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24-1話 飯塚清士郎 「疫病研究室」
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里の人数が一気に増えた。
俺の家なら「出ていけ」と言うところだが、そうもいかない。
独り身の者には、木の上の空き家をあてがった。狭いが男には特に好評らしい。
家族がいる者には山すそに小屋を建てた。
だんだん冬が近づいている。もう野宿ができる気温ではない。工作班は朝から晩まで小屋作りに追われていた。
このまま増え続けるとやっかいだ。自分たちの生活が圧迫されかねない。
先日、キングが行ったウルパという村からは半分近くが移り住んだ。ゴカパナ村長がここに住む! と言ったからだ。
ジジイのわがままってのは、子供と一緒だな。言い出したら聞かない。
昨日は昨日で、小さな集落から十人ほどの生き残りを助けた。
一応、この村に入る前に念は押してある。しばらくは里から出れないと。無断で出ようとすれば、ケルベロスが噛みつくぞ!と脅してもいた。
来ない者には里の場所は教えない。だが、交流の跡は残る。
「やばい状況か……」
本の部屋でベッドにもたれていた。元はドクのために置いたベッドだ。
「やばいって何が?」
地図に線を引いていた姫野美姫が振り向いた。
「俺らの存在が知れわたるってこと」
「あー、まあね。でも、わたしらだけ助かるって線はないんでしょ?」
疫病が収まるまで、ここでじっとしておく。それが賢い選択だ。賢いが、我らが王は無理だろうな。
今日も変わらず、近隣の村に出発したところだ。
「キング殿は、もう出立されたのか!」
部屋にカラササヤさんが入ってきた。
「さっき、出ましたよ」
「ぬう、このカラササヤが案内つかまつると申し上げたのに!」
カラササヤさん、すっかりキングの護衛役気取りだ。
「今日は、グローエンさんの知り合いがいる集落なので、グローエンさんが案内で、戦闘班はキングとゲンタが行ってます」
「そうでありますか……」
肩を落として帰っていく。代わりに入ってきたのはゴカパナ村長だ。
「長は今日もおられぬか?」
「ええ、しばらく日中は村々を回るかと」
「左様か。長がおらぬと、アマラウタ様もお姿を見せぬゆえ……」
ゴカパナ村長が、しょんぼり帰っていく。
姿を見せないのはキングがいないというより、じいさんに捕まると話が長いからではないか? とは言えない。
さきほどの話だが、あきらめるしかないだろう。キングが動くと人が増える。それは昔からだ。裏表もなく情に厚い。人が惹きつけられる性格だと思う。
だが、キングは周りの人間を大切にするが、自分のやりたい事も曲げない。その性格が、後に大きな損失にならなきゃいいが。
俺らがつるんでいた頃は三人だった。俺とキングとゲスオ。たまにドクが入っても四人。それが今や何十という人の命がのしかかる。
「あっ、そういや、ゲスオは?」
今日、いや昨日から姿を見かけない。
「疫病の研究室に行ってたと思うけど」
とつぜん、部屋に誰かが飛び込んできた。
「吉野?」
吉野由佳子。疫病の研究室にいたはずだ。
「花ちゃん、花ちゃんいない?」
花森千香のことだ。花森を探しているってことは、回復のスキルがいるってことだ。このあわてぶりだと、命に関わる。
「ったく、ゲスオの行くところ、ろくなことが起きないな!」
俺はベッドから飛び起きた。キングたちは今日、花森たちを連れて行かなかった。里にいるはずだ。
外に出ると妖精が飛んできた。
「ハネコ!」
女子の間から名前をつけてあげれば?と言われたので、ハネコとつけた。羽の子でハネコだ。
何度も呼んでいると自分のことだとわかったようだ。最近は、ハネコと呼ぶと飛んでくる。
「花森を知らないか?」
聞いてみた。意外に妖精はこっちの言葉を理解している気がする。
何かピーチクパーチクと鳴いた。あいかわらず何を言っているのか、わからない。
飛び出したので追いかける。ハネコは畑へ向かった。畑の隅にある大きな龜の前に花森がいた。なるほど、生ゴミを捨てにきてたのか。生ゴミは発酵させると良い肥料になるらしい。
「花森!」
呼ぶと、びくっと振り返った。おどろかせてしまったらしい。
「疫病の研究室が大変らしい。来てくれ!」
花森はすぐに駆けてきた。ちょうどいい所に、進藤の馬なし馬車が通る。呼び寄せて手早く事情を説明した。
「よっしゃ! プリンス、サイレン鳴らして!」
サイレン? 指差すほうを見ると、御者台のハンドルとは別に、取っ手のついた鐘のような物がある。
回すと「ウー!」とサイレンの音が鳴った。
「ほんとのサイレンかよ!」
「工作班が作ってくれた。エマージェンシーな時に使えって」
工作班の連中、街に出てはガラクタを買い漁っていた。それは案外、無駄ではなかった!
「ウー!ウー!」
とサイレンの音を鳴らし馬車を飛ばすと、サイレンの意味がわからなくても「どけ!」というのは伝わるらしい。しかしこれ、もはや馬車じゃない。車だ。
途中で友松あやを見つけた。
「友松!」
「プリンス、なにごと!」
「疫病の研究室に行く。乗れ!」
友松を乗せて馬車を走らせる。疫病の研究室に着いた。近寄らないようにしていたので、来たのはこれで二度目だ。
研究室の横にある牧場には、牛と鶏だけでなく、色々な動物が増えていた。
疫病の研究室に入ると、吉野由佳子は戻っていた。全員の顔を手で払う。何かが付いた感触があった。吉野のマスクスキルか。
「こっちへ」
机やイスが置かれた部屋から隣部屋に案内された。
隣の部屋は、壁に沿って長机が置かれ、実験器具のような物が置かれていた。その中央にベッドが三つ。
ゲスオとドク、それにノロさんこと野呂爽馬が寝ていた。
ベッドの側には、顕微鏡のスキルを持つ土田清正が立っている。入ってきた俺らの顔を見て、悲痛の声を上げた。
「ドクとゲスオの意識がない」
……まじかよ!
俺の家なら「出ていけ」と言うところだが、そうもいかない。
独り身の者には、木の上の空き家をあてがった。狭いが男には特に好評らしい。
家族がいる者には山すそに小屋を建てた。
だんだん冬が近づいている。もう野宿ができる気温ではない。工作班は朝から晩まで小屋作りに追われていた。
このまま増え続けるとやっかいだ。自分たちの生活が圧迫されかねない。
先日、キングが行ったウルパという村からは半分近くが移り住んだ。ゴカパナ村長がここに住む! と言ったからだ。
ジジイのわがままってのは、子供と一緒だな。言い出したら聞かない。
昨日は昨日で、小さな集落から十人ほどの生き残りを助けた。
一応、この村に入る前に念は押してある。しばらくは里から出れないと。無断で出ようとすれば、ケルベロスが噛みつくぞ!と脅してもいた。
来ない者には里の場所は教えない。だが、交流の跡は残る。
「やばい状況か……」
本の部屋でベッドにもたれていた。元はドクのために置いたベッドだ。
「やばいって何が?」
地図に線を引いていた姫野美姫が振り向いた。
「俺らの存在が知れわたるってこと」
「あー、まあね。でも、わたしらだけ助かるって線はないんでしょ?」
疫病が収まるまで、ここでじっとしておく。それが賢い選択だ。賢いが、我らが王は無理だろうな。
今日も変わらず、近隣の村に出発したところだ。
「キング殿は、もう出立されたのか!」
部屋にカラササヤさんが入ってきた。
「さっき、出ましたよ」
「ぬう、このカラササヤが案内つかまつると申し上げたのに!」
カラササヤさん、すっかりキングの護衛役気取りだ。
「今日は、グローエンさんの知り合いがいる集落なので、グローエンさんが案内で、戦闘班はキングとゲンタが行ってます」
「そうでありますか……」
肩を落として帰っていく。代わりに入ってきたのはゴカパナ村長だ。
「長は今日もおられぬか?」
「ええ、しばらく日中は村々を回るかと」
「左様か。長がおらぬと、アマラウタ様もお姿を見せぬゆえ……」
ゴカパナ村長が、しょんぼり帰っていく。
姿を見せないのはキングがいないというより、じいさんに捕まると話が長いからではないか? とは言えない。
さきほどの話だが、あきらめるしかないだろう。キングが動くと人が増える。それは昔からだ。裏表もなく情に厚い。人が惹きつけられる性格だと思う。
だが、キングは周りの人間を大切にするが、自分のやりたい事も曲げない。その性格が、後に大きな損失にならなきゃいいが。
俺らがつるんでいた頃は三人だった。俺とキングとゲスオ。たまにドクが入っても四人。それが今や何十という人の命がのしかかる。
「あっ、そういや、ゲスオは?」
今日、いや昨日から姿を見かけない。
「疫病の研究室に行ってたと思うけど」
とつぜん、部屋に誰かが飛び込んできた。
「吉野?」
吉野由佳子。疫病の研究室にいたはずだ。
「花ちゃん、花ちゃんいない?」
花森千香のことだ。花森を探しているってことは、回復のスキルがいるってことだ。このあわてぶりだと、命に関わる。
「ったく、ゲスオの行くところ、ろくなことが起きないな!」
俺はベッドから飛び起きた。キングたちは今日、花森たちを連れて行かなかった。里にいるはずだ。
外に出ると妖精が飛んできた。
「ハネコ!」
女子の間から名前をつけてあげれば?と言われたので、ハネコとつけた。羽の子でハネコだ。
何度も呼んでいると自分のことだとわかったようだ。最近は、ハネコと呼ぶと飛んでくる。
「花森を知らないか?」
聞いてみた。意外に妖精はこっちの言葉を理解している気がする。
何かピーチクパーチクと鳴いた。あいかわらず何を言っているのか、わからない。
飛び出したので追いかける。ハネコは畑へ向かった。畑の隅にある大きな龜の前に花森がいた。なるほど、生ゴミを捨てにきてたのか。生ゴミは発酵させると良い肥料になるらしい。
「花森!」
呼ぶと、びくっと振り返った。おどろかせてしまったらしい。
「疫病の研究室が大変らしい。来てくれ!」
花森はすぐに駆けてきた。ちょうどいい所に、進藤の馬なし馬車が通る。呼び寄せて手早く事情を説明した。
「よっしゃ! プリンス、サイレン鳴らして!」
サイレン? 指差すほうを見ると、御者台のハンドルとは別に、取っ手のついた鐘のような物がある。
回すと「ウー!」とサイレンの音が鳴った。
「ほんとのサイレンかよ!」
「工作班が作ってくれた。エマージェンシーな時に使えって」
工作班の連中、街に出てはガラクタを買い漁っていた。それは案外、無駄ではなかった!
「ウー!ウー!」
とサイレンの音を鳴らし馬車を飛ばすと、サイレンの意味がわからなくても「どけ!」というのは伝わるらしい。しかしこれ、もはや馬車じゃない。車だ。
途中で友松あやを見つけた。
「友松!」
「プリンス、なにごと!」
「疫病の研究室に行く。乗れ!」
友松を乗せて馬車を走らせる。疫病の研究室に着いた。近寄らないようにしていたので、来たのはこれで二度目だ。
研究室の横にある牧場には、牛と鶏だけでなく、色々な動物が増えていた。
疫病の研究室に入ると、吉野由佳子は戻っていた。全員の顔を手で払う。何かが付いた感触があった。吉野のマスクスキルか。
「こっちへ」
机やイスが置かれた部屋から隣部屋に案内された。
隣の部屋は、壁に沿って長机が置かれ、実験器具のような物が置かれていた。その中央にベッドが三つ。
ゲスオとドク、それにノロさんこと野呂爽馬が寝ていた。
ベッドの側には、顕微鏡のスキルを持つ土田清正が立っている。入ってきた俺らの顔を見て、悲痛の声を上げた。
「ドクとゲスオの意識がない」
……まじかよ!
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