白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第六章 『不条理の矢』 大雨の日に訪れたペンションでボウガンを持つ謎の人物が勘太郎達に迫る。矢のトリックを操る暗殺者との推理対決です!

6-23.真実の行方……そして決着

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「ええ、その女探偵さんの言う通りよ。畑上先輩と堀下先輩を狙ったのは、何も東山先輩を救う為でもなければ、ましてやこのミステリー同好会の部員達の為でも無いわ。みんな私個人の恨みの為よ。一年前に大学を辞めた立花明美は、私の実の姉よ。五~六年前に親が離婚をして離れ離れになって共に名字は変わってしまったけど……その姉が大学を辞めて久しぶりに私の所に会いに来たのよ。何故あれだけ行きたがっていた都会の大学を辞めてしまったのかは不思議だったけど、私はあえて聞かなかったわ。人にはいろいろと事情があると思ったから。でも今にして思えばもっと真剣に姉の心に踏み込んで話を聞いていれば良かったと今は後悔をしているわ。そうすれば姉はもしかしたら死なずに済んだかも知れないのだから」

「な、死んだ、だと……当時大学一年生だった立花明美さんが!」

 その一宮茜の思わぬ発言に勘太郎を始めとしたミステリー同好会の部員達が皆思わず絶句する。

「私に会いに来て一晩泊まったその翌日の朝だったわ。家の裏の杉の木に紐を掛けて、首を括って自殺をしたのよ。そしてその第一発見者が……この私だったと言う訳。姉さんの足下には手紙が置いてあって大学で起きた事が事細かく書かれてあったわ。大学で堀下たけしと言う怖いストーカーに付きまとわれて気が滅入っていた事や、それと同じくらいに他の部員達も本当に困っていた事。そして合宿で畑上孝介と堀下たけしと言う先輩に部屋の中で無理矢理に強姦された事とかが明確に記されていたわ。その手紙を警察に届けようかとも考えたんだけど、でもそうはしなかった。何故だと思う。勿論姉さんの尊厳と誇りを守り、屈辱と恥辱を与えてくれた大学のOBの二人の男達に復讐をする為よ。奴らの悪行はもう刑務所に入って償える物では無いわ。彼らは明らかに姉の尊厳を踏みにじり、確実に死に追い込んだのだから。だから彼らにも恐怖と言う苦しみを与えてあげないと……そう思ったんです」

 そこまで言うと一宮茜は一歩前に踏み込むと、勘太郎に向けて手に持つボウガンを頻りに構え直す。

「堀下先輩のあの様子を見る限りでは、私と東山先輩が直前で部屋を交換していた事は知らなかったみたいね。と言う事は、当然死んだ畑上先輩からも東山先輩の部屋の番号のことは聞かされてはいなかったと言う事。恐らく畑上先輩は直前にその事を堀下先輩に知らせるつもりだったのでしょうね。でも堀下先輩が本来の部屋番号を知らなかったのは私としては好都合でしたわ。この部屋が実は夜這いをかける為に畑上先輩が用意した部屋とも知らずに宿泊してくれたのですから。でも完璧と思われていたそんな計画も、探偵さん……貴方達が見事にぶち壊してくれた!」

 自分の言葉に感情を爆発させた一宮茜は傍にあった木製の椅子を勘太郎に向けて大きく蹴り上げるが、その悲痛な思いを乗せて大きく音をたてながら床に落ちた木製の椅子は勘太郎の足下でピタリと止まる。

「堀下たけしはどこ? 何処に隠したの。まだ近くにいるんでしょ。ここへ今すぐに連れて来なさい。今すぐに。出ないと、この毒の矢で……黒鉄の探偵さん、あなたを討つ事になるけどいいのかしら。私は自分の目的を達成する為だったら容赦はしないわよ!」

 そう言いながら狂気に捕らわれた表情で一宮茜はボウガンの存在を大袈裟に勘太郎に見せ付ける。だがそれは逆に言うとその一本の矢を外してしまったら、その瞬間に一宮茜は堀下たけしを殺す機会を永遠に失ってしまう事を意味していた。

「この部屋に連れてくる気が無いのならそこをどきなさい。自分で各部屋の中を探すから。必ず見つけてこの毒の矢を堀下たけしのその体にぶち込んでやるわ。絶対にね!」

 その最後通告と思われる脅しの言葉に勘太郎は冷静さを装いながらも言葉を絞り出す」

「ああ、堀下さんですか。彼なら今、隣の部屋で、恐怖に怯える子供のように泣きべそを掻きながら震えていますよ。確かに堀下たけしをこの部屋から人知れず避難させる時、疑心暗鬼になってなかなか出て来てはくれない彼を一体どうやって部屋から出そうか苦心しましたが、その時羊野の奴が『彼が部屋から出て来ない理由は、犯人が一体誰か分からないからですよね。だったらもう正直に一宮茜さんが犯人だと教えて差し上げたらいいんじゃないですか。もしそれが間違いだったとしても、その時に誤報でしたと謝ればいいのですから』と俺に言ってきたから、そのままの言葉を堀下たけしさんに伝えて少し揺さぶりを掛けて見たのですよ。その効果があったのか堀下さんは酷く血相を変えて、あなたが譲ってくれた三〇六号室の部屋から飛び出すようにして出ていきましたよ。あの時の堀下さんの行動は本当に早かったな。何せこのペンションにいるミステリー同好会の部員達の中で一番信用出来ると思っていた貴方が、実はその命を狙う犯人だったのですから」

「その口ぶりだと、仮に犯人の正体を知っていても知らなくても、最初からでまかせを言って堀下先輩を部屋から引きづり出すつもりだったと言う事ね。なるほど、そんな誰かを犯人だと決めつける言葉の嘘は、警察関係者なら例え口が裂けても絶対に言わない事ですし使わない手だわ。でもあの白い羊の女探偵さんなら平気で人を騙すような嘘を言うと……つまりはそう言う事ね。この魔女め、確か名前は羊野瞑子だったかしら……確かにあの人の言っていた通りの人だったわ!」

 そう言い放つと一宮茜は、勘太郎とその後ろで不適に笑う羊野を見つめながら血走った目で凝視する。

「もうこんなバカな事はやめるんだ。こんな事をして本当に亡くなったお姉さんが喜ぶとでも思っているのか。そのお姉さんが残した手紙はまだあなたが持っているんだろ。だったら堀下たけしを追求する手段なんかまだいくらでもあるはずだ。叩けばいくらでも埃が出るそんな人物みたいだからな。刑事事件でも、民事でも追求はできると思うんだが」

「うるさい、うるさい、赤の他人のあなたに一体何が分かると言うのよ。姉の手紙には、自分のことを本気で心配してくれたのは夏目さゆりさんだけだと書いてあったわ。連絡が無い私を心配して何度も電話をしてくれたってね。だからいろいろと心配や迷惑を掛けた夏目部長にだけは本当に申し訳ないと私も思っているわ」

「い、一宮さん……立花明美さんを助けられなかった私を、そんな風に思っていてくれていたのね。こんな不甲斐ない私を……うううっ」

 そう言うと夏目さゆりは下を向きながら静かに泣き出す。

 言い様も無い緊迫と緊張が辺りを包む中、一宮茜の額の汗がゆっくりと流れ落ち右眼の視界を一瞬遮る。その汗を右手の裾で咄嗟に拭おうとした彼女の隙をあの羊野瞑子が見逃すはずが無かった。

「黒鉄さん、ちょっと失礼しますね。一宮さん、これを見て下さいな!」

「ひ、羊野、お前一体何を……? ま、まさか、や、やめろ、やめろおぉぉ。やめてくれぇぇー、ああぁぁぁっ!」

 勘太郎がそう言うよりも早く、羊野の手により勘太郎の履いている黒のスーツのズボンが一瞬で足下までズリ降ろされると、履いている白いボクサーパンツが露わとなる。

 そう羊野の予期せぬ手により、勘太郎のモッサリボクサーパンツが一宮茜の眼前に行き成り晒されたのだ。

 ズサッ……ズルリ!

「あ、あれは、男の人の……股間とボクサーパンツ……ひ、ひぃぃぃーっ……へ、変態……い、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その予想にすらしていなかった思わぬ光景をつい目に焼き付けてしまった一宮茜は、悲鳴を上げながら酷く狼狽する。
 それもそのはず、極度の男性嫌いでもある一宮茜には、それだけ衝撃的でインパクトのある汚わらしい物を直に見てしまったからだ。

「な、何をするんだ、お前!」と言いながらズボンを履き直す為にしゃがみこんだ勘太郎を今度は豪快に突き飛ばすと、そのまま前のめりに倒れ込む勘太郎の上を羊野はまるで身軽な猫のように素早く通り過ぎる。その両手には先程一宮茜が蹴り飛ばした木製の椅子がしっかりと握られていた。

「ひぃ、ひぃぃぃー。く、来るな。来るな!」と言いながら無造作に放たれた一本の矢は咄嗟に羊野が盾代わりに突き出した木製の椅子へと当たり、その威力を失う。

 これでボウガンの矢による恐怖は無くなったのだが、羊野の動きは止まらない。そのまま一宮茜を豪快に蹴り飛ばすと、彼女の上に馬乗りになりながら(羊野が隠し持つ自前の)打ち刃物の包丁を勢いよく振り上げる。その異様な光景は、なんの躊躇も無く包丁を振り下ろそうとするいつもの羊野瞑子の本当の恐ろしさを彷彿とさせる。

「ひ、ひいぃぃ!」

 その恐怖に両手で顔を覆う一宮茜。

(ま、不味い。羊野の奴は本当に一宮茜を刺し殺すつもりだ。羊野からしてみたら、命を狙おうとした敵を速やかに確実に抹殺すると言う考えなのだろうが、本当に殺してしまったらそれこそ本末転倒だ。元円卓の星座の狂人にとってはごく普通の行動なのだろうが、ここで羊野に一般人を殺させる訳にはいかない。何とかして早く羊野を止めなけねば!)

 けつ丸出しで倒れ込み、今も身動きが取れないでいる勘太郎は、大きな声を上げながら天井に向けて叫ぶ。

「あ、赤城先輩。ひ、羊野の奴を止めてくれ。頼む!」

 その声を発するのと同時に赤城文子は勘太郎の横を勢い良く通り過ぎると、馬乗りになっている羊野に向けて蹴りをお見舞いしようとする。だがそんな赤城文子刑事の素早い蹴りに反応するかの用に羊野は振り上げていた包丁を引っ込めると、猛獣のように一宮茜から離れ、後ろにいた赤城文子と距離を取りながら対峙をする。

 その殺意の隠った赤い瞳は獲物を狙う猛獣の用にギラギラと光り、無表情に笑うその美しい顔はより一層不気味に感じられた。

「どういうつもりですか、赤城文子刑事。今いい所なのに……邪魔はやめてくれませんか」

「それはこちらの台詞よ。あんた一宮茜さんを殺すつもりなの?」

「ええ、そうですよ。彼女は明らかに私達を殺すつもりでしたから……その代償はその命で払って貰わないと釣り合いが取れないじゃ無いですか。それに一宮茜さんは黒鉄さんを殺そうともしました」

「それが一番の理由か。確かあなたが交わした三つの約束の一つに、こんな事が書かれていたわね。『狂人・白い羊こと羊野瞑子は、黒鉄志郎の認めた、二代目・黒鉄の探偵・黒鉄勘太郎の命を全力で護らなくてはならない!』だったかしら、だからあなたはその命を脅かそうとした一宮茜さんを殺そうとしているのでしょ。でも本当は一宮さんにそんな気は全く無いことは貴方にだってもう既に分かっているはずよ。今の矢だってあなたが迫ってきたから、ただ勢いで闇雲に撃っただけでしょ」

「でも、命を狙われた事に変わりはありませんよね。彼女には速やかに死んで頂かないと、黒鉄さんと一緒に気持ちのいい朝食を食べる事は出来ませんからね」

「いいや、一宮さんが死んだら、俺は気持ち良くなんか無いぞ。羊野お前、上司である俺に嫌な気持ちを抱かせながら朝食を食べさせるつもりか!」

 そんな勘太郎の口から出た叫びを無視しながら、赤城文子刑事と羊野瞑子は激しく睨み合う。

 赤城文子刑事の手には木製の椅子が力強く握られ。対する羊野の両手にはどこぞのメーカーの打ち刃物らしき製法で作られた業物の包丁がしっかりと握られていた。

「ホホホホっ、赤城文子刑事と殺し合うのも何だか楽しそうですわね。警視庁捜査一課特殊班のトラブルメーカー、赤城文子刑事の力、何処までやれるか見せて貰おうかしら。何でも空手三段、剣道二段の腕前だとか。結構お強いのは知っていましたからね。楽しみですわ」

「この土壇場に来て本来の狂人・白い腹黒羊に戻るだなんて……凶悪凶暴の狡猾な狂人という異名は伊達では無いと言う事かしら。でも貴方を封じる手が全く無いわけじゃ無いけどね」

 そう言うと赤城文子刑事は手に持っていた木製の椅子を放り投げると、いそいそとズボンを履き直している勘太郎を行き成り羽交い締めにして羊野に見せ付ける。

「さあ、どこからでも掛かってきなさい。でもその前に、ここにいる私の後輩、黒鉄勘太郎があなたの相手よ。さあ行きなさい、私の都合のいい忠実な下僕……じゃなくて、私の頼もしい後輩よ。私の代わりにあの羊野瞑子さんと戦うのよ!」

「戦うって……俺がですか?」

「当然でしょ。私は勇敢な警視庁の刑事ではあるけれど曲がりなりにも歴としたか弱い一人の女性なのだから、そんな私の為に先に戦うのはむしろ当然のことじゃないかしら。そしてあなたが彼女の体力を出来るだけ弱らせる事ができたなら、その時はこの私が羊野さんを制してからあなたの骨を拾ってあげるから安心して行って来なさい!」

「骨は拾ってやるとか言っていますけど。あんた今、確かに……俺のことを下僕とか、とんでもない事をサラリと言ってはいませんでしたか」

「い、言ってはいないわよ。それはあなたの幻聴よ。そんな事よりもいいから早く行きなさい。それともこのか弱い私に最初に戦えとでも言うのかしら」

「言うのかしらってあんた、どの口でか弱いなんて言うんだよ。いいから放して下さいよ、赤城先輩!」

「何言ってんのよ。私今、あなたの部下に因縁を付けられて、しかも殺されそうなのよ。あれって間違いなくあなたのへっぽこ探偵会社の部下よね。だったら上司でもある貴方が責任を持って私を助けるのが義務でしょ!」

「一昨日の深夜に、ボウガンを構える犯人に果敢にも立ち向かっていったあの勇姿は一体何処に消えてしまったのですか。先程の羊野と同じように俺を盾代わりにするだなんて!」

「だって私、まだ死にたくはないから」

「俺だって同じですよ!」

 お互いにその体を盾にし合いながら、まるでコントのようなドタバタ劇を見せつけられた羊野は「はあ~っ」と大きく溜息をつくと、両手の包丁を太股に備え付けられている鞘の中へと静かに戻す。

「なんだか今のあなた達のやり取りを見ていたら、もうどうでも良くなって来ましたわ。なんだか余りにも馬鹿らしいので赤城文子刑事、この勝負、一先ずはお預けですわね。もうやる気を削がれてしまったので勿論一宮茜さんも殺しはしませんわ」

「フフフ、そうしてくれると私としても助かるわ」

 悠然とした態度で物を言う赤城文子刑事を見つめながら、羊野は意味ありげに赤城文子の目の前に立つ。

「まさか赤城文子刑事の後輩でもある黒鉄さんを盾代わりに使うだなんて、ほんと、非道極まりない先輩ですわね。黒鉄さんが時々見せる性格の悪さは、赤城文子刑事、恐らくは貴方が原因の用ですわね。何だかんだ言っても黒鉄さんは貴方のやり方を無意識の内に取り入れて探偵業に使っている節がありますからね。全く、黒鉄さんに変な事ばかり教えないで下さい。本当に悪い先輩ですわね」

「憧れの先輩と言って貰いたいわね。私がまだ高校生だった頃、黒鉄探偵事務所の所長だったもう今は亡き黒鉄志郎の元で探偵見習いの助手としてバイトをしていた時があったからね。もし私が黒鉄志郎の弟子だと言うのなら、私は勘太郎の姉弟子と言う事になるわ」

「ええ、知っていますよ。赤城文子が黒鉄志郎の弟子の一人である事はね。だからこそ黒鉄さんは貴方の事を先輩と言って慕っている訳ですから」

 そう言うと羊野は複雑な顔で勘太郎と赤城文子刑事を見ていると、隣の部屋から血相を変えて出て来た堀下たけしが意気揚々と部屋の中へと入ってくる。

「おお、座間の奴が言っていた用に、事件はもう終わった用だな。一宮茜お前、よくも畑上を殺し、この俺をも亡き者にしようとしてくれたな。この礼は警察が来るまでタップリとさせて貰うぜ。立てや一宮、この人殺しが! 今ここでお前を半殺しにしてやるぜ!」

 力なく起き上がろうとする一宮に、堀下が怒りの表情で迫る。

「ううう~、お姉さん、ごめんなさい。結局……私は……堀下たけしを殺せなかった」

「や、やめなさい、堀下! 勘太郎、堀下たけしを止めて!」

「堀下さん、やめて下さい!」

 勘太郎と赤城文子刑事の制止を振り払いながら罵声を浴びせる堀下たけしは構うこと無く一宮茜に掴みかかろうとする。だがそんな堀下たけしの頬に強烈な平手打ちが飛ぶ。

 パッシン!

「いい加減にして下さい、堀下先輩。こうなったのは元はと言えば全て畑上先輩と堀下先輩の悪行から始まった事なんですよ。立花明美さんも・一宮茜さんも・それにここにいるミステリー同好会の部員達だって、一体どれだけあなたの行いに苦しんだ事か!」

「な、なんだとう。夏目、てめえ~この俺に意見するのか。随分と偉くなった物だな!」

「夏目部長だけじゃないわ。私達ももう許さないんだからね!」

 その声に周りを見てみると、堀下をまるで取り囲むかの用にミステリー同好会の部員達が皆集まり出す。
 その目には、もう堀下たけしを絶対に許さないという決意と意思が強く表れていた。

「な、何なんだよ、こいつら……こ、後輩のくせにむかつくぜ! ああそうかよ、分かった、分かったよ。もう来ねえよ。頼まれたってもうミステリー同好会にはもう二度と顔はださね~よ。お前らは全員で俺を殺そうとした奴らだからな。怖くて一緒になんかいられないぜ! だが……その前に」

 そう言うと堀下たけしは目の前に立ちはだかる夏目さゆりの胸ぐらを左手で勢いよく掴み上げると、右手の拳を強く握り締めながら上へと上げる。どうやら本気で夏目さゆりの顔を殴るつもりのようだ。

「殴るのなら殴ってみなさい。今度こそ私は部長としてみんなを守るんだから!」

「いい度胸だ。夏目、覚悟しろよ!」

「夏目さん、危ない!」

 勘太郎はそんな夏目さゆりの顔にまるで覆い被さる用にして、勇敢な彼女を守ろうとする。

(こうなったら彼女のために二~三発、堀下たけしの拳を受けざる終えないか。)

 そう思いながらもやがて振り下ろされるであろう堀下たけしの攻撃をずっと待っている勘太郎だったが、一向に堀下からの攻撃がこない。それどころか音も気配も全くしない。

 勘太郎は疑問に思いながらもゆっくりと後ろを振り返って見ると、右手を掲げながら仁王立ちをする堀下たけしの姿を改めて凝視する。

 顔から大量の汗を掻きながら体を硬直させる堀下たけしの右腕は赤城文子刑事にがっしりと抑えこまれ。更にその堀下たけしの首元には羊野が抜き放った包丁の刃がピタリと添え当てられていた。

「ひ、ひぃぃぃーぃぃ!やめろ、やめてくれ!」

「堀下さん。もういい加減うるさいですわよ。これ以上騒ぐと言うのなら、このまま頸動脈を切断してしまいますけど、よろしいでしょうか?」

「堀下、お前、まさか私が刑事だと言う事を忘れた訳じゃ無いでしょうね。ここへ来る前にいろんな人達からあなたに受けた被害の声も沢山聞いているから、今までに起こした悪行の数々を貴方には洗いざらい語って貰うわよ。と言う訳で今からタップリと別室で絞らせて貰うからそのつもりでいろよ。ちょっと別室に来い、堀下!」

「ひ、ひぃぃぃ、俺は無実だ。俺は被害者なんだよ。助けて、誰か助けてくれ!」

 そう言いながら行き成り暴れ出した堀下たけしを赤城文子刑事は「うるさい、大人しくしろ!」といいながら力強く抑え込むと、そのまま廊下へと引っ張り出す。

 赤城文子刑事の毅然とした厳しい姿勢に明らかに怯えている堀下たけしはまるで借りてきた猫のようにおとなしくなる。そんな二人を見送りながら勘太郎と羊野、そしてミステリー同好会の部員達は、この事件が終わったと言う安堵と思わぬ幕引きに、皆呆然とするのだった。
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