社長の×××

恩田璃星

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社長の愛人…?6

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 突如、私と課長がいた空間と現実とが繋がって、お昼ご飯も食べずに異動のバタバタに突入したことを思い出す。

 お腹空いた...

 そう考えた途端、お腹の虫が情けない声でキュルーッと鳴いた。

 課長は堪えきれずに笑いながら

 「社長いないし、お昼食べていいよ。それから仕事の説明するから」

と言って、すっかりノーマルモードに戻った。

 かなり恥ずかしかったけど、変な空気から解放されたので良しとして、こちらも何事もなかったように

 「じゃあ、お言葉に甘えて会社の前のコンビニまでダッシュでお昼買いに行ってきます。課長は何かご入用ですか?」

と確認すると、

 「いや。俺社長が作ってくれた弁当あるから」

なんて言いながら意味ありげに微笑み、一連のやり取りは幻なんかじゃないとしっかり釘を刺してきた。


 コンビニから急いで戻って来ると、課長は手作り弁当らしきものを食べていた。


 …本当に社長の手作り弁当なんだ…。


 さっき課長本人の口から、きっぱり社長との関係を聞いたのに、心のどこかで何かの間違いであって欲しいと願っていた私の期待は打ち砕かれた。


 白いシンプルなプラスチック製の、大きなお弁当箱の中身をチラ見する。


 半分以上の面積が、ご飯とその上に豪快に乗せられた生姜焼きで埋め尽くされていて、隅っこに卵焼きと、ウィンナーと、ブロッコリー、冷凍食品らしき副菜のカップが詰められていた。

 社長業も忙しいだろうに、夫の目を盗んでわざわざ不倫相手のためにお弁当を作るなんて。

 社長の姿と母の姿がリンクして、恋愛って本当に厄介な病気だなとため息が出た。

 「何のため息?」

 「何でもありません」

 「イヤなことでも思い出した?」

 ただニコニコと美味しそうにお弁当を食べているだけかと思っていたら、考えていたことを言い当てられて内心動揺する。

 社長と課長の関係が続く限り、毎日ちょっとしたことで母のことを思い出すのかと考えると、酷く憂鬱になった。


 もし…もし私が課長を誘惑したら、このひとは本当に社長との関係を止めるんだろうか。


 この状況から逃れたい気持ちから、知らず知らずのうちに課長からのありえない提案について現実的に考え始めている自分がいた。
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