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第四章 『罪深い水瓶の底から』 大木槌を持った異形の殺人鬼が封鎖されたデパート内で勘太郎達に迫る。狂人・悪魔の水瓶との推理対決です!
4-4.姿無き水瓶人間の恐怖
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十三時ジャストに狂人ゲームが始まってからその1時間後。太い鉄の錠前で鉄の金網式のシャッターを封じていた太い鉄で出来た錠前の鍵のロックが独りでに外れる。恐らくはタイマー式の錠前だったのだろう。そう判断した勘太郎と羊野は鉄の金網式のシャッターを開けるとエスカレーターに乗りながらデパートの一階入り口の表玄関を目指す。
時刻は十四時丁度。
今回は犯人の正体が分からないままタイムリミットの8時間が過ぎてもなんのペナルティーもないので、約1時間・地下一階フロアーに閉じ込められていた勘太郎にとっては内心時間が無駄に過ぎてくれてかなりありがたかったが、上の各階で怯えてる人達がいると思うとどうやらそうも言ってはいられないようだ。
勘太郎は一階フロアーへと上昇して動くエスカレーターに乗りながら下にいる黄木田店長に叫ぶ。
「俺達はこのまま少し上の様子を見て来ますので、黄木田店長は今ここにいる一般のお客さん達と協力して侵入者が来ないようにバリケードを作ったり、何か武器になるような物を探して置いて下さい。後食料や水、そして医療品なんかが入っている救急箱も確保して下さい。使う時があるかも知れませんので」
「分かりました、こちらは任せて下さい!」
白い口髭をなでながら黄木田店長がそう告げると、その黄木田店長の横を二人の人物が通り過ぎる。
「わ、私も、黒鉄先輩について行きますね。まだ上に生存者がいたら速やかにここに連れてこないといけませんから」
「なら俺も行かせて貰うぜ。屋上にいる西条社長や他の従業員達が心配だからな」
そう言うと緑川と関根孝は周りを警戒しながら勘太郎と羊野の後に続く。
人の気配が全くない静まり返った一階では、フロアー一帯を照らす明かりだけが少し前までいた人の痕跡を照らし出す。
そんな正面玄関の入り口に勘太郎と羊野が到着すると、直ぐに閉ざされているシャッターやその前に存在する鉄の金網を丹念に調べる。
「想像はしていたが、やっぱり駄目か」
「どうやらそうみたいですね」
二人が想像していたように表玄関のシャッターは外には出られないように完全に閉められ、大きなガラスドアの鍵も当然施錠がされているようだった。
「くそ~当然ながら鍵が掛かっていて外へは出れないか。裏玄関や非常口の方はどうかな」
勘太郎のその質問に、裏玄関と非常口を確認しに行っていた緑川と関根孝が答える。
「裏玄関や非常口のドアを確認して来たんですが、どうやらいずれも入り口に近い通路前のシャッターが閉まっていて開けることが出来ないようです」
「ついでにエレベーターを使って七階の最上階まで上がれないか調べたんだが、どうやらエレベーターの電源が切られていて今現在エレベーターの使用が出来ない様だ」
「そうですか、今表玄関を調べてみましたが、どうやら鍵がないとこのガラスドアやシャッターは開けられない様ですね。なので軽く他に生存者がいないか一階のフロアーを全て確認後、直ぐに二階に上がろうと思っています。そんな訳でいつ殺人鬼が出て来ても直ぐに対応できる様に各々気をつけて下さい」
その勘太郎の言葉を皮切りに、今すべき事を理解した羊野・緑川・関根孝の三人は各々の姿と声が届くくらいの絶妙な距離を取りながら一階フロアーを丹念に見て回る。
一階フロアーは生活用品や食料品を売るフロアーになっており、人の気配や姿が全くない中に八台ほどあるレジ打ち機の機械が綺麗に並ぶ。
勘太郎は、人々を無差別に襲うという悪魔の水瓶とか言う狂人が何処かに隠れて待ち構えてはいないかと内心ドキドキしていたが、一階フロアーに人がいないことが分かると勘太郎は思わず安堵の溜息をつく。
「はあ~、どうやら一階にはだれもいない様だな。恐らくは火災が発生したと聞いたこのデパートの従業員達がお客さん達を急ぎ避難させたんだろう。だからこの一階に人はだれもいないんだな。まあ考え方によっては、この一階フロアーで不幸にもこの狂人ゲームに巻き込まれた人がいなくて本当に良かったと言った所か」
そう結論づけた勘太郎の前に周りを見てきた羊野がこれからの行動を確認する。
「では次は二階に上がりますか。どうやら二階には誰かがいるようですから気をつけて下さい。さっきから人の気配が見え隠れしていますから」
そう言うと羊野は被ってあるその不気味な白い羊のマスクをエスカレーターに向けると、階段が上へと上昇する動きに合わせながら二階へと視線を向ける。
「人の気配がするだとう。もしかしたら逃げ遅れた一般のお客さんか、犯人かも知れないな。なら気を引き締めて二階へと上がるぞ」
そう言うと勘太郎は、二階にいると言う生存者に会うべくエスカレーターの階段に足を掛ける。その足取りは期待と不安が入り乱れていたが、それでも進むしか選択肢が無い勘太郎は勇気という言葉を胸にこれから起こり得る未知なる恐怖へと立ち向かう。
二階に着くと勘太郎と羊野の目に飛び込んできたのはフロアー一帯を埋め尽くすかのようにある紳士服売り場と婦人服売り場だった。
わかりやすいように各会社のメーカーに分かれたブランド品の洋服や衣服類が棚の上に綺麗に陳列し。店の前に置かれたマネキン人形は今年流行りの洋服を綺麗に着こなす。
そんな衣類品売り場が大半を占めるフロアー全体を見渡しながら、勘太郎と羊野は誰か生存者はいないかと人の気配を探る。
「この辺りにはだれもいない様だな。もっと隅々まで探してみるか」
「トイレの中や従業員達が使う在庫置き場とかも調べて見ますか」
「そうだな。だが狂人・悪魔の水瓶とか言うふざけた殺人鬼には十分に気をつけるんだぞ。きっと何処かに隠れて俺達が来るのを待っているはずだ」
「そうですわね。その時はその重そうな水瓶の頭ごと粉々に打ち砕いてくれますわ」
そう言うと羊野は両手に持った大きな包丁をブンブンと振り回しながら、その好奇心と戦う意気込みを大袈裟にアピールする。
「うわぁぁ、お、お前、やめろよな。もしその包丁が俺に当たったらどうするんだよ。全く、今のお前のその姿形と言動を見ているとどっちが殺人鬼か分かったもんじゃないな」
「ほほほほっ、どうやら向こうは、本来殺すべきターゲットや全く関係の無いお客さんもほぼ無差別に容赦なく狩るみたいですが、逆に私がその悪魔の水瓶の首を狩って見せますわ。彼女の噂は時々聞いてはいましたが、直接会うのは今回が初めてなので今から彼女に会うのが楽しみです」
そう楽しげに言いながら羊野は持っている両手の2本の包丁の刃を仕切りにぶつけながら、カキン! カチャン! ガキン! とその金属音を周りに響かせる。
そんな不謹慎な会話を勘太郎が聞いていると、エスカレーターで二階に上がってきた緑川と関根孝が、勘太郎と羊野に追い付く。
「ちょっと黒鉄先輩、二階に上がるなら一言言ってから上がって下さいよ。つい一階フロアーを探しちゃったじゃないですか」
「そうですよ、探偵さん。俺達を追いて先に行かないで下さい!」
「すいません、もう一階のフロアーは危険が無いと思ったから、つい二階に足を運んでしまったんですよ。何せうちの相棒が二階に人の気配がするとか言い出しましたからね」
「なに、人の気配だと。それは本当ですか?」
そう言葉を急ぐ関根孝に羊野は「ええ、多分いると思いますよ」と辺りを警戒しながら言葉で返す。
「なら、他に人がいないか、辺りを探しましょう。俺は衣類の在庫が保管してある倉庫内を見てきます」
そう言うと関根孝は、他にも人がいるかも知れないと言う羊野の言葉に希望を見出したのか自ら進んで裏の倉庫へと向かうが、その倉庫の扉から警棒を手に持った二人の男が勢いよく現れる。
「お前ら、全員動くな!」
恐怖に顔をこわばらせながらそう叫んだ二人の男は、手に持った警棒を目の前にいる関根孝に向けながら少し遠くにいる勘太郎・羊野・緑川にその視線を向ける。
その二人の男の服装から察するにどうやら二人はこのデパートで仕事として見回りをしている警備員の様だった。
一人は背が高く中肉中背の男性で、もう一人の男性の方はがたいの大きな柔道家のような姿を連想させた。
その中の背の高い男の方が勘太郎の方を見ながらおびえにも似た声で話し掛ける。
「お、お前らは一体なんだ。あの可笑しな格好をした水瓶人間の仲間じゃないのか?」
「可笑しな格好をした水瓶人間だって。そいつはまさかこの二階フロアーに現れたんですか!」
「ああ、現れたよ。大木槌を持った可笑しな格好をした殺人鬼がな。その頭には大きな水瓶を逆さまに被っていたから顔は見えなかったが、長いロングスカートを履いてたし、その体のラインから恐らくは女性だと俺は思う。黒服のそこのお前。丁度お前の横にいるその可笑しな格好をした羊人間と同じようにな」
その背の高い警備員の指摘に、勘太郎は何故この警備員がこんなにも俺達を警戒しているのか直ぐに理解する。
あ、そうだった。こっちには羊野がいたんだったな。普通に羊のマスクを被っているからいつも一緒にいる俺や緑川は気にもしてはいなかったが、普通に考えて水瓶人間に襲われた後に羊のマスクを被った可笑しな人間を見かけたら、それは警戒しない方が可笑しいよな。恐らくは俺達をその水瓶人間の仲間か何かと勘違いしているんだろう。
そう思った勘太郎はその誤解を解く為に二人の警備員に近づく。
「違いますよ。俺達は貴方方を襲ったその水瓶人間の仲間なんかじゃありません。逆にその水瓶人間を捕まえようとしている者です」
「嘘をつくな。ならその羊人間が両手に持っているその二本の包丁は一体なんだ。俺達を油断させてその包丁で突き刺すつもりだろ。そんな見え透いた嘘に引っかかるかよ、このいかれた殺人鬼共が!」
そう叫んだ背の高い警備員になにか文句が言いたかったのか羊野は手に持った大きな包丁を手の中でクルクルと回しながらその二人の警備員に近づこうとするが、その行為を緑川が止める。
緑川はその二人の警備員に優しく微笑むと、臆すること無く話しかける。
「その言い方だと他にも生存者がいて、その中から犠牲者が出たと言う事ですか。もしかして怪我人がいるのですか。もし怪我人がいるのなら私にその人の傷の具合を見せて下さい。私、一階にある医薬品フロアーから救急箱を持って来ましたから何かお役に立てるはずです。それにここにいる白黒の服装をした可笑しな人達はとても優秀な探偵です。今回たまたまこの異常な事件に巻き込まれましたが、きっとあなた方のお役に立てると思いますよ」
「こいつらが探偵だと言う証拠が一体何処にあるんだよ!」
「ならスマホはお持ちですか。スマホからネットワークに接続して黒鉄探偵事務所を検索して見て下さい。ホームページに白い羊と黒鉄の探偵のプロフィールが載ってあると思いますよ」
緑川に促され、二人の警備員は各々が持っているスマホでネットワークを繋げると、そこには勘太郎や羊野の写真が掲載され。仕事に対する勘太郎の意気込みやその経営方針は勿論の事、羊野が何故羊のマスクを被って行動しているのかと言った情報がしっかりと書かれていた。
「うちの探偵事務所のホームページを作ってくれると言うから全てを緑川に任せたが、まさか俺達の写真を使って各々のプロフィールを作っていたのか。今のご時世ホームページを作って依頼人を呼び込むのは常識だからな。確かにこれなら十分に身元を明かす証拠にもなるな」
「でも私達の私生活や個人情報もダダ漏れですよ。それに黒鉄さんがこの前秋葉原に行ってわざわざ買って来たあの魔法少女物のフィギュアの情報もしっかりと記載されていますよ」
その話を聞いた勘太郎は、目を見開きながら羊野が検索してくれた黒鉄探偵事務所のホームページをマジマジと見る。
「あ、あいつ、何変な事を書いてくれちゃってんだ。おい、緑川、これは一体どう言う事だ。まるで日記のように俺達の日々の日常の事を事細かく書いて毎日配信しているじゃないか!」
「はい、その方がお客さんとなる依頼人に私達のことをもっと良く知って貰う事が出来ますからね」
「出来ますからねってお前、毎日配信して俺達の日常報告って……そんな記載一体誰が見るんだよ。て言うか俺達にプライバシーは無いのかよ!」
「え、プライバシーってなんでしたっけぇ!」
こ、こいつ……!
「緑川、お前、後で説教だからな」
そう思いを言葉にした勘太郎は、スマホ携帯を見る警備員の反応を見ながら言葉を切り出す。
「そんな訳でして、俺達は決して怪しい者ではありません。どうか安心して下さい。俺達が来る前に一体ここで何があったのか、その事を話してはくれませんでしょうか」
「確かに……そこにいる眼鏡を掛けたお下げ髪の女の言うようにどうやら怪しい者ではない様だな」
「少なくとも、あのいかれた水瓶人間の仲間ではないと言う事か」
そう言うと二人の警備員はまるで張り詰めていた緊張の糸を解くかのように手に持っていた警棒をゆっくりと下げる。
「分かりました、あなた方を信じましょう。そしてこの二階フロアーで一体何があったのかを今からお話します」
二人の警備員が勘太郎と羊野の前まで来ると、まるで訴え掛けるかのようにこのフロアーで起きたある恐ろしい話をする。
「今から1時間と三十分前。火災を示す警報器が鳴り、デパート内にいるお客さん達を外へと避難させていた俺達二人は、警備員の仕事を全うする為(他に店内にお客さんがいないかと)各階を見回りながら辺りを点検していたんだが、特にこれと言った火元や煙は確認できず誤報では無いかと疑っていたんだ。そんな時にあの意味不明な放送を聞いた俺達は、よく意味が分からないまま取りあえずは外に出て警備会社の上司の指示を仰ごうと思って入り口に向かったんだが、辺りを見てみたら既に表玄関や裏玄関、そして非常口に繋がる各通路のシャッターは全て降ろされていて開けることが出来なかった。なら今度は二階に上がろうと上を目指したんだが、今度はいつの間にかエスカレーター前から二階に行く金網式のシャッターが下まで降りていてどうしても開けることが出来なかった」
「意味不明な放送って……壊れた天秤の狂人ゲームを告げる合図のことか。その時間は十三時丁度、確かに時間は合うな。それで、その金網式のシャッターにはタイマー式の鍵が掛かっていたんですね」
「ああ、どうやらそのようだな。だから俺達二人は一階フロアーから何処にも動けず閉じ込められる羽目になったんだ。その三十分後。誰かが掛けた自動ロックの鍵が開き、どうにか二階フロアーに入る事が出来た俺達はそこで信じられない者と遭遇する。そこで見た者は頭から大きな水瓶を逆さまに被った異形の格好をした……まさに水瓶人間だった」
「水瓶人間……狂人・悪魔の水瓶か」
「その水瓶人間は俺達を見るなり行き成り変な鳩の様な奇声を上げながら俺達に襲いかかって来たんだ」
「それで、その水瓶人間と戦ったんですか?」
その勘太郎の質問に二人の警備員は呆れた声を出す。
「はあぁぁぁ、戦うだって、何を言っているんだあんたは、あんなのと戦える訳ないじゃないか。なにせ相手は手に持った大木槌を振り上げながら猛スピードで俺達に襲いかかってきたんだぞ。こっちは二人いるとはいえ、あんないかれた奴とまともに戦ったら命が幾つあっても足りはしないよ。勿論その姿を見るなりかなりやばいと思って迷わず直ぐに逃げたよ。流石にあれは怖すぎるからな」
「まあ、当然の選択ですわね。もしあの悪魔の水瓶と戦ってたらあなた方は間違いなく死んでいたでしょうからね」
その羊野の言葉に二人の警備員は無言で素直に頭を下げる。
「だ、だけど一階に逃げたらどう言う訳かその水瓶人間はそこまでは追ってはこず、そのまま何処かへとその姿をくらました様だった。恐らくは三階フロアーに登ったんだと俺達は思っている。各階のシャッターに鍵を掛けたのは恐らくはあの水瓶人間自身だろうからな」
「なるほど、それで、それからあなた方は一体どうしたのですか」
「数分時間が過ぎて、二階にはもう既に水瓶人間はいないと思ってはいたんだが、あまりにも怖くて中々二階には上がれず確認できないでいたんだ。そんな時に、行き成り二階の方で女性の叫び声がしたんだ!」
「女性の声ですか?」
「ああ、そうだ。女性の声だ。その叫び声を聞いた俺達は仕方が無いと覚悟を決めて急いで二階に掛け登り、声のした在庫保管用の倉庫内に向かったんだが、そこで見た光景はとても頭では理解しがたい恐ろしい物だった」
「その倉庫で一体何を見たんですか?」
「なんとその倉庫内の床には一人の男が仰向けに倒れていて、口と目を大きく開けながら苦悶の表情で死んでいたからだ。その在庫保管用の倉庫内にいた他の生存者達の話では、その人物は行き成り現れた水瓶人間に捕まってしまい。口には猿ぐつわ、両手は後ろ手に縛られた状態で他の生存者達の前まで連れて来られたみたいなんだが、その時にその捕まった男は信じられない死に方としたらしいんだ」
「その死に方とは、もしかして……」
「ああ、その男は他の生存者達の見ている前で、猿ぐつわを噛まされている口からあり得ないほどの水を大量に吐いて苦しみもだえたあげくに気道に水を詰まらせて溺死しているとの事だ。しかもその男の吐いた水を見てみると、その水はまるでドブ川からでも汲んで来たかのようにどす黒く濁り、そしてその臭いも反射的に顔を背けたくなる程の悪臭を放っていた。恐らくは何かの汚染水を何らかの方法で口の中に無理矢理に流し込まれたと言う事だ」
「口からあり得ないほどの大量の水を吐いて溺死ですか。なんとも信じられない話ですね」
「ああ、話していて俺達もそう思うが、その生き残った目撃者の人達がそう言っているのだからその言葉をそのまま信じるしかないだろうな」
「因みにその光景を見たと言う目撃者は一体何人くらいいるのですか?」
「確か……十人ほどかな」
「十人も目撃者がいるのか。それじゃ見間違えようがないな。一体その水瓶人間は何処にそんな大量の水を隠し持ち、更には被害者の口の中に人知れず入れてるんだ。そのトリックが全くわからん!」
「あの水瓶人間に殺された被害者はその溺死させられた男の他に後三人います。その三人はいずれも頭や体をその大木槌で叩かれて撲殺されています」
「四人の内、後の三人はみんな撲殺か。なんとも恐ろしい殺され方だな」
「ええ、そんな水瓶人間を遭遇した俺達ですが、その他にも一人目撃者がいます」
「他にも目撃者ですか。一体誰ですかそれは?」
「俺達よりも少し前に来た、梅塚幸子と言う人物です。彼女が言うには、女子トイレで用を足していたら行き成り火災のベルが鳴り、急いで外に出ようと思ったら何故かトイレのドアが開かなかったと証言をしています。その後、仕方なくトイレのドアを蹴破った梅塚幸子は誰もいなくなったフロアーを確認していると、フロアーの遠くの通路の方で蠢くある者を目撃してしまったそうです」
「そのある者とは一体なんですか?」
その勘太郎の言葉にそののっぽの警備員は当然のように応える。
「勿論、水瓶人間ですよ。その遠くの通路でその彼女は大きな水瓶を逆さまに被った水瓶人間を目撃したとの事です。その水瓶人間が俺達との交戦後何処かに消えた事から、俺達よりも早くその他の生存者達がいる在庫保管用の倉庫内にたどり着いたと言っていました」
「水瓶人間の新たな目撃者か……まあ、後のことはその梅塚幸子なる人物やその十名の生存者達からの証言や、その溺死したという人の死体を直接見てみないと分からないから、取りあえずはその死体があるとされる在庫保管用の倉庫に案内してもらいましょうか。それとその殺人鬼が持つ大木槌で直接頭を割られたと言うその三人の遺体も同時に見せて貰いますね」
「分かりました。では俺達についてきて下さい。保管用の倉庫はこの二階フロアーの奥にあります」
そう言うと警備員の二人は、勘太郎・羊野・緑川・関根孝の四人を引き連れながら速やかに死体がある現場へと案内するのだった。
十三時ジャストに狂人ゲームが始まってからその1時間後。太い鉄の錠前で鉄の金網式のシャッターを封じていた太い鉄で出来た錠前の鍵のロックが独りでに外れる。恐らくはタイマー式の錠前だったのだろう。そう判断した勘太郎と羊野は鉄の金網式のシャッターを開けるとエスカレーターに乗りながらデパートの一階入り口の表玄関を目指す。
時刻は十四時丁度。
今回は犯人の正体が分からないままタイムリミットの8時間が過ぎてもなんのペナルティーもないので、約1時間・地下一階フロアーに閉じ込められていた勘太郎にとっては内心時間が無駄に過ぎてくれてかなりありがたかったが、上の各階で怯えてる人達がいると思うとどうやらそうも言ってはいられないようだ。
勘太郎は一階フロアーへと上昇して動くエスカレーターに乗りながら下にいる黄木田店長に叫ぶ。
「俺達はこのまま少し上の様子を見て来ますので、黄木田店長は今ここにいる一般のお客さん達と協力して侵入者が来ないようにバリケードを作ったり、何か武器になるような物を探して置いて下さい。後食料や水、そして医療品なんかが入っている救急箱も確保して下さい。使う時があるかも知れませんので」
「分かりました、こちらは任せて下さい!」
白い口髭をなでながら黄木田店長がそう告げると、その黄木田店長の横を二人の人物が通り過ぎる。
「わ、私も、黒鉄先輩について行きますね。まだ上に生存者がいたら速やかにここに連れてこないといけませんから」
「なら俺も行かせて貰うぜ。屋上にいる西条社長や他の従業員達が心配だからな」
そう言うと緑川と関根孝は周りを警戒しながら勘太郎と羊野の後に続く。
人の気配が全くない静まり返った一階では、フロアー一帯を照らす明かりだけが少し前までいた人の痕跡を照らし出す。
そんな正面玄関の入り口に勘太郎と羊野が到着すると、直ぐに閉ざされているシャッターやその前に存在する鉄の金網を丹念に調べる。
「想像はしていたが、やっぱり駄目か」
「どうやらそうみたいですね」
二人が想像していたように表玄関のシャッターは外には出られないように完全に閉められ、大きなガラスドアの鍵も当然施錠がされているようだった。
「くそ~当然ながら鍵が掛かっていて外へは出れないか。裏玄関や非常口の方はどうかな」
勘太郎のその質問に、裏玄関と非常口を確認しに行っていた緑川と関根孝が答える。
「裏玄関や非常口のドアを確認して来たんですが、どうやらいずれも入り口に近い通路前のシャッターが閉まっていて開けることが出来ないようです」
「ついでにエレベーターを使って七階の最上階まで上がれないか調べたんだが、どうやらエレベーターの電源が切られていて今現在エレベーターの使用が出来ない様だ」
「そうですか、今表玄関を調べてみましたが、どうやら鍵がないとこのガラスドアやシャッターは開けられない様ですね。なので軽く他に生存者がいないか一階のフロアーを全て確認後、直ぐに二階に上がろうと思っています。そんな訳でいつ殺人鬼が出て来ても直ぐに対応できる様に各々気をつけて下さい」
その勘太郎の言葉を皮切りに、今すべき事を理解した羊野・緑川・関根孝の三人は各々の姿と声が届くくらいの絶妙な距離を取りながら一階フロアーを丹念に見て回る。
一階フロアーは生活用品や食料品を売るフロアーになっており、人の気配や姿が全くない中に八台ほどあるレジ打ち機の機械が綺麗に並ぶ。
勘太郎は、人々を無差別に襲うという悪魔の水瓶とか言う狂人が何処かに隠れて待ち構えてはいないかと内心ドキドキしていたが、一階フロアーに人がいないことが分かると勘太郎は思わず安堵の溜息をつく。
「はあ~、どうやら一階にはだれもいない様だな。恐らくは火災が発生したと聞いたこのデパートの従業員達がお客さん達を急ぎ避難させたんだろう。だからこの一階に人はだれもいないんだな。まあ考え方によっては、この一階フロアーで不幸にもこの狂人ゲームに巻き込まれた人がいなくて本当に良かったと言った所か」
そう結論づけた勘太郎の前に周りを見てきた羊野がこれからの行動を確認する。
「では次は二階に上がりますか。どうやら二階には誰かがいるようですから気をつけて下さい。さっきから人の気配が見え隠れしていますから」
そう言うと羊野は被ってあるその不気味な白い羊のマスクをエスカレーターに向けると、階段が上へと上昇する動きに合わせながら二階へと視線を向ける。
「人の気配がするだとう。もしかしたら逃げ遅れた一般のお客さんか、犯人かも知れないな。なら気を引き締めて二階へと上がるぞ」
そう言うと勘太郎は、二階にいると言う生存者に会うべくエスカレーターの階段に足を掛ける。その足取りは期待と不安が入り乱れていたが、それでも進むしか選択肢が無い勘太郎は勇気という言葉を胸にこれから起こり得る未知なる恐怖へと立ち向かう。
二階に着くと勘太郎と羊野の目に飛び込んできたのはフロアー一帯を埋め尽くすかのようにある紳士服売り場と婦人服売り場だった。
わかりやすいように各会社のメーカーに分かれたブランド品の洋服や衣服類が棚の上に綺麗に陳列し。店の前に置かれたマネキン人形は今年流行りの洋服を綺麗に着こなす。
そんな衣類品売り場が大半を占めるフロアー全体を見渡しながら、勘太郎と羊野は誰か生存者はいないかと人の気配を探る。
「この辺りにはだれもいない様だな。もっと隅々まで探してみるか」
「トイレの中や従業員達が使う在庫置き場とかも調べて見ますか」
「そうだな。だが狂人・悪魔の水瓶とか言うふざけた殺人鬼には十分に気をつけるんだぞ。きっと何処かに隠れて俺達が来るのを待っているはずだ」
「そうですわね。その時はその重そうな水瓶の頭ごと粉々に打ち砕いてくれますわ」
そう言うと羊野は両手に持った大きな包丁をブンブンと振り回しながら、その好奇心と戦う意気込みを大袈裟にアピールする。
「うわぁぁ、お、お前、やめろよな。もしその包丁が俺に当たったらどうするんだよ。全く、今のお前のその姿形と言動を見ているとどっちが殺人鬼か分かったもんじゃないな」
「ほほほほっ、どうやら向こうは、本来殺すべきターゲットや全く関係の無いお客さんもほぼ無差別に容赦なく狩るみたいですが、逆に私がその悪魔の水瓶の首を狩って見せますわ。彼女の噂は時々聞いてはいましたが、直接会うのは今回が初めてなので今から彼女に会うのが楽しみです」
そう楽しげに言いながら羊野は持っている両手の2本の包丁の刃を仕切りにぶつけながら、カキン! カチャン! ガキン! とその金属音を周りに響かせる。
そんな不謹慎な会話を勘太郎が聞いていると、エスカレーターで二階に上がってきた緑川と関根孝が、勘太郎と羊野に追い付く。
「ちょっと黒鉄先輩、二階に上がるなら一言言ってから上がって下さいよ。つい一階フロアーを探しちゃったじゃないですか」
「そうですよ、探偵さん。俺達を追いて先に行かないで下さい!」
「すいません、もう一階のフロアーは危険が無いと思ったから、つい二階に足を運んでしまったんですよ。何せうちの相棒が二階に人の気配がするとか言い出しましたからね」
「なに、人の気配だと。それは本当ですか?」
そう言葉を急ぐ関根孝に羊野は「ええ、多分いると思いますよ」と辺りを警戒しながら言葉で返す。
「なら、他に人がいないか、辺りを探しましょう。俺は衣類の在庫が保管してある倉庫内を見てきます」
そう言うと関根孝は、他にも人がいるかも知れないと言う羊野の言葉に希望を見出したのか自ら進んで裏の倉庫へと向かうが、その倉庫の扉から警棒を手に持った二人の男が勢いよく現れる。
「お前ら、全員動くな!」
恐怖に顔をこわばらせながらそう叫んだ二人の男は、手に持った警棒を目の前にいる関根孝に向けながら少し遠くにいる勘太郎・羊野・緑川にその視線を向ける。
その二人の男の服装から察するにどうやら二人はこのデパートで仕事として見回りをしている警備員の様だった。
一人は背が高く中肉中背の男性で、もう一人の男性の方はがたいの大きな柔道家のような姿を連想させた。
その中の背の高い男の方が勘太郎の方を見ながらおびえにも似た声で話し掛ける。
「お、お前らは一体なんだ。あの可笑しな格好をした水瓶人間の仲間じゃないのか?」
「可笑しな格好をした水瓶人間だって。そいつはまさかこの二階フロアーに現れたんですか!」
「ああ、現れたよ。大木槌を持った可笑しな格好をした殺人鬼がな。その頭には大きな水瓶を逆さまに被っていたから顔は見えなかったが、長いロングスカートを履いてたし、その体のラインから恐らくは女性だと俺は思う。黒服のそこのお前。丁度お前の横にいるその可笑しな格好をした羊人間と同じようにな」
その背の高い警備員の指摘に、勘太郎は何故この警備員がこんなにも俺達を警戒しているのか直ぐに理解する。
あ、そうだった。こっちには羊野がいたんだったな。普通に羊のマスクを被っているからいつも一緒にいる俺や緑川は気にもしてはいなかったが、普通に考えて水瓶人間に襲われた後に羊のマスクを被った可笑しな人間を見かけたら、それは警戒しない方が可笑しいよな。恐らくは俺達をその水瓶人間の仲間か何かと勘違いしているんだろう。
そう思った勘太郎はその誤解を解く為に二人の警備員に近づく。
「違いますよ。俺達は貴方方を襲ったその水瓶人間の仲間なんかじゃありません。逆にその水瓶人間を捕まえようとしている者です」
「嘘をつくな。ならその羊人間が両手に持っているその二本の包丁は一体なんだ。俺達を油断させてその包丁で突き刺すつもりだろ。そんな見え透いた嘘に引っかかるかよ、このいかれた殺人鬼共が!」
そう叫んだ背の高い警備員になにか文句が言いたかったのか羊野は手に持った大きな包丁を手の中でクルクルと回しながらその二人の警備員に近づこうとするが、その行為を緑川が止める。
緑川はその二人の警備員に優しく微笑むと、臆すること無く話しかける。
「その言い方だと他にも生存者がいて、その中から犠牲者が出たと言う事ですか。もしかして怪我人がいるのですか。もし怪我人がいるのなら私にその人の傷の具合を見せて下さい。私、一階にある医薬品フロアーから救急箱を持って来ましたから何かお役に立てるはずです。それにここにいる白黒の服装をした可笑しな人達はとても優秀な探偵です。今回たまたまこの異常な事件に巻き込まれましたが、きっとあなた方のお役に立てると思いますよ」
「こいつらが探偵だと言う証拠が一体何処にあるんだよ!」
「ならスマホはお持ちですか。スマホからネットワークに接続して黒鉄探偵事務所を検索して見て下さい。ホームページに白い羊と黒鉄の探偵のプロフィールが載ってあると思いますよ」
緑川に促され、二人の警備員は各々が持っているスマホでネットワークを繋げると、そこには勘太郎や羊野の写真が掲載され。仕事に対する勘太郎の意気込みやその経営方針は勿論の事、羊野が何故羊のマスクを被って行動しているのかと言った情報がしっかりと書かれていた。
「うちの探偵事務所のホームページを作ってくれると言うから全てを緑川に任せたが、まさか俺達の写真を使って各々のプロフィールを作っていたのか。今のご時世ホームページを作って依頼人を呼び込むのは常識だからな。確かにこれなら十分に身元を明かす証拠にもなるな」
「でも私達の私生活や個人情報もダダ漏れですよ。それに黒鉄さんがこの前秋葉原に行ってわざわざ買って来たあの魔法少女物のフィギュアの情報もしっかりと記載されていますよ」
その話を聞いた勘太郎は、目を見開きながら羊野が検索してくれた黒鉄探偵事務所のホームページをマジマジと見る。
「あ、あいつ、何変な事を書いてくれちゃってんだ。おい、緑川、これは一体どう言う事だ。まるで日記のように俺達の日々の日常の事を事細かく書いて毎日配信しているじゃないか!」
「はい、その方がお客さんとなる依頼人に私達のことをもっと良く知って貰う事が出来ますからね」
「出来ますからねってお前、毎日配信して俺達の日常報告って……そんな記載一体誰が見るんだよ。て言うか俺達にプライバシーは無いのかよ!」
「え、プライバシーってなんでしたっけぇ!」
こ、こいつ……!
「緑川、お前、後で説教だからな」
そう思いを言葉にした勘太郎は、スマホ携帯を見る警備員の反応を見ながら言葉を切り出す。
「そんな訳でして、俺達は決して怪しい者ではありません。どうか安心して下さい。俺達が来る前に一体ここで何があったのか、その事を話してはくれませんでしょうか」
「確かに……そこにいる眼鏡を掛けたお下げ髪の女の言うようにどうやら怪しい者ではない様だな」
「少なくとも、あのいかれた水瓶人間の仲間ではないと言う事か」
そう言うと二人の警備員はまるで張り詰めていた緊張の糸を解くかのように手に持っていた警棒をゆっくりと下げる。
「分かりました、あなた方を信じましょう。そしてこの二階フロアーで一体何があったのかを今からお話します」
二人の警備員が勘太郎と羊野の前まで来ると、まるで訴え掛けるかのようにこのフロアーで起きたある恐ろしい話をする。
「今から1時間と三十分前。火災を示す警報器が鳴り、デパート内にいるお客さん達を外へと避難させていた俺達二人は、警備員の仕事を全うする為(他に店内にお客さんがいないかと)各階を見回りながら辺りを点検していたんだが、特にこれと言った火元や煙は確認できず誤報では無いかと疑っていたんだ。そんな時にあの意味不明な放送を聞いた俺達は、よく意味が分からないまま取りあえずは外に出て警備会社の上司の指示を仰ごうと思って入り口に向かったんだが、辺りを見てみたら既に表玄関や裏玄関、そして非常口に繋がる各通路のシャッターは全て降ろされていて開けることが出来なかった。なら今度は二階に上がろうと上を目指したんだが、今度はいつの間にかエスカレーター前から二階に行く金網式のシャッターが下まで降りていてどうしても開けることが出来なかった」
「意味不明な放送って……壊れた天秤の狂人ゲームを告げる合図のことか。その時間は十三時丁度、確かに時間は合うな。それで、その金網式のシャッターにはタイマー式の鍵が掛かっていたんですね」
「ああ、どうやらそのようだな。だから俺達二人は一階フロアーから何処にも動けず閉じ込められる羽目になったんだ。その三十分後。誰かが掛けた自動ロックの鍵が開き、どうにか二階フロアーに入る事が出来た俺達はそこで信じられない者と遭遇する。そこで見た者は頭から大きな水瓶を逆さまに被った異形の格好をした……まさに水瓶人間だった」
「水瓶人間……狂人・悪魔の水瓶か」
「その水瓶人間は俺達を見るなり行き成り変な鳩の様な奇声を上げながら俺達に襲いかかって来たんだ」
「それで、その水瓶人間と戦ったんですか?」
その勘太郎の質問に二人の警備員は呆れた声を出す。
「はあぁぁぁ、戦うだって、何を言っているんだあんたは、あんなのと戦える訳ないじゃないか。なにせ相手は手に持った大木槌を振り上げながら猛スピードで俺達に襲いかかってきたんだぞ。こっちは二人いるとはいえ、あんないかれた奴とまともに戦ったら命が幾つあっても足りはしないよ。勿論その姿を見るなりかなりやばいと思って迷わず直ぐに逃げたよ。流石にあれは怖すぎるからな」
「まあ、当然の選択ですわね。もしあの悪魔の水瓶と戦ってたらあなた方は間違いなく死んでいたでしょうからね」
その羊野の言葉に二人の警備員は無言で素直に頭を下げる。
「だ、だけど一階に逃げたらどう言う訳かその水瓶人間はそこまでは追ってはこず、そのまま何処かへとその姿をくらました様だった。恐らくは三階フロアーに登ったんだと俺達は思っている。各階のシャッターに鍵を掛けたのは恐らくはあの水瓶人間自身だろうからな」
「なるほど、それで、それからあなた方は一体どうしたのですか」
「数分時間が過ぎて、二階にはもう既に水瓶人間はいないと思ってはいたんだが、あまりにも怖くて中々二階には上がれず確認できないでいたんだ。そんな時に、行き成り二階の方で女性の叫び声がしたんだ!」
「女性の声ですか?」
「ああ、そうだ。女性の声だ。その叫び声を聞いた俺達は仕方が無いと覚悟を決めて急いで二階に掛け登り、声のした在庫保管用の倉庫内に向かったんだが、そこで見た光景はとても頭では理解しがたい恐ろしい物だった」
「その倉庫で一体何を見たんですか?」
「なんとその倉庫内の床には一人の男が仰向けに倒れていて、口と目を大きく開けながら苦悶の表情で死んでいたからだ。その在庫保管用の倉庫内にいた他の生存者達の話では、その人物は行き成り現れた水瓶人間に捕まってしまい。口には猿ぐつわ、両手は後ろ手に縛られた状態で他の生存者達の前まで連れて来られたみたいなんだが、その時にその捕まった男は信じられない死に方としたらしいんだ」
「その死に方とは、もしかして……」
「ああ、その男は他の生存者達の見ている前で、猿ぐつわを噛まされている口からあり得ないほどの水を大量に吐いて苦しみもだえたあげくに気道に水を詰まらせて溺死しているとの事だ。しかもその男の吐いた水を見てみると、その水はまるでドブ川からでも汲んで来たかのようにどす黒く濁り、そしてその臭いも反射的に顔を背けたくなる程の悪臭を放っていた。恐らくは何かの汚染水を何らかの方法で口の中に無理矢理に流し込まれたと言う事だ」
「口からあり得ないほどの大量の水を吐いて溺死ですか。なんとも信じられない話ですね」
「ああ、話していて俺達もそう思うが、その生き残った目撃者の人達がそう言っているのだからその言葉をそのまま信じるしかないだろうな」
「因みにその光景を見たと言う目撃者は一体何人くらいいるのですか?」
「確か……十人ほどかな」
「十人も目撃者がいるのか。それじゃ見間違えようがないな。一体その水瓶人間は何処にそんな大量の水を隠し持ち、更には被害者の口の中に人知れず入れてるんだ。そのトリックが全くわからん!」
「あの水瓶人間に殺された被害者はその溺死させられた男の他に後三人います。その三人はいずれも頭や体をその大木槌で叩かれて撲殺されています」
「四人の内、後の三人はみんな撲殺か。なんとも恐ろしい殺され方だな」
「ええ、そんな水瓶人間を遭遇した俺達ですが、その他にも一人目撃者がいます」
「他にも目撃者ですか。一体誰ですかそれは?」
「俺達よりも少し前に来た、梅塚幸子と言う人物です。彼女が言うには、女子トイレで用を足していたら行き成り火災のベルが鳴り、急いで外に出ようと思ったら何故かトイレのドアが開かなかったと証言をしています。その後、仕方なくトイレのドアを蹴破った梅塚幸子は誰もいなくなったフロアーを確認していると、フロアーの遠くの通路の方で蠢くある者を目撃してしまったそうです」
「そのある者とは一体なんですか?」
その勘太郎の言葉にそののっぽの警備員は当然のように応える。
「勿論、水瓶人間ですよ。その遠くの通路でその彼女は大きな水瓶を逆さまに被った水瓶人間を目撃したとの事です。その水瓶人間が俺達との交戦後何処かに消えた事から、俺達よりも早くその他の生存者達がいる在庫保管用の倉庫内にたどり着いたと言っていました」
「水瓶人間の新たな目撃者か……まあ、後のことはその梅塚幸子なる人物やその十名の生存者達からの証言や、その溺死したという人の死体を直接見てみないと分からないから、取りあえずはその死体があるとされる在庫保管用の倉庫に案内してもらいましょうか。それとその殺人鬼が持つ大木槌で直接頭を割られたと言うその三人の遺体も同時に見せて貰いますね」
「分かりました。では俺達についてきて下さい。保管用の倉庫はこの二階フロアーの奥にあります」
そう言うと警備員の二人は、勘太郎・羊野・緑川・関根孝の四人を引き連れながら速やかに死体がある現場へと案内するのだった。
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