白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第五章 『喰人魔獣』 東京内で襲う正体不明の魔獣が人々を恐怖のどん底に突き落とす。黒いライオンを操る狂人・暴食の獅子との推理対決です!

5-10.不死身の魔獣再び

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「ご苦労様です。あの黒いライオン、喰人魔獣がもしかしたらこの光が丘公園に現れるかも知れないと言うタレコミがあったそうだけど、その情報は本当なのかしら……? ガセじゃないでしょうね」


 時刻は夜の十一時三十分。

 赤城文子刑事の調べで、過去に違法な動物の手術を行っていた動物病院やその違法な行為を実行していた獣医師達を一人一人丹念に探す。
 その中身の大体は獣医師の免許証を持っていないにも関わらず動物病院を経営していたり、技術や知識も大してないのにいい加減な手術をしてそのペットを死なして訴訟問題になっている闇の個人経営の怪しげな獣医師達が大半だったが、中には繁殖を繰り返し動物に違法な薬物や手術を施して自分好みの動物を作ろうとする異常なブリーダーもいるので、そんな要望を叶える為に犯行を実行した狂った獣医師達を厳選して、今回の事件に関わりがあると思われる犯人をあぶり出す。

 そんな違法な獣医師探しを夜にかけて行っていた赤城文子刑事と羊野の元に、耳沢仁刑事からの突然の電話がけたたましくなる。
 スマホを耳に当てた赤城文子刑事の話では、耳沢仁刑事は今、石田淳二と林家三太の二人の腕利きのハンターを引き連れて東京都内にある光が丘公園に来ているとのことだ。その公園には既に警部補の西園寺長友刑事と数名の警察官が配備され、特殊班の川口大介警部とその部下の山田鈴音刑事ももう既に呼ばれて現場に来ているとの事だった。

 そんな訳でもうすぐ日にちが変わろうとしているこのだだっ広い公園の闇の中に、赤城文子刑事と羊野瞑子は堂々と入っていく。

 東京都練馬区にあるその公園は、太平洋戦争時の時は陸軍の製造により飛行場が建設されていたとの話だが、戦後はグラントハイツとして米軍の管理下にあったとの話だ。
 だが昭和四十八年に日本への返還が完了し、総面積約三分の一が公園として確保された。

 その後は昭和五十六年から一斉に周辺の整備が開始され、小・中・高の学校十五校を始め、公団・公社・都営住宅千二百戸のいろんな建築物ができ、今では都内有数の大団地になっているとの事だ。

 そんな住宅地が近い穏やかで緑豊かな大きな公園の中で待ち構えていた数人の警察関係者達の元に赤城文子刑事と羊野瞑子の二人が合流する。

 羊野瞑子を引き連れて現れた赤城文子刑事は他の刑事達に挨拶をしながら上司でもある川口警部の元へと急ぐが、その川口警部に会うより先に進行方向の目の前にいた西園寺刑事が羊野瞑子を見るなり露骨に嫌な顔をする。

「あら、西園寺刑事、ご苦労様です」

「おう、赤城文子刑事か。お前はまた余計な者を引き連れてきたようだな」

「ええ、これが私に課せられた任務ですから」

「まあ、いい。それで……あの黒鉄の探偵とか言う奴はもう来てはいないようだが代わりにお前がこの現場に来ていたのか、白い羊」

「あら、やはり西園寺刑事もここに来ていたのですね。これでわざわざ貴方を探す手間が無くなりましたわ」

「ほう、同僚達の話では何だか俺を探しているそうじゃないか。俺に何か用事でもあるのかな」

「はい、うちの上司でもある黒鉄勘太郎さんの今回の狂人ゲームへの参加を是非とも西園寺刑事にも是非とも許して貰おうと思いまして、こうやってわざわざあなたの行方を捜していたのですよ。それなのに何だか異常なまでに他の刑事達には警戒されてしまって、私なにか……よからぬ事でもしたんですかね」

「ふん、お前が俺に何らかの危害を加えると思って川口警部を初めとした皆がわざわざ警戒をしてくれているのだろうが……余計な気遣いだぜ!」

「へ~ぇ、そうなのですか。そんな事は微塵も考えてはいないのですがね。困った物ですわ」

「だがもう大丈夫だ。みんなの気遣いは物凄く嬉しく思うが、そんな物は俺には不要だ。何故なら羊野瞑子の悪知恵ごときに俺は絶対に負けないからだ!」

 そんなよく分からない宣言を直接聞かされた羊野は被ってある羊のマスクを脱ぎながら、何故ここに黒いライオンが現れるかも知れないと言う情報をつかんだのか……その経緯を聞く。

「それで、あの黒いライオンがなぜこの光が丘公園に現れるかも知れないという情報を知ったのですか?」

「実は昨日から、この東京二十三区内の各公園の入り口付近に仕掛けてある隠しカメラの一つにあの黒いライオンの姿が映ってある映像が届いたんだよ。その映像に映ってある時刻は二十二時丁度の時間で、その情報が俺達警察に届いたのがその約三十分後の二十二時三十分だったから俺達がパトカーのサイレンを鳴らしてこの光が丘公園に急行したのが二十三時丁度と言う事になる。なのでお前達がこの光が丘公園に到着するまでの約三十分間、俺達は一通りはこの公園内を見渡して見たがあまりにも公園内は広いため当然全ての所を見て回ってはいない。それが今の現状だ」

「つまり、あなた方もまだ現場に着いたばかりで、この暗闇が広がるただっ広い公園内の中を当然まだ調べてはいないと言う事ですか」

「まあ、そう言うことだな。何分夜も深いしな、中々思うように行動がしづらいと言う事だ。こちらには警察犬がいないからこの草木に覆われた暗闇の中じゃ事前にあの黒いライオンの接近に気付く事がまず出来ないかも知れないし、この状況下ではネコ科の肉食動物でもあるライオンの方が夜目も利いて向こうが圧倒的に有利だろうからな。だからこちらも迂闊にバラバラに動くことは出来ないよ」

「それだけこの夜の公園内を懐中電灯一つで行動するのは物凄く危険が伴うと言う事ですか」

「そう言う事だ。しかもこちらは三人のハンターが持つライフル銃以外の他の銃器の使用は硬く禁じられ、絶対に許されてはいないと来ている。なら刑事達が護身の為に携帯している拳銃も基本的には使えないと言う事だ」

「ええ、この狂人ゲームが今現在行われている時間の中で、もし拳銃を使ってあの黒いライオンを撃ってしまったら、それでこの狂人ゲームはあなた方警察側の完全な負けになってしまいますからね。そうなってしまったらその負けたペナルティーとして、また罪のない一般市民がなんの警告も無しに無差別に日本中の何処かで百人ほど無残に殺されてしまう……」

「そ、それだけは……それだけは……警察の威信を賭けて何としてでも阻止して見せる。絶対にだ!」

「ならその為にも絶対に黒鉄の探偵、黒鉄勘太郎の協力は必要ではないのですか。何故なら彼は、この狂人ゲームを開始している主催者でもあるあの狂人・壊れた天秤に挑戦者として選ばれた唯一の人間なのですから。なので黒鉄の探偵無しでこの狂人ゲームを行うのは非常に困難で無謀とも言えるのではないでしょうか」

 その羊野が出した勘太郎の名前に西園寺刑事はさも当然のように嫌な顔をする。

「そんな事はないだろう。あの黒鉄の探偵がいなくたって俺達だけでこの事件は何とかなるだろう。て言うかあの素人探偵に勝手に任せて人々の命を天秤に賭ける事態の方が可笑しいんだよ。なぜあの狂人・壊れた天秤があんなにも黒鉄勘太郎に固執して狂人ゲームに彼を巻き込んでいるのかは知らないが、もう彼だけにこの日本中の国民の命を預ける訳には行かないと言う事だ。何故ならこの日本にはこの日本という国の治安を守る国家の警察がちゃんと控えているんだからな。その警察を無視してこんなふざけた死のゲームを繰り広げさせる訳にはもう行かないぜ!」

「なるほど、あなたの刑事としての意気込みやそのプライドたる姿勢はよ~く分かりましたが、それでは狂人ゲームのルールに違反するのではありませんか。あくまでもこの狂人ゲームの対戦相手は私と黒鉄さんを入れた黒鉄探偵事務所の精鋭との推理を駆使した戦いであり、あなた方警察はあくまでもそのサポート役に過ぎないはずです。しかも今回の狂人ゲームでは特別にあなた方捜査一課・殺人班の刑事達も異例として参加を認められてはいますが、それは今回の対戦相手でもある狂人・暴食の獅子がわざわざ提示した条件の一つに過ぎないだけなので、もうこの事件以外であなた方捜査一課・殺人班の刑事達がこの狂人ゲームに関わることはまずないと思いますよ。もし今回のように他の狂人達が織り成す狂人ゲームにも関わってしまったら、そのまま一般市民の命を危険に晒す結果になると思いますよ。もしこの事件が終わった後でうちの上司が、もう黒鉄探偵事務所の看板は下ろすと言い出したら一体誰がその後の狂人ゲームを引き継ぐと言うのですか。言っておきますがあの壊れた天秤は初代黒鉄の探偵こと黒鉄志郎が経営していた黒鉄探偵事務所に関わる全ての探偵に負けを認めさせて、完膚なきまでにその血筋を潰すまではこの狂人ゲームを決して辞めないと思いますよ。もし黒鉄勘太郎が負けを認めてこの狂人ゲームだけでは無く探偵稼業事態から完全に足を洗えば、そうなれば円卓の星座側の完全な勝利となりますが、そうなってしまったらもう狂人ゲームを行う意味は当然なさず、あの壊れた天秤はなんのルールも提示する事も無く無差別に日本国中の市民を虐殺して回るでしょうね。そうなったら、もうあなた方警察には彼らを止めるすべはありませんよ。だからこそ警察の上層部は黒鉄の探偵が率いる黒鉄探偵事務所の面々と、壊れた天秤が率いる秘密組織・円卓の星座の狂人達との勝負を決して軽視してはいなかったではないですか。それは何故か。少なくともあの壊れた天秤が提示している狂人ゲームに白い羊と黒鉄の探偵を参加をさせ、そして対戦させていれば、少なくともその勝敗次第では一般市民の命は救われることを警察上層部は知っているからですよ。あのプライドの高い壊れた天秤が勝負に負けたからと言って約束を違えない人物だと言う事も当然知っています。それは逆を言えばもしその約束を破ったら問答無用でそのペナルティー違反や敗北の罰を実行すると言う事です」

「ふん、だからといってやはりあの黒鉄勘太郎に全ての国民の命を預ける訳には行かないな。なら尚更この狂人・暴食の獅子との狂人ゲームに勝って、あの黒鉄勘太郎よりもこの捜査一課・殺人班の隊長であり、警部補佐でもあるこの幹部候補生の西園寺長友の方が対戦相手には適任だと言う事をあの狂人・壊れた天秤に認めさせてやる。必ずだ!」

「はあ~、ここまで言っても分かりませんか。全く、しょうも無い人ですね。あの壊れた天秤はあなた方警察にでは無く、過去に好敵手でもあった優秀な名探偵、初代黒鉄の探偵こと黒鉄志郎の血を引く唯一の探偵、二代目・黒鉄の探偵こと黒鉄勘太郎に勝つことで自分の長年の黒鉄探偵事務所との対決にけじめを付けるつもりなのですよ。でもその縛りがあるからこそ、あの壊れた天秤は今は曲がりなりにもあの狂人ゲームのルール内ではフェアに私達とも戦ってくれていると言う事です。その権利を自ら放棄するつもりですか。もし黒鉄勘太郎が探偵稼業を降りたら狂人ゲームその物が無くなって、事態はもっと深刻になると言う事が何故分からないのですか?」

「黙れ、黙れ、黙れ、あの円卓の星座の仲間だった者にとやかく言われたくは無いわ。今回の狂人ゲームを勝ち抜いてその犯人から円卓の星座の本拠地を聞き出せばいいだけの話ではないか。そうなればあの狂人達を一網打尽に出来る!」

「そんなに事が簡単に運ぶのなら、誰も苦労はしませんわよ」

「いいか、白い羊。円卓の星座その物の組織が無くなったら、お前も必ず刑務所に送り届けてやるからな。覚悟しておけよ。狂人・白い腹黒羊!」

「全く……先の事を考えられない単純な正義馬鹿は悲しいですわね。この状況下の中でいろんな可能性や選択肢を残して置くのが一番のベストだと言うのにね。黒鉄の探偵こと黒鉄勘太郎と、この私、白い羊こと羊野瞑子を外して狂人ゲームを行ったら一体どうなるのか。その恐ろしさを……西園寺刑事、あなたは自分自身のその愚かな行動で知ればいいのですわ。そしてその結果あなたは必ず後悔をする事になるでしょう。でもうちの上司でもある黒鉄さんにこの狂人ゲームに化せられている責任の重さについてあなたが教えてくれた事には正直感謝をしなくてはなりませんね」

「か、感謝だと?」

「貴方にその気はなかったのだとは思いますが、黒鉄さんは結果的にはこの狂人ゲームに参加する上での勝負の重さに気付く事が出来ましたからね。黒鉄さんは何も貴方に傷つく言葉を言われたから落ち込んでいる訳ではないのですよ。この狂人ゲームの勝敗で日本国中の市民の命を預かる者が本当に自分で正しいのかと、自分自身に苦悶苦闘をしているから自信を無くし落ち込んでいるのです。こんな人の命を預かる恐ろしい殺人ゲームに、まだ駆け出しの俄の素人探偵なんかが首を突っ込んで本当にいい物なのかとね。まあ、そんな感じで黒鉄さんは黒鉄さんなりにいろいろと悩んでいるのだとは思いますが、フフフフ、私の結論は違いますわ。私から言わせれば……いいに決まっているじゃないですか。て言うか黒鉄の探偵・黒鉄勘太郎がこの幾多の狂人ゲームに参加をして、そこで待ち受けている狂人達と戦って、その勝利をもぎ取っているからこそ、この日本に住む一般市民達は最小限度の被害だけで死なずにすんでいるのです。そこを履き違えないで下さい。白い羊と黒鉄の探偵が、狂人達が起こす様々な殺人トリックを繰り広げる狂人ゲームに参加を所望しているのでは無く、警察側からの要請で仕方なく参加をして上げているのですから、私達に敬意と感謝の気持ちがあってもいいと思いますよ。もし私達が狂人ゲームの参加を断った時点であなた方警察はもう既に終わっているのですから。そうですあの狂人達が集う狂人ゲームに参加すら出来ないあなた方捜査一課・殺人班の刑事達は、文字通り何も出来ずに不戦勝で負けると言う事を理解して下さい」

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。そんな世迷い言を俺が信じる訳がないだろう。人を取り締まる資格すら持たない一個人の探偵になぜ俺達警察が従わないといけないんだ。理解に苦しむぜ。そうだろう、みんな!」

 西園寺刑事と羊野瞑子がそんな問答をしていると、行き成り西園寺刑事の近くで話を聞いていた耳沢仁刑事のスマホの携帯電話に連絡が入る。そのスマホに耳を当てながら話を聞いていた耳沢仁刑事は何やら焦った顔をしながら、持っていた懐中電灯で辺りを確認する。

 額から脂汗を掻きながら回りを懐中電灯で照らす耳沢仁刑事に、西園寺刑事はすかさず声をかける。

「どうしたんだ耳沢仁刑事、そんなに慌てて、一体誰からの電話だったんだ?」

「公園の下見に、単独で行っているハンターの林家三太さんから連絡がありました。彼は個人で持っているライフル銃に備え付けてある暗視スコープから300メートル先にいる私達を確認したようですが、その私達のいる位置から100メートル先にあの黒いライオンが木や草木の陰に隠れて今もこちらの様子をうかがっていると言う連絡がありました」

「な、なにぃぃぃぃー、黒いライオンだとう。今この辺り周辺に奴は息を潜めて機会を伺っているのか。と言う事は俺達がこの公園に来た時から奴はこちらの様子を闇に隠れてじ~と見ていたと言う事になるな」

 その西園寺刑事の言葉に、赤城文子刑事やハンターの石田淳二が緊張をした顔をする。

「なら電話なんかせずに撃てるチャンスがあるなら彼の独断で早く撃てばいいじゃないか」

「ですから、さっきも言ったように、ハンターの林家さんはその黒いライオンの姿を偶然にも発見することが出来た用ですが、あの黒いライオンの体は草木に隠れていて、一撃で奴に致命傷を与えるには草木からその体を出さなければ難しいと言っていました。それよりもこのままあの黒いライオンに狙われている事を知らずにいる私達に連絡する方を最優先に選んだと言う事です。もしも自分があの黒いライオンの姿を見失ったら事態は更に災厄な事になり兼ねないと林家さんは言っていました。この暗闇の先の僅か100メートル先の何処かの林の中にあの黒いライオンは息を殺しながら足跡を立てること無く、じっくりと獲物でもある我々人間を観察してその機会を伺っているのですから、こちらも油断はできませんよ。何せあのライオンという生き物は100メートルという距離などはたったの数秒でここに到達する事が出来ますからね」

「確かライオンの走る速度は時速60キロくらいだったよな。なら100メートルくらいの距離はたったの数秒で到達する事が出来ると言う事か」

「しかもこの暗闇ですから、一体どこからあの黒いライオンが仕掛けてくるのか、その方向がよく分かりません。こちらは携帯している32口径の拳銃が使えない分、この私とハンターの石田淳二さんが持っている二丁のライフル銃しか今はあの黒いライオンを退ける武器は他にはないですからね」

 そう言いながら耳沢仁刑事は、近くにいる石田淳二と同じように背中に背負ってある革製の細長いケースからライフル銃を取り出すと直ぐに弾丸の確認をする。

 だが先にライフル銃を構えたのは耳沢仁刑事ではなく、ハンターの石田淳二の方だった。

 石田淳二はライフル銃の砲身を黒いライオンがいると思われる闇夜が広がる方向に向けると淡々と呟く。

「もしも獲物から弾丸を外すとその弾は公園から飛び出て、もしかしたら住宅地にでてしまうかも知れんから、あの葛西臨海公園で耳沢仁刑事があの黒いライオンを狙撃した時のように、俺もあの黒いライオンの後ろの直線に並ぶ障害物の木に目がけて、あの黒いライオンを狙撃してやるぜ。後にあの黒いライオンを仕留めたはいいが、その流れ弾がもしもその弾の先にいた一般人にでも当たったら洒落にならないからな」

 そう言うとハンターの石田淳二は、黒いライオンがいると思われる100メートル先の暗闇が広がる茂みに向けて持っているライフル銃を構える。そのライフル銃に備え付けられている夜でも見える暗視スコープからみた石田淳二の目には、木の生えた茂みに隠れているあの黒いライオンの姿がくっきりと見えた。

「今あの黒いライオンの姿を捉えることがこちらでも出来たぜ。おい、絶対にその懐中電灯をあの黒いライオンに向けるんじゃないぞ。その光に驚いてあの黒いライオンが何処かに逃げるかも知れないからな。今のこの位置からなら、あの黒いライオンの頭部に向けて弾丸をヒットさせる事が出来るぜ。あの黒いライオンを仕留める事は、この石田淳二に任せな。この近い位置からなら、先ず絶対に弾丸を外す事はないぜ!」

「黒いライオンですって、本当にあの喰人魔獣があの暗闇が広がる僅か100メートル先にいると言うの?」

「どうやらそうみたいだな」

 暗闇が広がる僅か100メートル先にあの黒いライオンがいると言われてその存在に本気で怯える赤城文子刑事と西園寺刑事を見つめながら、羊野は手に持っている白い羊のマスクを再度被り直す。
 その顔に装着した白い羊のマスクの真っ赤な目は、その黒いライオンがいると思われる方角をマジマジと見る。

「フフフフ、不可能犯罪を掲げる秘密組織・円卓の星座の創設者でもある壊れた天秤から支給された各狂人達のマスクにはその正体を隠す為だけでは無く、様々な得点たる機能が内蔵されているのですよ。勿論夜でも活動ができる暗視装置も内蔵されてはいますが、それだけでは無いのです。遠くの対象物を見る双眼鏡の機能も当然搭載されています。なので私にもその100メートル先の茂みに隠れている黒いライオンの姿が見えるのです」

「み、見えるの……羊野さん。この暗闇で……あの黒いライオンの姿が……本当に?」

「ええ、見えますよ。あの黒いライオンの姿がハッキリとね。今はどうやら木や茂みに隠れて、こちらの様子を伺っているようです」

「そ、そうなの、間違ってもこちらに来る事はないのよね。もしもこちらに走り出したら直ぐに私達に教えて頂戴。近くにある木の上にでも素早く避難をするから……その時はお願いね」

「そんな状況になったら、先ずは私が我先にと逃げますよ」

 そう言いながら静かに事の成り行きを見守る羊野瞑子の視線を背中に感じながら、ハンターの石田淳二はその一発目の銃弾をその黒いライオンの額に目がけて撃ち込む。

 パァアアーン!

一発目の銃弾が狙いを定めていたライフル銃の砲身から響き、その直後約100メートル先の茂みに潜んでいた黒いライオンが行き成り地面にパタリと倒れる。

「やった、やったぞ。ついにあの黒いライオンを仕留める事が出来たぞ。この四~五年にも渡るあの黒いライオンとの因縁にも、ついに終止符を打つことが出来たのか。こんなに嬉しい事はないぜ。これであの黒いライオンに食い殺された俺のハンター仲間の御膳にも報告をする事が出来るぜ」

「本当か……ついに俺達の手であの黒いライオンを仕留めることが出来たんだな。なら後はその黒いライオンを陰で操っていたと思われるあの狂人・暴食の獅子とか言うふざけた犯人だけだ。その倒した黒いライオンからその犯人に繋がる証拠を何としてでも探し出すぞ。いいな!」

「はい、了解です。西園寺警部補佐!」

 その言葉を皮切りに刑事の皆が一斉に動き出そうとしたその時、確認の為に再度暗視スコープを見ていた石田淳二が何やら血相を変えながら再び緊張の走った口調で、刑事達の安堵を停止する。

「し、静かに! し、信じられない……確かに手応えはあった。なのに奴はなぜ生きているんだ。こんな事はとてもじゃないが、どう考えても信じられないよ?」

「一体どうしたと言うんだ。あの黒いライオンは石田淳二さん……あなたが確実に仕留めたんじゃなかったのか」

「ああ、仕留めた。仕留めたとも……額に目がけて撃ち込んだ弾丸が確実にヒットしたのだから、いくらあの黒いライオンと言えども生きてはいられないはずだ。なのに何故あの黒いライオンは再び立ち上がることが出来るんだ……」

 今の石田淳二の話しぶりからして、どうやらあの黒いライオンの額にその銃弾が当たり、一度は地面にその体が倒れたにも関わらず、再び立ち上がって来たとの事だ。
 その石田淳二の言葉の真意を確認する為、赤城文子刑事は今もリアルタイムでその黒いライオンの姿が見えているもう一人の見届け人たる羊野に、その黒いライオンの生死の確認をとる。

「それで、羊野さん。あの黒いライオンは本当にまだ生きているの?」

「ええ、まだ生きているみたいですね。あの石田淳二さんの撃ったライフル銃の銃声が夜空に響いた時にはもう既に、あの黒いライオンの巨体がそのまま地面へと倒れ込むのを確認する事が出来ましたわ。ですがその後、直ぐに何事もなかったかのようにあの黒いライオンは立ち上がっています」

「そう……そうなの。つまりあの黒いライオンは額にライフル銃の弾丸が当たったにも関わらず再び立ち上がって来たと言う事になるわね。にわかには信じられない話だけどね。まさかその弾丸が単純に外れていた訳じゃないでしょうね」

「その何気ない赤城文子刑事の言葉に、ライフル銃に備え付けている暗視スコープをまだ覗いていた石田淳二が少しむっとした声で反論をする。

「お言葉ですが俺の撃ったライフル銃の弾丸は確実にあの黒いライオンの額に当たっていますよ。だからこそあの黒いライオンは一度はちゃんと地面へと倒れたじゃないですか。その倒れた姿はそこにいる白い羊のマスクを被った姉ちゃんがしっかりと見ていたはずだ。どうなんだ、羊のマスクを被った姉ちゃんよ!」

 その石田淳二から名前を呼ばれたいきなりの指名に、羊野は淡々と応える。

「確かに……そこにいる石田淳二さんがそのライフル銃の弾丸を発射したその1~2秒後にあの黒いライオンはその場に倒れるような動作を見せています。本当にその黒いライオンに当たっているかどうかは、その黒いライオンを捕まえてその弾丸をその額から引っこ抜いて見ないと分かりませんが。もしかしたらその黒いライオンの額から頭部を貫通して何処かの木にでもその弾丸がめり込んでいるかも知れませんよ」

「それでもあの黒いライオンは死なないのか。と、とにかくだ、まだその黒いライオンがその場にとどまっているのなら、次の弾丸を早く撃たないか!」

 その西園寺刑事の言葉に応えるかのように、どこからか2発の弾丸の銃声がこの光が丘公園の闇の中に響き渡る。

 パァアアーン! パァアアーン!

「撃った、撃ったのか。石田さん?」

「いいや、撃ったのは俺ではありません。どうやらその先の300メートル先にいる林家さんが2発のライフル弾を撃ったようです。その直後、林家さんの撃った弾丸が2発共にあの黒いライオンの胴体に命中し、その場に倒れた見たいですが……また直ぐに何事も無かったかのように立ち上がったようです」

「2発もの銃弾が確実にあの黒いライオンの胴体にヒットしているというのに何故奴は立ち上がる事が出来るんだ。普通そんな事は天地がひっくり返ったってあり得ない事だろう!」

「確かに……そうなんだが……」

「だったらあの黒いライオンが倒れるまで、そのライフル銃の弾丸を撃ち続けろ! 奴が倒れるまでだ!」

「そんな無茶な。その流れ弾の一つがもしも間違って町中に飛んでいったら一体どうするんですか」

「この公園はこんなにも広いんだから人なんかには絶対に当たらないさ。それよりも今はあの黒いライオンを何としてでも仕留めるんだ!」

「ああ、ああ、分かっているさ、そんな事は……」

 そう言いながら石田淳二が再び黒いライオンに目がけてそのライフル銃の引き金を引こうとした時、黒いライオンは「ガッオオオオォォォォーン! ガッオオオオォォォォーン!」と大きな雄叫びを上げながら、再び闇が広がるいずこかの林の中へと猛スピードで消えて行った。

「あ、あの黒いライオンがいない。くそ、またしても逃げられたか!」

 その悔しがる石田淳二の姿を見ながら西園寺刑事は、思わず弱気とも取れる言葉を口から漏らす。

「石田さんと林家さんの撃った合計三発もの銃弾をその身に受けているというのにまるで何事も無かったかのようにあの場から逃げ切るとは……あの黒いライオンは本当に不死身のライオンなのかもしれないな」

 西園寺刑事のその言葉に仕方なく納得をしていた赤城文子刑事は何気に羊野瞑子の方を見ると、その肝心の羊野の方は何故か自分の耳を押さえながらある事を頻りに考える。

「この耳鳴りは……もしかして……まさかそう言うことなのですか……なるほどね。あの葛西臨海公園では流石に聞きそびれてしまいましたが……」

 そんな意味あるげな言葉を口走りながら羊野は何かの思いに至ったのか、考え深げにニヤリと笑うのだった。
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