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人間界へ
79.
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ガタゴト揺れる荷台の上で、地方の教育事情を聴いてみた。
学校と行っても、教会の片隅でやっている寺小屋みたいなもので、簡単な読み書き計算を教えてくれるという。
特に決まったカリキュラムがあるわけではないから、この村のように町へ行ける時だけ通うという不定期通学で、だいたい十歳くらいから二年か三年通う。
高度な学問を学ぶためにはもっと大きな都市の大学に行くか、王立の研究所の徒弟を目指すしかない。どちらも教会や領主の推薦がなければ難しいから、庶民だと本当に優秀な子供しか学問の道に進むことはできない。
俺はたぶん浮浪児と思われているから、学校とか教会のことはぜんぜん知らなくても不思議がられていない。御者のオッサンが哀れみの目をしてあれこれ教えてくれるのはちょっと不服だが、教えてくれるのは有難いから黙っておく。
それにしても揺れが酷くて尻が痛い。
舗装されていない田舎道を木材剥き出しの車輪で走っているのだから、道のデコボコが直に尻に響くのもしょうがないが、こんな状況でも平然と喋っていられる田舎者どもには感服する。本当はちょっと浮かんでいたい気分だが、俺だけ揺れていないと怪しまれそうだから我慢する。
ピーパーティンとルビィは積んできた魔物素材の柔らかそうなところに座っている。鳥と猫だから許されることで、売り物だから子供は上に座るわけにいかない。毛皮の上で昼寝をしている子分どもが腹立たしい。いつか座布団にしてくれる。
それは置いといて、ガキどものお喋りは続く。
超優秀な子供がすぐそばにいた。リオの妹のアンだ。
学校に通う前から文字の読み書きが得意で、町の図書館の本も全部読み尽くしたという才女だった。教会の牧師にも王立研究所への就職を勧められているという。
ちなみに、この世界では神父は主に宗教儀式を執り行う人間、牧師は主に教会の維持管理を行う人間を呼ぶそうだ。前世では宗派の違いで呼び分けられていたはずだが、キリスト教徒じゃなかったからよく知らない。
呼び方も絶対ではないから、神父が教会の掃除することもあるし、牧師が儀式で聖典を読むこともあるらしい。そりゃ儀式を執り行うのだって準備や片付けが必要だし、教会の日常生活には祈りが必須だから、儀式と雑事で完全に線引きなんてできないだろう。
隣の町にある教会は出張所みたいな小さいところだから、在中しているのは牧師だけで、祭などがある時だけ大都市の教会から神父が来る。
教会内では儀式も日々の雑事もどっちも大事というスタンスではあるが、神父は牧師のことを雑用係と思ってるやつが多いらしい。逆に牧師は神父のことをたまにしか働かない怠け者と思ってるやつが多いらしい。
それに貴族の子供は神父になりやすいが、庶民の子供は牧師になりやすいとか、明らかな差別もあるという。勿論、庶民でも神父になるやつはいるし、貴族出身でも牧師をやってるやつはいる。でも、人間の集まるところ必ず差別はあるもんだ。
まあ、そんな教会事情は俺には関係ない。この国の宗教が何教なのかもよくわからないし、俺は無宗教というか、魔王だから崇拝される側だ。まず間違いなく教会から見れば邪悪な異教徒だから、近付く気もない。
ともかくとして、アンは優秀だから王立研究所に就職できる可能性があるけれど、本人はあまり乗り気じゃないらしい。
「王立の研究所って魔法と軍事の研究をするところだから、私はあんまり興味ないかな」
王立研究所は給料をもらって研究をするところだから、当然ながら好き勝手に興味のあることを研究できるわけはない。アンが興味があるのは歴史だが、王宮の歴史編纂室への就職は狭き門だそうだ。
それに、大学も出ていない庶民の子供は雑用係から始めて、研究者の助手になってから、地道に一端の研究者を目指す。衣食住は保証されるが、研究者の手伝いをしながら片手間に勉強をするからかなり険しい道になる。
「じゃあ大学目指せばいいじゃん、特待生枠とかあるんじゃねーの?」
「うん、アンなら推薦で特待生にもなれるよ」
「そこまでは無理だよ、もしも大学に入れたって一人暮らしなんてできないし」
リオはちょっと兄バカが入っているようだが、本気でアンなら大学にも行けると考えているらしい。
でも、やっぱりアン本人は乗り気じゃない。
それもそうか。特待生になって学費は免除されるとしても、大学に通うには村を出るしかない。そうなれば当然生活費が必要になるから、結局は庶民の子供は働きながら片手間に勉強するしかない。
田舎では学問は嗜好品扱いだ。そんなもののために都市での生活費を親に負担させるなんて、猟師の家の子にとってはとんでもない話しなのだ。
俺にとっては所詮は他人事だ。アンは頭が良いし、リオはそんじょそこらの兵士よりも強いだろうが、誰だって必ずしも人生のうちで才能を活かせるとは限らない。ガタゴト揺れる馬車の上で勿体ないなとは思うけど、それだけだ。
学校と行っても、教会の片隅でやっている寺小屋みたいなもので、簡単な読み書き計算を教えてくれるという。
特に決まったカリキュラムがあるわけではないから、この村のように町へ行ける時だけ通うという不定期通学で、だいたい十歳くらいから二年か三年通う。
高度な学問を学ぶためにはもっと大きな都市の大学に行くか、王立の研究所の徒弟を目指すしかない。どちらも教会や領主の推薦がなければ難しいから、庶民だと本当に優秀な子供しか学問の道に進むことはできない。
俺はたぶん浮浪児と思われているから、学校とか教会のことはぜんぜん知らなくても不思議がられていない。御者のオッサンが哀れみの目をしてあれこれ教えてくれるのはちょっと不服だが、教えてくれるのは有難いから黙っておく。
それにしても揺れが酷くて尻が痛い。
舗装されていない田舎道を木材剥き出しの車輪で走っているのだから、道のデコボコが直に尻に響くのもしょうがないが、こんな状況でも平然と喋っていられる田舎者どもには感服する。本当はちょっと浮かんでいたい気分だが、俺だけ揺れていないと怪しまれそうだから我慢する。
ピーパーティンとルビィは積んできた魔物素材の柔らかそうなところに座っている。鳥と猫だから許されることで、売り物だから子供は上に座るわけにいかない。毛皮の上で昼寝をしている子分どもが腹立たしい。いつか座布団にしてくれる。
それは置いといて、ガキどものお喋りは続く。
超優秀な子供がすぐそばにいた。リオの妹のアンだ。
学校に通う前から文字の読み書きが得意で、町の図書館の本も全部読み尽くしたという才女だった。教会の牧師にも王立研究所への就職を勧められているという。
ちなみに、この世界では神父は主に宗教儀式を執り行う人間、牧師は主に教会の維持管理を行う人間を呼ぶそうだ。前世では宗派の違いで呼び分けられていたはずだが、キリスト教徒じゃなかったからよく知らない。
呼び方も絶対ではないから、神父が教会の掃除することもあるし、牧師が儀式で聖典を読むこともあるらしい。そりゃ儀式を執り行うのだって準備や片付けが必要だし、教会の日常生活には祈りが必須だから、儀式と雑事で完全に線引きなんてできないだろう。
隣の町にある教会は出張所みたいな小さいところだから、在中しているのは牧師だけで、祭などがある時だけ大都市の教会から神父が来る。
教会内では儀式も日々の雑事もどっちも大事というスタンスではあるが、神父は牧師のことを雑用係と思ってるやつが多いらしい。逆に牧師は神父のことをたまにしか働かない怠け者と思ってるやつが多いらしい。
それに貴族の子供は神父になりやすいが、庶民の子供は牧師になりやすいとか、明らかな差別もあるという。勿論、庶民でも神父になるやつはいるし、貴族出身でも牧師をやってるやつはいる。でも、人間の集まるところ必ず差別はあるもんだ。
まあ、そんな教会事情は俺には関係ない。この国の宗教が何教なのかもよくわからないし、俺は無宗教というか、魔王だから崇拝される側だ。まず間違いなく教会から見れば邪悪な異教徒だから、近付く気もない。
ともかくとして、アンは優秀だから王立研究所に就職できる可能性があるけれど、本人はあまり乗り気じゃないらしい。
「王立の研究所って魔法と軍事の研究をするところだから、私はあんまり興味ないかな」
王立研究所は給料をもらって研究をするところだから、当然ながら好き勝手に興味のあることを研究できるわけはない。アンが興味があるのは歴史だが、王宮の歴史編纂室への就職は狭き門だそうだ。
それに、大学も出ていない庶民の子供は雑用係から始めて、研究者の助手になってから、地道に一端の研究者を目指す。衣食住は保証されるが、研究者の手伝いをしながら片手間に勉強をするからかなり険しい道になる。
「じゃあ大学目指せばいいじゃん、特待生枠とかあるんじゃねーの?」
「うん、アンなら推薦で特待生にもなれるよ」
「そこまでは無理だよ、もしも大学に入れたって一人暮らしなんてできないし」
リオはちょっと兄バカが入っているようだが、本気でアンなら大学にも行けると考えているらしい。
でも、やっぱりアン本人は乗り気じゃない。
それもそうか。特待生になって学費は免除されるとしても、大学に通うには村を出るしかない。そうなれば当然生活費が必要になるから、結局は庶民の子供は働きながら片手間に勉強するしかない。
田舎では学問は嗜好品扱いだ。そんなもののために都市での生活費を親に負担させるなんて、猟師の家の子にとってはとんでもない話しなのだ。
俺にとっては所詮は他人事だ。アンは頭が良いし、リオはそんじょそこらの兵士よりも強いだろうが、誰だって必ずしも人生のうちで才能を活かせるとは限らない。ガタゴト揺れる馬車の上で勿体ないなとは思うけど、それだけだ。
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