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第十章 灼熱の大地と永遠雪のセツナ

148-真実を知ったセツナ

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『なんてことなの……』

 今から約一年後の聖王歴百三十年、青の月十六日。
 常闇の大地の東部にある『魔物の森』から大量のモンスターが出現し、サイハテの街が襲撃された。
 そしてエレナの救出に挑んだ俺は、彼女と共に二年前の世界へと帰還し、かつて見た世界で『知ることのなかった真実』を解き明かしていった……。
 これまでの経緯を知ったセツナは、椅子から立ち上がってエレナに駆け寄ると、興奮した様子で手を握った。

『ピンチに好きな男の子が駆けつけて命を救ってくれるとか、羨ましすぎッ!!』

『でしょー!』

「なんでやねん」

 セツナは鼻息荒く羨望の眼差しでエレナの手を握りブンブンと振りつつも、それから遠い目をしながらぼやく。

『それなのに私なんて、調子こいて上空から魔法バンバン撃ってたら、地上からカウンターをくらって死ぬとか……。一生懸命に働いてただけなのに、なんのために生まれてきたの私……。もう辞めたい……。実家帰りたい……』

『大丈夫ですよっ。調子こいて上空から魔法バンバン撃たなきゃ良いんですから! それにあなたを撃ったシャロンさんは、今ごろ楽しそうに学園生活をエンジョイしてるはずですしっ』


……


「へっくちっ」

「おっ、シャロンちゃん先輩、風邪っすか?」

「ん~、誰か噂でもしてんのかしらねぇ……」

「だけど先輩のくしゃみ、なんだか可愛いですね~……痛あっ! なんで叩くんですかーーっ!?」

「うっさい!!」


……


「とはいえ、セツナさんが撃ち落とされる心配はないとしても、このまま街を凍らせてコアを掘り出したところで、ドワーフ達は生活できなくなっちまうんだよなぁ」

『でも放っておいたら巨人が現れて街がメチャクチャに壊されるわけだし、どうにかして止めるしか無いのだけどね』

 セツナの言うとおり、石板を放置すれば約一年後には巨人が現れてしまうかもしれないし、探索魔法に頼らずに当てずっぽうでコアを掘って探すのもかなり無理がある。
 そんなこんなで、なかなか良い手が見つからず悩んでいると、ユピテルがポンと手を打った。

『そうだっ、カナタにーちゃんはなんでも盗める力があるだろ。だったら、それで巨人を召喚する力を石板から奪っちゃえば良いんじゃない?』

「それも考えたんだけど、アレって使おうとして出すというより、なんか勝手に発動する感じなんだよ。それに、ヤズマトの山頂で同じような状況になったんだけど、封印期間そのものを奪っちまって、一年後に出てくるはずだった暗黒竜ノワイルが召喚されちゃったんだわ」

『あー、それで巨人が出てきたら困るね……』

 ユピテルも心配しているように、今回もヤズマトでの一件と同じパターンだとすれば、『全てを奪う者』のスキルが発動するや否や、いきなり巨人と戦闘になるかもしれない。
 それに、その巨人とやらがもしもグレーターデーモンと同種だった場合は最悪だ。
 聖王都中央教会の一件でドラゴンの森で戦った時は、シャロンの闇魔法をはじめ、コロンの神術、さらに中央教会のプリースト達総勢数十名による多重詠唱の全ての力をもって、やっと倒すことができたけど、当然この場にそんな戦力は無いわけで。
 いま同じ状況になってしまえば、大暴れするグレーターデーモンを止める術なく、ドワーフの街が崩壊してしまう。

「はいはーい」

「ん?」

 と、ユピテルのアイデアも不採用となったところで、今までずっと黙っていたサツキが挙手してきた。

「ココが寒くなるのがダメなのって、お仕事が出来なくなる~……というか、ジェダイト帝国に剣とか鎧を売れなくなるのが問題なんだよね?」

「まあ、端的に言えばそういう話だな」

 結局のところ、例え巨人が暴れなくともコアが爆発したり、主要産業が失われてジェダイト帝国との物流が失われてしまうのが一番の問題だ。

「じゃあ、セツナさんが魔法をぶっぱするとどれくらい寒いままなの?」

『ぶっぱって……。えーっと、うまく加減したとしてもコアが爆発しないよう安全な範囲でいくなら、三ヶ月……いや、四ヶ月くらいは寒さが続くかな。再び街が今くらいの暑さになるには、更にそこから一年くらいかかるかもしれないけど』

「そっかー。それじゃ、ドワーフ達は一年半くらい仕事が出来なくなっちゃうんだね」

 サツキはフムフムと納得した様子で頷くと、続けてフルルに話しかけた。

「さて、ちょいと連れてって欲しいトコがあるんだけど、大丈夫かな?」

『どこでも……ばっちこーい』


◇◇


【聖王歴129年 白の月 1日】

 宿屋でのセツナとの話し合いから六日が過ぎ、空には十日ぶりのお日様が戻ってきた。
 いつもならばこの晴れやかな日には、皆のんびりと陽光を浴びて身体をリフレッシュするのが常なのだけど、今日に限っては街中がとんでもなくピリピリと緊張の空気に包まれている。

『馬車が見えたぞーっ!!』

『出迎えの準備だ! 急げーー!!』

 ドワーフの街の門から衛兵の声が響くと、それまでせっせと働いていた民達は一斉に手を止め、家事をしていた者もドアを開けて表へと出てきた。
 皆の視線の先には数台の馬車が並び、その先頭を数頭のドラゴンライダーが護衛する……という、とんでもなく厳重な警備体制に護られたご一行様の姿。
 そして、最も豪華な装飾が施された車両から手を振る男の子の姿を見て、俺達が滞在している宿の女将さんも興奮している。

「さて、ここから本番だよお兄ちゃん」

「ホントに上手いこと行けば良いんだけどなあ」

 やたら自信ありげな様子のサツキへと適当に相づちを打ちつつも、俺は大集団の主……もとい、馬車から身を乗り出して嬉しそうに手と一緒に尻尾もフリフリしているライカ王子へと手を振った。
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