白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

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第六章 『不条理の矢』 大雨の日に訪れたペンションでボウガンを持つ謎の人物が勘太郎達に迫る。矢のトリックを操る暗殺者との推理対決です!

6-24.裏で暗躍する不気味な狂人の影

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「嫌だあぁぁーっ! なんで俺が警察に連行されないと行けないんだよ。話す事は全て赤城の奴に話したじゃないか。この上まだ用があるのかよ。俺は被害者なのによ!」

「うるさい、つべこべ言わずにいいから来るんだ!」

 泣きべそを掻きながら警官に連れて行かれる堀下たけしを見ながら、勘太郎と羊野はその光景を静かに見守る。

 今日はこのペンションを出て行く三日目。

 時刻は朝の七時三十分。日は昇り明るい日差しが晴れ渡った山々を神々しく照らし出す、そんな気持ちのいい朝。

 あれから完全に雨は止み、水かさを減らした川の流れは随分と穏やかになる。

 その為、水没していた川の橋はついには通れる用になり。その事を知った地元の警察関係者達や救急隊の人達は、どっとペンション内の敷地へとその足を踏み入れる。

 いくつもの専用車両が外の駐車場に駐車する中、もう既に事の事情を携帯電話で警察に説明していた赤城文子刑事は助けに来た警察管達をペンション内に招き入れると、その時の状況を更に詳しく説明する。

 それと同時に各部屋にいたミステリー同好会の部員達や管理人の山野辺コウらは次々と助け出され、救急隊が用意してくれた車両へと皆が乗り込んで行く。
 どうやら警察関係者達の話によると、この後地元の病院で各々健康状態を確認後に、一人一人に事情聴取を受けて貰う予定との事だ。

 主犯格でもある一宮茜に協力をしていた山野辺コウは犯人隠避罪、及び隠匿罪、蔵匿罪が適応されるので直ぐに警察に連行され。部分的ではあるが犯人に協力をしていた部員達の彼らにもまたこの後何らかの処罰が言い渡される事だろう。
 そんな彼らを夏目さゆりは、ミステリー同好会の部長として……そして頼れる友人として少しでも部員達の助けになればと、最後まで彼女なりに彼らの弁護をしていくつもりのようだ。

 お互いに励まし合うミステリー同好会の部員達の最後の姿をペンションの入り口の玄関前で見ていると、二人の警察官に両脇を抱えられながら出て来た一宮茜は勘太郎の姿を見ると、勘太郎と羊野の目の前でピタリと止まる。

「探偵さん、私は後悔なんてしていませんよ。私は自分の意思で姉の無念を晴らしたのですから」

「一宮さん、まだそんな事を言っているのですか。その為に畑上さんが死に、みんなを巻き込んで、あなた自身もその大きな代償を払う事になったのですよ。大きな贖罪と罪と一緒に」

「かまいませんわ。でも唯一の心残りは、あの堀下たけしを殺せなかった事です。探偵さん、堀下たけしの罪を追求し、処罰する事が本当にできるのでしょうか?」

「まあ、いろいろと細かい嫌がらせや窃盗・暴力・猥褻・婦女暴行・恐喝行為、それにストーカー行為はいろんな女性にしていた見たいですからね。民事や刑事事件でも充分に立件出来ると思いますよ。他の所で行っていた別件での婦女暴行事件が明るみになって来ましたからね」

「それは一体どう言うことですか?」

「あの堀下たけしの持っていた携帯電話のホルダーの中から他の被害者達の女性を強姦した時に映した証拠の写真が何枚も残されていたのですよ。恐らく堀下たけしはその写真をネタにその被害者達の口を封じて泣き寝入りをさせていたみたいですが、今回はそれが逆に決定的な証拠になると思いますから、もう堀下たけしはその罪から逃げる事はできないと思いますよ」

「そう……そうですか……これでやっと、姉も少しは報われると思います」

 それだけ言うと一宮茜は静かに下を向きながら目を瞑る。そんな彼女に羊野瞑子は被ってある精巧に作られた白い羊のマスクを向けながら堂々と近づく。

「フフフ、一宮茜さん、どうやら皆さんのおかげで命拾いをした見たいですわね。あなたはこれから罪を償う為に狭い塀の中で過ごす事になりますが、出所したその数年後、また面白いトリックで誰かを殺害しようと考えているのなら真っ先に私に教えて下さいな。また貴方とは推理戦で戦ってみたいですからね」

「いや、それを教えてしまったら、私が犯人だと一発でバレちゃうじゃないですか。それにあなたとはもう二度と関わり会いたくはないですからね」

「ホホホホっ、それが賢明な判断ですわね……一宮茜さん。せっかくみんなに助けて貰った命なんですから、もっと自分を大切にしないとね」

 そんな羊野のデリカシーの無い言葉に、一宮茜は小さく笑う。

「さあ、そろそろ行こうか」と、連れて行こうとした警察官を羊野が何かを思い出したかのように直ぐに止める。

「最後にもう一つ、いいですか。今回貴方が仕掛けたこの密室の矢によるトリック。もしかしてこれは貴方が考えたトリックではありませんね」

 その問に一宮茜は小さく頷く。

「ええ、あなたのお察しの通り、この矢による仕掛けはある人に教えて貰った物よ。畑上孝介と堀下たけしにどうやって復讐するのかをパソコンでいろいろと調べていたら、偶然ある掲示板で面白いサイトを見つけたのよ。『復讐を考えている人達は皆集まれ!』と書かれたサイトに。そのサイトの管理人と個人的にメールで連絡を取る用になった私は、その人に教えて貰ったトリックで畑上孝介と堀下たけしに復讐する事を決意したのよ。とは言ってもこの殺害企画マニュアルはその人からお金を払って買った物なんだけどね。格安プランと銘打っていたから参考がてらにどんな物かと思い、つい購入してしまったんです。仕込み矢型のモップに・ボウガンを二~三丁程・ネオジム磁石付きのチョロQ・OAタップ型の盗聴器・小型監視カメラ・偽のスマホ携帯・ヤドクガエルの毒液・にと、その人はまるで教材を売る商売人の用に全てのトリックに使う品物を揃えてくれたわ。まあ、今からそのサイトを調べてももう何も出ては来ないでしょうけどね。もうその人の手によってそのサイトは削除されているでしょうから。後は犯行を実行する上での最後の確認をする為に先生の弟子と名乗るある女性の方と少し電話でお話をしたのですが、その人とのお話を最後にその電話番号もいつの間にか使えないようになっていましたわ」

「その犯罪を実行する時に使う矢による殺人マニュアルの教材を売りつけて来た人物は自分の事を先生と名乗り、そしてその先生の弟子と名乗る謎の女性とは電話で直接お話をしたと言うのですね。つまり相手は確実に二人はいたと言う事になります。そしてそいつらがあなたの復讐に火を付け陰ながらにアシストをしていた人達ということですか。聞けば聞くほどに、なんだか不気味な人達ですね」

「ええ、全くです。あの闇のサイトは一体何だったのか。もう今となっては何も分かりませんがね?」

 それだけ言うと一宮茜は、勘太郎と羊野に頭を下げると静かにその場を後にするのだった。


            *


「矢によるトリックの仕掛けやアイデアを一宮茜に格安で売ったその人物とは一体何者なんだ。復讐しようかどうしようかと心が揺れている人達の背中をまるで押すかのような事をしやがって、絶対に許せないぜ!」

 勘太郎の憤りを見ていた羊野が、真剣な顔で思いを語り出す。

「こんな事をする人物に……いいえ、狂人に、一人心当たりがありますわ」

「だ、誰だよ、こんなふざけたことを支援する人物は」

「矢を使ったトリック使いと言ったら彼しかいませんわ。狂人『矢の天災』。狂人・壊れた天秤が率いる円卓の星座・始まりの六人と言われている、その中の初期メンバーの一人ですわ。もし彼がこの事件に関わっていると言うのなら気をつけて下さい。彼は他の狂人達とは一線を画する程に中々の強敵ですわよ」

「初期メンバーの一人って、確か、始まりの六人とか言われている者の一人だよな。凄い大物じゃないか。そんな奴がこの事件に関わっていたのか!」

「あくまでも私の推測ですけどね。何でも噂では、この狂人から放たれる矢はあらゆる物質を素通りして確実に相手の心臓を射貫く事が出来るのだとか」

「物質を素通りしてって、そんなことが出来る奴が本当にいるのか。まさかそいつは本当の魔術師か、或いは異能の力を持つ超能力者じゃないだろうな?」

「いいえ、彼は覆面を被った白衣姿の……まるで何処かの大学教授の用な出で立ちをしたジェントルマンとの話ですよ。勿論彼は、魔術師でも無ければ、超能力者でもありませんわ。間違いなく犯罪トリックを生業とした一流のトリック使いですわ」

「円卓の星座の狂人か。全く恐ろしい奴らだぜ。人知れず一般の家庭にまで入り込んでくるとはな。そしてまるで学校の教材でも売りつけるかのように殺しや復讐をしたがっている人達の弱い心に漬け込んで人を犯罪へと導く。その犯罪行為を増やしてくれると言うのならあの壊れた天秤もその犯罪のデータを取る為に、矢の天災の行為は黙って見過ごすと言う事か。本当に不定奴らだぜ!」

 やるせない怒りに燃えながら勘太郎は、日差しが強い空を見上げながら周りの山々を見渡す。

 円卓の星座の狂人達が人知れず日本中で暗躍すると言うのなら、勘太郎は二代目・黒鉄の探偵として彼らの挑戦を真っ向から受けなければならない。
 そんなどうやっても逃げられない嫌な宿命に翻弄される勘太郎は不気味な白い羊のマスクを被る探偵助手の羊野瞑子と共に、不可思議な不可能犯罪を目論む円卓の星座の狂人達の後を追い続ける。

 白い羊と黒鉄の探偵の名にかけて。

「では黒鉄さん、この場は赤城文子刑事にお任せして、そろそろ私達も警察車両に乗せて貰いましょうか。何処かの駅で降ろして貰って、その後は飲食店で気持ち良く朝食が食べたいですからね」

「そうだな。流石に今日の朝はペンション内では結局何も食べる事ができなかったからな。近くの駅にでも降ろして貰って、朝飯を食いに行くか。あ、そんな事よりもお前、ちゃんとタラバ蟹の詰め合わせセットは持って来たんだろうな。あれは俺も食うんだからな、絶対にな!」

「まだ蟹のことを覚えていたのですか、いい加減しつこすぎますわよ。でも、そこまでして食べたいと言うのなら仕方がないですわね。少しだけなら分けて差し上げますわよ」

「いいや、今から俺はこの場で屈辱と恥辱にまみれながらも前代未聞の超スーパー土下座を披露するから、だからそのタラバ蟹を半分よこせ!」

「黒鉄さん……もっと自分にプライドを持ちましょうよ。何だか私の方が悲しくなって来ますわ。一応あなたは黒鉄探偵事務所の所長であり、曲がりなりにも私の上司なのですから」

 そんな他愛も無い会話をしながら勘太郎と羊野は共に警察車両に向けて歩き出す。

 車の後部座席のドアを開けた時、勘太郎はもう一度だけ惨劇が起きたペンションの方を振り返りその佇まいを確認する。

 警察の関係者達でごった返すその建屋は、いろんな人達の様々な思いを刻みながら、悲しく佇んでいる用に勘太郎には見えた。

 そんな感傷に浸りながら見た一瞥を最後に、勘太郎と羊野はこの森に囲まれたペンションを後にするのだった。
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