4 / 53
不存在
1
あの日からちょうど一週間。
平日は残業しまくってなんとかやり過ごした。
だから、週末もがむしゃらに働いていれば、一哉のことを考えなくて済むと思って、バイトをキャンセルしなかったのに。
「凛!お前、彼氏がいるって本当なのか!?」
プレハブ小屋に入った途端、交通事故にでも遭ったかのような衝撃。
誰よ!?
夏目社長に一哉のこと話したの!!
川瀬さんの方を見れば、私の顔が余程怖かったのか、青ざめた顔をしてこちらに向かって手を合わせている。
「大丈夫なのか?騙されてるんじゃないのか!?カラダ目当て…ってことはないか。もしかして、貢がされてるのか!?だから毎週うちでバイトしてたのか!!?」
夏目さんは傷口に塩どころじゃなく、ハバネロを直に擦り付けてくる。
…もう、何なのよ?この人。
折角忘れようとしてるのに。
枯れ果てたはずの涙で、視界が霞んでいく。
「…せん」
「え?」
「…全然大丈夫じゃありません!貢いでないけど、騙されてたし、振られました!!!」
叫んだ瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
気付いたら詰所を飛び出していた。
最悪だ。
よりによってあんなヤツの前で泣くなんて。
絶対馬鹿にされるに決まってる。
もうなにもかもが嫌だ。
このままバイトなんか放り出して、家に帰ってしまいたい。
だけど、そんなことをしたら現場全体に迷惑がかかってしまう。
とにかく早く涙を止めなくちゃ。
人目につかない、プレハブ小屋とプレハブ小屋の隙間に逃げ込もうとしたときだった。
「凛!待って!!」
嘘!
追いかけてきた!!?
そこまでして私のこと馬鹿にしたいわけ?
本当に性格悪い!
「ついてこないでください!心配しなくてもバイトの時間には戻りますから!!」
「待てって!」
全力で走っても、足の長さが違うせいですぐに追いつかれてしまい、次の瞬間、私は夏目社長の両腕に捕らえらえていた。
「ヤだ!離して!!」
力一杯もがいてみても、びくともしない。
「悪かった。さっき川瀬さんから聞いたばかりで、びっくりして…いや、とにかくごめん。デリカシーなさ過ぎた」
『びっくり』は余計だけど、想定外の素直な謝罪。
これ以上心の傷を抉られないと分かった途端、体から力が抜ける。
抱きしめて欲しいのはこの腕じゃない。
本当に謝って欲しいのも、この男じゃない。
だけど、あの夜から、一人で立っているのが精一杯だった私は、不覚にも夏目さんの胸で思い切り泣いてしまった。
思ったより早く涙が止まったのは、夏目さんが何も言わずに、ずっと頭を撫でてくれていたお陰かもしれない。
バイト開始時間にもギリギリ間に合う。
借りていた胸を押し返し、すっかり緩められた腕から抜け出す。
「…そろそろ行きます」
「大丈夫か?ちゃんと水分摂ってから行けよ」
今回ばかりは素直に頷いた。
「バイト終わったら何でも好きなもの食わせてやるから。今日もよろしく頼む」
いつにない神妙な物言いに、もう一度頷いて、詰所に戻った。
平日は残業しまくってなんとかやり過ごした。
だから、週末もがむしゃらに働いていれば、一哉のことを考えなくて済むと思って、バイトをキャンセルしなかったのに。
「凛!お前、彼氏がいるって本当なのか!?」
プレハブ小屋に入った途端、交通事故にでも遭ったかのような衝撃。
誰よ!?
夏目社長に一哉のこと話したの!!
川瀬さんの方を見れば、私の顔が余程怖かったのか、青ざめた顔をしてこちらに向かって手を合わせている。
「大丈夫なのか?騙されてるんじゃないのか!?カラダ目当て…ってことはないか。もしかして、貢がされてるのか!?だから毎週うちでバイトしてたのか!!?」
夏目さんは傷口に塩どころじゃなく、ハバネロを直に擦り付けてくる。
…もう、何なのよ?この人。
折角忘れようとしてるのに。
枯れ果てたはずの涙で、視界が霞んでいく。
「…せん」
「え?」
「…全然大丈夫じゃありません!貢いでないけど、騙されてたし、振られました!!!」
叫んだ瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
気付いたら詰所を飛び出していた。
最悪だ。
よりによってあんなヤツの前で泣くなんて。
絶対馬鹿にされるに決まってる。
もうなにもかもが嫌だ。
このままバイトなんか放り出して、家に帰ってしまいたい。
だけど、そんなことをしたら現場全体に迷惑がかかってしまう。
とにかく早く涙を止めなくちゃ。
人目につかない、プレハブ小屋とプレハブ小屋の隙間に逃げ込もうとしたときだった。
「凛!待って!!」
嘘!
追いかけてきた!!?
そこまでして私のこと馬鹿にしたいわけ?
本当に性格悪い!
「ついてこないでください!心配しなくてもバイトの時間には戻りますから!!」
「待てって!」
全力で走っても、足の長さが違うせいですぐに追いつかれてしまい、次の瞬間、私は夏目社長の両腕に捕らえらえていた。
「ヤだ!離して!!」
力一杯もがいてみても、びくともしない。
「悪かった。さっき川瀬さんから聞いたばかりで、びっくりして…いや、とにかくごめん。デリカシーなさ過ぎた」
『びっくり』は余計だけど、想定外の素直な謝罪。
これ以上心の傷を抉られないと分かった途端、体から力が抜ける。
抱きしめて欲しいのはこの腕じゃない。
本当に謝って欲しいのも、この男じゃない。
だけど、あの夜から、一人で立っているのが精一杯だった私は、不覚にも夏目さんの胸で思い切り泣いてしまった。
思ったより早く涙が止まったのは、夏目さんが何も言わずに、ずっと頭を撫でてくれていたお陰かもしれない。
バイト開始時間にもギリギリ間に合う。
借りていた胸を押し返し、すっかり緩められた腕から抜け出す。
「…そろそろ行きます」
「大丈夫か?ちゃんと水分摂ってから行けよ」
今回ばかりは素直に頷いた。
「バイト終わったら何でも好きなもの食わせてやるから。今日もよろしく頼む」
いつにない神妙な物言いに、もう一度頷いて、詰所に戻った。
あなたにおすすめの小説
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
運命の落とし穴
恩田璃星
恋愛
親の強い勧めで、仕方なくお見合いをすることになった常盤奏音。
そこで彼女を待っていたのは、高校の後輩だが、絶対に結婚相手になり得るはずのない男、羽立昴だった。
奏音の予想に反して二人の結婚を提案する昴の目的とはー!?
※こちらの作品は、他サイトで掲載しているものと同じ内容になります。
※BL要素も含む作品になりますので、苦手な方はご遠慮ください。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。