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第二章 『絶望階段』 とある高校に出没する階段落下トリックを操る狂人・絶望王子と呼ばれる謎の学生との推理対決です!
2-22.不良達、逆に追い詰められる
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もうそろそろ冬の祭りパレードが始まろうとしている十九時十五分頃。
天野良夫・大鬼力・玄田光則・そして近藤正也の四人は裏口の裏玄関に密かに集結する。
何故なら四人のスマホ携帯に電話で、誰にも言わずに十九時十分までに校舎の屋上までこなけねば綾川エリカの命は無いと脅されたからだ。
電話を貰った時四人は警察やあの探偵に言うかそれぞれ意見を述べたが「そんな事をしたらエリカが殺されてしまうだろう!」と言う玄田光則の意見と、「こっちは四人もいるんだから固まって歩いてたら先ず大丈夫だろう。それに絶望王子の犯人ごときにビビってたら逆に世間の笑い者にされるぜ。ここは犯罪を目論む絶望王子を捕まえて俺達の力をみんなに見せ付けてやろうぜ。逆にもし犯人を捕まえる事が出来たら天野君、俺達はこの高校のヒーローになれるんだから、これはチャンスとも言えなくもないだろ!」と焚き付ける近藤正也の言葉で、四人は誰にも言わずに屋上で待つ絶望王子に立ち向かう覚悟を決めた用だ。
犯人に裏玄関から上がってこいと言われた四人は特に何も考える事無く一階から裏階段を上り始めるが、もうすっかり日が落ち外が暗いせいか校舎内の明かりが不気味に廊下を照らす。そんな異様な雰囲気に逆らうかの用に天野良夫と大鬼力の手には野球部の部室から無断で持ち出した木製のバットが硬く握りしめられていた。
「コラー、出てこいや。絶望王子!」
「俺達をなめ腐ってんじゃねぇーぞ! コラー!」
「隠れてんじゃねぇぞ、コラ! 綾川エリカを何処にやった!」
威勢を放ちながら荒々しく階段を駆け上がる四人だったが、内心では言い知れぬ緊張と未知なる物への不安が各々の心を締め付ける。それほどまでに真の犯人像がつかみづらいのだ。
いや、正確に言うならそうではない。天野良夫に言わせれば想像できる犯人像が余りにも多すぎる為一体誰が犯人なのか分からないと言うのが本当の真実だろうか。そんな事を考えながら四人はそれぞれ複雑な心境を抱きながら疑心暗鬼となっている用だった。
それだけ理不尽な虐めや悪行を行って来たせいで犯人になり得るかも知れない人に心当たりがあり過ぎるのだろう。
そんな事を考えながら四人は屋上で待ち受ける絶望王子の元を目指す。
今丁度校内に誰もいないのは出し物の一つでもあるお祭りパレードに大体の生徒達が皆参加していると言う証なので、この呼び出しが明らかに罠だと知りつつも彼らは前に進む以外に道は無かった。
そんな中、順調に階段を登っていた四人の中の一人、大鬼力が包帯を巻いている右手を察すリながら突然話し出す。
「それにしても俺達に電話を掛けてきた人物は本当に俺達に復讐をしようとしている誰かなのかな? もしかしたらただの悪戯じゃないのか」
「そんな事は絶対に無いだろう。何せ俺達に電話を掛けてきた向こうの電話番号標示は明らかに綾川エリカのスマホからだからな。つまり綾川のスマホを盗み誘拐までした人物は明らかに俺達を敵視している人物と言う事になる。だとしたら答えは簡単なんじゃないのか。俺達でその犯人の元まで行って逆に返り討ちにしてしまえばいいんだよ。屋上でわざわざ俺達を待ち構えていると分かっているんなら俺達が犯人に遅れを取る訳が無いだろう。何せ俺達は犯人と直接対決する為にわざわざ木製のバットも用意したんだからな」
そう淡々と言い出したのは先の先頭を歩く近藤正也である。その後に大鬼力・玄田光則と続き、最後に天野良夫が続く。
「そうだよな。何も恐れることは無いぜ。何処の誰かは知らないが絶望王子を名乗る奴を見つけたらその場でぶっ殺してやるぜ!」
そう天野良夫が虚勢を張りながら四階フロアに到達する階段に足を掛けようとした時行き成り校内中の電気が消え、みんなの心臓が脈打ち思考が一瞬止まる。
「な、なんだ。行き成り電気が消えて、目の前が真っ暗になったぞ!」
「みんな、足に気をつけるんだ!」
その三秒後、行き成り一番先頭を登っていた近藤正也が後ろを上る三人にぶつかりながら四階と三階の折り返し地点の段下まで豪快に転げ落ちる。
「ぐっわああぁぁーっ!」
ガタバタ! ゴロゴトォォ! バタン!
全く見えない暗闇の中、近藤正也の悲鳴と人や階段にぶつかりながら落ちる生々しい音だけが大鬼力・玄田光則・天野良夫の三人の耳へと届く。
「こ、近藤が……電気が消えた瞬間に階段から行き成り落ちただとう。一体どうなっているんだ、この高校は!」
「お~い、近藤大丈夫か。返事をしろ!」
「有り得ない……こんな事は絶対にあり得ないよ。絶望王子はまだ現れてもいないんだぞ。一体近藤正也はどうやって階段から落とされたんだよ!」
そう三人がそれぞれ驚愕した時、数秒間消えていた電気が再び付き、階段下で倒れている近藤正也の姿が露わとなる。
「近藤、おい、どうした。返事をしろ!」
そう叫びながら階段を下り近藤正也に駆け寄ろうとした時、四階の最上段から不良学生達を見つめるその不気味な存在に、思わず三人はその人物をマジマジと見上げる。
そこには頭に黒い防空頭巾をかぶり、体にはボロボロのマントを纏った男子学生の狂人、絶望王子が堂々と立っていた。
そんな絶望王子の被る防空頭巾の頭部には段ボールで作られたお粗末な王冠が見え、まるで自虐的にその姿を敢えて見せ付けている用にも見えた。
その顔を覆う黒いネットの細網をユラユラと揺らしながら絶望王子は、無機質に光る金属バットを片手に持つと天野良夫・大鬼力・玄田光則の三人を最上段から見下ろす。
天野良夫。
「あいつが半年前から無差別に人を階段から突き落としていると言われている学生通り魔の犯人か」
大鬼力。
「そして俺達の仲間の金田海人を意識不明の重体にまで追い込んだのみならず、今度は担任の谷口先生を階段から突き落として殺し」
玄田光則。
「更には綾川エリカを誘拐した本当の絶望王子!」
天野良夫。
「おい、玄田、倒れている近藤は大丈夫なのか?」
「ああ、ただ単に意識を失っているだけだからな。多分大丈夫だとは思うぜ。だけど階段から落ちた際に何処かに頭をぶつけているかも知れないから、その場から無理に動かす事は出来ないけどな」
「そうか、ならお前は近藤の傍にいろ。俺と大鬼で絶望王子を捕まえてやるぜ! 行けるよな大鬼!」
「ああ、いつでも行けるぜ。あいつが俺達に何らかの恨みを持ち、階段に関わる事柄で俺達に復讐しようと目論む悪意ある絶望王子か。おもしれえ、目の前にわざわざ現れてくれたのならもう怖くは無いぜ。その防空頭巾を引っ剥がして正体を確認した上でぎったぎったにして警察に突き出してやるぜ!」
そう言うと一番血の気の多い大鬼力は「ぶち殺してやるぜ!」と啖呵を切りながら、四階の最上段にいる絶望王子目がけて階段を駆け上る。
だがそんな大鬼力の意気込みを嘲笑うかの用にその場から離れた絶望王子は、大鬼が階段を登り切る前に四階の廊下から表階段のある方へと走り出す。
「あ、逃げやがった。ま、待ちやがれ!」
「おい、大鬼、余り遠くには行くなよ。単独行動は危険だ!」
そう天野は懸命に先を走る大鬼に呼び掛けるが、もう既に頭が蒸気のように沸騰している大鬼には何も聞こえるはずがなかった。
四階の表階段についた大鬼力は、四階の階段から五階へと駆け上りながら絶望王子の後を追う。
そんな大鬼力の後ろ姿を十メートル先に確認した天野良夫は自分も後を追おうと四階の表階段に差し掛かるが、行き成り物陰から現れた絶望王子の姿に思わず絶句する。
「な、何故絶望王子が俺の目の前にいる。逃げたはずの絶望王子を追って大鬼の奴は五階に通ずる階段を駆け上がったはずだぞ。それなのに何故お前は俺の目の前にいるんだ! はぁ、そう言えば今俺の目の前にいる絶望王子は明らかにさっき階段に現れた絶望王子より背丈が低く感じるぞ。もかしたらこいつ……小枝か?」
そう言いながら手を伸ばそうとした天野良夫の手に鋭い痛みが瞬時に走る。
「ぎゃああぁぁぁ-っ! 痛い……いっててーっ、今のは一体なんだ?」
手の痛みに叫びながら絶望王子の方をマジマジと見ると、絶望王子の両手にはいつの間にかビリビリと音を鳴らしながら電流を放電するスタンガンが力強く握りしめられていた。
バチバチ! ビリビリ! バチビリ! ビリバチ!
「す、スタンガンだと……あの羊頭の可笑しな姉ちゃんと同じように、こいつもスタンガンを準備していたのか!」
「ズッゴゴゴーッ、ズッゴゴゴーッ、ズッゴゴゴーッ!」と不気味な息を吐きながらゆっくりと近づくその絶望王子は、両手に二つのスタンガンを持ちながら絶句し後ずさる天野良夫に迫る。だがそんな鬼気迫る一触即発の二人に、後ろの方から力強い女子生徒の声が響く。
「あなた達こんな所で一体何をしているの!」
その声に天野が後ろを振り返ると、そこには両手を腰に当てながらズカズカと近づいてくる佐野舞子の姿があった。
「さ、佐野……お前、本当に佐野か。お前一体今まで何処にいたんだよ?」
「何処って……今外で各クラスのパレードを見ていたんだけど、ちょっと教室に忘れ物をしたから取りに来ただけよ。裏玄関で靴を脱いでいたら四階の階段辺りから誰かの叫び声が聞こえたから急いで来てみたのよ」
「裏階段だって!」
そう天野良夫が叫んだ瞬間また行き成り電気は消え、三秒後に再び電気がついたのと同時に五階に向けて階段を駆け上がっていたはずの大鬼力が、その階段を転がりながら天野良夫と佐野舞子の目の前に落ちてくる。
その時にはもう既に目の前にいたはずのスタンガンを持った絶望王子の姿は無く。四階フロアの下の階段に力無く横たわる大鬼力の姿だけが視界に映し出される。
「大鬼……お前まで階段から落とされるとは……嘘だろう。嘘だと言ってくれよう! なあ大鬼、頼むからさあ!」
体をガタガタと震わせながら涙ぐむ天野良夫の手を引きながら佐野舞子はその場を離れようとする。
「ま、待てよ。大鬼を、大鬼をあのままにしてはおけないだろう。もしかしたら気を失っているだけかも知れないし」
「そうかも知れないけど今は駄目よ。今はとにかく逃げるのよ! 分かりませんか。さっき目の前に現れた絶望王子とは別に、五階から別の絶望王子が静かに近づいて来ているのを!」
必死に叫ぶ佐野舞子の言葉を聞きながら再び倒れている大鬼力の方を見ると、先程逃げ出したはずの絶望王子が倒れている大鬼力を足蹴にしながら堂々と立つ。その両手には大鬼力から奪い取った木製のバットと、元々持っていた金属バットの二つが硬く握りしめられていた。
「ひいいぃぃぃーっ、絶望王子が、あの絶望王子が金属バットを振り上げながら襲いかかってくる!」
「天野君何をしているの。あの絶望王子が大鬼力君に注意を向いている内に早くここから離れるのよ!」
佐野舞子がそう叫ぶと、それに従うかの用に天野良夫が佐野舞子と共に元来た廊下を裏階段に向けて逆走する。
勇敢に手を引っ張りながら走る佐野舞子とは対照的に、いつもは何かと威張っている天野良夫からは想像も出来ないほどに体をガタガタと震わせながら泣き崩れていた。
「早く、早く、警察に電話しないと……それと裏階段にいる玄田や近藤と合流したら急いでこの校舎を降りて助けを呼ばないとな!」
「今はスマホを取り出すのは不味いですよ。足を止めたらまたあの絶望王子に追い付かれるかも知れませんからね。それにあの絶望王子はどうやら一人では無いみたいですから。それに今、近藤君と玄田君が裏階段にいると言っていましたが一体何の事ですか? 私今さっき裏階段から上って来ましたが玄田君と近藤君は何処にもいませんでしたよ」
「何処にもいない……そんな馬鹿な! 今さっきだぞ、奴らと別れたのわ。あの場を離れてまだ一分も経っていないと言うのに、あいつらは一体何処に消えたんだ! 有り得ない、こんな事は絶対にあり得ないよ! うわあぁぁーぁぁ、神様、神様、俺を助けてくれ!」
「落ち着いて、落ち着いて下さい。天野君。とにかく今は下に急いで降りて、あの黒鉄の探偵さんにこの事を知らせましょう」
「あの背の高い絶望王子の方は分からないが、あの背の小さい割と小柄な方の絶望王子はきっと小枝愛子だ。あの体型はあいつしかいないぜ!」
「そうでしょうか。確かに三年A組の中に絶望王子がいたらそうも考えられますが、二年生や一年生の中にだって小柄な生徒は沢山いますよ。そう貴方に抱えきれない程の恨みを持っている人間はまだまだ沢山いるんですから。まさか今までに後輩達に行って来た数々の所業を忘れた訳じゃ無いでしょうね!」
佐野舞子の当然の指摘に、あの背の低い小柄な絶望王子は小枝愛子だと思っていた自信がここへ来て一気に歪み崩れる。
まさか、違うのか。今俺達を襲っているあの絶望王子は小枝愛子じゃないのか? だとしたら俺の仲間達をこうもあっさり何処かに消したあいつらは一体何者なんだ。
「こ、ここに長々といても仕方がないから佐野、そろそろ行こうか。でもこの校舎には誘拐された綾川や、四階の階段で倒れている大鬼や、何処かにいなくなった玄田や近藤がまだ何処かにいるはずなんだ。だから早く助けないと……あいつら何処かで殺されてしまうよ!」
「その人を気遣う用な言葉……もっと早く聞きたかったですね。とにかく今は下に降りましょう。後は警察の仕事ですから!」
佐野舞子は涙ぐむ天野良夫に優しい言葉をかけると、自分の後をついてこいとばかりに二人で階段を急いで降りる。そんな助け合う二人だったが、後もう少しで二階から一階に駆け下りようとした時に再び校内の電気が消え、その停電と同時に先に駆け下りていた佐野舞子が悲鳴を上げながら暗い階段を転げ落ちる。
「きゃああぁぁぁぁぁーっ!」
「おい、どうした、佐野。一体何があった。おい……大丈夫か?」
本日三度目の暗闇の中で必死に呼び掛ける天野良夫はまだ明かりが見えない佐野舞子に向けて声を掛け続けるが、肝心の佐野舞子の方からは一向に返事が返って来ない。
その不安が的中したかのように再び電気がついた天野良夫の視界には、一階の階段下でうつ伏せになって倒れている佐野舞子の姿があった。
「うわあぁぁーぁぁ、さ、佐野、佐野、お前大丈夫か!」
天野良夫は咄嗟に下へと駆け降り狼狽しながら佐野舞子を助け起こすが、頭から血を流し気を失っている佐野舞子を見た天野良夫はびっくりしながら慌ててその体から急いで離れる。
「気を失っている人間を運び出すのは正直言ってとてもじゃないが無理だ。それにどうやら頭を打っているみたいだからこのままそっとしておくのが賢明だ。そんな事よりも早くここから脱出しないと……俺だけでも助からないと、奴らも浮かばれないだろう」
次々と倒れて行く仲間達をまるで死んだかの用に表現した天野良夫は、自分の命を最優先にする為急いで裏玄関の扉を開けようと力を入れる。だが何故か閉まってある扉はピクリとも動かず、僅かな希望に光明を見いだしていた天野良夫の願いは再び絶望の縁へとたたき落とされる。
「くそ~、開かない。まさか鍵が……裏玄関の扉に鍵が掛かっているのか! 扉の強化ガラスを壊す道具も周りには見当たらないし、こんな所で強化ガラスの扉なんか叩いてたら絶望王子に気付かれてしまうかも知れないからな。し、仕方ない。恐らくは鍵が空いている表玄関から出るしかないな。或いは一階の非常口から外へと出ると言う方法も考えられるぞ」
そう思い窓ガラスから離れた瞬間、絶望王子の特徴でもある黒い防空頭巾と段ボールで出来た不格好な王冠が天野良夫の視界に入る。
バタン!
「うわあぁぁーぁぁ! 絶望王子がなんで外にいるんだよ……ま、まさか先回りしていたのか?」
鍵が掛かったガラス扉の外側には、あの絶望王子が何やら騒いでいる感じで堂々とガラス窓の正面へと立つ。
その俯き気味の絶望王子は天野良夫の姿を確認するとまるで狂ったかの用に激しく手で窓ガラスを叩き出す。
「うわあぁぁーぁぁ、うわああぁぁーっ、ここはもう駄目だ! 早くここから逃げないと、もう一人の絶望王子に追いつかれてしまう!」
突然ガラス扉の外に現れた絶望王子にびっくりした天野良夫は倒れている佐野舞子の方に再び視線を向けるが、当然その場に倒れているはずの佐野舞子の姿が何処にも見当たらない事に気づく。
そのいなくなった佐野舞子とまるで入れ替わるかの用に現れた階段下には、金属バットを手に持った絶望王子が天野良夫を直視しながらその場に立ち尽くしていた。
「ば、馬鹿な。たった今その場にいた佐野舞子は一体何処に消えたんだ。ちくしょう、逃げなきゃ……早くここから逃げ切らなきゃあの絶望王子に殺されちまうよ!」
まるで弱々しい小動物の用に喚き散らしながら今度は非常口の方に走り出すが、そこにも両手にスタンガンを持った絶望王子が不気味な殺気を放ちながら逃げ惑う天野良夫を冷酷に見つめる。
「ば、馬鹿な、絶望王子が三人、三人いるだとう。二人じゃ……二人じゃなかったのかよ!」
その予想だにしない展開に天野良夫は絶句しながら後ろに後ずさると、無様に悲鳴を上げながら表玄関の方へと一目散に走り去る。
「うわあぁぁーぁぁ! 嫌だ、嫌だ。このままでは確実に絶望王子に殺される。殺されてしまう! 誰か、誰でもいいから俺を助けてくれ!」
廊下で躓きながらも逃げるその姿は何とも無様で、あの弱い人間を必要以上に虐めていた見栄っ張りで傲慢な天野良夫には見えない程だ。
そんな天野良夫の前にまたしても不気味で謎めいた人の影が迫る。
「まさか……そんな馬鹿な。こんな事、とてもじゃないが信じられない。一体絶望王子は何人いるんだよ。三人じゃ……三人じゃ無いのか。まさか四人……絶望王子は四人いるのか? うわあぁーぁぁ、無理だ! こんなのとてもじゃないが逃げられる訳が無い! だ、誰か、誰でもいいからこの絶望的な状況から俺を助け出してくれぇぇ!」
その圧倒的な数に文字通り絶望する天野良夫の目には四人目の絶望王子が金属バットを引きずりながら近づく姿がくっきりと焼き付けられていた。
もうそろそろ冬の祭りパレードが始まろうとしている十九時十五分頃。
天野良夫・大鬼力・玄田光則・そして近藤正也の四人は裏口の裏玄関に密かに集結する。
何故なら四人のスマホ携帯に電話で、誰にも言わずに十九時十分までに校舎の屋上までこなけねば綾川エリカの命は無いと脅されたからだ。
電話を貰った時四人は警察やあの探偵に言うかそれぞれ意見を述べたが「そんな事をしたらエリカが殺されてしまうだろう!」と言う玄田光則の意見と、「こっちは四人もいるんだから固まって歩いてたら先ず大丈夫だろう。それに絶望王子の犯人ごときにビビってたら逆に世間の笑い者にされるぜ。ここは犯罪を目論む絶望王子を捕まえて俺達の力をみんなに見せ付けてやろうぜ。逆にもし犯人を捕まえる事が出来たら天野君、俺達はこの高校のヒーローになれるんだから、これはチャンスとも言えなくもないだろ!」と焚き付ける近藤正也の言葉で、四人は誰にも言わずに屋上で待つ絶望王子に立ち向かう覚悟を決めた用だ。
犯人に裏玄関から上がってこいと言われた四人は特に何も考える事無く一階から裏階段を上り始めるが、もうすっかり日が落ち外が暗いせいか校舎内の明かりが不気味に廊下を照らす。そんな異様な雰囲気に逆らうかの用に天野良夫と大鬼力の手には野球部の部室から無断で持ち出した木製のバットが硬く握りしめられていた。
「コラー、出てこいや。絶望王子!」
「俺達をなめ腐ってんじゃねぇーぞ! コラー!」
「隠れてんじゃねぇぞ、コラ! 綾川エリカを何処にやった!」
威勢を放ちながら荒々しく階段を駆け上がる四人だったが、内心では言い知れぬ緊張と未知なる物への不安が各々の心を締め付ける。それほどまでに真の犯人像がつかみづらいのだ。
いや、正確に言うならそうではない。天野良夫に言わせれば想像できる犯人像が余りにも多すぎる為一体誰が犯人なのか分からないと言うのが本当の真実だろうか。そんな事を考えながら四人はそれぞれ複雑な心境を抱きながら疑心暗鬼となっている用だった。
それだけ理不尽な虐めや悪行を行って来たせいで犯人になり得るかも知れない人に心当たりがあり過ぎるのだろう。
そんな事を考えながら四人は屋上で待ち受ける絶望王子の元を目指す。
今丁度校内に誰もいないのは出し物の一つでもあるお祭りパレードに大体の生徒達が皆参加していると言う証なので、この呼び出しが明らかに罠だと知りつつも彼らは前に進む以外に道は無かった。
そんな中、順調に階段を登っていた四人の中の一人、大鬼力が包帯を巻いている右手を察すリながら突然話し出す。
「それにしても俺達に電話を掛けてきた人物は本当に俺達に復讐をしようとしている誰かなのかな? もしかしたらただの悪戯じゃないのか」
「そんな事は絶対に無いだろう。何せ俺達に電話を掛けてきた向こうの電話番号標示は明らかに綾川エリカのスマホからだからな。つまり綾川のスマホを盗み誘拐までした人物は明らかに俺達を敵視している人物と言う事になる。だとしたら答えは簡単なんじゃないのか。俺達でその犯人の元まで行って逆に返り討ちにしてしまえばいいんだよ。屋上でわざわざ俺達を待ち構えていると分かっているんなら俺達が犯人に遅れを取る訳が無いだろう。何せ俺達は犯人と直接対決する為にわざわざ木製のバットも用意したんだからな」
そう淡々と言い出したのは先の先頭を歩く近藤正也である。その後に大鬼力・玄田光則と続き、最後に天野良夫が続く。
「そうだよな。何も恐れることは無いぜ。何処の誰かは知らないが絶望王子を名乗る奴を見つけたらその場でぶっ殺してやるぜ!」
そう天野良夫が虚勢を張りながら四階フロアに到達する階段に足を掛けようとした時行き成り校内中の電気が消え、みんなの心臓が脈打ち思考が一瞬止まる。
「な、なんだ。行き成り電気が消えて、目の前が真っ暗になったぞ!」
「みんな、足に気をつけるんだ!」
その三秒後、行き成り一番先頭を登っていた近藤正也が後ろを上る三人にぶつかりながら四階と三階の折り返し地点の段下まで豪快に転げ落ちる。
「ぐっわああぁぁーっ!」
ガタバタ! ゴロゴトォォ! バタン!
全く見えない暗闇の中、近藤正也の悲鳴と人や階段にぶつかりながら落ちる生々しい音だけが大鬼力・玄田光則・天野良夫の三人の耳へと届く。
「こ、近藤が……電気が消えた瞬間に階段から行き成り落ちただとう。一体どうなっているんだ、この高校は!」
「お~い、近藤大丈夫か。返事をしろ!」
「有り得ない……こんな事は絶対にあり得ないよ。絶望王子はまだ現れてもいないんだぞ。一体近藤正也はどうやって階段から落とされたんだよ!」
そう三人がそれぞれ驚愕した時、数秒間消えていた電気が再び付き、階段下で倒れている近藤正也の姿が露わとなる。
「近藤、おい、どうした。返事をしろ!」
そう叫びながら階段を下り近藤正也に駆け寄ろうとした時、四階の最上段から不良学生達を見つめるその不気味な存在に、思わず三人はその人物をマジマジと見上げる。
そこには頭に黒い防空頭巾をかぶり、体にはボロボロのマントを纏った男子学生の狂人、絶望王子が堂々と立っていた。
そんな絶望王子の被る防空頭巾の頭部には段ボールで作られたお粗末な王冠が見え、まるで自虐的にその姿を敢えて見せ付けている用にも見えた。
その顔を覆う黒いネットの細網をユラユラと揺らしながら絶望王子は、無機質に光る金属バットを片手に持つと天野良夫・大鬼力・玄田光則の三人を最上段から見下ろす。
天野良夫。
「あいつが半年前から無差別に人を階段から突き落としていると言われている学生通り魔の犯人か」
大鬼力。
「そして俺達の仲間の金田海人を意識不明の重体にまで追い込んだのみならず、今度は担任の谷口先生を階段から突き落として殺し」
玄田光則。
「更には綾川エリカを誘拐した本当の絶望王子!」
天野良夫。
「おい、玄田、倒れている近藤は大丈夫なのか?」
「ああ、ただ単に意識を失っているだけだからな。多分大丈夫だとは思うぜ。だけど階段から落ちた際に何処かに頭をぶつけているかも知れないから、その場から無理に動かす事は出来ないけどな」
「そうか、ならお前は近藤の傍にいろ。俺と大鬼で絶望王子を捕まえてやるぜ! 行けるよな大鬼!」
「ああ、いつでも行けるぜ。あいつが俺達に何らかの恨みを持ち、階段に関わる事柄で俺達に復讐しようと目論む悪意ある絶望王子か。おもしれえ、目の前にわざわざ現れてくれたのならもう怖くは無いぜ。その防空頭巾を引っ剥がして正体を確認した上でぎったぎったにして警察に突き出してやるぜ!」
そう言うと一番血の気の多い大鬼力は「ぶち殺してやるぜ!」と啖呵を切りながら、四階の最上段にいる絶望王子目がけて階段を駆け上る。
だがそんな大鬼力の意気込みを嘲笑うかの用にその場から離れた絶望王子は、大鬼が階段を登り切る前に四階の廊下から表階段のある方へと走り出す。
「あ、逃げやがった。ま、待ちやがれ!」
「おい、大鬼、余り遠くには行くなよ。単独行動は危険だ!」
そう天野は懸命に先を走る大鬼に呼び掛けるが、もう既に頭が蒸気のように沸騰している大鬼には何も聞こえるはずがなかった。
四階の表階段についた大鬼力は、四階の階段から五階へと駆け上りながら絶望王子の後を追う。
そんな大鬼力の後ろ姿を十メートル先に確認した天野良夫は自分も後を追おうと四階の表階段に差し掛かるが、行き成り物陰から現れた絶望王子の姿に思わず絶句する。
「な、何故絶望王子が俺の目の前にいる。逃げたはずの絶望王子を追って大鬼の奴は五階に通ずる階段を駆け上がったはずだぞ。それなのに何故お前は俺の目の前にいるんだ! はぁ、そう言えば今俺の目の前にいる絶望王子は明らかにさっき階段に現れた絶望王子より背丈が低く感じるぞ。もかしたらこいつ……小枝か?」
そう言いながら手を伸ばそうとした天野良夫の手に鋭い痛みが瞬時に走る。
「ぎゃああぁぁぁ-っ! 痛い……いっててーっ、今のは一体なんだ?」
手の痛みに叫びながら絶望王子の方をマジマジと見ると、絶望王子の両手にはいつの間にかビリビリと音を鳴らしながら電流を放電するスタンガンが力強く握りしめられていた。
バチバチ! ビリビリ! バチビリ! ビリバチ!
「す、スタンガンだと……あの羊頭の可笑しな姉ちゃんと同じように、こいつもスタンガンを準備していたのか!」
「ズッゴゴゴーッ、ズッゴゴゴーッ、ズッゴゴゴーッ!」と不気味な息を吐きながらゆっくりと近づくその絶望王子は、両手に二つのスタンガンを持ちながら絶句し後ずさる天野良夫に迫る。だがそんな鬼気迫る一触即発の二人に、後ろの方から力強い女子生徒の声が響く。
「あなた達こんな所で一体何をしているの!」
その声に天野が後ろを振り返ると、そこには両手を腰に当てながらズカズカと近づいてくる佐野舞子の姿があった。
「さ、佐野……お前、本当に佐野か。お前一体今まで何処にいたんだよ?」
「何処って……今外で各クラスのパレードを見ていたんだけど、ちょっと教室に忘れ物をしたから取りに来ただけよ。裏玄関で靴を脱いでいたら四階の階段辺りから誰かの叫び声が聞こえたから急いで来てみたのよ」
「裏階段だって!」
そう天野良夫が叫んだ瞬間また行き成り電気は消え、三秒後に再び電気がついたのと同時に五階に向けて階段を駆け上がっていたはずの大鬼力が、その階段を転がりながら天野良夫と佐野舞子の目の前に落ちてくる。
その時にはもう既に目の前にいたはずのスタンガンを持った絶望王子の姿は無く。四階フロアの下の階段に力無く横たわる大鬼力の姿だけが視界に映し出される。
「大鬼……お前まで階段から落とされるとは……嘘だろう。嘘だと言ってくれよう! なあ大鬼、頼むからさあ!」
体をガタガタと震わせながら涙ぐむ天野良夫の手を引きながら佐野舞子はその場を離れようとする。
「ま、待てよ。大鬼を、大鬼をあのままにしてはおけないだろう。もしかしたら気を失っているだけかも知れないし」
「そうかも知れないけど今は駄目よ。今はとにかく逃げるのよ! 分かりませんか。さっき目の前に現れた絶望王子とは別に、五階から別の絶望王子が静かに近づいて来ているのを!」
必死に叫ぶ佐野舞子の言葉を聞きながら再び倒れている大鬼力の方を見ると、先程逃げ出したはずの絶望王子が倒れている大鬼力を足蹴にしながら堂々と立つ。その両手には大鬼力から奪い取った木製のバットと、元々持っていた金属バットの二つが硬く握りしめられていた。
「ひいいぃぃぃーっ、絶望王子が、あの絶望王子が金属バットを振り上げながら襲いかかってくる!」
「天野君何をしているの。あの絶望王子が大鬼力君に注意を向いている内に早くここから離れるのよ!」
佐野舞子がそう叫ぶと、それに従うかの用に天野良夫が佐野舞子と共に元来た廊下を裏階段に向けて逆走する。
勇敢に手を引っ張りながら走る佐野舞子とは対照的に、いつもは何かと威張っている天野良夫からは想像も出来ないほどに体をガタガタと震わせながら泣き崩れていた。
「早く、早く、警察に電話しないと……それと裏階段にいる玄田や近藤と合流したら急いでこの校舎を降りて助けを呼ばないとな!」
「今はスマホを取り出すのは不味いですよ。足を止めたらまたあの絶望王子に追い付かれるかも知れませんからね。それにあの絶望王子はどうやら一人では無いみたいですから。それに今、近藤君と玄田君が裏階段にいると言っていましたが一体何の事ですか? 私今さっき裏階段から上って来ましたが玄田君と近藤君は何処にもいませんでしたよ」
「何処にもいない……そんな馬鹿な! 今さっきだぞ、奴らと別れたのわ。あの場を離れてまだ一分も経っていないと言うのに、あいつらは一体何処に消えたんだ! 有り得ない、こんな事は絶対にあり得ないよ! うわあぁぁーぁぁ、神様、神様、俺を助けてくれ!」
「落ち着いて、落ち着いて下さい。天野君。とにかく今は下に急いで降りて、あの黒鉄の探偵さんにこの事を知らせましょう」
「あの背の高い絶望王子の方は分からないが、あの背の小さい割と小柄な方の絶望王子はきっと小枝愛子だ。あの体型はあいつしかいないぜ!」
「そうでしょうか。確かに三年A組の中に絶望王子がいたらそうも考えられますが、二年生や一年生の中にだって小柄な生徒は沢山いますよ。そう貴方に抱えきれない程の恨みを持っている人間はまだまだ沢山いるんですから。まさか今までに後輩達に行って来た数々の所業を忘れた訳じゃ無いでしょうね!」
佐野舞子の当然の指摘に、あの背の低い小柄な絶望王子は小枝愛子だと思っていた自信がここへ来て一気に歪み崩れる。
まさか、違うのか。今俺達を襲っているあの絶望王子は小枝愛子じゃないのか? だとしたら俺の仲間達をこうもあっさり何処かに消したあいつらは一体何者なんだ。
「こ、ここに長々といても仕方がないから佐野、そろそろ行こうか。でもこの校舎には誘拐された綾川や、四階の階段で倒れている大鬼や、何処かにいなくなった玄田や近藤がまだ何処かにいるはずなんだ。だから早く助けないと……あいつら何処かで殺されてしまうよ!」
「その人を気遣う用な言葉……もっと早く聞きたかったですね。とにかく今は下に降りましょう。後は警察の仕事ですから!」
佐野舞子は涙ぐむ天野良夫に優しい言葉をかけると、自分の後をついてこいとばかりに二人で階段を急いで降りる。そんな助け合う二人だったが、後もう少しで二階から一階に駆け下りようとした時に再び校内の電気が消え、その停電と同時に先に駆け下りていた佐野舞子が悲鳴を上げながら暗い階段を転げ落ちる。
「きゃああぁぁぁぁぁーっ!」
「おい、どうした、佐野。一体何があった。おい……大丈夫か?」
本日三度目の暗闇の中で必死に呼び掛ける天野良夫はまだ明かりが見えない佐野舞子に向けて声を掛け続けるが、肝心の佐野舞子の方からは一向に返事が返って来ない。
その不安が的中したかのように再び電気がついた天野良夫の視界には、一階の階段下でうつ伏せになって倒れている佐野舞子の姿があった。
「うわあぁぁーぁぁ、さ、佐野、佐野、お前大丈夫か!」
天野良夫は咄嗟に下へと駆け降り狼狽しながら佐野舞子を助け起こすが、頭から血を流し気を失っている佐野舞子を見た天野良夫はびっくりしながら慌ててその体から急いで離れる。
「気を失っている人間を運び出すのは正直言ってとてもじゃないが無理だ。それにどうやら頭を打っているみたいだからこのままそっとしておくのが賢明だ。そんな事よりも早くここから脱出しないと……俺だけでも助からないと、奴らも浮かばれないだろう」
次々と倒れて行く仲間達をまるで死んだかの用に表現した天野良夫は、自分の命を最優先にする為急いで裏玄関の扉を開けようと力を入れる。だが何故か閉まってある扉はピクリとも動かず、僅かな希望に光明を見いだしていた天野良夫の願いは再び絶望の縁へとたたき落とされる。
「くそ~、開かない。まさか鍵が……裏玄関の扉に鍵が掛かっているのか! 扉の強化ガラスを壊す道具も周りには見当たらないし、こんな所で強化ガラスの扉なんか叩いてたら絶望王子に気付かれてしまうかも知れないからな。し、仕方ない。恐らくは鍵が空いている表玄関から出るしかないな。或いは一階の非常口から外へと出ると言う方法も考えられるぞ」
そう思い窓ガラスから離れた瞬間、絶望王子の特徴でもある黒い防空頭巾と段ボールで出来た不格好な王冠が天野良夫の視界に入る。
バタン!
「うわあぁぁーぁぁ! 絶望王子がなんで外にいるんだよ……ま、まさか先回りしていたのか?」
鍵が掛かったガラス扉の外側には、あの絶望王子が何やら騒いでいる感じで堂々とガラス窓の正面へと立つ。
その俯き気味の絶望王子は天野良夫の姿を確認するとまるで狂ったかの用に激しく手で窓ガラスを叩き出す。
「うわあぁぁーぁぁ、うわああぁぁーっ、ここはもう駄目だ! 早くここから逃げないと、もう一人の絶望王子に追いつかれてしまう!」
突然ガラス扉の外に現れた絶望王子にびっくりした天野良夫は倒れている佐野舞子の方に再び視線を向けるが、当然その場に倒れているはずの佐野舞子の姿が何処にも見当たらない事に気づく。
そのいなくなった佐野舞子とまるで入れ替わるかの用に現れた階段下には、金属バットを手に持った絶望王子が天野良夫を直視しながらその場に立ち尽くしていた。
「ば、馬鹿な。たった今その場にいた佐野舞子は一体何処に消えたんだ。ちくしょう、逃げなきゃ……早くここから逃げ切らなきゃあの絶望王子に殺されちまうよ!」
まるで弱々しい小動物の用に喚き散らしながら今度は非常口の方に走り出すが、そこにも両手にスタンガンを持った絶望王子が不気味な殺気を放ちながら逃げ惑う天野良夫を冷酷に見つめる。
「ば、馬鹿な、絶望王子が三人、三人いるだとう。二人じゃ……二人じゃなかったのかよ!」
その予想だにしない展開に天野良夫は絶句しながら後ろに後ずさると、無様に悲鳴を上げながら表玄関の方へと一目散に走り去る。
「うわあぁぁーぁぁ! 嫌だ、嫌だ。このままでは確実に絶望王子に殺される。殺されてしまう! 誰か、誰でもいいから俺を助けてくれ!」
廊下で躓きながらも逃げるその姿は何とも無様で、あの弱い人間を必要以上に虐めていた見栄っ張りで傲慢な天野良夫には見えない程だ。
そんな天野良夫の前にまたしても不気味で謎めいた人の影が迫る。
「まさか……そんな馬鹿な。こんな事、とてもじゃないが信じられない。一体絶望王子は何人いるんだよ。三人じゃ……三人じゃ無いのか。まさか四人……絶望王子は四人いるのか? うわあぁーぁぁ、無理だ! こんなのとてもじゃないが逃げられる訳が無い! だ、誰か、誰でもいいからこの絶望的な状況から俺を助け出してくれぇぇ!」
その圧倒的な数に文字通り絶望する天野良夫の目には四人目の絶望王子が金属バットを引きずりながら近づく姿がくっきりと焼き付けられていた。
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