遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-13.カラクス鳥を操る者の正体

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          3ー13.カラクス鳥を操る者の正体


「地下階段で下に下って来たけど、どうやらここが地下の最下層部みたいね。でも私達が降り立った周りを中心に道が六つに分かれているわ。一体どの道を辿ったら聖女になれる新薬があるとされるフロアにいけるのかしら?」

 地下階段を渡り最下層へと降り立ったラエルロット・蛾の妖精のルナ・そして小撃砲使いのミランシェの三人はその場で立ち止まり、周りを注意深くキョロキョロと見る。

 降り立った螺旋階段から見えるフロアは中央部になっており、そこからまるで蛸の足のように六個の通路が道となって奥へと広がる。
 その一つを選択しないと前には進めないのだが、ここで捜索時間を短縮するために一人一人がバラバラになって行動するという愚行を侵す訳にはいかない。なので、できるだけ身を寄せ合いながら協力して進むことを選択した三人はどの通路を進むのかを話し合う。

「見た感じ、どうやら六本の各通路の床には1・2・3・4・5・6・と、それぞれ番号が振ってあるみたいだな。と言うことは先に地下に降り立った異世界召喚者のあの魔法剣士の女性はこの何れかの通路を選択して先に進んだと言うことだ。皆それぞれどこにつながっている通路なのかは知らんが、お目当てのフロアを見つけ出すまでにかなりの時間がかかりそうだ」

「そうだね、この地下に広がる研究施設はかなり複雑な作りになっていて、中もかなり広そうですからね。で、ラエルロット、これからどうするの。一応はあなたがリーダー何だから行く道を早く決めて頂戴」

「決めて頂戴と言われてもな、まさか勘でこの当ての無い道をしらみつぶしに一つ一つ探る訳にもいかないだろ。そんな事をしていたら日が暮れてしまうぞ」

「でもここでじっとしている訳にもいかないでしょ。早く決めてくれないと、その異世界召喚者の魔法剣士の女性とやらに聖女になれる新薬を奪われるだろうし、後ろからはあの天足のアトリエがここに戻って来るかも知れない」

「わかってる、わかってるよ、でも先ずはミランシェの意見も聞いてから決めるとするよ。ミランシェは俺の示した道に着いてきて本当にいいのか。何か腑に落ちない事とか意見があるんなら遠慮無く言ってくれ」

「とくにはありません。言ったでしょ、私は異世界召喚者の魔法剣士の女性から奪われた他の仲間達の七色魔石を取り戻す為にあなたに同行をしていると。ですのでお兄さんの決断に従います」

 両手に持つ小撃砲を構えながらまだ幼さを残す少女ミランシェが笑みを向けながら穏やかに言う。急かす蛾の妖精のルナと全てに従うというミランシェの同意を得たラエルロットは覚悟を決め自分の直感で探る通路を選ぼうとする。だがその時である、いきなり頭上から飛んできたカラスに似た鳥、カラクス鳥がバサバサと羽の羽ばたく音を響かせながらラエルロット達の前に降り立つ。

 バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサバサバサ!

「ん、またあのカラクス鳥か。あのカラクス鳥は一体なんなんだ。時々俺達の前に出て来ては傍を飛び回っているみたいだが、まさか誰かに飼い慣らされているカラクス鳥なのか?」

 ラエルロットがそんな疑問を何気に呟いていると、言葉を話せないはずのカラクス鳥がラエルロットに向けていきなり話し出す。

「どうやら道にお困りのようですね。なんなら道案内をしましょうか、ラエルロットさん」
 
 目の前に止まるカラクス鳥がいきなりしゃべった事でラエルロットを始めとした蛾の妖精のルナと小撃砲使いのミランシェが驚きの視線を向ける。

「カラクス鳥が人間族の言葉をしゃべった……いいや言葉を話せるのか。そんなお前は時々俺の回りを飛び回っていたようだが、当然ただのカラクス鳥じゃないよな。ならお前は何者なんだ。そして俺達になんのようだ?」

「ラエルロットさん、私はこの研究所内であなたが来るのを首を長くして待っていたんですよ。勇者を目指すあなたに是非とも助力を願おうと思いましてね」

「助力だとう?」

「はい、助力です。早い話が私達を助けてもらいたいのです。遙か闇なる世界の黒神子・英雄殺しのレスフィナの眷属にして、その優しさと真っ直ぐな正義の心で、異世界召喚者の狂雷の勇者田中や黒神子・妖精食いのヨーミコワを打ち負かした、黒の勇者ラエルロットの功績を見込んでね」

「俺のことをそこまで知っているのか」

「ええ、勿論知っていますよ。あなたのことはず~と以前から時々見ていましたから」

「ず~と以前からって、この俺をか、一体なんの為にだ。俺がレスフィナの眷属になったのはつい最近だというのに、それ以前の俺なんてただの凡人だったんだから監視したってなんの意味も無いだろ。ただの平凡な第八級冒険者試験にすら受からないただの落ちこぼれの村人だぞ」

「ラエルロット、あんた自分の事でちょっと卑屈になり過ぎよ」

「そうですよ、ラエルロットのお兄さん、そんなに自分に悲観的にならないで下さい。今まで第八級冒険者試験に受からなかったのはただ単に運が悪かっただけかも知れないじゃないですか」

 ラエルロットの悲観的な言葉に気遣いとフォローの言葉を掛ける蛾の妖精のルナと小撃砲使いのミランシェは互いに顔を見合わせると目の前に止まるカラクス鳥に一応は警戒の態度を取る。まだこのカラクス鳥の真の目的が証明されない以上自分達の敵かどうかも分からないからだ。そんな二人の心情を察したのかカラクス鳥は自分は敵では無いことを示す為にある事を提案する。

「ラエルロットさん、あなた達は第八級冒険者試験の最中に遙か闇なる世界の神様の手によってこの研究所内に転移させられたようですが、私はあなた方がいずれここに来ることは分かっていました」

「わかっていただとう、それは一体どういうことだ」

「何日か前にお告げがあったのです。ラエルロットさん、あなたが黒神子・レスフィナと出会いその後彼女の眷属になることも神のお告げで知っていました。そして数々の試練を乗り越えたあなたがいずれはこの研究所にも必ず現れるという事も……」

「遙か闇なる世界の神様が俺をこの研究所に転移させる事をお前は知っていたというのか」

「はい、知っていました。だからこそあなたのいる位置や場所を即座に察知し、たとえどこに転移してもそのまま追跡する事ができたのです」

「で、俺はお前に一体何を協力すればいいんだ。まずは俺達の前に現れたその詳しい目的を聞かせて貰おうか。その有無を決めるのはその後だ」

「焦らないでください。あなた方はこの研究所内にある聖女になれる新薬を探し出し、異世界召喚者達や黒神子・天足のアトリエよりも早くその目的地に辿り着く事が希望なのでしょ。なら私達の目的は互いに利害が一致すると思いますのでどうか安心してください。その詳しい話を話したいのですが流石にその話をここでする訳にはいきませんので、どうか私の言うとおりに道を進んでください。今現在私達がいるフロアまであなた方を誘導しますからそこで直接会って詳しいお話をしましょう」

「と言うことは、そのカラクス鳥の姿は本当のあんたの姿では無いと言うことか。ますますあんたの正体に興味が出て来たぜ。俺のことを以前から監視をしているお前は一体何者なんだ?」

「人をストーカーのように言わないでくださいよ。あなたを見かけたのはほんの偶然の出来事だったんですから」

「偶然の出来事だとう……」

「ゴッホン、ちょっと話がそれちゃいましたね。今はあなた方を私達の元へお連れするのが最優先でしょ。実はあなた方の周りにある六本の各通路を進みくまなく探しても私がいるフロアには絶対に辿り着けない用に出来ています。そうです私達のいるフロアに来るにはある隠し通路を見つけ出さないとそこにはこれないのです」

「隠し通路だとう、その事を知っていると言うことは、あんたはこの研究所の関係者なのか」

「関係者ですか……まあ、そんな所です。では私達のいるフロアに案内しますから私に付いてきてください」

 ゆっくりと空中へと飛び立ち四番目通路を目指して飛ぶカラクス鳥は時々ホバーリングをしながら道案内をしていたが、その後をラエルロット・蛾の妖精のルナ・そして小撃砲使いのミランシェの三人が追う。

 かなり怪しい話だとは思ったが他に聖女になれる新薬のあるフロアを的確に探す手段が思いつかなかったので、あえてこの怪しいカラクス鳥の話に乗っかる事に決めたようだ。たとえ敵の罠だったとしても自分達を罠に嵌める相手側のメリットが分からないのでその真意を探る為にも今は前へと進む。

 カラクス鳥が飛ぶ通路に従うがままに歩くラエルロット・蛾の妖精のルナ・小撃砲使いのミランシェの三人は先が見えない通路を約十分ほど歩いていたが、ついにその通路の果てへと辿り着く。
 目の前には鉄でできた分厚い大きな扉があり、その壁のような扉に行く手を阻まれていてどうしてもこれ以上前には進めなかったが、空を飛ぶカラクス鳥は目の前にある扉をまるで無視するかのように、通路の五メートル上に設置してある空気孔のダクトの蓋を嘴で起用に持ち上げると素早くそのダクトの中へと入っていく。

「ダクトの中へと入って行ったぞ。まさかあの五メートルの高さにあるダクトの中へ入れと言うのか。いや流石に無理があるだろ。そもそも五メートルの高さにある空気口のダクトまでよじ登る手段がないし、それにあのダクトは俺やミランシェが通れるくらいの大きさなのか?」

「大丈夫じゃないんですか。正方形の蓋の大きさからして匍匐前進で進めばダクトの中も通れるみたいですし、ラエルロットのお兄さんが通れれば当然私も通れますよ」

「ルナはともかくとして、ミランシェもまだ子供だけあって小柄で小さいから恐らくは余裕で通れるだろうが俺はギリギリだろうな。それにだ、よしんばあの中を通れたとして、五メートルの高さのあるあのダクトまでどうやって上るんだよ。その手段を先ずは考えないとな」

 腕組みをしながら考えるラエルロットだったが、ミランシェが両手に持つ細身のロープをラエルロットに見せる。

「ラエルロットのお兄さん、近くにこんな物が落ちていましたよ。このロープの先を上手くダクトの中に引っ掛ければ中に入れるんじゃないですか」

「ロープっていつの間にそんな物を拾い上げたんだよ。俺が見た感じじゃそんな物はどこにも落ちてはいなかったはずなんだが……」

「ラエルロットのお兄さんは少し疲れ気味でしたから見過ごしたんじゃありませんか。このロープは通路の隅にありましたし辺り全体が何だか薄暗かったですからね」

「見過ごした……そうか、そうだよな。確かにここの明かりはランプを使っている訳でもないのに上から謎の光が通路を照らしているようだがその明かりが消えている所もいくつか見受けられるし、ここに来る途中にいろんな事があったからお前の行動を見過ごしたのかもな。きっとそうだ。それでそのロープの先を一体どうやって上へと上げるんだ。輪っかを作ってロープの先をどこかに引っかけるとしても空気口の近くにロープを引っ掛ける場所など何処にもないだろ」

「大丈夫ですよ、私達には蛾の妖精のルナさんがいるじゃないですか。そうですよね、ルナさん。蛾の妖精のルナさんなら空を自由に飛べますし、その小さな体を生かしてロープの先端を持ったままダクトの中にも入れるんじゃ無いんですか。そしてそのロープの先端をどこかの引っかけられそうな所に引っ掛けて貰えばダクトの中にも潜入はできますよ」

「そうか、俺達にはルナがいるんだったな。ルナ、このロープの先を持ってあのダクトの中に入る事は可能か」

「ええ、勿論できるわ。分かった、私に任せて!」

 そう元気よく言うと蛾の妖精のルナは輪っかを作ったそのロープの先端の先を両手で持ち上げるとそのまま五メートルの高さにある空気口のダクトの中へと入っていく。

「もういいわよ、ロープの先端をダクトの中にある突起に引っ掛けて来たから、安心してよじ登ってきて頂戴!」

 明るい笑顔でダクトの中から顔を出す蛾の妖精のルナは下に向けて呼びかけると、その声を合図に先ずはその安全性を確かめる為にラエルロットが最初に登る。

 ガサガサガサガサガサガサーーン!

「よし、匍匐前進をしながらならどうにかダクトの中を通れそうだな。ならこのまま進むぞ。ミランシェもう大丈夫だ。お前も早く上って来てくれ」

 その安全性を身をもって確認したラエルロットは通路の下にいるミランシェにも早く登ってくるようにと呼びかけるが、フと後ろを振り向くと「もう来ていますよ!」というミランシェの無機質な声が耳元で聞こえる。その思いもよらないいきなりの接近に思わずビックリするラエルロットはうわずった声で叫ぶ。

「うわぁぁ、びっくりしたな、もう。お、お前いつの間に俺の後ろにいたんだ。俺がダクトの中に入ってからまだ二~三秒しか経ってはいないだろ。それなのにお前がこのダクトの上まで登ってくるの……ちょっと早すぎやしないか。ついさっきまで通路の下にいたはずだろ!」

「フフフフ、実は私、木登りやロープを使ったクライミングは得意なんですよ。体重も軽いですし、これくらいは簡単にできます」

「全く物音一つ立てずに高さ五メートルはあるロープを瞬時に登ったというのか」

「はい、登りました。中々の特技でしょ。冒険者訓練学校でもロープを使ったクライミング訓練はダントツ一位だったんですよ。誰かも言っていましたが、私、山岳救助のお仕事に向いているみたいです」

「そう、そうか、そうだよな。仮にも冒険者を目指す者なんだから学び舎でサバイバル訓練なんかも当然しているよな。ならこれくらいは、できなくも無いか」

 そう自分に言い聞かせて納得したラエルロットは、ミランシェのロープ渡りのスピードの技術に驚きながらも前に進もうと匍匐前進を開始する。

 ズン、ズン、ズン……ズル、ズル、ズル、ズル……クネ、クネ、クネ!

(結構長いな……まだ着かないのかな……)

 そんな事を思いながらも匍匐前進で進むこと約十分、ダクトの終わりが見える角の所で待っていたカラクス鳥が甲高い声で叫ぶ。

「ここです。ここから下に降りるのです。そうすればもう目的地は間近です。このダクトの下は滑り台のように角度が斜めになっていますから真っ逆さまに落ちる心配はないですし、より安全に下に降りる事ができるはずです!」

 カラクス鳥の言葉に、先を進むラエルロットはダクトの角の所まで来ると改めて下を覗き込む。

「この急激な傾斜を下るのか。しかも頭の方から……なんだか怖いな」

「躊躇してたって前に進まないと始まらないでしょ。勇気を出して降りなさいよ、ラエルロット!」

「そうです、ラエルロットさん、あなたならできるはずです!」

 蛾の妖精のルナとカラクス鳥に檄を飛ばされ下るしかないと覚悟を決めたラエルロットは、無言の圧力を後方から送る小撃砲使いのミランシェにせかされるような形で頭から下へと降りる。

「は、速い、落ちるうううぅぅぅ、うわあぁぁぁぁーーぁぁ!」

 ザ、ザザザザザザザザザザザーーアァァァアァァァァ!

 斜面がかなり勾配の為か猛スピードで下へと落ちるラエルロットは滑り台のようにダクトの中を下ると、カラクス鳥を操る本体が待つとされる目的地まで突き進んでいく。

「よし、終点はもうすぐだ。だが少しスピードを落とさねば。このままでは地面に激突してしまう!」

 そう思いを口にしたラエルロットは両手両足をダフトの壁に強く押しつけるとなんとか落下のスピードを落としながら下へと降りるが、ダクトの素材が硬い鉄からいきなり柔らかい布生地に変わり、思わず大きく体勢を崩す。

「うわあぁぁぁぁーーぁぁ、落ちるぅぅぅぅ!」

 体の押さえがきかなくなったラエルロットはそのままの勢いでついにダクトの中から出るが、到着と同時に地面へと転がりながら無様な醜態をさらす。

 ゴロゴロゴロゴロゴローードッカン!

 バリケードのように重なるカラの段ボールの山へと突っ込みどうにか停まる事に成功したラエルロットは視界を覆い隠している段ボールの空箱をどかしながら周りの状況を確認する。
 そんなラエルロットの視界に飛び込んできたのは差し出された手と笑顔を向ける意外な人物だった。

「ラエルロットさん、大丈夫ですか」

「君は確か……て、なんであんたがここにいるんだよ。これは悪ふざけか何かか。カラクス鳥を使ってこのフロアまで誘導するとは、一体どういうことだ?」

 ラエルロットが驚くのも無理は無い、そこにいたのは神聖・白百合剣魔団のギルドに所属をしている第七級冒険者の資格を持つ剣士職のテファニアその人だった。

 過去にラエルロットとは浅からぬ因縁を持つテファニアは穏やかな眼差しをラエルロットに向けると優しさ溢れる声で話しかける。

「ようこそラエルロットさん、お初にお目にかかります、私がカラクス鳥を使ってあなたを誘導しここまで連れて来た張本人です。名前は……ありません。でも番号ならあります。私の製造番号は95657番です」

「何だよその番号は、テファニア、お前は俺を馬鹿にしているのか。ついこの前、武器屋の前の街角で旅人の孫とお爺さんが悪質な冒険者の一団に絡まれていた時に助けてくれただろ。その時は助けに入った俺も袋にされていたからついでに助けられた事になるのだろうが、その事をまさか忘れた訳じゃないだろ。惚けるのもいい加減にしろ!」

 そのラエルロットの指摘にどう話していいのか悩むその女性は腰まで伸びる黄金色の長い髪を揺らしながら何だか歯切れが悪そうに答える。

「う~ん、なんて説明したらいいのでしょうか。私はあなたが知っているテファニアさんではないのです。姿形が瓜二つですから戸惑われるのも仕方がありませんが」

「テファニアじゃないだって……でも確かに、あのテファニアが俺に優しく語りかけたり、ましてや笑顔を向けたりはしないか。あいつはいつも自分よりも立場の下の者には軽蔑と見下しと言った傲慢な態度を取るからな。でも俺の目の前にいるこのテファニアからはそんな物は一切感じられない。それどころかその雰囲気や言葉からは人を思いやれる暖かさすら感じるぜ!」

「私のオリジナルがご迷惑を掛けてすいません。見た限りラエルロットさんには昔からきつく当たり散らしているようで、関係者ながら本当に心苦しく申し訳なく思っています。私も何度か本人に人を見下す傲慢な態度で接するのはやめるようにときつく言ったのですが、全く聞く耳を持たなくてほとほと困っています」

 少し困った顔をしながらテファニアそっくりのその女性は、差し伸べた手で床に倒れているラエルロットの手を掴むと、さも当然のように優しく助け起こす。本来のテファニアならまず絶対にあり得ない行動だ。

「ラエルロット、その綺麗な女性と知り合いなの。その人がカラクス鳥を使って私達をこのフロアに呼んだの?」

 間近で見る人間族の女性に警戒心を抱く蛾の妖精のルナはいつでも逃げられるようにと頻りに間合いを取るが、そんな蛾の妖精のルナに対しテファニアではないその女性は、優しさあふれる声で言葉を掛ける。

「あなたは蛾の妖精のルナさんですね、あなたの事も知っていますよ。何日か前からカラクス鳥の視界で見ていましたからね。あなたはあの黒神子・妖精喰いのヨーミコワに挑む勇気と仲間達を思う優しさを兼ね備えた素晴らしい女性である事も全てね。あんな凄い事は人間族でもまずできない行動ですから、種族を越えて見てもあなたの仲間や兄弟達を思う優しさや行動力には頭が下がりますし好感も持てます。なので尊敬の念を抱かずにはいられません!」

「ま、まさか初めて会った人間族の女性にそんな事を言われるだなんて全く思わなかったわ。しかも嫌われ者の蛾の妖精族に向けて」

 ラエルロット以外の人間族に初めて褒められた事で蛾の妖精のルナがどう反応していいのかが分からず呆気に取られていると、話を聞いていたラエルロットがテファニアによく似たその女性の正体に迫る。

「それで、詰まる所あんたは一体何者なんだ。テファニアじゃないというのなら、双子の姉妹のどちらかと言う事なのか。でもあいつに兄弟がいたなんて話は聞いたことが無いんだが?」

 その疑問に今度はいつの間にかフロアへと降り立っていた小撃砲使いのミランシェが目の前にいるテファニアもどきの女性を凝視しながら考えを口にする。

「この人、自分の事を番号で言っていましたよね。95657番と。名前は無いと……なら考えられる可能性は一つです、あなたは聖女になれる新薬を生成し作り出す上で欠かせないサンプル体の一人です。恐らくそのテファニアとかいう被検体候補の人が聖女になる為にこの研究所に依頼をして違法な培養技術で人工的に作り上げられた実験体があなたですね。サンプル体の血液と七色魔石からその聖女になれる薬を抽出できるように培養されたのがあなたです。そうですよね。と言うことは他にもあなたのようなコピー体ならぬサンプル体がまだ沢山いるという事ですよね」

 真剣な顔で答えるミランシェの指摘にそのテファニアに似ている女性は両手を合わせながらにこやかに答える。

「当たりです、私は本体であるテファニアさんの体にだけ合うように調整され作られた、聖女の力を持つサンプル体です。つまりはクローンです。そしてラエルロットさん、あなたをこの場に呼んだ理由は、私達サンプル体の全員をみんなのかねてからの願いでもあるお日様が見える外へとどうにかして連れ出して貰いたいからです。それが私達の念願の願いであり、ラエルロットさんにお願いしたい依頼です。勿論ただでそんな危険な仕事を手伝って貰う訳には行きませんから、私達を逃がすリスクに合ったそれなるの報酬は提示させて貰うつもりです。私の体の中に流れる聖女の血液でいかがでしょうか」

「聖女の血液だとう、確かにその血液は生成して飲めばあらゆる万病や怪我が直ると言われてはいるが……」

「この研究所で働く職員が言うにはどうやら私は特Aランククラスの聖女という判定が出ましたから、かなりまれで貴重なサンプル体との話です!」

「特Aランククラスだって……ならあの聖氷結の聖女、スターシャと一緒のクラスと言うことか。特Aランクなんてそう何人もいないからな。それはかなり貴重なサンプル体と言うことになるぞ。でもそんな君たちがそうまでして、なんで外に出たいなんて言うんだよ。普通にこの研究所の職員に頼んで出して貰えばいいだけの話じゃないか」

 そのラエルロットの浅い言葉にテファニアに似たその女性は少し悲しい顔をしながら静かに話し出す。

「私達は人としての人権がない、ただの実験体です。なのでこの研究所の職員に外に出たいと頼んでもまず絶対に外へ出してはもらえません。それどころか栄養生成剤を一日に一回飲まないと体の中で栄養が作れずに死んでしまうように人工的に作られています。なので本来私達はこの研究所内からは絶対に逃げる事はできないのです」

「サンプル体って、まさか、そんなに酷い扱いを受けているのか。だからみんなでどこか遠くに逃げたいと、そういう事か」

「はい、そんな所です。ですが私はあるルートからその栄養生成剤を大量に奪う事に成功しましたから、この期に応じてみんなでこの研究所から逃げる事にしたのです。このままこの研究所内にいても遅かれ早かれ私達に待っている物は確実な死だけですからね」

「確実な死だけって、ご飯を食べてもその栄養生成剤を常に飲まないと栄養が取れずに死んでしまうからか」

「それだけではありません。私のオリジナルの被験者でもあるテファニアさんが聖女になるには、私の血液と七色魔石をテファニアさんの体内に譲渡する事で特Aランクの新たな聖女が誕生する事になります。でもそうなったら当然私は生きてはいないのですよ。それは私と同じ他のサンプル体の人も同じです。なので天足のアトリエや異世界召喚者達の奇襲に紛れて、ラエルロットさんの力を借りてどうしてもここから出たいのです」

「たとえこの研究所から出たとして、その後は一体どうするつもりだ。その大量に盗んだという栄養生成剤だっていつかは底をつき、なくなるだろ。しかもそこら辺の薬屋に売っているような品物の類いの薬でもなさそうだしな」

「研究所から逃げ出すことが出来たら、あるつてをたどってこの栄養生成剤を作れる薬剤師にコンタクトを取る予定になっています。なのでそこら辺は心配無用です。なのでどうかこの研究所内から逃げられる協力をしてください。ラエルロットさんの勇姿と正義の志を見込んでのお願いです。どうか、どうか!」

 テファニアと瓜二つの顔を持つサンプル体の女性の願いを皮切りに、奥の扉から出て来た沢山の十代の少女達がわらわらとラエルロットの前に現れる。その数およそ50人。

「け、結構いるな」

「いいえ、これだけしかいません。他にもサンプル体は沢山いたのですがきつい実験に耐えられなかったりランク外のレッテルを貼られて処分されたり、聖女の力を宿す七色魔石と血液を抜き取られてそのまま被験者の元に出荷されて皆命を落としてしまいました。なのでここに残っているサンプル体の少女達は私を含めて、今はこれだけしかいなくなってしまいました」

「そ、そうか、本当はもっといたのか。あんたの番号が95657番ということは……一体何人のサンプル体の少女がその本体でもある被験者の少女達の為の犠牲となっていったんだ。その者達は皆自分の血を分け合って作られた兄弟とも言うべき分身だというのにだ。そんな者の命を奪ってまで聖女になりたがるその神経がわからん。その注文を依頼した被験者達はなにも感じないのかな」

「そう言ってくれるのはラエルロットさんだけです。それに普通の本体の被験者達は私達と直接会う機会はまず無いですから、その接点が無い以上私たちの命から作られ取り出された七色魔石をその体に融合させる罪悪感は最初からないのでしょうね。まあウチのオリジナルのテファニアさんはそんな事はお構いなしに時々私に会いに来ましたがね」

「ほう、少しはあんたの不幸な境遇を気に掛けていたのかな」

「いいえ、違います。この二~三年は私の血液を輸血で直接注入する為に定期的にこの研究所に来ていたようです。そうやって徐々に私の血液を少しずつ取り入れて徐々に慣れて行った方がより確実に安全にその体に馴染むみたいですし、その最終段階が来た時に、七色魔石を取り入れた際の聖女の力がより融合しやすくなるみたいですからね。中には強い拒絶反応を起こして死に至る被験者もいるみたいですからより慎重に事に当たっていたのかも知れません」

「あり得るな、テファニアは昔からランクの高い聖女になるのが夢だったからな」

「夢というかあれはもう異常な野望です。欲望や見栄と言った全てを手に入れる為に聖女の力がどうしても欲しいのでしょうが、本来聖女の力はそんな自分の利権や欲の為に使う力ではありません。困っている人や助けを求める人の為に行使する力です。それが特別な力を女神より授かった者の……聖女と呼ばれる者の使命だと私は思っています」

 その優しさと決意溢れる言葉を聞き、ラエルロットは思わずその美しい金髪少女の顔をまじまじと見る。

「その顔と姿でそんな真っ当な事を言うだなんて、あんたは本当にあの傲慢でプライドの高いテファニアのサンプル体かよ。その生きた環境が違うだけでこんなに性格が真逆になるだなんて、まるで天使と悪魔を見ている心境だよ」

「私はラエルロットさんがいつも言っているように、困っている人を助けたいと、ごく当たり前の事を言っているだけなのですが」

「ごく当たり前か、あんたの事が何となく分かってきたような気がする。わかった、あんたの頼みは俺達が引き受ける事にしよう。あんたの案内でここまで来てしまった手前もあるしな。でもお前のその番号は何だか呼びにくいしややこしいから、俺が簡単な名前をあんたにつけてやるよ。テファニアの妹みたいな者だから、その名前から取って、あんたの事はこれからはテファと呼ぶ事にするよ」

「テファですか。テファニアの一字を取ってテファ……と言う名ですか、気に入りました。ではこれからはその名前で私のことを呼んでください。それではこのフロアを出るにあたりまだ準備ができていませんので、奥の部屋に紅茶を用意しましたからお茶でも飲んで待っていてください。今その部屋に案内しますから。では皆さん、ラエルロットさん・蛾の妖精のルナさん・そして可愛らしい御河童頭のお嬢さんの三人を案内して上げてください。この人達は大切な友人達ですから粗相の無いようにお願いします!」

「「はい、分かりました。お姉様!」」

 テファの呼び掛けにサンプル体の少女達が皆一斉に元気よく返事をすると明らかに戸惑いの表情を見せる三人をもてなしながらお茶が用意されてある奥の部屋へと静かに案内をする。
 だがその時、一番後ろを歩くミランシェだけがある事に気づく。

 ……。

「今、天井のダクトから繋がる布の袋が大きく動いたような気がしたのですが、気のせいでしょうか」

 目を細めてその場に近づこうとしたミランシェの歩みをテファが静かに止める。

「ダクトから流れる風が布の袋に流れて来たから動いただけだと思いますよ。なのでそんなに心配する事はありません。よしんばその場に姿無き者がいたとしても害はないと思いますからそんなに目くじらを立てる程の事ではないのではないでしょうか。そうですよね」

 満遍の笑顔で何も無い空間に声を掛けるとテファは、眉間にしわを寄せながら怖い顔をするミランシェの肩に両手を優しく這わせると優雅にエスコートするのだった。

……。

「もしかして気づかれている? それにしても、特Aランククラスのサンプル体……か。まさかこんな所にいたのか!」


 カラスによく似た鳥、カラクス鳥です。
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◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

追放された最弱村人、実は世界最強でした 〜神々に愛された無自覚チート、気づいたら聖女も魔王も嫁希望だった件〜

uzura
ファンタジー
「お前なんて役立たずだ」 そう言われて勇者パーティーを追放された平凡な村人リオ。 だが彼は知らなかった――幼少期に助けた白猫こそ、全知の神の化身だったことを。 神々に祝福されし彼の能力は、世界の理さえ書き換える本物のチート。 呪いを解いた聖女、復讐を誓う女勇者、忠誠を誓う魔族の姫。 彼女たちは皆、同じ男に惹かれていた。 運命を知らぬ“最弱”が、笑われ、裏切られ、やがて世界を救う――。 異世界無自覚最強譚、ここに開幕!

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