるな。やられるぞ!」
「ダン、後方は任せろ!」
「ブルース、後方から回り込め!」
「待っていなさい。今すぐに私が応援に向かうわ。それまで持ちこたえるのよ!」
紫の衣服に身を包んだ活発そうな少女のエアルが長いポニーテールを揺らしながら直ぐさま応援に向かうが、四人でなんとか相手にできるのは六体のウットゴーレムだけが限度で残りの四体はその囲いを突破し、ラエルロットとその後ろにいる緑の厚手の衣服を着た気の弱そうな少女と、桃色の厚手の衣服を着た清爽そうな少女を入れた三人の方へと向かう。
(くそ、来る、ここまで来てしまう。だが落ち着けよ、俺。あのウットゴーレムは慎重に対処をすればそんなに難しい相手じゃない。初心者の冒険者なら誰もが簡単に倒せると噂の魔道人形なんだから俺にも倒せるはずだ。まあウットゴーレムと戦うのは今日が初めてだが、昨日の夜はレスフィナと深夜の稽古をつけて貰ったんだからおそらくは大丈夫なはずだ。力むな……緊張するな……俺自身を信じろ。俺ならできるはずだ!)
ラエルロットが心の中で説明してくれたようにこのウットゴーレムの難易度はかなり低く、初心者の冒険者が主に相手をする練習用の魔道人形だ。そして低レベルの魔道士が門番や敵の足止めに使うくらいに簡単に作れて低コストな魔道人形なのだが、ここにそのウットゴーレムがいると言うことは……つまりは神聖教会側がこの試験の為にわざわざ用意をした魔道人形だと思われる。
そう結論づけたラエルロットはその心のない人形兵器に対しかなりの苦手意識を持ちながらも、その戦い方に正直焦る。
(くっ、ウットゴーレムか。くそおぉ、心のない魔道人形だと、俺の唯一の手持ちの武器でもある思いを具現化する苗木の効力が……精神攻撃が一切使えないじゃないか。心のない魔道人形と戦うのは非常に相性が悪いぞ。どうする、どうするよ俺。不死の力も復讐の鎧の力も封じられている今、当然狂雷のスキルも使えないぞ。今の俺の実力じゃウットゴーレム二体を相手にするのが限界だ。残りの二体はどうしても後ろにいる二人に向いてしまう。だめだどう考えてもこの四体をいっぺんに足止めする方法が思いつかない!)
ラエルロットが左手に松明を持ちながら右手で(思いを具現化する苗木が付与されてある)黒い木刀を腰から抜こうとした時、後ろにいる桃色の厚手の衣服を着たいかにも清楚そうな少女、レイヤが声をかける。
「前にいるお兄さん、そこを動かないでください。下手に動いたら当たってしまいますよ」
「へっ?」
シュン! ビユーン!
困惑気味に返事を返した瞬間、二本の矢がラエルロットの横顔を物凄いスピードで通り過ぎ、二体のウットゴーレムの足と胴に当たったかと思うと小規模ながらも小さな爆発を起こす。どうやらその矢じりには爆薬が仕掛けられており、腹部や足膝の関節を破壊された二体のウットゴーレムは直ぐに行動不能に陥ってしまう。
「火薬入りの矢か。狙いを定めて同時に矢を二本射る事ができるのか。しかも動いている敵に正確に当てやがった。弓矢が得意なエルフ族も顔負けの凄い技術だ。正直驚いたぜ。なんて嬢ちゃんだ!」
ラエルロットが感心げに呟いていると今度は緑の衣服に身を固めた気弱そうな少女が背中に下げている長い筒のような物を取り出すと目の前にいるウットゴーレムに向けて構える。
「その構えって……まさか」
「携帯用の小撃砲の砲身から徹甲弾を発射します。どうか当たってください!」
その瞬間緑の衣服を着た少女が持つ小型大砲の長い筒の先端が物凄い爆発音と煙を上げながら大きく震え、その音と同時に前にいた一体のウットゴーレムが見えない衝撃波に吹き飛ばされるかのように豪快に後ろへと叩き付けられる。
正確な射撃で大爆発を起こしたウットゴーレムは、胸に大きな風穴を空けられた事で行動不能となって倒れたのだ。
ドッカアァァァーーァァン。ガラガラ、バラバラ、バタガラン!
(徹甲弾だとう。つまりあれは鉄の弾を飛ばす携帯用の小撃砲という事か。でもどうやら一発撃つごとに新たな弾を入れ直さないといけないみたいだから使い勝手はかなり悪そうな武器だな。一対一ならともかく、それなりに人数がいる敵には不向きかもな。だが彼女たちの活躍で三体のウットゴーレムが立ち上がる事ができないくらいに行動不能になったから、残るは目の前にいる一体のウットゴーレムだけだ。この一体だけはなんとか俺が仕留めて、俺の存在意義を周りの奴らに分からせてやるぜ!)
二人の勇気ある後方からの援護射撃に勇気を貰ったラエルロットは黒い不格好な木刀を構え直すと、残り一体となったウットゴーレムに果敢にも立ち向かう。だが意気揚々と立ち向かったはずのラエルロットの意識はそこでパタリと消え、思考だけではなく視界もその場で何も見えなくなる。
バキン!
「ぐっはぁぁ……っ!」
(なんだ、いきなり何も見えなくなったぞ。しかも後頭部がやたらズキズキと痛みやがる。そして俺は……一体どうなった?)
ラエルロットは目の前にいる一体のウットゴーレムの接近に気をとられている隙に、地面に倒れていたはずの復活したもう一体のウットゴーレムに後頭部を殴打されてしまう。
そうラエルロットは年下の少年少女達が今もウットゴーレムを相手に必死に奮闘する中、無様にも気絶をしてしまったのだ。
そしてこの無様な敗北が今回の試験の結果にどう影響するのか、当のラエルロットは知る由もなかった。
現役の時はノシロノ王国で聖騎士団の団長を勤めていた、ダグラス試験官です。
「冒険者・第八級ライセンス取得の志願者ども、横に一列に整列しろ!」
その厳しそうな荒々しい男の声で、その場にいた七人の男女が皆一斉に整列する。
緊張しながら並ぶ少年少女の中には十六歳から十八歳のまだ若い十代の若者達がいたが、どういう経緯かは知らないが中には最少年齢の十三歳の少女も混じっていた。
そんな緊張と不安とで皆が表情を固める中、初々しさ溢れる少年少女の中に嫌な緊張と不安とで内心気が気ではないラエルロットがいた。
毎年行われている第八級冒険者試験の応募者はざっと五千人くらいとの事だが、今回ラエルロットが受けた追加の第八級冒険者試験はいつもの試験とは少し違う。
なにが違うのかと言うとその試験の難易度が若干……いいや、かなり高いのだ。つまりレベルがかなり高く設定されていて、実地試験に出て来る課題もそれなりに厳しいとの噂だ。
少し頑張れば子供や老人でも簡単に受かるとされる年に一回行われている第八級冒険者試験とは違い、この追加の第八級冒険者試験はなにか別の目的で設けられた特別な試験のようだ。
だがそんな不定期で行われている追加の試験は冒険者を目指そうとする初心者にはなぜかかなり人気がある。なぜならこの追加で行われている第八級冒険者試験に合格すると、その将来性や才能が認められて有名なギルドにスカウトされたり、場合によっては第七級冒険者に飛び級できる権利が与えられるのだ。そんな理由もあり早々と更に上の資格が取りたい野心家や自信家はこの追加の試験に敢えて挑むのだが、その受験者の数もまた多い。
追加の第八級冒険者の志願者の数は通常の二倍であり、ざっと一万人は集まるからだ。だが試験を受ける前になぜか皆が謎のふるいに掛けられ、その数を一気に百人に減らし、その百人を更に各班に切り分けられてこの小規模な数に決まったようだ。
そんな周囲を見渡しながらラエルロットは謎の緊張で足下がふらつきながらも心の中でほくそ笑む。
(やった、やったぞ。どういう訳かは知らないが、一万人の志願者の中からどうにか選ばれたぞ。でも知らなかった。まさかこの追加の第八級冒険者試験って一万人の志願者の中から百人しか選ばれない枠をまずは奪い取らなくてはならないくらいに狭き門だったのか。でもそんな宝くじに当たるくらいに難しい試験の通過をよく果たせた物だな。筆記試験は確かに合格ラインは越えてはいたが、だからと言って他の残りの一万九千九百人全てが筆記試験で俺に劣っていたとはどうしても思えないんだが。それとも別の決め手となる要因でもあったのかな。まさか面接での印象がよかったとか……先日あった大神官のエマニュエさんがもしかして口利きをしてくれたとか……いいやそれは流石にないか。とにかく通過ができてラッキーだったぜ)
今回、実地試験の為に即席で組まされたパーティーは二十歳のラエルロット以外はみんな十代の年下である。そんな年齢差もあり若干、いいやかなり浮いているラエルロットは気を取り直し周りの人達を一人一人確認する。
勝ち気さ溢れる熱血風の悪ガキタイプの少年に。
気難しいながらも冷静沈着で真面目なインテリタイプの少年。
穏やかで何事にも動じない笑顔が眩しい爽やかな少年に。
弱々しい仕草がどこか印象的で、それでも頑張ろうと奮闘するおとなしそうな少女。
そしてどこかの身分の高そうなご令嬢タイプで気品とおしとやかさを兼ね備えた麗しき少女に。
面倒見もよく姉御肌で、体を動かすことが大好きそうな天真爛漫系の少女。
そこに最年長のラエルロットを入れた七人がこの即席でできたパーティーの仲間達だ。
そして最後に目の前でガミガミと荒い声でダンジョン内での注意事項やルールや今回の目的を口説く説明するうるさそうな男の顔をとくと見る。
今回ラエルロット達を監視し審査する試験官はダグラスという六十代くらいの見るからに怖そうなおじさんだ。
元ノシロノ王国の聖騎士団だか~聖戦士団だかの隊長を務めていたほどの人物らしいが、今は引退してより良い人材を獲得する為に第八級冒険者志願者の試験官を務めているとの事だ。その鬼のような形相をした渋い顔のおじさんが今回担当する七人の勇気ある志願者達に向けて名前を名乗り、一人づつ男女の志願者達にも自己紹介をさせたが、極度の緊張しまくりのラエルロットは目の前にいるダグラスという試験官の名前と顔しか頭に入っては来ず、他の若き試験者六人の顔も名前も頭には入っては来ない。なので当然名前は誰一人として分からないままだ。
仮に今日名前を覚えたとしても今日一日だけの付き合いなので覚えても意味が無いというのがラエルロットの理屈だが本当の深層心理は違う。
ラエルロットはフタッツイの町にある冒険者になる為の学び舎で年下の生徒達に散々馬鹿にされた経歴がある。そのトラウマもあり警戒し、距離を取り、年甲斐もなく人見知りの行動をする。
因みに余談だがラエルロットが学んでいた学び舎は塾のようなところなので会費さえ払っていればいつでも学べるし、逆を言えばいつやめても特に問題は無い所なのだ。
普通の人は第八級冒険者の資格を取得した時点で新人冒険者となり学び舎を辞めて卒業していく物だが、ラエルロットのように三年にも渡り居残るのもまれである。なぜなら女子供でも簡単に受かるとされる第八級冒険者試験に二回も落ちたら流石に恥ずかしくて学び舎には二度と来なくなるからだ。 そんな学び舎の中で人に笑われ後ろ指をさされながらも冒険者になる事を目指したラエルロットは、もしかしたら自分よりも遙かに優秀かも知れない年下の生徒達に恐怖し苦手意識を持つのは仕方のない事である。
そんな背徳感漂うラエルロットの極めて後ろ向きな虚栄心などは知るよしもない試験官のダグラスは、荒々しく声を上げると目の前にいるラエルロットに向けて大きな声で叫ぶ。
「こら、話を聞いているのか、ラエルロット。試験官である俺の命令は絶対だ。洞窟内に入ったら特に口出しはしないが、生命の危機を感じたり不足な事態に陥ったら絶対に俺の命令には従ってもらうからな。いいな、わかったな!」
「は、はい。わかりました。ダグラス試験官!」
「今回の試験の任務はこの洞窟内の奥にある女神の像を持ち帰ってくることだ。それができて初めて第八級冒険者の資格のライセンスが貰える。そう認識して頑張るように」
「女神の石像を持ってくればいいのか。よし、任せろ!」
「ふん、威勢だけはいいな。お前がこのメンバーでは一番の年上だから力む気持ちも分からなくはないがな。だがここにいるお前よりも年下の少年少女達は皆あの一万人の志願者の中から選りすぐりで選ばれた優秀な神童達だ。だからみんな一筋縄では行かない一癖も二癖もある十代の未来あるエリートの冒険者候補達なのだよ。たまたま運良く選ばれたお前とは最初から一段も二段も格が違うのだ。人としての格がな!」
「なら俺はなぜその百人に選ばれたんですか?」
「たまたまだよ、たまたま。本当に抽選でたまたま運良く当たったんだよ。まあ今回でその自信が打ち砕かれてもう二度と冒険者を受ける気が二度と起きなくなるかも知れないがな」
「それはどういうことですか……」
「いいや、こっちの話だ。とにかくだ、それだけこの追加で行われている第八級冒険者試験は厳しいと言うことだ。だが上手くこの試験に合格すれば有名なギルドからのスカウトとあわよくばそのまま飛び級で第七級冒険者のライセンスも獲得できるチャンスが与えられるとのことだ。だがそれはごく一部の選ばれた人にだけ与えられた特権であり、ラエルロット、そこにお前は当然入ってはいないと言うことだ。そんな訳でまあせいぜい、年下の優秀なエリート達と一緒に行動をして自分の矮小さと無力さを知り、その自信を失わなけねばいいがな!」
「自信を失うですか……でも人は人だし俺は俺です。俺はただ自分にできる範囲で一生懸命に頑張るだけです」
「頑張るだけか。ただ頑張るだけで通じればいいがな。冒険には仲間の命がかかっているんだ、それ故に力の無い者には強者達は皆その背中は預けられないだろうぜ。まあせいぜい年下の足を引っ張らない程度に頑張るんだな」
「はい、みんなについて行けるように頑張ります!」
洞窟の入り口を前に覚悟を決めたのかラエルロットは左手の拳をきつく握り締めると真剣な目で暗闇が広がる洞窟内を見る。そんなラエルロットの決意に目を細めた試験官のダグラスは今度は他の六人に視線を向ける。
「他のみんなもだ。今ラエルロットをダシにお前らをわざと褒めたがあまりつけあがるなよ。世間が認めた優秀な神童だかエリートだかは知らないがまだ何の経験も実績もないお前らが楽にやれるほど甘っちょろい業界じゃねえぞ。そんな中途半端な力を持つ者はこの業界では真っ先に死ぬことを覚えておけ。お前らの力なんかはプロの冒険者になったら皆普通なんだよ。おまえらよりも優秀で強い奴らなんかはこの世にごまんといる事を忘れるなよ。つまりは自分の実力を客観的に見て常に精進をし、決してうぬぼれるなと言うことだ。その事をよ~く覚えてをくように。後は各々で協力するなり話し合いをするなりして自由にしろ。洞窟内ではそんなお前らの行動力や危機管理能力や通常時の対処の仕方を見て審査をするから、そのつもりでいるように!」
「「はい、了解しました。ダグラス試験官!」」
因みに残りの九十人の通過志願者達は別の試験官と共に別の場所で実地試験中だ。だからお前らも気を抜かずにしっかりと挑むように!」
「「わかりました。ダグラス試験官!」」
「じゃ俺は、お前たちとはある程度距離を取ってから後ろをついて行くから、気にせずみんなで協力して任務達成を目指してくれ。では出発しろ!」
そのダグラスの掛け声と共にラエルロットを入れた七人が皆一斉に洞窟内へと入り、その勇気ある若者達の姿を上空から見下ろしていた空を舞うカラクス鳥がまるで彼らの挑戦を応援するかのように不気味にけたたましく鳴く。
*
洞窟内はとても暗く、六人がそれぞれに持つ自前の光を放つ魔法石だけが周りの岩肌を明るく照らす。だがラエルロットだけはその光を放つ魔法石を買うお金がなかったので手に持つのは当然レトロな松明とランプだけだ。
光を放つ魔法石はいきなりの戦闘においては体のどこかに下げていたら両腕が使えるという長所がある必要なアイテムの一つだ。そんな便利なアイテムを普通に持つ他の六人を内心かなり羨ましいと思っているラエルロットは左手に持つ松明を前へと掲げる。
中を進むに連れ分かってきた事だが、洞窟内はとても広く大自然が作り出す大規模な岩肌だらけの空間がまだ見ぬ出会いと冒険心をくすぐりながらも遙か先へと続いていく。
その空間を慎重に進む七人の若者達は時には道に迷い、時には小さな洞窟内を流れる小川で小休憩を取り、時には洞窟内に育つ珍しい野草に目を奪われながらもどうにか前へと進む。
そうして周りに注意を払いながらも歩くこと約一時間、特に魔物や危険生物といった類いの物には何一つとして出くわさなかったラエルロットをはじめとした七人だったが、まるでフロアのような開けた空間に出た七人は皆が目の前に見えるある物に警戒し、静かにその歩みを止める。
この洞窟内に入って以来の初めて動くなにかだ。
その動く何かにラエルロットはその正体に目を細め、同じくその光景を見た六人の男女それぞれに緊張が走る。
薄暗いフロア内を飛び交う無数の光虫の光によって照らし出されたのは、このフロア内でゆっくりと無機質に動き回る全部で十体ほどの(木製の魔道人形こと)ウットゴーレムである。
ウットゴーレムの大きさは百七十センチくらいの大人ほどの大きさで細身で動きも単調でかなり遅く感じられたが、その棍棒のような木製の両腕から繰り出される打撃は特に注意をしなくてはならない。
(ここを通らなくては先にはいけないか。仕方が無いな、ここは俺が先陣を切って壁役になるか。勇者田中や黒神子ヨーミコワと戦うよりは遙かに楽だろうから恐らくは大丈夫なはずだ)
まるで精密機械のようにゆったりとフロア内を歩く十体のウットゴーレムに対しラエルロットは年長者の意地と威厳を見せようと先にでようとするが、ラエルロットよりも早く出たのは革製の赤い鎧を身に着けた熱血漢溢れる少年と黄色い鎧を身に着けた恰幅のいい力のありそうな笑顔が似合う少年の二人だった。
「ボヤボヤしてんなよ。そんな訳で兄ちゃん、先に行かせてもらうぜ!」
「お、お前ら、ちょっとまてよ!」
「赤いの……いや、マーズとか言ったか、俺も援護するよ!」
「ならついて来い、ダン、先制攻撃だ!」
腰に下げてある鋼の剣を豪快に抜き放った熱血漢溢れる赤い鎧を身につけたマーズと呼ばれるその少年は目の前に迫るウットゴーレムに素早く斬りかかり、片手斧を背中から取り出したその恰幅のいい体型をした黄色い鎧を身に着けたダンと言う少年は援護とばかりに赤い鎧の少年の背中を守りながらその背後へとつく。
「あの馬鹿ども、早まった行動をしやがって。作戦って物を少しは考えてから行動に移れよな。仕方が無い俺達も行くぞ!」
ボヤキながらも飛び出したのはまん丸眼鏡を掛けたインテリ風の青い革製の鎧を着たブルースという少年である。
ブルースは両手に持つロングスピアの槍を構えるとウットゴーレムの行動の輪を乱しにかかり、その後に続くかのように透かさず姉御肌の勝ち気そうな少女、エアルが紫の厚手の衣服に身を固めながら腰に下げてある細身の真剣でできた鋭いレイピアを素早く抜き放つ。
「私も前に出るわ。だから三人は私達が打ち損じた他のウットゴーレム達をどうにかして倒して頂戴。そして私達の後ろはお願いね!」
緊張しながらも早口でそう言い放つとまるで猫のような素早い動きでマーズ・ブルース・ダン・の三人の少年達の援護へと向かう。
カキーーン! ゴカアーーン! ガッシャアーーン! ガッコオオオォォーーン!
「でやぁぁーーっ、くたばれ、ウットゴーレム!」
「おいマーズ、あまり前へでるな。やられるぞ!」
「ダン、後方は任せろ!」
「ブルース、後方から回り込め!」
「待っていなさい。今すぐに私が応援に向かうわ。それまで持ちこたえるのよ!」
紫の衣服に身を包んだ活発そうな少女のエアルが長いポニーテールを揺らしながら直ぐさま応援に向かうが、四人でなんとか相手にできるのは六体のウットゴーレムだけが限度で残りの四体はその囲いを突破し、ラエルロットとその後ろにいる緑の厚手の衣服を着た気の弱そうな少女と、桃色の厚手の衣服を着た清爽そうな少女を入れた三人の方へと向かう。
(くそ、来る、ここまで来てしまう。だが落ち着けよ、俺。あのウットゴーレムは慎重に対処をすればそんなに難しい相手じゃない。初心者の冒険者なら誰もが簡単に倒せると噂の魔道人形なんだから俺にも倒せるはずだ。まあウットゴーレムと戦うのは今日が初めてだが、昨日の夜はレスフィナと深夜の稽古をつけて貰ったんだからおそらくは大丈夫なはずだ。力むな……緊張するな……俺自身を信じろ。俺ならできるはずだ!)
ラエルロットが心の中で説明してくれたようにこのウットゴーレムの難易度はかなり低く、初心者の冒険者が主に相手をする練習用の魔道人形だ。そして低レベルの魔道士が門番や敵の足止めに使うくらいに簡単に作れて低コストな魔道人形なのだが、ここにそのウットゴーレムがいると言うことは……つまりは神聖教会側がこの試験の為にわざわざ用意をした魔道人形だと思われる。
そう結論づけたラエルロットはその心のない人形兵器に対しかなりの苦手意識を持ちながらも、その戦い方に正直焦る。
(くっ、ウットゴーレムか。くそおぉ、心のない魔道人形だと、俺の唯一の手持ちの武器でもある思いを具現化する苗木の効力が……精神攻撃が一切使えないじゃないか。心のない魔道人形と戦うのは非常に相性が悪いぞ。どうする、どうするよ俺。不死の力も復讐の鎧の力も封じられている今、当然狂雷のスキルも使えないぞ。今の俺の実力じゃウットゴーレム二体を相手にするのが限界だ。残りの二体はどうしても後ろにいる二人に向いてしまう。だめだどう考えてもこの四体をいっぺんに足止めする方法が思いつかない!)
ラエルロットが左手に松明を持ちながら右手で(思いを具現化する苗木が付与されてある)黒い木刀を腰から抜こうとした時、後ろにいる桃色の厚手の衣服を着たいかにも清楚そうな少女、レイヤが声をかける。
「前にいるお兄さん、そこを動かないでください。下手に動いたら当たってしまいますよ」
「へっ?」
シュン! ビユーン!
困惑気味に返事を返した瞬間、二本の矢がラエルロットの横顔を物凄いスピードで通り過ぎ、二体のウットゴーレムの足と胴に当たったかと思うと小規模ながらも小さな爆発を起こす。どうやらその矢じりには爆薬が仕掛けられており、腹部や足膝の関節を破壊された二体のウットゴーレムは直ぐに行動不能に陥ってしまう。
「火薬入りの矢か。狙いを定めて同時に矢を二本射る事ができるのか。しかも動いている敵に正確に当てやがった。弓矢が得意なエルフ族も顔負けの凄い技術だ。正直驚いたぜ。なんて嬢ちゃんだ!」
ラエルロットが感心げに呟いていると今度は緑の衣服に身を固めた気弱そうな少女が背中に下げている長い筒のような物を取り出すと目の前にいるウットゴーレムに向けて構える。
「その構えって……まさか」
「携帯用の小撃砲の砲身から徹甲弾を発射します。どうか当たってください!」
その瞬間緑の衣服を着た少女が持つ小型大砲の長い筒の先端が物凄い爆発音と煙を上げながら大きく震え、その音と同時に前にいた一体のウットゴーレムが見えない衝撃波に吹き飛ばされるかのように豪快に後ろへと叩き付けられる。
正確な射撃で大爆発を起こしたウットゴーレムは、胸に大きな風穴を空けられた事で行動不能となって倒れたのだ。
ドッカアァァァーーァァン。ガラガラ、バラバラ、バタガラン!
(徹甲弾だとう。つまりあれは鉄の弾を飛ばす携帯用の小撃砲という事か。でもどうやら一発撃つごとに新たな弾を入れ直さないといけないみたいだから使い勝手はかなり悪そうな武器だな。一対一ならともかく、それなりに人数がいる敵には不向きかもな。だが彼女たちの活躍で三体のウットゴーレムが立ち上がる事ができないくらいに行動不能になったから、残るは目の前にいる一体のウットゴーレムだけだ。この一体だけはなんとか俺が仕留めて、俺の存在意義を周りの奴らに分からせてやるぜ!)
二人の勇気ある後方からの援護射撃に勇気を貰ったラエルロットは黒い不格好な木刀を構え直すと、残り一体となったウットゴーレムに果敢にも立ち向かう。だが意気揚々と立ち向かったはずのラエルロットの意識はそこでパタリと消え、思考だけではなく視界もその場で何も見えなくなる。
バキン!
「ぐっはぁぁ……っ!」
(なんだ、いきなり何も見えなくなったぞ。しかも後頭部がやたらズキズキと痛みやがる。そして俺は……一体どうなった?)
ラエルロットは目の前にいる一体のウットゴーレムの接近に気をとられている隙に、地面に倒れていたはずの復活したもう一体のウットゴーレムに後頭部を殴打されてしまう。
そうラエルロットは年下の少年少女達が今もウットゴーレムを相手に必死に奮闘する中、無様にも気絶をしてしまったのだ。
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