白い羊と黒鉄の探偵 ~狂人達が暗躍し掲げる不可能犯罪に白い羊と黒鉄の探偵が挑む~

藤田作磨

文字の大きさ
187 / 222
第八章 『白面の鬼女』 大雪が降る北海道の山頂で繰り広げられる生き残りを賭けたシリアルキラーとの推理戦に白黒探偵が挑む!

8-13.新たな災難と揺るぎ無い決意

しおりを挟む
                  13


『勘太郎……勘太郎……起きなさい』


(ああ、どこからか姉さんの声が聞こえる。そう言えば親父が母さんと離婚して以来、姉さんとはしばらく会っていなかったな。あれ、でも姉さんって確か俺がまだ高校一年生の時に……どこかで死んだんじゃなかったっけ……でも一体なぜ……そしてどこで死んだんだっけ……?)

 そんな事を夢の中で考えていた勘太郎だったが、幾度と聞こえる姉さんの声に勘太郎は思わず目を覚ます。

「うっわあぁぁ!」

 勢いよく起きた事で白面の鬼女に投げ飛ばされた時に受けた打ち身の痛みが全身を駆け巡り、更には闇喰い狐に切り付けられた右腕の痛みも連動したのか勘太郎は思わず苦悶の表情を浮かべる。だが反射的に自分の体を触って見てみるとその上半身には背中や胸や腹部に至るまでひんやりとした感触が残る湿布が幾枚も貼られ、そして切れ付けられた右腕には分厚い包帯がキツく、そして綺麗に巻かれていた。
 勘太郎が気を失っている内にその傷だらけの体は誰かの手によって怪我の応急処置が綺麗に施されていたのだ。

 しかもよ~く辺りを見てみるとどうやら勘太郎は登山サークルの部員達が投げ捨てて行ったワゴン車の後部座席の中でソファがベットのように平面へとなるように下げられたその上に寝かされており。その車内の室温は暖房が効いているのか充分に社内は暖められていた。

「だ、誰かがこのワゴン車の中まで運んで……そして俺の傷の手当てをしてくれたのか。でも一体誰が?」

 そんな独り言を呟きながら勘太郎は今現在自分が置かれている状況をどうにか把握しようと取りあえずはハンガーに立てかけられている黒のポロシャツに手をかけるが、だがその時ワゴン車の後部座席のドアが勢いよく開き、ドアを開けた誰かが吹き付ける寒い雪の外気を引き連れながら共に暖かな空気が澱む車内の中へと入って来る。
 背中に抱えたリュックを下ろしながらその人物は勘太郎を見つめていたが、その視線に酷く驚いた勘太郎は当然のように精一杯後ろへと下がると直ぐさま身構える。何故ならその人物に勘太郎は物凄く警戒しているからだ。

 その勘太郎を助けた意外な人物の名は、狐のマスクを着けた、円卓の星座の狂人が一人、100の姿と顔を持つと言われている変幻自在の狂人・闇喰い狐と呼ばれている人物である。

 突然外の闇夜の中から現れた闇喰い狐は、警戒しながら距離を取る勘太郎に向けて親しげに声を掛ける。

「なんだよ、もう目を覚ましたのかよ。意外に元気だな。だがもう少しだけ大人しく寝ていろよ。一応手当てをしたとはいえ、まだ病み上がりなんだからさ。傷薬と湿布と包帯は施してあるから。後は痛み止めの飲み薬を置いて置くぜ。どうしても体の打撲の痛みがキツい時は水と一緒に飲むんだな。そうすれば幾分かは体の痛みは和らぐはずだ。後はあの激しい戦いと疲労と寒さでカロリーをかなり消費したはずだから当然腹が減っているはずだ。だからちょっとした食料と飲み物を持ってきた。これからまたあの山頂に戻ろうと言うのならここで少しは腹越しらいをしておかないとあの白面の鬼女には到底勝てないだろうからな」

 そう言いながら闇喰い狐は持参したリュックサックの中から事前にコンビニで買ったと思われるハムカツサンドイッチと卵サンドイッチ、それとバナナ一本と500ミリリットル入りの暖かな保温型の魔法瓶を取り出す。それらの品物を勘太郎の目の前に置く。

「食べ物はここに追いとくから後でゆっくりと食べたらいいぜ。勿論この食料には毒物は入ってはいないから安心して食べるんだな」

 なぜ円卓の星座の狂人がここまでしてくれるのか。いくら考えても一向に答えが出ない勘太郎は堪らず闇喰い狐にその思惑と自分を助けた理由を聞く。

「一体なぜだ。ついさっきまで俺を本気で殺そうとしていたお前が、一体なぜ今になって俺をここまでして助けようとするんだ。お前は一体何を考えているんだ?」

「せっかく色々としてやったと言うのに、今更と言った台詞だな。お前は俺とあの白面の鬼女との先ほどの話を聞いてはいなかったのか。今回行われている狂人ゲーム中に他のターゲット達よりも先にお前に死なれたら色々と困るし厄介な事になるからだよ。だから助けたんだ。だから特に深い意味はないぜ。ちょっとはしゃぎ過ぎて年甲斐も無くハッスルしてしまったが、俺まで白面の鬼女と一緒になってお前を殺してしまったらこの狂人ゲームの意味その物が無くなってしまうからな。そしてそれはあの狂人・壊れた天秤も当然望んではいない事だと言う事さ。だからこの行き過ぎた失態をお前を助ける事でどうにか帳消しにしようと思ったんだよ。このまま探偵役であるお前に先に死なれて、狂人ゲームその物が崩れてしまったら、あの壊れた天秤の逆鱗に触れるのはまず確実だろうからな」

(なるほど……一応話に筋は通ってはいるが、なんだか奇妙な感じだ。その割には待遇が親切過ぎるからだ。そしてこの優しさは、最初に見たあの狂人・闇喰い狐からは全くと言っていいほどに感じられなかった。その狂気と人を見下す傲慢な態度しか感じられなかったあの闇喰い狐が、今は俺を色々と気遣っている。その態度の変化は闇喰い狐が目撃者の追跡から帰ってきてからだ。その間に闇喰い狐が自分の考えを改め直したと言う事なのだろうか。いやそれは流石に楽観的過ぎるし、安易な考え方だ。でも実際に助けられているのだからこの事実は認めざる終えないだろうがな)

 勘太郎は心の内ではそう理解しているのだが、直ぐに闇喰い狐に殺された……と思われる目撃者の事を思い出し、色々と気遣う闇喰い狐に対し毅然とした態度を取る。

「狂人・闇喰い狐、傷の手当てをしてくれた事には感謝をするが、だからと言ってお前を許した訳じゃないぞ。お前は罪もない目撃者をその手に掛けて殺しているんだからな。その罪は逃げ回っている内は決して消えはしないぞ。大人しく警察に自首をして自分のしでかした罪を洗い浚い話すんだな」

「すまんがまだ警察に捕まる訳にはいかないんだよ。俺にはまだしなけねばならないことがあるからな」

「しなけべばならない事だって……それは一体なんだ。何の事を言っているんだ?」

「まあ、お前には関係のない事さ。そんなことよりだ、このままロープウェイ乗り場に戻るつもりなら、あの白面の鬼女の奇襲には充分に気をつけろよ。もうお前の命を積極的には狙わないとは思うが、お前がその行く手に立ち塞がるというのなら白面の鬼女は迷わずお前を今度こそ手足の骨の一~二本は確実に折りに来るはずだ」

「俺の手足の骨をか……でも一体なぜだ」

「それは勿論、お前を再起不能にする為だ。それなら一応は殺してはいない事になるからな」

 その脅しとも言える話を聞いた勘太郎の顔はにわかに青ざめる。あの白面の鬼女と再び対峙をするならば、その可能性は十分に考えられるからだ。
 白面の鬼女の強さをその体に受けた打ち身の痛みで嫌と言うほど知っている勘太郎はブルブルと体を震わせながらそのあまりの恐怖に心の中で自問自答をしていたが、その弱腰とも言える光景を見ていた闇喰い狐が勘太郎に向けてまるで諭すように優しく言葉を掛ける。

「あの白面の鬼女に黒鉄勘太郎……お前が肉弾戦で勝てないのはもう嫌と言うほど分かっているはずだ。武器を持たない生身ではあの白面の鬼女には絶対に勝てない。それはあの白い腹黒羊にも言えることだ。あいつの強みはその武器として使っている包丁裁きとその猛獣のような身のこなしと素早さ、そしてその機転と奇策を生かした幾多の悪知恵と、多彩な武器を隠し持っている暗器なはずだ。だがその反面、体力が無くその力自体も他の一般人の女子と差ほど変わりはしないだろう。だからもしもあの白面の鬼女の握力でその体を捕まれたら、その時は白い腹黒羊といえどもそれでお終いだと思え。お前達はそんな恐ろしい相手を今回の対戦相手にして、この戦いに巻き込まれているんだ。その事を忘れるなよ!」

「狂人・白面の鬼女か……これ程の力の持ち主だったとは……流石に思わなかったぜ……」

「しかも奴は武器として鎖鎌を巧みに使い、更には神出鬼没な瞬間移動をも可能としている。これは明らかにお前としても絶対的な驚異のはずだ!」

「確かに……な」

「それに、そんなに……トラウマになるくらいにあの白面の鬼女が怖いと言うのなら、今回の狂人ゲームからは離脱しても別に誰も文句は言わないんじゃないのか。いや、警視庁の奴らは色々と小言や文句を言っては来るだろうが今回は流石に相手が悪すぎる。確かにお前がこの狂人ゲームを放棄すれば、その後にペナルティーとして日本中のどこかで誰かが数十人ほど殺されるのかもしれんが、それはお前の手の届かない所で起きる話の事だろ。だったら別にその責任を感じる必要はないんじゃないのか。人には出来ることと出来ないことがあるのだからな。それに毎年交通事故や不運な事故で当然のように人は幾人も死んでいるんだから、それを考えたらお前の仕事の放棄で死ぬ人間の数なんてたかが知れていると言う事だ。だからそんなにその事で責任を感じる必要は一切ないと思うけどな。それにお前が仮にこの狂人ゲームを放棄して勝負に負けても、その後に警察がこの雪山に介入する事によって、あの登山サークルの部員達は当然速やかに保護されるんじゃないのか。しかも今回の狂人ゲームはどうやら生き残り戦らしいから最後の一人になったらその時は問答無用で殺されるルールだったはずだ。そうなる前にこの勝負からは逃げられる内に逃げ出した方がいいと俺は思うけどな。なぜなら命あっての探偵稼業だからだ。君がそこまでして命を張る必要は一切無いと言うことさ。だから例え逃げ出したって何も恥ずかしい事はないと俺は思うぜ。今回は部も悪いし勝てないと思ったら迷わず逃げる。そんな臨機応変な勇気も時には必要だと言う事だ!」

 どう言う訳かは知らないが勘太郎に今回の狂人ゲームを降りるようにと警告をする闇喰い狐に勘太郎は震えながらも、必死に決意を込めた言葉で言う。

「そ、そうはいかないよ。俺が二代目・黒鉄の探偵を名乗る以上……いいや、違うな……俺の目の前で理不尽な殺人が起こる以上……俺はこの状況から決して逃げる訳にはいかないんだ。たとえ俺が絶対に勝てないような強大な力を持つ者が相手だったとしてもだ!」

「そんなに白面の鬼女の恐怖に震えているのにか」

「そうだ、たとえトラウマになるくらいに怖くても……俺は羊野と共に、あの白面の鬼女に再び挑まないといけないんだ!」

 その勘太郎の決意を聞いた闇喰い狐はクスクスと笑い出す。

「フフフフ、黒鉄の探偵……そんなに体をポロポロにされたにも関わらず、まだお前の心は完全に折れてはいないようだな。首の皮一枚でその決意はどうにかつながっていると言った所か。フフフフ、そうまでしてその勇気と正義を見せつけられてはもう説得する言葉がないな。いいや、いい、いいぞ、改めで見直したよ。流石は二代目・黒鉄の探偵……黒鉄勘太郎と言った所か。なら心して行ってくるといい。お前があの白面の鬼女に勝利するのをちょっとだけみたくなったからな。そのやる気と闘志をまだ失ってはいないと言うのならもしかしたら思わぬ逆転劇をまだ期待できるかも知れないからな。そしてもし仮に奴に勝つことが出来たなら、その時は正式に俺が相手をしてやるよ。黒鉄の探偵……黒鉄勘太郎よ!」

「狂人……闇喰い狐……助けて貰っておいてこんな事を言うのもなんだが、お前はいつか必ず俺が直々に捕まえてやるから覚悟しておけよ!」

「ああ、その意気だ。それとお前の右腕を切りつけたあの片手鎌をわざわざ持ってきてやったから護身用の武器として持って行くといいぜ。流石に丸腰ではお前も不安だろうからな」

「ああ、俺を後ろから切りつけた、あの時の片手鎌か。俺にこんな危ない武器はいらねえぜ!」

「まあ、そう言うなよ。せっかく木に刺さっている片手鎌を引っこ抜いてわざわざここまで持って来てやったんだから、ありがたく受け取っておけよ。それにこの片手鎌はあの白面の鬼女が持つ鎖鎌の鎌の部分と同じ鎌らしいから、上手く活用できたら、あの白面の鬼女の意表をもしかしたら付けるかもしれんぞ」

「白面の鬼女の裏をか……果たしてそんな事が本当にできるのかな?」

「まあ、お前の工夫次第だがな」

 持ってきたリュックサックを背負いながら狂人・闇喰い狐が手に持つ片手鎌を勘太郎の近くに置くと、闇喰い狐はワゴン車のドアを開けて暗闇が広がる外へと出る。

「しかし、あの登山サークルの部員達が車の鍵を射しっぱなしにしていて助かったぜ。もし車のドアが開かずにエンジンも掛けられなかったら、このワゴン車の中での応急処置もままならなかっただろうからな。と言うわけで、俺はそろそろこの場から退散する事にするよ。お前も思ったより元気そうだからな。もしも本当に再び白面の鬼女がいるあの山の山頂に戻るつもりなら、充分に気をつけるんだな。じゃ俺はそろそろ失礼するよ」

「まて、闇喰い狐、俺がこのままお前を帰すとでも思っているのか!」

「無理はするなよ、黒鉄の探偵……今は目の前にある事にだけ集中しろや。それと、お前が持っているあの柄系の携帯電話……誰からかは知らんが時々ひっきりなしに電話が来ていたぞ。黒のウエアのポケットの中から時々着信音が聞こえて来るみたいだから、いい加減に出た方がいいんじゃないのか」

「ま、マジで、そうか、ここでは携帯電話が通じるんだったな。でも一体誰からだろう?」

 そう言いながら勘太郎は黒のウエアのポケットから柄系の携帯電話を直ぐさま取り出すと、その掛けて来た電話の相手の名前を確認する。そうこうしている内にワゴン車の車内から出た闇喰い狐は勘太郎の後ろ姿をただじーと見ていたが、行き成りその可愛らしい女性の声を真似ながら初々しい言葉を発する。

『では黒鉄さん……頑張って下さいね!』

 そう言うと闇喰い狐は物凄い速さで雪が降りつける闇の中へとそそくさと消えて行ったのだが、その女性の可愛らしい声に勘太郎は何処かで聞き覚えがある声だと一瞬ハッとする。だがその似ている声の主を思い出せない勘太郎は直ぐに考えるのをやめると、携帯電話に何度も電話を掛て来ていた相手に向けて直接折り返しの電話を掛ける。


 ブルルルル……プルルル……プルルル……プルルル……プルルル!


「良かった、間違いなく電波が届いているぞ」そう呟いた勘太郎は、昔からの腐れ縁とも言える先輩でもある、警視庁捜査一課・特殊班の一人でもある、赤城文子刑事に電話を掛ける。
 一体赤城文子刑事はどんな用事があって電話を何回も掛けてきていたのか……それは分からないが、どうやら勘太郎に何回もひっきりなしに電話を掛けて来ていたのはその赤城文子刑事のようだ。

 勿論勘太郎もまた、その赤城文子刑事に今自分が置かれている現状を知らせる為に今度はこちらから電話を掛けているのだが。


 プルルル……プルルル……プルルル……プルルル……プルルル……ガチャリ。


 約十回程の呼び出し音のコールで、赤城文子刑事は電話に出たようだ。

「あ、もしもし赤城先輩ですか。俺です、黒鉄勘太郎です」

「ああ、勘太郎、良かった、ようやく電話がつながったわね。それで今はどんな状況なの」

「はい~ぃ?」

 その話の感じからしてどうやらもう既に赤城文子刑事は……いいや、警察上層部は今現在この雪山で起きている事件の事をどうやら知っているようだ。赤城文子刑事の反応でそう理解した勘太郎は今山頂で起きている事件の事を言おうと静かに話し出す。

「その赤城先輩の反応だともうこの事件の事は知っていると言う事で間違いないですね」

「ええ、そう言う事よ。今私は土砂崩れが起きた先の道路にいるわ。それで、今あなたがいるその雪山で一体何が起きているのか詳しく話して頂戴!」

「旭岳周辺に近い山が聳え立つ山頂の山荘ホテルで、赤いワンピースを着た白髪の謎の女性が現れましてね。その女性に人が一人殺されたんですよ。その殺人鬼が出没している中で一早くその事を知らせようと二手のグループに別れてロープウェイでどうにか麓のロープウェイ乗り場へと降りて来たんですけど、その町に続く道路を再び現れたその赤いワンピースを着た白髪の女性にどうやら破壊されましてね。その雪崩のせいで町に行くことも出来ずにほとほと困っていた所だったんですよ。そのいかれた殺人鬼の正体はどうやら円卓の星座の狂人の白面の鬼女という者だったのですが、雪崩が起きた道路の近辺で奴とは一度だけ一戦を交えましてね。その結果、あと少しと言うところで奴には辛くも逃げられてしまいました。本当に惜しい事をしましたよ。勿論向こうも中々の力を持った手練れではありましたが、俺の自慢の体術で軽く捻ってやりましたから、おそらくは俺に恐れをなして逃げて行ったのだと思いますよ。あ、それと勿論他の登山サークルの部員達もみんな無事です。彼らは一足先にロープウェイ乗り場の方に逃がしましたから一先ずは安全なはずです。いくら白面の鬼女が強くたって、人が大勢いる所にわざわざ直接出向くようなことはまずしないでしょうからね」

「まあ、そうかもね」

「あ、でも残念ながら山頂のホテルでは管理人の小林さんと言う人が白面の鬼女に殺されて……今俺がいる下ではある森の近くにある廃別荘で、行き成り途中から現れた狂人・闇喰い狐という追跡者に追われたホームレスらしき人が一人無残にも殺害されているはずです。俺もそんな闇喰い狐の後を追おうと思ったのですが、行く手を白面の鬼女に邪魔されて助けに行く事が出来ませんでした」

「そう、でもそれは仕方が無い事よ。勘太郎が責任を感じる事は無いわ。あなたが今やれる事は全てしたのだから、今あなたが無事に生きている事を先ずは幸運だと思わないと」

「は、はい……」

「でもこの狂人ゲームが終わったら、そちらの方は後で事実確認をした方が良さそうね。それで……あなたの方は大丈夫なの?」

「え、ええ、も、勿論です、俺はこの通りピンピンしてますよ。少しワゴン車の中で休憩をしている時に赤城先輩からの着信に気付きましてね。慌てて電話を掛けた次第です」

「そう……やはりあなた、今回も壊れた天秤が主催する狂人ゲームに巻き込まれているのね」

「そこまで知っていると言う事は、当然警視庁宛にあの円卓の星座側から今回の狂人ゲームの挑戦状が届いていると言う事ですよね。それで……今回、あの白面の鬼女と推理戦を繰り広げる上でのルールや足枷は一体なんですか。もし知っている事があったら全て教えてください!」

「分かったわ、全て話してあげる。今回の狂人ゲームの対戦相手の狂人の名は、白面の鬼女。そして対戦の場所はこの旭岳周辺の山の一つで、山荘ホテルのある山の山頂とその下にある麓のロープウェイ乗り場の辺りがその舞台よ!」

「あの山荘ホテルを中心とした山頂が今回白面の鬼女が出入りしている事件の現場で、もう既に……俺達がこの山頂に上がった時点からこの狂人ゲームは始まっていると言う事か」

「ええ、そう言う事よ。でもあなたと狂人・白面の鬼女が接触を得て、その白面の鬼女自らが向こうから狂人名を明かすまでは、あなたにこの狂人ゲームの事を言う事は一切禁じられていたのよ」

「でも俺と白面の鬼女が遭遇して向こうが狂人の名を明かした事を知ったから、赤城先輩は俺に改めて電話を掛けて来たと言う事ですよね」

「ええ、そう言う事よ。でもまさか下では白面の鬼女のみならず、あの100の顔と姿形を持っていると言われている狂人・闇喰い狐とも相対していただなんて、ハッキリ言って驚きだわ。まさか二人の狂人があなたの近くに集結していたとは流石に思わなかったから」

「ええ、でも今回の狂人ゲームにはあの闇喰い狐は参加をしてはいないようです。どうやら奴はあくまでも今回の狂人ゲームではサポート役で、この先にあるロープウェイ乗り場に続く道路を爆破で雪崩を起こしたりして誰もが逃げられないように道を全て封鎖する事が今回の闇喰い狐の任務だったようです。でもそのお陰で俺達は事実上このロープウェイ乗り場の周辺に閉じ込められてしまいましたがね」

「どうやらそうみたいね」

「はい、そう言うことです」

「それで……体の方は本当に大丈夫なの!」

「そ、それはどう言う意味ですか。俺は至って健康ですが……」

「私はあなたが相対したというその狂人・闇喰い狐からの電話での報告で、今あなたが置かれているその状況を知ったんだけど。闇喰い狐の話によると、勘太郎あなた、白面の鬼女に完膚なきまでにボコボコにされて、惨めに伸されたらしいじゃない」

「え、知っているんですか……まさか俺が白面の鬼女にやられて今怪我をしている事も」

「ええ、知っているわ。あなたが泣きべそを掻きながら果敢にもあの白面の鬼女に戦いを挑んだにも関わらず手も足も出なかったと言う事実も踏まえてね」

(お、おのれ……闇喰い狐め、また余計な事を言いやがって。俺が無残にも大敗したことが赤城先輩にバレているじゃないか。赤城先輩に余計な心配をさせないようにと、白面の鬼女には楽勝で勝ったと敢えて大袈裟に嘘ぶいたのに……これじゃ俺がただ単に恥をかいただけじゃないか。は、恥ずかしい……物凄く後ろめたいし、恥ずかしすぎるぜ!)

 赤城文子刑事がその現状を知っていると告げることで勘太郎が顔を赤くしながら口ごもっていると、赤城文子刑事が落ちついた感じで勘太郎に話しかける。

「勘太郎、あなたは今からその登山サークルの部員達を連れて山頂にあるホテルにもう一度戻りなさい」

「ええ~っ、せっかく山頂から下りて来たのに、またあの山頂に戻るんですか。俺はともかくとして、登山サークルの部員達五人はそちらで保護して下さいよ。救助ヘリを呼べば五人くらいは直ぐに救助できるでしょ」

「無理よ、もう既に狂人ゲームは始まっているんだから何人たりともそのエリアには出る事も……ましてや入る事もできないわ。この狂人ゲームが終わらない限りはね」

「狂人ゲーム……ですか」

「そうよ、ならその白面の鬼女が使うとされる怪しげな瞬間移動、彼女が円卓の星座の狂人だと言うのなら当然全てがトリックと言う事になるのよね」

「ええ、白面の鬼女がただの人間なら当然その瞬間移動の正体は何らかの仕掛けを施した正体不明のトリックと言う事になりますね。そのトリックの謎や正体は未だに不明ではありますが」

「その白面の鬼女と呼ばれる犯人はその自慢の瞬間移動トリックとその暴力的な怪力を使って、無知なあなた達を今も翻弄していると言う事でしょ。ならその白面の鬼女の挑戦をあなたは真っ向から受けて立つしかないんじゃ無いかしら。その白面の鬼女が操る瞬間移動トリックを見破り、犯人の正体を探し当てて、ついでにまだ頂上にいる残りの登山サークルの部員達もまとめてあなたがどうにかして守りきるのよ。その白面の鬼女の脅威からみんなを守り続ける中で、どうにか時間を作って、その(妹の)如月妖子さんの失踪に関わっているかも知れないとされる登山サークルの部員達を徹底的に調べ上げなさい。いいわね勘太郎、全てはあなたに掛かっているんだからね!」

「今回の狂人ゲームのタイムリミットが過ぎるまで……つまりは俺一人だけで登山サークルの部員達の命を守り切れと言う事ですか。赤城先輩!」

「別にあなた一人だけじゃ無いでしょ。当然一緒に来ているのよね、彼女が。白い羊こと、羊野瞑子さんが」

「ええ、山頂にあるホテルに置いて来ましたけどね」

「なら一応は安心ね。て言うか、白面の鬼女よりも白い羊を野放しにしている方がよっぽど心配だわ。勘太郎、一刻も早くその山頂のホテルとやらに戻りなさい。今夜の天気予報だとその辺りはもうすぐ猛吹雪に見舞われるらしいから早く戻らないと本当に山頂に戻れなくなるわよ。その吹雪は今夜だけではなく後二~三日は続くらしいから、雨風もしのげて食料もある山頂のホテルで助けを待った方が絶対に安全だと思うわ!」

「分かりました、では直ぐに山頂へと戻ります。だから赤城先輩、狂人ゲームのタイムリミットが過ぎたらなるべく早く助けに来て下さい。それで今回の狂人ゲームのタイムリミットは何日くらいなんですか。早く教えて下さいよ!」

「へ?」

「へ、じゃなくて、今回の狂人ゲームのタイムリミットですよ。当然期間があるんですよね?」

 その勘太郎の言葉に赤城文子刑事は何やら言いにくそうに口ごもっているようだったが、覚悟を決めたのか堂々とした口調で本当のことを話す。

「勘太郎、落ち着いて聞いて。今回の狂人ゲームにタイムリミットは存在しないわ」

「へ、存在しないって、それは一体どう言う事ですか。それじゃいつまで経っても狂人ゲームが終わらないじゃないですか」

「そうね、終わらないわね……」

「じゃ一体どうやって勝敗を決めるんですか」

「それは勿論あなたが白面の鬼女が使うトリックとその正体を暴いたら、その時はあなたの勝ちとなるわ」

「そして俺がタイムリミットまでにそれらの秘密を解き明かすことが出来なかったら当然その時は俺達の負けなんですよね」

「ええ、そう言う事よ」

「ですからそのタイムリミットは一体いつ頃なんですかと聞いているんですけど?」

「勘太郎……よく聞いて……何度も言うようだけど……今回の狂人ゲームにタイムリミットは存在しないわ」

「存在しないって……ならこちら側の負けは一体どうやって決めるんですか?」

「勿論、あなた達が白面の鬼女にみんな殺されたら、文字通りあなた達の負けと言う事になるわ。どう、物凄くシンプルで分かりやすいでしょ」

「俺達が全員死んだらその時は俺達の負けと言う事ですか。確かにこれならタイムリミットなんかを設ける必要は何も無いですね」

「そう言う事よ。ごめんね、勘太郎、今回は全然力になれなくて……」

「全員死んだら終わりか……全員死んだらか……それは物凄くシンプルで……分かりやす過ぎる。分かりやす過ぎるわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーぁぁ!」

 赤城文子刑事の言葉をようやく理解した勘太郎は柄系の携帯電話を力強く握りしめながら空に向けて勢いよく叫ぶのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...