流れ着いた先は異世界でした。~誰がなんと言おうと、必ず元の世界へ帰りますから!

あみにあ

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◆閑話:異世界へ渡った彼と彼女の話:第七話

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体から力抜け、魔力が抜け落ちていくのを感じる中、鯰は何かを思いついた様子で、金色の目を輝かせながら、俺の耳元へやってきた。

「なぁ、その人間をお前の居た世界へ渡らせるか……?」

その言葉に俺は顔をあげると、金色の瞳へ視線を合わせる。

「……そんなことができるのか?」

「あぁ、ここまで連れて来られれば可能だ。その娘が今の世界で数年の命でも、お前の世界に移れば数十年は生きられる。だがそれだと……お前が消滅してしまうだろうがな……」

彼女が生きていられるなら、彼女が死なずにすむのなら……。
俺は彼女を俺の生まれた世界へ送ろう。
俺の命はもう消えているんだ。

こんなことを勝手に決める俺を、彼女はきっと許さないだろう。
一緒に居ると約束をした。
けれども俺は彼女に生きていてほしいと願う。
本当は俺の隣でずっと生きていてほしいが……それはもう叶わない願いだ。
だが……渡る前に彼女があの世界で無事に暮らせるようにしなければ……。

鯰の言葉から希望が見え、俺は強い決意を固めると、その光へ縋りつくように鯰へ手を伸ばした。

「彼女が無事に……安全に生活できるよう体制を整えたい。一度俺を水の都へ戻してくれ」

「悪いが……それはできない願いだな。最初に話しただろう……一度渡ればもう戻ることはできない。それにな、戻れたとしてもお前は水の都に入った時点で消滅しちまう。よく考えろ、お前の世界では120年たっているんだぞ。お前の居場所はあの世界にはもうないんだ」

120年……想像以上の時の流れに悄然とする中、俺はその場で頭を抱え蹲った。
ダメだ……地球人など見たことがない彼らはきっと。彼女を異端者と追い出すだろう。
王宮の庭に突然現れれば、彼女が罪人になる可能性だってある。
彼女の生活の保障がなければ、俺の世界へ送ることなんて事なんて出来ない。

見えた希望の光が闇へ消え去って行く中、鯰は悠々と頭上を回り始める。

「うーむ、方法がないことはないが……」

その言葉にハッと顔を上げると、鯰は長い髭を静かに揺らしていた。

「教えてくれ」

「うむ、儂の力を一時的にお前へ渡せば、生きていたい時間に戻す事は出来る。だが俺の力を渡すという事は、お前が死んだ後、私の一部になってしまうだろう。そうだな……わかりやすく言うと、死後お前は儂に取り込まれ、生まれ変わる事も出来ず、ここで一生を暮らす事になる」

そんな事でいいのか。
俺は一番大事な人の人生を奪った。
そんな俺が生まれ変わり。新たな人生を生きる事など、許されるはずがない。
俺はなんの問題もないと答えると、すぐに鯰の魔力を移すように頼み込んだ。

鯰は難しい表情をし何かを考え込んでいたが、暫くすると見たこともない陣を暗い砂の上に描いていく。

「本当にいいのか?永遠にこの場所へ囚われるのだぞ」

「あぁ、構わない。早くしてくれ」

そうせっつくと、鯰は呆れた様子でブツブツと何かを唱え始めた。

「我の魔力をその他へ、死後我の一部となる契約をここへ」

鯰から膨大な魔力が溢れ始めると、水の渦が頭上に現れた。
渦はどんどん俺に近づいてくると、そのまま引き込んでいく。
激しい流れに意識が朦朧としてくる中、水の切れ間から鯰が飛び出してきた。

「危ない、危ない、忘れていた。坊主に砂時計を渡しておく。お前がいられる時間はそんなにない。この砂が落ち切ると、そこで時間切れだ。お前は強制的に、ここへ戻ってくる。気をつけろ」

俺は流れにのみこまれていく中、何とか頷いて見せると、必死に手を伸ばし砂時計を握りしめる。
そのまま渦の中へ沈んでいくと、意識がプツリッと途切れた。


次に目覚めた時、俺は最初に落ちた池の傍へ横たわっていた。
辺りには誰もおらず、空には丸い月が浮かんでいる。
そよ風に運ばれ、懐かしい匂いを胸いっぱいに吸い込むと、俺の目から涙が零れ落ちた。
この世界の魔力が俺を満たしていく中、使い慣れた魔術を展開すると、俺はすぐに現状を把握した。

どうやらここは、俺が居なくなった10年後の世界のようだ。
10年なら弟は16歳か……。
成長した弟の姿を思い浮かべながらに、俺は姿を隠し、こっそりと王宮の通路を進んで行く。

見回る騎士から身を隠し、慎重に王宮の図書館ヘとやってくると、静かに扉を開けた。
懐かしい本の香りに過去の記憶が思い起こされる中、俺は入ってすぐにある本棚へ向かうと、特別な魔術を展開する。
そこから【魔術書】と書かれた分厚い本を取り出すと、まだ何も書かれていない白いページを開いた。
彼女の為に新たな制約を、魔術を使い、外へも出回っている複製全ての魔術書に記載する。
この本は世界の理を記載していく、王族が管理している本だ。
ここへ記載できるのは王になる権限を与えられた者のみ。

俺は過去の記憶を思い出しながらに、ゆっくりとそして慎重に陣を描いていく。
陣を描き終わると、そこに丁寧に短い文章を掘っていった。

<異世界へ戻ることは不可>

陣を真っ白なページへ貼り付け、魔力を流し込むと、文字が紙の中へ沈んでいく。
これで大丈夫……。
彼女が元の世界へ戻ろうとしないように、戻ってしまえば死んでしまう……。
俺はそっと魔術書を本棚へと戻すと、手にしていた砂時計へ視線を向けた。

3分の2ほど砂が残っている事を確認すると、私は急いで弟の部屋へと向かう。
思っていたより魔術に時間がかかってしまったな……。
俺は弟の部屋への近くまでやってくると、床へ王族専用の陣を描いていく。
そうして騎士の目をすり抜け部屋の中へ侵入すると、そこには成長した弟が窓の傍へ佇んでいた。

「久しぶりだね」

そう声をかけてみると、弟は信じられないとの表情でこちらへと振り返った。

「……兄上?」

あんなに小さかった弟は、僕と同じ身長となっていた。
声も子供特有の高く響く声ではなく、低い声に少し寂しさを感じる。

「兄上……ッッ生きておられたんですね……ッッ」

弟は慌てた様子で俺の傍へやってくると、その姿が昔、俺を追いかけてきていた幼い弟の姿と重なった。

「大きくなったな。お前に全ての重責をかけてしまい申し訳ない。黙っていなくなってすまなかった」

「そんな事はいいのです兄上。またこうやってお会いできて光栄です」

「いや、すまない。戻ってきたわけではないのだ。お前に伝えたい事がある」

俺は弟の琥珀色の瞳を見つめると、そっと微笑みかけた。

「後何十年後、いや……何百年後に別の世界の者が、庭にある池からやってくる。その女性を丁重にもてなして欲しいんだ。どんな理由をつけてもいい。王族の伝承としてでも、後世に伝えてほしいんだ、頼む。そして必ずその異世界の者に、元の世界には戻れない旨を伝えてほしい」

「兄上……何を言っておられるのですか?別の世界……?」

そっと砂時計に目を向けると、砂は3分の1ほどしか残っていない。

「頼む、詳しく説明している暇はないんだ。俺には時間がない、誓約してくれ」

「兄上!!!」

弟が俺の腕を掴もうと手を伸ばすが……その手はそのまま腕をすり抜けた。
触れられない事実に驚く中、弟は何かを察したのか……今にも泣きそうな表情で俺へ視線を向ける。

「頼む」

「わかりました、兄上……。私はもう兄上に会うことはできないのでしょうか?」

「すまない。だがお前ならきっと立派な王になるだろう。俺にはできなかったが……この世界の繁栄をずっと願っているよ」

俺は弟の胸を強く推すと、そのまま急ぎ足で部屋を後にした。
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