遥か闇なる世界 ~世界の絶望に立ち向かう黒神子の少女と、真の勇者になる事を夢見る心優しい青年の物語

藤田作磨

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第三章 二人の聖女編

3-45.絶望を切り裂く希望の勇者

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           3ー45.絶望を切り裂く希望の勇者


「くそおぉぉ、よく見たら白いヒュドラの胴体から生えている蛇女達の人数はちっとも減ってはいないぞ。確か二十五体ほどいる蛇女達の内の十体はレスフィナがエナジードレインで再起不能にしていたはずだ。その後に本体の白いヒュドラが感染を恐れて自らの意思で蛇女達を切り離したはず。だから残っている蛇女達の人数は本体を入れて後十六体なはずなんだが、なんで切り捨てたはずの十人の蛇女達も復活しているんだよ。切り離した後に彼女達の遺伝子情報をまだ保有していたから新たに再構築できたと言うことなのかな。せっかく少しは数が減ったと思っていたのに、ぬか喜びしてしまった。ほんと人生とは思い通りにはいかない物だな」

 ラエルロットと白いヒュドラの攻防は尚も続く。

 ラエルロットは(狂雷のスキルでもある)雷のような速さを生かしながら、様々な魔法攻撃を発動し撃ちまくって来る蛇女達の遠距離攻撃を上手く避けていたが、その隙間を縫うかのように狂雷・電光石火から繰り出す斬撃を幾度も蛇女達に叩きつける。その度に蛇女達の体は瞬時に輪切りにされ地面へと倒れるが、超再生が効いているのか直ぐに何事もなかったかのようにその体を起こす。

 その復活の光景を見ていたラエルロットは無理な高速移動を繰り返していたせいか両脚は粉微塵に吹き飛び、攻撃を仕掛けていた左腕は攻撃を叩き込む度に見るも無残に消し飛ぶ。
 だがレスフィナからの不死の加護があるラエルロットはまるで時が逆回転したかのようにその失った手足は瞬時に元へと戻り、本来普通の人間は絶対に扱いきれないと言われている復讐の鎧の能力を上手く使いこなしていた。

 そんなはたから見たら無謀極まりない無茶な戦い方をするラエルロットの勇士を少し離れた所から見ていた白いヒュドラは眉間にしわをよせるとラエルロットの戦闘能力を分析する。

「なるほど、本来は(ありえないほどの基礎能力以上のレベルを急激に爆上げしてくれる)復讐の鎧を装備して戦ったら、その命の対価と共にその命と体は一瞬で崩壊してしまうのだろうが、幸か不幸かうまい具合に不死の力がお前を助けているのか。だから本来は諸刃のように呪われている復讐の鎧の能力を効率よく引き出している。中々相性のいい能力の組み合わせではないか。だが何度も言うがその不死の力と復讐の鎧の乱用はどこまでできるかな。その不死の力の乱用は無限ではないはずだ。いくらレスフィナの力を借りているとはいえ、命に関わる大ダメージを受け続けていたら、体は再生しても気力や体力はついてはいかないはずだ。そうだろ。なにせ生死に繋がるダメージを受け続けていたら精神の喪失と体力の消耗は無視はできないからだ。つまりはこのまま無理を重ねて戦っていたらいつかはその体は動かなくなってしまうと言う事だ。そして私はその時が来るのを待っているのだ。見た感じ、その復讐の鎧の力を引き出すにはかなりの胆力と無茶な対価が必要なはずだ、だからそれまでは気長に攻撃を仕掛け続けてやる。お前の精神と体力が力尽きるまでな!」

「く、現実問題、かなり燃費の悪い復讐の鎧の力を使い続けていたら、俺の方が先に倒れてしまう。俺にあの白いヒュドラを消滅させる手段が無いのなら尚更だ。くそおぉぉ、このままじゃジリ貧だ。いずれはこの体も動かなくなる。もうそう長くは持たないぞ。一体どうしたらいいんだ?」

 この危機的状況に思い悩むラエルロットに隙が生まれたのか、ついに蛇女達の権能攻撃がまともに直撃する。

「な、なにぃぃぃ、雷撃系の魔法だとおぉぉぉ!」

 ドッシュゥゥゥゥーーン、ビリビリビリビリ、ゴロゴロゴロゴロ、ドッゴオオオーーン!

「ぐっわあぁぁぁぁぁぁあぁぁーーっ!」

 強い雷撃の直撃を体に受け、ラエルロットはまるで見えない衝撃にはじかれたかのように豪快に後方へと吹き飛ぶ。

 異世界召喚者の魔法剣士、池口里子から借りた魔法の力を宿すレイピアは何処かへはじけ飛び、ラエルロットはまた手持ちの武器を失ってしまう。

 ドッゴオオォォォォォォォーーン!

「「クククク、やっと当たったか、散々てこずらせやがって。自分自身が発生させる雷撃は大丈夫のようだが、他者からの雷撃攻撃には対応ができないようだな。その証拠にその体にダメージを負ってしまっているようだからな。そして、もうこれで終わりだ。後は動けなくなったお前を100メートル以上先まで放り投げるだけだ。それでお前の全てが終わる」

 完全なる勝利を口にした白いヒュドラは、体をピクピクと痙攣させながら床に仰向けに倒れるラエルロットに近づこうとするが、直ぐにその動きはピタリと止まる。なぜならそこにはもう戦うことはおろか動くこともままならないはずの暁の聖女がいつの間にか立っていたからだ。

 美しい顔を除いた全ての体に走るかのように幾つもの光の亀裂が走り、その傷口からはとめどなく黄金色に輝く光の血液が地面に落ちる事なく空中へと上がり、そのまま飛散していく。

 死体はおろか証拠となる自分の血液すらもその場に残すことのできない(サンプル体でもある)暁の聖女テファは大事そうに黒い不格好な木刀を抱きかかえていたが、その黒い不格好な木刀はまるで彼女の神聖なる血液を欲するかのように黒い刀身の闇の中へと次々と吸収していく。

 まるで残り少ない自分の血液を全て与えるかのように強く抱きしめていた暁の聖女テファはその血塗られた黒い不格好な木刀を突き出すと、目の前の地面に倒れているラエルロットに向けてゆっくりと差し出す。

「ラエルロットさん……これを受け取ってください。この星に住む、人々を守る使命を授かっている特Aランクの称号を持つ暁の聖女としての使命を今ここで果たします。この世界では黒き物を纏いし者は忌み嫌われ不吉と不幸を呼ぶ者とされていますが、私が見た感じでは、今のレスフィナさんとラエルロットさんからは広く澄み切った純粋な黒を強く感じます。ですがいつその澄み切った黒い力が邪悪に染まるかは分からないので、私は暁の聖女として、ラエルロットさんがこの先も愛と正義と優しさを掲げ、その信念を無事に遂行できるようにあなたに保険を掛けます。そうラエルロットさんに光の加護を与えるのです。ラエルロットさんがこの先の旅で道を誤らないように、混沌に迷わないように、数々の辛い試練を乗り越えられるように、この一筋の光がラエルロットさんの未来ある希望を照らすと信じて私は希望ある祈りを捧げます。私が認めた勇者様……ハルおばあさんの思いと願いが詰まった……この聖剣の一振りを……どうぞお納めください」

「て、テファ……その体に走る……光の亀裂は……そんなに君の怪我は深刻だったのか。なら早く栄養生成剤を飲ませてもらうといい、確か白魔法使いのタタラが何個か別に持っていたはずだから」

 両手に持つ黒い不格好な木刀を差し出す暁の聖女テファの健気な姿に本気で心配するラエルロットは黒い不格好な木刀を受け取ると、目の前にいる暁の聖女を守る為に力強く立ち上がる。

「せっかくテファが弱り切った体を引きずってまで俺の元に来てくれたのに、その肝心な俺がいつまでもこんな所で倒れていられるか。俺は勇者を目指す者として、テファを……いいやここにいるみんなを助けないといけないんだ。そしてテファから受け取ったこの黒い不格好な木刀から感じるこの新たな思いの力は……そうか、そう言う事か。ヒノのご神木から削り作られたハルおばあちゃんの思いと……その不格好な木刀の表面に黒い漆黒の血液でコーティングされたその力から感じるレスフィナの決意たる覚悟と……俺に自分の願いや希望を託してくれた暁の聖女テファの慈愛が詰まっているから、この黒い不格好な木刀は新たな進化を遂げたと言う事か。よし、この新たな力を宿した黒い不格好な木刀なら、異常な超再生を持つあの白いヒュドラにだって勝てる!」

 雷撃を受けた傷が徐々に癒えつつあるラエルロットはテファから受け取った黒い不格好な木刀を一振りすると、何か意味ありげにニコニコしながら二人を見守るレスフィナに視線を向ける。

「レスフィナ、こうなる事を……いいやテファが俺に力を貸してくれる事をあんたは予期していたのか。ならなんで最初から……?」

「いいえ、私は何も知りませんよ。彼らとは今し方会ったばかりですし、その事情や経緯は何も分かりません。ですが彼女のこの傷つき具合や言動からして暁の聖女があなたの為に命を張って戦っていた事は直ぐに分かりましたから、これまであなたに力を貸している仲間たちの為にもあなたがその恩に報いる場を与えなくてはならないと思ったまでの事です。仮にあの白いヒュドラを私だけの力であっさりと倒してしまったら、ラエルロットさんはまた、自分は何一つ仲間たちの為に体を張れなかったと無駄に悩み自己嫌悪するでしょうから、そのモヤモヤを晴らす為にも、ラエルロットさんには是非ともあの白いヒュドラを(一人だけの力で)倒してもらいたかったのです。この後も旅は続くのですから、ウジウジと自分を卑下しながら後ろ向きな考えを引きずられては正直堪りませんからね」

「だれがウジウジと自分を卑下するだ、だれがだぁぁ!」と思わずラエルロットがレスフィナにツッコミを入れる。

「まあ確かにレスフィナが一人で白いヒュドラを倒していたら、何も出来なかった俺は自信を失い、ここでの出来事はずーと後悔が残るだろうから、白いヒュドラと戦えるチャンスを与えてくれた事には素直に感謝をするよ。いらぬ気を使わしてしまったようだな。ありがとな、レスフィナ。だけど俺が聞きたいのはそんな事じゃないんだ。あの白いヒュドラを倒す手段を暁の聖女が持っている事をあんたは気づいていたのかと言う点だ。どうなんだ、レスフィナ?」

「勿論気づいていましたよ。これだけの膨大な神聖力を持つ聖女の力、気づかない訳ないじゃないですか。その神聖なる強い光の粒子の輝きは地上にいる時からハッキリと感じていました。なのでラエルロットさんがその得体の知れない聖女さんと一緒にいて共に行動している事も全て分かっていたのです」

「なんだ、分かっていたのか。しかし相手が放つ気だけで大まかな相手の位置や情報を知る事ができるだなんて、流石はレスフィナだな」

「フフフ、お世辞はいいです。それでラエルロットさんがあの白いヒュドラに勝てる勝率ですが、正直に言ってしまえば、本当はいくら復讐の鎧の力を身につけたラエルロットさんでもあの白いヒュドラを倒す事ができないのは直ぐに分かりました。わかってはいたのですが、勝てないからと言って戦わなかったら今後の成長も見込めないので敢えて戦わせて見る事にしたのです。自分の大事な眷属に戦いの経験をさせるのも主の役目ですからね。そして勇敢にも今もあの白いヒュドラに挑み戦っているそんなラエルロットさんに暁の聖女さんは新たな力を与えてくれた……これは私も予期しなかった、思わぬサプライズです」

 あくまでも自分は何も関与はしていないと否定する黒神子レスフィナの言葉に、横やりとばかりにいつの間にか近くに来ていた小撃砲使いのミランシェが疑惑の目を向ける。

「確かレスフィナさんでしたか、あなたの言葉にはウソがあります。私は地獄耳ですからね、ちゃんと聞いていましたよ。暁の聖女が自分の力の反動で傷つく事なく、その暁の力を引き出す方法を……あなたはここへ来るなり白いヒュドラの特性を見抜いて最初からこの方法を試すつもりだったのではありませんか。ラエルロットさんが持つあの黒い不格好な木刀は思いを具現化する苗木が付与されています。なら人の思いを具現化し増幅させる事のできるあの黒い不格好な木刀に暁の聖女の強い思いが加われば、ラエルロットさんに新たな奇跡の力を与える事ができるかも知れないと、あなたはそう考えている。違いますか」

「確かにミランシェさんの言うように、暁の聖女の力に目をつけていた事は事実です。ですが傷つき弱り切った暁の聖女さんが、それでもラエルロットさんを助けようとしてくれているその姿勢を見て私は彼女の深い愛と強い意思に大きな感銘を受けました。だから私は彼女の思いを汲んであげたいと思い、少しだけ彼女にアドバイスをして差し上げたまでの事です。今も勇敢に戦うラエルロットさんと共に、あの白いヒュドラを倒す方法を」

「なるほど、つまりは暁の聖女の力を借りてあの白いヒュドラを倒す事は織り込み済みだった訳ですね。相変わらず考えが回りくどい。そんな訳らしいので、ラエルロットのお兄さんは気兼ねなくその新たな力を使いこなして見てください」

 小撃砲使いのミランシェは今度はラエルロットの方を見ながら話す。

「暁の聖女の血を吸収する事でその黒い不格好な木刀は新たな力をその刀身に宿す事になりました。ですが勘違いしないでください。別にあなたがその力を自由に使える訳ではありません。あくまでも暁の聖女の力を借りる事によって、あなたはその強大な力を使えるのです。それにしても前代未聞です。まさか暗黒の存在たる黒神子の眷属が、その天敵たる聖女と共に共闘する日が来るだなんて……遥か闇なる世界の神様と、この世界にいる女神は神話の時代より昔から敵対している存在ですからね、ならその格下の代行者でもある黒神子と聖女は相容れない存在のはずなのですが、なんだか不思議な感じです」

「なるほど、大体の事は分かった。なら後はこの力であの白いヒュドラを確実にぶっ倒して来ればいいと言うことだな」

「はい、そう言う事でチュ」

「ならレスフィナ、ミランシェ……テファの事は頼んだぞ。利くかどうかは分からないが、彼女に栄養生成剤を飲ませてやってくれ。蛾の妖精のルナは精霊力が尽きているから今は邪妖精の衣から栄養生成剤を取り出す事は出来ないが、何個かは白魔法使いのタタラが持っているはずだ」

 相手を気遣うようにそう言うとラエルロットは手に持つ黒い不格好な木刀を構えながら悠然と白いヒュドラの前に立ちはだかる。

「そろそろフィナーレだ。決着をつけるぞ、白いヒュドラ!」

「フン、お前があの暁の聖女の力を得ただとう、それは絶対に有り得ない事だ。なぜなら人々が常に垂れ流している怨みや呪いといった暗黒の力を吸収し力の元としている黒神子とは違い、聖女の力は愛や希望といった人々を救おうとする願いから構築されている聖なる力だ。だからこそこの対局の力が交わる事は絶対にないのだ。黒神子の眷属たるお前がもしも仮に暁の聖女の力を使おう物なら、その瞬間お前の体は拒否反応を起こし瞬時に崩壊へと導かれる事だろう。それが分からぬ黒神子ではないと思うのだが」

「聖女の力と黒神子の力は相容れぬ存在か、確かにそうなのかも知れないな。恐らくお前の言うようにもしも暁の聖女の力その物を俺の体に付与してしまったらその時点で俺は何らかの拒否反応を起こして大ダメージを受けるか……もしくは死んでしまってもおかしくはないだろう。だからこその、この黒い不格好な木刀なのだよ。この黒い不格好な木刀に暁の聖女の思いを乗せているからこそ意味があるのだ!」

「つまりはその黒い木刀は古代の遺物の一つで、あの蛾の妖精の少女が使用していた古代の遺物のように聖女の力を取り込んだとでもいうのか」

「いいや、それはちょっと違うな。蛾の妖精のルナが持つ邪妖精の衣は命なき物体や魔力その物を出し入れできる便利アイテムだが、俺が持つ思いを具現化する苗木の効力は、相手の弱点となる過去を読む事でその人の人となりや思いを知り、その過程で俺を勝利に導く為の道しれべを作ってくれる、それがこの黒い不格好な木刀の能力だ。まあ木刀が伸びたり、当たる確率を上げたり、徐々に相手の心を蝕み改変して行ったりと細かい呪いの効果も幾つかはあるが、きっと暁の聖女から受け取ったこの能力は俺にとっては一発逆転が見込める、特別な力になるはずだ。それがどのような物か、今からお前を使って試してやる。いくぞ白いヒュドラ!」

「特Aランクの聖女の力を、黒神子を守る暗黒の剣士であるお前が使える訳がないだろ。お前の言葉がただのはったりである事を、お前を倒す事によって証明してやる。蛇女達よ、黒神子を封じる結界を張るぞ。そのランクにもよるが、本来聖女と呼ばれている者たちは黒神子を封印する結界を作り出せる力を持っているのだ。だからこその天敵たる聖女なのだ。本来は黒神子を封印する為に使う封印術だが、まずは手始めに黒神子の眷属たるラエルロットから先に仕留めるのだ。その封印術の力で石化という永久の闇に閉じ込めてしまえぇぇぇぇ!」

 激高しながら叫ぶ主人格たる白いヒュドラの命令で一斉に動いた蛇女達は、皆で力を合わせると黒い不格好な木刀を構えるラエルロットの回りを素早く取り囲む。そんな蛇女達に向けてラエルロットは「くらえぇぇぇ、暁の聖女の力をぉぉぉ!」とかっこよく叫ぶと、黒い不格好な木刀を豪快に一振りする。

「「……?」」

 だが特に何も起こらない事にラエルロットは内心ドギマギすると、冷や汗をかきながら思いっきり焦る。

(なぜだ、なぜ何も起きないんだ。ヒノのご神木から授かりし、この黒い不格好な木刀は暁の聖女から何か特別な力を授かったんじゃなかったのかよ?)

「ハハハハハ、やはり何も起きないではないか、思わせぶりな事をいいおって。では潔く石化して封印されろ。お前に続いてレスフィナを封印した後は、お前たちをどこか遠くに別々に切り離してから石像と化したその体をバラバラに砕いてやる。何年か後に仮にレスフィナは復活できたとしても、ラエルロット、お前は確実にその場で死ぬだろうがな!」

 蛇女達が回りを囲みながら封印術を強める中、ラエルロットの体は徐々にではあるがジワジワと石で出来た石像へと変化していく。

「うわあぁぁぁ、体が、体が石化していく。もう体も動かないし、一体どうすればいいんだ?」

 まるで金縛りにあっているかのように体が全く動かない事に気づいたラエルロットは蛇女達が作る囲いの輪の中から何とか抜け出そうと懸命に逃げ出す努力をするがやはり体は全く動かない。

 もう逃げだす事も出来ないと分かり途方に暮れるラエルロットだったが、少し離れた後方からレスフィナの声が届く。

「一体何をやっているのですか、ラエルロットさん、話をちゃんと聞いていましたか。別にあなたが暁の聖女の力を使える訳ではありません。あなたが持つその黒い不格好な木刀は暁の聖女の祈りとその血液を大量に浴びてその血を吸収しましたが、その血液は能力を固定し目印とする為のただの道しるべに過ぎません。つまりです、暁の聖女さんがいつものようにそのまま暁の力を使ってしまったらその余りの強大な力にその体が耐えられなくなるのが問題なのですよね。ならその体となる肉体から暁の聖女の力を発動するのではなく、黒い不格好な木刀と暁の聖女の力の源とを直接パイプで繋げて、力を移乗できる環境と道を作れば暁の聖女の体に負荷を掛けることなく暁の聖女の力を発動させる事ができるとは思いませんか。まあ黒い不格好な木刀には私の血液もふんだんに塗りたくられてコーティングされていますから、その呪いの血の力によって思いを具現化する苗木と暁の聖女の力を共に繋ぐ道しるべはもう既に完成しているのです。本来なら聖女の力と黒神子の力は相容れない物ですが、思いを具現化する苗木が力を整え固定する役割をになっていますから、その膨大すぎる暁の聖女の力をそのままその刀身に宿す事ができるはずなのです。後はその力を発動させる為にその刀身に向けて祈りを捧げるだけなのですが……」

「祈りだって、その祈りは誰が捧げるんだよ」

「それが出来るのは、一人しかいません。おのずと知れた暁の聖女本人です。だから言ったでしょ、暁の聖女さんとラエルロットさんが共に協力し力を合わせないとこの力は発動しないと。ではお願いします、暁の聖女さん!」

 説明を終えながら黒神子レスフィナが横にずれると、その後ろにいた暁の聖女テファは胸のあたりで両手を組むと静かに祈りを捧げる。
 その祈りに反応するかのようにラエルロットが持つ黒い不格好な木刀はまるで蛍光灯が点滅するかのようにチカチカとか細く光を放っていたが、覚悟を決めた暁の聖女は目をカッと見開くと祈りの思いを言葉にして叫ぶ。

「この世界におわす、女神様から授かりし暁の聖女の光の力よ、勇敢なる黒の勇者ラエルロットさんに勝利の輝きを、絶望に立ち向かう事のできる希望ある勇気をどうかお与えください!」

「暁の聖女テファ、確かにその祈りの力、この黒い不格好な木刀に届いているぞ。そしてその思い確かにこのラエルロットがしかと受け取った。それが今わかった。なるほど、そう言う事だったのか。暁の聖女の強い祈りの力で、この黒い不格好な木刀は新たな力を発揮する事ができる。なら行こう、共にあの白いヒュドラを倒すんだ。こい、暁の聖女の力よ!」

 力強くラエルロットがそう叫んだ瞬間、黒い不格好な木刀の刀身は瞬く間に光り輝き、一振りの光の剣が完成する。その光はまるで石化が進んでいるラエルロットを助けるかのようにその体を照らし、石化の力を解除していく。

「俺にかけられた封印術の石化の力は、暁の聖女が放つ聖なる浄化の力によって石化が解除された。これなら動ける、戦えるぞ。くらえぇぇ、暁の聖女の光の力を!」

 石化が解けたと同時にラエルロットは、光輝く黒い不格好な木刀を渾身の力を込めて力強く一振りする。その瞬間周りを取り囲んでいた全ての蛇女達は皆一斉にけたたましい悲鳴をあげると、そのまま光の塵となってその場から消滅していく。

「「そ、そんなバカなぁぁぁぁぁーー、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」」

(一振りしただけでも分かる、これは物凄い力だ。光に力の質量は無いはずなんだが、実際物凄い反動を感じる。おそらくこの力は光の形をしてはいるが、本質の効果は違うのだろう。暁の聖女の清らかな心の形が光という概念を形作っているから、その光を浴びたものは全てが正しく浄化され、悪しき者は消滅という形で消えてしまうのかも知れないな。まったく恐ろしい能力だぜ)

 石化が解けただけではなく、たったの一振りで回りを取り囲んでいた総勢二十五人の蛇女達が皆一斉に消滅したその力に内心恐ろしさを感じていたラエルロットだったが、光の刃を手にしたその左手を威嚇とばかりに今度は白いヒュドラのいる方へと向ける。

「次はお前だ、白いヒュドラ!」

「フン、確かに大した力だが、我らを甘く見るなよ。私の中に彼女達の七色魔石とその遺伝子情報がある限り、いくらでも彼女達を復元し再生させる事ができるわ。それに後ろにいる暁の聖女はどうやら力の使い過ぎでもう瀕死の状態ではないか。ならこのまま長期戦に持ち込めば暁の聖女は勝手にくたばるはずだ。なら安全な所から遠距離攻撃で牽制しながら先ずは防御に徹しさせてもらうぞ」

「くそおぉぉ、暁の聖女の力が怖いからって時間稼ぎをするつもりか。姑息な事を考えやがって。だがその考えはもっと早くに実行するべきだったな。もう既に勝敗は決している事をお前に告げて置いてやるぜ!」

「もう勝敗は決しているだとう、一体どういう事だ。まさか光の剣を手にしたからってもう勝ったつもりになっているんじゃないだろうな。言っておくが暁の聖女が放つ光は攻防一体の強烈な浄化と消滅を一挙に担う効果があるからこそ、我は脅威に感じていたのだ。なにせ全ての攻撃は暁の聖女の回りを取り囲む光の壁で完璧に防がれて向こうになってしまうし、更にはその光を直に浴び続けてしまったら浄化という形でこの体は完全に破壊され消滅させられるのだからな。そう正常な健康体の暁の聖女にはまさに近づく事も出来なかったんだが、お前の持つ暁の力を宿したその光の剣は強烈な光を広範囲に飛ばす代物ではどうやらないようだ。つまり、その黒い不格好な木刀が届く射程距離内でしかその消滅の効果は使えないと言う事だ。なら話は簡単だ。その光の剣が届かない範囲外で、先ずは失った私のしもべたる忠実な蛇女達を再度復活させて遠距離魔法攻撃に徹してやる。さあ我が同胞たちよ、再生して直ぐに復活しろ。復活を遂げてラエルロットを再び攻撃するのだ!」

 主人格となる白いヒュドラの掛け声と共に超再生をへて復活した二十五名の蛇女達は皆一斉にラエルロットを見るが、何を思ったのか蛇女達はゆっくりと地面に下ると胸のあたりで両手を組みながら何かに向けて祈りだす。

 祈りを捧げながらまったく動かなくなった全ての蛇女達は怒り任せに叫ぶ主人格を無視すると、各々が涙を流しながら祈りの力を増幅させる。

「なんだ、急に体が動かなくなったぞ、まさかこれは蛇女たるお前たちの仕業か。一体何のつもりだ。まさか白いヒュドラの司令塔とも言うべき主人格たるこの私に逆らうというのか!」

 蛇女達の行動が理解できないでいる主人格たる白いヒュドラは必死に檄を飛ばすが、そんな主人格に向けてラエルロットが代わりに答える。

「まだわからないのか。その蛇女達は思いを具現化する苗木の効力の力でサンプル体だった……いいや、まだ人間だった頃の過去の記憶を取り戻し、そして暁の光の力で白いヒュドラの支配から彼女達を解放する事ができた。(まだ自我を取り戻しただけだがな)だがそのおかげで彼女達は次に何をしたらいいのかを言葉ではなくその魂で感じる事ができたようだ。皆が自らの意思でお前をこの場に固定したのがその証拠だ!」

「一体なぜ蛇女達は私をこの場所に固定したのだ?」

「決まっているだろ、お前と共にこの世から消滅する為だ。自我を取り戻した彼女達は聖女としての使命を果たす為に俺に倒される事を選択したんだ。だから皆が祈りを捧げながら魂の解放の時を静かに待っている」

「自我を取り戻したこいつらは……われ共々完全消滅を望み、そして皆で死ぬつもりなのか。まさかあの光の剣の一振りで完全に取り込み支配していたはずの蛇女達の自我を瞬時に取り戻すとは、なんて力だ。全てを正常に浄化する暁の力と、人の記憶を読み心を徐々に侵食していく思いを具現化する苗木の合わせ技がなせる新たにできた力と言う事か。本当に忌々しい限りだ」

「これでもうお前は攻撃するどころか逃げる事も満足にできなくなった。なにせ今まで味方だったはずの二十五人の蛇女達が皆一斉に自我を取り戻し、更にはお前の敵になったんだからな。いくらこの白いヒュドラの主人格とはいえ、もう一人では何もできはしないさ」

「おのれぇぇぇーーぇ、ラエルロットぉぉぉぉぉ、許さん、許さんぞぉぉ!」

「もう終わりだ。いい加減に諦めろ」

「もう、もうそれ以上は我に近づくな。だ、ダクト所長は、ダクト所長は一体何をやっているのだ。早く出て来てこの我を助けろ。早くしろぉぉぉ、ダクト所長ぉぉぉ!」

 主人格たる白いヒュドラのけたたましい助けを呼ぶ雄叫びが虚しく辺りに響くが、その希望に反するかのように当然だがダクト所長はそう都合よく出ては来ない。

「どうやらダクト所長は出て来ないようだな。ではさらばだ、主人格たる白いヒュドラよ。その体の中にとらわれている二十五名の少女達の七色魔石と、まだ生きて気絶をしているテファニアは返してもらうぞ」

「ウソだ、ウソだぁぁぁ、たかだかレベル1の最弱の下等生物ごときにこの私が負けるだなんて、絶対に有り得ない事だ。様々な聖女達の力を取り込み、不死に近い完璧な合成生物となったこの私がラエルロットごときに負けるだとう。この我が……この完璧たる私が……有り得ない、有り得ないぃぃぃ。ちくしょうぉぉーーっ。うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」

「もういい加減に消えろ。さらばだ!」

 ラエルロットが持つ光の剣の一撃を豪快に腹部に受けた白いヒュドラは、まるで風船が萎むかのようにその体が急激に縮小すると、まるで光の塵になるかのように光の粒子となり、祈りを捧げる少女達と共にこの世から消えて無くなるのだった。

 バッシュウウウウウウウウゥゥゥゥーーン、サラサラサラサラサラァァァァ!

 勿論消滅したその後には二十五人分の七色魔石と、今も意識を失い床に倒れているテファニアをその場所に残しながら消えたのは言うまでもない。
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◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

追放された最弱村人、実は世界最強でした 〜神々に愛された無自覚チート、気づいたら聖女も魔王も嫁希望だった件〜

uzura
ファンタジー
「お前なんて役立たずだ」 そう言われて勇者パーティーを追放された平凡な村人リオ。 だが彼は知らなかった――幼少期に助けた白猫こそ、全知の神の化身だったことを。 神々に祝福されし彼の能力は、世界の理さえ書き換える本物のチート。 呪いを解いた聖女、復讐を誓う女勇者、忠誠を誓う魔族の姫。 彼女たちは皆、同じ男に惹かれていた。 運命を知らぬ“最弱”が、笑われ、裏切られ、やがて世界を救う――。 異世界無自覚最強譚、ここに開幕!

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