社長の×××

恩田璃星

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課長の正体

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 「葵、起きて。そろそろ遅刻する。今日はどうしても遅刻できないから」

 「ん…遅刻…?ひっ!!」

 再び小さな悲鳴を上げてしまったのは、課長の腕に包まれたままだったから。

 「おはよ」

 離れた私の体を引き寄せ、私の頭に猫のように頬擦りしながら課長が言う。

 「お、おはようございます。課長」

 ブワッと自分の顔が紅くなるのを感じる。

 「二人の時は唯人でいいよ」

 「いえ、そういう訳には…」

 「呼ばないとキスするよ」

 顎をクイッと持ち上げられ、更に紅を増す私の顔。

 「わかっ、分かりましたからっ」

 「呼んで?」

 「…唯人」

 「…ヤバ…昨日の葵思い出すなぁ」

 「お、思い出さなくていいですから!」

 本当に今更だけど、恥ずかしくて死にそうだ。

 「体、大丈夫?」

 「は、はい」

 「シャワー先に行っておいで」

 「いえ、課長がお先に…んっ」

 チュッと軽く唇を啄ばまれた。

 「っ!?」

 「お仕置き。課長じゃなくて、唯人。あと、敬語も要らない。早く行かないと乱入するよ」

 課長の不穏な発言を聞いて、大慌てで脱ぎ散らかしていたパジャマを身に付け、バスルームに向かった。

 一夜限りの関係のはずなのに、恋人同士が迎える初めての朝並みの甘さに私はパンク寸前だった。


 課長の甘い態度に赤くなったり青くなったりしながら準備を済ませ、課長の家を後にした。
 時間がないので、スーツケースは取り敢えず置き去り。

 途中で降ろして欲しいと頼んだのに、課長は堂々と正門から入って車を停めた。

 社長や他の社員に見つかったら二人ともタダじゃ済まないとビクつく私を他所よそに、車から降りる時も課長は堂々としていた。
幸い誰にも会わなかったけど。

 秘書課に着くと、みんなもう出勤していた。
 今日は朝から臨時取締役会があるらしい。
 課長も社長と一緒に会議室に入って行った。

 会議はあっさり終了して、役員や関係者がゾロゾロと会議室から出て来た。

 その中から社長が真っ直ぐ私に向かって歩いて来る。

 え?まさか昨日課長とシたこと、バレた!?

 身構えた私の両手を包み込み、社長はにこやか言った。

 「真田さん、唯人のことお願いね」

 「えぇっ!?」

 寝取られた相手にこんなこと言えるなんて、どんだけ器大っきいの!?

 冷や汗まみれになる私に社長はまくし立てた。

 「あの子には社長なんてまだ早いとは思ったんだけど、私の妊娠で予想外に社長交代が早まっちゃったのよ。困ったことがあったら何でも相談に乗るから!公私ともにのことよろしくね」

 社長の言っていることの意味が分からず呆然と立ち尽くす私の後ろで、御三方がクスクス笑っている。

 「真田さんもすぐに私達の仲間入りかもね」

 は!?
 頭の中がしっちゃかめっちゃかで、その場にしゃがみ込んでいると

「真田さん、ちょっと」

と社長室から課長の声に呼ばれた。
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