3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

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25-7話 姫野美姫 「わたしの決意」

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「伯爵、おしえて下さい。主従の呪いは解けるのですか?」

 ヴァゼル伯爵が目を細めた。やっぱり、こうやって月明かりの下で見ると、吸血鬼にそっくり。

 透き通るような白い肌、そこについた赤い唇が動いた。

「任を解く、または去れ、言葉はどうでも良いが主人に放逐されれば呪いは消えます」
「えっ! そんな簡単なの?」
「はい。他言無用に願います」

 あきれるほど簡単だ。そしてそのままにしている意味もわからない。

「それ、もう解いたほうがいいんじゃ……」
「いえいえ。あの男の申し訳無さそう顔は少し楽しいので」

 ジャムパパが笑った。

「人の悪い大人よの」
「戦士よ、それで言えば、あなたはどこにも行かないので?」

 トカゲの戦士は夜行族の言葉に考え込んだ。

「去ったほうが良い、と考えることはある」

 いまさら去る? 言葉を挟もうとしたら、またジャムパパは話し始めた。

「だが、去れぬな。夢のような生活だ。俺自身が、ここの生活は捨てれぬ」
「ジャムパパの夢のような生活? ここが?」

 わたしは里を見下ろした。

「ヒメノたちは違うかもしれぬ。だが俺のいた世界では戦ばかりでな。こんな豊かな生活を夢見ていた」

 そうか。戦いの部族。そんな話をどこかで聞いた。

「これから里も人が増える。俺がいないほうが良いとも思えるが……」
「ジャムパパ、それは……」

 わたしの言葉をジャムパパはうなずいて止めた。

「どこにも行かぬ。さきほどの話がそうだ。俺は皆に好かれた。28人の子供。もう、充分かもしれぬ」

 わたしは身震いがした。

「ジャムパパ、言い方が不吉」
「そうか?」
「うん。もう言わないで」

 本気で、お願いした。

「わかった」

 ジャムパパはカップに酒を注ごうとしたが、空だった。

「しまった、さきほど吹き出したのが悔やまれるわ」

 空き瓶を逆さにし、惜しそうに眺める。

「あのー、どちらかに、誰かいますか?」

 下から聞こえた。ノロさんだ。

「これはノロ殿。いかがされました?」
「あ、伯爵。ジャムさん、姫野さんも?」

 ノロさんに手を振る。

「今日はみんな、寝れないだろうと思って、お茶を配ってました。そしたら、どこかから声がすると思って」

 樹の上の三人が目を合わせた。

「ノロ殿、少々、お待ちを」

 伯爵が急降下していく。ノロさん気の毒。

「ひゃあ!」

 案の定、下から悲鳴が聞こえた。あっという間にノロさんが樹の上の人だ。

 ノロさんに紅茶を作ってもらい、満月を見ながら飲む。これすごい贅沢かも。

「たしかに」

 ヴァゼル伯爵、わたしの心を読んだのかと思ったら違う話だった。

「ジャム殿が言うように、夢のような世界なのかも、しれませんね。以前に月夜でも見ながらノロ殿の茶が飲みたいと言いました」

 伯爵は月にカップを掲げた。

「今宵、その夢は叶いました」
「うむ。これもまた夢のような、ひと時であるな」

 ジャムパパもそう言って、カップの紅茶を美味しそうにすすった。

 ノロさんだけが、話がわからずキョロキョロしている。

「秘密の暴き合いをしてまして。ノロ殿も何かあれば」

 ヴァゼル伯爵、さすがにノロさんには、ないって。そう思ったらノロさん、真剣な顔になった。

「誰にも言わないで欲しいんですが……」

 えっ! あるの?

「27人がキングを助けようとして、落ちた。みんなはそう思ってますが、実は違います」

 いきなりの話でわからなかった。ジャムパパと伯爵も同じような顔をしている。

「助けようとしたのは26人まで。僕はびっくりしてただけ」
「ええっ? じゃあなんで」
「魔方陣が閉じそうだったんで、自分で飛び込んだんです」

 すぐに返す言葉が見つからなかった。

「ノロさん、せっかく残れたのに……」
「姫野さん、でも、このクラスじゃないと僕は生きていけそうにないよ」

 ヴァゼル伯爵は複雑な顔だ。わたしもそう。

「ヒメノ」

 ふいにジャムパパに呼ばれて顔を上げた。

「あの約束は、もはや守れそうにない。俺にとって28人は、すべて代えがたい存在だ」

 あの約束とは、最初のころに言った「守る順序」だ。わたしは返す言葉が見つからなかった。

 学校に通っていた時から、女子の間では「このクラスは奇跡」という声は多かった。今はどうなんだろう。ジャムパパ、ヴァゼル伯爵、カラササヤさんだってそう。異世界に来て出会った人たちもまた、奇跡なのかもしれない。

 今さらになって、自分の担っている役割の重さに心が震える。その震えを隠すかのように、わたしは満月を見上げ、ゆっくりと紅茶を飲んだ。



 ヴァゼル伯爵に送ってもらって樹の上から下りた。その足で頭脳班の部屋へ向かう。

 そうだ。誰一人欠けることがないように。そこを目指そう。わたしこそ、それを目指して頭を使わないといけない。

 小屋の扉を開けると、薄暗いことにおどろいた。普段なら本を読む部屋なので、ライトは多くある。よく見ると、ライトのいくつかは布をかけて遮っていた。

「遅かったね」

 薄暗い部屋にいたのは、ドクとゲスオだ。

「ようやく、軍師のお出ましか」

 光の当たらないベッドの暗がりにいたのは、幻影のスキルを持つ渡辺裕翔くん。

 なぜ渡辺くんが? わたしは尋ねるようにドクを見た。

「状況が急激に変わりつつあるよね。作戦会議が必要かと思って。その手伝いに二人を呼んでおいた」

 二人? 聞こうと思ったらドアが開いて男子が一人、入ってきた。水差しを持っているので、水を汲みに出てたみたい。

「渡辺くんと駒沢くんは、僕の予想だと、こういう話に向いてると思う」

 ドクの言葉に、ゲスオがうなずいた。

「渡辺殿は歴史造形が深く、駒沢殿は、きっすいのゲーマー。攻略法を見つける眼力は、ずば抜けておるでござるよ」

 ゲスオがそう言って眼鏡を上げた。

「ふっ、そう言って、俺に勝つのがゲスオだけどな」

 駒沢遊太も眼鏡を上げた。おう、なんだかゲスオと同じ人種の匂い。

「んじゃ、諸葛亮、よろしく」

 渡辺裕翔は三国志の「孔明」ではなく「諸葛亮」と呼んだ。歴史好きはこういう言い方をする人が多い。

「今回に限っては、わたしは郭嘉でいたいわね」
「なるほど、負けた劉備じゃなく、勝った曹操の軍師ってわけか」

 わたしは表計算のスキルを出した。壁一面になるように大きくする。実はわたしのスキルも進化していた。使用頻度で言えば、クラスで一番かもしれない。

「共有!」

 指をパチン! と鳴らすと、表計算の画面が空中に浮かび上がった。前は自分しか見えなかったが、今では人に見せることができる。

「うわぁ、細かいや」

 ドクくんが数字を見て言った。最初の画面は食料の計算で使う画面だ。

「して、姫野軍師、我らブレーンのやる事はいかに?」

 ゲスオの言葉にうなずいた。表の何も書いてないページを開く。

「ありとあらゆる可能性の予測、そしてその対処を」

 渡辺くんが後ろでつぶやいた。

「それはすごい数になるな。何百とか」
「何千、何万でもいい」
「何万……」

 わたしは振り返り、四人を見つめた。

「クラス28人、それにジャムパパ、ヴァゼル伯爵、里のみんな。誰か一人でも欠けないように、知恵を尽くしたいの。わたしは、考えることしかできないから」

 四人はしばらく空白の表を眺めていたが、ゆっくりとうなずいた。

「わかった。やろう」
「攻略はまかしとけ!」
「さすが姫野さん」
「我が力、見せようぞ」

 若干一名の不安は置いておくが、わたしは軍師ではないなと思う。軍師のように一人でやるのは無理だ。でも、頭脳班は一人じゃない。

 団結したらチートだぜ。

 わたしは、いまだ見えぬこれからの敵に、そう胸を張りたい気持ちが沸き起こっていた。
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