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「晴臣!!」
いくらなんでも言い過ぎだ。
さすがに黙っていられなくなった私に、真由先輩が振り向いて微笑みかける。
「いいのよ。本当のことだし」
そしてもう一度晴臣の方に向き直った。
「すごい観察眼ね。それとも人事の情報網かな?でも、私だって気付いてるんだから」
晴臣を相手に、しかもあんな酷いことを言われてなおも挑発的に語りかける真由先輩の強さに、ただ驚かされる。
「何にですか?」
「椎名くんが何を恐れているか、よ」
晴臣はピクリと眉を動かしたものの、表情は変わらないままだ。
「…怖いものなんて別にありませんけど」
「そう?まあいいわ。とりあえず黙っててあげるけど、蓮見ちゃんを泣かせるようなことがあったら、即バラしちゃうから」
真由先輩が「じゃ、お先に」と言い残して、晴臣の横をすり抜けて行くと、晴臣が入れ替わりで販促部のフロアに入って来て、私のデスクに缶コーヒーを置いた。
そして、そのまま私の隣の席に座って、じっとこちらを見つめてきた。
気のせいかもしれないけど、さっき真由先輩と話していたときとは違って、やたら視線が熱っぽいように感じて、頗るやり辛いなんて思っていたらー
「…あとどれくらい?」
「あ、あとちょっとで終わる」
「それもだけど、あとどれくらい待てば俺のこと男として見てくれそう?」
やっぱり気のせいじゃなかった。
「な、何よ?いきなり」
無視するわけにはいかないけれど、目を合わせたら危険な気がして、パソコンのモニターを見たまま会話を続ける。
「いきなりじゃない。今織田村主任に言われたので今日2回目だからな」
顔を見なくても分かってしまう。
これは完全に拗ねている口調だ。
「…何がよ?」
「身近な人間から、千歳が俺のこと男として見てないって言われたの」
「そ…んなこと言われても。仕方ないじゃない。晴臣は生まれたときから側に居て…私にとって空気みたいなものなんだから」
『晴臣が意図的に私の側にいたことを知ったのは、つい最近のことだけど』と付け加えるのは、墓穴を掘るようなものなので、敢えて触れないでおく。
空気のような存在が、最近隠すどころか見せ付けてくるようになった感情にだけは、未だに慣れないから。
でも、それは何の意味もなかったことにすぐに気付かされる。
晴臣は座っていたオフィスチェアのキャスターを使ってグッと私に近づき、無理やり視界に割って入ってきた。
「…それ、ポジティブな意味で受け取っていい?」
見たこともないほど真剣な表情に、危険と分かっていたのに思わず手を止めてしまった。
「ポ、ポジティブな意味ってどういう意味よ?」
「空気ってことは、千歳にとって俺は、なくてはならない存在ってことでいい?」
いくらなんでも言い過ぎだ。
さすがに黙っていられなくなった私に、真由先輩が振り向いて微笑みかける。
「いいのよ。本当のことだし」
そしてもう一度晴臣の方に向き直った。
「すごい観察眼ね。それとも人事の情報網かな?でも、私だって気付いてるんだから」
晴臣を相手に、しかもあんな酷いことを言われてなおも挑発的に語りかける真由先輩の強さに、ただ驚かされる。
「何にですか?」
「椎名くんが何を恐れているか、よ」
晴臣はピクリと眉を動かしたものの、表情は変わらないままだ。
「…怖いものなんて別にありませんけど」
「そう?まあいいわ。とりあえず黙っててあげるけど、蓮見ちゃんを泣かせるようなことがあったら、即バラしちゃうから」
真由先輩が「じゃ、お先に」と言い残して、晴臣の横をすり抜けて行くと、晴臣が入れ替わりで販促部のフロアに入って来て、私のデスクに缶コーヒーを置いた。
そして、そのまま私の隣の席に座って、じっとこちらを見つめてきた。
気のせいかもしれないけど、さっき真由先輩と話していたときとは違って、やたら視線が熱っぽいように感じて、頗るやり辛いなんて思っていたらー
「…あとどれくらい?」
「あ、あとちょっとで終わる」
「それもだけど、あとどれくらい待てば俺のこと男として見てくれそう?」
やっぱり気のせいじゃなかった。
「な、何よ?いきなり」
無視するわけにはいかないけれど、目を合わせたら危険な気がして、パソコンのモニターを見たまま会話を続ける。
「いきなりじゃない。今織田村主任に言われたので今日2回目だからな」
顔を見なくても分かってしまう。
これは完全に拗ねている口調だ。
「…何がよ?」
「身近な人間から、千歳が俺のこと男として見てないって言われたの」
「そ…んなこと言われても。仕方ないじゃない。晴臣は生まれたときから側に居て…私にとって空気みたいなものなんだから」
『晴臣が意図的に私の側にいたことを知ったのは、つい最近のことだけど』と付け加えるのは、墓穴を掘るようなものなので、敢えて触れないでおく。
空気のような存在が、最近隠すどころか見せ付けてくるようになった感情にだけは、未だに慣れないから。
でも、それは何の意味もなかったことにすぐに気付かされる。
晴臣は座っていたオフィスチェアのキャスターを使ってグッと私に近づき、無理やり視界に割って入ってきた。
「…それ、ポジティブな意味で受け取っていい?」
見たこともないほど真剣な表情に、危険と分かっていたのに思わず手を止めてしまった。
「ポ、ポジティブな意味ってどういう意味よ?」
「空気ってことは、千歳にとって俺は、なくてはならない存在ってことでいい?」
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