87 / 104
第三章 二人の聖女編
3-35.テファニアの誤算
しおりを挟む
3ー35.テファニアの誤算
水の扉を守るBランクの聖女・超水圧を操るマダム・ナターリアと、大地の扉のフロアーに閉じ込められていたAランクの聖女・超重力を操る聖女・ミレーヌの両方が倒されたとの情報を聞いたダクト所長は顔を邪悪にニヤつかせると調査報告の資料を食い入るように見つめる。
侵入者達を迎え撃つべく急遽用意した力ある二体の聖女達を配置した二つの扉だったがその試練に便乗した実験は見事に打ち破られる。
その才能ある驚異の能力と人を躊躇なく殺害ができる凶暴たる二人の聖女の攻撃性を研究員達は皆が目の当たりにし認めていたが、Bランクの聖女マダム・ナターリアと、Aランクの聖女ことミレーヌがラエルロットと暁の聖女の二人に完全なる敗北を与えられた事を知り、言い知れぬ不安と焦りが重い空気となって実験室全体を恐怖で包み込む。
だがその直視し難い事実に一番頭を抱えているはずのダクト所長は大丈夫だと言わんばかりに全ては想定内だと不適に言ってのけると、次なる指示を不安がる研究員達に送る。
何だか妙に落ち着きがあるダクト所長の口調や凄みのある不気味な態度に密かに尊敬と畏怖の念を抱いていた研究員達は、その言い知れぬ恐ろしさから緊張しながらも丁寧に一礼をすると、今現在この研究所の地下施設内に侵入を試みているはずの愚かな侵入者達を迎え撃つべく速やかに自分の持ち場へと戻っていく。
頭脳派ぞろいの研究員達も誰もが憧れ、そして密かに恐れる、羽織る白衣がよく似合うこの中年男性の名はダクト所長。
この研究所の責任者にして、人工的に聖女を作り上げるという名目でその技術を確立し完成させた魔導遺伝子生物学の博士号を持つ博士であり、第三級冒険者の資格を持つ偉大なる天才である。
そしてラエルロットたちがこの地下施設からの脱出をする際に求めている、外に出られるカードキーと聖女になれる新薬を持つ、この研究所に巣食う最後のラスボス的存在である。
女性なら誰もがかなりの確率で聖女になれるという新薬を密かに研究し開発をしていたダクト所長はついには念願だった聖女を人工的に作り上げる技術を確立し、ついには生産段階が可能な所まで時間を費やしたが、その新薬の危険性を充分に理解をしていたノシロノ王国の貴族や王族達に事実が知られた事で王国側の冒険者や敵対している異世界召喚者達に施設内への潜入を許してしまう。
ノシロノ王国側は研究所の施設内にある極秘機密資料や情報を速やかに回収後は機材や証拠となる品々を悉く破壊し全てを闇に葬る予定であったが、その事に一早く気づいたダクト所長は自分の長年の研究に仇名す侵入者達を全て排除するべく大胆にも次なる行動に移る。
既に聖女になれる新薬の秘密を手に入れるべく侵入を試みていた異世界召喚者達やノシロノ王国側の貴族達が送り込んだ神聖白百合剣魔団、更には遥か闇なる世界の黒神子の一人、天足のアトリエが潜入している事を知ったダクト所長は正直かなりの危機感と苛立ちを露わにしていたが、自分が目をかけていたサンプル体95657番と99754番の脱走劇を知り、この危機たる状況を上手く利用する為にある極秘の実験を密かに試みる。
そのかいもあり暁の聖女を始めとした他の侵入者達はこの研究所内からの脱出を試みる為に地下にある二つの扉を撃破し、真っ直ぐに最終地点となる実験施設のあるフロアを一目散に目指すが、その事を知ったダクト所長は自分の邪悪な計画が思い通りに動いている事に内心歓喜の声を上げる。
そんな歪んだ思惑に心を弾ませるダクト所長の前に一人のうら若き美少女が姿を表す。
腰まで伸びた黄金色の美しい長い髪と張りのあるきめ細かい白い肌が印象的なその女性の名はテファニア……神聖白百合剣魔団のメンバーにして、第七級冒険者の資格を持つ欲深で血気盛んな女性剣士である。
多額のお金を払い、自分の遺伝子情報を提供し、この研究所で作られているサンプル体95657番の体内から七色魔石を取出し、その命の力を糧に聖女になる予定だったテファニアは、近々行われるという研究施設内の破壊計画の事を知り、その計画が実行される前により良い形で、聖女の力を手に入れる為に打算ある計画を画策する。
そう彼女は自分の欲望を叶える為ならば内心嫉妬で毛嫌いをしているサンプル体の95657番のテファとも(欺きながらも)平気で手を組み、王国側をも簡単に裏切る事のできる欲深な女性だ。
本来は神聖白百合剣魔団のギルドのメンバーとしてこの研究所の地下に閉じこもっているダクト所長を断罪しなけねばならない立場のテファニアだが、彼女自身もこの研究所で極秘に作られている聖女になれる新薬を強く求める被験者候補の一人でもある為、本来なら敵対するはずのダクト所長とも手を結ぶ事にはなんの罪悪感も躊躇もない。
そうまさにテファニアは自分の欲望と利益を叶える為だけに損と得を同時に天秤にかけ、二重スパイのような事をしているのだ。
欲深で腹黒い野望を持つテファニアはダクト所長のそばまで来ると、まるで相手の腹を探るかのように口を開く。
「へぇー、私のクローンでもあるサンプル体95657番だけではなく、ラエルロットを始めとした他のゆかいな仲間たちの一行も無事にこのフロアに確実に迫ってきているみたいね。私が教えたこの研究所から外へと出られる情報を信じて、幾多の苦難を乗り越えてここまで来ていると言う事は95657番はかなりの神聖力を使っていると言う事でいいのかしら?」
「どうやらそのようだな」
「あらそうなの、なら彼女の体の崩壊ももうまじかと言う事よね。まあ私としては彼女が灰となって死んだ後に七色魔石だけを回収できればそれでいいんだけどね。下手に暁の聖女と対峙して、命を惜しまれてもめんどくさいしね。だから彼女が疲弊するのをただひたすらに待つわ。でもあなたはこの後どうするつもりなのかしら」
「ん、それはどういう事だ」
「フフフ、しらばっくれるんじゃないわよ。このままじゃ確実に今現在実験施設にいるダクト所長と95657番を始めとしたラエルロット達一行はいずれは嫌でもこの場所で鉢合わせをしてしまうと言う事になるわ。そうなれば当然暁の聖女はダクト所長と話し合いを試みようとするはず。でもその話し合いは絶対に決裂で終わるでしょうね。なぜならあなたは確実に彼らとの戦闘の方を選ぶでしょうから戦いは避けられないと言う事。そうなんでしょ」
「ああ、そういう事だ。私はお前の、特Aランクの聖女の力を持つサンプル体95657番にだけ興味があるからこそ彼女を慈しみ、そしてその進化と未知なる可能性を直に試しているのだ。だが他の取り巻き達はただの邪魔ものでしかない単なるオマケの用な奴らだから、邪魔者は速やかに殺すつもりでいるよ」
「へぇーそうなの、でも彼ら一人一人の功績を見ていても分かるように、彼らはあの田舎臭い見た目と貧弱なレベル差にも関わらず、何故かなかなかに強いみたいだから、いくら第三級冒険者の資格を持つとされるダクト所長でも油断は出来ないんじゃないかしら」
「フフフ、どうやらそのようだな。あのラエルロットとかいう未熟な青年は最低レベルのレベル1と聞いていたが、何故かは知らんがまだしつこく生き残っているようだし、あの害虫でもある蛾の妖精の少女とゴミくずの存在でもあるCランクの聖女の中でも末端に位置する99754番の言霊の聖女の二人はそんな彼の強運に導かれてここまで来ているようにも見える。全く忌々しい事だよ」
「強運ね……確かにラエルロットは運だけはいいみたいね。本来ならもうとっくの昔に死んでてもおかしくはない状況だしね。なぜ未だに生きていられるのかが不思議なくらいよ。それともラエルロットにはまだ私達の知らない隠している秘密でもあるのかしら。なにか隠している特殊な能力があるとか……まさかね、そんなのあいつにあるはずがないか」
「それと意外だったのはあのおかっぱ頭の髪型をした田舎臭い小撃砲使いの少女の方だ。彼女は一体何者なのだ。あの少女もまたあの木刀を持つ青年と同じように第八級冒険者試験を受けに来たまだ低レベルの受験生の一人のはずだが、彼女のあの強さははっきり言って異常だ。彼女のレベルの数値は絶対に一桁や二桁ではあるまい」
「ふぅ~んそうなの、まああんなぽったでのよく分からない田舎臭い小娘のことなんてどうだっていいわよ。正直興味も無いしね。そんなことよりこの後は一体どうするつもりよ。超重力を操る大地の聖女と超水圧を出現させる水の聖女が不覚にも破られた今、不完全体の不良品とはいえ、あの恐ろしくも忌々しい光の力を持つ暁の聖女もどきを一体どう御するつもりよ。その妙案があるのなら是非とも聞かせて欲しいものね」
「ふん、相変わらず悪どいな、お前は。あのサンプル体95657番はお前との血のつながりがある言わば姉妹のようなものだろ。その彼女に対しお前はなんの感情も抱かないのか」
「抱かないわ、この研究所で作られた彼女は私に取ってはただの聖女になる為の部品のパーツに過ぎないもの。私の美と能力を飛躍的に向上させるただの部品に一体どんな感情を示せというのよ」
特に悪びれる様子もなく平然と言ってのけるテファニアの冷酷無知かつ非人道的な冷たい言葉に、話に耳を傾けていたダクト所長は邪悪ににんまりと笑う。
「フフフフ、如何にもお前らしい答えだな。その立場や倫理性に関係なしに利害と欲望でその行動を示すか。だから利用すべき物は何でも利用するというわけだな、そのしたたかさには正直恐れ入ったよ。いいだろう、自分の欲望と野望を叶える為だったら他人を平気で切り捨てる事のできるお前のそのあえなき決意と決断に免じて私の最後の切り札にして、これまでの研究の成果とも言うべき最終計画の全貌をこの場で開示しよう!」
ダクト所長が何やら意味ありげに笑顔を作ると近くの長机に近づき、その上に乗っているパソコンのような機械に両手を添える。
そのまま物凄い手慣れた手つきで目の前にあるキーボードに指を這わせながら文字を素早く打ち込んでいくと、最後に力強く決定ボタンを押す。
ピィー。
その電子音に合わせるかのように今度は後ろにある大きな壁がゆっくりと開き始め、まるで外壁の大きな壁が部屋の角に消えていくかのように豪快に開閉されていく。
ゴゴゴゴゴゴゴーーン、ガタン!
開かれた大きな壁の中には分厚いガラス戸が嵌めこまれており、そのガラス窓が高密度で強化された強化ガラスであることが直ぐに理解できる。
隣に大きな檻のようなフロアが出現した事で別の部屋がある事を認識したテファニアは大きな強化水槽の部屋の中に蠢く不気味な何かの存在に直ぐに気づく。
シュルシュルシュル……ギギギギギーーィィィ!
「さあ見たまえテファニアくん、これが私の最高峰の芸術品みして最終の研究の成果だ!」
「こ、これが……こんな醜悪な物が……」
ヌメヌメとした肌を持ち、ゆっくりとした動きをする見た事のない奇怪なその謎の生き物は鉄の扉が開いたことで外にいるダクト所長の姿を認識すると、多数ある頭部が皆一斉にダクト所長とテファニアの方にその首をもたげる。
「な、なによ、こいつらは。ダクト所長、この子達があなたが実験を重ねて作り上げてきた聖女たちの成れの果てであり、あなたが作り上げた聖女の最終形態だとでも言うの。これって人としての形も自我も失ったただの化け物じゃない。まさかとは思うけどこの失敗作たちを使って暁の聖女を迎え撃とうとでもいうの。ていうかこの化け物ってダクト所長の思い通りに操れるような代物なの。確かに強そうではあるけど、とてもダクト所長の言う事を素直に聞きそうには見えないんだけど?」
「ああ、そうだな、このままでは流石にダメだな。だがこの化け物たちの頭脳となるべき部品が揃えば、ワシの意のままに動かす事は可能なのだよ。悪意と欲望にまみれた強い意志を持つ者の力さえあればな!」
「へえ、そうなの、でもその被検体は一体どこにいるの。姿が見えないんだけど?」
そういいながらも怖いもの見たさにゆっくりと強化ガラスの前まで近づいたテファニアは、かつては高レベルのサンプル体の聖女候補だったはずの少女達の成れの果てを見る。
その姿を似ている何かの生物と例えるならば、ギリシャ神話に出て来る蛇の化け物、ヒュドラである。そのぶっ太い胴体から枝分かれした無数の蛇のような長い胴体がまるでロープのように思うがままに辺りに散らばり、地面に伏せている。その数およそ二十四体。
そしてその枝分かれした各々の蛇のような頭部の先にはかつてサンプル体の少女だった者の上半身がくっついており、まるで妖怪の蛇女のように下半身が蛇で上半身な人間の形をしている。そんな色白の奇怪な生物だ。その蛇のような二十四体にして一つの生物たちが皆一斉に白目を向けると、強化ガラスの外側にいるダクト所長とテファニアに向けて不気味な奇声を上げる。
「「ギッエェェェェェェーー、ギッイィィィィィィィィィーーィィ!」」
赤い眼光と白子のような白い肌を持つ不気味な少女達はユラユラとその体を頭上にもたげると、口から大量のよだれを垂らしながらも各々が我先にとその顔を近づける。
「気持ち悪いわね、こんなのがあんたが求めた聖女の最終形態だとでも言うの、ハッキリ言って悪夢でしかないわ。それに美しくもないし、醜悪だわ」
「確かに大きいし見た目も悪いが、その力は本物だ。なにせこの生き物は、過去にこの研究所内で生きていた様々なサンプル体の聖女たちの行きついた姿なのだからな。そして化け物の集合体なだけあって取り込んだ様々な聖女たちの特質すべき力がこの化け物には備わっている。しかもこの化け物の体は限りなく不死身に近い。どんなに細切れにされようが燃やされようが、更には爆破されようが、直ぐに再生し元の姿に戻ってしまう。故にこのヒュドラもどきを殺せる生物はこの星には存在しないと言う事だ。まあ例外として唯一死を与える事が可能とする者がいるのだとするならば、一人の聖女を置いて他にはいまい」
「この化け物を唯一殺せるかも知れない……その聖女ってまさか、特Aランクの聖女の力を持つ95657番のサンプル体のことね。つまりは忌々しい私の分身」
「そうだ、彼女は他のサンプル体の少女達の中でもずば抜けて特別な力を持つ希望たる存在だよ。まさに偶然と奇跡が作り出した特質すべき最高傑作と言ってもいい存在だ。彼女の力はその意志だけであらゆる物をこの世からあの世へと消し去る事ができる光の力の能力だ。その神々しい光の力を浴びてしまった者は、例え遥か闇なる世界の黒神子達と言えど、肉体の完全復活には数十年単位の時間が掛かる事だろう。そしてこの白いヒドラと化した少女たちの報われない魂と肉体を消せる唯一の力だ」
「あらゆる物質を消し去る光の力ですってぇぇ、ならこの化け物をあの暁の聖女にブチ当ててしまったら、この化け物は簡単に負けてしまうじゃない。ならせっかくの隠し玉も本末転倒よね。一体あなたはなにを考えているの?」
「だから言っているだろ、この子達はサンプル体の少女たちの成れの果てなのだと。その力は全てがAランクの少女たちとBランクの少女たちとで構成されていて、全部で二四人いる。確かに暁の聖女が普通にその力を発動させて戦ったら、恐らくは化け物と化した少女たちは簡単にその体を消滅させられてしまう事だろう。だがそれは暁の聖女が五体満足にその力をフルに使えたらの話だ。それに彼女の優しい性格からしてその殺害には必ず躊躇をするはずだ。そこがねらい目だよ。力の使い過ぎでその体にはもうかなりの負荷が掛かっているはずだから彼女の体が崩壊する前に何とか95657番を回収して、その魂とも言うべき七色魔石をこの白いヒュドラ達に取り入れるつもりだ。あの暁の聖女を核として司令塔として使えば、この化け物を完全に操ることが可能となるからだ。もしもそれが実現したら、この研究所内に侵入した愚かな刺客達も……私の研究を認めず途中で裏切り放棄したノシロノ王国の貴族達も、皆虫けらのように殺害してやる予定だ!」
「ちょっとなに言ってんのよ、95657番の七色魔石は私が貰う予定のはずでしょ、こんな化け物の一部にするだなんて聞いてないわよ。勝手な事はやめて頂戴、95657番の七色魔石は最初から私の物なんだからね。神より選ばれたこの華麗なる私が特Aランクの聖女になるための貴重なパーツであり、私の華麗なる欲望が実現する第一歩なんだから邪魔しないで頂戴!」
「フフフフ、なら君もこの白いヒュドラ達の一部になればいいではないか。念願の聖女になりたかったのだろ、ならならせてやるよ。先ほども言ったようにこの白いヒドラ達は私の言う事は一切聞かなくてな、実はかなり困っていたのだ。だが君のように欲深で嫉妬にまみれた悪意あるエネルギーを持つ者が司令塔になってくれさえすれば話は別だ。この白いヒドラ達になってから彼女達は愛と慈しみの力でその神聖力を発動させるのではなく、野生なる食欲や闘争心だけで動くことが証明されている。ゆえに欲望や嫉妬の心が強い者の邪なエネルギーを糧とし、取り込む事さえ出来ればこの私でもこの白いヒドラ達を操ることが可能となるのだ!」
「つまり、この私を白いヒュドラ達の体の中核に取り込ませて、あなたがこの白いヒュドラ達を操るって事」
「まあそういう事だ。この戦いであのサンプル体の暁の聖女を直に取り込んでこの白いヒュドラ達の中核に添えるのは流石に無理だろうが、本体でもあるお前を先に取り込んでさえいれば、あの暁の聖女に勝てる可能性がかなりの確率で可能となる。暁の聖女を回収後はそのまま白いヒュドラ達が暁の聖女の七色魔石を取り込むだろうから、結果的にはお前に七色魔石を渡した事にもなる。まあその姿形はかなり違うものとなるが、特Aランクの聖女の力だけではなく、様々なランクの聖女の力も同時に使う事ができるようになるのだから特に構わんだろ。とは言えその時にはもうお前は自我を失い他のサンプル体の少女達と同様に同じ立場になっているはずだからもう既に心は死んでいるのだがな。だが安心しろ、その白いヒュドラの力は俺が代わりに操り使わせてもらうよ。どうだね、まさに一石二鳥だとは思わんかね。テファニア、お前だって念願だった特Aランクの聖女になれるのだから特に文句はないだろ」
「ふ、ふざけんな、いくら念願の聖女になれたってその果てがこの白いヒュドラの体の一部になるのならまったく意味がないじゃない。あんたの命令通りに動く醜い操り人形になるのだけは、まっぴらごめんよ!」
「そうはいかんよ、テファニア、お前には絶対にこの白いヒュドラ達の一部に……いいや司令塔になってもらうぞ。そして暁の聖女を回収して、この白いヒュドラ達は最強の存在となるのだ。その神々しい絶対無敵の力を使い、邪魔者は全て排除し、私はこの世界を生き延びて見せる。この戦いの研究データを収集し、そして解析して、更なる研究の進化と発展に務めるのだぁぁぁ!」
ダクト所長はいつの間にか手に持っている分厚いマスクを素早い動きで被ると徐に目の前にあるキーボードの一部を力強く押す。すると行き成り部屋の中は白い煙に包まれていき、至る所から勢いよく噴射したガスが密室となっている部屋を瞬時に満たしていく。
「何なのこの白い煙は、一体何をする気よ。ダクト所長、まさかこの私を本当にあの怪物の体の一部にして暁の聖女に対抗させるつもりじゃないでしょうね?」
「そのまさかだよ。この醜い怪物と化した可哀想なサンプル体の少女たちだけではなく、本体であるお前が人質になってくれさえすれば、きっとサンプル体95657番は必ず攻撃を躊躇してくれるはずだ。そこが狙い目だよ!」
「麻酔の効果がある神経ガスか……ち、ちくしょう、せっかく神聖白百合剣魔団のメンバーの笠を着ながらノシロノ王国側を騙し、95657番に協力をするふりをしてあいつらをこの研究施設まで誘いこんだのに、初めからこの私を餌にして暁の聖女を迎え撃つのが狙いか。けどあいつがこの私を見捨ててこの白いヒュドラ達ごと屠るつもりかも知れないわよ。あいつだって怪物に取り込まれて死にたくはないはずだから、その可能性だって充分にあるわ!」
「フフフフ、あの暁の聖女が絶対にお前を見捨てない事は、お前が一番よ~く理解をしているはずだ。あいつはなんだかんだ言ってもお前の事を一番に心配し、そして気にかけているからだ。だからこそお前は利用価値があるのだ」
「この私がこんな所で……ちくしょう、ちくしょうぉぉぉぉ!」
「サンプル体95657番は勿論だが、残りわずかとなった神聖・白百合剣魔団のメンバーや敵対する異世界召喚者達だけではなく、遥か闇なる世界に連なるとされる黒神子・天足のアトリエもどうやらこの研究施設内に深く潜り込んでいる可能性も否定はできなくなって来た。恐らくはこの研究所内のどこかに潜んでいる物と思われる。なので事を急がせてもらうと言う事だ。もうなりふりかまってはいられないのだよ。なにせ都合が悪い事にもう一つの何らかの強大な影がこの研究所に向けて迫ってきているという情報を掴んでいるからだ!」
「ゴホゴホゴホゴホ、もう一つの強大な影ですって……何なのよ、それは?」
「恐らくは遥か闇なる世界に連なる者だ。だとするならば、そいつも当然黒神子と言う事になる。なぜこの研究施設を目指して歩いて来ているのかは分からんがな。まあその可能性を敢えて言うならば、あのラエルロットと共にいたあの黒神子を思い出すが、そうでないことを心の底から祈るよ」
「ゴホゴホ……ゴホゴホ……天足のアトリエだけじゃない……新たな黒神子……だれよそれは? そんなことよりも早くお前が被っているそのガスマスクを私にもよこしなさい。それとこの室内に流している神経ガスを……催眠ガスを……ゴホゴホ……早く止めて。早くしてぇぇ!」
手で口を覆い、咳き込みながらも目の前にいるダクト所長に掴みかかろうとしたテファニアだったが、もう既に体の自由が利かないのかブルブルと体を小刻みに痙攣させると一歩一歩必死に近づいていく。
そんな今にも意識を失い倒れそうなテファニアを不気味に見下ろしていたダクト所長は徐に背を向けると、強化ガラス一枚を隔てた反対側の隔離部屋にいる白いヒュドラ達を見ながら、速やか且つ迅速にテファニアを白いヒュドラの中心部分へと埋め込む準備に取り掛かるのだった。
水の扉を守るBランクの聖女・超水圧を操るマダム・ナターリアと、大地の扉のフロアーに閉じ込められていたAランクの聖女・超重力を操る聖女・ミレーヌの両方が倒されたとの情報を聞いたダクト所長は顔を邪悪にニヤつかせると調査報告の資料を食い入るように見つめる。
侵入者達を迎え撃つべく急遽用意した力ある二体の聖女達を配置した二つの扉だったがその試練に便乗した実験は見事に打ち破られる。
その才能ある驚異の能力と人を躊躇なく殺害ができる凶暴たる二人の聖女の攻撃性を研究員達は皆が目の当たりにし認めていたが、Bランクの聖女マダム・ナターリアと、Aランクの聖女ことミレーヌがラエルロットと暁の聖女の二人に完全なる敗北を与えられた事を知り、言い知れぬ不安と焦りが重い空気となって実験室全体を恐怖で包み込む。
だがその直視し難い事実に一番頭を抱えているはずのダクト所長は大丈夫だと言わんばかりに全ては想定内だと不適に言ってのけると、次なる指示を不安がる研究員達に送る。
何だか妙に落ち着きがあるダクト所長の口調や凄みのある不気味な態度に密かに尊敬と畏怖の念を抱いていた研究員達は、その言い知れぬ恐ろしさから緊張しながらも丁寧に一礼をすると、今現在この研究所の地下施設内に侵入を試みているはずの愚かな侵入者達を迎え撃つべく速やかに自分の持ち場へと戻っていく。
頭脳派ぞろいの研究員達も誰もが憧れ、そして密かに恐れる、羽織る白衣がよく似合うこの中年男性の名はダクト所長。
この研究所の責任者にして、人工的に聖女を作り上げるという名目でその技術を確立し完成させた魔導遺伝子生物学の博士号を持つ博士であり、第三級冒険者の資格を持つ偉大なる天才である。
そしてラエルロットたちがこの地下施設からの脱出をする際に求めている、外に出られるカードキーと聖女になれる新薬を持つ、この研究所に巣食う最後のラスボス的存在である。
女性なら誰もがかなりの確率で聖女になれるという新薬を密かに研究し開発をしていたダクト所長はついには念願だった聖女を人工的に作り上げる技術を確立し、ついには生産段階が可能な所まで時間を費やしたが、その新薬の危険性を充分に理解をしていたノシロノ王国の貴族や王族達に事実が知られた事で王国側の冒険者や敵対している異世界召喚者達に施設内への潜入を許してしまう。
ノシロノ王国側は研究所の施設内にある極秘機密資料や情報を速やかに回収後は機材や証拠となる品々を悉く破壊し全てを闇に葬る予定であったが、その事に一早く気づいたダクト所長は自分の長年の研究に仇名す侵入者達を全て排除するべく大胆にも次なる行動に移る。
既に聖女になれる新薬の秘密を手に入れるべく侵入を試みていた異世界召喚者達やノシロノ王国側の貴族達が送り込んだ神聖白百合剣魔団、更には遥か闇なる世界の黒神子の一人、天足のアトリエが潜入している事を知ったダクト所長は正直かなりの危機感と苛立ちを露わにしていたが、自分が目をかけていたサンプル体95657番と99754番の脱走劇を知り、この危機たる状況を上手く利用する為にある極秘の実験を密かに試みる。
そのかいもあり暁の聖女を始めとした他の侵入者達はこの研究所内からの脱出を試みる為に地下にある二つの扉を撃破し、真っ直ぐに最終地点となる実験施設のあるフロアを一目散に目指すが、その事を知ったダクト所長は自分の邪悪な計画が思い通りに動いている事に内心歓喜の声を上げる。
そんな歪んだ思惑に心を弾ませるダクト所長の前に一人のうら若き美少女が姿を表す。
腰まで伸びた黄金色の美しい長い髪と張りのあるきめ細かい白い肌が印象的なその女性の名はテファニア……神聖白百合剣魔団のメンバーにして、第七級冒険者の資格を持つ欲深で血気盛んな女性剣士である。
多額のお金を払い、自分の遺伝子情報を提供し、この研究所で作られているサンプル体95657番の体内から七色魔石を取出し、その命の力を糧に聖女になる予定だったテファニアは、近々行われるという研究施設内の破壊計画の事を知り、その計画が実行される前により良い形で、聖女の力を手に入れる為に打算ある計画を画策する。
そう彼女は自分の欲望を叶える為ならば内心嫉妬で毛嫌いをしているサンプル体の95657番のテファとも(欺きながらも)平気で手を組み、王国側をも簡単に裏切る事のできる欲深な女性だ。
本来は神聖白百合剣魔団のギルドのメンバーとしてこの研究所の地下に閉じこもっているダクト所長を断罪しなけねばならない立場のテファニアだが、彼女自身もこの研究所で極秘に作られている聖女になれる新薬を強く求める被験者候補の一人でもある為、本来なら敵対するはずのダクト所長とも手を結ぶ事にはなんの罪悪感も躊躇もない。
そうまさにテファニアは自分の欲望と利益を叶える為だけに損と得を同時に天秤にかけ、二重スパイのような事をしているのだ。
欲深で腹黒い野望を持つテファニアはダクト所長のそばまで来ると、まるで相手の腹を探るかのように口を開く。
「へぇー、私のクローンでもあるサンプル体95657番だけではなく、ラエルロットを始めとした他のゆかいな仲間たちの一行も無事にこのフロアに確実に迫ってきているみたいね。私が教えたこの研究所から外へと出られる情報を信じて、幾多の苦難を乗り越えてここまで来ていると言う事は95657番はかなりの神聖力を使っていると言う事でいいのかしら?」
「どうやらそのようだな」
「あらそうなの、なら彼女の体の崩壊ももうまじかと言う事よね。まあ私としては彼女が灰となって死んだ後に七色魔石だけを回収できればそれでいいんだけどね。下手に暁の聖女と対峙して、命を惜しまれてもめんどくさいしね。だから彼女が疲弊するのをただひたすらに待つわ。でもあなたはこの後どうするつもりなのかしら」
「ん、それはどういう事だ」
「フフフ、しらばっくれるんじゃないわよ。このままじゃ確実に今現在実験施設にいるダクト所長と95657番を始めとしたラエルロット達一行はいずれは嫌でもこの場所で鉢合わせをしてしまうと言う事になるわ。そうなれば当然暁の聖女はダクト所長と話し合いを試みようとするはず。でもその話し合いは絶対に決裂で終わるでしょうね。なぜならあなたは確実に彼らとの戦闘の方を選ぶでしょうから戦いは避けられないと言う事。そうなんでしょ」
「ああ、そういう事だ。私はお前の、特Aランクの聖女の力を持つサンプル体95657番にだけ興味があるからこそ彼女を慈しみ、そしてその進化と未知なる可能性を直に試しているのだ。だが他の取り巻き達はただの邪魔ものでしかない単なるオマケの用な奴らだから、邪魔者は速やかに殺すつもりでいるよ」
「へぇーそうなの、でも彼ら一人一人の功績を見ていても分かるように、彼らはあの田舎臭い見た目と貧弱なレベル差にも関わらず、何故かなかなかに強いみたいだから、いくら第三級冒険者の資格を持つとされるダクト所長でも油断は出来ないんじゃないかしら」
「フフフ、どうやらそのようだな。あのラエルロットとかいう未熟な青年は最低レベルのレベル1と聞いていたが、何故かは知らんがまだしつこく生き残っているようだし、あの害虫でもある蛾の妖精の少女とゴミくずの存在でもあるCランクの聖女の中でも末端に位置する99754番の言霊の聖女の二人はそんな彼の強運に導かれてここまで来ているようにも見える。全く忌々しい事だよ」
「強運ね……確かにラエルロットは運だけはいいみたいね。本来ならもうとっくの昔に死んでてもおかしくはない状況だしね。なぜ未だに生きていられるのかが不思議なくらいよ。それともラエルロットにはまだ私達の知らない隠している秘密でもあるのかしら。なにか隠している特殊な能力があるとか……まさかね、そんなのあいつにあるはずがないか」
「それと意外だったのはあのおかっぱ頭の髪型をした田舎臭い小撃砲使いの少女の方だ。彼女は一体何者なのだ。あの少女もまたあの木刀を持つ青年と同じように第八級冒険者試験を受けに来たまだ低レベルの受験生の一人のはずだが、彼女のあの強さははっきり言って異常だ。彼女のレベルの数値は絶対に一桁や二桁ではあるまい」
「ふぅ~んそうなの、まああんなぽったでのよく分からない田舎臭い小娘のことなんてどうだっていいわよ。正直興味も無いしね。そんなことよりこの後は一体どうするつもりよ。超重力を操る大地の聖女と超水圧を出現させる水の聖女が不覚にも破られた今、不完全体の不良品とはいえ、あの恐ろしくも忌々しい光の力を持つ暁の聖女もどきを一体どう御するつもりよ。その妙案があるのなら是非とも聞かせて欲しいものね」
「ふん、相変わらず悪どいな、お前は。あのサンプル体95657番はお前との血のつながりがある言わば姉妹のようなものだろ。その彼女に対しお前はなんの感情も抱かないのか」
「抱かないわ、この研究所で作られた彼女は私に取ってはただの聖女になる為の部品のパーツに過ぎないもの。私の美と能力を飛躍的に向上させるただの部品に一体どんな感情を示せというのよ」
特に悪びれる様子もなく平然と言ってのけるテファニアの冷酷無知かつ非人道的な冷たい言葉に、話に耳を傾けていたダクト所長は邪悪ににんまりと笑う。
「フフフフ、如何にもお前らしい答えだな。その立場や倫理性に関係なしに利害と欲望でその行動を示すか。だから利用すべき物は何でも利用するというわけだな、そのしたたかさには正直恐れ入ったよ。いいだろう、自分の欲望と野望を叶える為だったら他人を平気で切り捨てる事のできるお前のそのあえなき決意と決断に免じて私の最後の切り札にして、これまでの研究の成果とも言うべき最終計画の全貌をこの場で開示しよう!」
ダクト所長が何やら意味ありげに笑顔を作ると近くの長机に近づき、その上に乗っているパソコンのような機械に両手を添える。
そのまま物凄い手慣れた手つきで目の前にあるキーボードに指を這わせながら文字を素早く打ち込んでいくと、最後に力強く決定ボタンを押す。
ピィー。
その電子音に合わせるかのように今度は後ろにある大きな壁がゆっくりと開き始め、まるで外壁の大きな壁が部屋の角に消えていくかのように豪快に開閉されていく。
ゴゴゴゴゴゴゴーーン、ガタン!
開かれた大きな壁の中には分厚いガラス戸が嵌めこまれており、そのガラス窓が高密度で強化された強化ガラスであることが直ぐに理解できる。
隣に大きな檻のようなフロアが出現した事で別の部屋がある事を認識したテファニアは大きな強化水槽の部屋の中に蠢く不気味な何かの存在に直ぐに気づく。
シュルシュルシュル……ギギギギギーーィィィ!
「さあ見たまえテファニアくん、これが私の最高峰の芸術品みして最終の研究の成果だ!」
「こ、これが……こんな醜悪な物が……」
ヌメヌメとした肌を持ち、ゆっくりとした動きをする見た事のない奇怪なその謎の生き物は鉄の扉が開いたことで外にいるダクト所長の姿を認識すると、多数ある頭部が皆一斉にダクト所長とテファニアの方にその首をもたげる。
「な、なによ、こいつらは。ダクト所長、この子達があなたが実験を重ねて作り上げてきた聖女たちの成れの果てであり、あなたが作り上げた聖女の最終形態だとでも言うの。これって人としての形も自我も失ったただの化け物じゃない。まさかとは思うけどこの失敗作たちを使って暁の聖女を迎え撃とうとでもいうの。ていうかこの化け物ってダクト所長の思い通りに操れるような代物なの。確かに強そうではあるけど、とてもダクト所長の言う事を素直に聞きそうには見えないんだけど?」
「ああ、そうだな、このままでは流石にダメだな。だがこの化け物たちの頭脳となるべき部品が揃えば、ワシの意のままに動かす事は可能なのだよ。悪意と欲望にまみれた強い意志を持つ者の力さえあればな!」
「へえ、そうなの、でもその被検体は一体どこにいるの。姿が見えないんだけど?」
そういいながらも怖いもの見たさにゆっくりと強化ガラスの前まで近づいたテファニアは、かつては高レベルのサンプル体の聖女候補だったはずの少女達の成れの果てを見る。
その姿を似ている何かの生物と例えるならば、ギリシャ神話に出て来る蛇の化け物、ヒュドラである。そのぶっ太い胴体から枝分かれした無数の蛇のような長い胴体がまるでロープのように思うがままに辺りに散らばり、地面に伏せている。その数およそ二十四体。
そしてその枝分かれした各々の蛇のような頭部の先にはかつてサンプル体の少女だった者の上半身がくっついており、まるで妖怪の蛇女のように下半身が蛇で上半身な人間の形をしている。そんな色白の奇怪な生物だ。その蛇のような二十四体にして一つの生物たちが皆一斉に白目を向けると、強化ガラスの外側にいるダクト所長とテファニアに向けて不気味な奇声を上げる。
「「ギッエェェェェェェーー、ギッイィィィィィィィィィーーィィ!」」
赤い眼光と白子のような白い肌を持つ不気味な少女達はユラユラとその体を頭上にもたげると、口から大量のよだれを垂らしながらも各々が我先にとその顔を近づける。
「気持ち悪いわね、こんなのがあんたが求めた聖女の最終形態だとでも言うの、ハッキリ言って悪夢でしかないわ。それに美しくもないし、醜悪だわ」
「確かに大きいし見た目も悪いが、その力は本物だ。なにせこの生き物は、過去にこの研究所内で生きていた様々なサンプル体の聖女たちの行きついた姿なのだからな。そして化け物の集合体なだけあって取り込んだ様々な聖女たちの特質すべき力がこの化け物には備わっている。しかもこの化け物の体は限りなく不死身に近い。どんなに細切れにされようが燃やされようが、更には爆破されようが、直ぐに再生し元の姿に戻ってしまう。故にこのヒュドラもどきを殺せる生物はこの星には存在しないと言う事だ。まあ例外として唯一死を与える事が可能とする者がいるのだとするならば、一人の聖女を置いて他にはいまい」
「この化け物を唯一殺せるかも知れない……その聖女ってまさか、特Aランクの聖女の力を持つ95657番のサンプル体のことね。つまりは忌々しい私の分身」
「そうだ、彼女は他のサンプル体の少女達の中でもずば抜けて特別な力を持つ希望たる存在だよ。まさに偶然と奇跡が作り出した特質すべき最高傑作と言ってもいい存在だ。彼女の力はその意志だけであらゆる物をこの世からあの世へと消し去る事ができる光の力の能力だ。その神々しい光の力を浴びてしまった者は、例え遥か闇なる世界の黒神子達と言えど、肉体の完全復活には数十年単位の時間が掛かる事だろう。そしてこの白いヒドラと化した少女たちの報われない魂と肉体を消せる唯一の力だ」
「あらゆる物質を消し去る光の力ですってぇぇ、ならこの化け物をあの暁の聖女にブチ当ててしまったら、この化け物は簡単に負けてしまうじゃない。ならせっかくの隠し玉も本末転倒よね。一体あなたはなにを考えているの?」
「だから言っているだろ、この子達はサンプル体の少女たちの成れの果てなのだと。その力は全てがAランクの少女たちとBランクの少女たちとで構成されていて、全部で二四人いる。確かに暁の聖女が普通にその力を発動させて戦ったら、恐らくは化け物と化した少女たちは簡単にその体を消滅させられてしまう事だろう。だがそれは暁の聖女が五体満足にその力をフルに使えたらの話だ。それに彼女の優しい性格からしてその殺害には必ず躊躇をするはずだ。そこがねらい目だよ。力の使い過ぎでその体にはもうかなりの負荷が掛かっているはずだから彼女の体が崩壊する前に何とか95657番を回収して、その魂とも言うべき七色魔石をこの白いヒュドラ達に取り入れるつもりだ。あの暁の聖女を核として司令塔として使えば、この化け物を完全に操ることが可能となるからだ。もしもそれが実現したら、この研究所内に侵入した愚かな刺客達も……私の研究を認めず途中で裏切り放棄したノシロノ王国の貴族達も、皆虫けらのように殺害してやる予定だ!」
「ちょっとなに言ってんのよ、95657番の七色魔石は私が貰う予定のはずでしょ、こんな化け物の一部にするだなんて聞いてないわよ。勝手な事はやめて頂戴、95657番の七色魔石は最初から私の物なんだからね。神より選ばれたこの華麗なる私が特Aランクの聖女になるための貴重なパーツであり、私の華麗なる欲望が実現する第一歩なんだから邪魔しないで頂戴!」
「フフフフ、なら君もこの白いヒュドラ達の一部になればいいではないか。念願の聖女になりたかったのだろ、ならならせてやるよ。先ほども言ったようにこの白いヒドラ達は私の言う事は一切聞かなくてな、実はかなり困っていたのだ。だが君のように欲深で嫉妬にまみれた悪意あるエネルギーを持つ者が司令塔になってくれさえすれば話は別だ。この白いヒドラ達になってから彼女達は愛と慈しみの力でその神聖力を発動させるのではなく、野生なる食欲や闘争心だけで動くことが証明されている。ゆえに欲望や嫉妬の心が強い者の邪なエネルギーを糧とし、取り込む事さえ出来ればこの私でもこの白いヒドラ達を操ることが可能となるのだ!」
「つまり、この私を白いヒュドラ達の体の中核に取り込ませて、あなたがこの白いヒュドラ達を操るって事」
「まあそういう事だ。この戦いであのサンプル体の暁の聖女を直に取り込んでこの白いヒュドラ達の中核に添えるのは流石に無理だろうが、本体でもあるお前を先に取り込んでさえいれば、あの暁の聖女に勝てる可能性がかなりの確率で可能となる。暁の聖女を回収後はそのまま白いヒュドラ達が暁の聖女の七色魔石を取り込むだろうから、結果的にはお前に七色魔石を渡した事にもなる。まあその姿形はかなり違うものとなるが、特Aランクの聖女の力だけではなく、様々なランクの聖女の力も同時に使う事ができるようになるのだから特に構わんだろ。とは言えその時にはもうお前は自我を失い他のサンプル体の少女達と同様に同じ立場になっているはずだからもう既に心は死んでいるのだがな。だが安心しろ、その白いヒュドラの力は俺が代わりに操り使わせてもらうよ。どうだね、まさに一石二鳥だとは思わんかね。テファニア、お前だって念願だった特Aランクの聖女になれるのだから特に文句はないだろ」
「ふ、ふざけんな、いくら念願の聖女になれたってその果てがこの白いヒュドラの体の一部になるのならまったく意味がないじゃない。あんたの命令通りに動く醜い操り人形になるのだけは、まっぴらごめんよ!」
「そうはいかんよ、テファニア、お前には絶対にこの白いヒュドラ達の一部に……いいや司令塔になってもらうぞ。そして暁の聖女を回収して、この白いヒュドラ達は最強の存在となるのだ。その神々しい絶対無敵の力を使い、邪魔者は全て排除し、私はこの世界を生き延びて見せる。この戦いの研究データを収集し、そして解析して、更なる研究の進化と発展に務めるのだぁぁぁ!」
ダクト所長はいつの間にか手に持っている分厚いマスクを素早い動きで被ると徐に目の前にあるキーボードの一部を力強く押す。すると行き成り部屋の中は白い煙に包まれていき、至る所から勢いよく噴射したガスが密室となっている部屋を瞬時に満たしていく。
「何なのこの白い煙は、一体何をする気よ。ダクト所長、まさかこの私を本当にあの怪物の体の一部にして暁の聖女に対抗させるつもりじゃないでしょうね?」
「そのまさかだよ。この醜い怪物と化した可哀想なサンプル体の少女たちだけではなく、本体であるお前が人質になってくれさえすれば、きっとサンプル体95657番は必ず攻撃を躊躇してくれるはずだ。そこが狙い目だよ!」
「麻酔の効果がある神経ガスか……ち、ちくしょう、せっかく神聖白百合剣魔団のメンバーの笠を着ながらノシロノ王国側を騙し、95657番に協力をするふりをしてあいつらをこの研究施設まで誘いこんだのに、初めからこの私を餌にして暁の聖女を迎え撃つのが狙いか。けどあいつがこの私を見捨ててこの白いヒュドラ達ごと屠るつもりかも知れないわよ。あいつだって怪物に取り込まれて死にたくはないはずだから、その可能性だって充分にあるわ!」
「フフフフ、あの暁の聖女が絶対にお前を見捨てない事は、お前が一番よ~く理解をしているはずだ。あいつはなんだかんだ言ってもお前の事を一番に心配し、そして気にかけているからだ。だからこそお前は利用価値があるのだ」
「この私がこんな所で……ちくしょう、ちくしょうぉぉぉぉ!」
「サンプル体95657番は勿論だが、残りわずかとなった神聖・白百合剣魔団のメンバーや敵対する異世界召喚者達だけではなく、遥か闇なる世界に連なるとされる黒神子・天足のアトリエもどうやらこの研究施設内に深く潜り込んでいる可能性も否定はできなくなって来た。恐らくはこの研究所内のどこかに潜んでいる物と思われる。なので事を急がせてもらうと言う事だ。もうなりふりかまってはいられないのだよ。なにせ都合が悪い事にもう一つの何らかの強大な影がこの研究所に向けて迫ってきているという情報を掴んでいるからだ!」
「ゴホゴホゴホゴホ、もう一つの強大な影ですって……何なのよ、それは?」
「恐らくは遥か闇なる世界に連なる者だ。だとするならば、そいつも当然黒神子と言う事になる。なぜこの研究施設を目指して歩いて来ているのかは分からんがな。まあその可能性を敢えて言うならば、あのラエルロットと共にいたあの黒神子を思い出すが、そうでないことを心の底から祈るよ」
「ゴホゴホ……ゴホゴホ……天足のアトリエだけじゃない……新たな黒神子……だれよそれは? そんなことよりも早くお前が被っているそのガスマスクを私にもよこしなさい。それとこの室内に流している神経ガスを……催眠ガスを……ゴホゴホ……早く止めて。早くしてぇぇ!」
手で口を覆い、咳き込みながらも目の前にいるダクト所長に掴みかかろうとしたテファニアだったが、もう既に体の自由が利かないのかブルブルと体を小刻みに痙攣させると一歩一歩必死に近づいていく。
そんな今にも意識を失い倒れそうなテファニアを不気味に見下ろしていたダクト所長は徐に背を向けると、強化ガラス一枚を隔てた反対側の隔離部屋にいる白いヒュドラ達を見ながら、速やか且つ迅速にテファニアを白いヒュドラの中心部分へと埋め込む準備に取り掛かるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う
黒崎隼人
ファンタジー
◆◇◆完結保証◆◇◆
◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆
「え、俺なんかしました?」
ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。
彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。
カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。
「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!?
無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。
これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる