笑ってサヨナラしたから

moma

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テイボ

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8月の末、症状が酷くなり、いよいよ仕事にも行けなくなった私は
半ば無理やり実家に引っ張り戻された。
まだ大丈夫、もう少し頑張れると騙し騙し送っていた生活に
体が悲鳴を上げた。
三十歳手前でお恥ずかしい話である。
今生添い遂げるのでは無いかというくらい
ベッドにへばり付き、わんわん泣きながら毎日を過ごしていた。
別れて、5ヶ月。出てくる言葉は彼の名前だけだった。
見慣れた町を最後に歩いた時、よく晴れた日だったあの日、
迎えにきた妹の隣を歩きながらつぶやいた

「テイボ」
どこかのバラエティ番組で見た貝の名前。
アマゾンかどこだったか、砂浜に空いている穴に塩を注ぐと顔をだす貝。
その先端を引っ張り出してやるとイヤイヤと抵抗しながらすぽっと引っこ抜ける。
そいつをそのまま喰らっているタレントの様子が忘れられない。
私も引っ張り出されるならいっそのこと、最終的にパクッと食われるくらい
潔く何もなくなってしまえばいいと、その時はぼんやりと考えていた。
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