3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

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20話 門馬みな実 「ケルベロスとキャスパリーグ」

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視点変わります。ミナミちゃんこと門馬みな実(もんばみなみ)
ほか今話登場人物(ニックネーム)
有馬和樹(キング)
根岸光平(コウ)
山田卓司(タク)
姫野美姫(ヒメちゃん)
関根瑠美子(ルミちゃん)
ジャムザウール(ジャムさん)

-・-・-・-・-・-・-・-・ー



 クーラー小屋に現れた精霊さん。

 ただ遊びに来たんじゃなくて、キングを呼びに来たのだった。

 この精霊さん、通話スキルを持つ遠藤ももちゃんの力を得て、思わぬパワーアップ。このあたり一帯の人間を察知できる能力がついた。何万年もの間に張り巡らした根っ子がどうとか、こうとか。

 難しいことはわかんないけど、男子は「菩提樹レーダー」と呼んでいる。

 この里のまわりには、めったに人は来ない。けど、たまに近くの森に迷い込む人もいる。普通の人なら、そのままほっとく。盗賊だったら、戦闘班の人が対応した。

 戦闘班にいるコウくんやタクくんは、初めの頃に比べ、雰囲気が変わった。こういう世界にいるのだから、仕方がないことだと思う。

 みんなで広場に戻ると、ヒメちゃんこと姫野美姫がすでにいた。

「コウくんを調査で送ったよ」
「わかった。菩提樹、どんな感じ?」
「南西の森に人が四人、魔獣が二匹」
「魔獣? それなら操っているのは、あいつかもな」

 キングが「あいつ」と言ったのは、あたしらを召喚した魔法使い。

 前にサラマンダーが里に来たけど、その首に鉄の首輪があった。あのサラマンダーを放ったのも、その魔法使いだろうというのが、みんなの意見。まだ、あきらめずに、あたしらを探しているのか。

「ごついで、今回」

 いつのまにか、コウくんが帰っていた。

「やっぱ、ハゲ過ぎのジジイやった」
「ハビスゲアルね」
「そそ、ハゲ過ぎである」
「もう。それで連れてるのは?」
「三つの頭の犬」
「……ケルベロスか!」
「キング正解。わいらの世界で言うと、そいつやわ。もう一匹も化け猫みたいなやつや」

 ヒメちゃんが、ほっと安心したように一息ついた。

「その系統なら、大丈夫かも」
「ほんまか? かなり大きかったで?」

 ヒメちゃんがうなずいた。

「ケルベロスはミナミちゃん、ついに来たね」

 あたしはうなずいた。

「化け猫はルミちゃんが、いけるかも」

 ルミちゃん? 関根瑠美子だ。彼女のスキル、なんだったっけ?

 キングとコウくん、それにジャムさんに護衛されながら里を出る。

 里の外で人に近寄る時、わざわざ回り込んで反対から近づくらしい。あたしらが住む「隠れ里」の方向が、バレないようにだってさ。

 森の中に馬車が二台。

 一台の荷台には、大きな檻が二つ。

「おい! ハゲ過ぎデアル!」

 ……キング、ぜったいわざとだ。

「吾輩は、ハビスゲアルだ!異世界の子らよ」
「どっちでもいいけど、何してんの?」
「知れたこと! お主らを捕まえに来た」

 キングはあきれた顔して腕を組んだ。

「もう、ほっといてくんない? おれら、何も悪いことしてないぞ?」
「なにを! 召喚祭から逃げ出しおってからに!」
「そこな、おれらって、脱走犯ってわけ? 捕まえたら賞金でもあんの?」
「賞金なぞ、あるものか! 帝国からすれば家畜が逃げだしたようなものよ」

 家畜。そういえば、あの闘技場の場内放送で「二十八匹!」と聞こえた。

「んじゃ、いいじゃん。ほっといてくれよ」
「いいものか! お主らの二度に渡る脱獄のせいで、吾輩は司教の末端に落とされたわ!」
「それ、何人いるの?」
「七十二人だ!」
「うひゃ、多いね。今何番?」
「七十二位ぞ!」
「どべじゃん」
「お主らのせいぞ!」

 キングは頭をかいた。

「それ言い出せば、お前のせいで、こっちのみんなは普通の生活が消えたんだけど」
「むぅ……」
「みんな別れの言葉も言えず、親と離れ離れだよ。なあ、じいちゃん、子供いないの?」

 ローブを着た老人の顔が曇った。

「これも大義のため。非難は冥府で聞こう」

 老人が手を挙げると、お供の兵士が檻の鍵を開けた。

 ゆっくりと、二匹の獣が荷台から降りてくる。

 二匹の獣は、思ったより大きい。頭の高さは人間より高く、パクリと一口で頭が食べられてしまいそうだ。

「でかいで! これ、ほんまに女子二人はいけるんか?」
「姫野が大丈夫と言ってたから、まあ、大丈夫だろう」

 キングのヒメちゃんに対する信頼は厚い。

「キングとヒメがくっつきゃいいのに!」

 と、黒宮和夏ちゃんは、よくいう。和夏ちゃん、嫉妬ないのかな?

 二匹の獣は老人の足元に伏せた。

「まずは、お前からいけ!」

 老人の命令で、三つ頭の犬、ケルベロスのほうが起き上がった。

 こっちにのっそり歩いてくる。

「あかん、下がれ」

 コウくんはそう言ったが、前に出た。

「門馬!」

 あたしの前に来た。前足を上げ、あたしを噛もうと口を開けた瞬間、叫んだ。

「おすわり!」

 ケルベロスが座る。頭を振って、もう一度立った。

「おすわり!」

 またケルベロスが座る。

「なにをやっておる、立たんか!」

 老人、激オコ。しかしケルベロスは、地面に伏せて縮こまってしまった。

「こんなスキルあるんかい!」
「すげえな。動物相手なら最強じゃね?」

 うしろで話をしている二人に言った。

「これ、犬にしか効かないの。サラマンダーにも言ってみたけど、さっぱりだった」
「なんでまた、こんなスキルなん?」
「あたしのウチ、犬が五匹いるから。毎日使う言葉はこれだったの」

 キングが妙に喜んでいる。

「いいな! これペットにできるかな?」
「おいキング、いらんやろ!」
「あ、そうか。エサ代かかりそうだもんな」
「そういう意味、ちゃうて!」

「キャスパリーグ、行け!」

 老人の声に化け猫のほうが飛び出した!

「ルミコ・プラチナム!」

 ルミちゃんが叫んだ。

 化け猫は「ギャン!」と鳴いて、空中で身をよじり、倒れた。

 起き上がった化け猫を見て、おどろいた。

「毛、毛が……」

 化け猫の毛がバッサバサに落ちていく。

 ツルッツルの身体になった猫は、飛ぶように森の奥に逃げて行った。

 あたしとキング、コウくんはポカンとそれを眺めていた。

「おっと、ぼけっとしてる場合じゃないか。どうだハゲスギ……」

 キングが振り返った時、ローブの老人は、すでに馬車を走らせていた。

「覚えておれー!」

 遠くから声が聞こえる。

「逃げ足、早っ!」
「じいさん、もう来んなよー!……聞こえてねえか」

 それより、あたしはルミちゃんに振り返った。

「ルミちゃん、さっきのって……」
「そう、私のスキル、脱毛なの」

 男子二人がおどろいている。

「うそやろ! わざわざスキルで!」
「だって! まだ完了してないのに、異世界に来ちゃったんだもん!」

 あたしはルミちゃんの手を取った。

「ルミちゃん! 神!」

 ルミちゃんがうなずく。

「明後日の五時半に予約、お願いします」
「初めての方は、初回はカウンセリングのみになりますが」
「パッチテストはできますか?」
「はい。カウンセリング時に希望があれば行います」
「では、お願いします」
「かしこまりました。明後日の五時半ですね」

「……なんやそれ!!」

 予約が取れて安心していると、キングがケルベロスに近づいた。

「粉・砕・拳!」

 ケルベロスの首輪が割れた。けどケルベロスは立たない。

「あっ! そうだった。おすわり解除!」

 ケルベロスは立ちがって、ブルブルっと身体を震わせた。解除を忘れてた。ケルベロスさん、ごめんなさい。

 どこかに逃げるのかと思ったら、あたしの足元に来て靴の匂いを嗅ぐ。

 里に連れて入ると面倒なので、入り口の洞窟にいてもらうようにした。言葉が伝わるか不安だったけど、洞窟に水を入れた皿を置くと、わかったみたいだ。

「これで、女版ダメンズ3にならなくて、良かったね!」

 ルミちゃんが笑った。その「女版ダメンズ3」とは、あたしにルミちゃん、そして和夏ちゃんだろう。

 でも、和夏ちゃんの顔は沈んでいる。クーラーのスキル、精霊さんでもできたからなあ。

 どうなぐさめようか? と思っていると、ヒメちゃんが来た。

「和夏ちゃん、ちょっと頼んでいい?」

 なんだろう? あたしもついて行く。場所は岩塩が取れる洞窟だった。

 採掘場所じゃなく、違う道を進むと、扉のある行き止まりに着いた。

 ヒメちゃんが扉を開ける。中は木の棚があって、何も入ってない。でも、棚は綺麗だし、灯りの石もあった。

「前に倉庫に使われてたみたいでね。あ、ちょっと待ってね」
「お待たせでござる!」

 ゲスオくんが来た。

「じゃあ、お願い」
「はいはい。お茶目な落書き! 零度を追加!」

 ゲスオくんはそう言って、和夏ちゃんの身体にふれた。

「和夏ちゃん、それでこの部屋にスキルかけて」
「あっ!」

 あたしは思わず声を出した。

「冷蔵庫!」

 ヒメちゃんがうなずく。

「和夏ちゃんしかできない。みんな喜ぶよ」
「ヒメー!」

 和夏ちゃんが泣きながら抱きついた。

 あ、そうだった。二人は小学校から同級生だっけ。

 和夏ちゃん、キングも大好きだけど、ヒメちゃんも大好きなのね。
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