完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星

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不存在

 あの日からちょうど一週間。
 平日は残業しまくってなんとかやり過ごした。
 だから、週末もがむしゃらに働いていれば、一哉のことを考えなくて済むと思って、バイトをキャンセルしなかったのに。

 「凛!お前、彼氏がいるって本当なのか!?」

 プレハブ小屋に入った途端、交通事故にでも遭ったかのような衝撃。

 誰よ!?
 夏目社長この男に一哉のこと話したの!!

 川瀬さん犯人の方を見れば、私の顔が余程怖かったのか、青ざめた顔をしてこちらに向かって手を合わせている。

 「大丈夫なのか?騙されてるんじゃないのか!?カラダ目当て…ってことはないか。もしかして、貢がされてるのか!?だから毎週うちでバイトしてたのか!!?」

 夏目さんは傷口に塩どころじゃなく、ハバネロを直に擦り付けてくる。

 …もう、何なのよ?この人。
 折角忘れようとしてるのに。
 
 枯れ果てたはずの涙で、視界が霞んでいく。

 「…せん」

 「え?」

 「…全然大丈夫じゃありません!貢いでないけど、騙されてたし、振られました!!!」

 叫んだ瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。

 気付いたら詰所を飛び出していた。

 最悪だ。
 よりによってあんなヤツの前で泣くなんて。
 絶対馬鹿にされるに決まってる。

 もうなにもかもが嫌だ。
 このままバイトなんか放り出して、家に帰ってしまいたい。

 だけど、そんなことをしたら現場全体に迷惑がかかってしまう。
 とにかく早く涙を止めなくちゃ。

 人目につかない、プレハブ小屋とプレハブ小屋の隙間に逃げ込もうとしたときだった。
 
 「凛!待って!!」

 嘘!
 追いかけてきた!!?

 そこまでして私のこと馬鹿にしたいわけ?
 本当に性格悪い!

 「ついてこないでください!心配しなくてもバイトの時間には戻りますから!!」

 「待てって!」

 全力で走っても、足の長さが違うせいですぐに追いつかれてしまい、次の瞬間、私は夏目社長の両腕に捕らえらえていた。

  「ヤだ!離して!!」

 力一杯もがいてみても、びくともしない。

 「悪かった。さっき川瀬さんから聞いたばかりで、びっくりして…いや、とにかくごめん。デリカシーなさ過ぎた」

 『びっくり』は余計だけど、想定外の素直な謝罪。
 これ以上心の傷を抉られないと分かった途端、体から力が抜ける。

 抱きしめて欲しいのはこの腕じゃない。
 本当に謝って欲しいのも、このひとじゃない。

 だけど、あの夜から、一人で立っているのが精一杯だった私は、不覚にも夏目さんの胸で思い切り泣いてしまった。

 思ったより早く涙が止まったのは、夏目さんが何も言わずに、ずっと頭を撫でてくれていたお陰かもしれない。
 バイト開始時間にもギリギリ間に合う。

 借りていた胸を押し返し、すっかり緩められた腕から抜け出す。

 「…そろそろ行きます」
 
 「大丈夫か?ちゃんと水分摂ってから行けよ」

 今回ばかりは素直に頷いた。

 「バイト終わったら何でも好きなもの食わせてやるから。今日もよろしく頼む」

 いつにない神妙な物言いに、もう一度頷いて、詰所に戻った。
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