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同姓同名

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「…これ、弁護士バッジじゃない?」

確かに瑞希が拾い上げたそれは、ドラマなどでよく見る、外側にひまわり、中央にはかりがデザインされた、金色のバッジだった。

一体いつの間に?

「わ。裏に番号入ってる。本物ー!って、どこかで聞いたことあるけど、弁護士ってバッジなくしたら始末書みたいなの書かされるらしいよ。連絡して、返してあげたほうがいいんじゃない?」

瑞希の顔には『ついでに登録!』と太字でクッキリ書いてある。

私が『助けて』と頼んだわけではないけれど、大切なものを失くして困っているかもと思うと、罪悪感が湧いてしまう。

弁護士バッジこ  れ返すだけだからね?登録は無理だからね!?」

念押ししていたら、上質な紙でできているのか、厚い名刺の角が指にチクリと刺さった。
なんとなく、『そんなことない』と言われているような気がする。

急に嫌な予感がして、動悸がし始めた。

そして、恐る恐る引っ張り出したそこ名刺に書いてある名前を確認した私は、絶句した。

”弁護士 高嶺 景 Kei Takamine”


ちょっと待って。
どういうこと?

何でこの名刺にの名前が?

一気に心拍数が上がり、頭に血が昇る。

「静花?どうしたー??」

ダメだ。
瑞希に気づかれる。
気づかれて根掘り葉掘り聞かれ、瑞希に本当の私を知られてしまったら、これまでの関係が壊れてしまうかもしれない。
落ち着いて考えなきゃ。

暗がりではあったけど、昨夜の男は、私の記憶の中のとは似ても似つかない風貌だった。
単に同姓同名なだけかもしれない。
『高嶺景』なんてありえないほど珍しい名前じゃないし。

それに、本当にだったとしても、瑞希にあの頃と180度外見を変えてもらった今の私に気づくはずがない。
昨夜私を助けたときだって、完全に初対面の人間への対応で、不自然な点なんて一つもなかった。

絶対、大丈夫。
このバッジを返すだけ。

「なんでもないよ。とりあえず後で電話してみるから」

『絶対だよ!』と言った瑞希の顔に、まだ『登録♡登録♡』と書いてあるのを見て、やっと少しだけ落ち着きを取り戻せた。

結局、急ぎでもない書類の作成をしたりして、ずるずると夕方まで先延ばしにしてしまった。

「早くかけないともう電話繋がらなくなっちゃうよ?」

瑞希に促された私はようやく覚悟を決めて、会社の電話から名刺に書いてある番号をダイヤルした。

受話器を持つ手が震える。
いっそ、もうこのまま繋がらなければいいのに。

そんな願いも虚しく、3コールしないうちに電話は繋がってしまった。

「高嶺法律事務所でございます」

てっきり本人が出るものだと思っていたので、落ち着いた女性の声に、思い切り面食らう。

「えっ、あの、えっと…あ!高嶺さん!高嶺さんはいらっしゃいますか?」

「…失礼ですが、お名前とご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

警戒を強めたのか相手の声が少し冷たくなり、こちらも少し冷静になる。

どうしよう?
繰り返しになるけど、名前を名乗ったって相手は私の名前なんて知らないだろうし。
仮にこの高嶺さんがだったとしても、私の名字は彼の知っている名字とは変わっているし。
かと言って、当時の名字で名乗って墓穴を掘るわけにもいかない。
それに、大事な弁護士バッジを失くしていることって、会社の人にバレても大丈夫なのかな??

「あ!いえ!なんでもありません!!じゃあいいです!!」

勢いよく受話器を置いてしまった。
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