【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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10ー4

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私と遼平くんとの間には、まだ少し距離があった。
それでも私の耳は、確かに遼平くんが口にしたその名の音を拾ってしまった。
そして、遼平くんも、私に聞こえていたことに気付いたようだ。

その証拠に、私たちは見つめ合ったまま瞬きすらできなくなってしまった。

確かに真由先輩や松本さんから、似てると言われたことはある。
でも、私はそう思ったことはないし、遼平くんからも一度もそういったことを言われたことはない。

それが
どうして
急にー

自分が何にショックを受けているのかさえ分からない。

息をするのも忘れそうなほど強く張り詰めた緊張の糸は、背後からかけられた場違いに明るい声で突然断たれた。

「何これ?なにかの撮影!?お姉さん超キレーっすね」

声の主は、大学生くらいの小柄な男の子だった。
もちろん面識はない。
私が通ってきた廊下からの入り口とは別の、正面玄関から続々と入って来ている団体の一人らしい。

この現実から逃れるために、藁にもすがる思いでそちらに目を遣ったはずなのに。
皮肉なことに、何故遼平くんが今頃になって私を永美ちゃんと呼んだのか、その理由が分かってしまった。

ガラス製の自動ドアに映る自分の姿を見て目眩がする。

すると、眩んだ視界の奥で、さっきまでおぼろげだった創業時のフライヤーがみるみるうちに鮮明になった。

ーいくら写真が小さかったからとは言え、今頃気付いたってもう遅い。
が、永美ちゃんだったなんてー

ドアに映る私は、フライヤーに写っていた永美ちゃんと衣装から髪型まで完璧に似せて仕上げられていた。


混乱パニックなんて生易しい言葉では足りない。
これはもはや真由先輩のテロだ。

怒り、悲しみ、恐怖、哀れみ、孤独、絶望、罪悪感

言い尽くせないほど、ありとあらゆる負の感情が頭の中で暴風雨のように吹き荒れている。

そんな私の状態など知る由のない男子学生が肩に手を掛け、しきりに何か話しかけてくる。
これまで散々してきたように、会社の男性陣と同じく軽くあしらえばいいのだろうけれど、今の私には無理。
体が強張って声も出せない。

呆然と立ち尽くす私の視界には、遼平くんが血相を変えてこちらに走って来る様子が勝手に映り込む。

「勝手に触らないでもらえるかな」

押し殺したような声に衝撃を受けたのは、即退散した男子学生だけじゃない。

いつかカフェで助けてくれたときに聞いた声と、似ているようで全然違う。
これまでの、叔父としての慈愛は完全に影を潜め、代わりに確実に独占欲の色が滲んでいた。
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