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21-1話 野呂爽馬 クラス全員登場Ⅰ
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めずらしく、陽が高くなるまで寝た。
今日は休みの日。
この里で暮らし始めて、最初に決めたのが「休日を作ろう」って事だった。学校じゃないから、自分たちで決めておかないと休日がない。
休日といえば休日だが、かと言って異世界では特にやることもない。みんな何かしら仕事をしてるだろう。
僕はベッドから下りて、木窓を開けた。
木の上にある家なので、里の景色がよく見える。
里の木が、ずいぶんと紅くなってきた。元の世界なら十月ぐらいだろうか。
「ノロさーん!」
下から誰か呼ぶ声が聞こえた。誰かと思ったら、友松あやさんだ。
「ちょうど良かった。窓開けるの見えたから。掃除しとこっか?」
友松さんのスキルは掃除だ。
「い、いえ、結構です」
「だめー。ノロさん、ぐうたらだから。上がっていい?」
ここで、ぜったいダメという理由もなかった。
「じゃ、じゃあ、お願いします」
友松さんは部屋の掃除だけでなく、脱ぎ散らかした服まで綺麗にしてくれた。
さらに布団を窓にかけ、日干し。
「スキルかけるだけでもいいんだけど、干した布団って気持ちいいでしょ」
それは言える。
「お礼にお茶でも」
と言ったけど、まだ水を汲んでなかった。
「ふふ。あとでもらうわ」
そう言って、友松さんは帰って行った。みんな休みでも動いてるなぁ。僕も動こう。
ポケットが多くついた服を着て、僕専用で作ったベルトもつけた。このベルトは金具がついていて、木のカップを何個も下げることができる。
家から下りて、食料庫に向かった。そこに僕の専用スペースがある。小さな引き出しが並んだ場所、茶葉の専用棚だ。
僕のスキルは「チャルメラ」という。ドンブリ一杯の水をお湯に変え、三分経つと音が鳴る、というもの。
スキルを決める時に、ゲスオくんは言った。
「いつも使うものがいい」
その言葉を参考に考えた。けど、僕はバカすぎた。異世界にカップラーメンはない。
料理名人の喜多さんが、そんなバカなスキルの活かし方を考えてくれた。お茶係だ。
お茶は湯が要るし、だいたい三分ぐらい蒸らすと美味しい。
お茶の葉は僕が管理している。紅茶のような茶葉は街から仕入れた。ハーブティーになる葉っぱは、自然の中にたくさんあった。
茶葉は、すべて一人前の小袋にしている。八種類ぐらいの茶葉を選んで、ポケットに入れた。
腰のベルトに、木のカップと自家製の茶こしを吊るす。
あとは食料庫の裏手にある湧き水を汲んだ。入れ物は鉄製の水差しだ。
僕のスキルには、この鉄製の水差しが便利。
これで準備完了。
じゃあ、みんなのところを周ろう。
里の中央にある広場に、この里のリーダーと言える二人がいた。
キングこと有馬和樹くん。そしてプリンスこと飯塚清士郎くん。
キングはトカゲ人のジャムさんと戦っている。プリンスは、翼を持った人間のヴァゼル伯爵が相手だ。
キングだけ刀を持ってないけど、革の手袋で指先を切ったものを使っていた。それに腕には鉄製の籠手をつけている。その籠手で、綺麗にジャムさんの剣を弾いていた。
プリンスとヴァゼル伯爵は、同じような細い剣を持っている。
この人たちは練習でも真剣を使う。
練習試合? のようなものは、しばらく待っていると終わった。
「お茶、どうですか?」
四人とも紅茶を希望したので、水差しごと、お湯に変えよう。
「チャルメラ!」
瞬間で水が湯になった。そこに紅茶を入れて待つ。
♪チャララ~ララ~チャラララララ~♪
水差しが鳴った。三分だ。鉄製の水差しは、いい音が鳴る。これが陶器だと「ボボボーボボ」となる。
腰に下げた木のカップを四つ取った。茶こしを通しながら、カップに注ぐ。
「旨い茶だ。これもまた、毎日の鍛錬の成果であるな」
褒めてくれたのは、ジャムザウール、通称ジャムさん。最初の闘技場から、ずっと一緒だ。はじめは見た目がトカゲ人で怖いと思った。けど、僕らをずっと守ってくれる優しい人だ。
「元の世界でも、ここまで上手に淹れる御仁は、なかなか御目に掛かりません。月夜でも眺めながら楽しみたいものです」
上品に飲んでいるのが、ヴァゼルゲビナード、通称ヴァゼル伯爵。
僕は頭が良くない。運動もできないし、何の取り柄もない。そんな僕が、異世界人の二人に褒められると嬉しい。ほぼ毎日淹れてるからかな。
どのぐらい頭が良くないか? というのは高校二年で留年したぐらい。
普通なら、追試や補修でなんとかする。僕の時は先生もあきらめちゃった。
「ノロさん、なんか必要な道具とかある?」
キングくんが聞いてきた。
「あ、ああ、うん。ないよ。間に合ってる」
ちょっとあせって答える。
「そろそろ、秋だから新茶とか出そうだな。街に行ったら見てこよう」
プリンスくんにも「う、うん」とあせって答えた。
この二人には、以前に僕を守ってもらったので、恩人という思いが強い。面と向かうとギクシャクしてしまう。
僕の名前「野呂爽馬」の「ノロソウマ」は略してノロマ。小学校から、そう呼ばれてきた。高校でも変わらない。そして、いつも通りいじめられる。
二年で留年した時、元の同級生、三年生からのちょっかいに怒ったのがキングだ。
僕ら二年F組は、三年生との揉め事になった。この時、F組の中でキングやプリンスを良く思わない人たちは三年側についた。
結果として、その人たちはケチョンケチョンにやられた。F組で敵になった同級生十名ほどは、転校したり退学したり。このクラスが二十八人と少ないのは、そのせいだ。
あれからずいぶん経つのに、二人に向かうと、まだ緊張する。でも僕の大恩人だ。二人にお茶を淹れる時は、いつにも増して気合いが入る。
「もも、スズ、お茶が入りましたよ」
ヴァゼル伯爵が、広場の隅に向かって名前を呼んだ。
「もも」とは、通話のスキルを持った「遠藤もも」さんのこと。
垂直に立てた丸太の上を飛んでいた。地面から三メートルはありそうだ。
そこからぴょんと降りた。バスケ部だったと思うけど、前より動きが全然違う。
「スズ」と呼ばれたのは、ソフト部だった「玉井鈴香」さん。
丸い的に向かってナイフ投げの練習をしていた。
最後に投げたナイフが、的の真ん中にカッ! と刺さった。
「戦闘班」と呼ばれる中で、女子は二人と少ないけど、とても強そうだ。
腰に下げたカップを二つ取り出す。
「伯爵、やっぱり上投げのほうが狙いが定まりやすいんですが」
玉井鈴香が紅茶を口にしながら言った。
「せっかく下投げができるのです。そのなんと言いましたか……」
「ソフト部?」
「そう、ソフトブとやら。下投げは予備動作なしで投げれるので、良い武器になります」
「振りかぶらない分、隙も生まれぬしな」
横からジャムさんも口を挟んだ。
「うーん、じゃあ頑張るか!」
「あたしは弓。はぁ、あたしこそ頑張らないと」
戦闘班になった人は雰囲気が変わった、という人もいる。僕にはわからなかった。
女子二人とも、こうしてお茶を飲んでいると、昔と変わらない気がする。
「コウくんとかは?」
戦闘班の残り三人が見当たらなかった。
「どこだろね」
通話スキルを持った遠藤さんが、耳に手を当て通話をかけようとした。その時、僕の首に何かがさわった。
「我が名は無影鬼。影もなく忍び寄る」
タクくんの声だ。山田卓司くん。「どこでも潜水」というスキルを持っている。
いつのまにか後ろにいた。首に当てられたナイフで動けない。
「いたずらアカンで。ノロさんびっくりしとるやん」
急に目の前に現れたのが、コウくんこと根岸光平くん。すごい速さで走るスキルを持っている。
思えば、二年時に上級生と揉めた時も、コウくんがきっかけだった。
「おい、わいらのクラスメートに何しとんねん」
僕をこづいていた元同級生たちに、そう声を発したのはコウくんだ。だから僕は、コウくんにも大きな恩があり、いまだに面と向かうと少し緊張する。
コウくんに注意されて、タクくんが僕から離れた。
「ごめんごめん」
タクくんが手にしていたのは小枝だった。ほっと安心。
「あれ? 無影鬼ってコウくんが言ってたんじゃ……」
タクくんが自慢げに笑った。
「どっちが先に獲物を取るかで賭けしたんだ。今日からは俺が無影鬼」
「はぁ、せっかく考えたコードネームが。わいは何を名乗ればええねん」
「んー、旋風鬼?」
「センプウキって! 響きがしょぼいな! せめて疾風鬼やろ」
「待てよ、そうなると、掃除の友松は消臭力なのか?」
「もはや、鬼もついてないやん!」
獲物? 二人が何も持ってないので不思議に思ったが、大男が現れてわかった。
ゲンタこと小暮元太くんが、肩にイノシシのような動物を担いでやってきた。
ゲンタくん、力が増すスキルを持っているけど、使わなくても怪力だ。片側の肩にイノシシもどき、もう片方の肩にはハンマーのような武器を担いでいる。
これで、九人の戦闘班が揃った。
「コウくんたち、お茶いる?」
本人たちには言わないけど、僕らはこの九人のお陰で生きてこられた。それはクラス全員がわかっている。
「ええわ。血もついたし、このまま捌いて、風呂入ろ思ってな」
コウくんもタクくんも、腕に血がついていた。もちろん、それを担いでいるゲンタくんにもついている。本人のケガじゃなくて、獲物のだろう。
「設備班がいたら、言っておくよ」
「ありがとノロさん。んじゃ」
三人は小川のほうへ歩いていった。イノシシもどきを血抜きして、解体するんだろう。
戦闘班が希望したら、いつでも風呂と食事は出す。それは戦闘班以外のみんなで決めたことだった。
実際、里に魔獣や動物が入って作物を荒らすことはある。この里には結界があるけど、大昔の物なのでほころびも多い。
そんな時、戦闘班の人は食事も取らず、追っかけて退治してくれる。
また、夜中に交代で見張りに立っているのも戦闘班だ。
食べれる時に食べて、入れる時に入って欲しい。それがクラスみんなの願いだ。
僕のスキルがもっと強力で、お風呂も沸かせればいいのに。ダメだなぁ、使えないなぁと思う。
「ノロさん、なに考えてんの?」
キングくんに突然言われてびっくりした。キングくん、こういう勘がほんと鋭い。
「僕のスキルで、お風呂沸かせればいいのになって」
「ノロさん、それ拷問だから」
あっ、僕のスキルは沸騰するんだった。
「お湯用の釜でも作って、それを水風呂に足していくって手もあるけど、お茶でいいと思うよ。それは、ノロさんにしかできない」
僕にしかできない。
生まれて初めて聞いた言葉に、僕はどうしていいか、身体をもじもじさせた。
「ほほう、キング殿は人たらしの才能がありますね」
ヴァゼル伯爵が感心したように口を開いた。
それを聞いた遠藤さんが、あきれた顔をする。
「師匠いまさら気づいたの? ダテにキングを助けようと27人落っこってないもん」
「それを言うなよ、遠藤! おれ反省してんだから」
「28人召喚。奇跡ですな。ジャム殿」
異世界人二人が、見合って笑っている。
「意外にも、魔法陣に落ちるキングを最初に掴んだのはプリンスじゃなくて、ヒメなのよねぇ」
「……不覚!」
プリンスくん、冗談だろうけど殺気が出て怖いよ……。
今日は休みの日。
この里で暮らし始めて、最初に決めたのが「休日を作ろう」って事だった。学校じゃないから、自分たちで決めておかないと休日がない。
休日といえば休日だが、かと言って異世界では特にやることもない。みんな何かしら仕事をしてるだろう。
僕はベッドから下りて、木窓を開けた。
木の上にある家なので、里の景色がよく見える。
里の木が、ずいぶんと紅くなってきた。元の世界なら十月ぐらいだろうか。
「ノロさーん!」
下から誰か呼ぶ声が聞こえた。誰かと思ったら、友松あやさんだ。
「ちょうど良かった。窓開けるの見えたから。掃除しとこっか?」
友松さんのスキルは掃除だ。
「い、いえ、結構です」
「だめー。ノロさん、ぐうたらだから。上がっていい?」
ここで、ぜったいダメという理由もなかった。
「じゃ、じゃあ、お願いします」
友松さんは部屋の掃除だけでなく、脱ぎ散らかした服まで綺麗にしてくれた。
さらに布団を窓にかけ、日干し。
「スキルかけるだけでもいいんだけど、干した布団って気持ちいいでしょ」
それは言える。
「お礼にお茶でも」
と言ったけど、まだ水を汲んでなかった。
「ふふ。あとでもらうわ」
そう言って、友松さんは帰って行った。みんな休みでも動いてるなぁ。僕も動こう。
ポケットが多くついた服を着て、僕専用で作ったベルトもつけた。このベルトは金具がついていて、木のカップを何個も下げることができる。
家から下りて、食料庫に向かった。そこに僕の専用スペースがある。小さな引き出しが並んだ場所、茶葉の専用棚だ。
僕のスキルは「チャルメラ」という。ドンブリ一杯の水をお湯に変え、三分経つと音が鳴る、というもの。
スキルを決める時に、ゲスオくんは言った。
「いつも使うものがいい」
その言葉を参考に考えた。けど、僕はバカすぎた。異世界にカップラーメンはない。
料理名人の喜多さんが、そんなバカなスキルの活かし方を考えてくれた。お茶係だ。
お茶は湯が要るし、だいたい三分ぐらい蒸らすと美味しい。
お茶の葉は僕が管理している。紅茶のような茶葉は街から仕入れた。ハーブティーになる葉っぱは、自然の中にたくさんあった。
茶葉は、すべて一人前の小袋にしている。八種類ぐらいの茶葉を選んで、ポケットに入れた。
腰のベルトに、木のカップと自家製の茶こしを吊るす。
あとは食料庫の裏手にある湧き水を汲んだ。入れ物は鉄製の水差しだ。
僕のスキルには、この鉄製の水差しが便利。
これで準備完了。
じゃあ、みんなのところを周ろう。
里の中央にある広場に、この里のリーダーと言える二人がいた。
キングこと有馬和樹くん。そしてプリンスこと飯塚清士郎くん。
キングはトカゲ人のジャムさんと戦っている。プリンスは、翼を持った人間のヴァゼル伯爵が相手だ。
キングだけ刀を持ってないけど、革の手袋で指先を切ったものを使っていた。それに腕には鉄製の籠手をつけている。その籠手で、綺麗にジャムさんの剣を弾いていた。
プリンスとヴァゼル伯爵は、同じような細い剣を持っている。
この人たちは練習でも真剣を使う。
練習試合? のようなものは、しばらく待っていると終わった。
「お茶、どうですか?」
四人とも紅茶を希望したので、水差しごと、お湯に変えよう。
「チャルメラ!」
瞬間で水が湯になった。そこに紅茶を入れて待つ。
♪チャララ~ララ~チャラララララ~♪
水差しが鳴った。三分だ。鉄製の水差しは、いい音が鳴る。これが陶器だと「ボボボーボボ」となる。
腰に下げた木のカップを四つ取った。茶こしを通しながら、カップに注ぐ。
「旨い茶だ。これもまた、毎日の鍛錬の成果であるな」
褒めてくれたのは、ジャムザウール、通称ジャムさん。最初の闘技場から、ずっと一緒だ。はじめは見た目がトカゲ人で怖いと思った。けど、僕らをずっと守ってくれる優しい人だ。
「元の世界でも、ここまで上手に淹れる御仁は、なかなか御目に掛かりません。月夜でも眺めながら楽しみたいものです」
上品に飲んでいるのが、ヴァゼルゲビナード、通称ヴァゼル伯爵。
僕は頭が良くない。運動もできないし、何の取り柄もない。そんな僕が、異世界人の二人に褒められると嬉しい。ほぼ毎日淹れてるからかな。
どのぐらい頭が良くないか? というのは高校二年で留年したぐらい。
普通なら、追試や補修でなんとかする。僕の時は先生もあきらめちゃった。
「ノロさん、なんか必要な道具とかある?」
キングくんが聞いてきた。
「あ、ああ、うん。ないよ。間に合ってる」
ちょっとあせって答える。
「そろそろ、秋だから新茶とか出そうだな。街に行ったら見てこよう」
プリンスくんにも「う、うん」とあせって答えた。
この二人には、以前に僕を守ってもらったので、恩人という思いが強い。面と向かうとギクシャクしてしまう。
僕の名前「野呂爽馬」の「ノロソウマ」は略してノロマ。小学校から、そう呼ばれてきた。高校でも変わらない。そして、いつも通りいじめられる。
二年で留年した時、元の同級生、三年生からのちょっかいに怒ったのがキングだ。
僕ら二年F組は、三年生との揉め事になった。この時、F組の中でキングやプリンスを良く思わない人たちは三年側についた。
結果として、その人たちはケチョンケチョンにやられた。F組で敵になった同級生十名ほどは、転校したり退学したり。このクラスが二十八人と少ないのは、そのせいだ。
あれからずいぶん経つのに、二人に向かうと、まだ緊張する。でも僕の大恩人だ。二人にお茶を淹れる時は、いつにも増して気合いが入る。
「もも、スズ、お茶が入りましたよ」
ヴァゼル伯爵が、広場の隅に向かって名前を呼んだ。
「もも」とは、通話のスキルを持った「遠藤もも」さんのこと。
垂直に立てた丸太の上を飛んでいた。地面から三メートルはありそうだ。
そこからぴょんと降りた。バスケ部だったと思うけど、前より動きが全然違う。
「スズ」と呼ばれたのは、ソフト部だった「玉井鈴香」さん。
丸い的に向かってナイフ投げの練習をしていた。
最後に投げたナイフが、的の真ん中にカッ! と刺さった。
「戦闘班」と呼ばれる中で、女子は二人と少ないけど、とても強そうだ。
腰に下げたカップを二つ取り出す。
「伯爵、やっぱり上投げのほうが狙いが定まりやすいんですが」
玉井鈴香が紅茶を口にしながら言った。
「せっかく下投げができるのです。そのなんと言いましたか……」
「ソフト部?」
「そう、ソフトブとやら。下投げは予備動作なしで投げれるので、良い武器になります」
「振りかぶらない分、隙も生まれぬしな」
横からジャムさんも口を挟んだ。
「うーん、じゃあ頑張るか!」
「あたしは弓。はぁ、あたしこそ頑張らないと」
戦闘班になった人は雰囲気が変わった、という人もいる。僕にはわからなかった。
女子二人とも、こうしてお茶を飲んでいると、昔と変わらない気がする。
「コウくんとかは?」
戦闘班の残り三人が見当たらなかった。
「どこだろね」
通話スキルを持った遠藤さんが、耳に手を当て通話をかけようとした。その時、僕の首に何かがさわった。
「我が名は無影鬼。影もなく忍び寄る」
タクくんの声だ。山田卓司くん。「どこでも潜水」というスキルを持っている。
いつのまにか後ろにいた。首に当てられたナイフで動けない。
「いたずらアカンで。ノロさんびっくりしとるやん」
急に目の前に現れたのが、コウくんこと根岸光平くん。すごい速さで走るスキルを持っている。
思えば、二年時に上級生と揉めた時も、コウくんがきっかけだった。
「おい、わいらのクラスメートに何しとんねん」
僕をこづいていた元同級生たちに、そう声を発したのはコウくんだ。だから僕は、コウくんにも大きな恩があり、いまだに面と向かうと少し緊張する。
コウくんに注意されて、タクくんが僕から離れた。
「ごめんごめん」
タクくんが手にしていたのは小枝だった。ほっと安心。
「あれ? 無影鬼ってコウくんが言ってたんじゃ……」
タクくんが自慢げに笑った。
「どっちが先に獲物を取るかで賭けしたんだ。今日からは俺が無影鬼」
「はぁ、せっかく考えたコードネームが。わいは何を名乗ればええねん」
「んー、旋風鬼?」
「センプウキって! 響きがしょぼいな! せめて疾風鬼やろ」
「待てよ、そうなると、掃除の友松は消臭力なのか?」
「もはや、鬼もついてないやん!」
獲物? 二人が何も持ってないので不思議に思ったが、大男が現れてわかった。
ゲンタこと小暮元太くんが、肩にイノシシのような動物を担いでやってきた。
ゲンタくん、力が増すスキルを持っているけど、使わなくても怪力だ。片側の肩にイノシシもどき、もう片方の肩にはハンマーのような武器を担いでいる。
これで、九人の戦闘班が揃った。
「コウくんたち、お茶いる?」
本人たちには言わないけど、僕らはこの九人のお陰で生きてこられた。それはクラス全員がわかっている。
「ええわ。血もついたし、このまま捌いて、風呂入ろ思ってな」
コウくんもタクくんも、腕に血がついていた。もちろん、それを担いでいるゲンタくんにもついている。本人のケガじゃなくて、獲物のだろう。
「設備班がいたら、言っておくよ」
「ありがとノロさん。んじゃ」
三人は小川のほうへ歩いていった。イノシシもどきを血抜きして、解体するんだろう。
戦闘班が希望したら、いつでも風呂と食事は出す。それは戦闘班以外のみんなで決めたことだった。
実際、里に魔獣や動物が入って作物を荒らすことはある。この里には結界があるけど、大昔の物なのでほころびも多い。
そんな時、戦闘班の人は食事も取らず、追っかけて退治してくれる。
また、夜中に交代で見張りに立っているのも戦闘班だ。
食べれる時に食べて、入れる時に入って欲しい。それがクラスみんなの願いだ。
僕のスキルがもっと強力で、お風呂も沸かせればいいのに。ダメだなぁ、使えないなぁと思う。
「ノロさん、なに考えてんの?」
キングくんに突然言われてびっくりした。キングくん、こういう勘がほんと鋭い。
「僕のスキルで、お風呂沸かせればいいのになって」
「ノロさん、それ拷問だから」
あっ、僕のスキルは沸騰するんだった。
「お湯用の釜でも作って、それを水風呂に足していくって手もあるけど、お茶でいいと思うよ。それは、ノロさんにしかできない」
僕にしかできない。
生まれて初めて聞いた言葉に、僕はどうしていいか、身体をもじもじさせた。
「ほほう、キング殿は人たらしの才能がありますね」
ヴァゼル伯爵が感心したように口を開いた。
それを聞いた遠藤さんが、あきれた顔をする。
「師匠いまさら気づいたの? ダテにキングを助けようと27人落っこってないもん」
「それを言うなよ、遠藤! おれ反省してんだから」
「28人召喚。奇跡ですな。ジャム殿」
異世界人二人が、見合って笑っている。
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