四天王寺ロダンの冒険

ヒナタウヲ

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馬蹄橋の七灯篭――『四天王寺ロダンの挨拶』より

その22

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(22)

 老人が仰け反るようにするのが見えた。僕は鼻を掻く。そんな僕を見て目を細める老人。
「…どうも君は困るな。何やら色んなとことに落とし穴があるようだ」
 へへと僕は笑った。
「まぁ…それでももしかしたら間違があるかもしれませんのでその時は…」
「ああ、訂正させてもらう」
 老人が顎を引く。
「では続けましょう。それでこの三人、まずは東珠子ですが、彼女はこの山上楼『東夜楼蘭』の娘で、つまり根来動眼が「東良平あずまりょうへい」と自分の姓名をあらわにしてから、つまり孫にあたります。彼女自身はまた演劇が当時から特に好きで、よくよく難波などにも出向いたそうです。まぁ結局、彼女のそうした好みが現在の彼女を作っているわけで――つまり『アズマエンタープライズ』の会長に押し上げたということかもしれません。ちなみに東珠子の祖母の実家は泉州タオル業で財を成した家で、また泉南地域の大地主でもあったそうですがね」
 僕はここまで言うと老人を見る。老人は軽く顎を引いた。

 ――その通り

「では次に火野龍平ですが、彼はこの動眼温泉の下屋のひとつ『火野屋』の長男。彼の所の『火野屋』は温泉の源泉かけ流しを売りにした宿で、当時は下屋の盟主『田中屋』と遜色ない繁盛をしていた店だった。それに彼にはある才能があった。それは何かというと長距離を走る才能だった。彼はこの温泉街の殆ど坂ともいえる場所を走り続け、まぁ持ち前の運動神経の良さもあったのでしょうが、それらがやがて彼を大きな舞台へと引き上げようとした。そう、それがあの事件への引き金になる…訳ですが」
 僕は再び老人を見る。老人の目は薄くかかった靄を払うように瞼を閉じているが、それでも小さく顎を引く。
「さて…」
 僕は咳払いをした。
「ここに三人目として田中竜二が出てきますが、しかしながらです。僕は事件全体を俯瞰的に見ても、彼という特徴極まる人物が居なければ、きっとこのような悲劇は無く、きっと三人皆が平和裏に人生を謳歌できたのではないかと思うのです。それ程までに僕は、人間というものはこうも他人の人生に影響を与えるのかと考えないではいられません。本当に彼とその背後を思うだけで人生はシェークスピアの書く悲劇よりも何よりも、本当に奇妙で歪だと感じないではいられなかったのですから」
 老人は不意に目を開けると帽子の鍔を握りしめた。握りしめて軽く上げて、僕を見た。
「まるで君の言葉は哀悼あるものへ捧げる言葉のようやなぁ」
 言ってから老人が杖で地面を叩いた。
「聞こうやないか、ほな、竜二の事を」
 僕は顎を引いて頷いた。




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