ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ

文字の大きさ
68 / 86
第三章

想いと思い

しおりを挟む
魅入るように彼の瞳を真っすぐに見つめていると、私は思わず口を開いた。

「マーティン様……どうしてそんなことをおっしゃられるのですか……?あなたは婚約を嫌がっていたでしょ。恋愛結婚をしたいとそうおっしゃっていたじゃない。だからシンシアと恋愛をして、めでたく婚約出来たのでしょう?」

「違う!それは違う!俺は……俺は……俺が好きなのはずっと昔から……いや、最初に出会った時から……ッッ!」

バタンッ、ザーザーザー。

いつもとは違う情熱的な瞳に戸惑う中、ガタンッと大きな音が後方から響くと、扉がゆっくりと開いていく。
風が吹き込み雨音が大きくなると、私はおもむろに顔を向けた。
扉の先にいたのは、買い出しから戻ってきたケルヴィンの姿。
相当強い雨なのだろう、足元が泥だらけになっている。
紺色の瞳に微かに苛立つが見えると、私はビクッと肩を跳ねさせた。

「外にある馬車……まさかとは思いましたが……。こんな雨の中やってくるなんて……想定外ですね。はぁ……お久しぶりですね、シンシア様、マーティン殿」

「ケルヴィンッッ!あなたのせいでとんでもないことになっているのよ!どうやって知ったのかしらないけど、嘘だと知っていて、婚約破棄の場に人を集めるなんて!それにお姉様を勝手に連れ出して報告一つよこさないなんて!」

シンシアはキッとケルヴィンを睨みつけ、強い口調で叫ぶ。
ケルヴィンは怯む様子もなく、スッと口角を上げると、いつもと同じ優し気な笑みを浮かべてみせた。

「さぁ……なんのことでしょうか?報告は逐一しておりましたよ。ただシンシア様のお耳には、とどいていないだけでしょう。信用がないのでは……?ふふっ」

「……ッッ、あなた、とぼけるつもりなの!?」

ピリピリとした空気が漂う中、シンシアは私の方へ視線を戻すと、エメラルドの瞳に怒りが浮かんでいる。

「お姉様、騙されないで。こいつは優しい執事じゃないわ。腹の中は真っ黒でお姉様を自分の物にしたがっている危ないやつなの。だからね、私と一緒に家へ戻りましょう」

なに、何が起こっているの?
ケルは全てを知っていたの?
何が何だかわからないわ……。
シンシアとケルヴィンの姿を交互に見つめる中、ケルヴィンは深く息を吐き出すと、手に持っていた荷物を置き、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
そのまま私にしがみついていたシンシアを強引に引き離すと、倒れ込む私を抱き、軽々と持ち上げた。

「ひゃっ、ケルッ!?」

「あぁ体が冷たい、こんなにも濡れてしまって……お可哀そうに……。すぐに着替えの用意を致しますね。温かいミルクもいれましょうか」

「ケッ、ケル、一人で歩けるわ」

ケルヴィンの逞しい腕を感じると、恥ずかしさで頬の熱が高まっていく。
下ろして欲しいと訴えてみるが、ケルは笑みを浮かべたまま、手を離すことはなく歩き始めた。

「ちょっ、ちょっと、待ちなさいよ!!!」

シンシアの怒鳴り声にケルヴィンはゆっくり立ち止まると、スッと目を細めながら彼女を睨みつける。

「連れてきている従者にでも頼んで、先に湯あみをしてきてください。その間マーティン殿は応接室でお待ちください。温かい飲み物でも用意致しましょう。話はその後にでも、ここで話す内容ではありません」

感情のこもっていない冷たい声でそう言い放つと、二人を残しケルヴィンは奥の部屋へと入って行った。

私をふかふかのソファーへ下ろし、着替えの準備を始める姿に、私は慌てて声を掛ける。

「ケル、待って。さっきのはどういう事なの?あなたは全てを知っていたの?」

私は彼に詰め寄ると、真っすぐに視線を向ける。

「婚約破棄が嘘だと言う事ですか?それであればイエスです。ですが……私はいつもお嬢様の幸せを望んでおりますよ」

先ほどの怒りの色は消え、アイオライトの宝石のような瞳が、優し気に細められた。

「幸せ……?もう何が何だかわからないわ……。知っていたのならどうして話さなかったの?こんな場所までついてきてくれて……沢山迷惑をかけてしまったわ……。婚約破棄が成立していないのならば……私は……またあの場所へ戻らなければいけないの……?」

そう力なくつぶやくと、ケルヴィンはタオルを手にそっと私の髪へ触れた。

「お嬢様、ご安心下さい。私はお嬢様がこうなりたいと気が付いておりました。だからこそ私は嘘の婚約破棄を真実にしようと動いたんです。あの場に王と王妃、貴族を呼び寄せ、婚約破棄の宣言を皆に聞かせ真実にしようしたのですが……これだけでは上手くいかなかったようですね……。真実にするには、お嬢様の言葉が必要になります。王子との婚約を破棄したいと、そうはっきり伝えれば、王と王妃も納得して頂けるはずですよ」

ということは、まだ婚約破棄は済んでいない?
彼のいう通り、王と王妃がこの狂言を知っているのなら、婚約破棄はきっと認められる。
私がはっきりと言葉にすればいいだけ。
でもどうして上手くいかなかったのかしら?
シンシアもマーティンも私の気持ちを知りたいとそう話していた。
あの言葉の意味は……?
様々な疑問が脳裏に浮かぶ中、ケルヴィンは温かいミルクを入れると、少しだが心が落ち着いていくのがわかった。
しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。

石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。 そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。 そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。 ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。 いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ
恋愛
家族から産まれたことも生きていることも全否定され、少しは役に立てと言われて政略結婚する予定だった婚約者すらも妹に奪われた男爵令嬢/アルサイーダ・ムシバ。 さらにお前は産まれてこなかったことにすると、家を追い出される。 行き場を失ってたまに訪れていた教会に来た令嬢は、そこで「産まれてきてごめんなさい」と懺悔する。 すると光り輝く美しい神/イラホンが現れて「何も謝ることはない。俺が君を幸せにするから、俺の妻になってくれ」と言われる。 さらに神は令嬢を強く抱きしめ、病めるときも健やかなるときも永遠に愛することを誓うと、おでこにキス。 突然のことに赤面する令嬢をよそに、やたらと甘い神様の溺愛が始まる――。

ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

待鳥園子
恋愛
婚約者である王太子デニスから聖女エリカに嫌がらせした悪事で婚約破棄され、それを粛々と受け入れたスカーレット公爵令嬢アンジェラ。 しかし、アンジェラは既にデニスの両親と自分の両親へすべての事情を説明済で、これから罰せられるのはデニス側となった。 アンジェラはルンルン気分で卒業式会場から出て、パンをくわえた騎士リアムと曲がり角でぶつかって!?

【完結】0日婚の白魔女皇后は呪いの冷酷帝に寵愛される

さわらにたの
恋愛
「冷酷帝」エンジュに皇后として望まれ、政略結婚として輿入れした白魔術師キーラ。 初夜にて「俺は呪われている。本当は皇后などいらん、解呪のためだけにお前を呼んだ」と明かされて解呪に挑むことに……から次第にあれやこれやで結局ハピエンラブラブになるお話です ほんのりと前作「魔力なしの転生少女は天才魔術師様に求婚される」と同じ世界線、時間軸です

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

処理中です...