3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

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4話 ジャムザウール 「王都脱出」

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視点変わります。トカゲ男のジャムザウール。
強そうなおっさんトカゲであります。
各話、番号の隣りにある名前が、その人の視点になります。
ほか今話登場人物(呼び名)
有馬和樹(アリマ)
姫野美姫(ヒメノ)
渡辺裕翔(ワタナベ)
山田卓司(ヤマダ)
ヴァゼルゲビナード
飯塚清士郎(イイズカ)
蛭川日出男(ヒデオ)

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 人間、そう言ったか。

 違う世界の種族と行動することになるとはな。人生とは、まさに予測がつかぬ。

 アリマと名乗った若者は、なかなか良い素質を感じる。同じような気配をさせるのが、もうひとり。

 この二人が強いはずなのだ。だが今、おなごの意見に従い待っている状況だ。この娘は女帝なのか? しかし、さきほど、アリマの言葉に誰ひとりとして異を唱えなかった。やはり、アリマが頭領なのか。

「同じ種族か? と思ったが違うようですね」

 どこからか声が聞こえた。剣の柄に手をかける。上か!

 アリマたちと似たような男が空中に浮いている。いや、アリマたちと見た目は同じだが、背中に翼が生えていた。

「有馬和樹と申します」

 アリマが俺の時と同じように名乗った。

「ほう、話ができる御仁がいらっしゃる。私はヴァゼルゲビナード」
「ここから助かる方法はありますか?」
「さて、私には羽がありますが、あいにく、そちらにはないようですし」

 上からの物言いに腹が立つ。最後に戦うなら、こやつにするか。

 翼の男がこちらを見た。

「なにやら蜥蜴とかげ人が殺気立っておるようです。無足な戦いに付き合いきれませんので、私はこれで」

 そう言って翼の男は空高く舞い上がった。しかし、途中で何かにぶつかったようで、回りながら落ちてくる。

「やっぱり、上は結界があるわね」

 ヒメノと呼ばれた女帝が言った。

「じゃあ、ぎゅうぎゅうに詰めて。そう。渡辺くん、お願い」

 ワタナベと呼ばれた男の子が、手のひらを空に向ける。

「リアリティ・フレーム!」

 この一団の周囲に、地面の土と全く同じ絵が現れた。これは幻影の術か。幻影を中から見ているのだろう。薄っすらと外の景色が見える。

「ヤマダくん行ける?」

 さっきまで、この若者はいたか? いつのまにか集団に混じっている男がいた。

「ああ、練習できた! みんな手を繋いでくれ」

 若者たちが手を繋いでいく。最後になり、さきほどのアリマが笑顔で手を差し出した。この笑顔、つい信用してしまうな。アリマの手を握る。

「行くぞ! 息止めろよ!」

 ヤマダが叫んだ。息とな? 意味はわからぬが、息を大きく吸い込んで止めた。

「カッパッパ!」

 ざぶん! とでもいうように地面に沈んだ。なんと面妖な!

 ほっておくと身体が沈む。これは、古の秘術として聞いた「地底歩行術」ではあるまいか?

 若者たちが身をよじっている。うまく浮けないのか? これは水と同じなのに。

 ああ、なるほど! この種族は泳ぎが得意ではないのか。ならば、俺が引っ張るべきだろう。俺の種族は水の中が得意だ。

 アリマの手をしっかり握り、上に引っ張って泳ぐ。手を繋いだ列は、長くたわんだ紐のようになった。

 反対の端は、この術を仕掛けた男。ヤマダ、と言ったか。その者は泳ぎが達者なようだ。

 ヤマダと目が合う。ヤマダに行きたい方向があるようだ。俺とヤマダが両端で引っ張ることで、長い列が動き出した。

 どれほど進んだだろうか。

 苦しそうな者が出始めた。この種族は、それほど水中で息を止めていられないらしい。

 ヤマダと目が合うと、彼もうなずいた。同じ意見のようだ。地上を目指して上昇する。

 地上に出た。

 この国の大通りのようだ。かなり栄えた国のようで、通りの幅が広い。馬車が何台でもすれ違えそうだ。

 次々と地上に出てくる若者たち。手を引っ張って地上に上げた。最後にヤマダが出てくる。

「ヤバかった! おじさんいなかったら、沈んでたかも!」

 俺のことらしい。

 通りに人影はない。さきほどの闘技場に街の人々は集まっているのだろう。

「みんな固まって!」

 またヒメノという娘が命令を出した。

「リアリティ・フレーム!」

 ワタナベの幻影術。ゆっくりと、その幻影を出したまま進む。

 止まった。

 歩く先には城門がある。その向こうは橋だ。門の左右にある見張り台に、衛兵がひとりずつ。幻影を出しているワタナベが口を開いた。

「まずい! ちょっと景色が複雑だ。バレるよ」

 幻影で姿を隠して門はくぐれないようだ。俺は隣りにいたアリマに声をかけた。

「門衛は、ふたりしかおらぬ。矢で射ろう」
「それは……いや、そうしよう。そうしてください」

 アリマがなぜか躊躇ちゅうちょした。

 俺は背中から弓を外す。

 もう少し近づいてもらった。矢をつがえて引き絞る。声を上げさせずに仕留めるには、首を狙う。

 放った。矢が首を貫く。

 おなごのひとりが「ヒッ」と叫びそうになり口を押さえた。それには気を取られず、速やかにもう一本を引いて放つ。もうひとりの首も貫き、見張り台から向こうへ落ちた。

 門をくぐる。外に人影はない。

「あの森に入ろう!」

 アリマが言った。幻影術は解かれ、皆が走り出す。

 この種族は走りが遅い。本気で走るとすぐに追い抜きそうだ。速度を緩め、殿しんがりを走る。

 気づけば、もうひとりの気になった強者つわものが最後尾にいた。ほう、アリマは先頭を走っている。それを見て何も言わずとも、この者は後ろに入ったのか。理解しにくい集団だ。戦いに不慣れなように見えるが、統率は取れている。

 森に入った。

 ほとんどの物が息を切らしている。平気なのはアリマ、もうひとりの強者、あと数名か。これでは集団としての戦いは無理だろう。

「歩こう。少しでも離れたほうがいい」

 アリマの言葉に、息を切らした皆が立ち上がった。

 森のかなり深くまで歩く。そこで小休止となった。ほとんどの者が、へたり込んで休憩を取っている。

 アリマが近づいてきた。

「ジャムザウールさん、これからどうします?」

 ……俺か。どこかに逃げ延びて、帰る方法を探さねばなるまい。

「一緒に行きませんか?」

 やはり人懐っこい笑顔だ。だが、種族が違う。

「あまり良い案には思えぬ。その方らとは見た目も違う。後々、面倒になるだけだろう」

 俺の言葉にアリマは考え込んだ。

 助けてもらった礼を言って去ろう。そう思ったが、なぜかアリマが一歩間を詰めた。

「すいません、試してみていいですか」

 そう言って、さらに一歩進んだ。俺を見つめる。何を試すのだ?

「しょうじき、ジャムザウールさんの外見って、おれらの世界だとリザートマンっていう怪物なんです。なので怖いです」

 それは、ほんとうに正直だな。笑おうとしたら、なんとアリマが抱きついてきた。

「ようし! 大丈夫だ!」

 アリマは腕を解き、俺の両肩を掴んだ。

「やっぱり、海に入るのと同じですね。入るときは寒い。入ってしまえば楽」

 意味がわからぬ。

「なんつう例えだよ」

 もうひとりの強者が俺の前に立った。

「飯塚清士郎と申します。ジャムザウール殿」

 手を差し出された。握り返す。

「イイズカ殿、そなた剣士か?」

 イイズカが両手を上げた。

「なんでわかりました?」
「俺の剣の鞘を見た。それは剣の長さ、間合いを計ったであろう。それに右足のつま先は正面なのに左足は横を向いている。剣士に多い足さばきだ」

 イイズカはアリマを振り返った。

「和樹、この人、やばいぜ」
「ああ、すごい人だ」
「戦士殿ー!」

 うしろから抱きつかれた。いつのまに?

「ヒデオと申しまする! お見知りおきを! ああ! ファンタジーの世界と初遭遇でござる。おふぅ、リザードマンの皮膚ってやっぱり冷たい」

 この若者も言っている意味がわからぬ。だが、こうも違う種族に抱きつかれるとはな。我が人生で初ではないか?

「やめい!」

 ヒメノと呼ばれる女帝が、ヒデオの頭に手刀を打ち込んだ。そして、俺の前で一礼する。

「ヒメノミキと言います。可能であれば、私もハグしていいですか?」

 おなごであれば、余計に怖くはないのか? この娘は変わり者だろうか?

 そう思ったが、違った。抱きしめた手の震えがわかった。たいした娘だ。それから男性とは違い、良い匂いがする。

「ほんとね。こうしてみると問題ないわね。みんなハグは後にしてよ。時間かかっちゃう」
「いや、俺は……」
「あら?」

 ヒメノという娘は振り返った。

「一番強そうな大人が、子供を置いて、どこかに行きませんよね?」

 子供というには少し大きいが、たしかに皆、大人ではない。女帝、痛いところを突く。

「わかった。共に行こう」
「良かった! でもジャムザウールさんって名前長いのよね。略していい? ジャムさん?」

「あっ」と娘が閃いたように顔を上げた。

「ジャムおじさん!!」

 若者全員が同時に声をあげ、けたけたと笑った。これは何か、この種族にしかわからぬ符牒でもあるのだろうか?

 さて、とりあえず野営地を探さねばなるまい。ここは異世界だ。かなり警戒したほうが良いだろう。何があるかわからぬ。

 それに自分たちのいる場所も方角さえも知らぬ。はぐれると二度と会えぬやもしれん。

 俺は若者たちを数えようとしてやめた。
 ふざけあって動いたりするので数えられない。
 この異世界で生き残れるのだろうか?

 いや、それもおかしなものだ。思わず自分に笑った。俺は数刻前まで、いかに散るかを考えていたというのに。

「足手まといにならなきゃいいですが……」

 アリマが声をかけてきた。俺が皆を見て冷笑したので勘違いしたようだ。

「そうではない。それに、そういうのは一人か二人が言うことだ」

 アリマは振り返り、休んでいる仲間たちを眺めた。

「多すぎますか」
「多すぎるな。何人いる?」
「28人です」

 28、俺を入れて29人か。

「ジャムさん、子供は?」
「おらぬ」
「家族は?」
「おらぬ」
「ずっと?」
「ずっとだ」

 アリマは手を広げ、胸を張った。

「じゃあ、どうです? よりどりみどり」
「……多すぎるな」
「そうですか? みんな優秀ですよ」
「ほう」
「ええ。なんせ、おむつは自分で替えれる」

 俺は思わず噴き出した。この若者は面白いことを言う。

「そろそろ行こう」

 俺はアリマに言った。

 通常なら、戦えぬ者など足手まといだ。だが、助けられたのも事実。

 もうしばらく若者らに付き合ってみよう。俺はそう決めて腰を上げ、アリマの肩をたたいた。
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