3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

文字の大きさ
68 / 74

28-9話 有馬和樹 「クー・フーリンVS里の剣士Ⅱ」

しおりを挟む
 おれはプリンスに目を移した。

 こちらの騒動はまったく耳に入らない様子で、剣を持った二人は対峙していた。

 プリンスは右足を前にし、両足の踵を少し浮かしている。剣は腰の上あたりで相手に向けていた。基本的な中段の構えだ。戦の神クー・フーリンは、だらりと立っているだけ。

 だが、これは打ち込めないぞ。少し離れた所にカラササヤさんが見えた。冷や汗をかいて槍を握りしめている。カラササヤさんあたりなら、わかるだろう。クーフー・リンのどこに打ち込んでも、こっちが殺られる。

 ふいにクー・フーリンが剣を肩で担ぐように構えた。

 ドン! と間合いを詰めた速さは人間の速さではなかった。上から一刀両断する勢いで振り下ろす。プリンスは足さばきで半歩ずらし、剣は鼻先の空を切った。

 プリンスが下から剣を跳ね上げるより速く、クー・フーリンは剣を横に払った。速さが違いすぎる!

 プリンスは、なんとか手首を返しそれを受けた。うしろへ下がると同時に腕を狙った。しかし、プリンスが腕に振り下ろすより速く、クー・フーリンが間を詰める。

 三連撃。それをプリンスが剣で受けた。三連撃だと思ったのは剣がぶつかる音が三つ聞こえたからで、おれには二つにしか見えなかった。

「くはっ」

 ふいに戦の神が笑った。

「ここまでの剣の腕、久しく、久しく見ておらぬわ!」

 金の糸が絡む長い髪が逆立った。

「はははっ!」

 ボコッ! と宝石の入った目が陥没した。

「キング……」

 姫野が、おれの腕を掴んだ。

「ああ、クー・フーリンが興奮した時に出るという『裏返り』だ」

 筋肉が膨張し、皮膚が裂けたかと思うとめくれて戻っていく。クー・フーリンは笑いながら身をよじり、しばらくすると元の姿に戻った。

「剣技のみで戦いましょう。誓って魔力は使いませぬ」

 クー・フーリンが構えた。それはフェンシングに近い。体を横に開き、剣を前に出す。

 プリンスは腰に下げた短剣を抜いた。長い剣と短い剣の二刀流。ジャムさんとヴァゼル伯爵のハイブリットか!

 クー・フーリンが攻撃を繰り出す。息つく暇もない連撃をプリンスは二本の剣で払い続けた。

「ほう、素晴らしい。では……」

 クー・フーリンは一歩下がったかと思いきや、それはフェイントでくるりと体を反転させて凄まじい横一線を放つ。

 プリンスは斬撃の強さを感じたか二本の剣で受けた。長い剣のほうが折れて飛ぶ。

「次の剣を取られよ、若き剣士」

 クー・フーリンは自身の前で剣を八の字に振り回し遊んでいる。

 プリンスは短剣のほうを腰に戻し、あたりを見回す。落ちていた剣を拾った。鞘ごとだ。

「それは、どういう意図があるのです?」

 クー・フーリンは首を傾げた。

 プリンスは鞘ごと腰のベルトに差し、剣は抜かず体を沈め、柄に軽く手を置いた。これは居合だ。

 プリンスは動かなくなった。さきほどまでの殺気が消える。やがて、その場にいるのに見失いそうになるほど気配までが消えた。

 クー・フーリンはそれを見て、右に左に動いて眺める。まるで獅子が攻撃をためらっているかのようだ。

 ドン! と間合いと詰めるクー・フーリン。その動き出す前からプリンスは左に足をさばいていた。

 戦の神は振り下ろす剣が止まらぬと思ったのか、うしろへのけ反った。

 プリンスが踏み込んだと同時に剣は抜かれていた。クー・フーリンには届いていない。いや! クー・フーリンの右側の髪が一房、落ちていた。

 よく見ると、プリンスが持つ剣は、さきほどの剣より若干長い。剣を最後まで抜かないことで、剣の間合いをごまかしたか!

 クー・フーリンが自分の髪に手をやる。プリンスは剣を鞘に戻し、距離を取った。

「なにぞ、その技は!」

 クーフーリンが怒りに任せて剣を振った。剣が光り、何かが飛んだ。それはプリンスの顔をとらえ、プリンスが後ろに吹き飛んだ。

「……おい、てめえ」

 おれは思わずつぶやいた。

「魔力は使わないんじゃ、なかったのかよ」

 足を開き、拳を引いた。

「ほう、剣に対し拳で来るか。興味深い」
「……キング」

 倒れたプリンスが体を起こした。左の頬がぱっくり割れている。

「予の斬撃をかわしたか。面白い……」

 そこまで言ったクー・フーリンが止まった。自身の右手を見ている。その右手には、火がついていた。

 クー・フーリンは腕を振った。ついた火はなぜか消えない。

 うしろのクラスメートの雰囲気が変だ。おれはクー・フーリンに注意しながら振り返った。

 みんなが見ているのは喜多絵麻だった。喜多がプルプル震えている。

「プリンスが……プリンスが……」

 あの火……チャッカマンか!

 クー・フーリンも、誰が火をつけたのかわかったらしい。喜多に向かって口を開いた。

「娘よ、この火を消せ。さもなくば、その首、予の一撃で吹き飛ばすが?」

 喜多がわなわなと震えている。

「はっ! これはイヤボーン! 皆、下がるでござる!」

 ゲスオが叫んだ。

「イヤボーンって、何だよ!」
「むぅ! 拙者が貸したラノベを読んでおらぬのか! 少女がイヤー! と言って能力がボーン! でござるよ」

 それはヤバイ。

「喜多、落ち着け」
「お……お……」
「お?」

 喜多絵麻が顔を上げた。

「おどれ! 誰の顔に傷つけとんじゃ!」

 ……はい?

「チャッカマン!」

 喜多絵麻が人差し指を天に向けた。クー・フーリンの全身が炎に包まれる。

「娘、これしきの魔術で……馬鹿な、消えぬ!」

 クー・フーリンが焦りだした。

「魔術ではないのか、娘よ、この炎を……」

 その言葉を最後に、クー・フーリンは炎の中に崩れ落ちる。魔力の塊だったのか、身体から光が溢れ、やがて蒸発した。

 あわれ戦の神クー・フーリン! おれは不謹慎ではあるが、心の中で爽快感を覚えていた。クー・フーリン、尊大な態度の男だった。そういうやつには、お似合いの最後だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...