白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

文字の大きさ
118 / 222
第五章 『喰人魔獣』 東京内で襲う正体不明の魔獣が人々を恐怖のどん底に突き落とす。黒いライオンを操る狂人・暴食の獅子との推理対決です!

5-8.黒鉄の探偵としての重大な苦悩

しおりを挟む
                  8


「お、勢いよく馬肉を食べているな。それにあれは鶏の頭か。食用の鶏の部分で頭は恐らくは利用価値がないからライオンの餌として安く提供できるのかも知れないな」


 時刻は十時丁度。代々木公園を後にした勘太郎はそのまま黒鉄探偵事務所には戻らず、上野駅の近くにある上野動物園の中で時間を潰していた。
 いろんな動物の臭いが辺りに漂い、その存在を確認し合うかのように様々な動物の鳴き声が飛び交う中で何気にライオンコーナーを訪れた勘太郎は餌やりの現場にたまたま居合わせた事でライオンが餌を食べる迫力のある姿を直に見る事が出来た。その豪快かつ見応えのある食べっぷりをガラス越しに見ながら勘太郎は頻りに考える。

 俺なんかが不本意ながらも日本国中の国民の命を預かって本当にいい物なのだろうか。そもそも俺が黒鉄の探偵の名を継いで探偵稼業なんかをしているからこそ、そこにあの円卓の星座の狂人・壊れた天秤が俺に狂人ゲームを仕掛けて来ているんだ。だったら俺が正式に探偵稼業を辞めたらあの壊れた天秤の矛先は俺にでは無く日本の警察に戻るんじゃないのか。そうなってくれたら勿論俺の役目は本格的に終わりになるのだろうが……もしかしたらその方がいいのかも知れない。あの世界的な悪の秘密組織、円卓の星座の謎に迫ること事態、元々俺には手に余る無理な案件だったんだ。
 使命の半ばで死んだ親父には悪いが、俺にはもう無理なのかも知れない。たとえ俺が抜けたとしてももっと才能のある警察の刑事や名探偵の誰かが俺の代わりをしてくれるだろう。そうなればあの羊野瞑子も継続してその新たなパートナーとコンビを組んでくれるはずだ。

 そんな事を思っていると勘太郎の隣で頻りにシャッターを切る音が聞こえる。ついさっきまでは気落ちし考え事をしていたせいか気にもとめなかったが、気付いてしまったせいかその音が嫌でも耳に入る。

 パシャ・パシャ・パシャ!

 その続けてシャッターを切る音に溜まらず勘太郎はその音が鳴る隣を振り返る。そこには一眼レフのカメラを構える一人の男が立っていた。
 そのがたいの大きな男は一眼レフのカメラのレンズを餌を捕食しているライオンに向けながら必死にシャッターを切る。その感じからしてどうやら隣にいる勘太郎の事は最初から眼中には無い用だ。

 ライオンの餌を食べる捕食のシーンがそんなに好きなのかと思いながらも勘太郎は邪魔にならないようにその場から立ち去ろうとしたその時、行き成りその男が勘太郎に向けて話しかける。

「なんだい兄ちゃん。何だか辛気臭そうな顔をして。何かムシャクシャするような嫌なことでもあったのかな」

 行き成り見ず知らずの人間にそんな事を言われたので、勘太郎は思わず警戒心を抱きながらも徐にその男の姿をマジマジと見る。

 その男はボサボサの髪型にサスペンダー付きの繋のジーパンを履いた如何にも何かのオタクを感じさせるそんな風貌をした人物のようだ。見た感じでは歳は四十代くらいと推定される。
 そのオタク風の男は背中に背負っている重そうなリュックの中から食料品のカロリーバーを取り出すと、それを徐に勘太郎に向けて差し出す。

「にーちゃんよ、何があったのかは知らないがそんな湿気た顔をしていると目の前にある幸運すらも気付かずに取り逃がしてしまう事になるぜ。ほらこのカロリーバーをやるからこれで腹ごしらえでもしろよ。きっとお腹が空いているから悪いことしか考えないようになるんだよ。大抵のことはお腹が膨れたら何か別の考えや解決策が見つかる物さ」

 いや、俺の悩みはそんな単純な物では無いんだけどと反論をしたかったが、せっかくこのがたいのいい男が見ず知らずの俺を元気づけようと気を遣って手持ちのカロリーバーをくれると言うのにここで余計なことを言う物ではないだろう。そう思った勘太郎は申し訳なさそうに頭を下げながらその男が持つカロリーバーを素直に受け取る。

「申し訳ないです。何だか見ず知らずの人に気を遣わせてしまって」

「ハハハハ、構わん、構わんさ。せっかくライオンがその迫力のある食べっぷりを俺達の目の前で披露してくれているというのに何だか上の空だったから大丈夫なのかと思ってな。余計なお世話かとも思ったがつい声を掛けてしまったのだよ」

「いえいえ、心配をしてくれてありがとう御座います。でも本当に大丈夫ですから、俺の悩みなんて大したことはありませんから」

「そうかい、ならいいんだが……」

「そう言えば頻りに一眼レフのカメラのシャッターを押してたみたいですが、動物の写真を撮りにわざわざ上野動物園まで来たのですか」

「ああ、そうだよ。俺は動物の写真を撮るのが好きだからな。特に野生の肉食動物が草食動物を捕食して食べるシーンを見るのが最も好きなんだ。食物連鎖に繋がる生物達の命がけの自然の仕組みをこの目で見るのが好きで好きで堪らないんだよ。だから野生の動物達が見たくてよく暇を見つけては海外のアフリカとかに行って現地のガイドの説明を聞きながらその残酷かつ生き生きとした現実の姿をこのカメラに納めてきたんだが、今は気晴らしに上野動物園に来て野生ではない動物園の中にいるライオンが一体どのような食生活をしているのかを事細かく写真に納めていると言った所かな。まあたまには塀の中に囲まれたライオンが一体どの様に餌を食べ、そしてどのような捕食をしているのかを見るのもまた一興かと思ってな。流石に野生の肉食動物のような活発かつ迫力のある豪快な姿は見れないけど、これはこれである意味シュールでいいのかも知れないな。非常に興味深いぜ!」

 男は興奮気味に言いながらその歓喜に震える思いを勘太郎に伝える。

 その様子からしてどうやらこの男は肉食動物が草食動物の体を食べるシーンを見るのがとても好きな人物のようだ。その証拠にライオンがその肉へと食らい付くその様を見るこの男の目は絶えず血走っていた。

 勘太郎はそんな事を思いながらも取りあえずは動物の話題の話を振るう。

「あなたは動物が好きなんですね」

「ああ、主に肉食動物が……だがな。その中でも百獣の王と言われているライオンが最も好きなんだよ。猫科最大かつ最強の肉食動物でありながらも家族をファミリーを持ち、しかもその獲物となる動物を集団で襲いその肉をみんなで貪り喰らうだなんて、正に凄い地獄絵図だとは思わないかい。俺はそこに大いなる感銘と言い知れぬ興奮を覚えるんだよ!」

「はあ、よくは分かりませんが、肉食動物の捕食シーンを見るのが好きな人も中にはいますからね。あの迫力のある場面を見るのが好きな奴が、俺の仕事仲間の中にも一人いますからね」

「ほ~う、それは気が合いそうだな」

「まあ、相手は女性ですがね」

「ハハハハ、それは中々面白そうな女性のようだな。じゃ俺はそろそろこの場を離れて他の動物の写真を取りに行くよ。つい声を掛けてしまって悪かったな」

「いえ、心配してくれてありがとう御座いました。もう大丈夫ですから」

「おう、その様子ならもう大丈夫のようだな。何をそんなに落ち込んでいたのかは知らんが、まあ、無理をせずに頑張れや!」

 そう言うとその大柄なサスペンダー付きのジーパンを履いている男は、スタスタと靴底の音を鳴らしながらライオンコーナーを後にする。その後ろ姿を見ながらこのライオンという生き物の事を改めて考える。

 つい先ほどたまたま通りがかったライオンの飼育員の話によれば、ライオンを外で放し飼いにして自由自在に操ることは実質上不可能と言う事だ。確かに海外では個人の家でライオンを飼っている変わり者の金持ちもいるみたいだが、この日本では先ずあり得ないことと言う事らしい。それに動物のサーカスではライオンを自由自在に操り観客にその芸を見せているという意見もあるが、それはあの天幕の特別な環境化の中で観客が守られているからこそ猛獣使いは安心してそのライオンに教え込んだ芸の数々を披露することが出来るのであって、その逆を言ってしまえば裏では長年にも渡る厳しい訓練が嫌でも必要だと言う事だ。だがそれでもあの大型危険肉食動物でもあるネコ科のライオンを野外に出してその通りがかりの人を自分の都合のいいように襲わせることは先ずかなり難しいだろう。まず第一にそのライオンを一体どの様に運搬して様々な場所に運んでいるのか、その移動方法がハッキリ言って謎だ。そんな大きく頑丈な檻をトラックの荷台の中に入れて持ち運んでいたなら絶対に誰かが気付いていると思うからだ。だが、そんな猛獣が入っていると思われる大型の荷台を持つトラックの車はその時間は代々木公園の前は通らなかった。その目の前にある主な主要道路には大型のトラックは絶えず動いてはいたが、それを一つ一つそのトラックの持ち主を調べ上げて身元を特定する時間は流石に無いだろう。

 本来なら警察犬と警察の人員を総動員してあの黒いライオンの行方を追うのが本来の警察のやり方なのだが、狂人ゲームにおけるルール違反になるだけに人員はむやみには増やせないのだ。そして狂人ゲームのタイムリミットは後四日しかない。赤城文子刑事の話では下田刑事は元々は捜査一課・殺人班の刑事達の仲間なのであの三匹の警察犬達もギリギリに捜査一課側の仲間と認めて貰ったとの事だ。だが、だからこそその他の警察犬達の全てがその後の狂人ゲームには参加が認められていないらしい。つまり新しい警察犬達をこの狂人ゲームに新たに投入する事はもうできないので、警察犬の嗅覚を使った犯人の追跡はまず出来ないと言う事なのだ。そしてその黒いライオンの物だと思われる糞や体毛と同じようにその足形も十分にその黒いライオンが本物のライオンだという確実な証拠になり得るようだ。何故ならこればっかりは誤魔化し用がないからだ。

 そんな数々の不利な状況に言い知れぬ不安と焦りを感じながら、勘太郎は心の中で思う。

 ああ、どうしよう。む、無理……絶対に無理だ。あと四日でこの事件を解決出来なかったら……その時は俺のせいで、今度こそ確実に罪のない人達が大量に死ぬことになる。恐らく俺はその罪の重さに耐える事は出来ないだろう。あの西園寺刑事の言葉じゃないが、本当に誰かと変わって貰いたいぜ。この重大な人の命に関わる責任の重みから直ぐにでも解放されたい。こんな気持ちはあの西園寺刑事に直接言われるまでは思いもしなかった事だ。それだけ俺はこの狂人ゲームに負けたら人の命がどうなるかに関してはそれ程気にもしてはいなかったと言う事だ。何故ならあの羊野瞑子ならこの状況を何とかしてくれると心の何処かで気軽に考えていたからだ。だがそれは完全なる俺の甘えだった。もしも失敗したときの事などは考えもしてはいなかった。

 勘太郎は大きく溜息を付くと重い気持ちを引きずりながらその場を後にする。

「はあ~、見ず知らずの人に心配されるくらいだからな……今の俺の精神状態ではとてもじゃないがこのまま捜査を継続するのは難しいかもな。明日、赤城先輩に相談してみよう」

 そんな事を呟きながら勘太郎はその責任重大な使命の重さに悩み苦しむのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...