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生首坂――namakubizakaーー『四天王寺ロダンの挨拶』より
その6
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田中巡査と四天王寺ロダンは演劇場を後にすると近くの小さな喫茶店に入った。室内は昭和の感じがする調度品が並びそれだけでなく物言わぬ老婆が何とも過ぎ去った時代を感じさせる。二人は老婆にアイスコーヒーを頼むと革の椅子に腰掛けて、先程の話の続きを始めようと互いの顔を見る。
まず沈黙を破り切り出したのは田中巡査だった。彼の手にはペンが握られていた。
「…それで、事件と言うのは…?」
手を揉む様にしながらロダンを見つめる。
「ええ、でもその前に田中さんと出会った前日の事をお話ししましょう」
そのタイミングで老婆が二つのグラスを持ってきた。置かれたグラスにストローを差し込むとロダンはゆっくりとアイスコーヒーを吸い込んだ。
「…前日ですね。僕はあの石段の上の方で同じように稽古をしていました。するとカラスがガァガァ鳴いて騒いでるもんですからろくに練習ができない。集中も切れちゃいますしね。しかしですよ…、異常なくらい何か騒々しい。だから何だろうと思って階段を下ったんです…」
田中巡査がポケットから小さなメモを取り出す。取り出すといつもしているようにペンを走らせる。
「下ると、ほらあの楠に枝が伸びて木々の葉が鬱蒼としているでしょう。ちょうど大きな木陰ですが…なんかよく目を凝らすと何かが引っかかっている。それでですね、僕は楠の幹に上り…、まぁその後は田中さんが見られたとおりの動作を瓜二つですね、枝をゆさゆさと揺らして、そいつを段々と自分の方に近づけて…最後は飛び上がって取ったんですよ」
そう言って桐箱を叩く。
「飛び上がって取れてよかったね。出なけりゃ、落ちて割れてただろうから…」
感心するように田中巡査が頷く。
「そうなんですよ。たまたまでしたけど…」
ロダンがストローに唇を持って行き、アイスコーヒーを啜る。
「それで続きだけど…、事件と言うのは?」
「ええ…それですね」
ストローから唇を離し、グラスの中をくるくると回す。
「僕が田中さんに会ったのはその翌日なんです。それも時間はほぼ僕がこの九谷焼を見つけたのと同じ時間でした」
「同じ時間だった…?」
「ええ、全く同じ時間に僕はまさに同じく似た桐箱に対して同じことをしていたんです」
ロダンが腕を揺れ動かす。それは木の枝を揺れ動かしているときの動作だった。
「そうか…私はその日の前日、府警本部に行っていたからね。あの付近の警らには出ていたんかったんだ」
「そうでしたか。それでですね、僕は始めこの桐箱を見つけた時、不思議に思ったんですよ…だって全く同じ時間に同じような桐箱が楠に引っかかっている。これってあまりにも偶然にしちゃどこかおかしくないかってね」
うん、と頷いて田中巡査はペンを止める。
「確かに…確かに同じことが二日も続けばそう考えるだろうね」
「ですよね。田中さんは初めてだからそう思われなくて当然ですが、当の僕に取っちゃ奇妙極まりないことなんですよ」
田中巡査と四天王寺ロダンは演劇場を後にすると近くの小さな喫茶店に入った。室内は昭和の感じがする調度品が並びそれだけでなく物言わぬ老婆が何とも過ぎ去った時代を感じさせる。二人は老婆にアイスコーヒーを頼むと革の椅子に腰掛けて、先程の話の続きを始めようと互いの顔を見る。
まず沈黙を破り切り出したのは田中巡査だった。彼の手にはペンが握られていた。
「…それで、事件と言うのは…?」
手を揉む様にしながらロダンを見つめる。
「ええ、でもその前に田中さんと出会った前日の事をお話ししましょう」
そのタイミングで老婆が二つのグラスを持ってきた。置かれたグラスにストローを差し込むとロダンはゆっくりとアイスコーヒーを吸い込んだ。
「…前日ですね。僕はあの石段の上の方で同じように稽古をしていました。するとカラスがガァガァ鳴いて騒いでるもんですからろくに練習ができない。集中も切れちゃいますしね。しかしですよ…、異常なくらい何か騒々しい。だから何だろうと思って階段を下ったんです…」
田中巡査がポケットから小さなメモを取り出す。取り出すといつもしているようにペンを走らせる。
「下ると、ほらあの楠に枝が伸びて木々の葉が鬱蒼としているでしょう。ちょうど大きな木陰ですが…なんかよく目を凝らすと何かが引っかかっている。それでですね、僕は楠の幹に上り…、まぁその後は田中さんが見られたとおりの動作を瓜二つですね、枝をゆさゆさと揺らして、そいつを段々と自分の方に近づけて…最後は飛び上がって取ったんですよ」
そう言って桐箱を叩く。
「飛び上がって取れてよかったね。出なけりゃ、落ちて割れてただろうから…」
感心するように田中巡査が頷く。
「そうなんですよ。たまたまでしたけど…」
ロダンがストローに唇を持って行き、アイスコーヒーを啜る。
「それで続きだけど…、事件と言うのは?」
「ええ…それですね」
ストローから唇を離し、グラスの中をくるくると回す。
「僕が田中さんに会ったのはその翌日なんです。それも時間はほぼ僕がこの九谷焼を見つけたのと同じ時間でした」
「同じ時間だった…?」
「ええ、全く同じ時間に僕はまさに同じく似た桐箱に対して同じことをしていたんです」
ロダンが腕を揺れ動かす。それは木の枝を揺れ動かしているときの動作だった。
「そうか…私はその日の前日、府警本部に行っていたからね。あの付近の警らには出ていたんかったんだ」
「そうでしたか。それでですね、僕は始めこの桐箱を見つけた時、不思議に思ったんですよ…だって全く同じ時間に同じような桐箱が楠に引っかかっている。これってあまりにも偶然にしちゃどこかおかしくないかってね」
うん、と頷いて田中巡査はペンを止める。
「確かに…確かに同じことが二日も続けばそう考えるだろうね」
「ですよね。田中さんは初めてだからそう思われなくて当然ですが、当の僕に取っちゃ奇妙極まりないことなんですよ」
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