乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

文字の大きさ
148 / 169
乙女ゲームの世界

不自然な妹(歩視点)

しおりを挟む
父の仕事を手伝う中、一息ついた頃、スマホを取り出すと、メイドから着信が残っていた。
会社の外へ移動し、すぐにかけなおしてみると、ワンコールが鳴り終わらないうちにガチャッと音が響く。

「歩様、お仕事中申し訳ございません。彩華様からご連絡があったかと思いますが……念のためご報告致します。一時間程前に彩華様がお出かけになりました」

「彩華が?連絡はきていないが、どこへ行ったんだ?」

「あら、そうでしたか。駅とおっしゃっておりましたわ。歩いていきたいとおっしゃったので、車は出さず護衛をつけておきました」

「わかった。連絡をありがとう」

彩華が一人で出かけるなんて珍しいな。
僕は電源ボタンを押すと、発信履歴から彩華についているであろう護衛へとコールを鳴らす。
プルプルプルとコール音が響く中、トントントンと指先で机をたたいた。

北条から何も聞いていない。
二条と華僑は昨晩から実家の屋敷へ戻っているはずだ。
亮は弟の定期健診の付き添いで病院。
なら二条妹か……。
全くあの女は余計な事しかしないな。
文化祭の日、彼女が攫われた事実を知らないとはいえ、このタイミングで外へ彩華を連れ出すなんて、二条に念押しで言っておかないとだな。

「……ッッ、はい、歩様どうされましたか?」

「彩華はどこへ向かっている?」

「……ッッ、それが……申し訳ございません。見失ってしまいました……」

「見失っただと……?」

護衛の言葉に眉間に皺を寄せると、苛立ちに自然と声が低くなる。

「本当に申し訳ございません。彩華様は駅の前で誰かを待っている様子で……。そこで誰かと電話した後、公衆トイレに入りそこから見失ってっしまいました。今捜索中です」

「どういうことだ?」

「いえ、あの、数十分公衆トイレから出て来ず不審に思い、中の様子を見に行った時には、誰の姿もありませんでした。公衆トイレには人が通れるような窓はなく、想像するに……変装されて出て行ったかと思われます」

彩華がわざわざ変装して護衛をまいたのか?
何のために?

「スマホを持っているのなら、すぐに位置情報を確認できるだろう?」

「いえ、それが……彩華様はスマホを二台お持ちになられているようで……。位置情報は家の中でとまっております」

別のスマホを……?
未成年の彩華には一人で契約なんて出来るはずがない。
父も母も最近彩華と出かけていないはずだ。
なら一体どうやってスマホを手に入れたんだ?
考えられるのは誰かにもらったか……?
だが誰に?
胸の奥からどす黒い感情が込み上げると、手にしていたスマホがミシッと音をたてた。

僕は父に頼み早めに家に帰ると、彩華はまだ帰ってきてはいなかった。
不安にエレベータでマンションの一階へ降りると、ガラス扉の向こう側に彩華の姿が小さく映る。
その姿はいつもの彩華の服装で……あれなら見失うはずはない。
ならまたどこかで着替えてきたのか……?

僕は彩華の行く手を阻むように佇むと、彼女は狼狽した様子で困ったように目を泳がせている。
その姿に彼女に詰め寄ると、微かに柑橘系の香りが鼻孔を擽った、
香水か……彩華はこういった物を持っていない。
なら誰かの匂いが彩華に……?
そう考えると、激しい怒りがこみあげてくる。
しかし怖がらせると余計に何も話さなくなってしまうだろう。
だから何とか笑みを貼り付けたままに問いかけてみるが、彩華は答えようとしない。
そんな彼女の様子に、無理矢理に腕の中へ閉じ込めると、不快な香りが強くなった。

あまりの苛立ちにポロリと本音が零れ落ちると、彼女は僕を突き飛ばしそのままエレベーターへと駆けていく。
そうして彼女の姿が消えると、僕はやってしまったとその場で頭を抱えた。

彩華は一体何を隠しているのか。
誰とどこへ行っていたのか。
彩華に変な虫をつけるわけにはいかない。
彼女は……誰よりも大事な女性だから。

そう自分に言い聞かせるな中、その晩僕はコッソリ彩華の部屋へ忍び込むと、スヤスヤと寝息を立てる彼女の傍に静かに佇んだ。
部屋を見渡す限りどこにもない。
僕は悪いと思いながらも、そっとカバンを持ち上げると、底に緑色の小さな光が浮かんでいた。
音をたてぬよう慎重に手を伸ばすと、それは僕の渡したスマホではない別のスマホだ。
電源ボタンを押し開いてみると、着信履歴には非通知の文字が並んでいる。
何かないかと色々と開いてみるが……手掛かりになりそうな物は見つからなかった。
そのままスマホを持ち部屋を出ると、僕は自分のスマホを取り出し電話をかけた。

「おつかれさまです、一条様。夜分遅くにどうされましたか?」

「至急調べてほしい事がある。今からこちらへ来られるか?」

はい、との返事に僕はスマホを片付けると、手にしていたスマホへと目を向ける。
誰かがこのスマホを彩華に渡し、護衛を巻き彼女を連れ出した。
彩華は何に巻き込まれているんだ。
不安と苛立ちが込み上げる中、僕はリビングへ戻ると、彼の到着をじっと待っていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

処理中です...