花開くは何処

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「白緑の庭」は、あくまでも小説。
一方で、その派生で出来たグラフィック、箱庭系の登場人物たちは、目鼻立ちの整った、眼で見てすぐ分かる人物像ばかりだ。

「やっぱり、コスプレ説って。あると思うの。というか言われてばかりだけれど」

と、賀籠六絢月咲。

「コスプレかもな、不思議な人が居たって。つまり、〔いない人が居た〕事件。それか、事故かもだけれど」

九十九社にて。
絢月咲は、杵屋依杏とは面識がある。
数登珊牙にとっては、最近の知り合い。
九十九社へ来るのは、これが初めてだ。

桜は、まだある。
散っている所もある。
西陣地区。
黒敷よりは、多少凹凸がある。平坦ではない。

スラリと高い背丈。
依杏としては、自分の周りは「背の高い人物ばかりだなあ」と思うところなのだが、絢月咲もそのひとり。
肩より少し上の髪、ミディアムヘア? に、初夏仕様の服装。
足先は、スニーカー。ただし、薄い。

一方で、一応仕事の恰好の依杏は、素材は同じく薄い。
スーツ。通気性は良い。

「で。事故かもだけれど、って、事故だったんですか?」

お茶を渡しつつ。

絢月咲。

「とにかく被害者が出た。私としては、事件と思いたい」

「ふむ」

「で、被害者と反対側の人が居ないのよ」

「反対側の人」

と、脇から数登珊牙が現れる。

絢月咲の向かいに、依杏が座っている。
で、絢月咲の隣に、彼は無理矢理、腰掛けた。
依杏の中では、数登が一番高身長と見ている。
座高も高い。脚の長さは?

とにかく、仕事で近くで過ごしていても、数登という人物には謎が多い。
と依杏は思っている。今現在も。

「反対側は反対側です」

と、絢月咲。

「被害者を出した側ってこと。ただ、今は別に、事件の話を警察に言いに来た人、っていう設定じゃあないもの」

「犯人が居る案件かもしれない、ということですね」

と数登。

「そうそう。ただ、私は話をしに来ただけ。しかも、知り合いが関わっていて。忙しいから。私が代理」

と絢月咲。

知り合いはEguriだという。
絢月咲の言った忙しいというのも、その人らしい。

「いろいろ困っているんだって。その件はちょっと後回し。いま話そうとしていることには、関係ないから。たぶん」

絢月咲はテーブルに、数枚の資料? を並べた。

「とにかく、反対側の人が居ないって。ここで起こったの」

指で示す。
資料の写真は、緑豊かな風景である。

「Eguriの小説の舞台なんだって。内緒よ」

場所は通称、「空中庭園」。

「へえ」

と依杏。

絢月咲。

「で、反対側の人が、Eguriの小説からの派生から、グラフィックで出て来たんじゃないかって。噂ばっかりになっているの」

「は?」

と依杏。



「グラフィックだったんですか?」

「派生の箱庭系は〔ホワイトアウト〕っていうらしいけれど。それのキャラにそっくりだったって。居ない人が、空中庭園に居たってさ」

と絢月咲。

依杏。

「居た……って、無理ですよね」

「無理よ。でも、居ない人を実際に見た人が、居たんだって。被害者も、それを見たかもしれないんだって。彼を含めて、3人かな」

ここから個人情報。
Eguriの本名は、五堂というらしい。
空中庭園を造ったのは、彼女の父。五堂忍。

「道楽まじりで造った」

ぽかんとして、依杏が言う。

「金持ち」

「五堂絵卯さんが、その庭園を。小説のモデルにしていたんですね」

と、数登は再確認。

「そう。で、被害者は五堂忍さん。キャラにそっくりな〔居ない人〕が、今のところ犯人扱いされている」

新聞記事もある。
依杏は、それを見つめながら、頭が回転しない。
眼を通す。

「亡くなった、か……」



新聞記事によれば、空中庭園には○日の15時から、人が集まっていた。
五堂忍は、その中で唯一の被害者。

遺体に接する機会というのは、やはり多い。普通の人よりは。
九十九社は葬儀屋で、依杏もそうなった。
実際の場合と、紙面のみの場合と。
そして彼女は、いまだに遺体には、慣れない。

「また話が混同するけれど。絵卯の身辺情報から話す」

と絢月咲。

「ネット小説で売れたんだけれど、彼女自身は、顔バレしているんじゃないかって。ひどく悩んでいる」

「それだけですか?」

と数登。

絢月咲。

「違います。顔バレに至る結構困ったことが、かなり続発しているって意味です」

「なるほど」

「空中庭園の件も、そのひとつになっちゃったのよ。今回で。絵卯のことは、配信案件で知ったのがきっかけ。売れても、サポートは手薄なんだって」

五堂忍が死んだという、当日の空中庭園には6人が集まっていた。
緑豊かな場所。
とにかく、それ。
九十九社がある西陣地区からは、車でも1~2時間かかる。
温泉、トレッキング。富裕層。海晴地区。

五堂忍は事業展開が得意だった。
所有地の一角に造ったのが、空中庭園。
新聞記事の一筋。

「行ったことは」

数登は絢月咲へ尋ねる。

「ないない。ないです。絵卯とも、あまり交流はないですから」

と絢月咲。

「話はするけれど、6人の中には絵卯が居て、他の5人とも接触まったくなしだから。私」

依杏。

「みんな五堂姓なんですか?」

記事を見ながら言う。

「あ、違いますね。五堂姓じゃない人も居たって書いてある」

読みつつ。

「会社関連の話し合い。空中庭園は屋敷と繋がっている。話し合いが行われたのは、庭園のほうで。テラス? 開始は15時。屋敷のほうへ数人で、移動した時間帯あり。五堂忍さんは、庭園から移動しなかったって書いてあります。そう言ったってことですかね? 誰かが? 絵卯さんも、あんまり移動していないって書いてますね」

「そうね。忍さんは、絵卯とは沢山話したいこと、あったと思うし」

と絢月咲。

「ずっと庭園にいらしたんでしょうか。絵卯さんは」

と数登。

依杏。

「いや、あんまり移動しなかったとしか、書いていないですね。ああ、1回屋敷へ向かったって書いてあります。いろんな人が、庭園を空けていた時間帯があったんじゃないでしょうかね。読む限り」

絢月咲が読む。

「6人の名前。五堂以外もあるわよ。樅ノ木って人と、萩原って人。他は五堂。絵卯に、エリカさん、義明さん、忍さん」

「犯人説はありますか」

と数登。

絢月咲。

「忍さんには刺された痕があった。らしいです。致命傷になっている? 書いてあるけれど、ここにも。〔居ない人が刺したんじゃ〕って。証言。全身真っ白の女性。箱庭系に出る登場人物と、そっくり。記事にもあるけれど、一応その話だけは、絵卯からも聞いたから」

数登。

「話を追うに、忍さんを殺したのは、とにかく女性。という判断に傾きつつある」

「そうねえ。だから、余計に絵卯が困るし」

と絢月咲。



珊牙さんは、絢月咲さんの話には興味深々だなあ。
と依杏は、改めてぽかんとなる。
話が見えない。
ハッキリしない。
絢月咲さんを、空中庭園へ向かわせたいという、意図は読めるのだが。
と依杏は思う。数登がだ。

で。
依杏が読む。

「五堂姓の人が、五堂絵卯さん、五堂エリカさん、五堂義明さん、五堂忍さん」

小休止。

「五堂姓しか女性、居ませんけれど」

若干の沈黙。

「更にですが」

と数登。

「絵卯さんは、空中庭園、通称。その場所をモデルにして、小説を書いている。〔ホワイトアウト〕にも彼女は関係していて、現場で目撃されたのは、その登場人物ではないか、という状況。絵卯さんは、今の案件に一番近い存在、ということですね」

「困りまくりますね」

と依杏。

「ほんとに」

と絢月咲。



絢月咲とは、以前にも殺しの件で関わったことがあった。
九十九社として。
今回のは、明確な殺人だろうか?

記事内容。
五堂姓以外の名前として、樅ノ木有人、萩原洋一とある。
○日の15時から16時頃までの間、その中で2回。
全身真っ白の女性が目撃された、と書かれている。

「絵卯さんも、エリカさんっていう人も、どっちも真っ白じゃないですよね。少なくとも」

と依杏。
こんなの、疑いをかけられても、困るのである。
と思いつつ。

「あと。絵卯が忍さん、自分の父親を殺すほど憎んだっていう、証拠なんかないし」

と絢月咲。

「なるほど」

と珊牙。

絢月咲によれば、全身真っ白に該当する女性、そのキャラクターの名前は「アカリ」というらしい。
アカリが実体化したという証拠もなければ、凶器も残っていないと書いてあり。
九十九社は全体として、ただの葬儀屋である。
捜査機関でもなんでもない。
証拠もない。
実際に、空中庭園に向かって、見て来たわけでもない。
アカリは2回目撃されていて、そのアカリが犯人扱い。今のところは。
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