白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第五章 『喰人魔獣』 東京内で襲う正体不明の魔獣が人々を恐怖のどん底に突き落とす。黒いライオンを操る狂人・暴食の獅子との推理対決です!

5-9.黒いライオンの正体についての疑惑

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 時刻は十五時十五分。

 羊野瞑子と赤城文子刑事は信用のおける有名な獣医師が務めるある動物病院にいた。その動物病院の別室に通された二人は出されたお茶を飲みながらある一人の獣医師をひたすらに待つ。

 待つこと更に三十分後。流石に待つのに疲れた羊野は椅子から立ち上がると大きな棚に飾られている様々な動物の頭蓋骨を形取った模型を見ながら暇を潰していたが、その直後忙しそうに白衣を着た四十代くらいの男が現れる。その機敏な動きをするその男は羊野と赤城文子刑事を見ると申し訳なさそうに頭を下げる。

「大変申し訳ありません。犬の首に出来たガン細胞の摘出手術が長引いてしまって約束の時間に遅れてしまいました」

 その獣医師の頭を下げた低姿勢に赤城文子刑事も負けずに低姿勢で返す。

「いえいえ、ペットの患者の予約で立て込んでいる先生に無理を言って時間を取って貰ったのはむしろこちらの方ですから気にしないで下さい。あ、申し遅れました私が先ほど電話をした赤城文子と言う警視庁捜査一課の刑事です。そしてそこで動物の頭蓋骨の模型を見ている、白い羊のマスクを被っている女性が……」

「ええ、私の名前は羊野瞑子と言う物ですわ。どうぞお見知りおきを」

 そういいながら羊野はその不気味な白い羊のマスクをその獣医師の方に向ける。獣医師はその羊野の姿に最初はかなり困惑し戸惑っていたようだったが、羊野がその羊のマスクを顔から外したことでその獣医師は瞬時に何かを理解したようだ。

「その容姿は……まさかアルビノですか」

「ええ、日の光を浴びるのがかなり苦手な物で、日中は常にこの羊のマスクを被って行動しているんですよ」

「そうですか……それは難儀な事ですね」

 そう言うとその獣医師は今の状況を無理矢理受け入れながらも、取りあえずは二人の話を聞くことにしたようだ。

「あ、申し遅れました。私の名は茂内智也と言います。この動物病院の医院長をしているものです。それで、ひぃ、羊野瞑子さんに……赤城文子刑事ですか。先ほどの電話では、ある動物の事で私に聞きたいことがあるとか言っていましたが、一体何の動物について聞きたいのですか?」

「茂内智也先生はこの関東中にあるいろんな動物園の動物の獣医師も兼ねているとか。しかもその担当の動物で最も多いのは肉食動物が主だとも聞いています。だからこそ私達は茂内智也先生に話を聞こうと、こうやってここに伺ったのですよ」

「それで聞きたい動物とは一体なんの動物ですか?」

「それはネコ科の肉食動物でもあるライオンのことです」

「ライオンですか。確かに私はライオンが何らかの病気になった時に駆け付ける体調管理の担当を定期的に任されてはいますが、そんな私に分かる話なのでしょうか」

「ではお聞きします。あの百獣の王ライオンを外に連れ出して自由に操る事は可能でしょうか?」

 その赤城文子刑事の質問に茂内智也先生は腕組みをしながら即答で答える。

「いや普通に考えてまず無理でしょうね。インドの古い寺院のある、とある村では赤ちゃんの頃から大事に飼い慣らしている虎と触れ合える場所があるみたいですが、血の臭いで本来の野生の本能が目覚めないようにその肉の餌はようく血抜きをしている餌を与えているそうです。確かに観光客を呼ぶペットとして飼っている国もありますが、まるで猟犬のように人間の命令を忠実に聞くライオンを作り上げる事はまず出来ないでしょう。イヌ科の動物と違ってネコ科の動物は人の命令を聞くには不向きな動物ですからね。昔から犬科の動物は集団で狩りをしているせいかその上下関係もハッキリしていますが、その犬とは違ってネコ科の動物は本来は単独行動が主ですからね」

「でもあのライオンはネコ科の動物でありながらも家族みんなで狩りをし行動をしますよね。なら調教と訓練次第では人間の言う事を聞くんじゃないですか」

「いや、難しいですね。確かに動物のサーカス団のように餌をちらつかせながら芸を教えることは出来ますが、訓練士と離れてしかも野外で単独で自由にあのライオンを動かす事はまず出来ないと言うのが私の見解です。そんな話をしてくると言う事は、あの代々木公園で死体で見つかったとされる三人のホームレスの死はやはりその公園に現れたと言う黒いライオンの仕業のようですね。やはりその噂は本当でしたか」

「ええ、残念ながら。ですが今の所は竹林公園から始まり。その後は葛西臨海公園、そして代々木公園と、各公園ばかりに3夜にかけてあの黒いライオンは連続で現れています。ですがその黒いライオンは東京の公園だけに出没するみたいで、他の所に逃げ出した姿を目撃した人はまだ誰一人としていないと言うのが現状です」

「噂ではその現場に残されていた糞や体毛、そしてその黒いライオンが残したと思われる足跡があの野生のライオンの物と見事に一致してその証明にもなったと言う話じゃないですか。ならその黒いライオンは本物のライオンだと認めるしかないようですね。その三人のホームレスの男達の首筋に残されていた歯形も、普通の標準的な動物園にいるライオンの物と見事に一致したとも聞いています」

「つまり茂内智也先生の考えは、その黒いライオンは本物のライオンでまず間違いは無いと言いたいのですね」

「まあ、その証拠と現状から考えてそう考えざる終えないと思いますよ。にわかには信じられない話ですがね」

「でもその話が仮に本当なら茂内智也先生の話には一つの矛盾が出来てしまいますよね」

「その決して操る事の出来ないと思われているその野生のライオンをその犯人は自由自在に操り、その被害者達を襲わせていると言う矛盾の事だな。そうなんだよな、そこが不思議で不可解なんだよな。一体その犯人はどんな方法を使って、人の血の味を覚えた凶暴な人食いライオンを自由自在に操っているのかが全く想像がつかないんだよ。正にこれはある意味、不可能犯罪なのかもしれないな」

「不可能犯罪ですか……」

 茂内智也は数多く残されたその状況証拠からあの黒いライオンは本物の肉食獣だとそう結論づけたようだが、ライオンの頭部の模型を徐に眺めていた羊野はその話に異論を唱える。

「あのライオンの……四足歩行の足って。今の医療の整形技術を持ってすれば……例えば大型の犬の足にライオンの足形がつくように整形して作り変える事はもしかしたら可能なのではありませんか」

 その突飛な思いもしなかった発想に、茂内智也獣医は笑顔を向けながら豪快に笑う。

「ハハハハ、確かに人間の顔や体だって整形で自由自在に作り替える事が出来るんだから獣医師だって勉強と手術の経験次第では出来ない事じゃないな。今の医療の技術ならそれも可能なのかもしれないが……ただそんな馬鹿げた事に協力するモラルが破綻した獣医師が果たしてこの世の中に何人いるかな。まあ、大金に目がくらんで違法な整形手術をしている闇の獣医師がいたらそんな事が出来るのかも知れないが、マットサイエンティストや悪の秘密組織じゃあるまいし、ちょっと現実味に欠ける話なんじゃないかな」

「そうでしょうか。私は結構有り得る話だと思いますがね。あの黒いライオンが大型犬の犬の成れの果てだと考えたなら全ての辻褄が合うのですよ。後はあのライオンの糞と体毛をその犬が一体どうやって残していっているのか……その大体の予想は出来るのですが、まあ、それは新たな確実な証拠が出て来てからにしましょう。それにそのライオンもどきが何故不死身なのか……その謎にも近い内に迫らないといけないでしょうからね」

 もしかしたらあの黒いライオンは大型の犬かも知れないと言う羊野瞑子の考えに、話を聞いていた赤城文子刑事がすかさず反論をする。

「でも仮にあの黒いライオンが実は大きな犬だったとして、どうやってその犬は人間にライオンのような牙による致命傷や傷跡を残すことが出来るのよ。まあ一歩譲って足形はその違法の整形手術でライオンの足形に改造出来たとして、その口の骨格の大きさやその牙までは流石に変えられないわよ。犬の噛む力とライオンの噛む力とでは全く比較にはならないし、その口自体を改造することはまず出来ないと思うわ。どんなに姿形を本物のライオンに似せて偽っても、その力は本物のライオンには遠く及ばないでしょうからね」

「ええ、そうでしょうね。だからこそあの黒いライオンは、被害者となった人間は一切襲ってはいないと思いますよ」

「思いますよって……じゃ一体誰が今までに食い殺された被害者達を襲ったと言うのよ。あの被害者達の首を一噛みだけで食い破るその噛む力や牙の跡は間違いなく本物のライオンの物でまず間違いは無いと皆が言っているわ。決してあの狂人・暴食の獅子には出来ない芸当よ」

「出来ない芸当ですか……今赤城文子刑事が言った同じ台詞をあの黒鉄さんも言っていましたわ。でもそこにあの狂人・暴食の獅子が操る魔獣トリックの全てが隠されていると思うのですよ。まあ、私も今の段階ではただの仮説に過ぎませんので、もう少しちゃんと調べてからこの結論を出すことにしましょう。そんな訳で赤城文子刑事、今日は一晩掛けてこの関東地方で違法な動物の整形手術をしていると思われる動物病院とその獣医師を探し出してそのリストを提示して下さいな。もしかしたらあの黒いライオンに繋がる闇の獣医師がいるかも知れませんよ」

「違法な獣医師ね。わかったわ。でもいいの、勘太郎をそのまま黒鉄探偵事務所に帰してしまって。あいつ、なんだか凄く落ち込んでいたわよ」

「だからですわ。今の黒鉄さんを無理に引っ張り回してもいつものような鋼のメンタルは戻りませんからね。ここはとにかくよ~く休んで一旦心を整理して貰わないと、この残酷極まる狂人ゲームに立ち向かう事はまず出来ないでしょう。黒鉄さんはいつも心の何処かに妙な劣等感を持っていますからね。だからこそその鋭気を養うにはやはり黒鉄探偵事務所が一番いいのですよ。あそこには黒鉄さんを分かってくれている人達が沢山いますからね。そして恐らくは、その暖かな人達との触れ合いと、流れゆく穏やかな時間が全てを解決してくれる事でしょう」

「そんな物かしら。後で私も少し暇が出来たらあいつに電話をして元気づけてやらないとね。一応私はあいつの姉貴分で、しかも腐れ縁の先輩だしね」

「あ、それと西園寺刑事にちょっと用があるのですが、彼は今一体どこにいるのでしょうか。この事を全ての警察関係者に聞いても何故か誰も教えてはくれないのですよ。一体何故でしょうかね……不思議ですわ?」

「それだけは……あなたには絶対に教えられないわね」

「そうですか……何だか非常に残念です。黒鉄さんがいろいろとお世話になったお礼に、いろんな面白い趣向を一杯考えてきたのですが……それなのに非常に残念です。西園寺刑事には心ゆくまで沢山楽しんで貰えると思ったのに」

「なんなのよ、そのいろんな面白い趣向って……一体どんな悪巧みを考えて来たのよ!」

 羊野のその意味深な戦慄めいた言葉に赤城文子刑事は彼女の恐ろしさを再度実感するのだった。
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