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第三章 二人の聖女編
3-26.テファとエドワードの対決
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3ー26.テファとエドワードの対決
「いやぁぁーーあの時は正直参ったねぇ、俺はある仕事でたまたま遭遇してしまった聖氷結の聖女とかいうくそヤバイ特Aランクの聖女と戦った事があるんだが、あいつは本当に洒落にならないくらいに、いかれた聖女だったよ。俺はいつものように有利に物事を運ぼうと人質を取ってその聖女の動きを止めようと近くにいた名も知らない下級の冒険者にその剣の刃先を当てて、迫り来る聖女を見事に脅迫したんだが、その聖女はニコニコと笑顔を浮かべながら俺の傍まで近づくとなんの躊躇も無く、その人質もろとも俺を瞬時に氷漬けにしやがったからな。あの時はほんともう駄目かと思ったくらいさ。後から聞いた話ではあの聖女が使う氷の能力は相手を瞬時に超低温で凍結解凍ができるという恐ろしい能力らしいから、人を誰一人として殺すこと無く相手の動きを封じ閉じ込め、制する事が可能とのことだ。全く恐ろしい相手だったぜ。あの時はたまたま近くにいた我が主様がどうにかして俺を助けてくれたらしいが、凍結から解放されるまでは意識を失っていた俺は敗北した事すら認識する間も無く瞬時に氷漬けにされてしまったらしいから、どうやって助けられたのかはもう今となってはわからないし謎のままだ。だから俺は同じく特Aランクのテファとかいうお前の連れに物凄く警戒をしているんだよ。主様がいないこの状態で不用意に攻撃をしてその対応を誤ればそのまま死に繋がってしまう恐れがあるからな。せめてあの聖女の能力の秘密が分かれば対応も考えられるんだが、だからこそ今は勝負には絶対にでれないと言う訳だ。お前らという人質を取る事であの聖女が大人しく無抵抗になってくれるといいんだが、あの焦りが全く見られない落ち着いた態度と肝のでかさには正直薄ら寒い恐怖すら感じるから、あの聖女の対応にはもう少し慎重にならないといけないようだな。全くあの聖女の能力が一体どんな物かが分からないお陰で人質の傍から離れることも出来ず、仲間の窮地にもさせ参じる事すらかなわず、ここでお前らと時間を潰さないといけない羽目になろうとは、全く難儀な話だ」
「その特Aランクの氷を操る聖女って恐らくは聖氷結のスターシャとかいう聖女ですよ。あの超有名な勇者クレイ・バーエルの傍に常にいる物凄く有名な聖女じゃないですか。あんな恐ろしい聖女とも戦っていたんですね。いくらあんたがレベル90の凄腕の剣士とは言え全く恐れを知らないようですね。ついこの間、俺も彼らには会いましたが、もしも近くに勇者クレイ・バイルがいたら、あなたを助けたという、その主様とやらももしかしたら危なかったのかも知れませんよ。あんたの主様とやらが一体何者でどのくらいの強さなのかは知りませんが、遠距離攻撃を持たないあんたが特Aランクの聖女に戦いを挑むのは流石に無理があるでしょ」
「たしかにな、俺が持つこの聖剣チャームブレードでは遠距離攻撃はできないからな。あのテファとかいう聖女も警戒しているのか中々俺の剣が届く間合いには入っては来ないし、全く困った物だよ」
「お姉様はそんな愚かなことはしないわ、そしてあなたはお姉様には必ず負けるわ。家のお姉様はただ優しいだけではなく、あれでいて狡猾さも併せ持つ絶対無敵の聖女様なんですから、必ずあなたに勝つ何らかの対策を考えているはずです!」
「フフフフ、どうやらそのようだな。あの歪んだ性欲を持つ粗暴なドラムを精神的に追い込み、飴と鞭を使い分けて上手く丸め込んで、愛と更生と言う名のお題目で相手を制するとは、その瞬時に対応ができる知能の高さと、何事にも動じない度胸と勇気、そしてそれらをすぐに実行に移せる素早い行動力は目を見張る者がある。あんな物をそばで見せられては流石の俺も疑心暗鬼になって中々攻められないという物だ。はてさて、この後あの聖女が返ってきたら一体どうやって揺さぶりを掛けてやろうか。流石に悩みどころだぜ」
耳長族のエドワード、ラエルロット、ツインの三人は紅茶の入った水筒と非常用にと持ち歩いているビスケットを互いに出し合いながら輪を囲みその場で軽い軽食を取る。
テファとドラムが地下にある下水道に消えてからもうすぐ二時間が経とうとしているこの状況に三人はどうしていいのかが分からず、どうでもいい雑談に花を咲かせながら暇を持て余していた。
「しかし流石に遅いな、一体下水道で何をしているんだろう。テファの話では、あの豚人族のドラムとか言う奴の体を綺麗に洗ってから、服は洗濯をして、その後にきついお説教を噛ましてやるとか言っていたが、ちょっと様子を見に行ってみようかな。まだ姿を見せないルナとミランシェの安否も気になるしな」
心配しながらその場から立ち上がろうとしたラエルロットに聖剣チャームブレードを持つ耳長族のエドワードがその刃先をラエルロットの首の先に当ててその行動を止める。
「こら、勝手に動くな。この流れに便乗して逃げだそうとしても無駄だぞ。今はお前らを信じて休戦の間だけは食事休憩を与えているんだから、勝手な行動は慎めよな。お前らは相も変わらず俺の大事な人質なんだから無闇に動かれては困ると言う事だ。解って貰えたかな」
冷静な目を向けながら淡々と話す耳長族のエドワードだったが、そんな三人にどこからとも無く穏やかな少女の声が飛ぶ。
そこに現れたのは勿論地下の下水道内にいた暁の聖女・テファである。テファは満面の笑みを浮かべると堂々とした足取りで、ラエルロット、耳長族のエドワード、そして言霊の聖女・ツインの三人の傍まで来る。
「長らくお待たせしました。そちらの休憩はもうお済みでしょうか」
「テファ、随分と長かったな」と言葉を返したラエルロットの首に、耳長族のエドワードが持つ聖剣チャームブレードの刃を当てられ、ラエルロットとツインはそこから何もしゃべれなくなる。
そんな二人の言葉を代弁するかのように、代わりに耳長族のエドワードが落ち着いた声で話し出す。
「やっと出て来たか。随分と待たせてくれた物だな。まあその分俺も休憩をする事ができたからこのままお前と戦う準備はできてはいるんだが、お前はどうなんだ」
「はい、私は勿論大丈夫です」
「そして、勿論お前の連れの二人にも休憩や傷の治療の場は与えているから体の痛みと疲労は回復していると思うぜ。これで満足か」
「そうですか、ありがとうございます。相手に情けを掛けてくれる程の常識のあるあなたが、一体なぜこんな無駄な事に加担をしているのでしょうか。やはりあなたの上司とやらの命令で動いているからでしょうか」
「まあ、そんな所だ。家の主様は生真面目で仕事にはかなりうるさいからな、だから相手が聖女や戦士の資格を持つ冒険者や異世界召喚者達である以上、俺は敬意を持って相手を全力で叩きのめすつもりでいるよ。それが戦場で戦う者に対する最大の礼儀だと信じているからだ。そしてその存在その物が物凄く危険で脅威となり得る奴だと確認された特Aランクの聖女・テファ、お前は絶対に始末をしなけねばならない相手のようだ。そんな厄介で危険なオーラをひしひしと感じるぜ!」
「ならもう戦う準備はできていると言う事ですね。では耳長族のエドワードさん、そろそろ戦いを始めましょうか」
「いいだろう、相手になってやる。その前に、俺の連れの豚人族のドラムは一体どうした。下水道のある地下に一緒に連れて行ったはずだが、なぜ奴は姿を見せないんだ?」
少し不安になりながらも一応は気にとめる耳長族のエドワードの疑問に、暁の聖女・テファはクスクスと意味ありげに笑うと、その安否を告げる。
「はい、彼ならいますよ、大丈夫です。彼がこれ以上間違った豚人族にならない為に、私がようく言って聞かせて教育的指導をして来ましたからもう大丈夫です」
「教育的指導だとう……?」
「さあ、生まれ変わったその姿を皆さんにも見せて上げて下さい。私の自慢の義理の愛すべき息子にして正しく生まれ変わった存在、その名も豚人族のドラムよ!」
「はい、母ちゃん!」
そのテファの大きな声が聞こえたのか地下の下水道内に続く入り口の階段から出て来たのは、緊張と諦めの表情を浮かべながら直ぐさま走り寄ってきた豚人族のドラムである。ドラムはテファの言葉に従うかのようにキビキビと動くとまるで母を敬愛し慕う息子のようにテファの後ろで直ぐさま行儀良く直立するが、その軍隊のような完璧な姿勢にではなく一番おどろかされたのは、ドラムのその見た目の変わりようである。
あのよごれで汚らしかったその体のけがれは綺麗に洗い流され、いい香りを漂わせるフカフカの毛並みに生まれ変わっている。
そしてあれ程汚らしく黄ばみ、所々がこすれその古さを漂わせていた体に纏う衣服や革の鎧もまるで買ったばかりの新品の品のように綺麗に洗濯アンド修復がされており、おろしたての新品のようにシミ一つ無い綺麗さと爽やかさを皆の目に晒す。
最初は買ったばかりの新品の衣服と革の鎧を身につけているかとも正直思ったがこの下水道内にそんな物があるとは思えないので、恐らくはテファの聖女の力の能力で来ていた衣服は綺麗に全ての汚れを粒子レベルで消し去って貰った物と考えられる。そしてきれいになった衣服や鎧の修復はテファが自らの手作業でどうにか修復したのだろうと軽く推察される。まさにそうとしか考えられないできだ。
そんな約二時間の経過を得て汚いドラムから綺麗なドラムに生まれ変わったテファの義理の息子は、背筋をピーンと伸ばしながらもどうにか助けをこおうと必死に視線をそれとなく耳長族のエドワードに向ける。
(助けて……助けて下さい……エドワード様ぁぁ!)
(わかった、わかったから、そう露骨に泣きそうな顔をするなよ。今助けてやるからな)
哀れみと同情にも似たそんなアイコンタクトをドラムに送りながら耳長族のエドワードは、手に持つ聖剣チャームブレードの届く間合いの範囲内の外で立ち止まる、暁の聖女・テファを激しく睨みつける。
「随分と家のドラムが世話になったようだな。ちょっと見ない間にすっかりと小綺麗になって、尚且つすっかり大人しく調教されて帰ってきたようだが、お前は一体ドラムに何をした。この二時間の間にまるで人が変わったかのようにふぬけとなり、明らかにお前に対しておびえているぞ!」
「あらあら、せっかく愛を持って少し過敏なほどに優しく接しているのにそんな事を言われたら少し悲しくなりますわ。ちゃんと心を込めて丁寧に体の隅々まで洗って差し上げただけではなく、衣服も綺麗に洗濯をして尚且つ壊れている革製の鎧のほつれや破損の箇所も心を込めて丁寧にそして綺麗に直して差し上げたのに、その言い草はあんまりですわ」
「でもその間にちゃんとドラムへの愛の教育的制裁と指導とやらは行ったのだろ。あの粗暴のドラムがマジで怯えるほどに完璧な指導を……」
「大した事はしてはいませんわ。私はただドラムさんの義理の母親として、愛を持って、人に迷惑を掛けてはいけない事を事細かく教えて差し上げただけですわ。なので人を虐待をしているパワハラ教育ママ的に言うのはやめてもらえますか。私の暴力は、女性に対して暴力的なドラムさんを力と精神力で制するために敢えて仕方なく行っている愛の鞭ですし、本当に憎くて行っている事ではありません。いくらきれい事を並べて言葉だけで諭してもそれで解ってもらえないのなら、母親としての尊敬に値するだけの威厳と愛とそれに力を持ってその正しさを示さなくては人は絶対に私の行動に・思いに・ついてきてはくれませんからね。だからドラムさんの信用を得るためにも私は真剣に彼に接して、わかって貰えるように努力をしているのです。そのかいがあってようやくドラムさんとはそれなりに打ち解け合える仲になったと自負しているのですが、そんな事を言われると悲しくなります」
「いや、絶対に打ち解け合ってなんかいないから、むしろ恐怖度が絶対的な物になっているように見えるのは俺だけかな」
「そ、そんな事はないですよね、私達は本当の親子としてもうかなりわかり合っていますよね。そうですよね、ドラムさん!」
その屈託のない明るい声で話す暁の聖女・テファの言葉に後ろで直立不動になっている豚人族のドラムは青い顔をしながら否定の言葉を言おうとしたが、直に「ドラムさん……」という地に響くような静かな怒りの言葉を聞き、ドラムは「はい、母ちゃんとは上手くやれています……母ちゃんのような人が俺の母親になってくれて、俺は今猛烈に幸せです!」という言葉を泣きながら吐く。
「ドラムの奴が中々のクズ野郎だったとはいえ、このテファとかいう聖女も何だか大概だな。悪人には容赦の無い性格と見える。憎しみを持って悪を打ち払おうとするのではなく、逆にその悪を制し改善させるが為に敢えて愛を持って自分の理想の考えを押しつけて来るとは、物凄く始末に悪い迷惑な奴だぜ。そして何が一番始末に悪いのかというと、自分の行いが正しいと信じていて、その行いで相手を救おうと本気で思っている所だ。ドラムは別に改善される事を望んではいないのにだ」
「フフフフ、いつか必ず私の愛を、望みを分かってくれる時が必ず来ますよ。その時を信じて私はドラムさんを正しく教育します。ドラムさんがいつか自分の犯した罪に向き合って、最終的には自分に誇れる生き方ができる日が必ず来ることを信じて」
テファは目を静かに閉じると、まるで何かに祈るようなポーズを取りながら胸の辺りで両手を合わせる。
その可憐に祈る姿はまさに聖女その物で、その神々しい姿に近くにいる耳長族のエドワードも思わずたじろぐ程だ。
そんなエドワードとテファの姿を交互に見ながら人質となっているラエルロットはある疑問を考える。
(耳長族のエドワードがテファをまだ攻撃しない理由はなんとなく分かる。テファが持つ聖女としての能力をまだちゃんと把握してはいないからだ。なら人質である俺達に尋問したり拷問をしたりして情報を探ろうとして来るかとも想われたがそんな事をして来る様子もないみたいだし、一体この男は何を考えているのか正直底が知れないぜ。自分の間合いに入ってこさえすれば絶対テファに勝てるという自信の現れなのか。それとも余りの警戒心にただ単に用心深いだけなのか。その考えを鈍らせ躊躇させているのはやはりテファが豚人族のドラムとかいう男に接しているあの異常な態度を見せられているからなのかもな。テファはあの豚人族の男が挑発してきたことをいい事に上手く利用して『まあ、ドラムとかいう豚人族を更正させたいという彼女の思いは恐らくは本物だろうが』わざと異常な女を熱演して耳長族のエドワードの心に無意識的に揺さぶりを掛けて攻撃を仕掛けてくるのを躊躇させているようだ。そんな異常性の強い何者にも動じないテファの愛の力が示す行動を直に見せつけられたら、もしかしたら何かあるのではと勘ぐるのも当然か。しかも聖女の力の源はその愛の大きさだからその異常な高ぶる愛の形を見せつけられたらその能力が一体どのような物かと勘ぐり、人質である俺達の傍から離れられないのも頷ける。もしもその決断を誤ればその時点でエドワードの敗北は決してしまうからだ。だからこそエドワードはテファが自分の長剣が届く間合いに入って来るのをただジーと待っているのだ。まあ相手があの特Aランクの聖女だと言うのなら疑心暗鬼となり異常なほど警戒をするのもうなずけるが、その肝心のテファもその間合いに入ったら攻撃が来ることをわかっているだろうからこの緊張状態はしばらく続く物と思われる。はてさてこの一新促迫のこの均衡を一体どうやって崩す事やら。そしてその肝心のテファの方だが……テファは本当に策を巡らして何かの奇策を考えているようだ。実際テファがあの暁の能力を発動させる事ができたらその時点で恐らくこの戦いの決着は簡単につくはずなのだが、余程慎重に動いているのかテファは中々あの光の能力を発動しようとはしないようだ……だが一体なぜだ。もしもその気なら、間合いの外の下水道に続く石階段の入り口付近から、遠距離攻撃とばかりに有無も言わさず、いきなりあの光の力を発動させたらそれでこの戦いの全てに決着を付けられるはずなのに、どういう訳かテファはあの力を使うのを躊躇しているようだ。でもいつかはあの暁の力を使ってあのエドワードと決着をつけないといけないんだからその力の発動を躊躇している暇はないはずなのだが、テファは一体何を考えているんだ。それともまさかとは思うが、もしもこの戦いの中でエドワードだけではなくその近くにいる俺達もあの光の力を至近距離で浴びてしまう事になるだろうから敢えて攻撃を躊躇しているのか。でもあの能力は確か相手を認識さえすればそれで攻撃対象が選べるとテファは言っていたはずだ。だからこそ俺は今もこうして生きているんだし、その後も体に異変は全くないのだからな。そ、それとも今はその暁の聖女の力を使えない訳がもしかしたら本当は他にもあるとでも言うのか。もしもそうならその訳とは一体なんだ。その要因がもしも俺達にあるのだと言うのなら、テファは必ず何らかの隙を作って俺達をここから下水道の方にと逃がそうとするはずだ。そのいつか訪れるかも知れない僅かなチャンスを逃さないためにも、今は静かにテファの行動を見守る他はないと言う事か。全く、無様にも人質に取られて、助けると誓った聖女に逆に助けられる羽目になろうとは、もう自分が情けな過ぎて、言葉もでないぜ。だがもしもテファの策略が失敗して絶体絶命のピンチに陥ってしまったら、その時は俺がこの体を張ってテファとツインの二人が逃げられる時間だけは絶対になんとしてでも稼いで見せる。そのためにも今は静かにその僅かな隙を見極めなくてはな)
そんな事を思いながら再び床へと座るラエルロットは露骨に不安な顔を見せるツインと共に、二人の戦いが始まるその時を静かに待つ。
お互いの心理を探り合うかのように睨み合うテファとエドワードの二人だったが、先に仕掛けてきたのは暁の聖女・テファの方からである。テファは後ろにいる豚人族のドラムに持参のビスケットを手渡すと、攻撃が届かない隅の方で食事を取っていなさいと優しく促す。その言葉に素直に従い後ろから離れたドラムの姿を見届けたテファはその視線を再びエドワードに戻すと、あることをエドワードに聞く。
「時にエドワードさん、そこにいるドラムさんの話では、あなたはノシロノ王国のお抱えでもあるあの十大英雄の一人がリーダーを務めているギルド。神聖・白百合剣魔団のメンバーの殆どを壊滅させたらしいですが、それは本当ですか?」
「ああ、この研究所内に潜入する前に外で一戦やらかして来ているからな、それは本当だぜ」
「一体どんな風にあの手強い凄腕揃いの美しい女性達だけで構成された彼女達にたった一人で勝つことができたのですか。その武勇伝を少し私に聞かせてみて下さいな」
「この土壇場でいきなりその話か。なぜその話にお前が興味を抱くのかは知らないが、まあいいだろう。少しだけなら話して聞かせてやるよ」
「ありがとうございます。あのざっと五十人くらいはいる美と力を兼ね備えた女性達をたった一人で倒したばかりか、そのギルドのリーダーであり、尚且つ最強の十人とも言われている第一級冒険者の中でも選りすぐりと名高い、レベル100の力を持つあの破滅天使のリザイアを一体どのような方法で倒したのかがどうしても気になりましてね、戦う前に是非とも聞いてみたいと思っていた所だったのですよ。しかもそこにはあのAランクの聖女でもある超重力使いのミレーヌとかいう少女も共にいたはずですから、その極めて困難な攻略難易度は更に跳ね上っていたはずです。なのにあなたは無事に戦いに勝ってその勝利を収めて来ている。いくらレベル90のあなたでもその全ての相手をし、そのまま勝利を収める事は普通に考えたらまずできない物と考えます。と言う事はやはりあなたが持つその自慢の長剣、聖剣チャームブレードのお陰なのでしょうか。その聖剣の力を充分に引き出し、更には使いこなしているからこその勝利とも考えられますね」
いきなり話出したテファの脈絡もないその会話に正直自慢話がしたい耳長族のエドワードは、仕方が無いとばかりにその時の状況を思い返しながら事細かく話して聞かせる。
「ああ、お察しの通りさ。あの強い絆と連携の取れた一団にたった一人で挑むにはいくらレベル90の剣士の俺でも正面切って戦うには流石にリスクが大きすぎるからな、だからここは安全と用心を兼ねていつもの人質作戦を取る事にしたんだよ。大体の聖女は愛と優しさが強いが為によくこの手になすすべ無く引っかかるからな、手強い相手にはよくこの方法を活用させて貰っているよ」
「そんなに誇りを重視する剣士なのにまた随分と卑劣で卑怯な手を使いますね。そこには真剣勝負という名の騎士道精神のような誇りやプライドのような物はないのですか」
「フフフフ、なるほど、夢見るお子様の発想だな。お前は真剣勝負についてなにか勘違いをしてはいないか。王国内で行われているルールのあるお上品な御前試合じゃないんだぜ、これは命を賭けた、負けたら速座に死を招く非常と理不尽極まりない真剣勝負だ、だからこそこの予想だにされてはいない状況やどうすることもできない理不尽な現実に素早く対応ができなかった者にこそ落ち度があると俺は思っている。つまりは戦いに負けた奴こそが全て悪いし、どんな卑怯な手を使ってでも勝ち抜いた奴こそが真の勝者でありそれが全てなのだ。その理不尽な厳しい現実を素直に受け止めろよな。つまりだ、仲間のためと思いただの闇雲に自己犠牲を買って出る知恵の足りない馬鹿どもは、戦場では絶対に生き残れないと言う事だ。あの綺麗な友情を語り合いながら死んでいった愚かな少女達のようにな。理解できたかな!」
「なるほど、あなたの戦いに対する心構えや姿勢はなんとなく分かりました。確かにあなたの戦いに対する姿勢は現実的で残酷な生死を賭けた戦場を生き抜くためにはきれい事は許されないことだと言う事も理解ができました。その理屈で白百合剣魔団のメンバーの幾人かを人質に取りながら、あのAランクの聖女でもある超重力使いのミレーヌさんの優しさに漬け込んでその聖剣チャームブレードの刃をミレーヌさんの心臓に突き刺したのですね。まずは彼女の聖女としての力を手に入れるが為に」
「そうしなけねばあのAランクの超重力使いのミレーヌはとてもじゃないが倒せなかったし、その後ろに控えている第一級冒険者の資格を持つ英雄、破滅天使のリザイアは絶対に倒せない事は分かっていたからな。死にゆく少女達の話では、研究所の方に別働隊として潜入をしているメンバーがまだ何人かいるとの話だったが、ここに来る途中でそんな奴らとはまだ出くわしてはいないから、恐らくは苦し紛れの嘘とも考えられるな。しかし育ちのいい身分の高い女子達で構成されていたからなのかは分からないが、ほんと仲間想いで情け深い甘ちゃんの多い奴らだったよ。そのお陰であの破滅天使のリザイアも倒せたのだからな、本当についていたと言った所か。そのリザイアも、信じていた仲間達に裏切られるような形でかなり惨めな死を迎えてしまったから、かなり印象深かったんだが。こんな状況を作り出して置いてなんだが、愛する者達に殺される絶望を味わいながら死んでいったリザイアにはつい同情をしてしまったぜ」
「それで、死から転成させた偽りの魂を持ったあなたの都合のいい奴隷達はその後はどうなったのですか?」
「ああ、名誉ある死を与えてみんなに自害をさせたよ。ただ一人だけまだ使い道のある超重力使いのミレーヌだけは生かして置いてあるから、彼女はある所を守らせるが為に敢えて配備をして来てしまったがな」
「配備……ですか……でもそのミレーヌさんはもう以前のミレーヌさんではないのですよね。ならそれはもう……一度死んで抜け殻となったその肉体に全く知らない何者かの偽りの魂がその体に宿り再びそのまま復活を遂げた、肉体はそのままに新たな人格を持つ全くの別人だと言う事なのでしょうか。つまり神聖・白百合剣魔団の殆どのメンバーはあなたが使う魔剣の毒牙に掛かってしまい、敢え無く殺されてしまったと言う事ですね。それで間違いはありませんね」
「ああ、そういう事になるな。だがその話とお前と一体どんな関係があると言うんだ。まさか本当にこの話をただ純粋に聞きたかったが為に、敢えて時間を取っただけではないだろうな」
「いえいえ、是非ともあなたの口から直にその話を聞きたかったと言うのは本当ですよ。この話を今ここでリアルタイムであなたに深く語らせる事に意味があるのですから」
「何だとう、それは一体どういう事だ?」
そう耳長族のエドワードが言葉を発した瞬間、場の空気が凍り付き、何かの怒りの感情がエドワードの周りを包む。だがその怒りは暁の聖女・テファの物では無く、その場の気配すらも感じない場所からジワジワと発生をしている姿や音すらも未だに見せる事の無い未知から来る魔力の高まりだった。
耳長族のエドワードはその場に漂う異常なまでの怒りの高まりを感じながら、その周りに漂う見えない何かに警戒をする。
「なんだ、一体なんなのだ、この負の感情の、怒りのエネルギーの高まりは、聖女・テファ、これはお前の仕業か!」
「エドワードさん、あなたがいけないんですよ。彼女が静観をしている前でさも得意げに神聖・白百合剣魔団の皆さんを殺した事実をさも赤裸々に語って見せるから……」
「彼女って一体誰のことだよ。ここにはテファお前と、ラエルロットと、ツインの嬢ちゃんと、ドラムと俺を入れた五人しかいないじゃないか?」
「フフフフ、でも本当は静かに静観を決め込んでいる、姿無きもう一人の人物がこの空間にいるのだとしたら、さてどうなりますかね。そしてその関係者があの神聖・白百合剣魔団のメンバーの一人だったのだとしたら、その存在を未だに感知ができないでいるあなたはもしかしたらかなりやばい状態にあるのかも知れませんね」
「ヤバイ状態だとう……それは一体どういう事だ。答えろよ、聖女・テファ!」
物凄く焦りながらもそう叫んだ瞬間、どこからとも無くいきなり飛んできた複数のマジックミサイルの着弾による爆風で地面に座り込んでいたラエルロットとツインが堪らずその場からテファの方へと勢いよく吹き飛ばされる。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥーーゥゥ、ドカアァァァーーン、ドカドカドカドカドカドカーーン!
「テファ、うっわあぁぁぁぁぁーーっ、なんだこの爆発は?」
「お、お姉様あぁぁぁぁーーぁぁ!」
「おもに白魔法使いが使うと言われているマジックミサイルが何も無い回りの空間からいきなりその姿を表し、常に俺を狙っているだとう、こんな何もない所から一体どうやってあの幾つも見えるマジックミサイルを召喚しているんだ。それにこのマジックミサイルは一体どこからあらわれると言うんだ。相手の姿形は全く見えないし、その怒りの感情を知ること以外で姿無きマジックミサイルの起動を読んで交わすことは、いくら高レベルの剣士でもまずできる芸当じゃないぞ。くそ、くそ、この状況は一体なんだ。まさか本当にここにるはずのない六番目の誰かが俺の会話をこっそりと聞いていたとでも言うのか。そしてこれは聖女・テファ、全てはお前の仕業か。お前はこうなることを待ち望んでいたのか。答えろ、聖女・テファ!」
「さあ、どうでしょうかね。でもこうなったのは耳長族のエドワードさん、あなたが無闇に神聖・白百合剣魔団のメンバーを無慈悲に皆殺しにした事を誰に憚る事無くついうっかり話してしまったからです、だからこそあなたに対しての怒りの一斉攻撃が始まったのです。それだけは確かです」
「テファ、一体何をした。敢えてこうなることもお前の作戦の内だったと言う事だな。ちくしょう、一体誰かは知らないがその姿を現しやがれ、その姿形だけではなく音も一切聞こえないとは、流石に卑怯極まり無いぞ、いいから姿を見せて何者なのかを名乗ってから戦いやがれ!」
「あらあら、戦場では卑怯な手に引っかかる方が悪いという理屈が心情のあなたが言う台詞ではありませんね。彼女の戦う戦闘スタイルが隠密を生かした暗殺がベースとなっているのですから、卑怯というあなたの理屈はもう通りませんよ」
「テファ、ちくしょう、やはりお前は侮れない奴だ。くそぉぉぉ、抜かったわ!」
「あ、そうだ、あなたが死んでからでは話せないので今この場で話しますが、もしもあなたに勝つことができたらその時はあの豚人族のドラムさんを貰って行きますよ。あれは私が生きている限りは母親として立派に育て上げて見せますからどうか安心して下さい!」
その冗談のようなテファの話を聞いていたエドワードはつい鼻で笑ってしまったが、爆発で見えない土煙の外側から聞き慣れたなんとも言えない悲痛な声が飛ぶ。
「エドワード様、絶対に勝って下さい。お願いします。その女が語る愛という名の異常な暴力からこの俺を救い出して下さい。お願いします!」
「あらあらひどいですわ、ドラムさん。こんなに、あなたの未来の行く末を願いながらも必死に頑張っているのに。愛情とはそう簡単には伝わらない物ですわね。この旅が終わったらあなたには最難関とも言うべき一流の神官職を目指して貰いますからそのつもりでいてくださいね。毎晩しっかりと勉強をして挑めば来年には試験に挑むことができますわ。いいですねドラムさん、道のりは厳しく非常に困難ではありますが、二人で力を合わせて頑張っていきましょう!」
「嫌だあぁぁぁぁーーぁぁ、嫌だあぁぁぁぁーーぁぁ、物欲と禁欲を厳しく律している、あの神官職を目指す勉強なんかしたくはないよぉぉぉ。エドワード様、助けて、助けて下さい。お願いします!」
「全く、このテファという少女は一体どこまでほんとの事を言っているのか、正直分からないな。あの神につばを吐いて生きてきた豚人族のドラムに敢えて神の為に生きその祈りを捧げる神官職を目指すようにその教えを説くとは、いくら悪どい心を持つドラムを更正させる為とはいえ正直やり過ぎだし、全く持って嫌な性格の女だと言う事だな。全く誰に似たんだか……恐ろしい女だ」
激しい爆発の度に空中には白い土煙が上がり、無数のミサイルの光の線がエドワードの方に飛び交い物凄いスピードで激突し飛散していく。そんな凄まじい爆発をただ唖然としながら見ていたラエルロットとツインの二人はそのいきなり舞い込んだ逃げ出す最大のチャンスに身をかがめながらその場から立ち去ろうと地を這いながらゆっくりと静かに動き出す。そんな二人がその奇跡とも言うべき希望をどうにか手繰り寄せる姿を見届けた暁の聖女・テファは、二人を透かさず助け起こすと直ぐさま話し掛ける。
「ラエルロットさんはツインちゃんを連れて直に下水道の方に避難をして下さい。あなた達の姿がなくなり次第、ここで暁の聖女の能力を発動させます!」
「ツインちゃんを地下にある下水道に下ろして、彼女にお前の光が直に当たらないようにすればいいんだな、分かった。いくぞ、ツインちゃん!」
「はい、分かりました。すぐに下水道の地下におりますね!」
自分が足手まといになっている事がわかっているのかツインはその思いを汲み取るとラエルロットに手を引かれる前に一人で石階段の方へと走っていく。そんなツインを見送ったテファは何も憂いは無いとばかりにラエルロットに目を合わせると、ゆっくりとした足取りで爆音と爆煙が辺りを包むエドワードの方へと進んでいく。
ドッカアアァァァァァーーン、ゴッゴゴゴゴゴゴゴオオォォォーーォォン!
一方爆煙に包まれているエドワードの方は視界が見えず、爆発音で音が遮断されているせいか回りの状況を掴む事ができない。
だが頭上には容赦なく猛スピードで落下をして来るマジックミサイルの嵐に内心エドワードはうざったく思っていた。
最初こそ意表を突かれてマジックミサイルをその体に数発ほど喰らってしまったが、直ぐに体勢を整えると焦りながらも周りの状況を確認する。
だがその場にいたはずのラエルロットとツインの二人は当然その場にはなく、既に逃げ去った後だと実感する。
「おのれぇぇぇ、あの人質の二人、上手い具合に僕から逃げ切りやがった。これもそれも全ては今現在闇雲に撃ち込んで来る、このマジックミサイルのせいだ。たく、正直ウザイぜ、一体どこの誰だよ!」
ヒュウル、ヒュウル、ヒュウル、ヒュウルルルルルーードッカアァァァァーーン!
その後も怒濤の連続ミサイル魔法攻撃は約一分間ほど休みなく続いていたが、まるで頃合いとばかりに、少し離れた何もない正面の空間からいきなり怒りに満ちたまだ若い女性の声が飛ぶ。
「私は神聖・白百合剣魔団のメンバーにして、第六級冒険者の正式な資格を持つ、白魔法使いのタタラと言う者だ。神聖教会からの別件の依頼でこの研究所の内部に密かに入り込んでいたが、私の知らない間にかけがえのない仲間達をよくもその長剣で悉く葬ってくれたな。道半ばで散っていった仲間達の無念を晴らす為にも、耳長族のエドワードとやら、この恨みはお前の命で償って貰うぞ!」
憮然とした態度でそう意気込んだ白魔法使いのタタラだったが、宙を舞う土煙の中から何事もなかったかのように耳長族のエドワードがその姿を現す。
耳長族のエドワードは何もない正面を見据えると、今なおその姿を見せないタタラに向けて話し掛ける。
「こんな貧弱なマジックミサイルを何千発喰らったとしても俺の体に展開しているオートガードシステムを破ることは絶対にできはしないぞ。つまり俺はお前の低レベルの魔法攻撃をいくら食らっても全くのノーダメージだと言う事だ。理解ができたかな」
「くそぉぉぉぉ、やはりレベル90の剣士のオートガードシステムの防御壁にダメージを与えてその数値を減らすには最低でもレベル70はないとまともには戦えないと言う事か。なんとも不甲斐なく口惜しいばかりだ!」
「フフフフ、白魔法使いか、お前らのような魔力を持つ物と聖女との違いはなにか、知っているか。それはお前ら魔法使いがその体に蓄えている魔力の貯蔵量だ。聖女が使う力は神聖力と呼ばれているが、お前達魔法使いが使う力は魔力だろ。そしてその器はあがいて修行をして、レベル100にしたとしても、お前がただの人間である以上、精々その埋蔵量は酒樽分の魔力しか溜めては置けないと言う事だ。その使用の量や魔法の大きさにもよるが、最低ランクと言われているCランクの聖女でさえも池くらいの大きさの神聖力の力を貯蔵ができるんだからその量の大きさはただの人間の女性と、人の枠を飛び越えた聖女とでは明らかにその力の差が比較にもならない事が見ていてわかるだろ。その無限とも言うべき力を振るう事ができる聖女と違い白魔法使いの魔力は、その強力な魔法を使う度にその魔力の減少率も半端がないよな。ずーーとその姿を消してここまで誰にもばれること無く追ってきたんだからその魔力の消費もそろそろ尽きるはずだ、しかも第6級と言う事はその魔力の貯蔵量もその酒樽の十分の四しかその蓄えは無いはずだ。なら今のマジックミサイルでの攻撃が最後の攻撃だったと言う事だ、そうなんだろ、白魔法使いのタタラとやら。お前はもう魔力が尽きて流石に限界のはずだ。後何本MP回復薬があるかは知らんが、残りも少ないはずだ。いいやもしかしたらもうないのかも、答えて見ろよ!」
そのエドワードの指摘になぞるかのようにその姿を何もない空間から現した白魔法使いのタタラは己の非力さと悔しさに唇を噛み締めるとガタンと片膝を床へとつくが、そんな白魔法使いのタタラに向けて耳長族のエドワードは手に持つ聖剣チャームブレードの刃先を上段から振り下ろそうと近づく。
「もうお前は終わりだ。そろそろ死んだ仲間の元に行くがいい!」
迷うことなく聖剣チャームブレードを振り下ろす体勢を取る耳長族のエドワードだったが、そんなエドワードの背後に土煙の中から静かに現れた暁の聖女・テファがいきなり声を掛ける。
「耳長族のエドワードさん、ようやくあなたの後ろを取る事ができました。では私の能力をお見せしますね」
「く、くそ、いつの間に!」
笑顔で言葉を掛けた暁の聖女・テファに対しいつの間にか後ろを取られていたことで焦ったエドワードは最初の上からの上段を直ぐさま後ろにいるテファに向けて素早く振り下ろすが、その一撃を事前に予測をしていたのか紙一重の所でどうにか交わして見せる。
だがそんな暁の聖女・テファに向けて耳長族のエドワードは透かさず剣先の起動を変えると、テファの左の心臓に目がけて二撃目の素早い一突きを繰り出していく。
目にもとまらぬ素早い動きに全く反応ができない暁の聖女・テファは自分の心臓に目掛けて突き出される鋭い刃先による一突きをまるで走馬灯のようなスローモーションで垣間見る。
「くらえぇぇぇーーぇぇ、特Aランクの聖女・テファぁぁぁ!」
透かさず放たれた素早い二撃目の一刺しは確実に暁の聖女・テファの心臓を捉えると、そのふくよかな胸がある衣服の中へと綺麗に入っていく。
グッサリ!
「がっはぁぁ!」
「よし、やったか。どうやら無事にその刃先を聖女テファの心臓に突き刺す事ができたようだ。そしてやはりこの聖女テファの言葉はただのはったりだったようだ。そんな彼女の能力が一体どんな物だったのかは今となっては知るよしも無いが、この聖剣による一撃を聖女テファの心臓に叩き込む事によって、特Aランクの聖女の命を確実に奪う事ができたようだ。そしてこの聖女には確実な死と、その後に訪れる新たな命が注ぎ込まれる。ほんと久しぶりに要らぬ緊張をした一日だったぜ!」
テファの敗北をその目で見てしまったラエルロットはまだ信じられないというような顔をしながら、その有り得ない悲惨な現実を直ぐさま否定する。
「そ、そんな、そんな馬鹿な、あのテファが暁の聖女の力を使う事も無く、その刃を心臓に受けて簡単に倒されてしまうとは、一体何が目の前で起きているんだ。テファの目論見と計算が狂って、その命を落としてしまったのか。そんな事が、そんな事が、あって溜まる物か。テファ、テファぁぁぁぁぁ、うわっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」
ラエルロットの絶望とも言うべき絶叫がこだまする中、長剣の刃を突き立てるエドワードはほくそ笑み、そして心臓を深々と刺し貫かれた暁の聖女・テファはその体を小さく震わせると、目の前にいるエドワードにその体を預けるのだった。
「いやぁぁーーあの時は正直参ったねぇ、俺はある仕事でたまたま遭遇してしまった聖氷結の聖女とかいうくそヤバイ特Aランクの聖女と戦った事があるんだが、あいつは本当に洒落にならないくらいに、いかれた聖女だったよ。俺はいつものように有利に物事を運ぼうと人質を取ってその聖女の動きを止めようと近くにいた名も知らない下級の冒険者にその剣の刃先を当てて、迫り来る聖女を見事に脅迫したんだが、その聖女はニコニコと笑顔を浮かべながら俺の傍まで近づくとなんの躊躇も無く、その人質もろとも俺を瞬時に氷漬けにしやがったからな。あの時はほんともう駄目かと思ったくらいさ。後から聞いた話ではあの聖女が使う氷の能力は相手を瞬時に超低温で凍結解凍ができるという恐ろしい能力らしいから、人を誰一人として殺すこと無く相手の動きを封じ閉じ込め、制する事が可能とのことだ。全く恐ろしい相手だったぜ。あの時はたまたま近くにいた我が主様がどうにかして俺を助けてくれたらしいが、凍結から解放されるまでは意識を失っていた俺は敗北した事すら認識する間も無く瞬時に氷漬けにされてしまったらしいから、どうやって助けられたのかはもう今となってはわからないし謎のままだ。だから俺は同じく特Aランクのテファとかいうお前の連れに物凄く警戒をしているんだよ。主様がいないこの状態で不用意に攻撃をしてその対応を誤ればそのまま死に繋がってしまう恐れがあるからな。せめてあの聖女の能力の秘密が分かれば対応も考えられるんだが、だからこそ今は勝負には絶対にでれないと言う訳だ。お前らという人質を取る事であの聖女が大人しく無抵抗になってくれるといいんだが、あの焦りが全く見られない落ち着いた態度と肝のでかさには正直薄ら寒い恐怖すら感じるから、あの聖女の対応にはもう少し慎重にならないといけないようだな。全くあの聖女の能力が一体どんな物かが分からないお陰で人質の傍から離れることも出来ず、仲間の窮地にもさせ参じる事すらかなわず、ここでお前らと時間を潰さないといけない羽目になろうとは、全く難儀な話だ」
「その特Aランクの氷を操る聖女って恐らくは聖氷結のスターシャとかいう聖女ですよ。あの超有名な勇者クレイ・バーエルの傍に常にいる物凄く有名な聖女じゃないですか。あんな恐ろしい聖女とも戦っていたんですね。いくらあんたがレベル90の凄腕の剣士とは言え全く恐れを知らないようですね。ついこの間、俺も彼らには会いましたが、もしも近くに勇者クレイ・バイルがいたら、あなたを助けたという、その主様とやらももしかしたら危なかったのかも知れませんよ。あんたの主様とやらが一体何者でどのくらいの強さなのかは知りませんが、遠距離攻撃を持たないあんたが特Aランクの聖女に戦いを挑むのは流石に無理があるでしょ」
「たしかにな、俺が持つこの聖剣チャームブレードでは遠距離攻撃はできないからな。あのテファとかいう聖女も警戒しているのか中々俺の剣が届く間合いには入っては来ないし、全く困った物だよ」
「お姉様はそんな愚かなことはしないわ、そしてあなたはお姉様には必ず負けるわ。家のお姉様はただ優しいだけではなく、あれでいて狡猾さも併せ持つ絶対無敵の聖女様なんですから、必ずあなたに勝つ何らかの対策を考えているはずです!」
「フフフフ、どうやらそのようだな。あの歪んだ性欲を持つ粗暴なドラムを精神的に追い込み、飴と鞭を使い分けて上手く丸め込んで、愛と更生と言う名のお題目で相手を制するとは、その瞬時に対応ができる知能の高さと、何事にも動じない度胸と勇気、そしてそれらをすぐに実行に移せる素早い行動力は目を見張る者がある。あんな物をそばで見せられては流石の俺も疑心暗鬼になって中々攻められないという物だ。はてさて、この後あの聖女が返ってきたら一体どうやって揺さぶりを掛けてやろうか。流石に悩みどころだぜ」
耳長族のエドワード、ラエルロット、ツインの三人は紅茶の入った水筒と非常用にと持ち歩いているビスケットを互いに出し合いながら輪を囲みその場で軽い軽食を取る。
テファとドラムが地下にある下水道に消えてからもうすぐ二時間が経とうとしているこの状況に三人はどうしていいのかが分からず、どうでもいい雑談に花を咲かせながら暇を持て余していた。
「しかし流石に遅いな、一体下水道で何をしているんだろう。テファの話では、あの豚人族のドラムとか言う奴の体を綺麗に洗ってから、服は洗濯をして、その後にきついお説教を噛ましてやるとか言っていたが、ちょっと様子を見に行ってみようかな。まだ姿を見せないルナとミランシェの安否も気になるしな」
心配しながらその場から立ち上がろうとしたラエルロットに聖剣チャームブレードを持つ耳長族のエドワードがその刃先をラエルロットの首の先に当ててその行動を止める。
「こら、勝手に動くな。この流れに便乗して逃げだそうとしても無駄だぞ。今はお前らを信じて休戦の間だけは食事休憩を与えているんだから、勝手な行動は慎めよな。お前らは相も変わらず俺の大事な人質なんだから無闇に動かれては困ると言う事だ。解って貰えたかな」
冷静な目を向けながら淡々と話す耳長族のエドワードだったが、そんな三人にどこからとも無く穏やかな少女の声が飛ぶ。
そこに現れたのは勿論地下の下水道内にいた暁の聖女・テファである。テファは満面の笑みを浮かべると堂々とした足取りで、ラエルロット、耳長族のエドワード、そして言霊の聖女・ツインの三人の傍まで来る。
「長らくお待たせしました。そちらの休憩はもうお済みでしょうか」
「テファ、随分と長かったな」と言葉を返したラエルロットの首に、耳長族のエドワードが持つ聖剣チャームブレードの刃を当てられ、ラエルロットとツインはそこから何もしゃべれなくなる。
そんな二人の言葉を代弁するかのように、代わりに耳長族のエドワードが落ち着いた声で話し出す。
「やっと出て来たか。随分と待たせてくれた物だな。まあその分俺も休憩をする事ができたからこのままお前と戦う準備はできてはいるんだが、お前はどうなんだ」
「はい、私は勿論大丈夫です」
「そして、勿論お前の連れの二人にも休憩や傷の治療の場は与えているから体の痛みと疲労は回復していると思うぜ。これで満足か」
「そうですか、ありがとうございます。相手に情けを掛けてくれる程の常識のあるあなたが、一体なぜこんな無駄な事に加担をしているのでしょうか。やはりあなたの上司とやらの命令で動いているからでしょうか」
「まあ、そんな所だ。家の主様は生真面目で仕事にはかなりうるさいからな、だから相手が聖女や戦士の資格を持つ冒険者や異世界召喚者達である以上、俺は敬意を持って相手を全力で叩きのめすつもりでいるよ。それが戦場で戦う者に対する最大の礼儀だと信じているからだ。そしてその存在その物が物凄く危険で脅威となり得る奴だと確認された特Aランクの聖女・テファ、お前は絶対に始末をしなけねばならない相手のようだ。そんな厄介で危険なオーラをひしひしと感じるぜ!」
「ならもう戦う準備はできていると言う事ですね。では耳長族のエドワードさん、そろそろ戦いを始めましょうか」
「いいだろう、相手になってやる。その前に、俺の連れの豚人族のドラムは一体どうした。下水道のある地下に一緒に連れて行ったはずだが、なぜ奴は姿を見せないんだ?」
少し不安になりながらも一応は気にとめる耳長族のエドワードの疑問に、暁の聖女・テファはクスクスと意味ありげに笑うと、その安否を告げる。
「はい、彼ならいますよ、大丈夫です。彼がこれ以上間違った豚人族にならない為に、私がようく言って聞かせて教育的指導をして来ましたからもう大丈夫です」
「教育的指導だとう……?」
「さあ、生まれ変わったその姿を皆さんにも見せて上げて下さい。私の自慢の義理の愛すべき息子にして正しく生まれ変わった存在、その名も豚人族のドラムよ!」
「はい、母ちゃん!」
そのテファの大きな声が聞こえたのか地下の下水道内に続く入り口の階段から出て来たのは、緊張と諦めの表情を浮かべながら直ぐさま走り寄ってきた豚人族のドラムである。ドラムはテファの言葉に従うかのようにキビキビと動くとまるで母を敬愛し慕う息子のようにテファの後ろで直ぐさま行儀良く直立するが、その軍隊のような完璧な姿勢にではなく一番おどろかされたのは、ドラムのその見た目の変わりようである。
あのよごれで汚らしかったその体のけがれは綺麗に洗い流され、いい香りを漂わせるフカフカの毛並みに生まれ変わっている。
そしてあれ程汚らしく黄ばみ、所々がこすれその古さを漂わせていた体に纏う衣服や革の鎧もまるで買ったばかりの新品の品のように綺麗に洗濯アンド修復がされており、おろしたての新品のようにシミ一つ無い綺麗さと爽やかさを皆の目に晒す。
最初は買ったばかりの新品の衣服と革の鎧を身につけているかとも正直思ったがこの下水道内にそんな物があるとは思えないので、恐らくはテファの聖女の力の能力で来ていた衣服は綺麗に全ての汚れを粒子レベルで消し去って貰った物と考えられる。そしてきれいになった衣服や鎧の修復はテファが自らの手作業でどうにか修復したのだろうと軽く推察される。まさにそうとしか考えられないできだ。
そんな約二時間の経過を得て汚いドラムから綺麗なドラムに生まれ変わったテファの義理の息子は、背筋をピーンと伸ばしながらもどうにか助けをこおうと必死に視線をそれとなく耳長族のエドワードに向ける。
(助けて……助けて下さい……エドワード様ぁぁ!)
(わかった、わかったから、そう露骨に泣きそうな顔をするなよ。今助けてやるからな)
哀れみと同情にも似たそんなアイコンタクトをドラムに送りながら耳長族のエドワードは、手に持つ聖剣チャームブレードの届く間合いの範囲内の外で立ち止まる、暁の聖女・テファを激しく睨みつける。
「随分と家のドラムが世話になったようだな。ちょっと見ない間にすっかりと小綺麗になって、尚且つすっかり大人しく調教されて帰ってきたようだが、お前は一体ドラムに何をした。この二時間の間にまるで人が変わったかのようにふぬけとなり、明らかにお前に対しておびえているぞ!」
「あらあら、せっかく愛を持って少し過敏なほどに優しく接しているのにそんな事を言われたら少し悲しくなりますわ。ちゃんと心を込めて丁寧に体の隅々まで洗って差し上げただけではなく、衣服も綺麗に洗濯をして尚且つ壊れている革製の鎧のほつれや破損の箇所も心を込めて丁寧にそして綺麗に直して差し上げたのに、その言い草はあんまりですわ」
「でもその間にちゃんとドラムへの愛の教育的制裁と指導とやらは行ったのだろ。あの粗暴のドラムがマジで怯えるほどに完璧な指導を……」
「大した事はしてはいませんわ。私はただドラムさんの義理の母親として、愛を持って、人に迷惑を掛けてはいけない事を事細かく教えて差し上げただけですわ。なので人を虐待をしているパワハラ教育ママ的に言うのはやめてもらえますか。私の暴力は、女性に対して暴力的なドラムさんを力と精神力で制するために敢えて仕方なく行っている愛の鞭ですし、本当に憎くて行っている事ではありません。いくらきれい事を並べて言葉だけで諭してもそれで解ってもらえないのなら、母親としての尊敬に値するだけの威厳と愛とそれに力を持ってその正しさを示さなくては人は絶対に私の行動に・思いに・ついてきてはくれませんからね。だからドラムさんの信用を得るためにも私は真剣に彼に接して、わかって貰えるように努力をしているのです。そのかいがあってようやくドラムさんとはそれなりに打ち解け合える仲になったと自負しているのですが、そんな事を言われると悲しくなります」
「いや、絶対に打ち解け合ってなんかいないから、むしろ恐怖度が絶対的な物になっているように見えるのは俺だけかな」
「そ、そんな事はないですよね、私達は本当の親子としてもうかなりわかり合っていますよね。そうですよね、ドラムさん!」
その屈託のない明るい声で話す暁の聖女・テファの言葉に後ろで直立不動になっている豚人族のドラムは青い顔をしながら否定の言葉を言おうとしたが、直に「ドラムさん……」という地に響くような静かな怒りの言葉を聞き、ドラムは「はい、母ちゃんとは上手くやれています……母ちゃんのような人が俺の母親になってくれて、俺は今猛烈に幸せです!」という言葉を泣きながら吐く。
「ドラムの奴が中々のクズ野郎だったとはいえ、このテファとかいう聖女も何だか大概だな。悪人には容赦の無い性格と見える。憎しみを持って悪を打ち払おうとするのではなく、逆にその悪を制し改善させるが為に敢えて愛を持って自分の理想の考えを押しつけて来るとは、物凄く始末に悪い迷惑な奴だぜ。そして何が一番始末に悪いのかというと、自分の行いが正しいと信じていて、その行いで相手を救おうと本気で思っている所だ。ドラムは別に改善される事を望んではいないのにだ」
「フフフフ、いつか必ず私の愛を、望みを分かってくれる時が必ず来ますよ。その時を信じて私はドラムさんを正しく教育します。ドラムさんがいつか自分の犯した罪に向き合って、最終的には自分に誇れる生き方ができる日が必ず来ることを信じて」
テファは目を静かに閉じると、まるで何かに祈るようなポーズを取りながら胸の辺りで両手を合わせる。
その可憐に祈る姿はまさに聖女その物で、その神々しい姿に近くにいる耳長族のエドワードも思わずたじろぐ程だ。
そんなエドワードとテファの姿を交互に見ながら人質となっているラエルロットはある疑問を考える。
(耳長族のエドワードがテファをまだ攻撃しない理由はなんとなく分かる。テファが持つ聖女としての能力をまだちゃんと把握してはいないからだ。なら人質である俺達に尋問したり拷問をしたりして情報を探ろうとして来るかとも想われたがそんな事をして来る様子もないみたいだし、一体この男は何を考えているのか正直底が知れないぜ。自分の間合いに入ってこさえすれば絶対テファに勝てるという自信の現れなのか。それとも余りの警戒心にただ単に用心深いだけなのか。その考えを鈍らせ躊躇させているのはやはりテファが豚人族のドラムとかいう男に接しているあの異常な態度を見せられているからなのかもな。テファはあの豚人族の男が挑発してきたことをいい事に上手く利用して『まあ、ドラムとかいう豚人族を更正させたいという彼女の思いは恐らくは本物だろうが』わざと異常な女を熱演して耳長族のエドワードの心に無意識的に揺さぶりを掛けて攻撃を仕掛けてくるのを躊躇させているようだ。そんな異常性の強い何者にも動じないテファの愛の力が示す行動を直に見せつけられたら、もしかしたら何かあるのではと勘ぐるのも当然か。しかも聖女の力の源はその愛の大きさだからその異常な高ぶる愛の形を見せつけられたらその能力が一体どのような物かと勘ぐり、人質である俺達の傍から離れられないのも頷ける。もしもその決断を誤ればその時点でエドワードの敗北は決してしまうからだ。だからこそエドワードはテファが自分の長剣が届く間合いに入って来るのをただジーと待っているのだ。まあ相手があの特Aランクの聖女だと言うのなら疑心暗鬼となり異常なほど警戒をするのもうなずけるが、その肝心のテファもその間合いに入ったら攻撃が来ることをわかっているだろうからこの緊張状態はしばらく続く物と思われる。はてさてこの一新促迫のこの均衡を一体どうやって崩す事やら。そしてその肝心のテファの方だが……テファは本当に策を巡らして何かの奇策を考えているようだ。実際テファがあの暁の能力を発動させる事ができたらその時点で恐らくこの戦いの決着は簡単につくはずなのだが、余程慎重に動いているのかテファは中々あの光の能力を発動しようとはしないようだ……だが一体なぜだ。もしもその気なら、間合いの外の下水道に続く石階段の入り口付近から、遠距離攻撃とばかりに有無も言わさず、いきなりあの光の力を発動させたらそれでこの戦いの全てに決着を付けられるはずなのに、どういう訳かテファはあの力を使うのを躊躇しているようだ。でもいつかはあの暁の力を使ってあのエドワードと決着をつけないといけないんだからその力の発動を躊躇している暇はないはずなのだが、テファは一体何を考えているんだ。それともまさかとは思うが、もしもこの戦いの中でエドワードだけではなくその近くにいる俺達もあの光の力を至近距離で浴びてしまう事になるだろうから敢えて攻撃を躊躇しているのか。でもあの能力は確か相手を認識さえすればそれで攻撃対象が選べるとテファは言っていたはずだ。だからこそ俺は今もこうして生きているんだし、その後も体に異変は全くないのだからな。そ、それとも今はその暁の聖女の力を使えない訳がもしかしたら本当は他にもあるとでも言うのか。もしもそうならその訳とは一体なんだ。その要因がもしも俺達にあるのだと言うのなら、テファは必ず何らかの隙を作って俺達をここから下水道の方にと逃がそうとするはずだ。そのいつか訪れるかも知れない僅かなチャンスを逃さないためにも、今は静かにテファの行動を見守る他はないと言う事か。全く、無様にも人質に取られて、助けると誓った聖女に逆に助けられる羽目になろうとは、もう自分が情けな過ぎて、言葉もでないぜ。だがもしもテファの策略が失敗して絶体絶命のピンチに陥ってしまったら、その時は俺がこの体を張ってテファとツインの二人が逃げられる時間だけは絶対になんとしてでも稼いで見せる。そのためにも今は静かにその僅かな隙を見極めなくてはな)
そんな事を思いながら再び床へと座るラエルロットは露骨に不安な顔を見せるツインと共に、二人の戦いが始まるその時を静かに待つ。
お互いの心理を探り合うかのように睨み合うテファとエドワードの二人だったが、先に仕掛けてきたのは暁の聖女・テファの方からである。テファは後ろにいる豚人族のドラムに持参のビスケットを手渡すと、攻撃が届かない隅の方で食事を取っていなさいと優しく促す。その言葉に素直に従い後ろから離れたドラムの姿を見届けたテファはその視線を再びエドワードに戻すと、あることをエドワードに聞く。
「時にエドワードさん、そこにいるドラムさんの話では、あなたはノシロノ王国のお抱えでもあるあの十大英雄の一人がリーダーを務めているギルド。神聖・白百合剣魔団のメンバーの殆どを壊滅させたらしいですが、それは本当ですか?」
「ああ、この研究所内に潜入する前に外で一戦やらかして来ているからな、それは本当だぜ」
「一体どんな風にあの手強い凄腕揃いの美しい女性達だけで構成された彼女達にたった一人で勝つことができたのですか。その武勇伝を少し私に聞かせてみて下さいな」
「この土壇場でいきなりその話か。なぜその話にお前が興味を抱くのかは知らないが、まあいいだろう。少しだけなら話して聞かせてやるよ」
「ありがとうございます。あのざっと五十人くらいはいる美と力を兼ね備えた女性達をたった一人で倒したばかりか、そのギルドのリーダーであり、尚且つ最強の十人とも言われている第一級冒険者の中でも選りすぐりと名高い、レベル100の力を持つあの破滅天使のリザイアを一体どのような方法で倒したのかがどうしても気になりましてね、戦う前に是非とも聞いてみたいと思っていた所だったのですよ。しかもそこにはあのAランクの聖女でもある超重力使いのミレーヌとかいう少女も共にいたはずですから、その極めて困難な攻略難易度は更に跳ね上っていたはずです。なのにあなたは無事に戦いに勝ってその勝利を収めて来ている。いくらレベル90のあなたでもその全ての相手をし、そのまま勝利を収める事は普通に考えたらまずできない物と考えます。と言う事はやはりあなたが持つその自慢の長剣、聖剣チャームブレードのお陰なのでしょうか。その聖剣の力を充分に引き出し、更には使いこなしているからこその勝利とも考えられますね」
いきなり話出したテファの脈絡もないその会話に正直自慢話がしたい耳長族のエドワードは、仕方が無いとばかりにその時の状況を思い返しながら事細かく話して聞かせる。
「ああ、お察しの通りさ。あの強い絆と連携の取れた一団にたった一人で挑むにはいくらレベル90の剣士の俺でも正面切って戦うには流石にリスクが大きすぎるからな、だからここは安全と用心を兼ねていつもの人質作戦を取る事にしたんだよ。大体の聖女は愛と優しさが強いが為によくこの手になすすべ無く引っかかるからな、手強い相手にはよくこの方法を活用させて貰っているよ」
「そんなに誇りを重視する剣士なのにまた随分と卑劣で卑怯な手を使いますね。そこには真剣勝負という名の騎士道精神のような誇りやプライドのような物はないのですか」
「フフフフ、なるほど、夢見るお子様の発想だな。お前は真剣勝負についてなにか勘違いをしてはいないか。王国内で行われているルールのあるお上品な御前試合じゃないんだぜ、これは命を賭けた、負けたら速座に死を招く非常と理不尽極まりない真剣勝負だ、だからこそこの予想だにされてはいない状況やどうすることもできない理不尽な現実に素早く対応ができなかった者にこそ落ち度があると俺は思っている。つまりは戦いに負けた奴こそが全て悪いし、どんな卑怯な手を使ってでも勝ち抜いた奴こそが真の勝者でありそれが全てなのだ。その理不尽な厳しい現実を素直に受け止めろよな。つまりだ、仲間のためと思いただの闇雲に自己犠牲を買って出る知恵の足りない馬鹿どもは、戦場では絶対に生き残れないと言う事だ。あの綺麗な友情を語り合いながら死んでいった愚かな少女達のようにな。理解できたかな!」
「なるほど、あなたの戦いに対する心構えや姿勢はなんとなく分かりました。確かにあなたの戦いに対する姿勢は現実的で残酷な生死を賭けた戦場を生き抜くためにはきれい事は許されないことだと言う事も理解ができました。その理屈で白百合剣魔団のメンバーの幾人かを人質に取りながら、あのAランクの聖女でもある超重力使いのミレーヌさんの優しさに漬け込んでその聖剣チャームブレードの刃をミレーヌさんの心臓に突き刺したのですね。まずは彼女の聖女としての力を手に入れるが為に」
「そうしなけねばあのAランクの超重力使いのミレーヌはとてもじゃないが倒せなかったし、その後ろに控えている第一級冒険者の資格を持つ英雄、破滅天使のリザイアは絶対に倒せない事は分かっていたからな。死にゆく少女達の話では、研究所の方に別働隊として潜入をしているメンバーがまだ何人かいるとの話だったが、ここに来る途中でそんな奴らとはまだ出くわしてはいないから、恐らくは苦し紛れの嘘とも考えられるな。しかし育ちのいい身分の高い女子達で構成されていたからなのかは分からないが、ほんと仲間想いで情け深い甘ちゃんの多い奴らだったよ。そのお陰であの破滅天使のリザイアも倒せたのだからな、本当についていたと言った所か。そのリザイアも、信じていた仲間達に裏切られるような形でかなり惨めな死を迎えてしまったから、かなり印象深かったんだが。こんな状況を作り出して置いてなんだが、愛する者達に殺される絶望を味わいながら死んでいったリザイアにはつい同情をしてしまったぜ」
「それで、死から転成させた偽りの魂を持ったあなたの都合のいい奴隷達はその後はどうなったのですか?」
「ああ、名誉ある死を与えてみんなに自害をさせたよ。ただ一人だけまだ使い道のある超重力使いのミレーヌだけは生かして置いてあるから、彼女はある所を守らせるが為に敢えて配備をして来てしまったがな」
「配備……ですか……でもそのミレーヌさんはもう以前のミレーヌさんではないのですよね。ならそれはもう……一度死んで抜け殻となったその肉体に全く知らない何者かの偽りの魂がその体に宿り再びそのまま復活を遂げた、肉体はそのままに新たな人格を持つ全くの別人だと言う事なのでしょうか。つまり神聖・白百合剣魔団の殆どのメンバーはあなたが使う魔剣の毒牙に掛かってしまい、敢え無く殺されてしまったと言う事ですね。それで間違いはありませんね」
「ああ、そういう事になるな。だがその話とお前と一体どんな関係があると言うんだ。まさか本当にこの話をただ純粋に聞きたかったが為に、敢えて時間を取っただけではないだろうな」
「いえいえ、是非ともあなたの口から直にその話を聞きたかったと言うのは本当ですよ。この話を今ここでリアルタイムであなたに深く語らせる事に意味があるのですから」
「何だとう、それは一体どういう事だ?」
そう耳長族のエドワードが言葉を発した瞬間、場の空気が凍り付き、何かの怒りの感情がエドワードの周りを包む。だがその怒りは暁の聖女・テファの物では無く、その場の気配すらも感じない場所からジワジワと発生をしている姿や音すらも未だに見せる事の無い未知から来る魔力の高まりだった。
耳長族のエドワードはその場に漂う異常なまでの怒りの高まりを感じながら、その周りに漂う見えない何かに警戒をする。
「なんだ、一体なんなのだ、この負の感情の、怒りのエネルギーの高まりは、聖女・テファ、これはお前の仕業か!」
「エドワードさん、あなたがいけないんですよ。彼女が静観をしている前でさも得意げに神聖・白百合剣魔団の皆さんを殺した事実をさも赤裸々に語って見せるから……」
「彼女って一体誰のことだよ。ここにはテファお前と、ラエルロットと、ツインの嬢ちゃんと、ドラムと俺を入れた五人しかいないじゃないか?」
「フフフフ、でも本当は静かに静観を決め込んでいる、姿無きもう一人の人物がこの空間にいるのだとしたら、さてどうなりますかね。そしてその関係者があの神聖・白百合剣魔団のメンバーの一人だったのだとしたら、その存在を未だに感知ができないでいるあなたはもしかしたらかなりやばい状態にあるのかも知れませんね」
「ヤバイ状態だとう……それは一体どういう事だ。答えろよ、聖女・テファ!」
物凄く焦りながらもそう叫んだ瞬間、どこからとも無くいきなり飛んできた複数のマジックミサイルの着弾による爆風で地面に座り込んでいたラエルロットとツインが堪らずその場からテファの方へと勢いよく吹き飛ばされる。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥーーゥゥ、ドカアァァァーーン、ドカドカドカドカドカドカーーン!
「テファ、うっわあぁぁぁぁぁーーっ、なんだこの爆発は?」
「お、お姉様あぁぁぁぁーーぁぁ!」
「おもに白魔法使いが使うと言われているマジックミサイルが何も無い回りの空間からいきなりその姿を表し、常に俺を狙っているだとう、こんな何もない所から一体どうやってあの幾つも見えるマジックミサイルを召喚しているんだ。それにこのマジックミサイルは一体どこからあらわれると言うんだ。相手の姿形は全く見えないし、その怒りの感情を知ること以外で姿無きマジックミサイルの起動を読んで交わすことは、いくら高レベルの剣士でもまずできる芸当じゃないぞ。くそ、くそ、この状況は一体なんだ。まさか本当にここにるはずのない六番目の誰かが俺の会話をこっそりと聞いていたとでも言うのか。そしてこれは聖女・テファ、全てはお前の仕業か。お前はこうなることを待ち望んでいたのか。答えろ、聖女・テファ!」
「さあ、どうでしょうかね。でもこうなったのは耳長族のエドワードさん、あなたが無闇に神聖・白百合剣魔団のメンバーを無慈悲に皆殺しにした事を誰に憚る事無くついうっかり話してしまったからです、だからこそあなたに対しての怒りの一斉攻撃が始まったのです。それだけは確かです」
「テファ、一体何をした。敢えてこうなることもお前の作戦の内だったと言う事だな。ちくしょう、一体誰かは知らないがその姿を現しやがれ、その姿形だけではなく音も一切聞こえないとは、流石に卑怯極まり無いぞ、いいから姿を見せて何者なのかを名乗ってから戦いやがれ!」
「あらあら、戦場では卑怯な手に引っかかる方が悪いという理屈が心情のあなたが言う台詞ではありませんね。彼女の戦う戦闘スタイルが隠密を生かした暗殺がベースとなっているのですから、卑怯というあなたの理屈はもう通りませんよ」
「テファ、ちくしょう、やはりお前は侮れない奴だ。くそぉぉぉ、抜かったわ!」
「あ、そうだ、あなたが死んでからでは話せないので今この場で話しますが、もしもあなたに勝つことができたらその時はあの豚人族のドラムさんを貰って行きますよ。あれは私が生きている限りは母親として立派に育て上げて見せますからどうか安心して下さい!」
その冗談のようなテファの話を聞いていたエドワードはつい鼻で笑ってしまったが、爆発で見えない土煙の外側から聞き慣れたなんとも言えない悲痛な声が飛ぶ。
「エドワード様、絶対に勝って下さい。お願いします。その女が語る愛という名の異常な暴力からこの俺を救い出して下さい。お願いします!」
「あらあらひどいですわ、ドラムさん。こんなに、あなたの未来の行く末を願いながらも必死に頑張っているのに。愛情とはそう簡単には伝わらない物ですわね。この旅が終わったらあなたには最難関とも言うべき一流の神官職を目指して貰いますからそのつもりでいてくださいね。毎晩しっかりと勉強をして挑めば来年には試験に挑むことができますわ。いいですねドラムさん、道のりは厳しく非常に困難ではありますが、二人で力を合わせて頑張っていきましょう!」
「嫌だあぁぁぁぁーーぁぁ、嫌だあぁぁぁぁーーぁぁ、物欲と禁欲を厳しく律している、あの神官職を目指す勉強なんかしたくはないよぉぉぉ。エドワード様、助けて、助けて下さい。お願いします!」
「全く、このテファという少女は一体どこまでほんとの事を言っているのか、正直分からないな。あの神につばを吐いて生きてきた豚人族のドラムに敢えて神の為に生きその祈りを捧げる神官職を目指すようにその教えを説くとは、いくら悪どい心を持つドラムを更正させる為とはいえ正直やり過ぎだし、全く持って嫌な性格の女だと言う事だな。全く誰に似たんだか……恐ろしい女だ」
激しい爆発の度に空中には白い土煙が上がり、無数のミサイルの光の線がエドワードの方に飛び交い物凄いスピードで激突し飛散していく。そんな凄まじい爆発をただ唖然としながら見ていたラエルロットとツインの二人はそのいきなり舞い込んだ逃げ出す最大のチャンスに身をかがめながらその場から立ち去ろうと地を這いながらゆっくりと静かに動き出す。そんな二人がその奇跡とも言うべき希望をどうにか手繰り寄せる姿を見届けた暁の聖女・テファは、二人を透かさず助け起こすと直ぐさま話し掛ける。
「ラエルロットさんはツインちゃんを連れて直に下水道の方に避難をして下さい。あなた達の姿がなくなり次第、ここで暁の聖女の能力を発動させます!」
「ツインちゃんを地下にある下水道に下ろして、彼女にお前の光が直に当たらないようにすればいいんだな、分かった。いくぞ、ツインちゃん!」
「はい、分かりました。すぐに下水道の地下におりますね!」
自分が足手まといになっている事がわかっているのかツインはその思いを汲み取るとラエルロットに手を引かれる前に一人で石階段の方へと走っていく。そんなツインを見送ったテファは何も憂いは無いとばかりにラエルロットに目を合わせると、ゆっくりとした足取りで爆音と爆煙が辺りを包むエドワードの方へと進んでいく。
ドッカアアァァァァァーーン、ゴッゴゴゴゴゴゴゴオオォォォーーォォン!
一方爆煙に包まれているエドワードの方は視界が見えず、爆発音で音が遮断されているせいか回りの状況を掴む事ができない。
だが頭上には容赦なく猛スピードで落下をして来るマジックミサイルの嵐に内心エドワードはうざったく思っていた。
最初こそ意表を突かれてマジックミサイルをその体に数発ほど喰らってしまったが、直ぐに体勢を整えると焦りながらも周りの状況を確認する。
だがその場にいたはずのラエルロットとツインの二人は当然その場にはなく、既に逃げ去った後だと実感する。
「おのれぇぇぇ、あの人質の二人、上手い具合に僕から逃げ切りやがった。これもそれも全ては今現在闇雲に撃ち込んで来る、このマジックミサイルのせいだ。たく、正直ウザイぜ、一体どこの誰だよ!」
ヒュウル、ヒュウル、ヒュウル、ヒュウルルルルルーードッカアァァァァーーン!
その後も怒濤の連続ミサイル魔法攻撃は約一分間ほど休みなく続いていたが、まるで頃合いとばかりに、少し離れた何もない正面の空間からいきなり怒りに満ちたまだ若い女性の声が飛ぶ。
「私は神聖・白百合剣魔団のメンバーにして、第六級冒険者の正式な資格を持つ、白魔法使いのタタラと言う者だ。神聖教会からの別件の依頼でこの研究所の内部に密かに入り込んでいたが、私の知らない間にかけがえのない仲間達をよくもその長剣で悉く葬ってくれたな。道半ばで散っていった仲間達の無念を晴らす為にも、耳長族のエドワードとやら、この恨みはお前の命で償って貰うぞ!」
憮然とした態度でそう意気込んだ白魔法使いのタタラだったが、宙を舞う土煙の中から何事もなかったかのように耳長族のエドワードがその姿を現す。
耳長族のエドワードは何もない正面を見据えると、今なおその姿を見せないタタラに向けて話し掛ける。
「こんな貧弱なマジックミサイルを何千発喰らったとしても俺の体に展開しているオートガードシステムを破ることは絶対にできはしないぞ。つまり俺はお前の低レベルの魔法攻撃をいくら食らっても全くのノーダメージだと言う事だ。理解ができたかな」
「くそぉぉぉぉ、やはりレベル90の剣士のオートガードシステムの防御壁にダメージを与えてその数値を減らすには最低でもレベル70はないとまともには戦えないと言う事か。なんとも不甲斐なく口惜しいばかりだ!」
「フフフフ、白魔法使いか、お前らのような魔力を持つ物と聖女との違いはなにか、知っているか。それはお前ら魔法使いがその体に蓄えている魔力の貯蔵量だ。聖女が使う力は神聖力と呼ばれているが、お前達魔法使いが使う力は魔力だろ。そしてその器はあがいて修行をして、レベル100にしたとしても、お前がただの人間である以上、精々その埋蔵量は酒樽分の魔力しか溜めては置けないと言う事だ。その使用の量や魔法の大きさにもよるが、最低ランクと言われているCランクの聖女でさえも池くらいの大きさの神聖力の力を貯蔵ができるんだからその量の大きさはただの人間の女性と、人の枠を飛び越えた聖女とでは明らかにその力の差が比較にもならない事が見ていてわかるだろ。その無限とも言うべき力を振るう事ができる聖女と違い白魔法使いの魔力は、その強力な魔法を使う度にその魔力の減少率も半端がないよな。ずーーとその姿を消してここまで誰にもばれること無く追ってきたんだからその魔力の消費もそろそろ尽きるはずだ、しかも第6級と言う事はその魔力の貯蔵量もその酒樽の十分の四しかその蓄えは無いはずだ。なら今のマジックミサイルでの攻撃が最後の攻撃だったと言う事だ、そうなんだろ、白魔法使いのタタラとやら。お前はもう魔力が尽きて流石に限界のはずだ。後何本MP回復薬があるかは知らんが、残りも少ないはずだ。いいやもしかしたらもうないのかも、答えて見ろよ!」
そのエドワードの指摘になぞるかのようにその姿を何もない空間から現した白魔法使いのタタラは己の非力さと悔しさに唇を噛み締めるとガタンと片膝を床へとつくが、そんな白魔法使いのタタラに向けて耳長族のエドワードは手に持つ聖剣チャームブレードの刃先を上段から振り下ろそうと近づく。
「もうお前は終わりだ。そろそろ死んだ仲間の元に行くがいい!」
迷うことなく聖剣チャームブレードを振り下ろす体勢を取る耳長族のエドワードだったが、そんなエドワードの背後に土煙の中から静かに現れた暁の聖女・テファがいきなり声を掛ける。
「耳長族のエドワードさん、ようやくあなたの後ろを取る事ができました。では私の能力をお見せしますね」
「く、くそ、いつの間に!」
笑顔で言葉を掛けた暁の聖女・テファに対しいつの間にか後ろを取られていたことで焦ったエドワードは最初の上からの上段を直ぐさま後ろにいるテファに向けて素早く振り下ろすが、その一撃を事前に予測をしていたのか紙一重の所でどうにか交わして見せる。
だがそんな暁の聖女・テファに向けて耳長族のエドワードは透かさず剣先の起動を変えると、テファの左の心臓に目がけて二撃目の素早い一突きを繰り出していく。
目にもとまらぬ素早い動きに全く反応ができない暁の聖女・テファは自分の心臓に目掛けて突き出される鋭い刃先による一突きをまるで走馬灯のようなスローモーションで垣間見る。
「くらえぇぇぇーーぇぇ、特Aランクの聖女・テファぁぁぁ!」
透かさず放たれた素早い二撃目の一刺しは確実に暁の聖女・テファの心臓を捉えると、そのふくよかな胸がある衣服の中へと綺麗に入っていく。
グッサリ!
「がっはぁぁ!」
「よし、やったか。どうやら無事にその刃先を聖女テファの心臓に突き刺す事ができたようだ。そしてやはりこの聖女テファの言葉はただのはったりだったようだ。そんな彼女の能力が一体どんな物だったのかは今となっては知るよしも無いが、この聖剣による一撃を聖女テファの心臓に叩き込む事によって、特Aランクの聖女の命を確実に奪う事ができたようだ。そしてこの聖女には確実な死と、その後に訪れる新たな命が注ぎ込まれる。ほんと久しぶりに要らぬ緊張をした一日だったぜ!」
テファの敗北をその目で見てしまったラエルロットはまだ信じられないというような顔をしながら、その有り得ない悲惨な現実を直ぐさま否定する。
「そ、そんな、そんな馬鹿な、あのテファが暁の聖女の力を使う事も無く、その刃を心臓に受けて簡単に倒されてしまうとは、一体何が目の前で起きているんだ。テファの目論見と計算が狂って、その命を落としてしまったのか。そんな事が、そんな事が、あって溜まる物か。テファ、テファぁぁぁぁぁ、うわっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」
ラエルロットの絶望とも言うべき絶叫がこだまする中、長剣の刃を突き立てるエドワードはほくそ笑み、そして心臓を深々と刺し貫かれた暁の聖女・テファはその体を小さく震わせると、目の前にいるエドワードにその体を預けるのだった。
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