遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-34.欲望と断罪

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              3ー34.欲望と断罪


「なぜよ、なぜ私の攻撃が一切利かないのよ、この化物が。大体あれだけあったこの部屋の中に満たされていた水は一体何処に消えたのよ。サンプル体95657番の放った聖女の光を浴びた途端に全ての水が一瞬のうちに綺麗に消えてしまったわ。こんな事が実際にあり得るだなんて、未だに信じられないわ。本物の聖女の力を持つ私よりも才能に溢れ美しく、そして尚且つ途轍もなく強いだなんて、ほんとムカつく忌々しい女だわ!」

 圧倒的な力を見せつけられ、テファの聖女としての光の力を思い知らされたマダム・ナターリアは完全な誤算とも言うべき力の差に内心後悔と絶望を感じていたが底意地の悪さとプライドの高さから粋がってみせる。だがその恐怖からくる動揺は隠す事が出来ず、声が上ずり目が泳いでいるのが表面に現れる。

 そのマダム・ナターリアの怯えと不安を直ぐに感じ取った暁の聖女テファはここからが本番とばかりに相手の心の内を見透かすかのように話し掛ける。

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。あなたの分身とも言うべきサンプル体の少女の命を使って聖女となったあなたの非情な行いはとても許されるものではありませんが、私には最初からあなたを殺す気は全くないです。ただ分かってもらいたいのです、聖女として生まれ変わった意味を……選ばれた者としての責任となすべき矜持を!」

「何が責任となすべき矜持よ、ふざけるな。そんな物は糞くらえだわ。聖女の力を手に入れ、完全超越者となった私がなんで人々を助けたいと思うのよ、私はこの力で自分の若さと美のために……そして欲望のままに生きるの。それが大金をこの研究所につぎ込んで得た圧倒的な力であり、Bランクの聖女となった私の長年の願望よ。そしてその願いが叶った今、この力は私のわがままを押し通すためだけに使わせてもらうわ!」

「いいえ、そんな身勝手な事は絶対にさせません。聖女となった以上あなたにも聖女としての使命を無理やりにでも全うして頂きます!」

「ぬかせえぇぇぇ、サンプル体の消耗品無勢があぁぁぁ、人間族様をなめるなあぁぁ!」

 激昂しながらも勢い良くそう叫ぶとマダム・ナターリアの周りの空間は大きく歪み、その亀裂の中から大量の水が勢いある水柱となって暁の聖女・テファを吞み込もうと怒涛の如く迫りくる。だがそんな超パワーと化した水柱も暁の聖女・テファの体に直撃する寸前、まるで超高熱を放つストーブに当てられ瞬時に蒸発する氷の個体のように光の粒子となってその場から綺麗に無くなる。

 シュゥゥゥーーゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

「ば、馬鹿な、クッソぉぉやはりダメか。私が操る水の力では、彼女の体に触れる事すらも出来ないというの。ほんと忌々しい力だわ!」

「気は済みましたか、マダム・ナターリアさん。では今度はこちらから参ります。ミランシェさん、99754番ことツインの事はあなたに任せます」

 テファは少し離れた後ろにいるミランシェとツインの二人をチラッと一瞥するとマダム・ナターリアの方に向き直し直ぐに光の神聖力を発動させる。

「ではそろそろ受けてください、私が放つ暁の聖女の力を結集し凝縮させた聖女の根源とも言うべき光の力を。この力はあなたに慈悲深い制約をもたらします。この呪いの力を一身に受けて自分の過ちを反省してください。では受けなさい……暁、太陽真珠!」

 何かに祈るような形で力を発動させるとテファの体が今まで以上に眩しいくらいに大きく光り輝き、その神秘的な光に周囲は瞬く間に包まれる。


 ピッカアァァァァァァァァァァーーァァァ!


 その暁の力が発動するのと同時にミランシェは人の目には見えないくらいの超スピードの速さで地面に広がる重い石畳を力強く蹴り上げると、宙に浮く二メートル程の石畳は二人の体を覆い隠すくらいの大きな石壁となり、その真下に(円形にして約百二十センチの)穴を瞬時に掘って見せる。

 石畳が宙に浮いている僅かな瞬間にミランシェはそのままツインをその穴の中に引きずり込むと、二人が入ったのと同時に空中から落下をして来た石畳が寸分の狂いもなくそのまま綺麗に穴に蓋をし、入口を完全に閉ざしてしまう。その時間は僅か一秒ほどの出来事だ。

 そう全ては暁の聖女テファが放つ暁の光から逃れる為に敢えて光が届かない地中の中に身を隠し、そして上から蓋をしたのだ。

 そんな二人が突如としてその場から消えた事に全く気づく様子の無いマダム・ナターリアは、その強烈な光の眩しさから逃れる為に暫く両手で目を覆い、背を向け体をかがめていたが、光の力が徐々に収まると、そのまぶしそうな顔を暁の聖女テファに向ける。

「くそ、眩しい、眩しいぞ、今の光は視界がしばらく見えなくなるくらいに目が眩んで一番眩しかったぞ。サンプル体95657番よ、一体私に何をした?」

 今までにない程に神々しい光の力をその身に直に浴びてしまったマダム・ナターリアは体に何の異変もない事に正直安堵と不安を隠せないでいるようだ。
 そんな彼女に暁の聖女・テファは相手の目を見据えると、はっきりとした口調で言う。

「マダム・ナターリアさん、あなたには聖女としての気構えと覚悟が足りないようなのであなたが気持ちよく人の為に愛ある慈善活動ができるようにと特殊な術式を体内に組み込ませてもらいました。安心してください、これであなたは名実共に正しい心と行いができる誰にでも愛され頼られる正真正銘の聖女に生まれ変わる事が出来ますよ。良かったですね。これからは自分の欲望や妬みや憎しみの心に打ち勝って、是非とも人々に愛される聖女になってください」

 愛くるしい笑顔を向けながら言う暁の聖女・テファにマダム・ナターリアは(こいつ何を言ってるんだ?)と正直思ったが、テファが放つ最強最高の暁の神聖力と言い放った『暁、太陽真珠』という謎めいた技が大した実害がなかった事に思わず安堵の溜息を漏らす。

「ふ、ふっははははははは、なにか思わせぶりな事を言っていたが、結局は何も起こらないじゃないか。何が聖女としての使命を無理やりにでも全うして頂きますだ、ふざけた事をいいよって、暁の聖女の神聖力を結集した力とか何とか抜かしてたから思わず身構えてビビってしまったわ。肩透かしもいいとこね!」

「フフフフ、本当にそう思いますか。でもこれであなたは正しい心を持った聖女に嫌でも生まれ変わる以外に生きる道が無くなりました。これを機にあなたには是非とも心を入れ替えて正しい聖女としての聖堂を歩んで貰いたい物です」

 黄金色に輝く美しい長い髪をなびかせながら真顔で言うテファだったがここに来て疲れが出て来たのかフラフラとしながらつい片膝を地面へと落とす。

 ガクン!

 無理をしていたのか体を震わせ行き成り片膝を落とすテファの姿を見たマダム・ナターリアは彼女の身体の異変に気づくと、その僅かな隙に勝機と光明を見出す。

 なぜならその白い衣のはだけた首筋には背中や肩から広がったであろう光の亀裂の線がまるでガラスが割れたひび割れのように伸びていたからだ。

 明らかに暁の聖女テファが放つ神聖力の力を納める器の限界は近づいている、それはまさにテファの肉体の事である。そう確信したマダム・ナターリアは思わずにんまりと不気味な笑顔を作る。

(な、なんだか分からないけどこれはいけるわ。どうやらサンプル体95657番は力の使い過ぎでその体に膨大な負荷がかかっていたようね。つまり暁の聖女のサンプル体はもうその強大な力を自らの肉体の器に入れて置く事ができないくらいにパンク寸前だという事。つまりこのまま彼女に力を使わせ続けさせる事ができたら95657番はその膨大な神聖力の力に体が耐えられなくなって勝手に自滅をするという事だ。なら、そうと分かったのなら、私の取るべき行動は一つよ!)

 僅かな勝機を掴む為に瞬時に邪悪な考えを巡らせたマダム・ナターリアは暁の聖女・テファに更に力を使わせようとわざとらしく挑発をする。

「その光の亀裂は……そう、そういう事か。実はあんた、かなり弱っているみたいね。余裕ぶってはいるけど、その光の権能を振るう度に体には過度な負荷が掛かっているようね。そうなんでしょ、その体の異変はそういうことよね」

「……。」

「図星みたいね。圧倒的な力を見せつけられて正直かなり焦ったけど、このまま長期戦に持ち込む事ができたら先に崩壊しそうなのはどうやらあなたのようね!」

 暁の聖女テファの体の異変に気づいたマダム・ナターリアは相手の僅かなほころびから正気を得ようと必死に挑発し不安を煽るが、暁の聖女テファは大きく溜息を付くとその場からゆっくりと立ち上がる。

「そうですか、私の欠点とも言うべき弱点に気づいたのですね。でも気づくのが少し遅かったようです。なぜならもう勝負は既に決してしまっているのですから」

「勝負はもう既に決しているだとう、それはどういう事よ。言っておくけど私はまだ充分に戦えるわよ!」

「いいえ、もうあなたは戦えません。少なくともこの私とはね。いいえ、もっと正確に言うと、悪意や欲望を込めた攻撃はもう二度と発動させる事はできないでしょう」

「なんですって、それは一体どういう事よ。意味が、意味が分からないわ?」

 テファの言っている言葉の意味が理解できず思わず聞き返すマダム・ナターリアだったが、そんなナターリアにテファはにこやかに具体的な提案をする。

「なら試しに今までと同じように悪意を込めた攻撃を私にして見たらいいじゃないですか。そうすれば私が言っている言葉の意味が分かると思いますよ」

「ふ、ふざけた事を……私の攻撃があなたに届かないからって上から目線で余裕ぶってんじゃないわよ。これでもくらえぇぇぇ!」

 ヒステリックに烈火の如く叫ぶとマダム・ナターリアは水の権能で攻撃しようと神聖力を高めだす。だがその瞬間マダム・ナターリアの体に強烈な痛みが走り、目の前の視界が突然閉ざされる。

 物凄い激痛と共にマダム・ナターリアの見ている世界が突如真っ暗闇の闇に包まれたのだ。

「な、なに、なによこれは、体が物凄く痛いわ。それにいきなり目の前の視界が一切見えなくなった。これは一体どういう事よ。一体私の体に何が起こっているというの。説明してよ。まさかこれはお前の仕業か。95657番のサンプル体!」

 体に走る電流の痛みで悶え苦しみながらも見えない視界をどうにか確保しようと両手で虚空を描くしぐさを見せるマダム・ナターリアに対し、暁の聖女テファは今起きている現象を静かに語る。

「あなたは相手に対し、私利私欲や悪意からくる殺意を込めた攻撃は一切できなくなりました。つまり誰かを守る為にしかその水の力は使えなくなったと言う事です。ラエルロットさんが持つ、思いを具現化する苗木の効力とは違い、私の神聖力とも言うべき太陽真珠という技は相手の思考や行いを半ば強制的に封じる荒技です。なので考えようによってはかなりエグく、そして厳しい神技とも言えるでしょう。ですが欲深い自分勝手な考えを持つあなたには丁度いいのかも知れませんね」

「なによ、つまりはどういう事よ?」

「つまり、マダム・ナターリアさん、あなたは誰かに悪意を抱いたり、自分の私利私欲の為だけにその聖女の力を使うと体に凄まじい痛みが走り、それすらも無視して更に力を使い続けると、眼球がこの世から消滅して視力が無くなると言う事です」

 テファが語る信じられない言葉にマダム・ナターリアは思わず絶句する。

「視力が……いいえ、眼球その物が無くなるですってぇぇぇ……馬鹿な、そんな馬鹿な事があって溜まる物ですか!」

 ヒステリックに大絶叫するマダム・ナターリアは直ぐに瞼の上から眼球を触るがテファの言うようにそこにあるはずの眼球が確かにないようだ。手の指の感触から嫌でもそれが確認できる。

 どうやらテファが言うように暁の聖女の光の力によって本当にマダム・ナターリアの両目の眼球は光の粒子となってこの世からあの世へと消滅させられてしまったのだ。
 その有り得ない驚愕の事実に必死な形相で焦るマダム・ナターリアは顔から大量の汗を流すと大きな声で叫ぶ。

「私の、私の目は一体どこに消えてしまったの、これじゃ全く見えないじゃない。卑しい95657番のサンプル体の人形の分際でよくもこんなふざけた真似をしてくれたわね。許せない、絶対に許せないわ。早く、いいから私の目を直ぐに元に戻しなさい。早くして。勿論できるんでしょ!」

「はい、勿論元に戻す事も出来ますよ。できると言うかあなたの心根次第で勝手に治るのですがね」

「私の心根次第で、ですってぇぇ?」

「はい、そういう事です。私のこの暁の光の能力を浴びた人間は、欲望や悪意を抱きながら聖女の力を使った時点で、警告とばかりにその体に強烈な痛みが走り、それでも更にその警告を無視して更に力を高め続けたらその邪な心を感知して、暁の光の力が自動的に発動します。その消滅に至る第一弾が眼球の消失なのです。ですがこの能力は心を落ち着かせて悪意や私利私欲を捨てる事によって再び失った体の箇所を取り戻す事が出来ますからどうか安心してください。つまりその悪意ある心のままに邪悪な攻撃心や敵意を向けてしまったら、眼球だけではなく徐々に体のあらゆる部位の箇所が光の粒子となって消えて無くなって行くと言う事です。ですが直ぐに正しい心を取り戻す事ができたら失われた体の箇所は直ぐに戻ってきますので、今後は邪な悪意や欲望は抱かないようにしてください。でないともしかしたらそのまま手遅れになることもありますから。この能力こそがあなたを正しい心と愛ある慈しみを育む半ば半強制的に心の補正をするあなたに掛けた私からの愛ある呪いです。この呪いの力によってあなたは真の聖女としての矜持を知り、そして正しく生まれ変わるのです」

「ふ、ふざけんな、何が真の聖女として生まれ変わるだ。お前の能力の思い通りになって溜まるものか。いいからこの忌まわしき呪いの効力を解きなさいよ!」

「だから、あなたの心の中の悪意を取り除いて心の底から反省をすれば自ずと失った視力は元に戻りますよ。暁の太陽真珠とはそういう能力なのです」

「ちくしょう、ちくしょう、視力を……眼球を再び取り戻して元通りにしたいなら、邪念を捨てろと脅迫をするつもりか。私がやっとの思いで授かった神聖力の力があなたの身勝手な能力のお陰で全てを支配されてしまうだなんて屈辱以外の何物でもないわ。絶対にこんな事があって溜まる物ですか!」

「もういい加減諦めてください」

「だ、誰が諦める物か。過去にあなたが研究所の若者達数名に強姦されそうになった話を聞いたけど、その時もこの光の能力を使って、悪意ある荒くれ者の研究員達の視力を一時的に奪って難を逃れたと言う事か。あのフロアーの中では一切能力は使えないはずなのに、能力を暴走させて相手を制圧したのね。そうなんでしょ!」

「そんな時もありましたね。我を忘れて必死に抵抗したせいか能力が暴走して危うく研究員の皆さんを皆、その体と命もろとも光の彼方へと全てを完全に消し去ってしまう所でした」

「なんにせよ私のプライドに賭けてもあなたには絶対に屈服したりはしないわ。私が自分の欲望のままに力を使ったらその度に体のどこかを消滅させるという呪いを掛けて、恐怖と痛みを与えて無理やりに言う事を聞かせる気だったみたいだけど、宛が外れたわね。このままあんたの能力の意のままに操られるくらいなら、最後にあがきにあがいてあなたに一矢を報いてやるわ。くたばれ、偽善をかざすバカ女あぁぁぁぁぁぁ!」

 まるで錯乱したかのように鬼気迫る顔で言うとマダム・ナターリアは最後の手段とばかりに、声と気配で暁の聖女・テファの位置を推測し飛びかかる。

「私はまだ負けてはいないわ。遠距離攻撃での水の攻撃はあなたの体を覆っている光の障壁で全てが防がれてしまうみたいだけど、接近戦でならどうかしらね。すぐ近くで爆発的に水の神聖力の力を膨張させればいくらあなたでも全てを一瞬のうちにかき消す事は出来ないんじゃないかしら。その爆発的な水圧の一撃に私は全てを賭けるわ。あなたの体に直接抱きついて水の力を暴走させてやる!」

 両手を広げながら必死に抱きつこうと迫るマダム・ナターリアに暁の聖女テファは仕方がないとばかりに最終的な警告をする。

「体には痛々しい電流が走り、視界は全てが完全に暗闇に閉ざされているというのにそれでも懲りずに向かって来ますか。あなたの能力はもう完全に封じられているというのにその執念は一体どこから来る物なのでしょうか。心を入れ替えて善行を行えば視力は直ぐに元通りになるというのに、そんなに人々を助ける善行をないがしろにしたいのですか。自分自身の徳を急激に落としてまで、一体なぜです?」

「うるさい、うるさい、私は自分の若さを再び取り戻す為だけに大金をつぎ込み、そしてようやく聖女の力を手に入れたんだ。それなのにこんな中途半端な道半ばでお前なんかに、私のこれからの幸せを、希望ある人生を邪魔されてたまるかあぁぁぁ!」

 眼球の無い不気味なくぼんだまなこを向けながら必死に抱きつこうとするマダム・ナターリアの執念に暁の聖女テファは全く動じることなくその殺意ある意気込みに応える。

「せっかく聖女として更生するチャンスを与えてあげたというのに、それがあなたの下した決意ある選択ですか……非常に残念です。ではその悪意と殺意を抱えたままの邪な姿で私の体に触ってみてください。まあ触れる事ができたらの話ですがね!」

 悲しみに満ちた顔を見せる暁の聖女テファの体に必死に抱きつこうとしたマダム・ナターリアだったが、その瞬間マダム・ナターリアの体の全てが光のチリとなって瞬時に搔き消える。

 バッシュゥウゥゥゥゥゥーーン!

 それはまさに一瞬の出来事であり、瞬く間に光の塵と化したマダム・ナターリアは自分の死すらも認識する事なく今その命を終える。
 そうマダム・ナターリアは、明らかに上位の存在であるテファに一矢すらも報いる事なく、その命を落としてしまったのだ。

 そのあっけないマダム・ナターリアの最後の姿にやるせない思いを募らせる暁の聖女テファは軽く両手を合わせると、マダム・ナターリアの冥福を静かに祈り続ける。
 そんなテファの少し離れた背後の地中から、まるで二人の戦いが終わった事を知っていたかのように小撃砲使いのミランシェと言霊の聖女ツインの二人がそそくさと穴の中から這い出して来る。

 既に決着がついた事を知った二人は各々が衣服に付いた土や誇りを払いのけると安堵をした顔をしながらテファのそばまで駆け寄る。

「どうやら戦いは終わったようですね。でも甘いですね、まさか敵に情けをかけて更生を求めるだなんて。でも結局は自分のプライドの高さと悪意ある欲望が災いして自滅の道を選んだようですがね。だから一気に決着をつけて下手な情けは一切かけるなと言ったのに、余計な手間をかけた物です」

「そうですよ、テファおねえさん。余裕で相手に勝てるんだったら早めに決着をつけてください。もう寿命が縮まるかと思いましたよ」

「二人ともごめんなさい、どうやらいらぬ心配をかけてしまったようです。でも出来る事ならマダム・ナターリアさんには是非とも心を改めて貰って、人々を助ける本当の聖女としての道を歩んで欲しかった物ですから、話し合って説得をしてみたかったのです。でも最終的には脅迫めいた行いをして彼女を精神的にも肉体的にも追い込んでしまいました。そして結局は彼女を死なせてしまった。やはり親身になって相手のことを考える心優しいラエルロットさんのようにはいきませんね。人一人説得すら出来ないだなんて、ほんと自分が情けないです」

 笑顔を返しながらもどこか悲しい表情を見せる暁の聖女テファに向けてどこからともなく甲高い明るい声が飛ぶ。
 その声にハッとした三人は後ろを振り返って見ると、部屋の出口の大きなドアはいつの間にか大きく開かれ、そのドアの前には一人の女性が腕を組みながら仁王立ちで立っていた。

 その女性とは、ラエルロットの仲間のパーティー達からその命とも言うべき七色魔石を奪い取り。遥かやみなる世界の黒神子・天足のアトリエの圧倒的な強さに敗北をし。その後はどさくさに紛れてどうにか研究所の奥深くに潜入する事に成功した異世界召喚者であり、欲深でまだ名も知れない姉御肌の気質を持つ魔法剣士の女性である。

 研究所内にある地下に降りて以降、全く姿を見せる事はなかった魔法剣士の力を持つその女性は、目の前にいるテファ・ミランシェ・ツインの三人に対し特に臆することなく意気揚々と挨拶をする。

「初めまして、勇気ある選ばれし三人のお嬢さん方。ここからは私が道案内をしてあげるわ。だからあなた達も私に力を貸して頂戴。正直このまま進もうにも戦力が足りなくて困っていたのよ!」

 そう明らかに何か魂胆のある異世界召喚者のその女性は、大胆にも三人に近づくと堂々とした口調で取引を持ち掛けるのだった。
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