142 / 222
第六章 『不条理の矢』 大雨の日に訪れたペンションでボウガンを持つ謎の人物が勘太郎達に迫る。矢のトリックを操る暗殺者との推理対決です!
6-6.勘太郎、夕食会に参加をする
しおりを挟む
6
「皆さんとの親睦を深める為に毎年行っているミステリー同好会恒例の合宿にあたり、この場を提供してくれた大江大学OBの畑上先輩には、ミステリー同好会を代表して心からお礼の言葉を申し上げたいと思います。それでは皆さん、ミステリー同好会の発展と活動継続を願って、乾杯!」
夏目さゆりが高らかにグラスを上げながら言葉を発すると、同時に他のミステリー同好会の部員達が皆一斉に手に持ったグラスを上げて「乾杯!」と応える。
その乾杯の音頭が終わったのと同時に勘太郎は大皿を取り出しながら、テーブル席から少し離れた和・中・洋の料理が並ぶバイキングコーナーへと早足で動く。
時刻は夜の二十一時〇五分。
予定より五分遅れて始まった夕食会に勘太郎は人の目を気にすること無く食べ物にガッつく。それだけ今の勘太郎はお腹が減っているのだ。
窓を激しく叩く大雨と草木がこすれて響く烈風の音、そして雷の鳴る雷鳴からも分かる用に、外は今正に大きな嵐と化していた。
そんな事態をまるで逃避するかの用に、皆各々がバイキングコーナーへと足を向ける。
湯上がりと言う事もあり誰もが浴衣を着ていたので、勘太郎達もそれに合わせて今夜の夕食会だけは浴衣を着る事にしたようだ。
下の方が異常にスウスウする浴衣を着こなしながらバイキングコーナーに足を踏み入れた勘太郎は、隣で出くわした背島涼太とローストビーフの所でお互いに止まる。
その香ばしい肉汁と食い応えのある重量感が勘太郎と背島涼太の胃袋を刺激したからだ。
「取りあえずは肉、肉、肉だな。美味しそうなローストビーフを見た時からこいつが食べたくて密かに狙っていたんですよ!」
「ハハハっ、探偵さんもですか。実は俺も何ですよ。取りあえずは肉、何にをおいても肉ですよね!」
互いに笑い合いながら勘太郎と背島涼太は、まるで競い合うかの用にローストビーフを直ぐさま取り合う。
「はっ!」
「でやあぁぁ!」
……。
「しかし背島さん、お風呂の中に入ってくるのが五十分くらい遅れて入って来ましたけど、ちゃんとお風呂には入れたのですか? 俺達が大浴場から脱衣所に入って来るのと同時に慌ただしく中へと入って行きましたが」
「早々と体だけを洗って出てきましたよ。湯船には明日の朝にでもゆっくりと入るつもりです」
「朝風呂ですか、それもいいですね。で、マッサージチェアーの方はどうでしたか。随分と長々と使っていた用ですが」
「なかなかに良かったですよ。機械も最新型でしたし、肩コリも大部ほぐれましたからね」
「それはいいですね。なら明日の朝は俺も試して見ようかな」
そんな他愛も無い話を交わしながら、勘太郎は夕食会が行われている会場を何気に見る。
管理人兼料理人の山野辺を除いて、十一人しかいないのにも関わらず百人は収容出来そうな大きな食堂をただで使わせて貰っているのだから、正直言って畑上家の人達には頭が下がる思いだ。
入浴時の畑上孝介の話だと、食材の在庫整理で賞味期限寸前の物を処分するのには丁度いいからと、ここ二~三年はミステリー同好会の部員達にただで場所を提供しているとの話だ。
(まあ俺達としても、ただでこんないい所に宿泊が出来て尚且つ美味しい料理が食べられるのだから、文句を言う奴は先ずいないだろう。)
そんな食堂の中のバイキングコーナーには焼魚や蒸し魚は勿論のこと、ローストビーフ(牛肉)や照り焼きチキン(鳥肉)丸焼きポーク(豚肉)が並び、各種の野菜をふんだんに使ったサラダバーも充実している。
それに紅茶やコーヒー、ジュース類やお酒類が飲めるドリンクバーや、ケーキやプリン、ムース系やシャーベット、そして各種の果物と言ったスイーツバーなども用意されている事から、恐らくはスイーツ好きの女子達にも喜ばれる事は請け合いだ。
そして勘太郎達が座っている広間の真ん中には大きく長四角い長方形のテーブルが用意され、真白な布に花柄の刺繍がされたテーブルクロスが綺麗に被せられている。
テーブルの上には勘太郎達一人一人の名前が書かれた紙が置かれ、その名前に合わせるかの用に木製の椅子が綺麗に配置されていた。
その事からも分かる用に、どうやら勘太郎達の座る座席は最初から予め決められている用だ。
因みに上座に座る畑上の左側から数えて、畑上孝介・堀下たけし・東山まゆ子・杉田真琴・背島涼太・座間隼人・赤城文子・夏目さゆり・黒鉄勘太郎・羊野瞑子・一宮茜・の十一人だ。
そんな食堂広間の状況を軽く確認していると、勘太郎の後ろから屈託の無い明るい声が飛ぶ。
「あんた達ここへ来るのがなかなか早いわね。おかげで一番乗りでローストビーフを食べようとした私の計画が水の泡だわ」
そう言って冗談ぽく笑うのは、日焼けした小麦肌とショートカットの髪型がよく似合う杉田真琴である。
「ハハハ、探偵さん、背島先輩、食べてますか。私にも少しローストビーフを分けて下さいよ!」
「確か……杉田真琴さんでしたか。ええ、ローストビーフならまだまだ沢山ありますから、かまわずに取って行って下さい」
「おお、やはりお前も来たか、杉田。去年はお前にローストビーフを全部持っていかれたが、今年は俺も負けないからな!」
「どちらが多くのローストビーフを食べる事が出来るかどうか、また今年も競争と言う訳ですか」
「まあ、そう言う事だな」
「ええ、受けて立ちますよ、背島先輩。探偵さんもこの勝負、どうですか」
そう言うと杉田真琴と背島涼太は意気揚々と勘太郎に視線を向ける。
「いやいや、流石に俺は遠慮しておきますよ。もっと落ち着いていろんな料理を食べたいですし」
「そうですか、残念です」
そう言うと杉田真琴と背島涼太は、大きな取り皿にローストビーフをめい一杯乗せると、そそくさと自分の席へと戻って行く。
「やはり気のせい……だったか」
(あの時コインランドリーで一瞬見せた杉田真琴の憎悪の顔と、背島涼太が脱衣場で一瞬見せた邪悪な笑みが今でも忘れられない。だがそれも今は、彼らの屈託の無い笑顔を見て俺の勘違いだと素直に思える。)
そう考え直しながら勘太郎は、和・中・洋のいろんなおいしそうな料理を見て回る。
取り皿にローストビーフや野菜と言った副菜を始め、味噌汁やご飯と言った主菜を共に膳で運んで来た勘太郎は、速やかに自分の席へと戻る。
自分の席につき周りを見てみると、既に皆各々が料理をつまみながら宴を楽しんでいた。
上座に座る畑上孝介はタッチパネル型の青い携帯電話を机の上に置きながら、よく冷えたビールをさも美味しそうに喉越しを楽しむと、その飲み干したビールのグラスに隣にいつの間にか来ていた東山まゆ子がぎこちなく愛想笑いを浮かべながらかいがいしく畑上にビールをつぐ。
その隣にはもう既にビールを飲んで出来上がっている堀下たけしが東山まゆ子にしつこく絡んでいたが、それでも東山は不思議なことにその場を動こうとはせず、ひたすら二人にお酌をする。
その様子を複雑な顔で見ていた座間隼人は、手に持ったウーロン茶の入ったグラスをチビチビと飲みながら様子を伺い。
その座間隼人から少し離れた後ろでは、息の合った赤城文子と夏目さゆりが軽く軽食を摘まみながらウイスキーの水割りを楽しんでいるようだったが、赤城文子は自分の酒癖の悪さは知っているので、そのせいもあってウイスキーはかなり少なめのウーロン茶割を飲んでいるようだ。
そして大食いにチャレンジをしている背島涼太と杉田真琴は、さっき話していた通りローストビーフの早食い競争を二人で開始し。
そして最後にクールなインテリ風女性の一宮茜は、羊野と軽く会話を交わしながら盛り付けた料理を口に運んでいる真っ最中だった。
各々が好き勝手に動き出した事からも分かるように決められていたテーブルの席はもはや意味を持たず、みんな好き勝手に人の椅子へと座り食事と会話を楽しんでいるかの用に勘太郎には見えた。
(な、なんか俺だけ取り残された見たいになっているのは気のせいか。)
そんな被害妄想的な事を思いながら勘太郎はなんとも言えない喪失感を抱きながらも勢いよく目の前にあるローストビーフへとかじりつく。
その後行ったビンゴ大会では(よくスーパーに売られている)ティシューペーパーボックス・五箱詰め合わせセットをゲットした勘太郎はティッシュペーパー代が浮くと正直かなり喜んだが、その後、羊野の当てたタラバガニの詰め合わせセットを見た瞬間、勘太郎のテンションは再び一気にダダ下がりをする。
そんな勘太郎の疑問に応えるかの用に、任天堂の最新のゲーム機や最新のスマートホン、はたまた松阪牛の詰め合わせやキャビアと松茸の詰め合わせと言ったにわかには信じられない品物の数々が何故かビンゴ大会の景品としてみんなに与えられる。
その品物を手にした参加者達は皆高揚し、ビンゴ大会は大いに盛り上がる。
「わ~い、やったね。最新型のゲーム機。私これ前々から欲しかったんですよ。こんな高価な代物、本当に貰っちゃっていいんですか。畑上先輩!」
「ああ、別にいいよ。俺の家の叔父さんはあるゲーム会社の重役だから、言えばゲーム機の3~4代くらいは何とかなるんだよ。それにそのゲーム機、俺の家に後二台もあるからビンゴ大会の景品には丁度いいと思ってよ。余り物で悪いけどな」
「いえいえ、こんな高価な代物をただで貰えるだなんて光栄です。ありがとう御座います、畑上先輩!」
そう言うと杉田真琴はニコニコしながら畑上孝介の隣の席に座ると、畑上のカラになったグラスにビールをついでいく。
そんな人々の思いが交差し繰り広げられる中で、勘太郎だけがふてくされながら野菜サラダにかじり付く。
(一体このビンゴ大会はどうなっているんだ。何で俺を除いた人達だけが、高級で高価そうな品物をゲットしているんだ。絶対これはやらせだよ、やらせ。いかさまだよ。今すぐにやり直しを要求したい!)
だが、それを言うと心の狭い小さな人間だと思われかねないので、勘太郎は仕方なく何事も無かったかの用にジッと我慢をする。
(はあ~っ、俺も最新型のゲーム機、欲しかったな)
天井を仰ぎながら勘太郎が黄昏れていたその時、畑上孝介が何気に机の上に置いたスマートフォンのバイブ機能が作動し、思わぬ音に意表を突かれた勘太郎の心臓は大きく脈うつ。
ブルブル……ブルブル……ブルブル……!
「び、びっくりしたなあ、もう!」
畑上孝介がいるテーブルを伝わってテーブルが揺れたのでびっくりした勘太郎だったが、そのバイブ音や振動には誰も気付いてはいない。それだけ皆が盛り上がり、楽しんでいたという事だろうか。
だが、その一~二秒程のバイブ音に直ぐに気づいた畑上孝介は、スマホ携帯を手に取ると中身を確認後、また直ぐに元の位置へと戻す。
(び、びびらせるんじゃねえ~よ。テーブルなんかに置いているから駄目なんだよ。スマートフォンはちゃんとポケットにでも閉まっておけよ。後で無くすぞ。)と思いながらも勘太郎は、酔いが回り出した畑上孝介を何となくジト目で見ていると。酒を飲み上機嫌の杉田真琴が畑上孝介のカラになったグラスに再びビールを注いでいく。
「畑上先輩、まだまだ飲みが足りませんよ。ジャンジャン飲んでお酒に強い所を見せて下さい。ある人から聞きましたよ。畑上先輩はお酒にはめっぽう強いって!」
「もういい、もう飲めんわ。いい加減ビールをつぐのはやめてくれ!」
だがもう限界が来たのか、ビールを飲み過ぎた畑上孝介は口元を押さえながら更につごうとした東山まゆ子と杉田真琴のお酌を強く拒否する。
どうやら最初の段階で勢いよくビールを飲まされた事で、かなり酔いが回ってしまった用だ。
そんなやり取りを何となく見ていた勘太郎の隣では、態とらしく羊野が「このタラバガニの詰め合わせのセット、いいでしょう。羨ましいでしょう。足の一本くらいは分けてやってもいいですわよ!」といいながら、勘太郎にタラバガニの詰め合わせセットを見せびらかす。
そんな心無いおちょくりに対し……勘太郎の心はもう既に決まっているようだ。
(よし、家に帰ったらこいつのタラバガニ、半分以上は俺が確実に食ってやるからな!)と。
「皆さんとの親睦を深める為に毎年行っているミステリー同好会恒例の合宿にあたり、この場を提供してくれた大江大学OBの畑上先輩には、ミステリー同好会を代表して心からお礼の言葉を申し上げたいと思います。それでは皆さん、ミステリー同好会の発展と活動継続を願って、乾杯!」
夏目さゆりが高らかにグラスを上げながら言葉を発すると、同時に他のミステリー同好会の部員達が皆一斉に手に持ったグラスを上げて「乾杯!」と応える。
その乾杯の音頭が終わったのと同時に勘太郎は大皿を取り出しながら、テーブル席から少し離れた和・中・洋の料理が並ぶバイキングコーナーへと早足で動く。
時刻は夜の二十一時〇五分。
予定より五分遅れて始まった夕食会に勘太郎は人の目を気にすること無く食べ物にガッつく。それだけ今の勘太郎はお腹が減っているのだ。
窓を激しく叩く大雨と草木がこすれて響く烈風の音、そして雷の鳴る雷鳴からも分かる用に、外は今正に大きな嵐と化していた。
そんな事態をまるで逃避するかの用に、皆各々がバイキングコーナーへと足を向ける。
湯上がりと言う事もあり誰もが浴衣を着ていたので、勘太郎達もそれに合わせて今夜の夕食会だけは浴衣を着る事にしたようだ。
下の方が異常にスウスウする浴衣を着こなしながらバイキングコーナーに足を踏み入れた勘太郎は、隣で出くわした背島涼太とローストビーフの所でお互いに止まる。
その香ばしい肉汁と食い応えのある重量感が勘太郎と背島涼太の胃袋を刺激したからだ。
「取りあえずは肉、肉、肉だな。美味しそうなローストビーフを見た時からこいつが食べたくて密かに狙っていたんですよ!」
「ハハハっ、探偵さんもですか。実は俺も何ですよ。取りあえずは肉、何にをおいても肉ですよね!」
互いに笑い合いながら勘太郎と背島涼太は、まるで競い合うかの用にローストビーフを直ぐさま取り合う。
「はっ!」
「でやあぁぁ!」
……。
「しかし背島さん、お風呂の中に入ってくるのが五十分くらい遅れて入って来ましたけど、ちゃんとお風呂には入れたのですか? 俺達が大浴場から脱衣所に入って来るのと同時に慌ただしく中へと入って行きましたが」
「早々と体だけを洗って出てきましたよ。湯船には明日の朝にでもゆっくりと入るつもりです」
「朝風呂ですか、それもいいですね。で、マッサージチェアーの方はどうでしたか。随分と長々と使っていた用ですが」
「なかなかに良かったですよ。機械も最新型でしたし、肩コリも大部ほぐれましたからね」
「それはいいですね。なら明日の朝は俺も試して見ようかな」
そんな他愛も無い話を交わしながら、勘太郎は夕食会が行われている会場を何気に見る。
管理人兼料理人の山野辺を除いて、十一人しかいないのにも関わらず百人は収容出来そうな大きな食堂をただで使わせて貰っているのだから、正直言って畑上家の人達には頭が下がる思いだ。
入浴時の畑上孝介の話だと、食材の在庫整理で賞味期限寸前の物を処分するのには丁度いいからと、ここ二~三年はミステリー同好会の部員達にただで場所を提供しているとの話だ。
(まあ俺達としても、ただでこんないい所に宿泊が出来て尚且つ美味しい料理が食べられるのだから、文句を言う奴は先ずいないだろう。)
そんな食堂の中のバイキングコーナーには焼魚や蒸し魚は勿論のこと、ローストビーフ(牛肉)や照り焼きチキン(鳥肉)丸焼きポーク(豚肉)が並び、各種の野菜をふんだんに使ったサラダバーも充実している。
それに紅茶やコーヒー、ジュース類やお酒類が飲めるドリンクバーや、ケーキやプリン、ムース系やシャーベット、そして各種の果物と言ったスイーツバーなども用意されている事から、恐らくはスイーツ好きの女子達にも喜ばれる事は請け合いだ。
そして勘太郎達が座っている広間の真ん中には大きく長四角い長方形のテーブルが用意され、真白な布に花柄の刺繍がされたテーブルクロスが綺麗に被せられている。
テーブルの上には勘太郎達一人一人の名前が書かれた紙が置かれ、その名前に合わせるかの用に木製の椅子が綺麗に配置されていた。
その事からも分かる用に、どうやら勘太郎達の座る座席は最初から予め決められている用だ。
因みに上座に座る畑上の左側から数えて、畑上孝介・堀下たけし・東山まゆ子・杉田真琴・背島涼太・座間隼人・赤城文子・夏目さゆり・黒鉄勘太郎・羊野瞑子・一宮茜・の十一人だ。
そんな食堂広間の状況を軽く確認していると、勘太郎の後ろから屈託の無い明るい声が飛ぶ。
「あんた達ここへ来るのがなかなか早いわね。おかげで一番乗りでローストビーフを食べようとした私の計画が水の泡だわ」
そう言って冗談ぽく笑うのは、日焼けした小麦肌とショートカットの髪型がよく似合う杉田真琴である。
「ハハハ、探偵さん、背島先輩、食べてますか。私にも少しローストビーフを分けて下さいよ!」
「確か……杉田真琴さんでしたか。ええ、ローストビーフならまだまだ沢山ありますから、かまわずに取って行って下さい」
「おお、やはりお前も来たか、杉田。去年はお前にローストビーフを全部持っていかれたが、今年は俺も負けないからな!」
「どちらが多くのローストビーフを食べる事が出来るかどうか、また今年も競争と言う訳ですか」
「まあ、そう言う事だな」
「ええ、受けて立ちますよ、背島先輩。探偵さんもこの勝負、どうですか」
そう言うと杉田真琴と背島涼太は意気揚々と勘太郎に視線を向ける。
「いやいや、流石に俺は遠慮しておきますよ。もっと落ち着いていろんな料理を食べたいですし」
「そうですか、残念です」
そう言うと杉田真琴と背島涼太は、大きな取り皿にローストビーフをめい一杯乗せると、そそくさと自分の席へと戻って行く。
「やはり気のせい……だったか」
(あの時コインランドリーで一瞬見せた杉田真琴の憎悪の顔と、背島涼太が脱衣場で一瞬見せた邪悪な笑みが今でも忘れられない。だがそれも今は、彼らの屈託の無い笑顔を見て俺の勘違いだと素直に思える。)
そう考え直しながら勘太郎は、和・中・洋のいろんなおいしそうな料理を見て回る。
取り皿にローストビーフや野菜と言った副菜を始め、味噌汁やご飯と言った主菜を共に膳で運んで来た勘太郎は、速やかに自分の席へと戻る。
自分の席につき周りを見てみると、既に皆各々が料理をつまみながら宴を楽しんでいた。
上座に座る畑上孝介はタッチパネル型の青い携帯電話を机の上に置きながら、よく冷えたビールをさも美味しそうに喉越しを楽しむと、その飲み干したビールのグラスに隣にいつの間にか来ていた東山まゆ子がぎこちなく愛想笑いを浮かべながらかいがいしく畑上にビールをつぐ。
その隣にはもう既にビールを飲んで出来上がっている堀下たけしが東山まゆ子にしつこく絡んでいたが、それでも東山は不思議なことにその場を動こうとはせず、ひたすら二人にお酌をする。
その様子を複雑な顔で見ていた座間隼人は、手に持ったウーロン茶の入ったグラスをチビチビと飲みながら様子を伺い。
その座間隼人から少し離れた後ろでは、息の合った赤城文子と夏目さゆりが軽く軽食を摘まみながらウイスキーの水割りを楽しんでいるようだったが、赤城文子は自分の酒癖の悪さは知っているので、そのせいもあってウイスキーはかなり少なめのウーロン茶割を飲んでいるようだ。
そして大食いにチャレンジをしている背島涼太と杉田真琴は、さっき話していた通りローストビーフの早食い競争を二人で開始し。
そして最後にクールなインテリ風女性の一宮茜は、羊野と軽く会話を交わしながら盛り付けた料理を口に運んでいる真っ最中だった。
各々が好き勝手に動き出した事からも分かるように決められていたテーブルの席はもはや意味を持たず、みんな好き勝手に人の椅子へと座り食事と会話を楽しんでいるかの用に勘太郎には見えた。
(な、なんか俺だけ取り残された見たいになっているのは気のせいか。)
そんな被害妄想的な事を思いながら勘太郎はなんとも言えない喪失感を抱きながらも勢いよく目の前にあるローストビーフへとかじりつく。
その後行ったビンゴ大会では(よくスーパーに売られている)ティシューペーパーボックス・五箱詰め合わせセットをゲットした勘太郎はティッシュペーパー代が浮くと正直かなり喜んだが、その後、羊野の当てたタラバガニの詰め合わせセットを見た瞬間、勘太郎のテンションは再び一気にダダ下がりをする。
そんな勘太郎の疑問に応えるかの用に、任天堂の最新のゲーム機や最新のスマートホン、はたまた松阪牛の詰め合わせやキャビアと松茸の詰め合わせと言ったにわかには信じられない品物の数々が何故かビンゴ大会の景品としてみんなに与えられる。
その品物を手にした参加者達は皆高揚し、ビンゴ大会は大いに盛り上がる。
「わ~い、やったね。最新型のゲーム機。私これ前々から欲しかったんですよ。こんな高価な代物、本当に貰っちゃっていいんですか。畑上先輩!」
「ああ、別にいいよ。俺の家の叔父さんはあるゲーム会社の重役だから、言えばゲーム機の3~4代くらいは何とかなるんだよ。それにそのゲーム機、俺の家に後二台もあるからビンゴ大会の景品には丁度いいと思ってよ。余り物で悪いけどな」
「いえいえ、こんな高価な代物をただで貰えるだなんて光栄です。ありがとう御座います、畑上先輩!」
そう言うと杉田真琴はニコニコしながら畑上孝介の隣の席に座ると、畑上のカラになったグラスにビールをついでいく。
そんな人々の思いが交差し繰り広げられる中で、勘太郎だけがふてくされながら野菜サラダにかじり付く。
(一体このビンゴ大会はどうなっているんだ。何で俺を除いた人達だけが、高級で高価そうな品物をゲットしているんだ。絶対これはやらせだよ、やらせ。いかさまだよ。今すぐにやり直しを要求したい!)
だが、それを言うと心の狭い小さな人間だと思われかねないので、勘太郎は仕方なく何事も無かったかの用にジッと我慢をする。
(はあ~っ、俺も最新型のゲーム機、欲しかったな)
天井を仰ぎながら勘太郎が黄昏れていたその時、畑上孝介が何気に机の上に置いたスマートフォンのバイブ機能が作動し、思わぬ音に意表を突かれた勘太郎の心臓は大きく脈うつ。
ブルブル……ブルブル……ブルブル……!
「び、びっくりしたなあ、もう!」
畑上孝介がいるテーブルを伝わってテーブルが揺れたのでびっくりした勘太郎だったが、そのバイブ音や振動には誰も気付いてはいない。それだけ皆が盛り上がり、楽しんでいたという事だろうか。
だが、その一~二秒程のバイブ音に直ぐに気づいた畑上孝介は、スマホ携帯を手に取ると中身を確認後、また直ぐに元の位置へと戻す。
(び、びびらせるんじゃねえ~よ。テーブルなんかに置いているから駄目なんだよ。スマートフォンはちゃんとポケットにでも閉まっておけよ。後で無くすぞ。)と思いながらも勘太郎は、酔いが回り出した畑上孝介を何となくジト目で見ていると。酒を飲み上機嫌の杉田真琴が畑上孝介のカラになったグラスに再びビールを注いでいく。
「畑上先輩、まだまだ飲みが足りませんよ。ジャンジャン飲んでお酒に強い所を見せて下さい。ある人から聞きましたよ。畑上先輩はお酒にはめっぽう強いって!」
「もういい、もう飲めんわ。いい加減ビールをつぐのはやめてくれ!」
だがもう限界が来たのか、ビールを飲み過ぎた畑上孝介は口元を押さえながら更につごうとした東山まゆ子と杉田真琴のお酌を強く拒否する。
どうやら最初の段階で勢いよくビールを飲まされた事で、かなり酔いが回ってしまった用だ。
そんなやり取りを何となく見ていた勘太郎の隣では、態とらしく羊野が「このタラバガニの詰め合わせのセット、いいでしょう。羨ましいでしょう。足の一本くらいは分けてやってもいいですわよ!」といいながら、勘太郎にタラバガニの詰め合わせセットを見せびらかす。
そんな心無いおちょくりに対し……勘太郎の心はもう既に決まっているようだ。
(よし、家に帰ったらこいつのタラバガニ、半分以上は俺が確実に食ってやるからな!)と。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる