遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-14.三人の共通する秘密

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            3ー14.三人の共通する秘密


「お兄さん、そこの荷物をこの棚の上にのせて下さい」

「おお、任せろ!」

「お兄さん、こちらの荷物もお願いします」

「そ、そっちもかよ。頼まれごとをされてから結構長く仕事を手伝ってはいるが、この荷物の出し入れの仕事は一体いつ終わるんだ。もうそろそろ俺も向こうでゆっくりと紅茶を飲みたいんだが!」

「ここには男手がいないのでお兄さんのような力強い人がいてくれて本当に助かります。あ、そこにある荷物もお願いします」

「確かにまだ十代そこそこのか細い少女達の力じゃ力仕事は流石にきついのかもしれんが、俺もそろそろ休ませてくれよ。さっきからズーと働きづめなんだが」

「「お兄さん、こっちにもまだまだ荷物がありますよ、お兄さんだけが頼りなんですから頑張ってください!!」」

「ひぃぃぃぃぃぃぃーーっ、これはハーレムイベントじゃない。なんか違う、ただ少女達にこき使われているだけじゃないか。こんなのは思っていたのと全然違うぞ!」

 大勢いるまだ十代にも満たない少女達の頼みで荷物の整理の手伝いをするラエルロットは言われるがままに働き続けるが、不満を言いながらも仕方なく疲れ気味の体に鞭を奮う。

 一見、端から見たら美少女達に取り囲まれ頼りにされているラエルロットはハーレムの中にいるようにも見えなくも無いが、まるで相手を持ち上げるかのような猫なで声で更なる頼み事をする少女達の願いを断り切れないでいるというのが実態のようだ。

 そんな人のいいラエルロットの慌てふためく様子を見ていた蛾の妖精のルナは視線を円形のテーブルに戻すと、椅子へと座る小撃砲使いのミランシェと紅茶を淹れてくれる最年長の十八歳だというテファの顔を交互に見ながら静かに話を切り出す。

「色々と支度があるからという理由で私達はここで待たされているんだけど、テファさんはここで呑気に私達にお茶を淹れてていいの。特に気を利かせてもてなさなくても別にいいわよ。いつ異世界召喚者達やあの天足のアトリエが現れるか解らないこの状況でここで呑気にお茶を飲んでいる気分にはなれないわ。出来たら早くあなた達の身支度を整えて貰ってこの物騒な研究所から早々に出たいというのが本音よ」

「フフフフ、そんなに焦らないでください。焦っても何もいい事はありませんよ」

「それとも身支度と言うのはただの方便で本当は誰かがここに来るのを待っているのかしら」

 差し出された紅茶を持参のストローで飲む蛾の妖精のルナは、話をはぐらかすテファに自分の考えを述べるが、そのやり取りを隣で聞いていた小撃砲使いのミランシェは目を細めながらも何も言わずに静かに聞き入る。

 真顔を向けながら真実を求める二人の態度に覚悟を決めたテファは大きく溜息をつくと、こじゃれたティポットを自分の前へと置く。

「確かにルナさんの仰る通りです。私達が閉じ込められているこのフロアの扉は強固な作りになっていて、破壊することもましてや開けることも出来ません。なのでここから出る為にはどうしてもこのフロアの扉を開けられる協力者の助けが不可欠です」

「つまり、その協力者とやらがここに来るまでは、私達はこのフロアからは外には一歩も出られない……という事でいいのかしら」

「はい、そういう事です。このフロアの鍵は薄っぺらいカードの形をしたカードキーと呼ばれる代物らしいのですが、特殊な電子ロックの扉を開ける際に使用する鍵を採用しています。なので物理攻撃は勿論のこと、高レベルの魔法攻撃にも耐えられる程に物凄く強固で頑丈な扉なのだそうです」

「カードキー……? つまりは現代の魔法科学と古代の異世界の技術で作られた特殊技術と言う事ね。それじゃ私が扉の外に出られてもこのフロアの鍵を開けることはできないと言うことか」

「はい、そういう事です。たとえミランシェさんの持つ小撃砲の火力やルナさんが持つ邪妖精の衣の力を使っても恐らく傷一つつける事はできないでしょう。それにそんな騒動を起こしたらあなた方の存在に気づいた研究員達がこぞってあなた方の排除に駆け付けるでしょうから、無理は出来ませんよ」

(この人なぜ私が持つ邪妖精の衣のことを知ってるの)と内心ルナは思ったが、構わず話を続ける。

「だからこその外部からの協力者ですか。確かにミランシェさんが持つ小撃砲の火力じゃ破壊はできなさそうだし、私が持つ邪妖精の衣の中にも、今の段階であの分厚い扉を破れるアイテムは存在しないわ。ついこの前、黒神子・ヨーミコワ戦で隠し球は全て使い果たしてしまったからね。それに頼みの綱のラエルロットだって不死の力が無い段階では復讐の鎧の力は使えないし、高レベルともいうべき最強のスキル、狂雷・電光石火も当然使えないわ」

「そんなのに頼らなくても恐らくは大丈夫です。その協力者とは前々から利害が一致していますから、頃合いを見計らって私達を助けに来てくれる算段になっています。なのでその人の力を借りてこのフロアの鍵を開けて貰う手はずはもう既に整っているのです」

「なるほど、そういう事なら、もうしばらくここでお茶でも飲みながら待って見ますか。その協力者とやらの顔も見てみたいですしね」

「そう言ってくれると助かります」

 蛾の妖精のルナとテファの二人のやり取りを見ていたミランシェは、差し出された紅茶を飲みながらにこやかにボソリと呟く。

「それにしてもここにいる少女達は皆随分と幼く、年齢は十代くらいのようですが、このフロアにいるサンプル体の少女達はこれで全員ですか」

「ええ、ここにいる少女達で全員です。このフロアは生活居住区を兼ねた拘束室のような所ですから」

「そうですか。それとあなたの聖女としての能力を教えて下さい。特殊かつ最高峰とも言えるあの特Aランクの能力が一体どういう物なのか、是非この目で見てみたいです」

 聖女の力に興味が湧いたのか、いきなり言い出したミランシェの申し出にテファは困った顔をする。

「う~ん、なんて説明したらいいのかしら、この研究所で私が作り出されてから確かに聖女の力は授かったのですが、それがどのような力なのかと聞かれても正直その答えに困ります。それに私の力はここでは絶対に使えない力ですから、お見せする事は出来ません」

「ここでは絶対に使えない力ですか……それはますます興味をそそりますね。それに表現しにくいとは一体どういう事でしょうか。その答えの断片だけでもいいですから、できたら教えてください!」

「そ、それは……」

 その問いにテファが困った顔をしていると、ミランシェの隣のテーブルに降り立ったカラクス鳥がまるでテファの考えを代弁するかのようにその言葉を言う。

「なぜそんなに私が授かった聖女の力の事が知りたいのですか」

「なぜって、特に理由はありませんよ。ただの興味本位です」

「ただの……興味本位ですか。でもまあ特に隠す事でもないですし見せてあげてもいいのですが、先ほども私の本体が言ったようにここでは絶対に見せられない力ですから、ここを出た時にでも、この力を振るう時が来たらお見せできる時が来るでしょう。でもそれだとルナさんやミランシェさんも私達に不信を抱かれると思いますから、カラクス鳥である私と近くにいるテファが同一人物であるという証拠を今からお見せします。そのネタバレも兼ねてね」

 自分をもう一人のテファだと語るカラクス鳥が力強く空中へと飛び上がると、目の前にいるテファの肩へと華麗に着地を決める。

「ただいま、本体の私。今日も色々と外の世界を見てきましたよ」

「よく無事に帰って来ましたね。ご苦労様です」

 そう優しく言うとテファは肩へと止まるカラクス鳥の体に頬ずりをする。

「……。」

 するとテファは何かを理解したかのようにミランシェとルナを見ながら語り出す。

「なるほど、なるほど、今私の魂を一時的にコピーしその魂をこのカラクス鳥に移したもう一人の私が、再び私と一体になる事によって外で見てきた情報を正確に知る事が出来ました。そうですか、ミランシェさん、あなたは一度異世界召喚者の魔法剣士の女性に命の源とも言うべき七色魔石を心臓から奪われてしまいましたがラエルロットさんの奮闘のかいもあってかは知りませんが、あの天足のアトリエに七色魔石を取り返して貰ったのですね。どういう経緯でそうなったのかは知りませんがかなり特殊な展開だった事だけは確かなようです」

「え、ええ、確かにあの天足のアトリエに曲がりなりにも助けてもらうだなんて、気まぐれとはいえとてもラッキーな事でした。やはり私の日頃の行いがいいからでしょうか」

「そして蛾の妖精のルナさんは黒神子・レスフィナさんの言いつけで一足先にラエルロットさんの元に向かったんでしたよね。そしてラエルロットさんの第三の試練の事は、カラクス鳥が見てきた記憶が私の魂と同化をする事によって、今知る事が出来ました。そしてその第三の新たな試練の内容もかなり気になる所ですが、ラエルロットさんなら必ずその苦難とも言うべき試練に打ち勝ち、無事にクリアできる物と私は信じています」

「ラエルロットが黒神子・レスフィナの眷属だという事だけではなく、その試練の事もそのカラクス鳥を通じて知る事ができたというの。なんなのよその力は。魔法の類いの力か、それともスキルの類か、或いは魔法のアイテムを使った何かだというの?」

 蛾の妖精のルナのその素朴な疑問にテファは、わざとらしく小声にしながら耳打ちするかのように答える。

「では友好と信頼の印に、同じ共通の秘密を共有する友人……或いは同士、いいえやはり違いますわね、もっと気軽で簡単で、信頼のある言葉は……友達、そう親しい友達として、ルナさんとミランシェさんにだけ、この秘密をお教えしますわ」

 いきなりテファが発した友達という言葉に、蛾の妖精のルナとミランシェが思わず面食らう。

「友達って、一体どういう事……?」

「友達……何ですか、それは?」

「私はこの研究所の培養器の中で産まれてこの方、研究所の職員とテファニア以外は、外から来た部外者の人に直接会うのはこれが初めてです。ですから何か運命的な物を感じてならないのです。確かに同じフロアにいる他のサンプル体の妹達も勿論大事な仲間ではありますが、私達の為に立ち上がってくれたあなた達とはこれを切っ掛けに是非とも親しい友人になりたいと思っています。という訳で、ルナさん、ミランシェさん、私のお友達になってくれますよね。ていうかもう私たち三人は、強固な強い絆で結ばれた運命を有する親しい親友です。そうですよね!」

「いやいや、そうはならないでしょ。それにラエルロットはどうしたの。この案件に関わり一番貢献しているラエルロットは仲間はずれなの。テファさん、あなたはラエルロットに会う為に彼をここに呼んだんですよね!」

「友達って、仲間という意味ですよね。私とテファさんがですか。人間と私が……テファさんの言っていることがよく解らないです」

 いきなりそんな事を言われても……と言うような顔で互いに顔を見合わせる蛾の妖精のルナとミランシェの答えを待たずにテファは話を進める。
 どうやらテファの中ではもうルナとミランシェは立派な友達になっているようだ。

「では答えをいいますね。カラクス鳥を操るこの力は一体何なのか。それは古代の遺物【空蝉の杯】の効力による物です」

 そう言うとテファはテーブルの下から小さな木箱を取り出す。その木箱は綺麗な銀細工の飾りで彩られており、古いながらも威風漂う豪華な木箱に見えた。その木箱の蓋を明けたテファはその中から二つの小さな銀杯を取り出す。

「これが古代の遺物、空蝉の杯です。二年前にこの研究所で親しくなったある研究者から密かに譲り受けた物です。その人は私達の境遇に罪悪感を抱いていたみたいでしたから、この研究所を去るその時に私にこの古代の遺物を託して行きました。『この研究所内から一生出る事がかなわないのなら、せめてこの古代の遺物の力を使って外の景色を、世界を見て欲しいとその人は言っていました」

「そうか、あのカラクス鳥は古代の遺物の力で操っていたのか。なら納得がいきます」

「そう言う事です。そしてこの二つの小さな杯に自分の血を数滴垂らして、飲みやすいようにお水を混ぜて。その杯の一つを私が飲み、そしてもう片方の杯を操る対象の動物に飲ませれば、私の魂と自我は記憶と共に指定した動物にコピー体として宿るという仕組みです。ですがそのカラクス鳥が戻って来るまでそのカラクス鳥が一日何をしていたのかは私にも知る事は出来ません。ですがこうやってそのカラクス鳥の体に頬ずりをすれば……カラクス鳥に移していた私の自我や概念は元へと戻り、外では決して見ることの出来ない知識や経験を得ることができる画期的なアイテムなのです。この空蝉の杯があれば体験できない事を二倍速で体験することができますから、知識をより多く知るにはいい古代の遺物です。それにしても私自身がテファニアさんのクローン体だと言うのに、その更にコピー体を作ってその動物に外の情報を提供してもらうだなんて、なんとも皮肉な話です。いえだからこそ私に合った古代の遺物なのでしょうね」

「なるほど、カラクス鳥に宿ったもう一人のあなたが外の様子を見てきて、その後にそのカラクス鳥があなたに頬ずりをすれば、カラクス鳥が見てきた記憶が本体であるあなたの頭脳に蓄積されるという仕込みですか。なんとも便利なアイテムですがそのカラクス鳥もあなたの魂が宿った分身体だと言うのなら当然その聖女の力も共に宿り、その特殊なスキルも使えると言う事ですよね。もしも聖女の力を魂を通して使えると言うのなら、あなたの血を飲んだそのカラクス鳥も当然聖女の力が使えるという事になります。そうですよね」

「ええ、勿論使えます。聖女のこの力は、女神様から頂いた聖血による血をその体内に宿す事によって少女はその苦しい副作用を経て、念願の誰もが来い憧れる美しき存在でもある聖女に生まれ変われる仕組みになっていますが、その女神の血の力は少女の肉体に宿るのでは無く、その魂に宿るとされています。ですので私の血液を杯から媒介して飲んだカラクス鳥に宿った私のコピー体も当然聖女の力を使えはしますが、やはり本体である私の用に力をマックスには使えないようです。私が100パーセントの力を使えるとしたら、私の血液を飲み、その魂を宿したカラクス鳥は約30パーセントの聖女の力しか使えないはずです」

「たとえ不完全な力だとしても、この空蝉の杯を使えば、動物の体に記憶と魂を宿したもう一人のテファさんは30パーセントの聖女の力が使える貴重な伏兵と言う事になります。そう考えたのならなんとも恐ろしい古代の遺物です。だって使いようによってはこの力はいろんな事に応用ができますからね」

 何やら真剣な顔で古代の遺物の利用方法を話すミランシェに向けてテファはおかわりの紅茶をティカップに再度注ぐと、優しげな笑顔を振りまきながら白い右手の人差し指をそっと唇に這わせる。

 遠くではラエルロットが今も他の小さな少女達に色々と注文を付けられて体のいい荷物係としてこき使われていたが、そんなラエルロットの姿を優しい眼差しで見つめるテファは、蛾の妖精のルナと小撃砲使いのミランシェの二人にわざとらしく顔を近づけると小声である言葉を口にする。

「私が持つこの古代の遺物のお話は、ラエルロットさんにはまだ内緒にして置いてください。あの人には今の段階ではまだ秘密にして、後でサプライズとして大々的に驚かせて差し上げたいですから。なので、この事は友達になった私たち三人だけの共通の秘密とします。その方がなんだかミステリアスで楽しそうですからね」

「友達……友達ですか。私……ラエルロット以外で、人間族に友達だと面倒向かって言われたのはこれが初めてよ。だから何だか落ち着かない気持ちになるわ。人間に直に忌み嫌われる事はあってもそんな優しい言葉を……嬉しい言葉を言ってもらえる事はまずなかったからね」

「友達……秘密ですか……聖女と……この私が……面白い事を言う人ですね」

 テファのその当然のような暖かな言葉に、友達など一度も作った事の無い蛾の妖精のルナと戸惑いを隠せない小撃砲使いのミランシェの二人はその思いにどう答えていいのかが分からず、まるで当然のように語るテファの前向きで明るい慈愛溢れるペースに徐々に飲み込まれていくのだった。

 テファニアの遺伝子により作られたサンプル体であり、特Aランクの才能と力を持つ、製造番号95657番こと、暁の聖女テファです。
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