パラント戦記

小説もどき家

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第二章 政略

冤罪

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 処刑場は帝都中央広場の南端、古の塔の影の下に設けられていた。

 群衆は早朝から集まり、重苦しい空気が石畳の上に広がっていた。見物人たちは口を噤み、ただ中央の高台に置かれた断頭台を見つめていた。

 ケルレダン。帝国を転覆せんとした大逆の罪により、今まさに裁かれようとしていた男。

 その鎖に繋がれた体は打擲の跡で黒く腫れ、顔はやつれていた。だが、その瞳だけは未だに鋭く、群衆を睨み返していた。

「最後の言葉を」と、処刑執行官が告げた。

 ケルレダンは前に進み出た。そして、静かに、だが力強く声を放った。

「……貴様らは皆、真実を知らぬ」

 ざわめきが走る。

「我が企ては確かに愚かだったかもしれぬ。しかし私は単なる裏切り者ではない。我々は、帝国の腐敗に抗ったのだ。――そして、真の首謀者は私ではない!」

 処刑場が一瞬、静まり返った。

「この謀議の根にいたのはエリスロムだ!!」

 人々が息を呑む。遠く、貴族たちの一角に動揺の気配が走る。

「我らは彼の意志を受け、帝国の未来を変えようとしたまで……我が言葉、虚言ならばこの場で神罰に討たれよ!」

 ケルレダンの声は、最期の刃のように響いた。

 だが処刑執行官は何も言わず、ただゆっくりと手を挙げた。

 太鼓が鳴る。

(やってやった)

 ケルレダンは目を閉じた。最後に疑惑の種を残しやった。彼は最期まで呪うことを選んだのだ。

 刃が振り下ろされる瞬間、彼の視界にアイセリンの姿が浮かんだ。彼女は泣いて怒っていた。






 皇帝の玉座は高く、帝都中央広場を見下ろすことができる位置にあった。彼の視線は、断頭台に立つケルレダンの姿から決して逸れることはなかった。

 厚いカーテンの奥に控える側近たちのざわめきも、皇帝には届かず、ただ彼の心は冷たく波立っていた。

 ケルレダンの最後の言葉が、空気を切り裂くように耳に残る。

「エリスロム……」

 皇帝の眉がわずかにひそまった。その言葉の重みは、彼の胸中に不気味な影を落とすに十分だった。

 やはりエリスロムが謀反を。だが、死に際に吐いた嘘かもしれん。いや、ケルレダンは真実を口にしたのかもしれぬ。

 疑惑は膨れ上がり、皇帝の胸中で冷たい疑念の火が燃え広がる。だが、まだ確証はなかった。もし事実であれば、この国の根幹が揺らぐことになる。

 皇帝は重くため息をつき、目を閉じた。

「どうしたものか……」





 皇帝の玉座から見下ろす広場は、まだ朝の薄明かりに包まれていたが、その視線は冷たく鋭く断頭台の男を捉えていた。ケルレダンの最後の言葉が胸に刺さったものの、皇帝の表情は一切動かない。感情は鉄壁のように閉ざされていた。

「エリスロム……か」

 低く呟くその声に、かすかな苛立ちが混じる。疑惑が事実であれば、許しがたい。いくら息子であろうと八つ裂きにしてくれる。しかし、それを口に出すことはまだ許されない。冷静な判断が何よりも優先されるのだ。

 皇帝は軍の現状を頭の中で瞬時に計算した。エリスロムは前線で指揮を執っている。戦況は依然として緊迫し、息子を呼び戻せば軍の士気は大きく乱れるだろう。だが、このまま放置すれば、背信が帝国の基盤を根底から崩しかねない。それにどちらにしてもアイセリンを殺したのだ。エリスロムから恨みを買うのは避けられない。

 殺すしかない。

 呼び戻す言い訳は作るまずは彼から軍という後ろ盾を外さねば。皇帝の瞳は暗く、冷酷な光を宿していた。

 
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