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馬蹄橋の七灯篭――『四天王寺ロダンの挨拶』より
その20
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(20)
「それでは…」
僕は言ってから老人を見た。
「僕から話しても?」
言うや老人が苦笑する。
「話すも、何も君が私をここに誘ったんやろう?じゃぁ君が話すのが筋というか、異論を挟むべき何もないじゃないか」
かっかっと乾いた笑いでズレた眼鏡を戻して帽子を取るとパタパタと仰ぐ。
「あぁ暑いわ、いくら川も近いと言うてもやっぱり暑い」
老人は帽子を被るとふうと息を吐いた。
「まぁ、もし君が話すところに何か間違いがあれば、遠慮なく注釈をさせてもらう。まぁ聞かせて貰おうじゃないか」
老人は唇をにっとして口角を上げると静かに黙った。僕はそれを合図に話し出した。
「そう、まず事件のそれぞれを話すよりも先に、やはりというかまず僕の立場をお話ししなければいけませんねぇ」
「…ほう」
老人が僅かに顎を引く。
「君の立場を言うのか」
苦笑交じりの老人の声。
えっへっへ、と僕は笑う。
「まぁそうですね。別に僕は探偵でも警察でも何でもない、唯の劇団員です。まずはそれをあなたに言わなければ」
「…うむ」
老人の苦笑は続く。
「それとある依頼人が居るということは間違い」
僕はにっと笑う。
「…ほう、それは間違いというのか?」
「ええ、是はですねぇ、まぁ何というか僕の性格的なところというか、何というか…」
「何だ?歯の浮いたことを」
「まぁ…あれなんですよ。僕のですねぇ性格的な執拗さというのか、どうも僕はですね、こう身近に何か不思議な事や事実などがあると、どうもそれをほっておけない…まぁそれを何というのか自分のですねぇ知的好奇心と言うのがふつふつ湧くのをそのまま知らないままで置いておくことができないそんなところがあるんですよ」
「ほうか、そんなところがあるのか?」
老人が僅かに首を振り僕を見る。
「ええ、その通りでやんす。おっと失礼。もうどこの言葉かもわからない迷言で答えてしまいました。そうなんです。…まぁ、でもこれは仕方がないかと僕は最近思っているんです」
「仕方がないやと?」
ほうと言うような表情をした老人が怪訝そうに僕を見た。
「ええ、そのぉ、突然ですが…あなたは血縁間で伝播していく何かがあるというお考えはお持ちですか?」
「血縁間、伝播?何やそれは?」
鼻先の眼鏡を持ち上げながら老人は問いかけ、それに僕は答えた。
「あ、それはですね。例えばですよ、才能という奴です。分かり易く言うと芸術的才能や身体的才能とかそうした諸々の事です。そうした事が親から子へとか、親族間でも伝播して…」
「つまり遺伝かね?」
パンと音を鳴らして僕は掌を叩く。
「そうそう、それですそれです遺伝ですね」
老人は僕を見つめたまま目を細める。
「私に何を言わそうとしているのかね?」
鋭くなった視線を避けるために僕は思いっきり髪の毛を掻く。じょりじょりと言う音がはっきりと鼓膜の奥に響いた。
「まぁそれです。つまり遺伝性というやつです。それって伝播するとお思いでしょうか?」
僕の問いかけに老人は表情を険しくした。それは自分自身に対する切実な問いかけだと老人は思ったに違いない。
だからこそ険しい表情になったのだと僕は思った。
「それでは…」
僕は言ってから老人を見た。
「僕から話しても?」
言うや老人が苦笑する。
「話すも、何も君が私をここに誘ったんやろう?じゃぁ君が話すのが筋というか、異論を挟むべき何もないじゃないか」
かっかっと乾いた笑いでズレた眼鏡を戻して帽子を取るとパタパタと仰ぐ。
「あぁ暑いわ、いくら川も近いと言うてもやっぱり暑い」
老人は帽子を被るとふうと息を吐いた。
「まぁ、もし君が話すところに何か間違いがあれば、遠慮なく注釈をさせてもらう。まぁ聞かせて貰おうじゃないか」
老人は唇をにっとして口角を上げると静かに黙った。僕はそれを合図に話し出した。
「そう、まず事件のそれぞれを話すよりも先に、やはりというかまず僕の立場をお話ししなければいけませんねぇ」
「…ほう」
老人が僅かに顎を引く。
「君の立場を言うのか」
苦笑交じりの老人の声。
えっへっへ、と僕は笑う。
「まぁそうですね。別に僕は探偵でも警察でも何でもない、唯の劇団員です。まずはそれをあなたに言わなければ」
「…うむ」
老人の苦笑は続く。
「それとある依頼人が居るということは間違い」
僕はにっと笑う。
「…ほう、それは間違いというのか?」
「ええ、是はですねぇ、まぁ何というか僕の性格的なところというか、何というか…」
「何だ?歯の浮いたことを」
「まぁ…あれなんですよ。僕のですねぇ性格的な執拗さというのか、どうも僕はですね、こう身近に何か不思議な事や事実などがあると、どうもそれをほっておけない…まぁそれを何というのか自分のですねぇ知的好奇心と言うのがふつふつ湧くのをそのまま知らないままで置いておくことができないそんなところがあるんですよ」
「ほうか、そんなところがあるのか?」
老人が僅かに首を振り僕を見る。
「ええ、その通りでやんす。おっと失礼。もうどこの言葉かもわからない迷言で答えてしまいました。そうなんです。…まぁ、でもこれは仕方がないかと僕は最近思っているんです」
「仕方がないやと?」
ほうと言うような表情をした老人が怪訝そうに僕を見た。
「ええ、そのぉ、突然ですが…あなたは血縁間で伝播していく何かがあるというお考えはお持ちですか?」
「血縁間、伝播?何やそれは?」
鼻先の眼鏡を持ち上げながら老人は問いかけ、それに僕は答えた。
「あ、それはですね。例えばですよ、才能という奴です。分かり易く言うと芸術的才能や身体的才能とかそうした諸々の事です。そうした事が親から子へとか、親族間でも伝播して…」
「つまり遺伝かね?」
パンと音を鳴らして僕は掌を叩く。
「そうそう、それですそれです遺伝ですね」
老人は僕を見つめたまま目を細める。
「私に何を言わそうとしているのかね?」
鋭くなった視線を避けるために僕は思いっきり髪の毛を掻く。じょりじょりと言う音がはっきりと鼓膜の奥に響いた。
「まぁそれです。つまり遺伝性というやつです。それって伝播するとお思いでしょうか?」
僕の問いかけに老人は表情を険しくした。それは自分自身に対する切実な問いかけだと老人は思ったに違いない。
だからこそ険しい表情になったのだと僕は思った。
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