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28-8話 有馬和樹 「クー・フーリンVS里の剣士Ⅰ」
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おれの思わず口にした言葉に、ジャムさんが驚愕の顔をした。
「キングでも知っておるのか」
「ええ。ケルト神話っていう、昔の話に出てくる英雄です」
ヴァゼル伯爵があきれたように笑った。
「では、あの御仁、いたるところの世界に召喚されているようですな」
師匠たちの言い方から察するに、おれらの昔話では英雄だが、どうやら実物は大きく違うようだ。
クー・フーリンは、まるで散歩でもしているかのように街並みを眺めながら歩いている。
二番目の司教というアンリューラスが、声が届く距離まで来た。自信満々に両手を広げた。自分を名を名乗る。
「我が名はアンリューラス、と申します。おや? そちらの夜行族は……」
若い司教がそこまで言った時、クー・フーリンが前に出た。
「ほほう、なかなか良い逸材。それも四人」
言葉を遮られたアンリューラスが、気分を害したようだ。片手を上げる。
「でしゃばるでない。図に乗れば動けぬようにするぞ」
あれは、最初にハビスゲアルがやったのと同じだ! だがアンリューラスは呪文を唱えたが、クー・フーリンはまったく相手にしていないようだった。
「少し、鬱陶しいですね」
クー・フーリンは若い司教に近づき、ほんの軽く、手の甲で頬を叩く。司教の体はきりもみするように飛び、ねじれた首のまま地面に落ちた。
おもむろに鉄の首輪に指をかけると、まるでウエハースを折るかのように、パキッと簡単に取る。そして、おれたち四人を興味深そうに見た。
「面白くなるまで従ってみようかと思いましたが、やめました。充分、面白そうです」
こちらの四人が考えていることは同じだろう。この四人で勝てるのか? という疑問。
クー・フーリンは一人ずつ舐めるように眺めたが、プリンスを見て止まった。
「珍しい。剣士ですね。それも生粋の」
気配からなのか、身なりからなのか。クー・フーリンはプリンスの特徴を当てた。おもむろに重装騎兵が落とした剣を一本、拾う。
「どの程度の腕前か、見て差し上げましょう」
指名されたプリンスは、一瞬のためらいもなく歩み出た。プリンスも重装騎兵の落とした装備から剣を探す。
『入電・・・・・・キング?』
心配そうな姫野の声だ。
『逃げる準備だ。おれら四人が抑える』
『そんなに!』
『ああ、そんなに強い。戦の神、クー・フーリン。聞いたことないか?』
姫野が一瞬、言葉を失った。
『隙を見てハビスゲアルさんに……』
『いや、おそらく魔法は効かない。だよな、ドク?』
ドクの返事がなかった。
『そうか、これ個別回線か。よく切り替えれるな』
『キングに隠すことでもないから言うけど、入電って言葉が暗号。わたしがそれを言うと、ももちゃんは、わたしとだけしゃべる』
なるほど。おれは師匠二人を見た。おれの位置からは、少し離れている。
『遠藤、今、師匠二人の声を拾えるか?』
個別回線でも通話スキルの本人は必ず聞いているはず。
『キング、それって……』
やっぱり。遠藤が出た。
『ああ、盗聴だ。たぶん、遠藤は自分で禁じ手にしてるだろう。今だけだ。二度と言わない』
ほんの少し間が空いて、二人の声が入ってきた。
『……言ってはならぬことですが、見てみたい戦いです』
『見たいか?』
『ええ。私の剣を受け継ぐ者。それが、あやつに通じるのか』
『俺は見たくない。俺と、お前、それを越えていくべき者だ』
プリンス、めっちゃ期待されてんな。
『危なくなれば……』
『戦士よ。それは当然』
『二人で勝てるとは思えぬが』
『時間は稼げましょう』
『うむ。問題は』
『キング、ですな』
『うむ』
『呪縛し、馬車に投げようかと』
呪縛、ヴァゼル伯爵の黒い霧か。
師匠二人が考えることは、もっともな事だ。悪いけど先手を打つ。自分の耳を触った。
『全員に通信』
おそらく、遠藤ももは慌てて全通信に切り替えただろう。
『全員に通達する。トレーラーを捨て、逃げる用意。合図があれば、散り散りで逃げること』
パレードの車みたいな速度じゃ逃げれない。固まっても標的になるだけ。逃げるなら四方八方じゃないと。
師匠二人が、おれを見た。怒っているかもしれない。でも、おれは里の長だ。里の住民全員を守る義務がある。お二人も住民なんですよ。
「なあ、姫野」
おれは隣りにいた姫野に同意を求めた。
……ん? なんで姫野が?
気づけば、クラスのみんなはトレーラーを下りて後ろに集まり始めていた。
「みんな、自分だけ逃げるのは嫌だって」
そうくる! おれの狙いが……
「……なかなか計算通りに行かないわね」
「んにゃー!」
頭を掻きむしって両手を上げた。予想を超えることが多すぎる。
だが考えると、みんなは一年この世界で生きてきた。戦闘班でなくとも、命の危険はそこら中にある世界だ。
おれが昔の感覚で考えてしまうだけで、みんな、とっくに腹は据わっているのかもしれない。
「キングでも知っておるのか」
「ええ。ケルト神話っていう、昔の話に出てくる英雄です」
ヴァゼル伯爵があきれたように笑った。
「では、あの御仁、いたるところの世界に召喚されているようですな」
師匠たちの言い方から察するに、おれらの昔話では英雄だが、どうやら実物は大きく違うようだ。
クー・フーリンは、まるで散歩でもしているかのように街並みを眺めながら歩いている。
二番目の司教というアンリューラスが、声が届く距離まで来た。自信満々に両手を広げた。自分を名を名乗る。
「我が名はアンリューラス、と申します。おや? そちらの夜行族は……」
若い司教がそこまで言った時、クー・フーリンが前に出た。
「ほほう、なかなか良い逸材。それも四人」
言葉を遮られたアンリューラスが、気分を害したようだ。片手を上げる。
「でしゃばるでない。図に乗れば動けぬようにするぞ」
あれは、最初にハビスゲアルがやったのと同じだ! だがアンリューラスは呪文を唱えたが、クー・フーリンはまったく相手にしていないようだった。
「少し、鬱陶しいですね」
クー・フーリンは若い司教に近づき、ほんの軽く、手の甲で頬を叩く。司教の体はきりもみするように飛び、ねじれた首のまま地面に落ちた。
おもむろに鉄の首輪に指をかけると、まるでウエハースを折るかのように、パキッと簡単に取る。そして、おれたち四人を興味深そうに見た。
「面白くなるまで従ってみようかと思いましたが、やめました。充分、面白そうです」
こちらの四人が考えていることは同じだろう。この四人で勝てるのか? という疑問。
クー・フーリンは一人ずつ舐めるように眺めたが、プリンスを見て止まった。
「珍しい。剣士ですね。それも生粋の」
気配からなのか、身なりからなのか。クー・フーリンはプリンスの特徴を当てた。おもむろに重装騎兵が落とした剣を一本、拾う。
「どの程度の腕前か、見て差し上げましょう」
指名されたプリンスは、一瞬のためらいもなく歩み出た。プリンスも重装騎兵の落とした装備から剣を探す。
『入電・・・・・・キング?』
心配そうな姫野の声だ。
『逃げる準備だ。おれら四人が抑える』
『そんなに!』
『ああ、そんなに強い。戦の神、クー・フーリン。聞いたことないか?』
姫野が一瞬、言葉を失った。
『隙を見てハビスゲアルさんに……』
『いや、おそらく魔法は効かない。だよな、ドク?』
ドクの返事がなかった。
『そうか、これ個別回線か。よく切り替えれるな』
『キングに隠すことでもないから言うけど、入電って言葉が暗号。わたしがそれを言うと、ももちゃんは、わたしとだけしゃべる』
なるほど。おれは師匠二人を見た。おれの位置からは、少し離れている。
『遠藤、今、師匠二人の声を拾えるか?』
個別回線でも通話スキルの本人は必ず聞いているはず。
『キング、それって……』
やっぱり。遠藤が出た。
『ああ、盗聴だ。たぶん、遠藤は自分で禁じ手にしてるだろう。今だけだ。二度と言わない』
ほんの少し間が空いて、二人の声が入ってきた。
『……言ってはならぬことですが、見てみたい戦いです』
『見たいか?』
『ええ。私の剣を受け継ぐ者。それが、あやつに通じるのか』
『俺は見たくない。俺と、お前、それを越えていくべき者だ』
プリンス、めっちゃ期待されてんな。
『危なくなれば……』
『戦士よ。それは当然』
『二人で勝てるとは思えぬが』
『時間は稼げましょう』
『うむ。問題は』
『キング、ですな』
『うむ』
『呪縛し、馬車に投げようかと』
呪縛、ヴァゼル伯爵の黒い霧か。
師匠二人が考えることは、もっともな事だ。悪いけど先手を打つ。自分の耳を触った。
『全員に通信』
おそらく、遠藤ももは慌てて全通信に切り替えただろう。
『全員に通達する。トレーラーを捨て、逃げる用意。合図があれば、散り散りで逃げること』
パレードの車みたいな速度じゃ逃げれない。固まっても標的になるだけ。逃げるなら四方八方じゃないと。
師匠二人が、おれを見た。怒っているかもしれない。でも、おれは里の長だ。里の住民全員を守る義務がある。お二人も住民なんですよ。
「なあ、姫野」
おれは隣りにいた姫野に同意を求めた。
……ん? なんで姫野が?
気づけば、クラスのみんなはトレーラーを下りて後ろに集まり始めていた。
「みんな、自分だけ逃げるのは嫌だって」
そうくる! おれの狙いが……
「……なかなか計算通りに行かないわね」
「んにゃー!」
頭を掻きむしって両手を上げた。予想を超えることが多すぎる。
だが考えると、みんなは一年この世界で生きてきた。戦闘班でなくとも、命の危険はそこら中にある世界だ。
おれが昔の感覚で考えてしまうだけで、みんな、とっくに腹は据わっているのかもしれない。
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