白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第三章 『汚れた天馬』 最強の武闘派の狂人現る。人を自由に空から落とす事ができる天空落下トリックを操る狂人・強欲なる天馬との推理対決です!

3-14.天馬寺被害者の会事務所に行く

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                    14

 四月九日(木曜日)

 時刻は十時十五分。急遽泊まる事となったビジネスホテルを出た勘太郎・羊野・春ノ瀬桃花は、朝早くから電車に乗り三時間かけて天馬寺被害者の会事務所があるとされる、とある町までたどり着く。

 電車での道中、暇つぶしとばかりに勘太郎が春ノ瀬達郎とは一体どんな人物なのかと言う事を春ノ瀬桃花に聞いたのだが、その事で勘太郎は大いに後悔する事となる。何故ならニコニコしながら語る春ノ瀬桃花の父親エピソードがやたらと長いからだ。その極度のファザコンをまざまざと見せ付けられた勘太郎はもう彼女の前では極力父親の事は聞かないと心の中で誓う。

 町に入ると過疎化が進んでいるのか所々シャッターが閉まり、余り活気が無い商店がずらりと並ぶ。そんな寂れた通りを歩く三人は寄り道する事なく、天馬寺、被害者の会がある事務所へと到着する。

「ここか、ここが天馬寺、被害者の会事務所か」

 玄関のドアの前まで来ると呼び鈴に手を掛けた勘太郎は、後ろに並ぶ羊野と春ノ瀬桃花に見守られながらその呼び鈴を鳴らす。
 呼び鈴を鳴らしたその十数秒後、事務所のドアを開けたのは痩せ型で口髭を生やした四十代くらいの男だった。

 その口髭を生やした男は、突然訪れた怪しげな三人をかなり不審に思っている様だったが、勘太郎の「長野県警の紹介でこの事務所に来ました。突然の関係者達の死にショックを隠せないでいる気持ちは重々に承知してはいますが、どうか亡くなった被害者達の当時の足取りとその行動をもう一度聞かせて下さい」という言葉を聞き、行き成り態度を一変させる。
 さっきまでの態度とは打って変わり好意的に応対するその男は勘太郎達を事務所の応接間へと招き入れる。

「いやぁ~よく来てくれました。警察の人ですよね。羊のコスプレをした可笑しな姉ちゃんに、小さな小学生を連れた人が行き成り現れたから何者かと思いましたよ。でも先程警察の片から電話を頂いた通りの人達ですね。まさか本当に羊人間と小学生を連れ立った黒服の男が現れるとは」

「俺達が現れる前に警察の人から前もって電話があったのですか。因みにその警察の方は女性の方でしたか」

「はい、何だかやたらとテンションの高い女性の人でした。警察お墨付きの凄腕の白黒の服装をした者達が小学生の女の子を連れてそちらに話を聞きに行くのでよろしくお願いします。とか言われてね」

 その話を聞いた勘太郎は、赤城先輩が気を回して俺達がスムーズにこの事務所の人間と話が出来る様にお膳立てをしてくれたのだと結論付け、心の中で感謝をする。
 応接間の長椅子に並んで座った三人は自分達の名前を告げると、今度はその口髭を生やした男に自己紹介を求める。その返しに慌てて自分の名前を語ったその男は、自分を『原田はらだげん』(三十歳)と名乗り、急須で淹れたお茶を勘太郎達に配り出す。

「す、すいません。どうも来客の応対には慣れて無くって。いつもはこの事務所の会計の仕事を主にしているのですがこう言った接待はどうも慣れて無くてね。いつもはもう一人の事務員の女性が接待の応対をしてくれるのですが、一体何処に行った事やら」

「いえいえ、どうかお構いなく」

 そう社交辞令の言葉を口にした勘太郎はぎこちなくも丁寧に出されたお茶に口を付けると、昨夜の二十四時三十分に事務所から突如として姿を消した、天馬寺被害者の会会長の山本拓也の事と、共に姿を消したと言う三人の会員達の話を原田豪蔵に求める。

「原田げんさん、貴方は昨日の夜の十二時三十分に被害者の会会長の山本拓也氏が行き成り事務所から忽然と消えていなくなったと証言していますが、その時の状況をもっと詳しく教えてはくれませんでしょうか。そして時を同じく同時に続けざまにいなくなったとされる他の三人の会員達の事についてもお願いします」

 その勘太郎の話を待ってましたとばかりに原田げんはその時の事を意気揚々と話始める。

「昨日の午前に山本さんとその会員の三人は諏訪町にある天馬寺に入信している信者達を返して貰う為に書状を持って講義に行ったらしいのですが、体良く追い返されたらしく、その後いろいろと用を済ますと午後の十七時くらいに四人は悔しい思いをしながら事務所に帰って来たと聞いています。ですがただやられっぱなしで帰ってきたと言う訳でもない用です。何でも山本さんの話では、高田傲蔵和尚に天馬様の天空落下現象の正体が分かったとカマを掛けたらしいのですが、高田傲蔵和尚はそのハッタリを全く取り合ってもくれずそのまま追い返される様にして事務所に帰ってきたそうです。ですがその嘘のせいで山本さん達は天馬様の怒りを買い、皆死に至ったのだと思います。まさか昨夜の一晩で四人もの人間をこの事務所から天馬寺のある町まで瞬時に移動させて、その後天空落下現象で悉く殺害するとは……やはり天馬様という神様は本当に存在するのかも知れませんね。非常に不謹慎ではありますが山本さん達の行動のお陰で、この後に続く者達には今後の方針と出方を決めるいい教訓になったと思いますよ。おそろしい、天馬様とは本当に恐ろしい神様です」

 そう応えた原田げんは顔をしかめながら体を震わせる。

「なるほど、つまり山本さん達は午後の十七時にはこの事務所に戻っていたのですね。それで、その後はどうしましたか」

「事務所に戻った四人は、今後どういった行動で天馬寺に対応を求めたらいいのかと言う話を別室に隠って永遠と話合っていました。夜の十九時に頼んでいた店屋物をこの応接間で一緒に食べましたからその時はまだ山本さん達は事務所にいたと言う事です。夕食後直ぐにまた別室に戻った四人はまた懲りずに話し合いをしていたようですが、お茶や茶菓子だけでは無くビールやつまみの催促も別室から大声で何度も求めて来たので、その度に俺は別室に飲み物や食べ物を運んでいました。もうあれは会議では無く実質上の宴会でしたがね」

 そういいながら原田げんは小さく苦笑する。

「その後二十四時丁度に俺が最後にシメのお茶を持っていった時にはまだ山本さん達はあの別室にいましたからその時は山本さん達はまだ無事だったと記憶しています。ですがその後俺が異変に気付いたのは深夜の二十四時三十分の時でした。一般の人達からの寄付金の管理や会計の処理で残業からようやく解放された俺は、同じく残業をしていたもう一人の事務の女性と二人で退社の挨拶に行ったのですが、その時にはもう山本さん達四人は別室にはいませんでした。何で人知れず俺達に黙って帰ったのかとも思っていたのですが、四人の外靴が事務所の玄関にまだ置かれたままだったので一体どうした物かと思っていたのですよ。ですが、まさかあんな事になっていただなんて、正直びっくりしています」

「つまり二十四時丁度に山本さん達四人を見たのはお茶を出しに行った貴方一人だけで、そのもう一人の事務の女性は山本さん達の姿を見てはいないのですよね。ならこの話に信憑性はないですよね。何せ貴方一人だけの証言ですからね」

 その勘太郎の指摘に原田げんはニヤリと笑う。

「つまりは俺が嘘を言っているかも知れないと言う事ですか。そんな事はないですよ。先ほど来た長野県警の警察にもその説明をしましたから、あなた方にも今からその説明と証明をしますね。森山さん、もう帰ってきているんだろ。ちょっと来てくれや!」

 原田げんは応接間の戸口から事務室に目がけて声を掛けると、一人の若い女性が姿を現す。彼女は原田げんに言われるがままに応接間に入ると自己紹介とばかりに自分の名を語り出す。

「私は森山もりやまあきこ(二十六歳)です。この事務所で主に事務の会計の仕事や電話の応対係をしています。原田さんの話にもあった用に昨夜の二十四時丁度に原田さんが別室にお茶を出しに行った時、山本さん達は確かに別室にいました」

「なぜそんな事が分かるのですか。貴方も原田さんと同じように山本さん達がいる別室に入ったと言う事ですか」

「いいえ、違います。私は山本さんに、今日は大事な話があるから関係者以外別室には決して入るなとキツく言われていたので別室へのお茶係は原田さんに任せていたのです。でも別室と事務所は隣に面しているので声が壁から漏れてよく聞こえるんですよ。その会話が隣の部屋から聞こえていたので昨夜の二十四時に山本さん達が別室にいたことは先ず間違いないと思います。それに十九時から~二十四時までの間は別室にいる山本さんから原田さんは何度も大声で呼び出されていますから、それをいないと思う方が無理な話です」

「そして更にその後、二十四時三十分に二人でこの事務所から退社する為に別室を訪れた時にはもう既に山本さん達四人の姿は何処にもなかったと言う事か。そんな馬鹿な。それじゃ山本さん達は天馬様なる者の力で本当に瞬間移動をさせられて上空から落とされたと言う事になるじゃないか。そうでも考えないと突然事務所からいなくなって死んだ山本さん達四人のアリバイがどうしても合わない。そんな事は絶対にあり得ない事なのに!」

「でもこれが私が見た現実です。私だって何が何だか分からないんですから。人を物理的に殺せる神様って……本当にいるのでしょうか?」

「そ、それは……」

 原田げんのみならず新たに現れた森山あきこなる人物が山本拓也達四人の存在を耳で確認した事を告げると、その矛盾に勘太郎は大いに困惑する。
 だがその森山あきこの発言に悩んでいる勘太郎ではなく、話を黙って聞いていた羊野が代わりに話出す。

「森山あきこさんでしたか。夜の二十四時丁度に原田げんさんが山本さん達のいる別室にお茶を出しに行ったとそう証言していますが、森山さんは原田さんと山本会長が直に話をしている所を見た訳ではないのですよね」

「はい、見てはいないです。声だけですけど。ですが二人がお話をしている声が事務所まで聞こえましたから、あの別室に山本さん達四人がいた事は先ず間違いないです」

「森山さん、なぜ間違いないと言い切れるのですか。森山さんは事務所から山本さん達の声を間接的に聞いただけで、直接的には山本さん達の姿は見てはいないのですよね。なら本当はその場に山本さん達はいなかったかも知れないじゃないですか。自分の目で見てもいない物を安易に信じる物ではありませんわ」

 その言葉に隣で話を聞いていた原田げんが顔を真っ赤にしながら羊野に食って掛かる。

「それじゃなにか、俺が嘘を言っているとでも言うのかよ」

「普通に考えてこんな超常現象的な話が信じられる訳ないじゃないですか。そう考えたらやはり貴方か、そこにいる森山さんが嘘を言っていると考えた方が自然ですよね。もし貴方たち二人が揃って狂言を言っていると言うのならまだ分かりやすかったのですが、森山さんの素の言動や証言は迷いと不安がにじみ出ていましたので真実か嘘かつい迷ってしまいましたが、森山さんは直接山本さん達を見ていないと言う言葉を聞いて少なくとも彼女は嘘は言ってはいないと言う事が分かりましたわ。森山さん、貴方は山本会長に大事な話があるから別室には決して入るなと言われたそうですが、それは山本会長本人からそう言われたのですか」

「いいえ、山本会長がそう言っていたと原田さんから言われました。だから私お茶出しは原田さんに全て任せたんです」

「山本会長はいつも貴方に別室には入る事を禁じているのですか」

「いいえ、これが初めてです。でも大事な会議があるからと言う話だったので、そんな日もあるのかなっと思って」

 その森山あきこの言葉を聞いた羊野は、今度は原田げんの方を見る。

「原田げんさん、恐らく貴方はなにも知らない森山さんを利用してこのアリバイトリックを実行したのではありませんか。自分が山本さん達に会ったと言う信憑性をより完璧にする為に森山さんを自分の証言の援護射撃に使った。そうですよね、原田げんさん。その証拠に森山さんは山本さん達の声しか聞いてはいないと言っていますからね。なので山本さん達と直接会ってはいない森山さんは自ずと無関係と言う事になるのですよ」

 その羊野の推理に原田げんは狂ったように笑い出す。

「ハハハハー、なんで俺が山本さん達四人を貶める様な事をしないといけないんだよ。そんな動機は何処にもないじゃないか。それにアリバイだって不十分だぜ。仮に、仮にだ。俺が本当はあの別室に山本さん達四人がいない事を本当は知っていて敢えて嘘を言っていたとしたら、大きな矛盾が生じるだろう。そのいるはずの山本さん達四人は一体どうやってこの事務所から天馬寺のある諏訪町まで移動したかって事だ。森山さんも言っているように二十四時までは山本さん達四人の声は確かに別室から聞こえていたんだぜ。ならそれは山本さん達四人が別室にいたと言う事だろう。その時の状況とアリバイを知る者が俺だけではなく二人もいるんだから、もっと結果と現実を直視しろよ!」

「山本さん達四人が死んだ動機ですか。それはさっきあなたが言っていたではないですか。山本会長が高田傲蔵和尚に天馬様の天空落下現象の正体が分かったとカマを掛けたと」

「確かに山本さんはそう言ったが、高田傲蔵和尚は全く相手にしていなかったとも聞いているぞ」

「でも、それが嘘か真実かはこの事務所にいたあなた方にも山本会長の本当の考えは分からなかったんですよね。人づての話では山本会長なる人物はかなりの秘密主義の人だったみたいですね。しかも政界や財界、果ては裏に精通した怪しい人達のいろんなコネを使って天馬寺の闇を暴くのに必死だったとも聞いています。だからこそ、もしかしたらその秘密に近づいているのでは? と言う懸念が貴方や天馬寺に巣くう高田傲蔵和尚には少なからずあったのではないでしょうか。でもその事を直接山本さんから聞いたり口を割らせる訳には行かなかった。もしそんな事をしたら自分からこの天空落下現象は真っ赤な偽物だと言っている様な物ですからね。だからこそ貴方達は山本さん達四人を敢えて襲撃し、拉致したのですよね」

「襲撃し、拉致しただって。森山さんの話だと昨夜の二十四時にはまだ山本さん達は別室にいたんだぞ。ならその後に人を拉致する時間は一体何処にあると言うんだよ。山本会長の死亡推定時刻は確か二十四時三十分で、その後の三人の死亡推定時刻は共に一時三十分だったはずだから時間を誤魔化す事は出来ないぞ」

「時間を誤魔化す事は出来ますわ。その二十四時に聞いたという山本さん達の声が本物の生の声ではないのならね」

「それは一体どう言う事だ。羊野」

「言葉の通りですわ。山本さん達の声は原田さんが偽装した偽物だった可能性があります」

「偽物の声だって?」

「いつも小ずるい事を考えている黒鉄さんに質問です。貴方は声だけを残してその場からいなくなるとしたら一体どんな手を使いますか」

「そうだな。例えば予め自分の声をラジカセかICレコーダーにでも録音して宛もその場にいるように細工するかな。まさか原田さんもそれと同じ事をしたのかよ」

「恐らくは前に飲み会とかで録音した山本会長やその三人の会員達の声を予め録音して、山本会長が原田さんを呼ぶ声の掛け合いは自宅のパソコンの音声編集ソフトを使って作り上げたのでしょうね。だからこそその声が出る時間やタイミングに合わせて宛も人が別室にいるように上手く演技が出来たのだと思います。今までの原田さんの話を聞いて、そう確信が持てましたわ」

 その羊野の突拍子もない話を聞いていた原田げんは目を狼狽させながら言葉を返す。

「それはあくまでもお前らの妄想だろう。そんな証拠が一体何処にあるんだよ!」

「さっきも言ったように原田さん宅の自宅のパソコンを調べればその証拠は直ぐに出て来ると思いますよ。まあ、そんな事をしなくてもこの事件が起きたのは昨日の夜ですから、彼の持ち物を丹念に調べればラジカセやICレコーダーの様な物が出て来ると思いますよ。なにせ山本さん達が深夜の二十四時三十分までこの事務所にいたと言うアリバイを何としても警察に告げないとこの時間差トリックは成立しませんからね。警察がこの不可思議な現象を信じてくれないとトリックの意味がありませんから。なので我々が現れてからこの事務所を離れて証拠を隠滅する時間は勿論なかったと言う訳です」

 その羊野の言葉と同時にいつの間にかその場からいなくなっていた春ノ瀬桃花がひょっこりと応接間の引き戸からその可愛らしい姿を現す。
 春ノ瀬桃花はトコトコと羊野の前まで来るとある物を羊野に手渡す。

「はい、羊野さんの読み通りに原田げんさんのロッカーの中からICレコーダーが出て来ました。これでよろしいですか」

「流石は春ノ瀬桃花さんですわ。何処かの誰かさんとは違い、咄嗟の理解度と飲み込みが早いですわね。いい仕事をしますわ。あなた以外と探偵の素質があるかもですわね」

「それは本当ですか、羊野さん!」

 羊野が言った褒め言葉を素直に嬉しがる春ノ瀬桃花を見つめながら勘太郎は、最後の大詰めとばかりにこの時間差トリックの確認に入る。

「つまりだ。この原田げんさんが、死亡した山本さん達四人のアリバイを作り上げた動機は、天馬寺に敵対する物を密告する為に予めこの天馬寺被害者の会に潜り込ませていたスパイだったから、だからこそ天馬様の天空落下トリックの一端に加担した。つまりはそう言う事か」

「はい、つまりはそう言う事です。だから彼に山本さん達を殺害する明確な動機は全くないのですよ。ただ高田傲蔵和尚に言われるがままに事を実行したのだと思いますよ」

「なぜお前は原田さんが天馬様の信者だと分かったんだ」

「昨夜、あれだけ天馬寺の信者の姿を目の当たりにしていますから、個人の犯行では無く何か組織的な犯行だと思ったまでの事です。そう考えたら自ずと天馬様の信者がこの犯行には少なからず加担していると思った物ですから、スパイくらいは当然潜り込んでいるのだろうと思ったまでの事ですわ。でもそれを証明する証拠は春ノ瀬桃花さんのお陰で結果的には揃ったのですから、まあ結果往来と言うものですわね」

「なら最後に、山本さん達四人はいつ天馬寺に誘拐されたんだ? 肝心の原田げんさんはこの事務所から一歩も外には動いてはいないだろう」

「恐らくは森山さんに山本さん達四人が事務所にいると印象づけさせる為に敢えて昨日の十九時までは手を出さなかったと推察されます。その後夕食を終えた四人はそのまま別室に移動したみたいですから。その後に持って行くお茶に睡眠薬でも混ぜて眠らせてから、外に待機させていた他の信者達を使ってゆっくりと裏玄関から誘拐したのでしょうね。勿論隣の部屋は壁が薄いらしいので、声が録音されているICレコーダーの音量をワザと上げて信者達の歩く物音を消していた物と思われますが、二十時くらいにでも誘拐したのなら天馬寺のある諏訪町までは十分に間に合う物と推察されます。まあその憶測もこのICレコーダーの中身を聞けば全て分かる事ですが」

 図星なのか原田げんは、羊野が持つICレコーダー目がけてまるで狂ったように飛びかかる。

「違う、それは違うんだ。天馬様の奇跡は絶対なんだ。天馬様の意思はこの汚れきった世界を確実に浄化するんだ。 その為の……第一歩となるお役目をようやくいただいたと言うのに……この不浄なる敵のアジトに潜入して天馬様の野望を果たす礎になろうと誓ったのに!」

「羊野、奴の狙いはICレコーダーだ。ICレコーダーを何としても守れ!」

 その勘太郎の言葉に羊野は腰の辺りから素早くスタンガンを取り出すと、その電流を迫り来る原田げんの手に目がけて流し込む。その体を駆け抜ける衝撃に悶絶し倒れ込む原田げんは、その完璧と思われていた天空落下トリックの一端が崩れた事に大いに責任を感じている様だ。

「こ、こんな……可笑しな奴らに、天馬様の掲げる壮大な計画の一つが阻まれようとは、無念だ……俺の失態が天馬様の粗大な意思に風穴を開けてしまう。これ以上天馬様にお使い出来ないのは本当に残念だが、この失態は俺の死を持って償うとしよう……」

 その原田げんの言葉に、勘太郎は思わず原田の元に駆け寄る。

「原田さん、あんた一体何を考えているんだ!」

 そう叫びながら勘太郎が原田げんの体を起こしてみると、原田げんは顔を青黒くさせながら口から嗚咽を漏らしている真っ最中だった。
 その体の痙攣と吐き気から察するに恐らく原田げんは普段から何かあった時の為に青酸カリ系の毒物を隠し持っている様だ。

 そして今まさにその毒物を実際に彼は服用したのだと、勘太郎は直ぐにそう理解するのだった。
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