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第五章 『喰人魔獣』 東京内で襲う正体不明の魔獣が人々を恐怖のどん底に突き落とす。黒いライオンを操る狂人・暴食の獅子との推理対決です!
5-8.黒鉄の探偵としての重大な苦悩
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8
「お、勢いよく馬肉を食べているな。それにあれは鶏の頭か。食用の鶏の部分で頭は恐らくは利用価値がないからライオンの餌として安く提供できるのかも知れないな」
時刻は十時丁度。代々木公園を後にした勘太郎はそのまま黒鉄探偵事務所には戻らず、上野駅の近くにある上野動物園の中で時間を潰していた。
いろんな動物の臭いが辺りに漂い、その存在を確認し合うかのように様々な動物の鳴き声が飛び交う中で何気にライオンコーナーを訪れた勘太郎は餌やりの現場にたまたま居合わせた事でライオンが餌を食べる迫力のある姿を直に見る事が出来た。その豪快かつ見応えのある食べっぷりをガラス越しに見ながら勘太郎は頻りに考える。
俺なんかが不本意ながらも日本国中の国民の命を預かって本当にいい物なのだろうか。そもそも俺が黒鉄の探偵の名を継いで探偵稼業なんかをしているからこそ、そこにあの円卓の星座の狂人・壊れた天秤が俺に狂人ゲームを仕掛けて来ているんだ。だったら俺が正式に探偵稼業を辞めたらあの壊れた天秤の矛先は俺にでは無く日本の警察に戻るんじゃないのか。そうなってくれたら勿論俺の役目は本格的に終わりになるのだろうが……もしかしたらその方がいいのかも知れない。あの世界的な悪の秘密組織、円卓の星座の謎に迫ること事態、元々俺には手に余る無理な案件だったんだ。
使命の半ばで死んだ親父には悪いが、俺にはもう無理なのかも知れない。たとえ俺が抜けたとしてももっと才能のある警察の刑事や名探偵の誰かが俺の代わりをしてくれるだろう。そうなればあの羊野瞑子も継続してその新たなパートナーとコンビを組んでくれるはずだ。
そんな事を思っていると勘太郎の隣で頻りにシャッターを切る音が聞こえる。ついさっきまでは気落ちし考え事をしていたせいか気にもとめなかったが、気付いてしまったせいかその音が嫌でも耳に入る。
パシャ・パシャ・パシャ!
その続けてシャッターを切る音に溜まらず勘太郎はその音が鳴る隣を振り返る。そこには一眼レフのカメラを構える一人の男が立っていた。
そのがたいの大きな男は一眼レフのカメラのレンズを餌を捕食しているライオンに向けながら必死にシャッターを切る。その感じからしてどうやら隣にいる勘太郎の事は最初から眼中には無い用だ。
ライオンの餌を食べる捕食のシーンがそんなに好きなのかと思いながらも勘太郎は邪魔にならないようにその場から立ち去ろうとしたその時、行き成りその男が勘太郎に向けて話しかける。
「なんだい兄ちゃん。何だか辛気臭そうな顔をして。何かムシャクシャするような嫌なことでもあったのかな」
行き成り見ず知らずの人間にそんな事を言われたので、勘太郎は思わず警戒心を抱きながらも徐にその男の姿をマジマジと見る。
その男はボサボサの髪型にサスペンダー付きの繋のジーパンを履いた如何にも何かのオタクを感じさせるそんな風貌をした人物のようだ。見た感じでは歳は四十代くらいと推定される。
そのオタク風の男は背中に背負っている重そうなリュックの中から食料品のカロリーバーを取り出すと、それを徐に勘太郎に向けて差し出す。
「にーちゃんよ、何があったのかは知らないがそんな湿気た顔をしていると目の前にある幸運すらも気付かずに取り逃がしてしまう事になるぜ。ほらこのカロリーバーをやるからこれで腹ごしらえでもしろよ。きっとお腹が空いているから悪いことしか考えないようになるんだよ。大抵のことはお腹が膨れたら何か別の考えや解決策が見つかる物さ」
いや、俺の悩みはそんな単純な物では無いんだけどと反論をしたかったが、せっかくこのがたいのいい男が見ず知らずの俺を元気づけようと気を遣って手持ちのカロリーバーをくれると言うのにここで余計なことを言う物ではないだろう。そう思った勘太郎は申し訳なさそうに頭を下げながらその男が持つカロリーバーを素直に受け取る。
「申し訳ないです。何だか見ず知らずの人に気を遣わせてしまって」
「ハハハハ、構わん、構わんさ。せっかくライオンがその迫力のある食べっぷりを俺達の目の前で披露してくれているというのに何だか上の空だったから大丈夫なのかと思ってな。余計なお世話かとも思ったがつい声を掛けてしまったのだよ」
「いえいえ、心配をしてくれてありがとう御座います。でも本当に大丈夫ですから、俺の悩みなんて大したことはありませんから」
「そうかい、ならいいんだが……」
「そう言えば頻りに一眼レフのカメラのシャッターを押してたみたいですが、動物の写真を撮りにわざわざ上野動物園まで来たのですか」
「ああ、そうだよ。俺は動物の写真を撮るのが好きだからな。特に野生の肉食動物が草食動物を捕食して食べるシーンを見るのが最も好きなんだ。食物連鎖に繋がる生物達の命がけの自然の仕組みをこの目で見るのが好きで好きで堪らないんだよ。だから野生の動物達が見たくてよく暇を見つけては海外のアフリカとかに行って現地のガイドの説明を聞きながらその残酷かつ生き生きとした現実の姿をこのカメラに納めてきたんだが、今は気晴らしに上野動物園に来て野生ではない動物園の中にいるライオンが一体どのような食生活をしているのかを事細かく写真に納めていると言った所かな。まあたまには塀の中に囲まれたライオンが一体どの様に餌を食べ、そしてどのような捕食をしているのかを見るのもまた一興かと思ってな。流石に野生の肉食動物のような活発かつ迫力のある豪快な姿は見れないけど、これはこれである意味シュールでいいのかも知れないな。非常に興味深いぜ!」
男は興奮気味に言いながらその歓喜に震える思いを勘太郎に伝える。
その様子からしてどうやらこの男は肉食動物が草食動物の体を食べるシーンを見るのがとても好きな人物のようだ。その証拠にライオンがその肉へと食らい付くその様を見るこの男の目は絶えず血走っていた。
勘太郎はそんな事を思いながらも取りあえずは動物の話題の話を振るう。
「あなたは動物が好きなんですね」
「ああ、主に肉食動物が……だがな。その中でも百獣の王と言われているライオンが最も好きなんだよ。猫科最大かつ最強の肉食動物でありながらも家族をファミリーを持ち、しかもその獲物となる動物を集団で襲いその肉をみんなで貪り喰らうだなんて、正に凄い地獄絵図だとは思わないかい。俺はそこに大いなる感銘と言い知れぬ興奮を覚えるんだよ!」
「はあ、よくは分かりませんが、肉食動物の捕食シーンを見るのが好きな人も中にはいますからね。あの迫力のある場面を見るのが好きな奴が、俺の仕事仲間の中にも一人いますからね」
「ほ~う、それは気が合いそうだな」
「まあ、相手は女性ですがね」
「ハハハハ、それは中々面白そうな女性のようだな。じゃ俺はそろそろこの場を離れて他の動物の写真を取りに行くよ。つい声を掛けてしまって悪かったな」
「いえ、心配してくれてありがとう御座いました。もう大丈夫ですから」
「おう、その様子ならもう大丈夫のようだな。何をそんなに落ち込んでいたのかは知らんが、まあ、無理をせずに頑張れや!」
そう言うとその大柄なサスペンダー付きのジーパンを履いている男は、スタスタと靴底の音を鳴らしながらライオンコーナーを後にする。その後ろ姿を見ながらこのライオンという生き物の事を改めて考える。
つい先ほどたまたま通りがかったライオンの飼育員の話によれば、ライオンを外で放し飼いにして自由自在に操ることは実質上不可能と言う事だ。確かに海外では個人の家でライオンを飼っている変わり者の金持ちもいるみたいだが、この日本では先ずあり得ないことと言う事らしい。それに動物のサーカスではライオンを自由自在に操り観客にその芸を見せているという意見もあるが、それはあの天幕の特別な環境化の中で観客が守られているからこそ猛獣使いは安心してそのライオンに教え込んだ芸の数々を披露することが出来るのであって、その逆を言ってしまえば裏では長年にも渡る厳しい訓練が嫌でも必要だと言う事だ。だがそれでもあの大型危険肉食動物でもあるネコ科のライオンを野外に出してその通りがかりの人を自分の都合のいいように襲わせることは先ずかなり難しいだろう。まず第一にそのライオンを一体どの様に運搬して様々な場所に運んでいるのか、その移動方法がハッキリ言って謎だ。そんな大きく頑丈な檻をトラックの荷台の中に入れて持ち運んでいたなら絶対に誰かが気付いていると思うからだ。だが、そんな猛獣が入っていると思われる大型の荷台を持つトラックの車はその時間は代々木公園の前は通らなかった。その目の前にある主な主要道路には大型のトラックは絶えず動いてはいたが、それを一つ一つそのトラックの持ち主を調べ上げて身元を特定する時間は流石に無いだろう。
本来なら警察犬と警察の人員を総動員してあの黒いライオンの行方を追うのが本来の警察のやり方なのだが、狂人ゲームにおけるルール違反になるだけに人員はむやみには増やせないのだ。そして狂人ゲームのタイムリミットは後四日しかない。赤城文子刑事の話では下田刑事は元々は捜査一課・殺人班の刑事達の仲間なのであの三匹の警察犬達もギリギリに捜査一課側の仲間と認めて貰ったとの事だ。だが、だからこそその他の警察犬達の全てがその後の狂人ゲームには参加が認められていないらしい。つまり新しい警察犬達をこの狂人ゲームに新たに投入する事はもうできないので、警察犬の嗅覚を使った犯人の追跡はまず出来ないと言う事なのだ。そしてその黒いライオンの物だと思われる糞や体毛と同じようにその足形も十分にその黒いライオンが本物のライオンだという確実な証拠になり得るようだ。何故ならこればっかりは誤魔化し用がないからだ。
そんな数々の不利な状況に言い知れぬ不安と焦りを感じながら、勘太郎は心の中で思う。
ああ、どうしよう。む、無理……絶対に無理だ。あと四日でこの事件を解決出来なかったら……その時は俺のせいで、今度こそ確実に罪のない人達が大量に死ぬことになる。恐らく俺はその罪の重さに耐える事は出来ないだろう。あの西園寺刑事の言葉じゃないが、本当に誰かと変わって貰いたいぜ。この重大な人の命に関わる責任の重みから直ぐにでも解放されたい。こんな気持ちはあの西園寺刑事に直接言われるまでは思いもしなかった事だ。それだけ俺はこの狂人ゲームに負けたら人の命がどうなるかに関してはそれ程気にもしてはいなかったと言う事だ。何故ならあの羊野瞑子ならこの状況を何とかしてくれると心の何処かで気軽に考えていたからだ。だがそれは完全なる俺の甘えだった。もしも失敗したときの事などは考えもしてはいなかった。
勘太郎は大きく溜息を付くと重い気持ちを引きずりながらその場を後にする。
「はあ~、見ず知らずの人に心配されるくらいだからな……今の俺の精神状態ではとてもじゃないがこのまま捜査を継続するのは難しいかもな。明日、赤城先輩に相談してみよう」
そんな事を呟きながら勘太郎はその責任重大な使命の重さに悩み苦しむのだった。
「お、勢いよく馬肉を食べているな。それにあれは鶏の頭か。食用の鶏の部分で頭は恐らくは利用価値がないからライオンの餌として安く提供できるのかも知れないな」
時刻は十時丁度。代々木公園を後にした勘太郎はそのまま黒鉄探偵事務所には戻らず、上野駅の近くにある上野動物園の中で時間を潰していた。
いろんな動物の臭いが辺りに漂い、その存在を確認し合うかのように様々な動物の鳴き声が飛び交う中で何気にライオンコーナーを訪れた勘太郎は餌やりの現場にたまたま居合わせた事でライオンが餌を食べる迫力のある姿を直に見る事が出来た。その豪快かつ見応えのある食べっぷりをガラス越しに見ながら勘太郎は頻りに考える。
俺なんかが不本意ながらも日本国中の国民の命を預かって本当にいい物なのだろうか。そもそも俺が黒鉄の探偵の名を継いで探偵稼業なんかをしているからこそ、そこにあの円卓の星座の狂人・壊れた天秤が俺に狂人ゲームを仕掛けて来ているんだ。だったら俺が正式に探偵稼業を辞めたらあの壊れた天秤の矛先は俺にでは無く日本の警察に戻るんじゃないのか。そうなってくれたら勿論俺の役目は本格的に終わりになるのだろうが……もしかしたらその方がいいのかも知れない。あの世界的な悪の秘密組織、円卓の星座の謎に迫ること事態、元々俺には手に余る無理な案件だったんだ。
使命の半ばで死んだ親父には悪いが、俺にはもう無理なのかも知れない。たとえ俺が抜けたとしてももっと才能のある警察の刑事や名探偵の誰かが俺の代わりをしてくれるだろう。そうなればあの羊野瞑子も継続してその新たなパートナーとコンビを組んでくれるはずだ。
そんな事を思っていると勘太郎の隣で頻りにシャッターを切る音が聞こえる。ついさっきまでは気落ちし考え事をしていたせいか気にもとめなかったが、気付いてしまったせいかその音が嫌でも耳に入る。
パシャ・パシャ・パシャ!
その続けてシャッターを切る音に溜まらず勘太郎はその音が鳴る隣を振り返る。そこには一眼レフのカメラを構える一人の男が立っていた。
そのがたいの大きな男は一眼レフのカメラのレンズを餌を捕食しているライオンに向けながら必死にシャッターを切る。その感じからしてどうやら隣にいる勘太郎の事は最初から眼中には無い用だ。
ライオンの餌を食べる捕食のシーンがそんなに好きなのかと思いながらも勘太郎は邪魔にならないようにその場から立ち去ろうとしたその時、行き成りその男が勘太郎に向けて話しかける。
「なんだい兄ちゃん。何だか辛気臭そうな顔をして。何かムシャクシャするような嫌なことでもあったのかな」
行き成り見ず知らずの人間にそんな事を言われたので、勘太郎は思わず警戒心を抱きながらも徐にその男の姿をマジマジと見る。
その男はボサボサの髪型にサスペンダー付きの繋のジーパンを履いた如何にも何かのオタクを感じさせるそんな風貌をした人物のようだ。見た感じでは歳は四十代くらいと推定される。
そのオタク風の男は背中に背負っている重そうなリュックの中から食料品のカロリーバーを取り出すと、それを徐に勘太郎に向けて差し出す。
「にーちゃんよ、何があったのかは知らないがそんな湿気た顔をしていると目の前にある幸運すらも気付かずに取り逃がしてしまう事になるぜ。ほらこのカロリーバーをやるからこれで腹ごしらえでもしろよ。きっとお腹が空いているから悪いことしか考えないようになるんだよ。大抵のことはお腹が膨れたら何か別の考えや解決策が見つかる物さ」
いや、俺の悩みはそんな単純な物では無いんだけどと反論をしたかったが、せっかくこのがたいのいい男が見ず知らずの俺を元気づけようと気を遣って手持ちのカロリーバーをくれると言うのにここで余計なことを言う物ではないだろう。そう思った勘太郎は申し訳なさそうに頭を下げながらその男が持つカロリーバーを素直に受け取る。
「申し訳ないです。何だか見ず知らずの人に気を遣わせてしまって」
「ハハハハ、構わん、構わんさ。せっかくライオンがその迫力のある食べっぷりを俺達の目の前で披露してくれているというのに何だか上の空だったから大丈夫なのかと思ってな。余計なお世話かとも思ったがつい声を掛けてしまったのだよ」
「いえいえ、心配をしてくれてありがとう御座います。でも本当に大丈夫ですから、俺の悩みなんて大したことはありませんから」
「そうかい、ならいいんだが……」
「そう言えば頻りに一眼レフのカメラのシャッターを押してたみたいですが、動物の写真を撮りにわざわざ上野動物園まで来たのですか」
「ああ、そうだよ。俺は動物の写真を撮るのが好きだからな。特に野生の肉食動物が草食動物を捕食して食べるシーンを見るのが最も好きなんだ。食物連鎖に繋がる生物達の命がけの自然の仕組みをこの目で見るのが好きで好きで堪らないんだよ。だから野生の動物達が見たくてよく暇を見つけては海外のアフリカとかに行って現地のガイドの説明を聞きながらその残酷かつ生き生きとした現実の姿をこのカメラに納めてきたんだが、今は気晴らしに上野動物園に来て野生ではない動物園の中にいるライオンが一体どのような食生活をしているのかを事細かく写真に納めていると言った所かな。まあたまには塀の中に囲まれたライオンが一体どの様に餌を食べ、そしてどのような捕食をしているのかを見るのもまた一興かと思ってな。流石に野生の肉食動物のような活発かつ迫力のある豪快な姿は見れないけど、これはこれである意味シュールでいいのかも知れないな。非常に興味深いぜ!」
男は興奮気味に言いながらその歓喜に震える思いを勘太郎に伝える。
その様子からしてどうやらこの男は肉食動物が草食動物の体を食べるシーンを見るのがとても好きな人物のようだ。その証拠にライオンがその肉へと食らい付くその様を見るこの男の目は絶えず血走っていた。
勘太郎はそんな事を思いながらも取りあえずは動物の話題の話を振るう。
「あなたは動物が好きなんですね」
「ああ、主に肉食動物が……だがな。その中でも百獣の王と言われているライオンが最も好きなんだよ。猫科最大かつ最強の肉食動物でありながらも家族をファミリーを持ち、しかもその獲物となる動物を集団で襲いその肉をみんなで貪り喰らうだなんて、正に凄い地獄絵図だとは思わないかい。俺はそこに大いなる感銘と言い知れぬ興奮を覚えるんだよ!」
「はあ、よくは分かりませんが、肉食動物の捕食シーンを見るのが好きな人も中にはいますからね。あの迫力のある場面を見るのが好きな奴が、俺の仕事仲間の中にも一人いますからね」
「ほ~う、それは気が合いそうだな」
「まあ、相手は女性ですがね」
「ハハハハ、それは中々面白そうな女性のようだな。じゃ俺はそろそろこの場を離れて他の動物の写真を取りに行くよ。つい声を掛けてしまって悪かったな」
「いえ、心配してくれてありがとう御座いました。もう大丈夫ですから」
「おう、その様子ならもう大丈夫のようだな。何をそんなに落ち込んでいたのかは知らんが、まあ、無理をせずに頑張れや!」
そう言うとその大柄なサスペンダー付きのジーパンを履いている男は、スタスタと靴底の音を鳴らしながらライオンコーナーを後にする。その後ろ姿を見ながらこのライオンという生き物の事を改めて考える。
つい先ほどたまたま通りがかったライオンの飼育員の話によれば、ライオンを外で放し飼いにして自由自在に操ることは実質上不可能と言う事だ。確かに海外では個人の家でライオンを飼っている変わり者の金持ちもいるみたいだが、この日本では先ずあり得ないことと言う事らしい。それに動物のサーカスではライオンを自由自在に操り観客にその芸を見せているという意見もあるが、それはあの天幕の特別な環境化の中で観客が守られているからこそ猛獣使いは安心してそのライオンに教え込んだ芸の数々を披露することが出来るのであって、その逆を言ってしまえば裏では長年にも渡る厳しい訓練が嫌でも必要だと言う事だ。だがそれでもあの大型危険肉食動物でもあるネコ科のライオンを野外に出してその通りがかりの人を自分の都合のいいように襲わせることは先ずかなり難しいだろう。まず第一にそのライオンを一体どの様に運搬して様々な場所に運んでいるのか、その移動方法がハッキリ言って謎だ。そんな大きく頑丈な檻をトラックの荷台の中に入れて持ち運んでいたなら絶対に誰かが気付いていると思うからだ。だが、そんな猛獣が入っていると思われる大型の荷台を持つトラックの車はその時間は代々木公園の前は通らなかった。その目の前にある主な主要道路には大型のトラックは絶えず動いてはいたが、それを一つ一つそのトラックの持ち主を調べ上げて身元を特定する時間は流石に無いだろう。
本来なら警察犬と警察の人員を総動員してあの黒いライオンの行方を追うのが本来の警察のやり方なのだが、狂人ゲームにおけるルール違反になるだけに人員はむやみには増やせないのだ。そして狂人ゲームのタイムリミットは後四日しかない。赤城文子刑事の話では下田刑事は元々は捜査一課・殺人班の刑事達の仲間なのであの三匹の警察犬達もギリギリに捜査一課側の仲間と認めて貰ったとの事だ。だが、だからこそその他の警察犬達の全てがその後の狂人ゲームには参加が認められていないらしい。つまり新しい警察犬達をこの狂人ゲームに新たに投入する事はもうできないので、警察犬の嗅覚を使った犯人の追跡はまず出来ないと言う事なのだ。そしてその黒いライオンの物だと思われる糞や体毛と同じようにその足形も十分にその黒いライオンが本物のライオンだという確実な証拠になり得るようだ。何故ならこればっかりは誤魔化し用がないからだ。
そんな数々の不利な状況に言い知れぬ不安と焦りを感じながら、勘太郎は心の中で思う。
ああ、どうしよう。む、無理……絶対に無理だ。あと四日でこの事件を解決出来なかったら……その時は俺のせいで、今度こそ確実に罪のない人達が大量に死ぬことになる。恐らく俺はその罪の重さに耐える事は出来ないだろう。あの西園寺刑事の言葉じゃないが、本当に誰かと変わって貰いたいぜ。この重大な人の命に関わる責任の重みから直ぐにでも解放されたい。こんな気持ちはあの西園寺刑事に直接言われるまでは思いもしなかった事だ。それだけ俺はこの狂人ゲームに負けたら人の命がどうなるかに関してはそれ程気にもしてはいなかったと言う事だ。何故ならあの羊野瞑子ならこの状況を何とかしてくれると心の何処かで気軽に考えていたからだ。だがそれは完全なる俺の甘えだった。もしも失敗したときの事などは考えもしてはいなかった。
勘太郎は大きく溜息を付くと重い気持ちを引きずりながらその場を後にする。
「はあ~、見ず知らずの人に心配されるくらいだからな……今の俺の精神状態ではとてもじゃないがこのまま捜査を継続するのは難しいかもな。明日、赤城先輩に相談してみよう」
そんな事を呟きながら勘太郎はその責任重大な使命の重さに悩み苦しむのだった。
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