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第三章 二人の聖女編
3-52.それぞれの旅立ち
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3ー52.それぞれの旅立ち
ラエルロット達の元から離れたミランシェは薪を集める事なく速足で獣道の中を歩く、まるでどこかの目的地に向かっているかのような足取りだ。
だが既に森は漆黒の闇に包まれ周りは何も見えない状態のはずなのだが、明かりとなる物を何一つ持ってはいないミランシェは特に気にすることなく、まるで見えているかのようにただひたすらに目的地を目指す。
速足で林の中を歩くこと数分、森や林を抜け、月明かりが照らす草原が見える広場に入ろうとした時、急ぐミランシェの行く手を遮るかのようにある人物が木の陰から姿を現す。
その人物とは、第六級冒険者の資格を持つ、神聖白百合剣魔団のギルドに所属をしている、白魔法使いのタタラである。
既に先回りをしていたタタラは両手に持つ魔法の杖の先端に灯りとなる光を灯すと、目の前にいるミランシェの動きを警戒しながら静かに声をかける。
「あらミランシェさん、そんなに急いで一体どこに行くつもりですか。薪となる小枝を拾ってくるのではなかったのですか」
「それはこちらの台詞です。白魔法使いのタタラさん、あなたこそこんな所で一体どうしたんですか。わざわざ先回りなんかをして、私になにか話したい事でもあるのですか」
僅かに殺気を込めると小撃砲使いのミランシェは静かに目を細める。そんな不気味さ溢れる少女に対しタタラは震えながらもついに覚悟を決めたのか質問を開始する。
「確かテファさんでしたか、あの暁の聖女のサンプル体の事は残念でしたね。そんな暁の聖女の遺伝子情報の入った聖女になれる新薬をあなたは持っていたそうですが、破壊もせずに、なぜあの局面でテファニアに聖女になれる新薬をわざわざ渡したのですか?」
「なぜって、あなたも知っての通りそのテファに、聖女になれる新薬をオリジナルのテファニアに渡してくれと頼まれたからでしょ。だから渡したんだけど、なにかおかしな事でもあったかしら」
「そうですか、なら質問を変えます」
「まだなにか、今急いでいるんですけど……」
「ときにミランシェさん、あなたの履歴書をダグラス試験官から見せて貰いましたが、あなたは家に犬を飼っているようですね。名前はなんと言うんでしたっけ」
「なんですかその質問は、いきなり唐突ですね」
「いいから話してください!」
「犬の名前ですか……ゼロです。私の愛犬の名前はゼロという名前ですが、それがなにか?」
そのミランシェの答えを聞いたタタラは思わず苦笑する。
「フフフ、ゼロって……それは私がダグラス試験官に頼んで履歴書を新たにそっくりに書き直させた時に直した、私が付けた名前です。あなたはそれとは知らずにダグラス試験官が持っていた履歴書の中身を勝手に見て、そしてその内容を信じたという証です。つまりあなたは本物のミランシェさんではなく、彼女に変化をした真っ赤な偽物だという事です」
「だから私が偽物だというのですか。それは流石に早計な判断なのではないでしょうか。実は私は誰かに操られ洗脳されているだけかも知れないじゃないですか。いいえもしかしたらどこかで頭を打って記憶を誤認しているだけかも」
あくまでもとぼけるミランシェにタタラは更なる追い込みと言うべき真実を語る。
「実はエマニュエ大神官がここに来た時に教えてくれました。この研究所内の地上にある、どこかのフロアを訪れた時に、泣きじゃくるおかっぱ頭の女の子を発見したそうです。その子を無事に保護する際に少女は自分の事を話してくれたそうです。その子の名が、ミランシェとの事でした」
その真実を告げた言葉にしばらくミランシェは黙っていたが、開き直ったのかタタラの方に顔を向けるとニヤリと不気味な笑顔を作る。
「そうですか……無事に彼女は見つかったのですか。超スピードで一瞬の内に移動をさせて、衣服を剝ぎ取り、遠くに捨てて来たのですが生きていましたか。普通の人間は私の超スピードに耐えきれなくて重力のGの負荷でそのまま死んでしまうのですが、中々にしぶとかったようですね。時間がなかったとはいえやはりとどめを刺しておくべきでしたか」
「いい加減に正体を表せ、遥か闇なる世界の黒神子の一人にして、忌まわしいネズミの頭部と神より授かりし天空を駆ける天足を持つ、天足のアトリエ!」
白魔法使いのタタラが大きく叫ぶと、もう既に時間の計算をしていたのか、爆撃系魔法でもある複数のマジックミサイルが頭上からいきなりミランシェが立つ大地に目がけて雨のように降り注ぐ。
ドカドカドカドカドカドカーードッカアァァァァーーン!!
その瞬間幾度も大きな大爆発が起こり、周りの木々は吹き飛ばされ黒い土煙を上げていたが、ミランシェは涼しい顔をしながらその場へと立つ。
その次の瞬間ミランシェの姿はなんの前触れもなく大きく変わり、そこに現れたのは、不気味さ漂う地味な黒いローブを纏い、頭部にはリアルなネズミのフェイスを持つ、背丈の小柄な少女が姿を現す。
遥か闇なる世界の黒神子、天足のアトリエの登場である。
一斉攻撃によるマジックミサイルの爆撃を雨のように降り注がれた天足のアトリエだったが、特に避けたり防いでみせたりする様子もなく全ての攻撃をその体で受け止めて見せる。
勿論なんのダメージも負ってはいない事に驚愕する白魔法使いのタタラに対し天足のアトリエはすぐさま仕返しとばかりに攻撃態勢を取る。
「そんな、傷一つ負ってはいないだなんて、なんて化け物なの!」
「フフフ、タタラさん、私の正体を見抜いたのは見事ですが命を縮めましたね。残念ですがあなたには今この場で死んで貰うでチュ!」
アトリエが今まさに動き出そうとしたその時、まるでタイミングを図るかのように地面の中からいきなり現れたポニーテールの髪型をした忍び風の女性が両手に持つクナイを素早く投げつける。だがその意表を突いた攻撃を天足のアトリエは特にうろたえる様子もなく難なく避けて見せる。
「ふ、つまらない攻撃でチュ、まさかそれで背後をついたつもりですか。そんな伏兵がいたことには少しだけ驚いていますが、いくら二人で挟み撃ちにしてもお前たちでは役不足でチュ」
いきなり土遁の術で姿を隠しながら攻撃をしてきたのは、魅惑の剣士・耳長族のエドワードに敗北をした、神聖・白百合剣魔団の生き残りの忍者職の少女である。
生き残ったその後は、白魔法使いのタタラやダグラス試験官に凄腕の耳長族がいるという重要な情報を告げたり、まだ外にいたエマニュエ大神官に情報を与えたりと色々と陰で動いていたようだ。
だがそんな彼女もアトリエへの奇襲に失敗すると直ぐ様腰に下げている短刀に手をかける。
最初で最後の奇襲が失敗した為か余りの緊張で手足はガタガタと震え、もう既に彼女の運命は風前の灯火のようにも見える。
それでもまだタタラと忍び風の女性は諦めない。なぜならまだ二段階からなる希望が隠されているからだ。
その一柱がついに動き出す。
「お願いします、犬人族のシャクティさん!」
バッサアァァ、バサバサバサバサバサバサ!
そうタタラが叫んだのと同時に木々の枝や緑の葉を搔きわけながら頭上から現れたのは今現在は神官見習い職にして、元は闘士の職業についていたという変わり種のケモ耳メガネ娘、犬人族のシャクティである。
シャクティは木の葉に覆われた闇夜が広がる空からいきなり現れると両こぶしを構えながら猛スピードで地面に立つ天足のアトリエ目がけて突進していく。
「黒神子・天足のアトリエ、これでも受けてみなさい。犬人族流聖拳、五方の構え。上中段火の型【乱れ直突き連打!】」
「はぁ、あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーーぁ!!」
ドカバキドカバキ、ドカドカドカドカーーズッコオォーーン、ドカーン!
両腕から繰り出される無数の正拳突きによる素早い連打を落下地点に足がつく瞬間に全て叩き込むシャクティだったが、その怒涛の攻撃すらも天足のアトリエは全て紙一重で難なく避けて見せる。
「フフフ、無駄無駄無駄無駄でチュ、そんなトロイ攻撃などは全く当たらないでチュ。また見知らぬ伏兵が潜んでいたようですが、そんなに役には立たなかったようだな」
「な、なんて寸分たがわぬ正確な動きと圧倒的なスピードなの、私たちとは明らかに強さの次元が違うわ……レベルが違いすぎる……これじゃどう逆立ちしたって絶対に勝てる訳がないわ!」
絶えず攻撃をしながらもそのレベルの違いに思わず弱音を吐く犬人族のシャクティだったが、なんの策もなくただ闇雲に攻撃をしている訳ではないようだ。
その希望と闘志に満ちた目を向けた犬人族のシャクティは体勢を整える為に一旦後ろに後退すると、注意を払いながらも天足のアトリエと距離を取る。
「やはり私の実力では時間稼ぎにもなりませんか、天足のアトリエ……おそるべき最速の魔女です。ですがこのまま手をこまねいている訳にはいきません。ここは私もさらなる手を出さないといけないようですね」
その犬人族のシャクティの言葉に天足のアトリエはニヤリとほくそ笑む。
「さらなる手ですか……ああレベルアップの事ですね。そう言えばあなた、本来の実力を何段階にもカモフラージュをして、自分のステータスを低く提示しているようですが、その一つの封印を開放して、私に挑むという訳ですか。ですが一体幾つものレベルの封印の解除をしたら私にたどり着くのでしょうね。あなたが持つ本来の闘士としてのレベルが一体どの程度の物なのかは分かりませんが、最初からフルマックスで来ないと力を出し惜しんでいた事を後悔する事になりますよ」
「安心してください、さらなる手とは何も私が戦う事ではありません。たとえ私がフルマックスで全実力を出し切ってもあなたに勝てないことは分かり切っていましたので、文字通り新たな手を使うという意味でさらなる手と話したのです」
「ほ~う、では一体他にどんな手でこの天足のアトリエの足を止めるというのですか。その手段や策を是非とも見せて欲しいでチュ!」
スタ・スタ・スタ・スタ・スタ・スタ。
圧倒的な強者の余裕を放ちながらも悠然と迫る天足のアトリエの前に、まるで逃げてきたかのように草むらを搔き分けていきなり現れた耳長族のエドワードと豚人族のドラムが息を切らしながら怯えの表情を向ける。
「アトリエ、ここにいたらやばいぞ、今すぐにここから遠くに逃げるぞ。彼女が、あの忌々しい彼女がいつの間にかこの地に来ているぞ。別に戦ってもいいが、この前も結局は勝負がつかずに辛うじて痛み分けになったんだから、もしも彼女と今一度本気で戦うつもりなら、色々と覚悟を決めないといけないようだ。それでどうする!」
「あれはやばいっす、そしてアトリエ様とは非常に相性が悪いです。もしも戦ったらその勝利の確率は恐らくは五分五分です。いや、運が悪かったら最悪こちら側が全滅するかも。だからここは速やかな撤退を進言するっす!」
耳長族のエドワードと豚人族のドラムの慌てふためきように一体誰がこの地に来たのかを急激な気温の変化と突如降って来た白い雪を見た事で天足のアトリエはなんとなく理解する。
「そうか、人知れず、この研究所に彼女を呼んだのですね。完璧な絶対正義を掲げる無慈悲な特Aランクの聖女、その名も聖氷結のスターシャ……確かに彼女が相手なら私達は是が非でもその命を賭けないといけませんね。でも彼女との戦いには何も感じる物がありませんし、高密度の冷たいからくりの機械と争っているようで嫌な気分になります。なので何事にも利己的に冷めた考えをする彼女とは戦いたくはないでチュ」
「でも性格的にはアトリエとは考え方や行動理念は同じのはずなのだが、一体彼女とは何が合わないのでしょうか。暁の聖女とは共にライバルを意識するくらいにはドンピシャなのにね?」
「やはり相手側から戦おうとする熱い物がこみ上げて来ないからでしょうか。確かに暁の聖女テファも、聖氷結のスターシャも慈愛と正義を掲げてはいますが、その行動には大きな開きがあるでチュ。もしも人質が百人いたとして半分の五十人しか人を救えないと判断をしたのなら、それでも暁の聖女テファなら最後の最後まで最善の方法を考え模索し体を張って百人全てを助けようと努力をするはずでチュ。ですが聖氷結のスターシャは五十人を確実に救う為ならもう五十人の人質を躊躇なく見捨てるはずです。その方が確実で合理的だからでチュ。それが彼女の正義であり、確実な慈愛なのだそうでチュ。その考えには黒神子たる私も同委はできますが、だからこそ面白くもなんとも無いのでチュ。だって私が知る聖女の姿は、無駄とは分かっていても藻掻き・悩み・苦しみ・そして涙する、そんな愛と憎しみとの果てに葛藤し、最後は自滅する。それが本来の彼女たちが辿る大まかな一連の流れだったはずです。故に大概の聖女達は皆私を前にしたら、恐怖し絶望し、そして最後は覚悟を決め、人々を守る為に戦い散るのが定番なのでチュ。ですがあの暁の聖女テファだけは違ったでチュ。テファは最初から私の正体に気付いた上で私と対等な友に、そしてライバルになるべく好意的に接して来たでチュ。ほんと鬱陶しくてその予想だにしない行動には流石に戸惑いましたが、逆に見たくもなったでチュ」
「一体何を見たくなったのですか?」
「あいつの……テファの完璧なまでの敗北と絶望した姿をでチュ。この私に完膚なきまでに負けて、真に自らの負けを認めない限りは、私とテファの勝負は永遠に終わらないでチュ!」
だがその話を聞いた耳長族のエドワードは少し困惑する。
「でも暁の聖女テファってもう死んだんですよね。その命とも言うべき七色魔石を抜き取られて、今はそのオリジナルのテファニアとかいう小娘が暁の聖女を襲名したらしいじゃないですか。ならもうテファにこだわる必要はないんじゃないのですか。もう当の本人はこの世にはいないのですから、もう張り合う事もできないでしょ」
「フフフ……確かにそうですね。まあつまり何が言いたいのかと言うと、聖氷結のスターシャの言動はまるで自らの鏡を見ているようでなんだか気持ちが悪いですから、余り関わりたくはないという事です。やはり聖女は熱い慈愛と悪を許さない正義の心で挑んでくるからこそ、ひねり買いがあるのですよ。それを機械的にこなされてはこちらとしては興醒めでチュ!」
「そうですか。まあアトリエの考えている事は俺には理解はしかねますが、あの聖氷結のスターシャが圧倒的に脅威だと言うことだけは確かです。そしてその強敵の一角を担う彼女がついに来たようです」
「ひ、ひいぃぃぃーー、アトリエ様、助けて!」
怯え驚く豚人族のドラムの言葉に誘われるかのように夜空から穏やかに降っていたはずの白い雪は、いつの間にか猛烈な突風を放つ冷たい冷気となる。
「出身は確か、神聖魔法都市・エルメキアだったかしら……まさかあなた自らがここに来るとは思いもしなかったでチュ、特Aランクの聖女、聖氷結のスターシャ!」
緊迫と畏怖の念を込めながら発した天足のアトリエの言葉に応えるかのように現れたのは、特Aランクの聖女・聖氷結のスターシャである。
スターシャはニコニコとした冷たい表情を崩す事なくその姿を現すと、激しく睨み付ける天足のアトリエと対峙する。
「あら天足のアトリエさん、随分とご無沙汰しています。あの時はどうも」
「聖氷結のスターシャ、まさかあんたが直接ここに来るだなんて思いもしませんでした。それで、今日は何用ですか。まさかこの私と直接決着をつけに来た訳じゃないでしょうね」
「別に、ただエマニュエ大神官に頼まれたから来ただけです。とある黒神子の一人がこの研究所内に潜入しているという情報を掴んだとの報告がありましたから、たまたま近くにいた私が急遽来たという訳です。でもまさかその黒神子が、前に一度戦ったことのあるあの天足のアトリエさんだったとは思いもしませんでした。世間ってほんと狭いですわね」
「フン、戯言を……それで一体あんたはこれからどうするつもりですか。このまま私と戦闘を楽しみますか。もしもこの場でやり合うというのなら、私も色々と覚悟を決めなくてはいけませんので」
殺気を込めた威嚇をする黒神子・天足のアトリエの様子を近くで見ていた耳長族のエドワードは腰に下げている聖剣チャームブレード(またの名は、色欲による欲と真実の愛を永遠に追い求める剣)を鞘から素早く抜き放つと、その長剣を華麗に構えて見せる。
「この俺が聖剣チャームブレードで、ここにいる白魔法使いの少女と忍び風の少女、それと犬人族の女を入れた三人を切り捨てて、仲間に加えて反撃してやる。いくら聖氷結のスターシャが強い力を持っていたとしても、親しい知り合いがいたら恐らくは攻撃を躊躇するはずだ!」
「その考えは甘いでちゅ、もう忘れたのですか。この前の戦いの時にあなたは同じ手であのスターシャに挑みましたが、その全ての人質ごと、彼女が作り出す絶対零度の氷壁の中にとじこめられてしまったではないですか。あの時、私が超スピードであなたを連れてあの場から逃げなけねば一緒に氷漬けにされていた所です。それに見てください、そんな事を話している間にどうやら私達は動きを封じられてしまったようです」
「な、なんだとう?」
その天足のアトリエの言葉に耳長族のエドワードはフと足の下を見てみると、靴底の裏と氷結した地面とが引っ付き、剝がす事のできない状態になっている事にようやく気付く。その危機的状況を暗示するかのように聖氷結の聖女・スターシャの第一段階の攻撃がついに始まったのだ。
「くそぉぉ、靴底の裏と地面を瞬時に凍らせて俺達の動きを封じたのか。これじゃ逃げることもましてや攻撃する事もできない。それに彼女の所まで約二十メートルくらいの間合いはあるが、おそらく地面は無暗に走り抜けられないように滑りやすい氷で覆われているはずだ。それにスターシャの体全体を覆っているあの目に見える氷の結晶は恐らくは氷の結界の類のものだろう。前もそうだったが、確かあの氷の結晶に触れたら瞬時に能力が発動し一瞬の内にその体は永久表土の氷結の中に閉じ込められてしまうんだったな」
「ええ、そうなってしまったらたとえ私達黒神子でもそう簡単には脱出はできないでチュ。なにせ私達の不死の能力にはその細胞を活性化させて活動ができるだけの温度が必要ですから。でも絶対零度の氷結の中に閉じ込められてしまったら体の全ての生命活動は文字通り停止をしてしまうと言う事です。勿論それだけでは私達黒神子は死にはしませんが、誰かにその氷壁を解いてもらわない限りは永遠にその氷壁の封印からは逃げられないと言う事です。だからこそ彼女は恐ろしいのでチュ」
「永遠に氷漬けか……確かに不老不死でもある黒神子達に取っては天敵のような存在だな。なら一体どうするんだ。このままじゃ状況は不利になる一方だぞ。この寒さは流石にやばいって、特に冬の装備をしている訳じゃないから、この寒さは確実に俺達の体温と体力を根こそぎ奪っていくぞ。ゆえに長期戦は絶対に避けなくてはならない。どうにかして短期決戦で仕留めるか、それとも逃げる隙を作らなくては……このままじゃ全滅だぞ!」
「分かっているでチュ、ここは私が聖氷結のスターシャと一騎打ちをするでちゅ、なのでお前たちはもしもの時の為に逃げる準備をするでチュ。おそらく今の勝利確率は、向こうが七で……私が三ですから」
「なっ!」
もしかしたら自分が負けるかも知れないという後ろ向きなセリフにその眷属でもある耳長族のエドワードは思わず不安の顔を向けるが、黒神子・天足のアトリエは冗談だと笑いながら氷結した地面にへばりつく靴底を強引に引き剝がすと、氷結の聖女スターシャのいる間合いまでどうにか歩き出す。
通常の人間の力では引き剝がすことのできない、まるで接着剤のように靴底にへばりつく氷結を天足のアトリエは自慢の脚力で引きはがしながら約十メートルほど歩くがその時点でアトリエが履いている靴は靴底が破け、完全に破壊してしまう。
その凍てつく氷結した地面に素足で立つことになった天足のアトリエは、後十メートルといった所で立往生をする羽目となる。
「ここまで来てついに履いてある靴が破けてしまいましたか。これじゃもう動けないでチュね。もしもこのまま動いたりなんかしたら今度は自らの足の裏の皮を剝がしながらあなたに接近しないといけませんから。でもそれは流石にキツイでチュ。氷のせいで地面に摩擦が起きない以上、自慢の超スピード技もどうやら使えなそうですからね」
「フフフ、またまた冗談を、あなたなら周りの木々を踏み台にして超スピードを作り出す事は可能じゃないですか。恐らくはあなた一人だけなら難なく私の囲いからは逃げられますが、そこにいる部下の二名を置いて逃げる事ができないからこそ、あなたは私に敢えて近づいたのでしょ、そうしなくてはそこにいる二人は確実に氷漬けにされてしまうでしょうから。そして知っていますよ、次にあなたが何を考えているのかを。あなたは確か、数秒間だけなら空気を足場にして空を駆ける事が可能なんですよね。その神速の力で私に近づこうと考えている。違いますか」
そのスターシャの指摘に天足のアトリエは静かに目を細めると、一か八かを繰り出す覚悟を決める。
「ええ、その通りでチュ。全く、接近戦主体のこの私は近距離での肉弾戦には自信がありますが、攻防一体の氷結の力を持つ特Aランクの聖女が相手では流石に分が悪いでチュ。ですがその間合いの中に入れさえすれば後はそのか細い首をねじ切るのは簡単でチュ!」
殺意を込めながら不気味に呟く黒神子・天足のアトリエに向けて、聖氷結のスターシャは何故かある遠くを気にしながらぼそりと質問をする。
「時に天足のアトリエさん、あなたはこの研究所区内から何処かに向かっていたようですが一体どこに向かっていたのですか?」
「お前には関係の無い事でチュ、ただこの地の先にはどうしても行かせたくはない者達が接近して来ているでチュ、あの気高き少女たちが散っていった地を彼らに荒らされる訳にはいかないでチュ!」
「……。」
真剣な顔で言う天足のアトリエの言葉を聞いた聖氷結の聖女スターシャは瞬時に氷結の神聖力を解除する。
その瞬間あれだけ周りを凍てつかせていた季節外れの雪や氷や寒さは全てが噓のように無くなり、天足のアトリエ・耳長族のエドワード・豚人族のドラムの三人の体は瞬時に自由になる。
一体なぜ攻撃を解いたのだと疑問の顔をする、白魔法使いのタタラ、忍び風のくノ一少女、犬人族のシャクティ……それと敵側の天足のアトリエ、耳長族のエドワード、豚人族のドラムを入れた六人だったが、そんな思いを代表して天足のアトリエが代わりに聞く。
「一体なぜ攻撃を解いたのでチュか。もしかしたら私を仕留められる絶好のチャンスだったかも知れないのに?」
「フフフ、その手には乗りませんよ。あなたにはまだ私を殺せるだけの可能性と謎が隠されているみたいですから無暗に危ない橋は渡れません。それに今はあなたとは戦う時ではないと判断しました。もしかしてあなたは、この研究所に迫って来ている謎の一団の気配をいち早く察知してここに来たのではありませんか。ここであなたと戦うのも面白そうですが、恐らくは消耗戦になってしまう物と思われるので、その後にその者達と戦いながらエマニュエ大神官達を守り抜くのは流石に難儀だと判断したまでの事です」
「聖氷結のスターシャ……どうやら借りが出来てしまったようでチュね」
「フフフ、私も同じ聖女として、この地で道半ばで散っていったサンプル体の少女達には少なからず思う所がありますから、その墓標となるこの地を略奪者から守ってくれるというのなら、その人たちの相手はあなたに任せて、私はこの先で待っているエマニュエ大神官達と共にこの地を速やかに離れる事にしましょう。この研究所の地下にいるノシロノ王国側の増援部隊にも撤退の指示を出しておきますから、どうか後はなんの憂いもなく、好きなだけ思う存分暴れて来てください!」
そうにこやかに言うと聖氷結の聖女スターシャは、白魔法使いのタタラ、忍び風のくノ一少女、そして犬人族のシャクティの三人を伴いながら、その地を速やかに去っていく。
*
そこに残された、天足のアトリエ・耳長族のエドワード・豚人族のドラムの三人は聖氷結の聖女・スターシャが去った方角をただ黙って見ていたが、全てを見透かしていたかのように天足のアトリエは木の陰に隠れている異世界召喚者の池口里子に今現在迫りつつある謎の一団の説明を求める。
「異世界召喚者の女……隠れてないで出てきなさい。あなたが私の後を人知れず追っていた事はわかっていました。それでここに向かって来ているあの一団は灰色の女神が送り込んだ、異世界召喚者達で間違いないでチュね」
天足のアトリエの問いに、木の陰から姿を現した池口里子が緊張しながら言う。
「ええ、恐らくは私達の仲間の異世界召喚者達でまず間違いないわ。多分あなた達が仕留めそこなった生き残りの数名が近くにいるある一団に助けを求めてここに連れて来たのでしょうね。ついでに聖女になれる新薬のサンプルと、金になりそうな機材と、研究資料を奪うためにね」
その池口里子の話を聞いた天足のアトリエはネズミの顔から覗かせる鋭い赤い眼光を不気味に光らせると、近くまで迫りつつある異世界召喚者達の一団に向けて低い唸り声を上げる。
「グググーーゥゥ、チュウ、チュウゥゥ。そうですか、やはりここに来ますか。もしもこの研究所にある資料や機材や七色魔石を奪うために来たというのなら当然相手になってやるでチュ!」
「わざわざここで待ち構えて、戦う気なんだ……」
「当然でチュ。それで、あなたはこの後はどうする気ですか。このまま黙って逃げるというのなら別に追いはしませんが、そのままあの一団に加わるというのなら今度は容赦はしないでちゅ。確実に殺してやるでちゅ、だからここで選ぶでチュ。このままこの地より離脱をするか、あの一団と合流してまた新たに私たちと戦うかをでチュ!」
その運命を決める重要な選択に異世界召喚者でもある池口里子は当たり前のように答える。
「このまま退散するに決まっているでしょ。おそらく私の仲間たちが駆け込んだ一団とはこの近くにたまたまいたレベル二十から三十からなる鉄人旅団だったはず。彼らの人数は大所帯で確か二百から三百人くらいはいたはずだから、各々のレベルが低いながらもその数に言わせて侵略するのが彼らの得意な戦法だったはず。まあ仲間の犠牲も厭わずに数の暴力で攻めてたってことね。私は余り関わった事はないし好きではないギルドだからこのままスルーをさせて貰うわ。それに決意を固めた今のあなたや、その森の奥にいる自称勇者馬鹿にかかわるのはもう懲り懲りだからね」
「フフフ、あなたも、ラエルロットの勇者馬鹿としての姿勢や、テファが語っていた七色魔石の命の有難さとその重みの重要さを知ったようでチュね」
「あれだけ熱弁されたらいい加減嫌気もさすわよ。まあいい勉強にはなったけどね。やはり正義と熱い信念を持つ勇者馬鹿と、融通の利かない慈愛あふれる偽善馬鹿の聖女、この二人のような考えを持つ輩は非常に危険だわ。それが分かっただけでも今回は良しとするかな」
「クククク、同感でチュ!」
「それじゃそろそろあなたの気が変わらない内にここから去るわね。じゃあね、約束と仁義を重んじる……遥か闇なる世界の黒神子、天足のアトリエ!」
そう言うと池口里子もまた、風のように闇夜の中へとその姿が消えていく。
「「「……。」」」
三人の間に強い夜風が吹きすさむ。
ヒュウゥゥゥーーゥゥン!
「ついに三人になってしまったようでチュが、これから私はとある野暮用を片付けないといけないので、お前たち二人は速やかにここから退却して、次なる指示を待つでチュ!」
「えっ?」
「それはどういう事ですか?」
「この戦いはあくまでも私の勝手な私情が絡んでいますから、お前たちは戦わなくてもいいという事でチュ。直接お前たちには何も関係の無い事ですから!」
まるで気遣うように言う天足のアトリエの言葉に耳長族のエドワードと豚人族のドラムは互いに顔を見合わせるとしばらく黙っていたが、耳長族のエドワードは手に持つ聖剣チャームブレードを一振りすると、天足のアトリエの左側に堂々と立つ。
「関係ない事はないでしょ、なにせあの暁の聖女テファとかいう女はこの俺を出し抜いたばかりか差し出この俺に勝った尊敬すべき聖女だ。その俺が認めた聖女の墓標を荒らす輩がいるというのなら、当然俺も戦いますよ。もしも出会う形が違っていたら、暁の聖女テファとはもっといろんな話を語って見たかったです。まあかなりいい女でしたからね」
「エドワード……」
エドワードが語り終えた時を見計らうかのように、今度は豚人族のドラムが天足のアトリエのいる右側に自信なさげに立つ。
「俺も……おいらも戦いますよ。あの暁の聖女テファとかいう女は、物凄く自己中心的な狂わしいくらいの慈愛と正義感を押し付けてくる恐ろしい聖女でしたが、俺の身を案じる心だけは本物だったような気がします。ちょっと痛いくらいに狂気じみていてかなりあれだったけど、やはり俺も陰ながらに参戦しない訳にはいかないでしょ。だって俺は、暁の聖女テファ曰く、彼女の義理の息子……らしいですからね。その義理の母が眠る聖地を異世界召喚者の連中に荒らされるのだけは我慢ができないっす。なので今は……今だけは彼女の息子らしく俺も戦うっす!」
「フフフ、私は自分を親友と呼んでくれた、今は亡き友の為に戦い……エドワードは自分を倒した尊敬に当たる強者の為にその剣を振るい……ドラムは自分を義理の息子にしてくれた義理の母の為にその勇気を振るうか。お互いあの暁の聖女テファには振り回されっぱなしでチュね」
「ハハハ、いいじゃないですか、なんだかいつもの俺達ぽくって。仕事は完璧にこなすが何処か詰めが甘く抜けているとこなんか俺達らしいですよ」
「それは私の詰めが甘いと言う事でチュか」
「そこがいいんですよ。天足のアトリエ、俺はあんたの眷属になれて幸運だった。俺はあんたの事を理想の上司として誇りに思っていますよ!」
「俺もっす、俺もアトリエ様に拾ってもらわなかったら今の俺はなかった。恐らくはもうとっくの昔にどこかで野垂死にをしていたはず。だからおいらはこれからもアトリエ様に地獄の果てまでついて行くっす!」
「お前たち……分かった、ならもう何も言うまい。それにもう敵側は向こうで沢山お待ちかねのようだ。では行こうか、殺し合いと無常が渦巻く、理不尽極まる戦場の地へ!」
前を見据えた天足のアトリエが高らかに声を発すると、耳長族のエドワードと豚人族のドラムはその後ろについていく。
そう決意と覚悟を固めた三人は、異世界召喚者達の一団が待ち構えている戦場へと足を向けるのだった。
黒神子・天足のアトリエと対峙する聖氷結の聖女・スターシャの図です。
*
その頃、何日かぶりに思わぬ形で再度会う事になった聖氷結のスターシャの案内で研究所から離れたラエルロット達は、近くで待機をし忍ばせていた馬車に皆が乗り込む事に成功する。
突如いなくなったミランシェや池口里子の捜索をしようとラエルロットがかなり騒いだが、今探しにいったら二十遭難になると他の人達に説得され、渋々承諾する。
そんなラエルロットの心配を察したのか皆もまた彼女が戻るのを一晩中待って見たが、異世界召喚者の一人でもある池口里子はついに帰って来る事はなかった。
そして肝心のミランシェの方は、知らない間に何故か馬車の中で先に待機をしていたらしいのだが、その言動はまるで人が違うかのように幼く、内気なよそよそしさも相まって、まるで全くの別人のようだと酷く驚く。
今までの冷静沈着な謎の凄みのあるミランシェを知っているだけにラエルロットと蛾の妖精のルナは当然激しく動揺する。
地下に降りた際の、あのミランシェは天足のアトリエが化けた姿なのだと説明されたラエルロットは酷く驚いているようだったが、あの歴戦の戦士のような冷静な判断力とその異常な強さに納得したラエルロットは、何だかんだで何気に気遣ってくれたそのアトリエの頼りがいのある凛々しい姿に心の中で思わず感謝の言葉を贈る。
そしてラエルロット達は幾つかの謎を残しながらもどうにか無事にノシロノ王国に戻ることができたのだ。
その二週間後。
借りている古い安宿を根城にしていたラエルロット・レスフィナ・蛾の妖精のルナの三人に加え、そして新たに加わるカラクス鳥のピコちゃんを入れた一羽は、次の新天地に向かうが為に買い足した新たな荷物を速やかに詰め込み、旅の支度をする。
レスフィナが調合し作った薬草を道具屋に売り、呪いの土地や曰くのある道具の浄化に最善を尽くし、最後は悪意あるエネルギーの吸収をし幾人もの依頼人達の要望に応えた黒神子レスフィナは全ての用事を済ませると宿屋で旅立つ準備を始める。そんなレスフィナに合わせるかのようにラエルロットもまた第八級冒険者試験を無事に合格した事もあり、この地を速やかに離れる事に決めたようだ。
本当は手持ちが心もとないので少しバイトをし小銭を稼ぎ、どこかの剣道場で基礎的な剣の腕をもっと上げたかったのだが、ラエルロットから流れる黒い不気味な魔力の流れを不信に思ったのか各師範達はラエルロットの入門を断り、そのお陰でどこの道場にも入門できない事を知る。
だからこそラエルロットはレスフィナの提案に便乗するような形でこの街を離れ、次の目的地に行く事を決断したのだ。
「おいルナ、このピコちゃんをどうにかしてくれ。さっきから俺が持つ携帯用の食料に目がけて襲い掛かって来るんだが。よせピコちゃん、ついさっきエサは与えただろ、まだ食い足りないのか。少し意地汚いぞ!」
「ふ、それはラエルロットがカラクス鳥のピコちゃんに(生のクズ豆でもある)鳥の餌を与えたからでしょ。ピコちゃんは鳥の餌ではなく、人間が食べているソーセージを食べたかったみたいですよ」
「だからソーセージは贅沢だって言ってるだろ。大人しく鳥の餌を食うんだ。ピコちゃん。あ、ああぁぁぁぁ!」
そう言っている間にラエルロットは準備をしている旅用のバックからソーセージを一本抜き取られる。
「ああ、ピコちゃん、ソーセージを返せ!」
「カアァァ、カアァァ、カアァァ!」
ソーセージを咥えながら玄関先まで飛ぶカラクス鳥のピコちゃんに対し必死に後を追うラエルロットだったが、古宿の表入り口の辺りまで見送りに来てくれた白魔法使いのタタラと犬人族のシャクティの二人が笑顔で顔を出す。
「こんにちはラエルロットさん、もう準備は出来ましたか。それと第八級冒険者試験の合格、おめでとうございます」
「合格おめでとうございます。また随分と早い旅立ちですが、次はどこへ行くつもりですか?」
別れの挨拶がてら第八級冒険者試験の合格のお祝いと、旅の準備の状況具合を聞くタタラとシャクティの二人にラエルロットは笑顔で言葉を返す。
「あ、わざわざ見送りに来てくれてありがとうございます。お陰様で予備の追加の枠で無事に合格することが出来ました。それともう準備も大体は出来ています。そして次の旅の目的地は神聖魔法都市として名高い、神聖魔法都市エルメキア王国です」
「エルメキア王国ですか。あそこは魔法工学が発達している大都市ですから色々と楽しめると思いますよ。そんなラエルロットさんにダグラス試験官からある手紙を預かってきましたので渡しておきますね」
「ダグラス試験官が俺に手紙ですか。一体なんの手紙なんでしょうか?」
「正確にはあなたへの手紙ではありません。誰かに見せる推薦状だそうです」
「推薦状、一体だれの?」
「当然あなたのです、ラエルロットさん。この推薦状を持ってある人物に会うのも、捨ててこの推薦状をなかった事にするのも勿論あなたの自由ですが、ダグラス試験官はこう言っていました」
そう意味ありげに言うと推薦状を預かってきた犬人族のシャクティは、ダグラス試験官の言葉を代わりに語りだす。
「今回の件で重々自分の実力を理解したとは思いますが、はっきり言って今のラエルロットさんの戦闘スタイルは不死の力と数々の呪いのアイテムの力があってこその力です。決してラエルロットさんの実力ではありません。つまりは基本的な力量がないと言っているのです。自己流で基本的な練習をして来たとは思いますが、ここはやはりちゃんとした歴戦の経験を持つプロの方に指導を受けた方がいいとの事でした。ですが黒神子と一緒にいる以上どこの道場にも受け入れて貰えないのは事実なので、この推薦状をあなたに送るのだそうです。行くも行かないもあなたの自由ですが、これからも黒神子レスフィナと一緒に旅を続けて勇者を志すというのなら、ごく一般的な水準の力くらいは身につけておかないと、いつかボロが出るだろうから騙されたと思って一度ここを訪れてみてはどうかという話でした。そしてこれがその推薦状です。どうぞ」
シャクティが差し出したその推薦状をラエルロットはぎこちなく受け取る。
「あのダグラス試験官がなんでそこまでしてくれるのかは正直分からないが、まあ有難く受け取っておくよ。実力がないのは今回の件で嫌というほど分かったからな。そして、この推薦状を渡したと言う事は当然この推薦状の先にいる指導者はエルメキア王国内にいると言う事でいいんだよな」
「はい、エルメキア王国内にいると聞いています。どんな人物かは何も聞いてはいませんが、かなりの実力者だという話です」
「かなりの実力者か。そんな強い人の下で強くなれる修行をさせて貰えるかも知れないんだから期待をしないとな。まあ行く機会があったらその門を叩いてみるよ」
話の区切りがついた所で今度は白魔法使いのタタラが話し出す。
「ミランシェさんや七色魔石を奪われていた他の実地試験仲間の受験生達の事なのですが、その後ミランシェさんを入れた四人は第八級冒険者試験を無事に合格したとの事です。今回は思わぬ展開で二人の犠牲者を出してしまいましたが、生き残った他の人達は無事に帰ってこれた事に感謝をしているようでした。そして七色魔石を取り返してくれたラエルロットさんに感謝とお礼を言って置いてくれとの事でした」
「そうか、みんな無事に第八級冒険者試験に受かったのか。そうか、良かった、みんな受かってくれて当然俺も嬉しいよ。それで……あのミランシェになりすましていた天足のアトリエの方は結局はその後どうなったんだ?」
「彼女の行方は正直分かりません。ただ二週間前のあの夜は三百人近くの異世界召喚者達とどうやらやりあった痕跡があったみたいですから、恐らくは無事に研究所の外へと脱出したかと」
「つまりは、その死闘があった現場には夥しい異世界召喚者達の死体しかなかったと言う事だな」
「はい、そういう事です。不老不死の力を持つ黒神子、天足のアトリエを殺すことは誰にもできないと言う事です」
第八級冒険者試験に受かった受験生達の事や、ミランシェになりすましていた黒神子・天足のアトリエの事を聞いたラエルロットだったが、行き成り渋い顔をしたかと思うと今度は暁の聖女となったテファニアの事をさり気なく聞く。
「そ、それと、新たに暁の聖女となったテファニアの様子はその後はどうだ?」
「好き放題やっていますよ。つい一週間前も暁の聖女となった記念祝賀会を開いて盛大に自分をアピールし、完璧な最高最強の聖女だと自画自賛していたと聞いています」
「嫌な話だな。あの暁の聖女の力は本来は人を慈愛で守ると掲げていたテファの心の大きさがそのまま太陽の形となった愛ある力なのに……あいつに悪用だけはさせたくはないぜ」
なんとも言えぬ悔しさと切なさで嫌悪するそんなラエルロットに白魔法使いのタタラは大きな溜息をつくと落ち着いた声で話す。
「恐らくは大丈夫です」
「なんで大丈夫なんだよ?」
「だっていくらテファニアが念願の暁の聖女となっても、人を思い助けようとする慈愛と正義の心がなくてはそもそも神聖力は使えませんからね。だから今、大見栄を切ったテファニアは暁の聖女の力が少ししか使えない事にかなり焦っているみたいです。こんなはずではなかったって。それと後、暁の聖女を襲名してからというものテファニアは何故か夢遊病を発症しているそうです。知らず知らずの内に本人が眠っている間に深夜に外を徘徊して街を勝手に歩き回っているとか」
「夢遊病ね……あのテファニアが。聖女になったはいいが目に見えない過度のストレスで精神がまいっているのかもな。プライドの高さから見栄をはり図太そうに見えても神経は使うのかも……まあ俺に彼女の考えは理解できないがな」
「そんな訳でテファニアは暁の聖女の力を上手く引き出すことができなくてかなり悩んでいるみたいですが、これからもこの私が彼女の友人として常に動向を厳しく監視をしていくつもりでいますからどうか安心してください。テファニアに身勝手な暴挙は一切させません!」
「そうか、そう願いたいものだな。そうでないとテファニアに力を託して死んだ、テファの魂が報われないぜ!」
「そうですね……」
白魔法使いのタタラが暁の聖女の話しを終えると、そのタイミングを見計らうかのように荷物を持った黒神子レスフィナと蛾の妖精のルナが階段から降りてくる。
「シャクティさんにタタラさん、二週間ぶりですね。まさかわざわざ見送りに来てくれたのですか。ありがとうございます。それで一体なんのお話をしていたのですか。是非とも私も話に混ぜてくださいよ」
「もうラエルロット、こんな所にいたんだ。どうでもいいけどあんたカラクス鳥のピコちゃんからまた目を離しているでしょ。あの子また二階に舞い戻って来てラエルロットのバックの中から携帯食料のソーセージを奪い取ってつまみ食いをしているわよ」
その話を蛾の妖精のルナから聞いたラエルロットは顔を真っ赤にしながら激怒する。
「な、なんだってぇぇぇぇぇ、あの馬鹿鳥が、ちょっと目を離したらこれだよ。今から行って奴を締め上げて来てやる。ルナ道案内をしてくれ。そして奴の逃げ道をしっかりと塞ぐんだ。そんな訳でルナ、俺に続けぇぇ!」
「嫌よ、勝手にやってよ、もう!」
文句を言う蛾の妖精のルナを尻目に、構わず二階へと慌てて舞い戻っていくラエルロットの後ろ姿を見つめていた、黒神子レスフィナ・犬人族のシャクティ・白魔法使いのタタラの三人はくすくすと笑いながら綺麗な朝日が昇る暁の空をバックにラエルロットのこれからの旅の成功を祈る。
悪意や憎悪と言ったマイナスエネルギーが原因なのかは分からないが、この壊れつつある世界に原因を求め、黒神子レスフィナと共に立ち上がる事になったラエルロットはこれからも迫りくる数々の高ランクの異世界召喚者達や各国にいるいろんな事情を持つ冒険者側の戦士達……そしてお母様と仰ぐ、遥か闇なる世界の黒神子達の襲来に心ならずも立ち向かう事になるだろう。
そうまさに、ラエルロットの前途多難な優しい勇者を志す旅はここから始まるのだ。
この作品を最後まで読んでくれてありがとうございます。チラ見してくれただけでも感無量です。また続きを書くことがありましたら、その時はまた覗いて見てください。
見てくれただけで作者は泣いて喜びます。(笑顔!)
第三章、二人の聖女。終わり。
ラエルロット達の元から離れたミランシェは薪を集める事なく速足で獣道の中を歩く、まるでどこかの目的地に向かっているかのような足取りだ。
だが既に森は漆黒の闇に包まれ周りは何も見えない状態のはずなのだが、明かりとなる物を何一つ持ってはいないミランシェは特に気にすることなく、まるで見えているかのようにただひたすらに目的地を目指す。
速足で林の中を歩くこと数分、森や林を抜け、月明かりが照らす草原が見える広場に入ろうとした時、急ぐミランシェの行く手を遮るかのようにある人物が木の陰から姿を現す。
その人物とは、第六級冒険者の資格を持つ、神聖白百合剣魔団のギルドに所属をしている、白魔法使いのタタラである。
既に先回りをしていたタタラは両手に持つ魔法の杖の先端に灯りとなる光を灯すと、目の前にいるミランシェの動きを警戒しながら静かに声をかける。
「あらミランシェさん、そんなに急いで一体どこに行くつもりですか。薪となる小枝を拾ってくるのではなかったのですか」
「それはこちらの台詞です。白魔法使いのタタラさん、あなたこそこんな所で一体どうしたんですか。わざわざ先回りなんかをして、私になにか話したい事でもあるのですか」
僅かに殺気を込めると小撃砲使いのミランシェは静かに目を細める。そんな不気味さ溢れる少女に対しタタラは震えながらもついに覚悟を決めたのか質問を開始する。
「確かテファさんでしたか、あの暁の聖女のサンプル体の事は残念でしたね。そんな暁の聖女の遺伝子情報の入った聖女になれる新薬をあなたは持っていたそうですが、破壊もせずに、なぜあの局面でテファニアに聖女になれる新薬をわざわざ渡したのですか?」
「なぜって、あなたも知っての通りそのテファに、聖女になれる新薬をオリジナルのテファニアに渡してくれと頼まれたからでしょ。だから渡したんだけど、なにかおかしな事でもあったかしら」
「そうですか、なら質問を変えます」
「まだなにか、今急いでいるんですけど……」
「ときにミランシェさん、あなたの履歴書をダグラス試験官から見せて貰いましたが、あなたは家に犬を飼っているようですね。名前はなんと言うんでしたっけ」
「なんですかその質問は、いきなり唐突ですね」
「いいから話してください!」
「犬の名前ですか……ゼロです。私の愛犬の名前はゼロという名前ですが、それがなにか?」
そのミランシェの答えを聞いたタタラは思わず苦笑する。
「フフフ、ゼロって……それは私がダグラス試験官に頼んで履歴書を新たにそっくりに書き直させた時に直した、私が付けた名前です。あなたはそれとは知らずにダグラス試験官が持っていた履歴書の中身を勝手に見て、そしてその内容を信じたという証です。つまりあなたは本物のミランシェさんではなく、彼女に変化をした真っ赤な偽物だという事です」
「だから私が偽物だというのですか。それは流石に早計な判断なのではないでしょうか。実は私は誰かに操られ洗脳されているだけかも知れないじゃないですか。いいえもしかしたらどこかで頭を打って記憶を誤認しているだけかも」
あくまでもとぼけるミランシェにタタラは更なる追い込みと言うべき真実を語る。
「実はエマニュエ大神官がここに来た時に教えてくれました。この研究所内の地上にある、どこかのフロアを訪れた時に、泣きじゃくるおかっぱ頭の女の子を発見したそうです。その子を無事に保護する際に少女は自分の事を話してくれたそうです。その子の名が、ミランシェとの事でした」
その真実を告げた言葉にしばらくミランシェは黙っていたが、開き直ったのかタタラの方に顔を向けるとニヤリと不気味な笑顔を作る。
「そうですか……無事に彼女は見つかったのですか。超スピードで一瞬の内に移動をさせて、衣服を剝ぎ取り、遠くに捨てて来たのですが生きていましたか。普通の人間は私の超スピードに耐えきれなくて重力のGの負荷でそのまま死んでしまうのですが、中々にしぶとかったようですね。時間がなかったとはいえやはりとどめを刺しておくべきでしたか」
「いい加減に正体を表せ、遥か闇なる世界の黒神子の一人にして、忌まわしいネズミの頭部と神より授かりし天空を駆ける天足を持つ、天足のアトリエ!」
白魔法使いのタタラが大きく叫ぶと、もう既に時間の計算をしていたのか、爆撃系魔法でもある複数のマジックミサイルが頭上からいきなりミランシェが立つ大地に目がけて雨のように降り注ぐ。
ドカドカドカドカドカドカーードッカアァァァァーーン!!
その瞬間幾度も大きな大爆発が起こり、周りの木々は吹き飛ばされ黒い土煙を上げていたが、ミランシェは涼しい顔をしながらその場へと立つ。
その次の瞬間ミランシェの姿はなんの前触れもなく大きく変わり、そこに現れたのは、不気味さ漂う地味な黒いローブを纏い、頭部にはリアルなネズミのフェイスを持つ、背丈の小柄な少女が姿を現す。
遥か闇なる世界の黒神子、天足のアトリエの登場である。
一斉攻撃によるマジックミサイルの爆撃を雨のように降り注がれた天足のアトリエだったが、特に避けたり防いでみせたりする様子もなく全ての攻撃をその体で受け止めて見せる。
勿論なんのダメージも負ってはいない事に驚愕する白魔法使いのタタラに対し天足のアトリエはすぐさま仕返しとばかりに攻撃態勢を取る。
「そんな、傷一つ負ってはいないだなんて、なんて化け物なの!」
「フフフ、タタラさん、私の正体を見抜いたのは見事ですが命を縮めましたね。残念ですがあなたには今この場で死んで貰うでチュ!」
アトリエが今まさに動き出そうとしたその時、まるでタイミングを図るかのように地面の中からいきなり現れたポニーテールの髪型をした忍び風の女性が両手に持つクナイを素早く投げつける。だがその意表を突いた攻撃を天足のアトリエは特にうろたえる様子もなく難なく避けて見せる。
「ふ、つまらない攻撃でチュ、まさかそれで背後をついたつもりですか。そんな伏兵がいたことには少しだけ驚いていますが、いくら二人で挟み撃ちにしてもお前たちでは役不足でチュ」
いきなり土遁の術で姿を隠しながら攻撃をしてきたのは、魅惑の剣士・耳長族のエドワードに敗北をした、神聖・白百合剣魔団の生き残りの忍者職の少女である。
生き残ったその後は、白魔法使いのタタラやダグラス試験官に凄腕の耳長族がいるという重要な情報を告げたり、まだ外にいたエマニュエ大神官に情報を与えたりと色々と陰で動いていたようだ。
だがそんな彼女もアトリエへの奇襲に失敗すると直ぐ様腰に下げている短刀に手をかける。
最初で最後の奇襲が失敗した為か余りの緊張で手足はガタガタと震え、もう既に彼女の運命は風前の灯火のようにも見える。
それでもまだタタラと忍び風の女性は諦めない。なぜならまだ二段階からなる希望が隠されているからだ。
その一柱がついに動き出す。
「お願いします、犬人族のシャクティさん!」
バッサアァァ、バサバサバサバサバサバサ!
そうタタラが叫んだのと同時に木々の枝や緑の葉を搔きわけながら頭上から現れたのは今現在は神官見習い職にして、元は闘士の職業についていたという変わり種のケモ耳メガネ娘、犬人族のシャクティである。
シャクティは木の葉に覆われた闇夜が広がる空からいきなり現れると両こぶしを構えながら猛スピードで地面に立つ天足のアトリエ目がけて突進していく。
「黒神子・天足のアトリエ、これでも受けてみなさい。犬人族流聖拳、五方の構え。上中段火の型【乱れ直突き連打!】」
「はぁ、あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーーぁ!!」
ドカバキドカバキ、ドカドカドカドカーーズッコオォーーン、ドカーン!
両腕から繰り出される無数の正拳突きによる素早い連打を落下地点に足がつく瞬間に全て叩き込むシャクティだったが、その怒涛の攻撃すらも天足のアトリエは全て紙一重で難なく避けて見せる。
「フフフ、無駄無駄無駄無駄でチュ、そんなトロイ攻撃などは全く当たらないでチュ。また見知らぬ伏兵が潜んでいたようですが、そんなに役には立たなかったようだな」
「な、なんて寸分たがわぬ正確な動きと圧倒的なスピードなの、私たちとは明らかに強さの次元が違うわ……レベルが違いすぎる……これじゃどう逆立ちしたって絶対に勝てる訳がないわ!」
絶えず攻撃をしながらもそのレベルの違いに思わず弱音を吐く犬人族のシャクティだったが、なんの策もなくただ闇雲に攻撃をしている訳ではないようだ。
その希望と闘志に満ちた目を向けた犬人族のシャクティは体勢を整える為に一旦後ろに後退すると、注意を払いながらも天足のアトリエと距離を取る。
「やはり私の実力では時間稼ぎにもなりませんか、天足のアトリエ……おそるべき最速の魔女です。ですがこのまま手をこまねいている訳にはいきません。ここは私もさらなる手を出さないといけないようですね」
その犬人族のシャクティの言葉に天足のアトリエはニヤリとほくそ笑む。
「さらなる手ですか……ああレベルアップの事ですね。そう言えばあなた、本来の実力を何段階にもカモフラージュをして、自分のステータスを低く提示しているようですが、その一つの封印を開放して、私に挑むという訳ですか。ですが一体幾つものレベルの封印の解除をしたら私にたどり着くのでしょうね。あなたが持つ本来の闘士としてのレベルが一体どの程度の物なのかは分かりませんが、最初からフルマックスで来ないと力を出し惜しんでいた事を後悔する事になりますよ」
「安心してください、さらなる手とは何も私が戦う事ではありません。たとえ私がフルマックスで全実力を出し切ってもあなたに勝てないことは分かり切っていましたので、文字通り新たな手を使うという意味でさらなる手と話したのです」
「ほ~う、では一体他にどんな手でこの天足のアトリエの足を止めるというのですか。その手段や策を是非とも見せて欲しいでチュ!」
スタ・スタ・スタ・スタ・スタ・スタ。
圧倒的な強者の余裕を放ちながらも悠然と迫る天足のアトリエの前に、まるで逃げてきたかのように草むらを搔き分けていきなり現れた耳長族のエドワードと豚人族のドラムが息を切らしながら怯えの表情を向ける。
「アトリエ、ここにいたらやばいぞ、今すぐにここから遠くに逃げるぞ。彼女が、あの忌々しい彼女がいつの間にかこの地に来ているぞ。別に戦ってもいいが、この前も結局は勝負がつかずに辛うじて痛み分けになったんだから、もしも彼女と今一度本気で戦うつもりなら、色々と覚悟を決めないといけないようだ。それでどうする!」
「あれはやばいっす、そしてアトリエ様とは非常に相性が悪いです。もしも戦ったらその勝利の確率は恐らくは五分五分です。いや、運が悪かったら最悪こちら側が全滅するかも。だからここは速やかな撤退を進言するっす!」
耳長族のエドワードと豚人族のドラムの慌てふためきように一体誰がこの地に来たのかを急激な気温の変化と突如降って来た白い雪を見た事で天足のアトリエはなんとなく理解する。
「そうか、人知れず、この研究所に彼女を呼んだのですね。完璧な絶対正義を掲げる無慈悲な特Aランクの聖女、その名も聖氷結のスターシャ……確かに彼女が相手なら私達は是が非でもその命を賭けないといけませんね。でも彼女との戦いには何も感じる物がありませんし、高密度の冷たいからくりの機械と争っているようで嫌な気分になります。なので何事にも利己的に冷めた考えをする彼女とは戦いたくはないでチュ」
「でも性格的にはアトリエとは考え方や行動理念は同じのはずなのだが、一体彼女とは何が合わないのでしょうか。暁の聖女とは共にライバルを意識するくらいにはドンピシャなのにね?」
「やはり相手側から戦おうとする熱い物がこみ上げて来ないからでしょうか。確かに暁の聖女テファも、聖氷結のスターシャも慈愛と正義を掲げてはいますが、その行動には大きな開きがあるでチュ。もしも人質が百人いたとして半分の五十人しか人を救えないと判断をしたのなら、それでも暁の聖女テファなら最後の最後まで最善の方法を考え模索し体を張って百人全てを助けようと努力をするはずでチュ。ですが聖氷結のスターシャは五十人を確実に救う為ならもう五十人の人質を躊躇なく見捨てるはずです。その方が確実で合理的だからでチュ。それが彼女の正義であり、確実な慈愛なのだそうでチュ。その考えには黒神子たる私も同委はできますが、だからこそ面白くもなんとも無いのでチュ。だって私が知る聖女の姿は、無駄とは分かっていても藻掻き・悩み・苦しみ・そして涙する、そんな愛と憎しみとの果てに葛藤し、最後は自滅する。それが本来の彼女たちが辿る大まかな一連の流れだったはずです。故に大概の聖女達は皆私を前にしたら、恐怖し絶望し、そして最後は覚悟を決め、人々を守る為に戦い散るのが定番なのでチュ。ですがあの暁の聖女テファだけは違ったでチュ。テファは最初から私の正体に気付いた上で私と対等な友に、そしてライバルになるべく好意的に接して来たでチュ。ほんと鬱陶しくてその予想だにしない行動には流石に戸惑いましたが、逆に見たくもなったでチュ」
「一体何を見たくなったのですか?」
「あいつの……テファの完璧なまでの敗北と絶望した姿をでチュ。この私に完膚なきまでに負けて、真に自らの負けを認めない限りは、私とテファの勝負は永遠に終わらないでチュ!」
だがその話を聞いた耳長族のエドワードは少し困惑する。
「でも暁の聖女テファってもう死んだんですよね。その命とも言うべき七色魔石を抜き取られて、今はそのオリジナルのテファニアとかいう小娘が暁の聖女を襲名したらしいじゃないですか。ならもうテファにこだわる必要はないんじゃないのですか。もう当の本人はこの世にはいないのですから、もう張り合う事もできないでしょ」
「フフフ……確かにそうですね。まあつまり何が言いたいのかと言うと、聖氷結のスターシャの言動はまるで自らの鏡を見ているようでなんだか気持ちが悪いですから、余り関わりたくはないという事です。やはり聖女は熱い慈愛と悪を許さない正義の心で挑んでくるからこそ、ひねり買いがあるのですよ。それを機械的にこなされてはこちらとしては興醒めでチュ!」
「そうですか。まあアトリエの考えている事は俺には理解はしかねますが、あの聖氷結のスターシャが圧倒的に脅威だと言うことだけは確かです。そしてその強敵の一角を担う彼女がついに来たようです」
「ひ、ひいぃぃぃーー、アトリエ様、助けて!」
怯え驚く豚人族のドラムの言葉に誘われるかのように夜空から穏やかに降っていたはずの白い雪は、いつの間にか猛烈な突風を放つ冷たい冷気となる。
「出身は確か、神聖魔法都市・エルメキアだったかしら……まさかあなた自らがここに来るとは思いもしなかったでチュ、特Aランクの聖女、聖氷結のスターシャ!」
緊迫と畏怖の念を込めながら発した天足のアトリエの言葉に応えるかのように現れたのは、特Aランクの聖女・聖氷結のスターシャである。
スターシャはニコニコとした冷たい表情を崩す事なくその姿を現すと、激しく睨み付ける天足のアトリエと対峙する。
「あら天足のアトリエさん、随分とご無沙汰しています。あの時はどうも」
「聖氷結のスターシャ、まさかあんたが直接ここに来るだなんて思いもしませんでした。それで、今日は何用ですか。まさかこの私と直接決着をつけに来た訳じゃないでしょうね」
「別に、ただエマニュエ大神官に頼まれたから来ただけです。とある黒神子の一人がこの研究所内に潜入しているという情報を掴んだとの報告がありましたから、たまたま近くにいた私が急遽来たという訳です。でもまさかその黒神子が、前に一度戦ったことのあるあの天足のアトリエさんだったとは思いもしませんでした。世間ってほんと狭いですわね」
「フン、戯言を……それで一体あんたはこれからどうするつもりですか。このまま私と戦闘を楽しみますか。もしもこの場でやり合うというのなら、私も色々と覚悟を決めなくてはいけませんので」
殺気を込めた威嚇をする黒神子・天足のアトリエの様子を近くで見ていた耳長族のエドワードは腰に下げている聖剣チャームブレード(またの名は、色欲による欲と真実の愛を永遠に追い求める剣)を鞘から素早く抜き放つと、その長剣を華麗に構えて見せる。
「この俺が聖剣チャームブレードで、ここにいる白魔法使いの少女と忍び風の少女、それと犬人族の女を入れた三人を切り捨てて、仲間に加えて反撃してやる。いくら聖氷結のスターシャが強い力を持っていたとしても、親しい知り合いがいたら恐らくは攻撃を躊躇するはずだ!」
「その考えは甘いでちゅ、もう忘れたのですか。この前の戦いの時にあなたは同じ手であのスターシャに挑みましたが、その全ての人質ごと、彼女が作り出す絶対零度の氷壁の中にとじこめられてしまったではないですか。あの時、私が超スピードであなたを連れてあの場から逃げなけねば一緒に氷漬けにされていた所です。それに見てください、そんな事を話している間にどうやら私達は動きを封じられてしまったようです」
「な、なんだとう?」
その天足のアトリエの言葉に耳長族のエドワードはフと足の下を見てみると、靴底の裏と氷結した地面とが引っ付き、剝がす事のできない状態になっている事にようやく気付く。その危機的状況を暗示するかのように聖氷結の聖女・スターシャの第一段階の攻撃がついに始まったのだ。
「くそぉぉ、靴底の裏と地面を瞬時に凍らせて俺達の動きを封じたのか。これじゃ逃げることもましてや攻撃する事もできない。それに彼女の所まで約二十メートルくらいの間合いはあるが、おそらく地面は無暗に走り抜けられないように滑りやすい氷で覆われているはずだ。それにスターシャの体全体を覆っているあの目に見える氷の結晶は恐らくは氷の結界の類のものだろう。前もそうだったが、確かあの氷の結晶に触れたら瞬時に能力が発動し一瞬の内にその体は永久表土の氷結の中に閉じ込められてしまうんだったな」
「ええ、そうなってしまったらたとえ私達黒神子でもそう簡単には脱出はできないでチュ。なにせ私達の不死の能力にはその細胞を活性化させて活動ができるだけの温度が必要ですから。でも絶対零度の氷結の中に閉じ込められてしまったら体の全ての生命活動は文字通り停止をしてしまうと言う事です。勿論それだけでは私達黒神子は死にはしませんが、誰かにその氷壁を解いてもらわない限りは永遠にその氷壁の封印からは逃げられないと言う事です。だからこそ彼女は恐ろしいのでチュ」
「永遠に氷漬けか……確かに不老不死でもある黒神子達に取っては天敵のような存在だな。なら一体どうするんだ。このままじゃ状況は不利になる一方だぞ。この寒さは流石にやばいって、特に冬の装備をしている訳じゃないから、この寒さは確実に俺達の体温と体力を根こそぎ奪っていくぞ。ゆえに長期戦は絶対に避けなくてはならない。どうにかして短期決戦で仕留めるか、それとも逃げる隙を作らなくては……このままじゃ全滅だぞ!」
「分かっているでチュ、ここは私が聖氷結のスターシャと一騎打ちをするでちゅ、なのでお前たちはもしもの時の為に逃げる準備をするでチュ。おそらく今の勝利確率は、向こうが七で……私が三ですから」
「なっ!」
もしかしたら自分が負けるかも知れないという後ろ向きなセリフにその眷属でもある耳長族のエドワードは思わず不安の顔を向けるが、黒神子・天足のアトリエは冗談だと笑いながら氷結した地面にへばりつく靴底を強引に引き剝がすと、氷結の聖女スターシャのいる間合いまでどうにか歩き出す。
通常の人間の力では引き剝がすことのできない、まるで接着剤のように靴底にへばりつく氷結を天足のアトリエは自慢の脚力で引きはがしながら約十メートルほど歩くがその時点でアトリエが履いている靴は靴底が破け、完全に破壊してしまう。
その凍てつく氷結した地面に素足で立つことになった天足のアトリエは、後十メートルといった所で立往生をする羽目となる。
「ここまで来てついに履いてある靴が破けてしまいましたか。これじゃもう動けないでチュね。もしもこのまま動いたりなんかしたら今度は自らの足の裏の皮を剝がしながらあなたに接近しないといけませんから。でもそれは流石にキツイでチュ。氷のせいで地面に摩擦が起きない以上、自慢の超スピード技もどうやら使えなそうですからね」
「フフフ、またまた冗談を、あなたなら周りの木々を踏み台にして超スピードを作り出す事は可能じゃないですか。恐らくはあなた一人だけなら難なく私の囲いからは逃げられますが、そこにいる部下の二名を置いて逃げる事ができないからこそ、あなたは私に敢えて近づいたのでしょ、そうしなくてはそこにいる二人は確実に氷漬けにされてしまうでしょうから。そして知っていますよ、次にあなたが何を考えているのかを。あなたは確か、数秒間だけなら空気を足場にして空を駆ける事が可能なんですよね。その神速の力で私に近づこうと考えている。違いますか」
そのスターシャの指摘に天足のアトリエは静かに目を細めると、一か八かを繰り出す覚悟を決める。
「ええ、その通りでチュ。全く、接近戦主体のこの私は近距離での肉弾戦には自信がありますが、攻防一体の氷結の力を持つ特Aランクの聖女が相手では流石に分が悪いでチュ。ですがその間合いの中に入れさえすれば後はそのか細い首をねじ切るのは簡単でチュ!」
殺意を込めながら不気味に呟く黒神子・天足のアトリエに向けて、聖氷結のスターシャは何故かある遠くを気にしながらぼそりと質問をする。
「時に天足のアトリエさん、あなたはこの研究所区内から何処かに向かっていたようですが一体どこに向かっていたのですか?」
「お前には関係の無い事でチュ、ただこの地の先にはどうしても行かせたくはない者達が接近して来ているでチュ、あの気高き少女たちが散っていった地を彼らに荒らされる訳にはいかないでチュ!」
「……。」
真剣な顔で言う天足のアトリエの言葉を聞いた聖氷結の聖女スターシャは瞬時に氷結の神聖力を解除する。
その瞬間あれだけ周りを凍てつかせていた季節外れの雪や氷や寒さは全てが噓のように無くなり、天足のアトリエ・耳長族のエドワード・豚人族のドラムの三人の体は瞬時に自由になる。
一体なぜ攻撃を解いたのだと疑問の顔をする、白魔法使いのタタラ、忍び風のくノ一少女、犬人族のシャクティ……それと敵側の天足のアトリエ、耳長族のエドワード、豚人族のドラムを入れた六人だったが、そんな思いを代表して天足のアトリエが代わりに聞く。
「一体なぜ攻撃を解いたのでチュか。もしかしたら私を仕留められる絶好のチャンスだったかも知れないのに?」
「フフフ、その手には乗りませんよ。あなたにはまだ私を殺せるだけの可能性と謎が隠されているみたいですから無暗に危ない橋は渡れません。それに今はあなたとは戦う時ではないと判断しました。もしかしてあなたは、この研究所に迫って来ている謎の一団の気配をいち早く察知してここに来たのではありませんか。ここであなたと戦うのも面白そうですが、恐らくは消耗戦になってしまう物と思われるので、その後にその者達と戦いながらエマニュエ大神官達を守り抜くのは流石に難儀だと判断したまでの事です」
「聖氷結のスターシャ……どうやら借りが出来てしまったようでチュね」
「フフフ、私も同じ聖女として、この地で道半ばで散っていったサンプル体の少女達には少なからず思う所がありますから、その墓標となるこの地を略奪者から守ってくれるというのなら、その人たちの相手はあなたに任せて、私はこの先で待っているエマニュエ大神官達と共にこの地を速やかに離れる事にしましょう。この研究所の地下にいるノシロノ王国側の増援部隊にも撤退の指示を出しておきますから、どうか後はなんの憂いもなく、好きなだけ思う存分暴れて来てください!」
そうにこやかに言うと聖氷結の聖女スターシャは、白魔法使いのタタラ、忍び風のくノ一少女、そして犬人族のシャクティの三人を伴いながら、その地を速やかに去っていく。
*
そこに残された、天足のアトリエ・耳長族のエドワード・豚人族のドラムの三人は聖氷結の聖女・スターシャが去った方角をただ黙って見ていたが、全てを見透かしていたかのように天足のアトリエは木の陰に隠れている異世界召喚者の池口里子に今現在迫りつつある謎の一団の説明を求める。
「異世界召喚者の女……隠れてないで出てきなさい。あなたが私の後を人知れず追っていた事はわかっていました。それでここに向かって来ているあの一団は灰色の女神が送り込んだ、異世界召喚者達で間違いないでチュね」
天足のアトリエの問いに、木の陰から姿を現した池口里子が緊張しながら言う。
「ええ、恐らくは私達の仲間の異世界召喚者達でまず間違いないわ。多分あなた達が仕留めそこなった生き残りの数名が近くにいるある一団に助けを求めてここに連れて来たのでしょうね。ついでに聖女になれる新薬のサンプルと、金になりそうな機材と、研究資料を奪うためにね」
その池口里子の話を聞いた天足のアトリエはネズミの顔から覗かせる鋭い赤い眼光を不気味に光らせると、近くまで迫りつつある異世界召喚者達の一団に向けて低い唸り声を上げる。
「グググーーゥゥ、チュウ、チュウゥゥ。そうですか、やはりここに来ますか。もしもこの研究所にある資料や機材や七色魔石を奪うために来たというのなら当然相手になってやるでチュ!」
「わざわざここで待ち構えて、戦う気なんだ……」
「当然でチュ。それで、あなたはこの後はどうする気ですか。このまま黙って逃げるというのなら別に追いはしませんが、そのままあの一団に加わるというのなら今度は容赦はしないでちゅ。確実に殺してやるでちゅ、だからここで選ぶでチュ。このままこの地より離脱をするか、あの一団と合流してまた新たに私たちと戦うかをでチュ!」
その運命を決める重要な選択に異世界召喚者でもある池口里子は当たり前のように答える。
「このまま退散するに決まっているでしょ。おそらく私の仲間たちが駆け込んだ一団とはこの近くにたまたまいたレベル二十から三十からなる鉄人旅団だったはず。彼らの人数は大所帯で確か二百から三百人くらいはいたはずだから、各々のレベルが低いながらもその数に言わせて侵略するのが彼らの得意な戦法だったはず。まあ仲間の犠牲も厭わずに数の暴力で攻めてたってことね。私は余り関わった事はないし好きではないギルドだからこのままスルーをさせて貰うわ。それに決意を固めた今のあなたや、その森の奥にいる自称勇者馬鹿にかかわるのはもう懲り懲りだからね」
「フフフ、あなたも、ラエルロットの勇者馬鹿としての姿勢や、テファが語っていた七色魔石の命の有難さとその重みの重要さを知ったようでチュね」
「あれだけ熱弁されたらいい加減嫌気もさすわよ。まあいい勉強にはなったけどね。やはり正義と熱い信念を持つ勇者馬鹿と、融通の利かない慈愛あふれる偽善馬鹿の聖女、この二人のような考えを持つ輩は非常に危険だわ。それが分かっただけでも今回は良しとするかな」
「クククク、同感でチュ!」
「それじゃそろそろあなたの気が変わらない内にここから去るわね。じゃあね、約束と仁義を重んじる……遥か闇なる世界の黒神子、天足のアトリエ!」
そう言うと池口里子もまた、風のように闇夜の中へとその姿が消えていく。
「「「……。」」」
三人の間に強い夜風が吹きすさむ。
ヒュウゥゥゥーーゥゥン!
「ついに三人になってしまったようでチュが、これから私はとある野暮用を片付けないといけないので、お前たち二人は速やかにここから退却して、次なる指示を待つでチュ!」
「えっ?」
「それはどういう事ですか?」
「この戦いはあくまでも私の勝手な私情が絡んでいますから、お前たちは戦わなくてもいいという事でチュ。直接お前たちには何も関係の無い事ですから!」
まるで気遣うように言う天足のアトリエの言葉に耳長族のエドワードと豚人族のドラムは互いに顔を見合わせるとしばらく黙っていたが、耳長族のエドワードは手に持つ聖剣チャームブレードを一振りすると、天足のアトリエの左側に堂々と立つ。
「関係ない事はないでしょ、なにせあの暁の聖女テファとかいう女はこの俺を出し抜いたばかりか差し出この俺に勝った尊敬すべき聖女だ。その俺が認めた聖女の墓標を荒らす輩がいるというのなら、当然俺も戦いますよ。もしも出会う形が違っていたら、暁の聖女テファとはもっといろんな話を語って見たかったです。まあかなりいい女でしたからね」
「エドワード……」
エドワードが語り終えた時を見計らうかのように、今度は豚人族のドラムが天足のアトリエのいる右側に自信なさげに立つ。
「俺も……おいらも戦いますよ。あの暁の聖女テファとかいう女は、物凄く自己中心的な狂わしいくらいの慈愛と正義感を押し付けてくる恐ろしい聖女でしたが、俺の身を案じる心だけは本物だったような気がします。ちょっと痛いくらいに狂気じみていてかなりあれだったけど、やはり俺も陰ながらに参戦しない訳にはいかないでしょ。だって俺は、暁の聖女テファ曰く、彼女の義理の息子……らしいですからね。その義理の母が眠る聖地を異世界召喚者の連中に荒らされるのだけは我慢ができないっす。なので今は……今だけは彼女の息子らしく俺も戦うっす!」
「フフフ、私は自分を親友と呼んでくれた、今は亡き友の為に戦い……エドワードは自分を倒した尊敬に当たる強者の為にその剣を振るい……ドラムは自分を義理の息子にしてくれた義理の母の為にその勇気を振るうか。お互いあの暁の聖女テファには振り回されっぱなしでチュね」
「ハハハ、いいじゃないですか、なんだかいつもの俺達ぽくって。仕事は完璧にこなすが何処か詰めが甘く抜けているとこなんか俺達らしいですよ」
「それは私の詰めが甘いと言う事でチュか」
「そこがいいんですよ。天足のアトリエ、俺はあんたの眷属になれて幸運だった。俺はあんたの事を理想の上司として誇りに思っていますよ!」
「俺もっす、俺もアトリエ様に拾ってもらわなかったら今の俺はなかった。恐らくはもうとっくの昔にどこかで野垂死にをしていたはず。だからおいらはこれからもアトリエ様に地獄の果てまでついて行くっす!」
「お前たち……分かった、ならもう何も言うまい。それにもう敵側は向こうで沢山お待ちかねのようだ。では行こうか、殺し合いと無常が渦巻く、理不尽極まる戦場の地へ!」
前を見据えた天足のアトリエが高らかに声を発すると、耳長族のエドワードと豚人族のドラムはその後ろについていく。
そう決意と覚悟を固めた三人は、異世界召喚者達の一団が待ち構えている戦場へと足を向けるのだった。
黒神子・天足のアトリエと対峙する聖氷結の聖女・スターシャの図です。
*
その頃、何日かぶりに思わぬ形で再度会う事になった聖氷結のスターシャの案内で研究所から離れたラエルロット達は、近くで待機をし忍ばせていた馬車に皆が乗り込む事に成功する。
突如いなくなったミランシェや池口里子の捜索をしようとラエルロットがかなり騒いだが、今探しにいったら二十遭難になると他の人達に説得され、渋々承諾する。
そんなラエルロットの心配を察したのか皆もまた彼女が戻るのを一晩中待って見たが、異世界召喚者の一人でもある池口里子はついに帰って来る事はなかった。
そして肝心のミランシェの方は、知らない間に何故か馬車の中で先に待機をしていたらしいのだが、その言動はまるで人が違うかのように幼く、内気なよそよそしさも相まって、まるで全くの別人のようだと酷く驚く。
今までの冷静沈着な謎の凄みのあるミランシェを知っているだけにラエルロットと蛾の妖精のルナは当然激しく動揺する。
地下に降りた際の、あのミランシェは天足のアトリエが化けた姿なのだと説明されたラエルロットは酷く驚いているようだったが、あの歴戦の戦士のような冷静な判断力とその異常な強さに納得したラエルロットは、何だかんだで何気に気遣ってくれたそのアトリエの頼りがいのある凛々しい姿に心の中で思わず感謝の言葉を贈る。
そしてラエルロット達は幾つかの謎を残しながらもどうにか無事にノシロノ王国に戻ることができたのだ。
その二週間後。
借りている古い安宿を根城にしていたラエルロット・レスフィナ・蛾の妖精のルナの三人に加え、そして新たに加わるカラクス鳥のピコちゃんを入れた一羽は、次の新天地に向かうが為に買い足した新たな荷物を速やかに詰め込み、旅の支度をする。
レスフィナが調合し作った薬草を道具屋に売り、呪いの土地や曰くのある道具の浄化に最善を尽くし、最後は悪意あるエネルギーの吸収をし幾人もの依頼人達の要望に応えた黒神子レスフィナは全ての用事を済ませると宿屋で旅立つ準備を始める。そんなレスフィナに合わせるかのようにラエルロットもまた第八級冒険者試験を無事に合格した事もあり、この地を速やかに離れる事に決めたようだ。
本当は手持ちが心もとないので少しバイトをし小銭を稼ぎ、どこかの剣道場で基礎的な剣の腕をもっと上げたかったのだが、ラエルロットから流れる黒い不気味な魔力の流れを不信に思ったのか各師範達はラエルロットの入門を断り、そのお陰でどこの道場にも入門できない事を知る。
だからこそラエルロットはレスフィナの提案に便乗するような形でこの街を離れ、次の目的地に行く事を決断したのだ。
「おいルナ、このピコちゃんをどうにかしてくれ。さっきから俺が持つ携帯用の食料に目がけて襲い掛かって来るんだが。よせピコちゃん、ついさっきエサは与えただろ、まだ食い足りないのか。少し意地汚いぞ!」
「ふ、それはラエルロットがカラクス鳥のピコちゃんに(生のクズ豆でもある)鳥の餌を与えたからでしょ。ピコちゃんは鳥の餌ではなく、人間が食べているソーセージを食べたかったみたいですよ」
「だからソーセージは贅沢だって言ってるだろ。大人しく鳥の餌を食うんだ。ピコちゃん。あ、ああぁぁぁぁ!」
そう言っている間にラエルロットは準備をしている旅用のバックからソーセージを一本抜き取られる。
「ああ、ピコちゃん、ソーセージを返せ!」
「カアァァ、カアァァ、カアァァ!」
ソーセージを咥えながら玄関先まで飛ぶカラクス鳥のピコちゃんに対し必死に後を追うラエルロットだったが、古宿の表入り口の辺りまで見送りに来てくれた白魔法使いのタタラと犬人族のシャクティの二人が笑顔で顔を出す。
「こんにちはラエルロットさん、もう準備は出来ましたか。それと第八級冒険者試験の合格、おめでとうございます」
「合格おめでとうございます。また随分と早い旅立ちですが、次はどこへ行くつもりですか?」
別れの挨拶がてら第八級冒険者試験の合格のお祝いと、旅の準備の状況具合を聞くタタラとシャクティの二人にラエルロットは笑顔で言葉を返す。
「あ、わざわざ見送りに来てくれてありがとうございます。お陰様で予備の追加の枠で無事に合格することが出来ました。それともう準備も大体は出来ています。そして次の旅の目的地は神聖魔法都市として名高い、神聖魔法都市エルメキア王国です」
「エルメキア王国ですか。あそこは魔法工学が発達している大都市ですから色々と楽しめると思いますよ。そんなラエルロットさんにダグラス試験官からある手紙を預かってきましたので渡しておきますね」
「ダグラス試験官が俺に手紙ですか。一体なんの手紙なんでしょうか?」
「正確にはあなたへの手紙ではありません。誰かに見せる推薦状だそうです」
「推薦状、一体だれの?」
「当然あなたのです、ラエルロットさん。この推薦状を持ってある人物に会うのも、捨ててこの推薦状をなかった事にするのも勿論あなたの自由ですが、ダグラス試験官はこう言っていました」
そう意味ありげに言うと推薦状を預かってきた犬人族のシャクティは、ダグラス試験官の言葉を代わりに語りだす。
「今回の件で重々自分の実力を理解したとは思いますが、はっきり言って今のラエルロットさんの戦闘スタイルは不死の力と数々の呪いのアイテムの力があってこその力です。決してラエルロットさんの実力ではありません。つまりは基本的な力量がないと言っているのです。自己流で基本的な練習をして来たとは思いますが、ここはやはりちゃんとした歴戦の経験を持つプロの方に指導を受けた方がいいとの事でした。ですが黒神子と一緒にいる以上どこの道場にも受け入れて貰えないのは事実なので、この推薦状をあなたに送るのだそうです。行くも行かないもあなたの自由ですが、これからも黒神子レスフィナと一緒に旅を続けて勇者を志すというのなら、ごく一般的な水準の力くらいは身につけておかないと、いつかボロが出るだろうから騙されたと思って一度ここを訪れてみてはどうかという話でした。そしてこれがその推薦状です。どうぞ」
シャクティが差し出したその推薦状をラエルロットはぎこちなく受け取る。
「あのダグラス試験官がなんでそこまでしてくれるのかは正直分からないが、まあ有難く受け取っておくよ。実力がないのは今回の件で嫌というほど分かったからな。そして、この推薦状を渡したと言う事は当然この推薦状の先にいる指導者はエルメキア王国内にいると言う事でいいんだよな」
「はい、エルメキア王国内にいると聞いています。どんな人物かは何も聞いてはいませんが、かなりの実力者だという話です」
「かなりの実力者か。そんな強い人の下で強くなれる修行をさせて貰えるかも知れないんだから期待をしないとな。まあ行く機会があったらその門を叩いてみるよ」
話の区切りがついた所で今度は白魔法使いのタタラが話し出す。
「ミランシェさんや七色魔石を奪われていた他の実地試験仲間の受験生達の事なのですが、その後ミランシェさんを入れた四人は第八級冒険者試験を無事に合格したとの事です。今回は思わぬ展開で二人の犠牲者を出してしまいましたが、生き残った他の人達は無事に帰ってこれた事に感謝をしているようでした。そして七色魔石を取り返してくれたラエルロットさんに感謝とお礼を言って置いてくれとの事でした」
「そうか、みんな無事に第八級冒険者試験に受かったのか。そうか、良かった、みんな受かってくれて当然俺も嬉しいよ。それで……あのミランシェになりすましていた天足のアトリエの方は結局はその後どうなったんだ?」
「彼女の行方は正直分かりません。ただ二週間前のあの夜は三百人近くの異世界召喚者達とどうやらやりあった痕跡があったみたいですから、恐らくは無事に研究所の外へと脱出したかと」
「つまりは、その死闘があった現場には夥しい異世界召喚者達の死体しかなかったと言う事だな」
「はい、そういう事です。不老不死の力を持つ黒神子、天足のアトリエを殺すことは誰にもできないと言う事です」
第八級冒険者試験に受かった受験生達の事や、ミランシェになりすましていた黒神子・天足のアトリエの事を聞いたラエルロットだったが、行き成り渋い顔をしたかと思うと今度は暁の聖女となったテファニアの事をさり気なく聞く。
「そ、それと、新たに暁の聖女となったテファニアの様子はその後はどうだ?」
「好き放題やっていますよ。つい一週間前も暁の聖女となった記念祝賀会を開いて盛大に自分をアピールし、完璧な最高最強の聖女だと自画自賛していたと聞いています」
「嫌な話だな。あの暁の聖女の力は本来は人を慈愛で守ると掲げていたテファの心の大きさがそのまま太陽の形となった愛ある力なのに……あいつに悪用だけはさせたくはないぜ」
なんとも言えぬ悔しさと切なさで嫌悪するそんなラエルロットに白魔法使いのタタラは大きな溜息をつくと落ち着いた声で話す。
「恐らくは大丈夫です」
「なんで大丈夫なんだよ?」
「だっていくらテファニアが念願の暁の聖女となっても、人を思い助けようとする慈愛と正義の心がなくてはそもそも神聖力は使えませんからね。だから今、大見栄を切ったテファニアは暁の聖女の力が少ししか使えない事にかなり焦っているみたいです。こんなはずではなかったって。それと後、暁の聖女を襲名してからというものテファニアは何故か夢遊病を発症しているそうです。知らず知らずの内に本人が眠っている間に深夜に外を徘徊して街を勝手に歩き回っているとか」
「夢遊病ね……あのテファニアが。聖女になったはいいが目に見えない過度のストレスで精神がまいっているのかもな。プライドの高さから見栄をはり図太そうに見えても神経は使うのかも……まあ俺に彼女の考えは理解できないがな」
「そんな訳でテファニアは暁の聖女の力を上手く引き出すことができなくてかなり悩んでいるみたいですが、これからもこの私が彼女の友人として常に動向を厳しく監視をしていくつもりでいますからどうか安心してください。テファニアに身勝手な暴挙は一切させません!」
「そうか、そう願いたいものだな。そうでないとテファニアに力を託して死んだ、テファの魂が報われないぜ!」
「そうですね……」
白魔法使いのタタラが暁の聖女の話しを終えると、そのタイミングを見計らうかのように荷物を持った黒神子レスフィナと蛾の妖精のルナが階段から降りてくる。
「シャクティさんにタタラさん、二週間ぶりですね。まさかわざわざ見送りに来てくれたのですか。ありがとうございます。それで一体なんのお話をしていたのですか。是非とも私も話に混ぜてくださいよ」
「もうラエルロット、こんな所にいたんだ。どうでもいいけどあんたカラクス鳥のピコちゃんからまた目を離しているでしょ。あの子また二階に舞い戻って来てラエルロットのバックの中から携帯食料のソーセージを奪い取ってつまみ食いをしているわよ」
その話を蛾の妖精のルナから聞いたラエルロットは顔を真っ赤にしながら激怒する。
「な、なんだってぇぇぇぇぇ、あの馬鹿鳥が、ちょっと目を離したらこれだよ。今から行って奴を締め上げて来てやる。ルナ道案内をしてくれ。そして奴の逃げ道をしっかりと塞ぐんだ。そんな訳でルナ、俺に続けぇぇ!」
「嫌よ、勝手にやってよ、もう!」
文句を言う蛾の妖精のルナを尻目に、構わず二階へと慌てて舞い戻っていくラエルロットの後ろ姿を見つめていた、黒神子レスフィナ・犬人族のシャクティ・白魔法使いのタタラの三人はくすくすと笑いながら綺麗な朝日が昇る暁の空をバックにラエルロットのこれからの旅の成功を祈る。
悪意や憎悪と言ったマイナスエネルギーが原因なのかは分からないが、この壊れつつある世界に原因を求め、黒神子レスフィナと共に立ち上がる事になったラエルロットはこれからも迫りくる数々の高ランクの異世界召喚者達や各国にいるいろんな事情を持つ冒険者側の戦士達……そしてお母様と仰ぐ、遥か闇なる世界の黒神子達の襲来に心ならずも立ち向かう事になるだろう。
そうまさに、ラエルロットの前途多難な優しい勇者を志す旅はここから始まるのだ。
この作品を最後まで読んでくれてありがとうございます。チラ見してくれただけでも感無量です。また続きを書くことがありましたら、その時はまた覗いて見てください。
見てくれただけで作者は泣いて喜びます。(笑顔!)
第三章、二人の聖女。終わり。
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