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生首坂――namakubizakaーー『四天王寺ロダンの挨拶』より
その23
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23
陽に焼けた肌に焦燥ともいうべき皺が刻まれている。それが汗の珠となって頬を伝いながら首筋へと伝い落ちて、地面にシャツの襟首に染みた。田中巡査は夕暮れ間際の天王寺の歩道橋を歩いていた。
再び彼に会うために。
自分の警らの管轄区で起きた老夫婦の生首事件。その後の捜査でその夫婦が東大阪のN地区に住む夫婦だと分かった。
夫婦は死亡後、既に二週間以上が過ぎておりその遺体はもはや腐体と言っていいほど損傷が激しく進み、その首筋には無数のカラスが啄んだ跡があった。
その後の夫婦宅の鑑識や死体解剖等で分かったことは、夫の死因は胴から下は浴槽に浸かっており、浴槽内に水が張ったままであったことから、死因は入浴中に発生した心筋梗塞による水死であった。また婦人の胴から下は寝室に横たわっていた。恐らく彼女自身が重度の認知を患っており、身体等動かすことができない状況であった為、介護人である夫人の急死が招いた脱水症状、および栄養状態の欠乏による衰弱と餓死であった。夫人の首にも同様にカラスの嘴の後があったことから、部屋の開いていてた窓から侵入したカラスが死体を啄んだものと考えられる。
新聞にはどちらも高齢老人の死という事で大きく取り上げられた。とりわけ昨今の日本の現状を現す、非常に社会的な事件としてメディアに取り上げらた。
田中巡査は歩きながら手の甲で拭き出る汗を拭った。
拭いながら見覚えのある角を曲がると、細くなった路地を曲がる。曲がると、そこにドアが見えた。そのドアを開けると地下へ降りる階段がみえた。階段を駆け足で降りると壁に色んな演劇の張り紙がある小さな待合室に入った。丁度、そこに若い女性が居たので巡査は声を掛けた。
「ちょっと、ロダン、ロダン君はいますか?」
女性は額まで切りそろえた前髪の下から警部をまじまじと見ると「はい、いますが…」と小さく言った。
「ねぇ、すまないが呼んでくれないか。私は田中と言うんだけど、少し急いでいてね」
巡査の息の切れた慌てて声を訝し気に見ながら女性が奥に入る。巡査は椅子を引き寄せると腰を落とした。珠玉のような汗が額から零れ落ちて来る。それを今度は掌で拭いた。
「やぁ、田中さん」
その声に振り返る。そこにアフロヘアのTシャツにジーンズ姿のロダンが居た。直ぐに立ちあがると巡査は急くように言った。
「ロダン君、実は…」
ロダンは軽く手を上げると頷いた。
「ええ、あの件は知っています。だから遅かれ早かれ、田中さんがお見えになるだろうと思っていました」
ロダンが促す様に巡査の背に手を遣る。
「もう僕は今日、ここでの用事は無いので良ければ音楽でも聞きに行きませんか、静かでいい所があるんです、ピアノの曲を奏でてくれるところがありましてね。そこで互いの話を聞ければと」
巡査は首を縦に振る。
「いいさ、君に付き合うよ。それにあの話をするなら落ち着ける場所が良い」
ロダンは小さく頷くと再び奥に入り、リュックを背負って出て来た。
「では、行きましょう。ちょっと先の所にありますから」
そう言って巡査が降りて来た階段を昇り出したが、階段の途中で不意に振り返ると巡査に言った。
「田中さん…、それで警察は有馬春次を手配されたんでしょうね?彼は目下、あの老夫婦に関連した詐欺罪で逃亡中でしょうから」
それに一瞬、ぎくりとした巡査はしかし、そこで深く息を吐くと、首を縦に振りながらロダンに言った。
「…どうやら君は既に全てを知っているようだね」
巡査はその言葉を吐いて、ロダンの後を追った。
そう、
自分は今日、恐らく既に彼が知っていることを聞きたくてここに訪れたのだから。
陽に焼けた肌に焦燥ともいうべき皺が刻まれている。それが汗の珠となって頬を伝いながら首筋へと伝い落ちて、地面にシャツの襟首に染みた。田中巡査は夕暮れ間際の天王寺の歩道橋を歩いていた。
再び彼に会うために。
自分の警らの管轄区で起きた老夫婦の生首事件。その後の捜査でその夫婦が東大阪のN地区に住む夫婦だと分かった。
夫婦は死亡後、既に二週間以上が過ぎておりその遺体はもはや腐体と言っていいほど損傷が激しく進み、その首筋には無数のカラスが啄んだ跡があった。
その後の夫婦宅の鑑識や死体解剖等で分かったことは、夫の死因は胴から下は浴槽に浸かっており、浴槽内に水が張ったままであったことから、死因は入浴中に発生した心筋梗塞による水死であった。また婦人の胴から下は寝室に横たわっていた。恐らく彼女自身が重度の認知を患っており、身体等動かすことができない状況であった為、介護人である夫人の急死が招いた脱水症状、および栄養状態の欠乏による衰弱と餓死であった。夫人の首にも同様にカラスの嘴の後があったことから、部屋の開いていてた窓から侵入したカラスが死体を啄んだものと考えられる。
新聞にはどちらも高齢老人の死という事で大きく取り上げられた。とりわけ昨今の日本の現状を現す、非常に社会的な事件としてメディアに取り上げらた。
田中巡査は歩きながら手の甲で拭き出る汗を拭った。
拭いながら見覚えのある角を曲がると、細くなった路地を曲がる。曲がると、そこにドアが見えた。そのドアを開けると地下へ降りる階段がみえた。階段を駆け足で降りると壁に色んな演劇の張り紙がある小さな待合室に入った。丁度、そこに若い女性が居たので巡査は声を掛けた。
「ちょっと、ロダン、ロダン君はいますか?」
女性は額まで切りそろえた前髪の下から警部をまじまじと見ると「はい、いますが…」と小さく言った。
「ねぇ、すまないが呼んでくれないか。私は田中と言うんだけど、少し急いでいてね」
巡査の息の切れた慌てて声を訝し気に見ながら女性が奥に入る。巡査は椅子を引き寄せると腰を落とした。珠玉のような汗が額から零れ落ちて来る。それを今度は掌で拭いた。
「やぁ、田中さん」
その声に振り返る。そこにアフロヘアのTシャツにジーンズ姿のロダンが居た。直ぐに立ちあがると巡査は急くように言った。
「ロダン君、実は…」
ロダンは軽く手を上げると頷いた。
「ええ、あの件は知っています。だから遅かれ早かれ、田中さんがお見えになるだろうと思っていました」
ロダンが促す様に巡査の背に手を遣る。
「もう僕は今日、ここでの用事は無いので良ければ音楽でも聞きに行きませんか、静かでいい所があるんです、ピアノの曲を奏でてくれるところがありましてね。そこで互いの話を聞ければと」
巡査は首を縦に振る。
「いいさ、君に付き合うよ。それにあの話をするなら落ち着ける場所が良い」
ロダンは小さく頷くと再び奥に入り、リュックを背負って出て来た。
「では、行きましょう。ちょっと先の所にありますから」
そう言って巡査が降りて来た階段を昇り出したが、階段の途中で不意に振り返ると巡査に言った。
「田中さん…、それで警察は有馬春次を手配されたんでしょうね?彼は目下、あの老夫婦に関連した詐欺罪で逃亡中でしょうから」
それに一瞬、ぎくりとした巡査はしかし、そこで深く息を吐くと、首を縦に振りながらロダンに言った。
「…どうやら君は既に全てを知っているようだね」
巡査はその言葉を吐いて、ロダンの後を追った。
そう、
自分は今日、恐らく既に彼が知っていることを聞きたくてここに訪れたのだから。
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