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馬蹄橋の七灯篭――『四天王寺ロダンの挨拶』より
その28
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(28)
「…火野龍平を撃つ?やと…?」
老人が首を斜めにして僕を見る。その眼の奥底から僕に伝わるものがある。
まるで幾つもの重なり合う事実の中から、抜き取られた一枚の真実があるとすれば、当人にすればそれを見た時の驚きは真正面から見れないのかもしれない。その時、人はやや斜に構えつつ自分の心を防御しようと咄嗟にそうした反応をするのかもしれない。そしてそれを隠そうとするために人は瞬時に嘘をつくかもしれない。
「なんでそんなことができるんや。ピストル何て手に入らんのに」
「そうでしょうか?」
僕は間髪入れず、問いただす。
「何?」
老人が眼鏡の奥で睨むような眼差しを見せる。僕はその視線を受け流し、それから腕をのばして馬蹄橋向うの方を指差す。
老人の視線が僕の腕に誘導されて動く。動くと視線の先に向う側の灯篭とベンチが見えた。それは此処のベンチ側の灯篭から数えて七番目にあたる灯篭だった。
僕の腕は綺麗に真っ直ぐ伸びている。唯、指差す為だけに僕の腕は伸びているのではない。これは或る事実を示しているのだ。そしてそれは或る事実を知っている人物にとっては、最も知られたくない『解』に違いない。
知られたくない人物とは誰だろう。
僕は浮かんでくる人物の名を伏せ、腕を真っ直ぐ伸ばして灯篭を見る。
「確かにここで起きた火野龍平の障害事件は、実のところ、それが障害事件という結論すら出ずに、まるでお稲荷さんの祟りだという迷信めいた、…まぁ彼自身東珠子との逢引きを神聖な場所でしていたからそれがバレてからは集落の人に陰口をたたかれるようでもあったので、全く警察の手を煩わせること無く潮が引くように終わったのです。それに狙撃された夜もあのベンチで東珠子と会う約束でしたから全く持って余計そうだったのでしょうね」
指は無言の灯篭を指差している。僕はそこに火野龍平の姿が見える気がした。
「東京オリンピックの前年1963年の丁度この夏の盛り、そう…あの日あの時あの夜、ここは夏祭りで露店も出て、温泉と涼を求めて沢山の人だかりだったようです。そんな夏祭りの夜です、火野龍平があそこで肩を撃たれたのは…」
撃たれて蹲る火野龍平が見えたのは、僕の錯覚だろうか。
「そんな中、ここである人物が射的の店を任されていた」
僕はそう言いながらベンチから立ち上がる。
「射的の店はこのベンチを覆う様に天幕が張られ、大人子供が沢山いたそうです」
当時その射的の露店があったであろう店を思い描き小さな円を描くように歩く。 僕は誰に言い聞かせようとしているのだろう。老人へかそれとも当時のここにいただろう誰かに対してか。しかし僕の腕は真っ直ぐ灯篭へ伸びている。それは北を指すコンパスの様に、一点を指してぶれてはいない。
僕は話を続ける。
「まだ当時、十八になるかならない子供じみた大人ぶる若者だった彼はサングラスを掛けて、既に大の大人相手に商売を切り盛りしていた。肝も頭を中々の座った人物だったようで、仲間内からは生まれ育った明石の地名を取って『明石の辰』と謂われていた。そう彼の名は猪子部銀造と言って、明石の名刹『雲竜寺』のドラ息子だった」
「…火野龍平を撃つ?やと…?」
老人が首を斜めにして僕を見る。その眼の奥底から僕に伝わるものがある。
まるで幾つもの重なり合う事実の中から、抜き取られた一枚の真実があるとすれば、当人にすればそれを見た時の驚きは真正面から見れないのかもしれない。その時、人はやや斜に構えつつ自分の心を防御しようと咄嗟にそうした反応をするのかもしれない。そしてそれを隠そうとするために人は瞬時に嘘をつくかもしれない。
「なんでそんなことができるんや。ピストル何て手に入らんのに」
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僕の腕は綺麗に真っ直ぐ伸びている。唯、指差す為だけに僕の腕は伸びているのではない。これは或る事実を示しているのだ。そしてそれは或る事実を知っている人物にとっては、最も知られたくない『解』に違いない。
知られたくない人物とは誰だろう。
僕は浮かんでくる人物の名を伏せ、腕を真っ直ぐ伸ばして灯篭を見る。
「確かにここで起きた火野龍平の障害事件は、実のところ、それが障害事件という結論すら出ずに、まるでお稲荷さんの祟りだという迷信めいた、…まぁ彼自身東珠子との逢引きを神聖な場所でしていたからそれがバレてからは集落の人に陰口をたたかれるようでもあったので、全く警察の手を煩わせること無く潮が引くように終わったのです。それに狙撃された夜もあのベンチで東珠子と会う約束でしたから全く持って余計そうだったのでしょうね」
指は無言の灯篭を指差している。僕はそこに火野龍平の姿が見える気がした。
「東京オリンピックの前年1963年の丁度この夏の盛り、そう…あの日あの時あの夜、ここは夏祭りで露店も出て、温泉と涼を求めて沢山の人だかりだったようです。そんな夏祭りの夜です、火野龍平があそこで肩を撃たれたのは…」
撃たれて蹲る火野龍平が見えたのは、僕の錯覚だろうか。
「そんな中、ここである人物が射的の店を任されていた」
僕はそう言いながらベンチから立ち上がる。
「射的の店はこのベンチを覆う様に天幕が張られ、大人子供が沢山いたそうです」
当時その射的の露店があったであろう店を思い描き小さな円を描くように歩く。 僕は誰に言い聞かせようとしているのだろう。老人へかそれとも当時のここにいただろう誰かに対してか。しかし僕の腕は真っ直ぐ灯篭へ伸びている。それは北を指すコンパスの様に、一点を指してぶれてはいない。
僕は話を続ける。
「まだ当時、十八になるかならない子供じみた大人ぶる若者だった彼はサングラスを掛けて、既に大の大人相手に商売を切り盛りしていた。肝も頭を中々の座った人物だったようで、仲間内からは生まれ育った明石の地名を取って『明石の辰』と謂われていた。そう彼の名は猪子部銀造と言って、明石の名刹『雲竜寺』のドラ息子だった」
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