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小説家と漫画家ーー『四天王寺ロダンの挨拶』より
その3
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(3)
「ネタですか?」
もじゃもじゃ頭が揺れる。
「そう、ネタ」
山岸が店員を上から下まで見る。
この若者、見れば頭はアフロヘア。身体は細く背も高い。傍目から見れば、どこかマッチ棒みたいに見えなくもない。服装はシャツにジーンズ、足元はコンバースシューズ。まぁ何とも言えない、はまっているようでどこかダサくもある。日比野も同じように見ているがその感想は日比野と同じかどうか、それは分からない。
しかしそんな二人の視線の前に立つ若者は「うーん」と真剣に困り声を出している。
山岸がその困り顔に声をかける。
「どうだい、君。あ…いや、マッチ棒の君?」
「え、マッチ棒?」
「そうそう、君の事さ」
山岸が指差す。
「傍目に見ればマッチ棒だよ、君は。それでどうだい?何かぱっと着火するようなネタあるかい?」
既に山岸は冷やかしの気分だ。その山岸とは対照的に日比野はやれやれと言う表情をしている。
「ほら?どうした店は忙しいだろう。早く言いなよ」
山岸の口からくくくと苦笑が漏れる。それを見て日比野が口を挟む。
「おい、山岸もうよせ、いい加減…」
――あります!!
突然そこでもじゃもじゃ髪が揺れた。
山岸と日比野が同時に若者を見る。
「ありますよ!!」
「ほう」
山岸が口を開ける。
「どんなネタだい?」
「そいつはですね…」
そこまで行ったところで奥から店員へ声が掛かった。急ぎ首を回して「直ぐいきやぁす!!」と言った。
若者は勢いよく山岸と日比野に向き直ると早口で話し出す。
「えっとですね…大阪には天王子七坂っていう歴史ある坂があるんですが…」
「そいつは知ってる」
「実はそれ以外に、歴史ある隠れた坂があるんです。その坂は普通の坂ですが通称『転坂』って言って、いつの頃からかその坂を通る人が必ず転ぶって坂があるんです」
「…ほう」
「で、その坂どんな歴史があるかと言うと転んで人が死ぬと言う歴史なんです」
「…?」
「この前もその坂で人が死にましてね、ご存じないですか?若い女が不意に転んで頭を激しく地面に打って死んだんです。みんなはね、噂してるんです。きっとそれはあの…呪いだって」
「どんな?」
「坂の途中に小さな顔無し地蔵があるんですが、昔豊臣の頃、武将に槍でささされ惨殺された物乞いの恨みが地蔵に憑りつき、それで坂道を行く人が次々と死ぬんだ…と…」
しかしそこまで言うと店員は身体を翻うす。自分の名を呼ばれたからだ。流石にこれ以上はいけないと思ったのだろう、急ぎ忙しい店内へと駆けて言った。
残された山岸は「なんだ…そりゃ」と呟いた。
すると隣で日比野が席を立った。
「えっ?どうした?」
驚いて声をかける山岸を見て日比野が言う。
「悪いが…俺、帰るわ」
「お、おい!日比野」
慌てて山岸が声をかける。
だが日比野は財布から数枚千円札をテーブルに置くと山岸に背を向けた。
「自分の分とあの店員が間違えたビールの分、一緒に払っとくわ。じゃあな」
日比野は軽く手を上げて、後ろを振り返ることなく足早に店を去って行った。
席にひとり残された山岸はビールをグラスに注いで喉に流し込むと先程の店員が出てくるのを待っていたが、厨房に入ったのか、遂に自分の前に姿を見せることは無かった。
「ネタですか?」
もじゃもじゃ頭が揺れる。
「そう、ネタ」
山岸が店員を上から下まで見る。
この若者、見れば頭はアフロヘア。身体は細く背も高い。傍目から見れば、どこかマッチ棒みたいに見えなくもない。服装はシャツにジーンズ、足元はコンバースシューズ。まぁ何とも言えない、はまっているようでどこかダサくもある。日比野も同じように見ているがその感想は日比野と同じかどうか、それは分からない。
しかしそんな二人の視線の前に立つ若者は「うーん」と真剣に困り声を出している。
山岸がその困り顔に声をかける。
「どうだい、君。あ…いや、マッチ棒の君?」
「え、マッチ棒?」
「そうそう、君の事さ」
山岸が指差す。
「傍目に見ればマッチ棒だよ、君は。それでどうだい?何かぱっと着火するようなネタあるかい?」
既に山岸は冷やかしの気分だ。その山岸とは対照的に日比野はやれやれと言う表情をしている。
「ほら?どうした店は忙しいだろう。早く言いなよ」
山岸の口からくくくと苦笑が漏れる。それを見て日比野が口を挟む。
「おい、山岸もうよせ、いい加減…」
――あります!!
突然そこでもじゃもじゃ髪が揺れた。
山岸と日比野が同時に若者を見る。
「ありますよ!!」
「ほう」
山岸が口を開ける。
「どんなネタだい?」
「そいつはですね…」
そこまで行ったところで奥から店員へ声が掛かった。急ぎ首を回して「直ぐいきやぁす!!」と言った。
若者は勢いよく山岸と日比野に向き直ると早口で話し出す。
「えっとですね…大阪には天王子七坂っていう歴史ある坂があるんですが…」
「そいつは知ってる」
「実はそれ以外に、歴史ある隠れた坂があるんです。その坂は普通の坂ですが通称『転坂』って言って、いつの頃からかその坂を通る人が必ず転ぶって坂があるんです」
「…ほう」
「で、その坂どんな歴史があるかと言うと転んで人が死ぬと言う歴史なんです」
「…?」
「この前もその坂で人が死にましてね、ご存じないですか?若い女が不意に転んで頭を激しく地面に打って死んだんです。みんなはね、噂してるんです。きっとそれはあの…呪いだって」
「どんな?」
「坂の途中に小さな顔無し地蔵があるんですが、昔豊臣の頃、武将に槍でささされ惨殺された物乞いの恨みが地蔵に憑りつき、それで坂道を行く人が次々と死ぬんだ…と…」
しかしそこまで言うと店員は身体を翻うす。自分の名を呼ばれたからだ。流石にこれ以上はいけないと思ったのだろう、急ぎ忙しい店内へと駆けて言った。
残された山岸は「なんだ…そりゃ」と呟いた。
すると隣で日比野が席を立った。
「えっ?どうした?」
驚いて声をかける山岸を見て日比野が言う。
「悪いが…俺、帰るわ」
「お、おい!日比野」
慌てて山岸が声をかける。
だが日比野は財布から数枚千円札をテーブルに置くと山岸に背を向けた。
「自分の分とあの店員が間違えたビールの分、一緒に払っとくわ。じゃあな」
日比野は軽く手を上げて、後ろを振り返ることなく足早に店を去って行った。
席にひとり残された山岸はビールをグラスに注いで喉に流し込むと先程の店員が出てくるのを待っていたが、厨房に入ったのか、遂に自分の前に姿を見せることは無かった。
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