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第三章 二人の聖女編
3-12.謎の耳長族の青年
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3ー12.謎の耳長族の青年
「ハア、ハア、ハア、ハア、た、助けてください……誰か、助けて……あいつが、あいつが来る!」
「ハア、ハア、ハア、ハア、あなたはここの現地の人よね。お金は払うから水を、水を頂戴。研究所から必死に走って来てもう喉がカラカラなの。だからお願い、早く水を!」
「お前達はなんだ、まさか異世界召喚者か。だがその悲痛な顔と息を切らした慌てようはなんだ。そんなに急いで、お前らは一体何から逃げて来たんだ?」
息を切らしながら傍まで来た異世界召喚者の男女の二人は、本来は絶対に助けをこう事はないはずの緑の星側の冒険者の一人に助けを求める。
研究所方面から逃げてきたのは闘士職と魔法使い職の二名だけのようだ。
必死に逃げてきたその二人に助けを求められた、端正な顔立ちを持つ色男風のその剣士は周りに警戒しながらも研究所から逃げてきたその訳を聞く。
「その出で立ちと雰囲気、どうやら本当に異世界召喚者の戦士達のようだな。でもまさかそのお前達が敵側でもある、緑の星側の冒険者に助けを請うて来るとは一体どういう了見だ。お前達は研究所の中から逃げて来たんだよな。ならこの研究所の地下にあるとされる聖女になれる新薬を奪う為に多くの仲間達と共にわざわざ潜入して来たはずだ。なのに大半の異世界召喚者達は皆一目散に研究所から外にちりぢりになって逃げ出したのを遠くで確認している。そんなお前達が重要な任務を放棄してまで一体何から逃げてきたんだ。答えろ!」
「アトリエだよ。この世界に十二人いると言われている、遙か闇なる世界の黒神子の一人、天足のアトリエがあの研究所の中にいたんだよ。天足のアトリエもどうやら聖女になれる新薬の在りかを見つけ出して、その全てを破壊する為に研究所内に来たようだが、なんで今日なんだよ。昨日か明日でもいいだろうが……全くついてないぜ」
「なるほど、にわかには信じられんが、天足のアトリエが現れたと言うわけだな。それで、その天足のアトリエとは戦ったのか」
「戦う、あの天足のアトリエとか、バカな事を言うなよ。どのくらいの速度で動いているのかは知らないが、あの速さは異常だぜ。あれじゃまるで瞬間移動だ。なにせ俺達がまばたきしているウチに次々と仲間達の首を瞬時に刈り取る事ができるんだからな。恐ろしいチート級の能力だぜ。しかも本来俺達の体をクリティカルヒットから守ってくれるはずのオートガードシステムが全く役に立たなかった。つまり天足のアトリエはオートガードシステムの効力に関係なく直接俺達異世界召喚者に致命傷を与える事ができると言うことだ。だから皆が奴との戦いを放棄して一目散に逃げているんだよ。中には天足のアトリエの弱点を突くと言って果敢にも挑んだ仲間もいたが、そのかいも無くあっさりと殺されてしまったよ。当然だが天足のアトリエは自分に考えつく限りの弱点を克服しているようだ。あいつはどうやら思いのほか知能も高いらしい!」
「そうか、本当に……天足のアトリエが研究所内に現れたのか。話を聞く限りどうやら本物の黒神子らしいな。それよりもお前らは俺の正体をわかっていて助けを求めているのか。俺はこの緑の星の冒険者であり、異世界召喚者達が研究所内に潜入したとの報告を受けてこの場に待機をしている某ギルドの隊長なのだが」
「へぇ、ギルドの隊長……」
その男の言葉に二人の男女ははっとしながらも思わず顔を上げると、その男の顔をマジマジと見る。
男の言葉から異世界召喚者達に対抗する為に派遣されたこの星の冒険者だと言うことがわかると異世界召喚者の男女の二人は直ぐに戦闘態勢を取るが、その男の正体に気づいた闘士職の男がいきなり青い顔をしながら体をガクガクと震わせる。
「お、お前、見覚えがあるぞ。お前は確か……神聖、白百合剣魔団の団長にして……第一級冒険者の資格と聖剣士の職を持つとされる戦士。そして冒険者達の頂点とも言える英雄のクラスに属する冒険者、最強の十人の中の一人、その名も破滅天使・リザイア。まさかお前がそうか。ちくしょう、今日は一体何なんだ。次から次へと災難続きだ。突いてないぜ!」
「破滅天使のリザイアと言ったら確かそのレベルは100だったはず。せっかく命からがら天足のアトリエから逃げ切ったと思ったのに今度は冒険者、最強の十人の一人と鉢合わせしてしまうだなんて不運にも程があるわ。これはもう積んだかしら」
自分が置かれた状況に絶望しながらも戦うことを諦めた二人はそれぞれ武器を捨てるとすかさず投降の意志を示すが、かなり用心深いのか破滅天使・リザイアと呼ばれていたその男は、腰に下げている細身の剣を素早く抜き放つと刃先を異世界召喚者の男女二人に突きつけながら、更なる情報を引き出す為に言葉をかける。
「それで、お前達の他に仲間はいるのか」
「いいや、今ここにいるのは俺達二人だけだ。ほかの奴らも皆一斉にちりぢりになって逃げたんだが、その後他の奴らがどうなったかは正直知らない。皆、無事に逃げおおせていればいいが」
「どうやら他に仲間はいないようだな。大人しくしていれば当然命の保証はしよう。この星でも人権の問題で捕虜の扱いには一応は配慮をしているからだ。なのでこれからお前達を捕虜としてノシロノ王国に連行する。それでいいな」
「ああ、それで頼む。俺も彼女も無駄に戦ってまだ死にたくは無いからな」
異世界召喚者の男女が互いに手に持つ武器を捨てた事で警戒心を解いた破滅天使のリザイアは近くにあるロープで二人を後ろ手に縛ろうとするが、直ぐに緊張と警戒の構えを取る。
破滅天使・リザイアは更に用心深く辺りを警戒していたが、しばらくするとある一点を見つめながら異世界召喚者の男女にあることを聞く。
「じゃあそこにいるあの耳長族の青年はお前らの仲間じゃないんだな。なら奴は一体誰だ?」
「耳長族だって、地球で言う所のエルフという奴か。だがそんな奴は俺は知らんぞ!」
「当然、私も知らないわ。この星に来て以来、同じ地球人同士でしか私達はチームを組まないからね。しかも亜人種となんか死んでも組まないわよ」
疑惑の目を向けながら、その得体の知れない耳長族の青年に三人は警戒心を上げる。その耳長族の青年の顔や姿形は誰もが認めるほどに美男でありその場にいた三人は一瞬皆が見惚れる程だ。だがその怪しさ漂う何とも言えない不安が危機感を煽り、三人は本能的に武器を構える。
「おい、そこの耳長族の青年、お前は一体何者だ。いつの間に俺達の視界の中に入ってきていたんだ。俺に気配を察知されること無くここまで接近して来るとは、お前はただ者じゃないな。自分の名前とここに来た訳を言え!」
破滅天使・リザイアの威嚇の言葉にも臆すること無く近づいてくるその耳長族の青年は、腰に下げてある反りが入った三日月型の長剣の柄に手を這わせると自分の名を明かす。
「僕の名はエドワード、ある者達と三人で旅をしている耳長族の者だ。年齢は約二百歳。ここに来た理由は、この先にある研究所に出入りする者を一人残らず抹殺する為にここで見張りをしている。ついさっき研究所の中から出てきた幾人かの異世界召喚者は直ぐに始末をしたんだが、ここにも二人の異世界召喚者が逃げ込むのが目に入ったから急いで駆けつけたんだよ。だがまさかこんな所であの最強の十人の一人と言われている第一級冒険者の破滅天使のリザイアと曹禺してしまうとはある意味ラッキーだったよ」
そのエドワードと名乗る耳長族の青年の言葉にリザイアは意味が分からず頭を捻る。
「ある意味ラッキーだったとは、一体どういうことだ?」
「今から一時間くらい前に、あんたがいるここからさらに後方に一キロほど進んだその先に(見張りの為に)出向いて見たんだが、そこで五十人くらいはいると思われる、ある一団を見つけたんだよ。だからそいつらと戦う前にあんたに出会わなくて本当によかったと言う意味だ。もしも今のように先にあんたに出会ってしまっていたら、恐らく僕の勝機は全くなかっただろうからな」
「この場所から後方にいる一団だとう……お前、まさかウチのギルドパーティーのメンバーが待機をしている野営場を襲ったのか!」
「ええ、そういう事になりますね。なんだか任務の邪魔だったんで速やかに襲撃させて貰いました。ギルドの名は確か、神聖・白百合剣魔団だったかな。でも戦いの際はかなり手こずりましたよ。冒険者の人数も多かったですし、更には強力な力を持つ聖女も一人いましたからね。その者達から聞いた話ではどうやら幾人かの別働隊が既に斥候として研究所内に潜り込んでいると聞いたけど、なら尚更そこにいる一団は確実に壊滅させないといけないな~と思ったんですよ。あんた達を生かして置いたらゆくゆく厄介な事に巻き込まれるかも知れないと思ったからな」
「お前は、ウチの仲間達と戦ったのか。それで皆はどうなった。答えろ!」
「どうなっただって、ならその勝負の結末を教えてやるよ。その後、激しい戦いの末、僕はどうにか彼女たちとの死闘を繰り広げていたんだが、やはり奥の手を使って意表を突かなくては、手練れの彼女たちに勝つ事は到底できなかった。そうあれはまさに生死を賭けたギリギリの勝負だった。だからあんたを見た時に自分の幸運に肝を冷やしたと言っているんだよ。そう僕は本当に付いていると、ラッキーだったとな!」
「白百合剣魔団のみんなを……俺の仲間達を殺したのか。一人残らず……」
「ああ、殺したよ。僕が持つこの剣で一人残らずたたっ切ってやったからな。このようにしてな!」
そう言うが否や耳長族のエドワードは腰に下げている三日月型の長剣を素早く抜き放つと呆然と立つ異世界召喚者の男女二人の体を物凄い剣さばきで一閃し、豪快に薙ぎ払う。
バッサリ!
「な、なんだとう。オートガードシステムが全く役に立たないだなんて……そんなバカなあぁぁぁ、ぐっわあぁぁぁぁ!」
「そ、そんな、死にたくない……死にたくないよ。助けて、お母さんあぁぁぁ~ん!」
大量の血を吹き上げながら力なく地面へと倒れる男女の異世界召喚者の二人は絶望に歪む表情を向けながら最後の時を迎える。
「たったの一斬りでオートガードシステムの防御壁をすり抜け、数値に関係無しにクリティカルヒットを決めるとは、一体なんだ、その剣は? そいつは恐らくは魔剣の類いの物だろ。そうだろ!」
「その答えを教えてほしくばこの僕を倒して見るんだな。第一級冒険者にして最強の十人の中の一人、破滅天使のリザイアよ!」
「それが望みとあらば相手をしてやる。耳長族のエドワードとやら、仲間達に手をかけ、更には俺に挑んだ事を後悔させてやる!」
訳も分からないままに絶命した異世界召喚者の男女の二人を見つめていた破滅天使のリザイアは直ぐに気持ちを切り替えると手に持つ細身のレイピアを構え、物凄い動きと早業で目の前にいるエドワードに斬りかかる。
耳長族のエドワードはどうにかその攻撃に反応したようだが、間一髪の所でその一撃を止めたらしく少しよろめきながらもどうにか押しとどまる。
「あ、あぶねぇぇーーぇぇ、本当に危なかった。僕の連れの、あいつの動きを毎日見ていなかったら破滅天使のリザイアの動きに初見で反応することはできなかった。しかしこんなに動きが速いとは計算外だったぜ。流石はこの世界に住むレベル100の第一級冒険者だ!」
互いの剣をこすり合わせながら眼前で力比べをする耳長族のエドワードと破滅天使のリザイアの攻防に互いの剣はガシガシと音を立てながら突破口となるその隙を絶えず探る。
「中々に強いですね。やはり馬鹿正直に正攻法で戦ってもレベル90の僕ではレベル100のあなたとまともに戦うのは流石に分が悪いみたいだ」
「分が悪いどころか最初からお前に勝ち目なんて全くないぜ。俺の大事な仲間達を……愛すべき彼女たちを無残にも殺してくれた落とし前はきっちりとつけてもらわないとな。それで俺の怒りが収まる事は決してないが、取りあえずはお前の息の根を止めて置かないと俺を信じて志半ばで散っていった仲間達に顔向けができないからな。いくぞ、破滅天使奥義、荒れ狂う壮絶なる破滅の舞い!」
そう叫びながら演舞のように構えると、まるで空中でふわふわと踊っているかのように、重力に逆らうかのような動きで耳長族のエドワードに激しい攻撃を繰り返す。
「なんだ、奴のあの動きは、まるで体重を感じさせないような動きのようだ。まるで心持たない風船のようにフワフワと浮いているような動きだがそこから繰り出される剣さばきは素早く、そして重いし、連続攻撃なだけにこちらは息を吐く暇すら無い。しかもたまに反撃を試みて見てもまるで同じS磁石の電極が反発し合うかのように全く当たる気配が無い。これじゃきりが無いぜ!」
破滅天使のリザイアの怒濤の攻撃に思わず弱音を吐く耳長族のエドワードは、荒れ狂う竜巻のように動き回る変則的な攻撃を何とか避けたり防御をしたり、時には吹き飛ばされながらもどうにか後方へと移動を繰り返す。その慎重かつ後ろ向きな動きは何かを狙っているかのような誤解を生み、破滅天使のリザイアは思わず疑心暗鬼になる。
「お前、わざと後方へと下がっているな。まさかそこに罠や伏兵でも隠し持っているのか」
「さあ、どうかな。僕はあんたの圧倒的な攻撃に面食らってただ何も出来ずに尻込みをしているだけかも知れないし、他に何も対抗できる手段がないだけかも知れない。そしてわざと何かがあるように見せかけて、あんたにはったりをかましているだけかも」
「まあ何れにしてもだ、どこに逃げようともうお前を逃すことは無いだろうから、お前には今この場で確実に死んで貰うぞ!」
「フフフフ、そう簡単には死ねませんよ。僕にもいろいろと守るべき物がありますからね」
「抜かせええ、白百合剣魔団の敵めぇぇぇ、トドメを刺してやる!」
大きな声を上げながら叫ぶ破滅天使のリザイアは最後のシメとばかりに更に攻撃の速度を上げるが、そんなリザイアの背後にいつの間にか現れた一人の女性がフラフラと浮かぶリザイアに声をかける。
「リザイア、待って、待ってください。話を聞いてください!」
フラフラとどこからともなく現れたその女性の悲痛な言葉に、堪らずリザイアは攻撃の手を止め、地面へと倒れ込むその女性の元へと降り立つ。なぜならその女性が白百合剣魔団の生き残りかも知れないと思ったからだ。
「だ、大丈夫か!」
ガッシリ!
「もう離さない……」
いきなり力強く抱き付かれた事でリザイアはかなり面食らっていたが、そんな彼女を抱き起こしながらもその女性の顔をマジマジと見る。
「お前は……生きていたのか」
その女性は間違いなくつい先ほど耳長族の青年エドワードに、もう一人の男の仲間と共に切り伏せられ、そして絶命したはずの魔法使いの女性だった。
その死んだはずの異世界召喚者の女性は、破滅天使のリザイアの腰の辺りに両手を回すと力強く抱きつきながら助けを求める。
「助けて、助けてください。どうかお慈悲を。このままじゃ私……本当に死んじゃうよ!」
「お前は先ほど、あの耳長族の青年に切り捨てられた異世界召喚者の女。致命傷になるくらいに切りつけられたと思っていたんだが、どうやらまだ動けるようだな。だがそんなに動いて傷の具合は大丈夫なのか」
「はい、どうやら大丈夫のようです。もう斬られた箇所の傷は治りましたから」
「直っただって、そんなバカな。神官職でも無いのに、癒しや治療の魔法は、魔法使いであるお前には使えないはずだ。まさか何らかの貴重なレアアイテムのような超回復剤でも持っていたのか?」
「いいえ、違います。私の愛しいエドワード様の為に、私は死の淵から再び復活したのです。エドワード様バンザイ。今この私めがこの命を賭けてこの憎い冒険者、破滅天使のリザイアに大ダメージを与えて見せますね。禁断の自爆爆裂呪文。情熱の愛激自爆爆発!」
「な、なんだとう。お前、一体どういうつもりだ。あのエドワードとか言う奴の為に、己の命を賭けて自爆呪文を使うつもりか。ついさっきお前を殺そうとした縁もゆかりも無い奴の為にか。離せ、離しやがれ。これは一体どうなっているんだ。異常だ、これはかなり異常な光景だぞ!」
「エドワード様バンザイ、エドワード様バンザイ、エドワード様に栄光あれ。私が死んでも私の命をかけた愛の貢献は絶対に忘れないでくださいね!」
苦戦を強いられていた耳長族のエドワードに自分の貢献をアピールすると、異世界召喚者の魔法剣士の女性は幸せに包まれたような顔をしながら自爆呪文を完成させる。その瞬間大爆発が起こり、破滅天使のリザイアの体を中心とした周囲が突如炎に包まれ、凄まじい衝撃波と熱風が重なり大炎上する。
ドッカアァァァァァァーーン!
「がっはぁ、なんだ、一体何が起きている。なぜあの異世界召喚者の女は己に致命傷を負わせた奴をかばい、尚且つ自分の仲間を殺した敵の見方をしているんだ。しかも禁断の自爆魔法を駆使してまでだ。まさか彼女は耳長族のエドワードに何らかの呪いのような物を掛けられているのか?」
「フフフフ、どうやらオートガードシステムの防御壁で致命傷は避けられたようだな。だがこのチャンスを逃しはしないぞ!」
エドワードが三日月型の長剣を高らかに掲げると、前方に注意を図っていたリザイアの体がまるで重力で大地に固定されたかのようにいきなり重くなる。
ヅッシイイイイイイーーーーン、ゴゴゴゴゴゴーーオォォン!
「ば、バカな、いきなり体が物凄く重くなったぞ。まさかこの力は、聖女ミレーヌが操る超重力の神力か。そうか彼女はやはり生きていたのか。だがなぜだ、なぜ俺に攻撃をする。相手が違うぞ、ミレーヌ!」
その叫びに応えるかのように現れたのは、耳長族のエドワードに殺されたと思われていた、破滅天使リザイアのパートナーにしてAランクの聖女、超重力の力を操るミレーヌだった。
ミレーヌは何も変わる様子も無くにこやかにリザイアに笑顔を振り撒くが、リザイアに近づくにつれその重力の重みも増し、更にズシズシと重みが加算して行く。
「うわあぁぁぁぁーーぁぁ、なぜ、なぜだ、なぜ俺を攻撃する。重力攻撃を今すぐにやめるんだ、ミレーヌ。この重力による拘束を今すぐに解けぇぇ!」
「フフフフ、それはできませんわ。この重力の重りを解いたら、エドワード様が危険に陥るじゃないですか。それだけは絶対に阻止させてもらいますわ。エドワード様の命を脅かす者はたとえ誰であろうと許しはしません!」
「お前は一体何を言っているんだ。いい加減に目を覚ますんだ。今のお前は明らかに正気じゃ無い。お前はあの耳長族の男に惑わされているんだ!」
「いいえ、私は至って正気ですよ。エドワード様こそが私達が愛し敬愛する真の支配者です。そうでしょみんな!」
頬を赤く染め上げながら話す聖女ミレーヌの言葉に同調するかのように周りの木々の奥からミレーヌとリザイアを囲むようにして死んだと思われていた他の残りの五十人もの仲間達が皆一斉にその姿を表す。
そのエドワードの方を見る皆の瞳は深い敬意と愛情に満ちているかのように上気しており、まるで幸福の絶頂にいるかのように敬服をする。
「「はい、当然です。私達はエドワード様の為だけに生き、エドワード様だけを愛し、そしてエドワード様の為だけに死んでいきます!」」
「みんな、生きていたのか。だが、何なんだこれは、エドワードとか言ったな、まさかこれは全てお前の仕業か。お前は俺の仲間達に一体何をしたんだ?」
仲間達のあまりの変わりように絶句し絶望するリザイアに、エドワードがその要因と答えを話す。
「フフフフ、答えはこれさ。聖剣チャームブレード。またの名は、色欲による欲と真実の愛を永遠に追い求める剣だ。この愛用武器のおかげで僕は君の部下達をその力で圧倒する事ができたし、更にはそこにいるミレーヌとかいう聖女にもどうにか勝つことができた」
「聖剣、チャームブレードだと」
「この剣の効力は切りつけて命を奪った相手をもう一度復活させ、その後はその命を奪った相手を盲目的に愛するようになるという、欲望と色欲を体現させた、そうまさに誰もが欲しがる夢の聖剣だ。だがその反面この聖剣は女性にしか効果が無く、男性に切りつけてもその切りつけられた男性はそのまま死に至ってしまうという罪深き業物だ。そして幸いな事に白百合剣魔団は皆女性で構成されたギルドみたいだったから、斬り殺した全ての女性達に、その魅惑の呪いをかけることが出来たと言う訳だ。理解できたかな」
「バカな、だがその話がたとえ事実だったとして、あの聖女ミレーヌがお前ごときに遅れを取るなどまず考えられないのだが」
「ああ、あの超重力を操るという聖女ミレーヌは確かに強かったよ。一対一で普通に戦ってたらまず勝てなかったろうぜ。だがあの聖女の重力の攻撃範囲はかなり広いからな。その為使い勝手が悪く、仲間達が入り乱れた状況では俺だけでは無く誤って他の仲間も一緒に押し潰してしまう恐れがある。だからこそ、その聖女さんは僕への攻撃を極力躊躇していたようだ。もしも仲間に構わず重力攻撃を仕掛けていたら、俺は間違いなくその聖女に負けていただろう。だがなまじミレーヌという聖女がお優しい性格の人だったお陰で、どうにかその心情を突いて勝つ事ができたのだよ。その世間慣れしていない優しさが返って仇になったようだ。後は皆を人質にしながらどうにか聖女ミレーヌの間合いの中まで近づき、そのままこのチャームブレードで彼女の心臓を一突きして殺害し、その後はこの聖剣の力で復活を遂げた彼女をそのまま仲間にしたという訳だ」
「殺して、復活だとう、そんなバカな、そんな話が合って堪るかあぁぁ!」
「そう言えば死ぬ間際に聖女ミレーヌがこんな事を言っていたな。『私は道半ばでここで倒れますが、私達の仇はきっと団長の破滅天使のリザイアさんが必ず取ってくれますから、あなたは自分の悪事を後悔しながら……正義の裁きが下されるその時を大人しく待っていてください。きっとあなたは私達の掲げる愛・正義・志・そして絶対なる絆の力の前に必ず敗れ去る事でしょう!』と言っていたっけな」
「聖女ミレーヌがそんな事を」
「絆がどうだとか、愛や正義の志がどうとか言っていたが、この聖剣チャームブレードに斬られてはその言葉は全て嘘偽りに変わる事を、破滅天使のリザイア、その残酷な現実をその命を対価に思い知って貰うぞ!」
「いや、俺も聖女ミレーヌの思いを信じる。俺も最後まで聖女ミレーヌの想いに応えて見せるぜ。うっおおおぉぉぉぉーーぉぉ、外れろぉぉぉぉぉぉーーぉぉぉ! 聖女ミレーヌ、この重力の攻撃の枷を外してくれぇぇぇぇぇ!」
「無駄な事を。だがこの展開じゃそうはならないだろうがな。なぜならこの戦局を変えたのは他ならぬその聖女ミレーヌ本人だからだ。お前を信じて死に至った聖女ミレーヌのその後は……もう想像がつくだろ!」
「聖女ミレーヌの助力を手に入れたお前は、その聖女ミレーヌが繰り出す超重力の攻撃に守られながら、一人一人ウチの仲間達を殺害して回り、その後は聖女ミレーヌと同じようにウチのギルドメンバー達を皆その邪悪な呪いの力で仲間にしていったのか。そういう事か、耳長族のエドワード!」
「ああ、そういうことだ。言っておくがもう彼女達は二度と元には戻らないぜ。なぜならこいつらは僕との戦闘で間違いなく一度はその命を失っているからだ。そしてその後は呪いの力で再び復活を遂げてはいるが、当然別人格に作り替えられているから、もうこいつらはお前が知っている以前の仲間達ではないと言うことだ。ここがこの聖剣チャームブレードの恐ろしい所だ。聖女の精神を操る古代の遺物と言ったらあの支配の灯火が思い浮かぶが、あれは曲がりなりにも、意識の無い聖女を機械的に操るアイテムだから、支配の灯火さえどうにかしてしまえば元に戻す事も恐らくは可能だ。だが僕が持つこのチャームブレードは別に精神を操っている訳では無いから根本的にその性質が違うとだけは言っておこう!」
「つまり、俺が知っている聖女ミレーヌや他の仲間達はもうこの世には無く、ここにいる仲間達はお前がその魔剣の力を借りて復元して作り上げたただのコピー品と言うことか。嘘だ、俺の仲間達がもうこの世にはいないだなんて……そんなのは嘘だ。嘘に決まっている!」
「信じたくない気持ちはわかるよ。その後命を吹き返して新たな生命が宿った肉体は元のままだし、俺に対する愛情と忠誠心とで形成された人格変化を除けば何一つ変わった所は見受けられないのだからそれを見抜くのはまさに至難の業だ。まあ人格が180度変わってしまった後だから、見抜く事はまずできないだろうがな。これが魅惑の聖剣チャームブレードの真に恐ろしい所だ!」
なぜか誇らしげに真実を語る耳長族のエドワードは、怪しく光るチャームブレードを掲げながら地面に無様に倒れる破滅天使のリザイアを見下ろす。
「聖剣チャームブレードだとう、バカな、あの剣を持っていると言うことは、まさかお前は黒神子の眷属と言うことなのか。黒神子の眷属になれる第一の試練をくぐってきた暗黒の戦士と言うことか。そしてこの近くにあの天足のアトリエが現れたという事は……お前の主人はまさか!」
「そうさ、その天足のアトリエだよ。僕は遙か闇なる世界の黒神子・天足のアトリエの眷属にして、聖剣チャームブレードを持ち帰った耳長族のエドワードだ。もうお前に二度と会うことも無いだろうが、本来なら余裕で勝つことができたはずの君に、僕は卑怯にも初見殺しともいうべきだまし討ちをしてしまった。だからせめてものお詫びに、最後は僕の手で出はなく、君の愛する仲間達の手でトドメを刺して貰うといい。ではやれ、白百合剣魔団の団長、メサイアが愛した仲間達よ。お前の敗因は、お前以外の仲間を全て女性にした事だ。そのハーレム気質のギルド構成がお前を死に至らしめたのだ!」
「やめろ、やめてくれ。みんな正気に戻ってくれ。聖女ミレーヌ、俺だ、俺がわからないのか。そうだ、白魔法使いのタタラ、それに剣士のテファニア、もう研究所から帰ってきているんだろ。なら早く俺を助けてくれ。聖女ミレーヌの重力攻撃で体が全く動かないんだ。早くしてくれぇぇ。ああ、うわあぁぁぁぁーーぁぁーーやめろぉお、やめてくれぇぇーーぐっわああぁぁぁぁーーぁぁ!」
「エドワード様の為に死になさい。超重力の攻撃マックスぅぅぅぅぅ!」
「ファイヤーボール!」
「サンダーボルト!」
「ハリケンブリザード!」
「ウォーターカッター!」
「ボムアースマグナム!」
「防御力ダウン!」
「魔法耐性度ダウン!」
「素早さ、物理攻撃耐久度ダウン!」
ドッカアァァァァァァーーン!
その数々の魔法の詠唱を唱えるかつての仲間達の一斉攻撃を受け、地面に伏せる事しかできないリザイアの回りで数々の大爆発が起きる。
「ぐっわああぁぁぁぁーーぁぁ、やめろ、やめてくれ、HPが、オートガードシステムのHPが無くなってしまうぅぅぅ。数値が見る見るうちに減っていくぅぅ!」
「よし、みんな、最後はエドワード様の為にみんなで武器による攻撃に移るわよ。という訳で、暴れて逃げられないように聖女ミレーヌは、愛する物に仇なすリザイアをしっかりと押さえといてね」
「大丈夫です。私の超重力の攻撃からはたとえレベル100の冒険者でもそう簡単に逃げ切る事はできませんよ!」
「やめろ、やめろぉぉ、やめてくれぇぇ。ぐっわああぁぁぁぁーーぁぁ!!」
恥も外聞も捨て情けなくも無様に最後は辺り構わず懇願しながらものたうち回った破滅天使のリザイアは、その圧倒的なレベル100の力を生かすことも無く、かつて仲間だった多くの最愛の者達に囲まれながら、無残にもなぶり殺しにされるのだった。
『聖女ミレーヌ、お前の切なる願いはお前自らの手でぶち壊してしまったようだな。だから言ったろう、そうは絶対にならないって』
*
その十分後。無残な肉塊と化したかつての英雄、破滅天使のリザイアはその屍を耳長族のエドワードの視界にさらす。
そんな恐ろしい光景を空虚の表情で見つめるエドワードは、頭を下げながら皆一斉に整列する白百合剣魔団の女性たちとその一番前にいる聖女ミレーヌに声をかける。
「皆ご苦労だった。君たちのお陰であの強敵だった破滅天使のリザイアをどうにか倒す事ができた。これもみんな君たちが共に協力してくれたお陰だ。本当にありがとう!」
「いえいえ、どう致しまして、エドワード様に協力をするのはむしろ当然の事です。この者は不埒にも高貴なる至高のエドワード様に無礼を働いたのですから、こうなるのはむしろ当然の報いです!」
「当然の報い……か。隊長でもあるリザイアを尊敬し、そして心の底から愛していたお前達がこうまでその心を変えてしまうとはな。毎度思うのだが、聖剣チャームブレード……本当に恐ろしい聖剣だよ」
彼女達の盲目的な忠誠心を見ながら耳長族のエドワードがそんな事をつぶやいていると、木々の奥から一人の大柄な豚人族がエドワードの元へと駆け寄る。
下品な笑いを浮かべながらまるで商品を品定めするかのように、跪く白百合剣魔団の女性達を見て回るその豚人族の男は色欲の眼差しを向けると下劣な思いを語る。
「へへへへ、エドワード様、ついにやりましたね。ついにあの美女揃いで有名なギルド、神聖、白百合剣魔団の女性達を我が物にして見せましたね。しかもその彼女達の助力を借りて、あの絶対に勝てないと思われていた強敵、破滅天使のリザイアを葬ることに成功するとはこれは明らかに大功績です。しかもその連れの超強力な重力使いの聖女ミレーヌを手に入れてしまうとは、もうこのままこの世界その物を手にいれてしまうのではありませんか。このまま強力な仲間達を増やして行ったら、もうエドワード様に逆らう者達はいなくなると思うのですが」
「いや、聖女を一人手に入れただけではノシロノ王国を一つ落とすこともできないだろ。そんな事よりだ、豚人族のドラムよ、そちらの見張りはいいのか、特に異常は無いな」
「はい、ないです。ただどこかにまだ一名ほど人間が隠れている気配と匂いを感じるのですが、イマイチ位置が掴めなくて難儀をしている所です」
「そうか、一名どこかに隠れているのか。ならこの状況をどこかで見ていると言うことになるな。くそ、俺の能力やそのスペックが別働隊とやらに届いてしまうじゃないか」
「別にいいんじゃ無いんですか。どう転んでもその別働隊はエドワード様や天足のアトリエ様には絶対に勝てないのですから。今頃は物陰で密かに覗いているその一名も、震えながら絶望している事でしょうぜ。さすがは遙か闇なる世界の神様が出した試練の数々を何度もくぐり抜けてきた猛者だけの事はありますね!」
「フ、俺をおだてるのは、それなりに理由があっての事だろ。まあお前が何を考えているのか、俺には手に取るように想像がつくがな」
「へへへ、なら話が早いです。せっかくこんな美女揃いのハーレムを手に入れたのですから、今夜はそのおこぼれの一つを俺にも分けてもらえないでしょうか。俺もあんた達の付き人としてきつい仕事をいつも頑張っているんですからたまにはそのご褒美がほしいです。いいですよね。今夜は一人貰っても。久しぶりに息抜きを兼ねてハッスルもしたいですし!」
色欲の眼差しを向けながら下劣にも発情する豚人族のドラムと呼ばれていたその男は、自分の邪な願いを叶える為に必死にエドワードに懇願する。
だがそんな豚人族のドラムの浅ましい言葉を聞いていた耳長族のエドワードは大きく溜息を吐くと、頭を下げながら今も敬服する白百合剣魔団の彼女達に向けてある命令を下す。
「もう敬礼はいいから、全員立ち上がって整列しろ!」
「エドワード様、それで一体どの子を俺に譲ってくれるんですかい!」
「はぁ~ぁ、ドラムよ、彼女たちは仮にもこの僕に果敢にも挑んでその命を散らしていった勇敢な誇りある戦士達だ。たとえ敗北したとはいえ、その敬意は称えないといけないだろ!」
「でもこの者達は皆もうエドワード様の物ですし、どう扱っても別にいいんじゃありませんか」
「豚人族のドラムよ、そんな下劣な考えは僕も、勿論天足のアトリエも好まない事は知っているだろ。もしもそんな事がばれたらお前は直ぐにアトリエにその首をもぎ取られてしまうことがわからないのか。だから下手な考えはやめておくんだな」
「ひいいいいいーー分かりました、もう分かりましたよ。俺も一晩の楽しみの為に死にたくは無いですからね、今回は諦めるとしますよ」
「ああそうしてくれ、だが安心しろ。この仕事が終わってノシロノ王国に立ち寄る事があったら、その時はお前を夜の店に連れて行ってやるよ。その夜の商売女が相手なら好きにするといい。勿論その代金は僕が払うからさ」
「流石は魅惑の暗黒の戦士、耳長族のエドワード様だ。話がわかるぜ。それじゃこの後彼女たちは一体どうするんですか。この人数を生かしてまさか研究所に特攻でもさせるつもりですか!」
「いいや、もう役目も済んだし、まだ使える聖女ミレーヌを除いた、他の白百合剣魔団の女性達は皆この場で自害をしろ。名誉ある自決をするのだ!」
「「はい、エドワード様、私達は喜んで自決をします!」」
そうにこやかに言うと他の白百合剣魔団の女性達は皆各々が刃物を取り出すと、首元に刃物をあてそのまま躊躇無く自決をする。
グサリ!
バタン、ドサリ、バタン、ズッシン、ドン、バタン、バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタァァァーーン!
まるで乾いたリズムを刻むかのように白百合剣魔団の女性達が皆首元から血を吹き上げると力無く地面へと倒れていく。
「ああ、勿体ない、これだけの美女達を皆死なせてしまうだなんて、俺のハーレムがなくなってしまう。共に旅をしたら楽しい旅になると思ったのに、なぜ殺したのですか。せっかく強力な一団を手に入れたというのに?」
「俺達は少数で動いているんだからこんなに大所帯にする訳にはいかないだろ。それに彼女たちには名誉ある死を与えてその尊厳を守ってやったんだからむしろ感謝をしてほしいくらいだぜ」
「もて遊んだり、性奴隷として売り飛ばしたりはしないんですね。変な所で常識人なんですから俺も気苦労が絶えないですよ。聖剣チャームブレードを持ち帰った者はその色欲の魔力による力で堕落して、そのドス黒い欲望に飲まれると聞いていたんですが、エドワード様、どうやらあなたは違うようだ。本当に底の見えないお人だ。あの天足のアトリエ様が今も見捨てずに、あんたを眷属にしている意味がなんとなくわかる気がします」
「ハハハハ、僕もそれなりに数々の苦労と過酷な試練を乗り越えてここに立っているんだから、自分の欲望を制御できるのはむしろ当然だろ。出ないと僕は今もこうして五体満足に生きてはいないと言うことだ。ではそろそろ行こうか。このまま待っていてもどうやら天足のアトリエは研究所内から出て来る様子はないみたいだから、俺達で彼女を迎えに行ってやろうぜ。全くあの人は研究所内で一体何をしているんだ。天足のアトリエともあろう者が、流石に遅すぎるだろ。それにここは血の臭いでくさいしな、今すぐ離れたいぜ!」
「そうですね。こんな血生臭い所には、いたくはありませんね。俺は鼻が無性にいいからこの血の臭いは臭くてかないませんよ!」
「そうと決まったら彼女の元へ急ごうか。彼女を見つけ出して共に合流するんだ。俺達の主でもある、遙か闇なる世界の黒神子・天足のアトリエの元へ!」
視界に見える研究所の方角に歩き出した耳長族のエドワードと豚人族のドラムの二人は、死ぬことを免れた重力使いの聖女ミレーヌを後ろに従わせながらこの場を後にする。
*
その三人がこの場所から立ち去ると、その行為を見届けたかのように一人の忍風の細身の女性が血で汚れた大地の中から突如勢いよく現れる。
ドッカァァァァーーン!
夥しい仲間達の屍が転がる大地から土砂を巻き上げながら現れたその細身の女性は周りに警戒しながらも、悲しげに無残な死体と化した仲間達を見る。
「私だけが偵察と薪拾いの為に森の中に入っていたから、エドワードとかいう男には幸運にも気づかれなかったし、冷静に状況確認もする事ができた。後に仲間達の死を目撃した時はあまりの恐怖につい思わず地面の中に隠れてしまったけど、そのお陰で再度息を吹き返したかつての仲間達にも気づかれる事はなかった。なので直ぐに身を隠した私の咄嗟の判断はどうやら正しかったようね。だけど嗅覚の鋭いあの豚人族のドラムとかいう奴に一時は居場所を特定されるかとも思ったけど、仲間達の返り血で既に大地が汚れていたから、どうにか私の臭いを誤魔化す事ができた。でもまさか殺されたはずの仲間達が次々と生き返って、破滅天使のリザイア隊長に反旗を翻すだなんて思わなかったわ。いいえ、あの耳長族のエドワードが持つ聖剣チャームブレードの呪いが原因か。何れにしても、もう皆は昔の仲間達じゃないみたいだし、破滅天使のリザイア隊長も無残にも殺されてしまったから私の取るべき行動は一つと言うことになるわ。そうこの恐ろしい事実を早く他の別働隊の仲間達に知らせてやらなくては、研究所内が……いいえ、ノシロノ王国全体が大変な事になるわ。急がなくては!」
目に涙を溜めながら独り言を言うと、忍び風の出で立ちで身を固めたその細身の女性は、既に死体と化しているかつての仲間達に静かに手を併せると、その三秒後……全てを吹っ切るかのような素早い動きでその場を後にするのだった。
耳長族のエドワードです。聖剣チャームブレードを持っています。
豚人族のドラムです。エドワードの舎弟です。
第一級冒険者の破滅天使リザイアと、Aランクの聖女の称号を持つ超重力の権能を操るミレーヌです。
神聖白百合剣魔団に所属をする忍者職の女性です。名前はまだ語られていません。
「ハア、ハア、ハア、ハア、た、助けてください……誰か、助けて……あいつが、あいつが来る!」
「ハア、ハア、ハア、ハア、あなたはここの現地の人よね。お金は払うから水を、水を頂戴。研究所から必死に走って来てもう喉がカラカラなの。だからお願い、早く水を!」
「お前達はなんだ、まさか異世界召喚者か。だがその悲痛な顔と息を切らした慌てようはなんだ。そんなに急いで、お前らは一体何から逃げて来たんだ?」
息を切らしながら傍まで来た異世界召喚者の男女の二人は、本来は絶対に助けをこう事はないはずの緑の星側の冒険者の一人に助けを求める。
研究所方面から逃げてきたのは闘士職と魔法使い職の二名だけのようだ。
必死に逃げてきたその二人に助けを求められた、端正な顔立ちを持つ色男風のその剣士は周りに警戒しながらも研究所から逃げてきたその訳を聞く。
「その出で立ちと雰囲気、どうやら本当に異世界召喚者の戦士達のようだな。でもまさかそのお前達が敵側でもある、緑の星側の冒険者に助けを請うて来るとは一体どういう了見だ。お前達は研究所の中から逃げて来たんだよな。ならこの研究所の地下にあるとされる聖女になれる新薬を奪う為に多くの仲間達と共にわざわざ潜入して来たはずだ。なのに大半の異世界召喚者達は皆一目散に研究所から外にちりぢりになって逃げ出したのを遠くで確認している。そんなお前達が重要な任務を放棄してまで一体何から逃げてきたんだ。答えろ!」
「アトリエだよ。この世界に十二人いると言われている、遙か闇なる世界の黒神子の一人、天足のアトリエがあの研究所の中にいたんだよ。天足のアトリエもどうやら聖女になれる新薬の在りかを見つけ出して、その全てを破壊する為に研究所内に来たようだが、なんで今日なんだよ。昨日か明日でもいいだろうが……全くついてないぜ」
「なるほど、にわかには信じられんが、天足のアトリエが現れたと言うわけだな。それで、その天足のアトリエとは戦ったのか」
「戦う、あの天足のアトリエとか、バカな事を言うなよ。どのくらいの速度で動いているのかは知らないが、あの速さは異常だぜ。あれじゃまるで瞬間移動だ。なにせ俺達がまばたきしているウチに次々と仲間達の首を瞬時に刈り取る事ができるんだからな。恐ろしいチート級の能力だぜ。しかも本来俺達の体をクリティカルヒットから守ってくれるはずのオートガードシステムが全く役に立たなかった。つまり天足のアトリエはオートガードシステムの効力に関係なく直接俺達異世界召喚者に致命傷を与える事ができると言うことだ。だから皆が奴との戦いを放棄して一目散に逃げているんだよ。中には天足のアトリエの弱点を突くと言って果敢にも挑んだ仲間もいたが、そのかいも無くあっさりと殺されてしまったよ。当然だが天足のアトリエは自分に考えつく限りの弱点を克服しているようだ。あいつはどうやら思いのほか知能も高いらしい!」
「そうか、本当に……天足のアトリエが研究所内に現れたのか。話を聞く限りどうやら本物の黒神子らしいな。それよりもお前らは俺の正体をわかっていて助けを求めているのか。俺はこの緑の星の冒険者であり、異世界召喚者達が研究所内に潜入したとの報告を受けてこの場に待機をしている某ギルドの隊長なのだが」
「へぇ、ギルドの隊長……」
その男の言葉に二人の男女ははっとしながらも思わず顔を上げると、その男の顔をマジマジと見る。
男の言葉から異世界召喚者達に対抗する為に派遣されたこの星の冒険者だと言うことがわかると異世界召喚者の男女の二人は直ぐに戦闘態勢を取るが、その男の正体に気づいた闘士職の男がいきなり青い顔をしながら体をガクガクと震わせる。
「お、お前、見覚えがあるぞ。お前は確か……神聖、白百合剣魔団の団長にして……第一級冒険者の資格と聖剣士の職を持つとされる戦士。そして冒険者達の頂点とも言える英雄のクラスに属する冒険者、最強の十人の中の一人、その名も破滅天使・リザイア。まさかお前がそうか。ちくしょう、今日は一体何なんだ。次から次へと災難続きだ。突いてないぜ!」
「破滅天使のリザイアと言ったら確かそのレベルは100だったはず。せっかく命からがら天足のアトリエから逃げ切ったと思ったのに今度は冒険者、最強の十人の一人と鉢合わせしてしまうだなんて不運にも程があるわ。これはもう積んだかしら」
自分が置かれた状況に絶望しながらも戦うことを諦めた二人はそれぞれ武器を捨てるとすかさず投降の意志を示すが、かなり用心深いのか破滅天使・リザイアと呼ばれていたその男は、腰に下げている細身の剣を素早く抜き放つと刃先を異世界召喚者の男女二人に突きつけながら、更なる情報を引き出す為に言葉をかける。
「それで、お前達の他に仲間はいるのか」
「いいや、今ここにいるのは俺達二人だけだ。ほかの奴らも皆一斉にちりぢりになって逃げたんだが、その後他の奴らがどうなったかは正直知らない。皆、無事に逃げおおせていればいいが」
「どうやら他に仲間はいないようだな。大人しくしていれば当然命の保証はしよう。この星でも人権の問題で捕虜の扱いには一応は配慮をしているからだ。なのでこれからお前達を捕虜としてノシロノ王国に連行する。それでいいな」
「ああ、それで頼む。俺も彼女も無駄に戦ってまだ死にたくは無いからな」
異世界召喚者の男女が互いに手に持つ武器を捨てた事で警戒心を解いた破滅天使のリザイアは近くにあるロープで二人を後ろ手に縛ろうとするが、直ぐに緊張と警戒の構えを取る。
破滅天使・リザイアは更に用心深く辺りを警戒していたが、しばらくするとある一点を見つめながら異世界召喚者の男女にあることを聞く。
「じゃあそこにいるあの耳長族の青年はお前らの仲間じゃないんだな。なら奴は一体誰だ?」
「耳長族だって、地球で言う所のエルフという奴か。だがそんな奴は俺は知らんぞ!」
「当然、私も知らないわ。この星に来て以来、同じ地球人同士でしか私達はチームを組まないからね。しかも亜人種となんか死んでも組まないわよ」
疑惑の目を向けながら、その得体の知れない耳長族の青年に三人は警戒心を上げる。その耳長族の青年の顔や姿形は誰もが認めるほどに美男でありその場にいた三人は一瞬皆が見惚れる程だ。だがその怪しさ漂う何とも言えない不安が危機感を煽り、三人は本能的に武器を構える。
「おい、そこの耳長族の青年、お前は一体何者だ。いつの間に俺達の視界の中に入ってきていたんだ。俺に気配を察知されること無くここまで接近して来るとは、お前はただ者じゃないな。自分の名前とここに来た訳を言え!」
破滅天使・リザイアの威嚇の言葉にも臆すること無く近づいてくるその耳長族の青年は、腰に下げてある反りが入った三日月型の長剣の柄に手を這わせると自分の名を明かす。
「僕の名はエドワード、ある者達と三人で旅をしている耳長族の者だ。年齢は約二百歳。ここに来た理由は、この先にある研究所に出入りする者を一人残らず抹殺する為にここで見張りをしている。ついさっき研究所の中から出てきた幾人かの異世界召喚者は直ぐに始末をしたんだが、ここにも二人の異世界召喚者が逃げ込むのが目に入ったから急いで駆けつけたんだよ。だがまさかこんな所であの最強の十人の一人と言われている第一級冒険者の破滅天使のリザイアと曹禺してしまうとはある意味ラッキーだったよ」
そのエドワードと名乗る耳長族の青年の言葉にリザイアは意味が分からず頭を捻る。
「ある意味ラッキーだったとは、一体どういうことだ?」
「今から一時間くらい前に、あんたがいるここからさらに後方に一キロほど進んだその先に(見張りの為に)出向いて見たんだが、そこで五十人くらいはいると思われる、ある一団を見つけたんだよ。だからそいつらと戦う前にあんたに出会わなくて本当によかったと言う意味だ。もしも今のように先にあんたに出会ってしまっていたら、恐らく僕の勝機は全くなかっただろうからな」
「この場所から後方にいる一団だとう……お前、まさかウチのギルドパーティーのメンバーが待機をしている野営場を襲ったのか!」
「ええ、そういう事になりますね。なんだか任務の邪魔だったんで速やかに襲撃させて貰いました。ギルドの名は確か、神聖・白百合剣魔団だったかな。でも戦いの際はかなり手こずりましたよ。冒険者の人数も多かったですし、更には強力な力を持つ聖女も一人いましたからね。その者達から聞いた話ではどうやら幾人かの別働隊が既に斥候として研究所内に潜り込んでいると聞いたけど、なら尚更そこにいる一団は確実に壊滅させないといけないな~と思ったんですよ。あんた達を生かして置いたらゆくゆく厄介な事に巻き込まれるかも知れないと思ったからな」
「お前は、ウチの仲間達と戦ったのか。それで皆はどうなった。答えろ!」
「どうなっただって、ならその勝負の結末を教えてやるよ。その後、激しい戦いの末、僕はどうにか彼女たちとの死闘を繰り広げていたんだが、やはり奥の手を使って意表を突かなくては、手練れの彼女たちに勝つ事は到底できなかった。そうあれはまさに生死を賭けたギリギリの勝負だった。だからあんたを見た時に自分の幸運に肝を冷やしたと言っているんだよ。そう僕は本当に付いていると、ラッキーだったとな!」
「白百合剣魔団のみんなを……俺の仲間達を殺したのか。一人残らず……」
「ああ、殺したよ。僕が持つこの剣で一人残らずたたっ切ってやったからな。このようにしてな!」
そう言うが否や耳長族のエドワードは腰に下げている三日月型の長剣を素早く抜き放つと呆然と立つ異世界召喚者の男女二人の体を物凄い剣さばきで一閃し、豪快に薙ぎ払う。
バッサリ!
「な、なんだとう。オートガードシステムが全く役に立たないだなんて……そんなバカなあぁぁぁ、ぐっわあぁぁぁぁ!」
「そ、そんな、死にたくない……死にたくないよ。助けて、お母さんあぁぁぁ~ん!」
大量の血を吹き上げながら力なく地面へと倒れる男女の異世界召喚者の二人は絶望に歪む表情を向けながら最後の時を迎える。
「たったの一斬りでオートガードシステムの防御壁をすり抜け、数値に関係無しにクリティカルヒットを決めるとは、一体なんだ、その剣は? そいつは恐らくは魔剣の類いの物だろ。そうだろ!」
「その答えを教えてほしくばこの僕を倒して見るんだな。第一級冒険者にして最強の十人の中の一人、破滅天使のリザイアよ!」
「それが望みとあらば相手をしてやる。耳長族のエドワードとやら、仲間達に手をかけ、更には俺に挑んだ事を後悔させてやる!」
訳も分からないままに絶命した異世界召喚者の男女の二人を見つめていた破滅天使のリザイアは直ぐに気持ちを切り替えると手に持つ細身のレイピアを構え、物凄い動きと早業で目の前にいるエドワードに斬りかかる。
耳長族のエドワードはどうにかその攻撃に反応したようだが、間一髪の所でその一撃を止めたらしく少しよろめきながらもどうにか押しとどまる。
「あ、あぶねぇぇーーぇぇ、本当に危なかった。僕の連れの、あいつの動きを毎日見ていなかったら破滅天使のリザイアの動きに初見で反応することはできなかった。しかしこんなに動きが速いとは計算外だったぜ。流石はこの世界に住むレベル100の第一級冒険者だ!」
互いの剣をこすり合わせながら眼前で力比べをする耳長族のエドワードと破滅天使のリザイアの攻防に互いの剣はガシガシと音を立てながら突破口となるその隙を絶えず探る。
「中々に強いですね。やはり馬鹿正直に正攻法で戦ってもレベル90の僕ではレベル100のあなたとまともに戦うのは流石に分が悪いみたいだ」
「分が悪いどころか最初からお前に勝ち目なんて全くないぜ。俺の大事な仲間達を……愛すべき彼女たちを無残にも殺してくれた落とし前はきっちりとつけてもらわないとな。それで俺の怒りが収まる事は決してないが、取りあえずはお前の息の根を止めて置かないと俺を信じて志半ばで散っていった仲間達に顔向けができないからな。いくぞ、破滅天使奥義、荒れ狂う壮絶なる破滅の舞い!」
そう叫びながら演舞のように構えると、まるで空中でふわふわと踊っているかのように、重力に逆らうかのような動きで耳長族のエドワードに激しい攻撃を繰り返す。
「なんだ、奴のあの動きは、まるで体重を感じさせないような動きのようだ。まるで心持たない風船のようにフワフワと浮いているような動きだがそこから繰り出される剣さばきは素早く、そして重いし、連続攻撃なだけにこちらは息を吐く暇すら無い。しかもたまに反撃を試みて見てもまるで同じS磁石の電極が反発し合うかのように全く当たる気配が無い。これじゃきりが無いぜ!」
破滅天使のリザイアの怒濤の攻撃に思わず弱音を吐く耳長族のエドワードは、荒れ狂う竜巻のように動き回る変則的な攻撃を何とか避けたり防御をしたり、時には吹き飛ばされながらもどうにか後方へと移動を繰り返す。その慎重かつ後ろ向きな動きは何かを狙っているかのような誤解を生み、破滅天使のリザイアは思わず疑心暗鬼になる。
「お前、わざと後方へと下がっているな。まさかそこに罠や伏兵でも隠し持っているのか」
「さあ、どうかな。僕はあんたの圧倒的な攻撃に面食らってただ何も出来ずに尻込みをしているだけかも知れないし、他に何も対抗できる手段がないだけかも知れない。そしてわざと何かがあるように見せかけて、あんたにはったりをかましているだけかも」
「まあ何れにしてもだ、どこに逃げようともうお前を逃すことは無いだろうから、お前には今この場で確実に死んで貰うぞ!」
「フフフフ、そう簡単には死ねませんよ。僕にもいろいろと守るべき物がありますからね」
「抜かせええ、白百合剣魔団の敵めぇぇぇ、トドメを刺してやる!」
大きな声を上げながら叫ぶ破滅天使のリザイアは最後のシメとばかりに更に攻撃の速度を上げるが、そんなリザイアの背後にいつの間にか現れた一人の女性がフラフラと浮かぶリザイアに声をかける。
「リザイア、待って、待ってください。話を聞いてください!」
フラフラとどこからともなく現れたその女性の悲痛な言葉に、堪らずリザイアは攻撃の手を止め、地面へと倒れ込むその女性の元へと降り立つ。なぜならその女性が白百合剣魔団の生き残りかも知れないと思ったからだ。
「だ、大丈夫か!」
ガッシリ!
「もう離さない……」
いきなり力強く抱き付かれた事でリザイアはかなり面食らっていたが、そんな彼女を抱き起こしながらもその女性の顔をマジマジと見る。
「お前は……生きていたのか」
その女性は間違いなくつい先ほど耳長族の青年エドワードに、もう一人の男の仲間と共に切り伏せられ、そして絶命したはずの魔法使いの女性だった。
その死んだはずの異世界召喚者の女性は、破滅天使のリザイアの腰の辺りに両手を回すと力強く抱きつきながら助けを求める。
「助けて、助けてください。どうかお慈悲を。このままじゃ私……本当に死んじゃうよ!」
「お前は先ほど、あの耳長族の青年に切り捨てられた異世界召喚者の女。致命傷になるくらいに切りつけられたと思っていたんだが、どうやらまだ動けるようだな。だがそんなに動いて傷の具合は大丈夫なのか」
「はい、どうやら大丈夫のようです。もう斬られた箇所の傷は治りましたから」
「直っただって、そんなバカな。神官職でも無いのに、癒しや治療の魔法は、魔法使いであるお前には使えないはずだ。まさか何らかの貴重なレアアイテムのような超回復剤でも持っていたのか?」
「いいえ、違います。私の愛しいエドワード様の為に、私は死の淵から再び復活したのです。エドワード様バンザイ。今この私めがこの命を賭けてこの憎い冒険者、破滅天使のリザイアに大ダメージを与えて見せますね。禁断の自爆爆裂呪文。情熱の愛激自爆爆発!」
「な、なんだとう。お前、一体どういうつもりだ。あのエドワードとか言う奴の為に、己の命を賭けて自爆呪文を使うつもりか。ついさっきお前を殺そうとした縁もゆかりも無い奴の為にか。離せ、離しやがれ。これは一体どうなっているんだ。異常だ、これはかなり異常な光景だぞ!」
「エドワード様バンザイ、エドワード様バンザイ、エドワード様に栄光あれ。私が死んでも私の命をかけた愛の貢献は絶対に忘れないでくださいね!」
苦戦を強いられていた耳長族のエドワードに自分の貢献をアピールすると、異世界召喚者の魔法剣士の女性は幸せに包まれたような顔をしながら自爆呪文を完成させる。その瞬間大爆発が起こり、破滅天使のリザイアの体を中心とした周囲が突如炎に包まれ、凄まじい衝撃波と熱風が重なり大炎上する。
ドッカアァァァァァァーーン!
「がっはぁ、なんだ、一体何が起きている。なぜあの異世界召喚者の女は己に致命傷を負わせた奴をかばい、尚且つ自分の仲間を殺した敵の見方をしているんだ。しかも禁断の自爆魔法を駆使してまでだ。まさか彼女は耳長族のエドワードに何らかの呪いのような物を掛けられているのか?」
「フフフフ、どうやらオートガードシステムの防御壁で致命傷は避けられたようだな。だがこのチャンスを逃しはしないぞ!」
エドワードが三日月型の長剣を高らかに掲げると、前方に注意を図っていたリザイアの体がまるで重力で大地に固定されたかのようにいきなり重くなる。
ヅッシイイイイイイーーーーン、ゴゴゴゴゴゴーーオォォン!
「ば、バカな、いきなり体が物凄く重くなったぞ。まさかこの力は、聖女ミレーヌが操る超重力の神力か。そうか彼女はやはり生きていたのか。だがなぜだ、なぜ俺に攻撃をする。相手が違うぞ、ミレーヌ!」
その叫びに応えるかのように現れたのは、耳長族のエドワードに殺されたと思われていた、破滅天使リザイアのパートナーにしてAランクの聖女、超重力の力を操るミレーヌだった。
ミレーヌは何も変わる様子も無くにこやかにリザイアに笑顔を振り撒くが、リザイアに近づくにつれその重力の重みも増し、更にズシズシと重みが加算して行く。
「うわあぁぁぁぁーーぁぁ、なぜ、なぜだ、なぜ俺を攻撃する。重力攻撃を今すぐにやめるんだ、ミレーヌ。この重力による拘束を今すぐに解けぇぇ!」
「フフフフ、それはできませんわ。この重力の重りを解いたら、エドワード様が危険に陥るじゃないですか。それだけは絶対に阻止させてもらいますわ。エドワード様の命を脅かす者はたとえ誰であろうと許しはしません!」
「お前は一体何を言っているんだ。いい加減に目を覚ますんだ。今のお前は明らかに正気じゃ無い。お前はあの耳長族の男に惑わされているんだ!」
「いいえ、私は至って正気ですよ。エドワード様こそが私達が愛し敬愛する真の支配者です。そうでしょみんな!」
頬を赤く染め上げながら話す聖女ミレーヌの言葉に同調するかのように周りの木々の奥からミレーヌとリザイアを囲むようにして死んだと思われていた他の残りの五十人もの仲間達が皆一斉にその姿を表す。
そのエドワードの方を見る皆の瞳は深い敬意と愛情に満ちているかのように上気しており、まるで幸福の絶頂にいるかのように敬服をする。
「「はい、当然です。私達はエドワード様の為だけに生き、エドワード様だけを愛し、そしてエドワード様の為だけに死んでいきます!」」
「みんな、生きていたのか。だが、何なんだこれは、エドワードとか言ったな、まさかこれは全てお前の仕業か。お前は俺の仲間達に一体何をしたんだ?」
仲間達のあまりの変わりように絶句し絶望するリザイアに、エドワードがその要因と答えを話す。
「フフフフ、答えはこれさ。聖剣チャームブレード。またの名は、色欲による欲と真実の愛を永遠に追い求める剣だ。この愛用武器のおかげで僕は君の部下達をその力で圧倒する事ができたし、更にはそこにいるミレーヌとかいう聖女にもどうにか勝つことができた」
「聖剣、チャームブレードだと」
「この剣の効力は切りつけて命を奪った相手をもう一度復活させ、その後はその命を奪った相手を盲目的に愛するようになるという、欲望と色欲を体現させた、そうまさに誰もが欲しがる夢の聖剣だ。だがその反面この聖剣は女性にしか効果が無く、男性に切りつけてもその切りつけられた男性はそのまま死に至ってしまうという罪深き業物だ。そして幸いな事に白百合剣魔団は皆女性で構成されたギルドみたいだったから、斬り殺した全ての女性達に、その魅惑の呪いをかけることが出来たと言う訳だ。理解できたかな」
「バカな、だがその話がたとえ事実だったとして、あの聖女ミレーヌがお前ごときに遅れを取るなどまず考えられないのだが」
「ああ、あの超重力を操るという聖女ミレーヌは確かに強かったよ。一対一で普通に戦ってたらまず勝てなかったろうぜ。だがあの聖女の重力の攻撃範囲はかなり広いからな。その為使い勝手が悪く、仲間達が入り乱れた状況では俺だけでは無く誤って他の仲間も一緒に押し潰してしまう恐れがある。だからこそ、その聖女さんは僕への攻撃を極力躊躇していたようだ。もしも仲間に構わず重力攻撃を仕掛けていたら、俺は間違いなくその聖女に負けていただろう。だがなまじミレーヌという聖女がお優しい性格の人だったお陰で、どうにかその心情を突いて勝つ事ができたのだよ。その世間慣れしていない優しさが返って仇になったようだ。後は皆を人質にしながらどうにか聖女ミレーヌの間合いの中まで近づき、そのままこのチャームブレードで彼女の心臓を一突きして殺害し、その後はこの聖剣の力で復活を遂げた彼女をそのまま仲間にしたという訳だ」
「殺して、復活だとう、そんなバカな、そんな話が合って堪るかあぁぁ!」
「そう言えば死ぬ間際に聖女ミレーヌがこんな事を言っていたな。『私は道半ばでここで倒れますが、私達の仇はきっと団長の破滅天使のリザイアさんが必ず取ってくれますから、あなたは自分の悪事を後悔しながら……正義の裁きが下されるその時を大人しく待っていてください。きっとあなたは私達の掲げる愛・正義・志・そして絶対なる絆の力の前に必ず敗れ去る事でしょう!』と言っていたっけな」
「聖女ミレーヌがそんな事を」
「絆がどうだとか、愛や正義の志がどうとか言っていたが、この聖剣チャームブレードに斬られてはその言葉は全て嘘偽りに変わる事を、破滅天使のリザイア、その残酷な現実をその命を対価に思い知って貰うぞ!」
「いや、俺も聖女ミレーヌの思いを信じる。俺も最後まで聖女ミレーヌの想いに応えて見せるぜ。うっおおおぉぉぉぉーーぉぉ、外れろぉぉぉぉぉぉーーぉぉぉ! 聖女ミレーヌ、この重力の攻撃の枷を外してくれぇぇぇぇぇ!」
「無駄な事を。だがこの展開じゃそうはならないだろうがな。なぜならこの戦局を変えたのは他ならぬその聖女ミレーヌ本人だからだ。お前を信じて死に至った聖女ミレーヌのその後は……もう想像がつくだろ!」
「聖女ミレーヌの助力を手に入れたお前は、その聖女ミレーヌが繰り出す超重力の攻撃に守られながら、一人一人ウチの仲間達を殺害して回り、その後は聖女ミレーヌと同じようにウチのギルドメンバー達を皆その邪悪な呪いの力で仲間にしていったのか。そういう事か、耳長族のエドワード!」
「ああ、そういうことだ。言っておくがもう彼女達は二度と元には戻らないぜ。なぜならこいつらは僕との戦闘で間違いなく一度はその命を失っているからだ。そしてその後は呪いの力で再び復活を遂げてはいるが、当然別人格に作り替えられているから、もうこいつらはお前が知っている以前の仲間達ではないと言うことだ。ここがこの聖剣チャームブレードの恐ろしい所だ。聖女の精神を操る古代の遺物と言ったらあの支配の灯火が思い浮かぶが、あれは曲がりなりにも、意識の無い聖女を機械的に操るアイテムだから、支配の灯火さえどうにかしてしまえば元に戻す事も恐らくは可能だ。だが僕が持つこのチャームブレードは別に精神を操っている訳では無いから根本的にその性質が違うとだけは言っておこう!」
「つまり、俺が知っている聖女ミレーヌや他の仲間達はもうこの世には無く、ここにいる仲間達はお前がその魔剣の力を借りて復元して作り上げたただのコピー品と言うことか。嘘だ、俺の仲間達がもうこの世にはいないだなんて……そんなのは嘘だ。嘘に決まっている!」
「信じたくない気持ちはわかるよ。その後命を吹き返して新たな生命が宿った肉体は元のままだし、俺に対する愛情と忠誠心とで形成された人格変化を除けば何一つ変わった所は見受けられないのだからそれを見抜くのはまさに至難の業だ。まあ人格が180度変わってしまった後だから、見抜く事はまずできないだろうがな。これが魅惑の聖剣チャームブレードの真に恐ろしい所だ!」
なぜか誇らしげに真実を語る耳長族のエドワードは、怪しく光るチャームブレードを掲げながら地面に無様に倒れる破滅天使のリザイアを見下ろす。
「聖剣チャームブレードだとう、バカな、あの剣を持っていると言うことは、まさかお前は黒神子の眷属と言うことなのか。黒神子の眷属になれる第一の試練をくぐってきた暗黒の戦士と言うことか。そしてこの近くにあの天足のアトリエが現れたという事は……お前の主人はまさか!」
「そうさ、その天足のアトリエだよ。僕は遙か闇なる世界の黒神子・天足のアトリエの眷属にして、聖剣チャームブレードを持ち帰った耳長族のエドワードだ。もうお前に二度と会うことも無いだろうが、本来なら余裕で勝つことができたはずの君に、僕は卑怯にも初見殺しともいうべきだまし討ちをしてしまった。だからせめてものお詫びに、最後は僕の手で出はなく、君の愛する仲間達の手でトドメを刺して貰うといい。ではやれ、白百合剣魔団の団長、メサイアが愛した仲間達よ。お前の敗因は、お前以外の仲間を全て女性にした事だ。そのハーレム気質のギルド構成がお前を死に至らしめたのだ!」
「やめろ、やめてくれ。みんな正気に戻ってくれ。聖女ミレーヌ、俺だ、俺がわからないのか。そうだ、白魔法使いのタタラ、それに剣士のテファニア、もう研究所から帰ってきているんだろ。なら早く俺を助けてくれ。聖女ミレーヌの重力攻撃で体が全く動かないんだ。早くしてくれぇぇ。ああ、うわあぁぁぁぁーーぁぁーーやめろぉお、やめてくれぇぇーーぐっわああぁぁぁぁーーぁぁ!」
「エドワード様の為に死になさい。超重力の攻撃マックスぅぅぅぅぅ!」
「ファイヤーボール!」
「サンダーボルト!」
「ハリケンブリザード!」
「ウォーターカッター!」
「ボムアースマグナム!」
「防御力ダウン!」
「魔法耐性度ダウン!」
「素早さ、物理攻撃耐久度ダウン!」
ドッカアァァァァァァーーン!
その数々の魔法の詠唱を唱えるかつての仲間達の一斉攻撃を受け、地面に伏せる事しかできないリザイアの回りで数々の大爆発が起きる。
「ぐっわああぁぁぁぁーーぁぁ、やめろ、やめてくれ、HPが、オートガードシステムのHPが無くなってしまうぅぅぅ。数値が見る見るうちに減っていくぅぅ!」
「よし、みんな、最後はエドワード様の為にみんなで武器による攻撃に移るわよ。という訳で、暴れて逃げられないように聖女ミレーヌは、愛する物に仇なすリザイアをしっかりと押さえといてね」
「大丈夫です。私の超重力の攻撃からはたとえレベル100の冒険者でもそう簡単に逃げ切る事はできませんよ!」
「やめろ、やめろぉぉ、やめてくれぇぇ。ぐっわああぁぁぁぁーーぁぁ!!」
恥も外聞も捨て情けなくも無様に最後は辺り構わず懇願しながらものたうち回った破滅天使のリザイアは、その圧倒的なレベル100の力を生かすことも無く、かつて仲間だった多くの最愛の者達に囲まれながら、無残にもなぶり殺しにされるのだった。
『聖女ミレーヌ、お前の切なる願いはお前自らの手でぶち壊してしまったようだな。だから言ったろう、そうは絶対にならないって』
*
その十分後。無残な肉塊と化したかつての英雄、破滅天使のリザイアはその屍を耳長族のエドワードの視界にさらす。
そんな恐ろしい光景を空虚の表情で見つめるエドワードは、頭を下げながら皆一斉に整列する白百合剣魔団の女性たちとその一番前にいる聖女ミレーヌに声をかける。
「皆ご苦労だった。君たちのお陰であの強敵だった破滅天使のリザイアをどうにか倒す事ができた。これもみんな君たちが共に協力してくれたお陰だ。本当にありがとう!」
「いえいえ、どう致しまして、エドワード様に協力をするのはむしろ当然の事です。この者は不埒にも高貴なる至高のエドワード様に無礼を働いたのですから、こうなるのはむしろ当然の報いです!」
「当然の報い……か。隊長でもあるリザイアを尊敬し、そして心の底から愛していたお前達がこうまでその心を変えてしまうとはな。毎度思うのだが、聖剣チャームブレード……本当に恐ろしい聖剣だよ」
彼女達の盲目的な忠誠心を見ながら耳長族のエドワードがそんな事をつぶやいていると、木々の奥から一人の大柄な豚人族がエドワードの元へと駆け寄る。
下品な笑いを浮かべながらまるで商品を品定めするかのように、跪く白百合剣魔団の女性達を見て回るその豚人族の男は色欲の眼差しを向けると下劣な思いを語る。
「へへへへ、エドワード様、ついにやりましたね。ついにあの美女揃いで有名なギルド、神聖、白百合剣魔団の女性達を我が物にして見せましたね。しかもその彼女達の助力を借りて、あの絶対に勝てないと思われていた強敵、破滅天使のリザイアを葬ることに成功するとはこれは明らかに大功績です。しかもその連れの超強力な重力使いの聖女ミレーヌを手に入れてしまうとは、もうこのままこの世界その物を手にいれてしまうのではありませんか。このまま強力な仲間達を増やして行ったら、もうエドワード様に逆らう者達はいなくなると思うのですが」
「いや、聖女を一人手に入れただけではノシロノ王国を一つ落とすこともできないだろ。そんな事よりだ、豚人族のドラムよ、そちらの見張りはいいのか、特に異常は無いな」
「はい、ないです。ただどこかにまだ一名ほど人間が隠れている気配と匂いを感じるのですが、イマイチ位置が掴めなくて難儀をしている所です」
「そうか、一名どこかに隠れているのか。ならこの状況をどこかで見ていると言うことになるな。くそ、俺の能力やそのスペックが別働隊とやらに届いてしまうじゃないか」
「別にいいんじゃ無いんですか。どう転んでもその別働隊はエドワード様や天足のアトリエ様には絶対に勝てないのですから。今頃は物陰で密かに覗いているその一名も、震えながら絶望している事でしょうぜ。さすがは遙か闇なる世界の神様が出した試練の数々を何度もくぐり抜けてきた猛者だけの事はありますね!」
「フ、俺をおだてるのは、それなりに理由があっての事だろ。まあお前が何を考えているのか、俺には手に取るように想像がつくがな」
「へへへ、なら話が早いです。せっかくこんな美女揃いのハーレムを手に入れたのですから、今夜はそのおこぼれの一つを俺にも分けてもらえないでしょうか。俺もあんた達の付き人としてきつい仕事をいつも頑張っているんですからたまにはそのご褒美がほしいです。いいですよね。今夜は一人貰っても。久しぶりに息抜きを兼ねてハッスルもしたいですし!」
色欲の眼差しを向けながら下劣にも発情する豚人族のドラムと呼ばれていたその男は、自分の邪な願いを叶える為に必死にエドワードに懇願する。
だがそんな豚人族のドラムの浅ましい言葉を聞いていた耳長族のエドワードは大きく溜息を吐くと、頭を下げながら今も敬服する白百合剣魔団の彼女達に向けてある命令を下す。
「もう敬礼はいいから、全員立ち上がって整列しろ!」
「エドワード様、それで一体どの子を俺に譲ってくれるんですかい!」
「はぁ~ぁ、ドラムよ、彼女たちは仮にもこの僕に果敢にも挑んでその命を散らしていった勇敢な誇りある戦士達だ。たとえ敗北したとはいえ、その敬意は称えないといけないだろ!」
「でもこの者達は皆もうエドワード様の物ですし、どう扱っても別にいいんじゃありませんか」
「豚人族のドラムよ、そんな下劣な考えは僕も、勿論天足のアトリエも好まない事は知っているだろ。もしもそんな事がばれたらお前は直ぐにアトリエにその首をもぎ取られてしまうことがわからないのか。だから下手な考えはやめておくんだな」
「ひいいいいいーー分かりました、もう分かりましたよ。俺も一晩の楽しみの為に死にたくは無いですからね、今回は諦めるとしますよ」
「ああそうしてくれ、だが安心しろ。この仕事が終わってノシロノ王国に立ち寄る事があったら、その時はお前を夜の店に連れて行ってやるよ。その夜の商売女が相手なら好きにするといい。勿論その代金は僕が払うからさ」
「流石は魅惑の暗黒の戦士、耳長族のエドワード様だ。話がわかるぜ。それじゃこの後彼女たちは一体どうするんですか。この人数を生かしてまさか研究所に特攻でもさせるつもりですか!」
「いいや、もう役目も済んだし、まだ使える聖女ミレーヌを除いた、他の白百合剣魔団の女性達は皆この場で自害をしろ。名誉ある自決をするのだ!」
「「はい、エドワード様、私達は喜んで自決をします!」」
そうにこやかに言うと他の白百合剣魔団の女性達は皆各々が刃物を取り出すと、首元に刃物をあてそのまま躊躇無く自決をする。
グサリ!
バタン、ドサリ、バタン、ズッシン、ドン、バタン、バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタァァァーーン!
まるで乾いたリズムを刻むかのように白百合剣魔団の女性達が皆首元から血を吹き上げると力無く地面へと倒れていく。
「ああ、勿体ない、これだけの美女達を皆死なせてしまうだなんて、俺のハーレムがなくなってしまう。共に旅をしたら楽しい旅になると思ったのに、なぜ殺したのですか。せっかく強力な一団を手に入れたというのに?」
「俺達は少数で動いているんだからこんなに大所帯にする訳にはいかないだろ。それに彼女たちには名誉ある死を与えてその尊厳を守ってやったんだからむしろ感謝をしてほしいくらいだぜ」
「もて遊んだり、性奴隷として売り飛ばしたりはしないんですね。変な所で常識人なんですから俺も気苦労が絶えないですよ。聖剣チャームブレードを持ち帰った者はその色欲の魔力による力で堕落して、そのドス黒い欲望に飲まれると聞いていたんですが、エドワード様、どうやらあなたは違うようだ。本当に底の見えないお人だ。あの天足のアトリエ様が今も見捨てずに、あんたを眷属にしている意味がなんとなくわかる気がします」
「ハハハハ、僕もそれなりに数々の苦労と過酷な試練を乗り越えてここに立っているんだから、自分の欲望を制御できるのはむしろ当然だろ。出ないと僕は今もこうして五体満足に生きてはいないと言うことだ。ではそろそろ行こうか。このまま待っていてもどうやら天足のアトリエは研究所内から出て来る様子はないみたいだから、俺達で彼女を迎えに行ってやろうぜ。全くあの人は研究所内で一体何をしているんだ。天足のアトリエともあろう者が、流石に遅すぎるだろ。それにここは血の臭いでくさいしな、今すぐ離れたいぜ!」
「そうですね。こんな血生臭い所には、いたくはありませんね。俺は鼻が無性にいいからこの血の臭いは臭くてかないませんよ!」
「そうと決まったら彼女の元へ急ごうか。彼女を見つけ出して共に合流するんだ。俺達の主でもある、遙か闇なる世界の黒神子・天足のアトリエの元へ!」
視界に見える研究所の方角に歩き出した耳長族のエドワードと豚人族のドラムの二人は、死ぬことを免れた重力使いの聖女ミレーヌを後ろに従わせながらこの場を後にする。
*
その三人がこの場所から立ち去ると、その行為を見届けたかのように一人の忍風の細身の女性が血で汚れた大地の中から突如勢いよく現れる。
ドッカァァァァーーン!
夥しい仲間達の屍が転がる大地から土砂を巻き上げながら現れたその細身の女性は周りに警戒しながらも、悲しげに無残な死体と化した仲間達を見る。
「私だけが偵察と薪拾いの為に森の中に入っていたから、エドワードとかいう男には幸運にも気づかれなかったし、冷静に状況確認もする事ができた。後に仲間達の死を目撃した時はあまりの恐怖につい思わず地面の中に隠れてしまったけど、そのお陰で再度息を吹き返したかつての仲間達にも気づかれる事はなかった。なので直ぐに身を隠した私の咄嗟の判断はどうやら正しかったようね。だけど嗅覚の鋭いあの豚人族のドラムとかいう奴に一時は居場所を特定されるかとも思ったけど、仲間達の返り血で既に大地が汚れていたから、どうにか私の臭いを誤魔化す事ができた。でもまさか殺されたはずの仲間達が次々と生き返って、破滅天使のリザイア隊長に反旗を翻すだなんて思わなかったわ。いいえ、あの耳長族のエドワードが持つ聖剣チャームブレードの呪いが原因か。何れにしても、もう皆は昔の仲間達じゃないみたいだし、破滅天使のリザイア隊長も無残にも殺されてしまったから私の取るべき行動は一つと言うことになるわ。そうこの恐ろしい事実を早く他の別働隊の仲間達に知らせてやらなくては、研究所内が……いいえ、ノシロノ王国全体が大変な事になるわ。急がなくては!」
目に涙を溜めながら独り言を言うと、忍び風の出で立ちで身を固めたその細身の女性は、既に死体と化しているかつての仲間達に静かに手を併せると、その三秒後……全てを吹っ切るかのような素早い動きでその場を後にするのだった。
耳長族のエドワードです。聖剣チャームブレードを持っています。
豚人族のドラムです。エドワードの舎弟です。
第一級冒険者の破滅天使リザイアと、Aランクの聖女の称号を持つ超重力の権能を操るミレーヌです。
神聖白百合剣魔団に所属をする忍者職の女性です。名前はまだ語られていません。
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