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3.
しおりを挟む「2回ということは」
と数登。
「同じ人物が、現段階で犯人とされている〔アカリ〕を2回、見たということなのか。それとも、それぞれ別の人物が、〔アカリ〕を1回ずつ、見たということなのか」
依杏。
「どうやら2名らしいですね。記事によれば」
「〔アカリ〕を見つけたのが、2名。男女2人ですか」
と数登。
数登も依杏も、一介の葬儀屋であることには変わりない。
いわゆる「変な案件」が、知り合いやら個人から、舞い込んでくる。
依杏は、それがいつ頃から始まったのか、よく分からない。
数登と出会ってから、もう始まっていた。
葬儀社だが、九十九社はそんな場。
一応、空中庭園の件は、依杏の見た感じでは「小さな事件」。
話を持って来た、絢月咲は現場へ行ったことはない。
依杏も数登も同じ。あとは、絢月咲の話と、簡易見取り図による。
そして写真の数々と、新聞記事。
「顔バレを恐れている件もあるが、空中庭園の殺人? で、困っている小説家の案件」。
ところで絢月咲は、絵卯の顔バレの件には、結局触れず。
帰路に。
五堂忍が所有している、今では「していた」その、通称「空中庭園」。
絢月咲による簡易見取り図。
門構えには凝っている。写真には劣るものの、ツタも描き加えている。
実際の写真で見れば、外観は全て。
黒。
そして、瓦屋根。門。
そこから下方に向かって、小さい石段が、群れを成していく様子。
下りていくしかない、とでも言うような。
写真ではそこまでだが、絢月咲の見取り図はそこから石段を続けて、円形の「足場」に続く。
足場に続き、さらに石段、そして足場。
石段と足場のみで、構成されているような。
見取り図だけで見ても、庭園全体が「宙に浮くように」造られているような。
「空中」という通称は、それによるのかもしれない。
写真の数々。緑豊かな。
木の葉が辺りを覆い、その下にある石畳と、椅子とテーブルと。
それが手前にある光景だとすれば、絢月咲の見取り図では後方に。
太い柱がアーチになっている、ドーム空間。
それにも、簡単にツタが加えられ。
石段を下って、第1の足場から続く屋敷。
五堂忍を含む6名は、ここで集まった、とのメモ。
依杏は、検索。
絢月咲が五堂絵卯と、多少なりとも関わりがあり。
九十九社としては、絵卯と関わりすらない。
唯一、引っ掛かりのあるのは、屋敷について?
「〔アカリ〕が犯人としても。凶器に関しては、記事で触れてませんねえ」
と依杏。
いっぱしのつもりだが、傍らには数登のみ。
2人以外の社員は、葬儀仕事で出払っている。
「凶器が現場になかった」
という文言は、記事にあった。
凶器もそうだが、九十九社として知り合いもない中で、6人の詳細情報はない。
もっと言うと、7人?
依杏。
「会社関連の話し合い、かあ。屋敷とかあるし。宝物ありそうな匂いしかしないです。私」
「資産家ですものねえ」
と数登。
「犯人が、屋敷から凶器を持ってくる。という方法も考えられますね。6名は各々、庭園に居た時間と、屋敷に居た時間と。あるようですから。その他、詳細は不明。宝物説で話すなら、各々オフィスに並べる調度品を選ばせるために、忍さんが庭園へ招待をした。とも考えられなくもない」
依杏。
ひたすら検索。
海晴地区までは、かなり遠い。
地区の治安情報。
ただし、全く信用は出来ない。
実際に、検索できうる情報を合わせていっても、凶悪事件の起きるような感じには思えない。
記事によれば、空中庭園の件で、正式な捜査機関は動き済みなわけで。
聴取は終わっている。九十九社は捜査機関ではないし。
手に入る情報は、とても少なく。
依杏。
「とりあえず、五堂忍さんは狙われやすかったんですね。こんな庭園、造っちゃうんだもの」
数登。
「見取り図で言うなら、庭園では、ドーム空間にいらしたそうです。彼は」
「ふうん」
「ここにも、テーブルと椅子がある」
数登は、指で示しつつ。
依杏。
「15時から16時の間、ですよね。忍さんが死んでるの、みんな気付かなかったんですかね?」
「発見されたのは、16時以降だそうですよ」
「そこも、気になるところですね」
「犯人の7人目? そして忍さんを除いて5名。忍さんが刺されたところを、16時以前には見ていなかった」
「5人が凶器を持っていたことすら、不明ですねえ。刃物とは書かれている。記事に。〔アカリ〕って誰ですかねえ」
と依杏。
「さあ」
と数登。
「絵卯さんの困っていることって、この事件以外。一体何だったんですかね」
と依杏。
一体、何を困ったか?
依杏が検索を入れてヒットしたのは、とある事務所だ。
黄褐色の四角い建物。
おそらく賃貸物件だろう。
1階と2階で、経営を構えている? らしい?
ヒットしたのは黒敷地区だ。
九十九社がある西陣からは、車で10分ほど。
現在の依杏の住処からしても、海晴地区よりは。
移動の範囲内に、位置しているようで。
黒敷は無機質。
西陣は、割と緑がある。
で、見つけた事務所には、小さく「探偵」とあった。表には出ていない。ネットでだ。
「珊牙さんて、この人知ってました?」
と依杏。
数登も、画面を見る。
絢月咲に空中庭園の話を、持って来られてから。
一応、検索の前に、情報は集めていた。
「人の死」に関しての、データベースは豊富だ。遺品整理が表に立てる。
何しろ、葬儀社だから。
庭園の関係者の情報。
五堂絵卯の情報も、多少なりともあり。
ヒットした建物は、集まった情報のものと、一致する部分が多かったので。
「探偵か……」
依杏は思った。
この、黒いスーツの人と、関係がありそうだ。
資料を見ながら、思う。
絵卯が出入りしているかもしれない? 建物。
そこから先は?
実際に来てみれば。
表札もない。表立ったものがない。
1階から2階。探偵……。
バルコニーには回らない。
とりあえず、ブラインドの脇から、紙の束の折れ目が見えている。
絢月咲から話を聞いて、5日をかけた。
通行手段は自転車のみ。依杏は一人で来た。
もっと言えば、依杏よりも九十九社よりも、絢月咲のほうが情報収集に長ける。
捜査機関よりも?
エンターテインメントという分野は、恐ろしい。
人と人とのコネと、その間。
絢月咲は一応だがアイドルで、名が通っている。顔が出ていないだけで。
それは、五堂絵卯も同じ。
ヒットした建物の正確な位置情報は、絢月咲が動いたためである。
依杏には、無理だった。
絢月咲側は、絵卯が建物に来る頻度まで、割り出した。
で、依杏が来た。
そして、寒い思いだった。
探偵というワードに、敵意のある自分。
数登さんは、どうだろう?
敵意だけでは、なかった。
空中庭園に関わった6名のうち、絵卯が探偵に関わっていたとして?
その先は?
気になったのだ。
依杏は寒い思いをしながら、1ブロック前から張っている、つもり。
五堂絵卯に、鉢合わせ出来るか?
建物へ入ろうとすれば、入れそうだった。
締まりが手薄。
専用駐輪場に挟まれた、上へ続く階段。誰でもは入れそうなのである。
依杏は、絵卯を探す。
来ない。居ない。
絢月咲の描いた簡単な人相は、一応貰っておいた。
役に立つのか?
何より、絢月咲が触れずに帰ってしまった。
絵卯の「困りごと」。
探偵事務所に出入りしているというあたり、「困りごと」では、済まないのでは?
セキュリティが手薄な階段から、ひとり下りてくる。
依杏は、見ている。
人相の絵は、役に立たなかった。
下りてくる人物、辺りをよく見まわしているのが分かるのだが、フード付きの服だ。
頭をすっぽり覆っているせい?
明らかに、怪しい。
絵卯じゃないとは、思ったが。
興味が湧くと、すぐなのだ。
やっぱり、眼で追ってしまう。
依杏には、フードの男性とは分かった。
男性を追う理由はなにもない。絵卯とは全く対象が違う。
それでも、気になった。
彼は、明らかに周囲を警戒している。
なので、依杏も、「自転車のチェーンが切れたので、押して歩くしかない人」に徹してみる。
道路へ。
フードの男は、依杏に背を向けたままだ。
依杏は一方で、静かに尾行している。
彼が階段を下りきる際に、少し顔が見えた。
それで、余計尾行する気になった。
5日経つ間に、少ないデータベースから、人相を頭へ叩きこんだ。その甲斐?
黒いスーツの人相と、フードの奴は、顔が似ている。
何故か、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
わざとか? それとも?
全方向に、視線を回しながら歩くので、ますます怪しい。
依杏は、ひたすら彼の後方を、陣取った。
彼がタバコをふかす段になって、依杏は自分の自転車の、「切れたチェーン」を見つめたが。
切れてはいない。
尾行している、彼の向かい。
遠くから、こちらへ。
依杏が尾行している彼と、全く同じ姿。
すっぽり被ったフード。
前方を歩く、自転車を押した女性。
あれ?
依杏は思った。
すっぽりフードで顔を覆っている男は、すぐとって返して行った。急ぎ足で。
依杏が尾行しているほうは、代わりにフードを取る。
自転車の女性。
「樅ノ木さん」
と言っている。
「で、そのう。私に、ですか?」
「そ、そうなんですよ。あなたに」
聞き込みをしたくて?
捜査関係者じゃないぞ?
でも。
「えっと、私。こういう者でして」
依杏は名刺を取り出した。
杵屋依杏。
向かいには、自転車を押してきた女性である。
「五堂絵卯さんですよね。ええと……」
「尾行、下手すぎ」
依杏が尾行していた男、樅ノ木が言った。
依杏はざっと、絵卯に状況を説明。
と同時に、今居る場所にかなりびびっている。
閉鎖空間。
賀籠六絢月咲の話から始まり、空中庭園のことなど。
今いる閉鎖空間は、依杏も絵卯も望まない。
だから、びびっている。
「さすがに、ここ、やりすぎな気がしません……?」
と絵卯。樅ノ木へ言う。
依杏が咳払い。
「よく。というか、葬儀社ですので。空中庭園でのお話を伺いたくてですね。こちらでも、遺品整理でお伺いしたいと」
「やっぱり、ここってやりすぎですよ。樅ノ木さん」
と絵卯。樅ノ木に。
樅ノ木。
「防犯カメラとか一切ないんで。ここ。気楽にお話出来ますよ。あなたの言う」
と依杏へ。
「葬儀とやらから、なにやら。空中庭園について? ふうん」
嫌味がたらたらである。
「後ろをつけられるなんてなあ。一応、後をつける側なんだけど。俺」
絵卯は、首を傾げている。
依杏たちが居る閉鎖空間。
いわゆる、トランクルーム兼ワークスペース。トイレ完備。
料金貸し。
広いスペース。
そこへ3人。
黒敷地区内だ。
樅ノ木名義で借りているということで。
ゆっくり、話が出来るだろう? ということで?
2人は強引に連れて来られて。
ボックス型。長方形。
細長い。
依杏は、びびっている。
絵卯は、樅ノ木を見ている。
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