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四天王寺ロダンの足音がする『四天王寺ロダンの挨拶』より
その5
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(5)
板張りの天井で扇風機がうねるように首を回して僕等の肉体から熱を奪うために懸命に風を送っている。その扇風機の風にアフロヘアの髪が打たれて四天王寺の縮れ毛が揺れている。
「田中さん、実に長く湯に浸かっていましたね」
四天王寺ロダンが赤く火照る顔を向けて僕に言った。
濡れた縮れ毛を気にする風もなくバスタオルで髪をバサバサ拭いて、火照る顔のまま僕を見て言ったのだが、彼の表情は湯上りの為かどこか呆として何か僕に関心がある様な無い様なそんな表情をしているようにも見えた。
だから僕は彼に答えずにいたのだが不意に言った。
「あの『三四郎』どうされました?」
僕は思わず顔を上げた。
「えっ?『三四郎』?」
彼が声を上げて笑う。
「いやぁ何も知らないと思いましたか?実はですね。あの『三四郎』僕のものなんです」
きょとんとして僕は彼に目を向けた。
(どういうことだ?)
そんな言葉が僕の顔に浮かんでいた筈だ、だから彼は僕の表情を読み取るように言った。
「どういうことですか?ですよねぇ。あれですがね、実は僕の持ち物なんです。僕が天王寺で開かれた古本市の露店で買ったものです。実は田中さんがいつも古書巡りを梅田のかっぱ横丁から始めるのを知っていたので、今日、一寸悪戯をしたんですよ」
「悪戯だって?」
「ええ、田中さんは必ずかっぱ横丁のA店の入って一番左の棚から古書を探される習慣があるでしょう?だからそこにあの本を差し込んでおいたんですよ。勿論、あのA書店の書店員には僕の方から裏で手名付けておいて、悪戯を仕掛けたわけですがね」
僕は思わず声が出そうなくらいの驚きを抑えて目を見開いた。
「ちょっと、どういうことさ。いくらなんでもできすぎだろう。これって」
彼がハハハと笑う。
「いえいえ、すいません。実はね、新しい劇をしようと思ってましてね。それがちょっとした探偵ミステリーというか推理物なんですが、実際その場面というのを現実にしてみたらどうなるものかと思いまして、それで田中さんにその劇中に出て来る場面をリアルに演じて貰おうと考えて、悪戯をしたんです」
なんてこったい。
僕は開いた口が塞がらなかった。
まぁあまりにもそう考えれば出きすぎた話ではあると思った。人為的な事であればそれはすとんと心で納得ができた。
しかしながらではあるが、中々自分が哀れである。僕は彼の劇の見切りに使われた役者だったと言える。
湯上りの身体が冷えるような思いだった。そんな表情をしていたのか、四天王寺が気遣うように僕に言った。
「いや、すいません。あまりに唐突でしたね。謝ります。それでその謝罪の為にちょっとお酒でも奢らせてください」
そう切り出してもじゃもじゃの縮れ毛をくしゃくしゃにしながら頭下げた。
「まぁ…、いいよ。そんなことなら。別に何も思わないからさ」
「そうですか」
下着を履きながら彼が頭を再び下げる。
「しかしながら…」
僕も下着を身につけながら彼に言った。
「…あの小説本の工夫、良く出来ていたよ。あれ良く考えたね?」
シャツに首を通しながら言った。
「え?工夫…、そりゃ、田中さん一体何ですか?
慌てて僕は首をシャツから出す。それが驚いて突然首を出した亀の様だと僕は思った。
「えっ?四天王寺君、あの小説本…あれは君の劇で使うための工夫仕掛けではないの?」
僕の驚きに彼がそれ以上の驚きで目を丸くして言った。
「いや…田中さん、何の事か全くわかりません。何かあの本にあったのですか?本に仕掛け何てとんでもない。実はA店の入り口に『三四郎』入荷しましたと張り紙があった筈ですよね、それが実は『「三四郎」と対になる悪戯なんです。つまり…それを目にした人間が心中印象に残れば、きっとそれを手に取るだろうか?そんな実験の結果を見てから劇中でのリアルさを出す為にちょっとと田中さんに仕掛けただけなんですから…」
板張りの天井で扇風機がうねるように首を回して僕等の肉体から熱を奪うために懸命に風を送っている。その扇風機の風にアフロヘアの髪が打たれて四天王寺の縮れ毛が揺れている。
「田中さん、実に長く湯に浸かっていましたね」
四天王寺ロダンが赤く火照る顔を向けて僕に言った。
濡れた縮れ毛を気にする風もなくバスタオルで髪をバサバサ拭いて、火照る顔のまま僕を見て言ったのだが、彼の表情は湯上りの為かどこか呆として何か僕に関心がある様な無い様なそんな表情をしているようにも見えた。
だから僕は彼に答えずにいたのだが不意に言った。
「あの『三四郎』どうされました?」
僕は思わず顔を上げた。
「えっ?『三四郎』?」
彼が声を上げて笑う。
「いやぁ何も知らないと思いましたか?実はですね。あの『三四郎』僕のものなんです」
きょとんとして僕は彼に目を向けた。
(どういうことだ?)
そんな言葉が僕の顔に浮かんでいた筈だ、だから彼は僕の表情を読み取るように言った。
「どういうことですか?ですよねぇ。あれですがね、実は僕の持ち物なんです。僕が天王寺で開かれた古本市の露店で買ったものです。実は田中さんがいつも古書巡りを梅田のかっぱ横丁から始めるのを知っていたので、今日、一寸悪戯をしたんですよ」
「悪戯だって?」
「ええ、田中さんは必ずかっぱ横丁のA店の入って一番左の棚から古書を探される習慣があるでしょう?だからそこにあの本を差し込んでおいたんですよ。勿論、あのA書店の書店員には僕の方から裏で手名付けておいて、悪戯を仕掛けたわけですがね」
僕は思わず声が出そうなくらいの驚きを抑えて目を見開いた。
「ちょっと、どういうことさ。いくらなんでもできすぎだろう。これって」
彼がハハハと笑う。
「いえいえ、すいません。実はね、新しい劇をしようと思ってましてね。それがちょっとした探偵ミステリーというか推理物なんですが、実際その場面というのを現実にしてみたらどうなるものかと思いまして、それで田中さんにその劇中に出て来る場面をリアルに演じて貰おうと考えて、悪戯をしたんです」
なんてこったい。
僕は開いた口が塞がらなかった。
まぁあまりにもそう考えれば出きすぎた話ではあると思った。人為的な事であればそれはすとんと心で納得ができた。
しかしながらではあるが、中々自分が哀れである。僕は彼の劇の見切りに使われた役者だったと言える。
湯上りの身体が冷えるような思いだった。そんな表情をしていたのか、四天王寺が気遣うように僕に言った。
「いや、すいません。あまりに唐突でしたね。謝ります。それでその謝罪の為にちょっとお酒でも奢らせてください」
そう切り出してもじゃもじゃの縮れ毛をくしゃくしゃにしながら頭下げた。
「まぁ…、いいよ。そんなことなら。別に何も思わないからさ」
「そうですか」
下着を履きながら彼が頭を再び下げる。
「しかしながら…」
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「…あの小説本の工夫、良く出来ていたよ。あれ良く考えたね?」
シャツに首を通しながら言った。
「え?工夫…、そりゃ、田中さん一体何ですか?
慌てて僕は首をシャツから出す。それが驚いて突然首を出した亀の様だと僕は思った。
「えっ?四天王寺君、あの小説本…あれは君の劇で使うための工夫仕掛けではないの?」
僕の驚きに彼がそれ以上の驚きで目を丸くして言った。
「いや…田中さん、何の事か全くわかりません。何かあの本にあったのですか?本に仕掛け何てとんでもない。実はA店の入り口に『三四郎』入荷しましたと張り紙があった筈ですよね、それが実は『「三四郎」と対になる悪戯なんです。つまり…それを目にした人間が心中印象に残れば、きっとそれを手に取るだろうか?そんな実験の結果を見てから劇中でのリアルさを出す為にちょっとと田中さんに仕掛けただけなんですから…」
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