白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第三章 『汚れた天馬』 最強の武闘派の狂人現る。人を自由に空から落とす事ができる天空落下トリックを操る狂人・強欲なる天馬との推理対決です!

3-6.桃花、父親の春ノ瀬達郎に会う

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「お父さん、もうこの天馬寺から離れて二人で何処か遠くの町で暮らそうよ。この前会った時はこの天馬様の宗教から脱退したいと言っていたじゃない。あの言葉と意思は一体何処に行ってしまったの?」

 高田傲蔵和尚の計らいで何とか春ノ瀬達郎に会う事が出来た勘太郎・羊野・春ノ瀬桃花の三人は、その後天馬寺の中にある八畳ほどある客間へと通される。

 人目を憚る事無く泣きじゃくる春ノ瀬桃花の頭をなでながら優しい気遣いを見せる春ノ瀬達郎だったが、何故か達郎は必要以上に周囲に気を配りながらおびえにも似た眼差しを勘太郎と羊野に向ける。
 その瞳から伝わる動揺から達郎の本当の真意を何となく感じ取った勘太郎は、彼の行動や言葉がここでは監視がある為か制限が課せられている事に気付く。その証拠にドアを隔てた廊下の前では春ノ瀬桃花に時折気持ち悪い視線を送っていたあの有田道雄修行僧が聞き耳を立てながら中の様子を伺っている様だった。

 そんな不自由な監視下の中で春ノ瀬達郎はテーブルを囲む勘太郎と羊野を見つめながら、あるお願い事をする。

「お願いです。日が落ちる前にこのまま天馬寺を降りて、家の一人娘でもある桃花を隣町にある児童施設に送り届けてはくれませんでしょうか。そして出来ればこの天馬寺にはもう二度と来ないようにと、あなた方からも是非娘を説得してほしいのです。特に日が落ちた夜には絶対に来るなとね。この前最後に会った三ヶ月前にも娘に言って聞かせたのですが、暇さえあればこの天馬寺をよく訪れている様なんです」

 その春ノ瀬達郎の言葉に勘太郎がすかさず反論する。

「いくら修行の為とはいえ、せっかく娘さんがわざわざ心配して会いに来てくれているのですからそう邪険にしなくてもいいじゃないですか。まだ幼い小学生の娘さんなのですから寂しがる気持ちも理解してあげて下さい。今のご時世父親をこんなに慕ってくれる娘さんはそうはいませんよ」

「ええ、だからこそ尚更言っているのですよ。この山の周辺の林には野生の獣が沢山いますし、もし何かの弾みで石階段から道を外れて山の中に迷い込んでしまったら遭難してしまうかも知れません。それにこの付近の夜は街灯も少ないので石階段の通りはかなり暗くなりますからね。闇夜の帰りはかなり危険です」

「なるほど、娘さんをこの天馬寺から遠ざけたい理由は分かりましたが、その娘さんの話では貴方はその天馬寺から抜け出したいと以前は言っていたらしいじゃないですか。一体どう言う心境の変化があったのですか」

「な~に、情けない話ですよ。ここでの修行がキツすぎてあの時はつい音を上げてしまったのですよ。この前桃花に会った時は肉体的にも精神的にも疲れ果てていましたからね。ついこの天馬寺から逃げ出したい気持ちになってしまったのですよ。ですがそれは私がまだまだ未熟な為です。そう悟った私は再度心を入れ替えて再び修行に励み精進しようと今も頑張っているのですよ。それがこの経緯の真実です」

「では春ノ瀬桃花さんが嘘を言っていたと言う事ですか。俺にはそんな風には見えないのですが」

「この前の私の弱気な発言を聞いてつい誤解をしてしまったのでしょう。妙な期待と誤解を与えてしまって娘には本当に悪かったと思っています。桃花、本当に澄まなかったね」

「そんな、あの時はそんな事一言も言っていなかったじゃない。この天馬寺の住人達は本当に異常だからこれ以上関わっていたら大変な事になる。あの天馬様の神罰から逃れるにはあの高田傲蔵和尚の目の届かない所まで逃げるしか無い。とか言っていたじゃない!」

「も、桃花……そんな事を言ってはいけない。この山の神様に目でも付けられてしまったら大変な事になるぞ。頼むからここはお父さんの言う事を聞いて大人しくこの山を下りるんだ。出来れば日が落ちる前にだ」

「日が落ちる前にですか?」

 やたらと日が暮れるのを強調する春ノ瀬達郎の言葉に、話を聞いていた羊野が何かを理解したかの様に口を出す。

「なるほど、大体の話は分かりました。今はそう言う事にしておきましょうか。いずれにしても今は春ノ瀬桃花さんの身の安否の方が是が非でも一番と言う訳ですね。あなたがそう選択したのなら私共はもう何も言いません。この山を降りた後は娘さんを連れて隣町にあると言う児童施設まで送り届けるつもりですから、どうか安心して下さい」

「そうですか、それを聞いて先ずは安心しました」

「それはそうと、先程本堂に招かれていた時に高田傲蔵和尚と有田道雄修行僧の会話をつい耳に入れてしまったのですが、今日の朝方から一名の信者が行方不明と聞いたのですがあれから進展はあったのですか?」

 その行き成り出た羊野の話に春ノ瀬達郎の体がビクリと脈打ち、その眉間にはまるで苦労人の様な深いしわが出来る。春ノ瀬達郎は辺りを気にしながら小さな声で話し始める。

「いいえ、まだ見つかってはいません。まだこの山の何処かに隠れているのか。それとも山を下りようとして崖から転落してしまったのか? それは分かりませんが、いずれにしても何の道具も無しにこの四方を断崖絶壁で囲まれた天馬寺から無事に出る事は不可能だと思います」

「確かに、私達がここにくる時に渡ったあの上げ橋を通らないとこの天馬寺から出る事は出来ないみたいですからね。それとも他にこの山から出る別のルートでもあるのですか?」

「後下に降りられるルートがあるとすれば、それは地下フロアに通じているあの裏倉庫にある荷物用の作業エレベーターくらいでしょうか。いつも生活物資や灯油のような燃料などを下から上へと運んでいるエレベーターなのですが、一番下のトンネル倉庫のある麓まで降りる事が出来ます」

「麓にあるトンネル倉庫と繋がっているエレベーターですか。なるほど、そのエレベーターを使って下まで降りればこの天馬寺から脱出する事はそんなに難しくはないと言う事ですね」

「ええ、裏倉庫内にある、そのエレベーターを使えたらの話ですがね。知っての通りあの裏倉庫の扉には鍵が掛かっていますから扉を壊して入らない限り、中に入る事は先ず出来ません。それに例え中に入れたとしてもその荷物用エレベーターを起動させる為にはそこにもまた別の鍵が必要になります。つまりその二つの鍵は何れも高田傲蔵和尚が持っていますからエレベーターを使って脱出する事は先ず不可能と言う訳です」

「なるほど、ではやっぱりその行方不明の信者はこの天馬寺周辺の何処かに隠れているかも知れない……と言う事ですか。でもそもそもその信者はなぜこの天馬寺から逃げ出したのですか?」

「恐らくは想像を絶するその厳しい修行に耐えられなくなって逃げ出したのでしょう。この荒行は一度始めると途中で棄権する事は決して許されない苦行ですから、信者達が逃げ出す気持ちも分からなくはないです。話では今日逃げだした信者は高田傲蔵和尚の神の奇跡の力に憧れてこの天馬教に入信したみたいですが、その低度の覚悟でこの厳しい荒行に挑むなど私に言わせれば自殺行為と言うほかはありません。何せこの荒行から解放される唯一の条件は、十年にも及ぶ荒行の行程を無事に終了した者か、多額の御布施を天馬様のおわす社に捧げ貢献した信者だけですからね」

「十年の修行を得て一人前の修行僧ですか。でも確か高田傲蔵和尚がその天馬様の声を聞ける様になったのは二年前からですよね。その前以前は天馬教を掲げてはいなかったはずですが?」

「ええ、高田傲蔵和尚は二十年前から寺で住職をしながら更には厳しい修行もしてきた徳の高い人物なので、その高田傲蔵和尚に妄信して付いてきた信者達は前々からかなりいるのですよ。そうこの私も含めてね。なので二年前に高田傲蔵和尚が神のご神託を聞ける様になって我々もその奇跡に正直驚いている所です。だからこそ我々修行僧や信者達は少しでも神の奇跡の力を得た高田傲蔵和尚に近づくべく厳しい修行に打ち込んでいるのです。ですがどんな神様にも裏表がある様にその我々が崇める天馬様にも恐ろしい面があるのですよ。その厳しい修行から、そして掟から逃げ出した信者達には天馬様からの死の天罰が待っているとの事です」

「天馬様とやらの天罰ですか」

「私も最初は半信半疑でしたが、高田傲蔵和尚が開眼した二年前から、この山を無断で逃げだそうとした信者が何人も天馬様の操る空中落下現象で死んでいます。ですのでその事実は認める他はありません。そしてその罰は罪深い一般人にも向けられているみたいなのですよ」

 春ノ瀬達郎が語る空中落下現象の話に興味が沸いたのか、羊野はその被っていた白い羊のマスクをゆっくりと脱ぎながらそのきめ細かい白い顔を前へと突き出す。

「それで、その天馬様の怒りを買って死んだという過去の被害者達は一体どこで死んだのですか。その時の状況をもっと詳しく教えては貰えないでしょうか」

「分かりました。では過去に起きた空中落下現象の奇跡の数々をお話します」

 そう言うと春ノ瀬達郎はテーブルで腕組みをしながら過去に起きた幾つかの事件を話出す。

「この半年の間にこの天馬寺から脱走を試みた信者達や天馬様の奇跡を信じない一般人の人達には不可解な事故が絶えず起こっています。その死者の数はざっと十五人にも及びます。そのいずれの被害者も高いところから落ちて死亡した天空落下現象による事故で亡くなっているとの事です。例えば事件を三つほど上げれば、一番最初の犠牲者は我が天馬寺に当初からいた一人の僧侶だったのですが、その僧侶は町中の何も無い闇夜の空から行き成り落ちてきたとの事です。たまたまその場を通りかかった数人の町の住人が、その僧侶が空から落ちてくる落下の瞬間を見たと証言していますから恐らくは間違いない物と思われます」

「闇夜の空から落ちて来たその僧侶の最後の瞬間を見た目撃者は何人もいるのですか」

「はい、その最初の犠牲者は、この天馬寺から下降に見える400メートル程離れた町の中で起こった事件ですから、とても身近な所で起きた空中落下現象による事件だとも言えます。その大半の事件は皆この天馬寺がある周辺の町で起きている事件ですから天馬様の影響がこの町周辺に大きな影響を与えている事は確かです」

「そんな不可解な事件が結構身近で起きているのか。何とも不気味な話だぜ」

「次の犠牲者の話は十番目に亡くなった新聞記者さんの話です。その新聞記者は高田傲蔵和尚のいかさまを暴いてやろうとよくこの天馬寺周辺を嗅ぎ回っていたのですが、その後隣町の公園の中にあるオブジェの石畳の上で死んでいるのを発見されています。鑑識の話によればその二畳程ある石畳の上に直接落ちて死亡した事は先ず間違いないとの事なので、その損傷の酷さから一晩の内にそのオブジェの石畳の上に直接落下した物と推測されるとの事です」

「勿論その公園の周りにはその新聞記者がよじ登れる用な高い木々や建物は何も無かったんですよね」

「はい、その石畳のオブジェ以外高い障害物は何もなかったと記憶しています。しかもその新聞記者は天馬寺から離れた隣町の公園で死んでいますから、一度天馬様に目を付けられたら距離に関係なくその死からは決して逃げられないと思って下さい!」

 その鬼気迫る春ノ瀬達郎修行僧の言葉に勘太郎と春ノ瀬桃花の顔は大いに強張る。

「最後の犠牲者の話は、最近亡くなった、とある大学教授のコメンテーターの話です。その大学教授の死で被害者は十六人目となるのですが、一週間くらい前に同じくこの長野県のローカルテレビにゲストとして出演していた高田傲蔵和尚に対してその大学教授は極めて無礼な態度を取ったらしいのです。なので高田傲蔵和尚とその神様でもある天馬様の怒りをそのまま買ってしまったと聞いています。そしてその大学教授の死因もまた、何処か高い所から落ちて死亡した空中落下が主な原因との事です。死亡推定時刻は深夜の二十四時から~二時くらいの間で、その後発見されたのは朝の七時くらいだったと聞いています。死亡場所は彼の家の近くにあるスクラップ工場内に廃棄された車の屋根の上に落ちていたとの事ですが、廃車の屋根に落ちた死体の衝撃とその車の破損具合から100メートル以上高い所から直接落ちて来て、そのまま廃車の屋根の上に激突した物と思われます」

「でもその大学教授が落ちたとされるスクラップ工場の周りにはこれと言った高い建物は何処にもなかったんだろ。なら高い所から落ちてその廃車の上で死ぬ事は先ず不可能だよな。なら考えられる事は、別の高い所から落ちて死んだその大学教授の死体をわざわざスクラップ工場の敷地内まで運んで死体をその廃車の上に置いたか。或いは本当にヘリコプターやプロペラ機を使って空の上からその大学教授を落としたかだな」

 その勘太郎の考えを隣で聞いていた羊野がすかさず否定する。

「その大学教授の死体をわざわざスクラップ工場まで運んだと言う説は先ずないですわね。そんな事をしたら、死体の損傷箇所や血のりから、被害者が落ちた現場と本来落ちた現場との不一致で死体を移動させた形跡は必ず残りますからね。それに飛行機を使って空から落としたと簡単に言いますが、もしそれを実行するならその犯人は個人的にヘリコプターやプロペラ機を持っていないといけませんし、そんな夜の時刻に無断で空を飛んでいたら流石に音で誰かがその飛行機の存在に気付きますよ。でもその時刻にヘリコプターが飛んでいたと言う事実は当然無かったのですよね」

「ええ、その時間ヘリコプターやプロペラ機が飛んでいたと言う事実はありませんでした。それは地元の警察が丹念に調べましたから確かです」

「なら後どんな方法があると言うんだよ。まさか消防署にある梯子車やクレーン車でも使ったんじゃないだろうな?」

「いいえ、その可能性もありません。そのスクラップ工場に向かう道路の一角にコンビニエンスストアがあるのですが、防犯の為にそのコンビニ内を映し出している映像の中に外の道路の様子もしっかりと映っていたのですよ。その後警察がその映像を確認したらしいのですが、その時刻にクレーン車が道路を通過した映像はありませんでしたし、当然消防車も通過はしてはいませんでした。なので梯子車の説はないです」

「じゃどう考えてもその大学教授をそのスクラップ工場内にある廃車の上に叩き落とす事は不可能じゃないか。ま、まさか高田傲蔵和尚はその天馬様とか言う神様の神通力を使って本当に逆らう被害者達を天空へと舞い上げる事が出来るんじゃないだろうな?」

 考えが尽きた事で勘太郎が焦りを感じていると、その様子を見ていた羊野が口元を押さえながらケタケタと笑う。

「ホホホホッ想像力豊かなのは結構ですが妄想と現実をごっちゃに考えない方がいいと思いますよ。人間を自由に天空へと舞い上げ、そしてそのまま地べたへと叩き落とす事が出来ると言う空中落下現象なんて実際にある訳がないじゃないですか。その事件現場に行って直接調べた訳ではないのでなんとも言えませんが、私達が想像だにしない何らかのトリックが必ず隠されているはずです」

「トリックだと。ならそのトリックとは一体どんな仕掛けだよ。少数ながらも実際に空から人が落ちて来る瞬間を見たと言う目撃者も何人かいるんだぞ。だったらその人達の証言がそのまま事実なんじゃないのか」

「果たしてそうでしょうか。この天空落下現象には幾つかの疑問があります?」

 そう言うと羊野はスカートのポケットから自分のスマホを取り出すと天馬様に関わる記事を調べ始める。

「この天馬寺に来る前に今まで起きたとされる天馬様の空中落下現象の軌跡に一通りはざっと目を通していたのですが、今までに起きた空中落下事故の被害者の半分はこの天馬寺を囲む町の周辺で起きています。そしてもう半分は他の町で落ちていますね」

「ああ、そうだな。だがそれが一体なんだと言うんだよ」

「分かりませんか。被害者の人数を見る限りでは皆が高田傲蔵和尚の予言通りにバラバラに、そしてランダムに天空落下による天罰を受けている用に見えますが、実は見事に二つのグループに分かれているのですよ」

「二つのグループだと……?」

「はい、それはこの天馬寺を脱走使用として落とされた信者達被害者と、外で天馬様の悪口やその神の存在を信じない者に向けて天罰を下された一般の人達です」

「まあ、そうだろうな。脱走に失敗して空から落とされた信者達と天馬様に不信を抱いていたが為に天罰を受けた一般人の人達がいるな。だがそれが何だと言うんだよ」

「分かりませんか。その天馬寺を脱走使用とした信者達は皆天馬寺から400メートル程離れたこの山の下降の町で死んでいますが、逆に神を信じない一般人達は皆町の外で死んでいるという事実ですよ。この二つの組み分けには何らかの隠された秘密があるとは思いませんか。そこにその天馬様とやらが使う天空落下現象の秘密が隠されている用な気がするのですよ」

「まあ、確かにそうだな。他の町で空中落下現象で死んでいるのは大半は天馬寺の信者とは全く関係ない普通の一般人だけだからな。もしも信者が同じく天空落下現象で死んだのなら彼らも他の町の何処かに落とされても何も可笑しくは無いと言う事か。だが天馬寺に関わる脱走をしようとした信者達は皆何故か天馬寺のある山の周辺の下にある町でばかり死んでいる。確かに不思議な話だな」

「あ、不思議と言えば春ノ瀬桃花さんも一ヶ月くらい前に被害者の修行僧が寺の石階段に落ちるのを間近で見たと言っていましたわね」

 ワザとか何気に振ったのかは分からないが、羊野が振ったその言葉に春ノ瀬桃花の華奢な体がビクリと震える。

「ええ、確かに見ましたよ。人が夜空の木々の枝をかき分けて、物凄い速さで石階段にぶつかり下へと落ちて行くその瞬間を……」

「私も人づてで桃花がその事件に巻き込まれた事は聞いています。警察も現場に来ていろいろと桃花に話を聞いていたらしいので私も桃花の事は心配だったのですが、結局天馬寺を降りて娘に会いに行く事は出来ませんでした。何せ今は修行中の身なので如何なる理由があっても娘に会いに行くことは出来ませんからね」

「なら、この話は流石に桃花さんからは聞いていませんわよね。春ノ瀬桃花さんが馬の顔を持った馬人間を目撃していたと言う突拍子のないお話です。春ノ瀬桃花さんの読みでは、その馬の顔を持つ修行僧の服装をした馬人間は実は天馬様ご自身では無いかと言う証言ですよ」

「う、馬人間だと……桃花、まさか、まさか、本当にその馬人間を直に見たのか!」

「え、ええ、見ましたよ。お父さんと同じように修行僧の服装をした馬人間が林の木々の中に紛れて遠くから、石階段に落ちた信者の人をじっと見ていたのを。でもそれが一体なんだと言うのですか?」

 何だか不思議そうに話す春ノ瀬桃花の仕草に、話を黙って聞いていた春ノ瀬達郎の顔が今までに無い用な悲痛な顔へと変わる。

「ば、ばかな。あれを、あの天馬様のお姿を直接見てしまっていたのか。なぜそれをもっと早く言わなかったんだ。今の我々の会話で天馬様が我が家の娘に照準を合わせてしまったのかも知れない。なら尚更あなた達はこの山を一刻も早く降りるべきだ。そう夜がこの天馬寺周辺を包む前に……。お願いです黒鉄さん、羊野さん。家の娘を連れて一刻も早くこの天馬寺を離れて下さい。お願いします」

 そのあからさまな春ノ瀬達郎の怯え様に勘太郎と羊野は互いに顔を見合わせていたが、溜まらず勘太郎が話を聞き返す。

「それは一体どう言う事ですか。天馬様の姿をした馬人間を見たと言うだけでそんなに取り乱さなくてもいいじゃないですか」

「あなた方は天馬様の恐ろしさをまだちゃんと理解していないからそんな呑気な事が言えるんだ。あの馬の神様は本当に恐ろしい荒神様だ。その現世に体現されたお姿を直接誰かに見られたと知れたら必ずその物の命を奪いに来るはずです。天馬様はそのお姿を見られるのが何よりも嫌っていると前に高田傲蔵和尚から聞いた事があります。そのお姿を見てしまった者には必ず天罰が下ると話ていましたから。なので私は今から高田傲蔵和尚にお伺いを立てて天馬様に許して貰える用にお願いして見ます。あの天馬様と直接話をする事の出来る高田傲蔵和尚なら何とかしてくれるはずです」

「分かりました、桃花さんの事は責任を持って施設に送り届けます」

「お願いします。桃花、桃花の事は必ずお父さんが守ってやるからな!」

 そう言うと春ノ瀬達郎は素早くその場を立ち上がると部屋の引き戸を勢いよく開けるのだった。
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