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21-2話 野呂爽馬 クラス全員登場Ⅱ
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さて、戦闘班の六人にお茶を配った。そうなるとカップがもうない。
炊事場に寄って洗うことにする。
炊事場では、調理班が夕食の準備をしていた。今日の夜は「収穫祭」をするらしい。そのための料理を今から作っているのだろう。
「調理班」のリーダーは、家が洋食屋だった喜多絵麻さん。鉄製の鍋をボウル代わりにして、肉を大量にこねていた。
「あっ、ひょっとして、ハンバーグ?」
ミンチをこねると言ったらハンバーグだ。
「見たわね」
そう低い声で言ったのは、さきほど掃除をしてくれた友松あやさん。同じくミンチをこねている。
「えっ? ダメだった?」
「うそうそ。みんなをおどろかせたいから、黙っててね」
ハンバーグなんて何ヶ月ぶり? 間違いなく、みんな喜ぶだろう。そのとなりにいた高島さんもうなずく。
「前は、びっくりさせようとカレーを出したのに、ドクのコーラに全部持っていかれちゃったから。今日こそ、主役は調理班よ!」
学校一美人と言われる高島瀬玲奈さん。歌がうまい。前に子守唄を聞いた時は涙が出た。
それからもう一人は、回復のスキルを持ち「ゴッドマザー」と一部から言われる花森千香さん。
四人とも一生懸命にミンチをこねている。
「三二個のハンバーグって大変ですね」
大人数の食事って大変だ。
「ノロさん違う、俺らは、だいたい五〇作るから」
うしろから声をかけられた。
男子の土田清正くん。土田くんは、主にパンが担当だ。今もパン生地をこねている。
「五〇?」
「だって、おかわりするやつも多いから」
ああそうか! 僕は一人前でいいけど、みんな年齢で言えば育ち盛りだもんなぁ。元相撲部のゲンタくんなんか、五人前は食べそうだ。
土田くんの手元を見ると、パン生地も大きい。
この土田くんが作るパンは、めっちゃくちゃ美味しい。天然酵母のパンだと聞いた。酵母を見る顕微鏡のスキルがあるので、ぴったりなんだろう。
この調理場では、つい最近、大きな石窯を作った。今日の収穫祭は、そのお披露目でもあるらしい。
その石窯はオーブンにもなるので、いろんな料理ができるそうだ。今晩の料理が楽しみ。
お茶がいるかと聞いたけど、肉をこねてるので要らないと言われた。
土田くんもパン生地をこねてるので、同じく要らない。
残念に思ったが、しょうがない。調理場に引いてある湧き水でカップを洗った。あとは水差しに水を入れ、調理場を出た。
設備班はどこだろう? お風呂をお願いしないと。
そう思いながら里を歩いていると、一つの家から女子の話し声が聞こえた。
「お茶いりますかー?」
家の下から声をかけてみた。
窓からひょいと顔をのぞかせたのは、関根さんだった。
関根瑠美子さん。元の世界では美容師を目指していた。スキルは脱毛。「ルミコ・プラチナム」ってスキル名。そんな脱毛サロンがあった気がする。
「いりまーす! 上がってもらっていいですか?」
僕はうなずいてハシゴを上った。
部屋に入ったところで、思わず目を伏せる。ベッドの上に、うつ伏せで裸の女性がいたからだ。
「ああ、大丈夫。和夏ちゃんに今、背中の薬草パックを試してるの」
ベッドに寝ているのは、空気の温度調節スキルを持つ、黒宮和夏さんらしい。
たしかに、よく見ると背中一面に緑色の何かが塗られていた。
「ありがとう、ノロさん」
黒宮さんが動いたので、またあわてて目を伏せた。
「バカッ! 動いちゃダメでしょ!」
そう言ったのは「おすわり」のスキルを持つ、門場みな実さんだ。隣では、ライトのスキルを持つ沼田睦美さんが笑っていた。設備班の四人が勢揃いだ。
「見ちゃった?」
沼田さんの質問に、ぶんぶん首を振った。何かが見えたような気がするけど、僕は違うことを聞いた。
「カップは?」
「ウチ? Dよ」
黒宮さんが答えた。
「あ、いや、紅茶の」
さっき見えた光景を思い出す。頭を振って消去した。
この関根さんの家にカップはあるようで、四つ出してもらった。
「お茶、何がいいですか?」
「香りがいいやつ!」
「うちもー!」
「あたしもー!」
僕はうなずいて、ポケットから花と葉っぱを乾燥させた物を出した。
カップに入れ水を注ぐ。
「チャルメラ・チャルメラ!」
カップの中の水が瞬時に湯になった。
二回スキル名を言ったのは、ハーブティーは三分ではなく六分入れておきたいから。
二回言うと予約みたいなものだ。三分後に、もう一度スキルがかかる。
今のとこ、二回までは連続でかけれる。使い続けたら三回もいけるかもしれない。
「二回鳴ったら飲みごろです」
そう言い残して、僕は家を出た。きっと顔が赤い。早く出たかった。
スキルは一度かけてやれば、僕が近くにいなくても発動する。
あっ! お風呂のこと言うの忘れた!
「関根さーん」
「はーい?」
「コウくんたちが、お風呂入りたいって」
「りょうかーい!」
よし。これで大丈夫。この里には、ゴエモン風呂のような直火で焚く風呂が3つある。だいたいいつもは、女子は二つ、男子が一つで使っていた。女子のお風呂は長いから。
さて、水差しの水がなくなったので、食料庫の裏にある湧き水に戻ろう。
食料庫まで戻って思い出した。頭脳班の研究室に寄るのを忘れている。
頭脳班とは、なんとなく誰かが言いだした名称だ。何か決まった役割はないけど、常に一番忙しい三人を指してそう呼ぶ。
さきほどの食料貯蔵庫の隣に小屋がある。そこが頭脳班の研究室だ。
僕は湧き水を補給して、研究室に入った。
部屋の壁は上から下まで本棚があり、この世界の本がぎっしり並んでいる。反対の壁には引き出しの棚があり、色んな植物や岩なんかが入っている。
頭脳班の三人は部屋にいた。ドクくん、姫野さん、ゲスオくんの三人だ。
ドクくんが、中央に置かれた大きなテーブルで本を読んでいた。
ドクくんこと坂城秀くん。スキルは鑑定。でもスキルより、その頭脳のほうがスゴイ。この世界の文字も、あっというまに覚えてしまった。
「ノロさん、ありがとう」
僕の顔を見て「ありがとう」ってことは、お茶がいるってことだ。
「どれがいい?」
「スーッとするのがいいかな」
「わかった」
部屋にあったカップに水を入れ、ポケットのハーブを浸した。
「チャルメラ・チャルメラ!」
ハーブティーなので二回だ。
「もう、使いこなしてるね。自分のスキル」
ドクくんが感心している。感心するのは僕の方だ。スキルが進化すると教えてくれたのはドクくんだ。
ドクくんが読み解いた本によると、この世界には魔術とスキルがある。どちらか一方しか使えない。
「魔術を使える」というのは、それが一つのスキルらしい。
スキルは一人に一つ。なので、魔術が使える人はスキルを使えないようだ。
この世界の人は、生まれた時に一つスキルを持って生まれるらしい。それは特に大したものでは無いそうだ。剣を振るのが速いとか、真っ直ぐな線を書けるとか。
僕らのような異世界からくると、なんて言ったっけ、後付け? それでスキルを付けれるので、強力なスキルが付けれるそう。
もう、言われている意味の半分もわからない。けど、ドクくんはこの世界を理解している。
僕の頭が100だとしたら、ドクくんは1万、いや1億だ。それって何倍なんだろう、まあいいか。
「あ、わたしも同じの!」
作業台で、なにか地図のような物を書いていた姫野さんが言った。
姫野美姫さん、スキルは表計算。一度、どういうものか説明されたが、まったくわからなかった。
姫野さんのカップを受け取り、お茶を作る。
ゲスオくん静かだな、と思ったら部屋の隅にあるベッドで寝ていた。
ゲスオくんこと蛭川日出男くん。スキルは「お茶目な落書き」という名前で、人のスキルを改造できる。
「もう、ドクのために置いたのにね」
姫野さんがあきれた顔で言う。
ドクくんは研究をしだすと、昼夜問わず集中してしまうらしい。そのためにベッドを置いたようだ。
ゲスオくんは、さぼってるように見える。でも、実際にはゲスオくんって忙しい。一人でみんなのスキル改造をしないといけないから。
「むふふ。先生、ダメでござるよ」
ゲスオくんが寝言を言った。先生とは、僕らがいた中津高校の美術の先生だろうか。美人なので男子生徒から人気が高かった。
「ねっ、血液って沸騰させれないの?」
姫野さんがゲスオくんを指して言う。それを想像してみたが、恐ろしくてブルブルっと震えた。
同時に「ドルルールル」と木のカップがこもった音が鳴らした。あと一回鳴ればできあがりだ。
二人に渡す。
「冗談よ」
カップを受け取った姫野さんは笑った。が、目は笑ってなかった。怖い。
炊事場に寄って洗うことにする。
炊事場では、調理班が夕食の準備をしていた。今日の夜は「収穫祭」をするらしい。そのための料理を今から作っているのだろう。
「調理班」のリーダーは、家が洋食屋だった喜多絵麻さん。鉄製の鍋をボウル代わりにして、肉を大量にこねていた。
「あっ、ひょっとして、ハンバーグ?」
ミンチをこねると言ったらハンバーグだ。
「見たわね」
そう低い声で言ったのは、さきほど掃除をしてくれた友松あやさん。同じくミンチをこねている。
「えっ? ダメだった?」
「うそうそ。みんなをおどろかせたいから、黙っててね」
ハンバーグなんて何ヶ月ぶり? 間違いなく、みんな喜ぶだろう。そのとなりにいた高島さんもうなずく。
「前は、びっくりさせようとカレーを出したのに、ドクのコーラに全部持っていかれちゃったから。今日こそ、主役は調理班よ!」
学校一美人と言われる高島瀬玲奈さん。歌がうまい。前に子守唄を聞いた時は涙が出た。
それからもう一人は、回復のスキルを持ち「ゴッドマザー」と一部から言われる花森千香さん。
四人とも一生懸命にミンチをこねている。
「三二個のハンバーグって大変ですね」
大人数の食事って大変だ。
「ノロさん違う、俺らは、だいたい五〇作るから」
うしろから声をかけられた。
男子の土田清正くん。土田くんは、主にパンが担当だ。今もパン生地をこねている。
「五〇?」
「だって、おかわりするやつも多いから」
ああそうか! 僕は一人前でいいけど、みんな年齢で言えば育ち盛りだもんなぁ。元相撲部のゲンタくんなんか、五人前は食べそうだ。
土田くんの手元を見ると、パン生地も大きい。
この土田くんが作るパンは、めっちゃくちゃ美味しい。天然酵母のパンだと聞いた。酵母を見る顕微鏡のスキルがあるので、ぴったりなんだろう。
この調理場では、つい最近、大きな石窯を作った。今日の収穫祭は、そのお披露目でもあるらしい。
その石窯はオーブンにもなるので、いろんな料理ができるそうだ。今晩の料理が楽しみ。
お茶がいるかと聞いたけど、肉をこねてるので要らないと言われた。
土田くんもパン生地をこねてるので、同じく要らない。
残念に思ったが、しょうがない。調理場に引いてある湧き水でカップを洗った。あとは水差しに水を入れ、調理場を出た。
設備班はどこだろう? お風呂をお願いしないと。
そう思いながら里を歩いていると、一つの家から女子の話し声が聞こえた。
「お茶いりますかー?」
家の下から声をかけてみた。
窓からひょいと顔をのぞかせたのは、関根さんだった。
関根瑠美子さん。元の世界では美容師を目指していた。スキルは脱毛。「ルミコ・プラチナム」ってスキル名。そんな脱毛サロンがあった気がする。
「いりまーす! 上がってもらっていいですか?」
僕はうなずいてハシゴを上った。
部屋に入ったところで、思わず目を伏せる。ベッドの上に、うつ伏せで裸の女性がいたからだ。
「ああ、大丈夫。和夏ちゃんに今、背中の薬草パックを試してるの」
ベッドに寝ているのは、空気の温度調節スキルを持つ、黒宮和夏さんらしい。
たしかに、よく見ると背中一面に緑色の何かが塗られていた。
「ありがとう、ノロさん」
黒宮さんが動いたので、またあわてて目を伏せた。
「バカッ! 動いちゃダメでしょ!」
そう言ったのは「おすわり」のスキルを持つ、門場みな実さんだ。隣では、ライトのスキルを持つ沼田睦美さんが笑っていた。設備班の四人が勢揃いだ。
「見ちゃった?」
沼田さんの質問に、ぶんぶん首を振った。何かが見えたような気がするけど、僕は違うことを聞いた。
「カップは?」
「ウチ? Dよ」
黒宮さんが答えた。
「あ、いや、紅茶の」
さっき見えた光景を思い出す。頭を振って消去した。
この関根さんの家にカップはあるようで、四つ出してもらった。
「お茶、何がいいですか?」
「香りがいいやつ!」
「うちもー!」
「あたしもー!」
僕はうなずいて、ポケットから花と葉っぱを乾燥させた物を出した。
カップに入れ水を注ぐ。
「チャルメラ・チャルメラ!」
カップの中の水が瞬時に湯になった。
二回スキル名を言ったのは、ハーブティーは三分ではなく六分入れておきたいから。
二回言うと予約みたいなものだ。三分後に、もう一度スキルがかかる。
今のとこ、二回までは連続でかけれる。使い続けたら三回もいけるかもしれない。
「二回鳴ったら飲みごろです」
そう言い残して、僕は家を出た。きっと顔が赤い。早く出たかった。
スキルは一度かけてやれば、僕が近くにいなくても発動する。
あっ! お風呂のこと言うの忘れた!
「関根さーん」
「はーい?」
「コウくんたちが、お風呂入りたいって」
「りょうかーい!」
よし。これで大丈夫。この里には、ゴエモン風呂のような直火で焚く風呂が3つある。だいたいいつもは、女子は二つ、男子が一つで使っていた。女子のお風呂は長いから。
さて、水差しの水がなくなったので、食料庫の裏にある湧き水に戻ろう。
食料庫まで戻って思い出した。頭脳班の研究室に寄るのを忘れている。
頭脳班とは、なんとなく誰かが言いだした名称だ。何か決まった役割はないけど、常に一番忙しい三人を指してそう呼ぶ。
さきほどの食料貯蔵庫の隣に小屋がある。そこが頭脳班の研究室だ。
僕は湧き水を補給して、研究室に入った。
部屋の壁は上から下まで本棚があり、この世界の本がぎっしり並んでいる。反対の壁には引き出しの棚があり、色んな植物や岩なんかが入っている。
頭脳班の三人は部屋にいた。ドクくん、姫野さん、ゲスオくんの三人だ。
ドクくんが、中央に置かれた大きなテーブルで本を読んでいた。
ドクくんこと坂城秀くん。スキルは鑑定。でもスキルより、その頭脳のほうがスゴイ。この世界の文字も、あっというまに覚えてしまった。
「ノロさん、ありがとう」
僕の顔を見て「ありがとう」ってことは、お茶がいるってことだ。
「どれがいい?」
「スーッとするのがいいかな」
「わかった」
部屋にあったカップに水を入れ、ポケットのハーブを浸した。
「チャルメラ・チャルメラ!」
ハーブティーなので二回だ。
「もう、使いこなしてるね。自分のスキル」
ドクくんが感心している。感心するのは僕の方だ。スキルが進化すると教えてくれたのはドクくんだ。
ドクくんが読み解いた本によると、この世界には魔術とスキルがある。どちらか一方しか使えない。
「魔術を使える」というのは、それが一つのスキルらしい。
スキルは一人に一つ。なので、魔術が使える人はスキルを使えないようだ。
この世界の人は、生まれた時に一つスキルを持って生まれるらしい。それは特に大したものでは無いそうだ。剣を振るのが速いとか、真っ直ぐな線を書けるとか。
僕らのような異世界からくると、なんて言ったっけ、後付け? それでスキルを付けれるので、強力なスキルが付けれるそう。
もう、言われている意味の半分もわからない。けど、ドクくんはこの世界を理解している。
僕の頭が100だとしたら、ドクくんは1万、いや1億だ。それって何倍なんだろう、まあいいか。
「あ、わたしも同じの!」
作業台で、なにか地図のような物を書いていた姫野さんが言った。
姫野美姫さん、スキルは表計算。一度、どういうものか説明されたが、まったくわからなかった。
姫野さんのカップを受け取り、お茶を作る。
ゲスオくん静かだな、と思ったら部屋の隅にあるベッドで寝ていた。
ゲスオくんこと蛭川日出男くん。スキルは「お茶目な落書き」という名前で、人のスキルを改造できる。
「もう、ドクのために置いたのにね」
姫野さんがあきれた顔で言う。
ドクくんは研究をしだすと、昼夜問わず集中してしまうらしい。そのためにベッドを置いたようだ。
ゲスオくんは、さぼってるように見える。でも、実際にはゲスオくんって忙しい。一人でみんなのスキル改造をしないといけないから。
「むふふ。先生、ダメでござるよ」
ゲスオくんが寝言を言った。先生とは、僕らがいた中津高校の美術の先生だろうか。美人なので男子生徒から人気が高かった。
「ねっ、血液って沸騰させれないの?」
姫野さんがゲスオくんを指して言う。それを想像してみたが、恐ろしくてブルブルっと震えた。
同時に「ドルルールル」と木のカップがこもった音が鳴らした。あと一回鳴ればできあがりだ。
二人に渡す。
「冗談よ」
カップを受け取った姫野さんは笑った。が、目は笑ってなかった。怖い。
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